坑道を下る1-2
ピンクの短ランがいなかった。間違いなく、坑道の奥に入った生徒がいる。
気負い込んだ夏海の様子を、繁原が気にした。
「廃坑に入るつもりか? 少し待てよ。勝手な行動は採るな。入坑の許可が必要だ。崩落の危険もある。依頼は懸けた。まもなく指示が出るから、もう少し、入坑は待て」
まどろっこしかった。一秒でも遅れれば、中に入った中学生の危険度が高まる。強い口調で、夏海は繁原に言い切った。
「先に入ります。後追いでいいですから、入抗の許可を取ってください」
廃坑の中に入った。繁原が後から従いてくる。
世界が暗転した。真夏の蒸し暑さが嘘のように消えた。天井から滲み落ちる水滴の音がした。
繁原と同時にマグ・ライトを点けた。ごつごつした不確かな足元を確かめた。夏海は手掘りの斜坑を降りていく。
地下に降りるほど、崩落の危険性は高まった。最初は、要所要所に崩落防止の支保杭が組まれていた。やがて杭の数がどんどんと疎らになっていく。
外光が完全に入らなくなった。
並行する水平坑道が現れた。レールの軌跡が闇の奥に伸びていた。
微かにトロッコの走行音が聞こえた。レールが震動して見える。
突然、轟音が大きくなった。坑道が揺れた。目の前を黒い塊が通り抜けた。
ガンガン、ガンガンと車輪の音。トロッコだ。
衝突は免れた。だが、夏海はバランスを崩した。
尻餅を搗いた。足元が崩れた。大きな音を立てて、土砂が崩落した。石混じりの土砂が顔に降り掛った。
「大丈夫か、白石。生きているか?」
頭上から、慌てた繁原の声がした。