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コントロール・アウト  作者: 柴門秀文
13/118

浮石を落とす1-2

 口答えする生徒の腕を引っ張りながら、若い教師は事務室を目で示した。

「校長を呼びます。応接でお待ちください」

 警察官の訪問を生徒に知られては、要らぬ騒ぎの元だ。当然の選択だった。

 資料の積み上がった応接室に通された。夏海と繁原は、しばらく待たされた。

 ようやく校長が姿を現した。薄くなった頭頂部の汗を拭きながら、早々に頭を下げた。

「お待たせして申し訳ありません。職員会議が長引きまして」

「お気になされないでください。とかく会議は長引くものですから」

 繁原が物分かりの良い人物を装った。愛想笑いを浮かべて、深くお辞儀をする。

〈臭いものには蓋をする。長い物には巻かれろ。物言えば唇寒し、秋の風〉

 臨時の職員会議で口にされた責任逃れの意見を想像した。

 夏海は口を曲げた。形式的に頭だけは下げてみせる。

 駅前の監視カメラに映った画像のコピーを、繁原が校長の前に差し出した。

「早速ですが、こちらに映った女子生徒に見覚えはないですか。あるいは、同じくらいの体形で、最近、長期に亘って休まれている生徒さんに心当たりは、ありませんか」

「何かの事件ですか?」

 校長が眉間を寄せた。明らかに心当たりがある表情だった。

「詳しい内容は、お教えできないんですよ」

 やんわりと拒絶した繁原を見詰め返して、校長が口を曲げた。

「確かに当校の制服ですね。でも、この写真だけではねえ。長欠の生徒に関しても、恥ずかしながら複数います。誰が該当するかと言われましても、答えかねますねえ」

 校長が頭を下げた。明らかに保身を考えていた。

〈生徒ん大切な問題ちゃあよ。もっと真剣に答えてくれんね〉

 反発する言葉が口を吐きそうになる。

 身を乗り出した夏海を、掌を差し出して繁原が止めた。

「それでは、生徒さんの出席簿を拝見させてくださいませんか。生徒さんを呼んで戴ければ、こちらから話を聴きます」

「法令に基づいた任意捜査に協力を要請された、と考えてよろしいのですね」

 念を押した校長に、

「任意捜査に対する要請と考えて結構です」と、繁原が首肯した。

 教頭を呼んで、校長が出席簿の提出を指示した。

 椅子に座り直した。繁原と夏海に向かって、顔を(しか)めた校長が口を開いた。

「刑事さんは、私たち学校側が体面を気にしていると、考えておられるでしょうね」

 繁原が驚いた表情を作って見せた。ゆっくりと頭を振って否定する。

「考えていませんよ。でも、組織として責任問題を考えられたとしても、我々は責める立場には、ありません」

「組織の問題と捉えられても構いません。でも、私たち教師は、どんな生徒でも可愛いんです。親の愛情と同じです。子供にはできる限り傷付いてほしくない。護ってあげたいんですよ。まだお若い刑事さんたちには解らないと思いますが」

 夏海は慌てて、首を横に振った。

「とんでもない。解りますよ。親には護られてきました。感謝していますから」

〈本当に、解っているのだろうか〉

 場当たり的に答えた。だが本当は、無口で頑固な父親が夏海は苦手だった。些細な擦れ違いだが、校長に対して親心の共感はできなかった。


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