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コントロール・アウト  作者: 柴門秀文
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浮石を落とす1-1

 門柱の横を走り抜けて、夏海は捜査車両を中学校に乗り入れた。

 白線の中に捜査車両を駐めて、繁原と共に車を降りた。

 校舎を見上げた。コバルト・ブルーの夏空を背景に、落書きだらけの外壁が聳え立っていた。

「『喧嘩上等!』『神降臨』か。ずいぶんと前時代的だな」

 隣に並んだ繁原が、呆れ切った声を上げた。

「二階ならともかく、四階まで書くなんて。中学生たちも頑張りますね」

「危険を冒してまでも書いているんだぞ。格好を想像すると、感動さえ覚えるよなあ」

 繁原の言葉に受けて、夏海は苦笑した。

 足を抱えられて逆さまにぶら下がり、スプレー缶を動かす。文字が不格好な理由は、上下を反対に見ながら書いているためだ。

「誰もいませんね。まだ夏休みではないはずですけどね。もともと、生徒がいないんですかね」

「つまらない授業に飽きて、全員が昼寝タイムだったりしてな」

 頭を掻いて、繁原が笑う。

「待てか! 教室に戻りない」

 突然の大声が、静寂に包まれた校舎の空気を揺るがした。

 小柄な白シャツが、校舎から飛び出してきた。小学生の体形とほとんど変わらなかった。

 太い学生ズボンに極細の白いベルトを巻いていた。頭に載せたポンパドールが、ゆさゆさと揺れている。

 脱走した中学生を追って、ジャージ姿の教師が飛び出してきた。一人の生徒に、三人懸かりだった。脱兎のごとくに走る小柄な生徒が、どんどんと距離を広げていく。

「停めてやりましょうか。先生たちが大変そうです」

「お手柔らかにな。くれぐれも、力まかせはダメだぞ」

 繁原の了解を受けた。夏海は脱走する中学生に向かって全力でダッシュした。

「逃げるなちゃ、中学生! 先生に、迷惑ば懸けるんじゃなか」

 手を広げて、中学生の前を塞ぐ。

「なんや、にしゃは。関係なかちゃろう。どけちゃ、どけちゃ!」

 突然の夏海の出現に、中学生が慌てた。小柄な身体が、逃げる方向を変えた。

「無駄とよ。こっちは鍛えとるからな」

 フットワークなら、中坊にだって負けない。夏海は前を塞いだ。更に擦り抜けようとする中学生の肩を掴んだ。

「痛てえちゃ、こん野郎。手ば離しぇい。骨の折れるちゃろうの」

「嘘ば吐くなちゃ。力なんて、いっちょも入れておらんぞ」

 追い懸けてきた教師が、驚いた表情を見せた。繁原が警察手帳を提示した。

「田川警察署生活安全課、少年係の繁原です」

「同じく、少年係の白石です」

 中学生を逃がすまいと、両手が塞がったままだった。夏海は顔を上げて愛想笑いをした。

「生活安全課の捜査官が何の要件ですか。特別に捜査依頼を、お願いしてはいませんが」

 教師は困った表情を見せた。最悪の状況に追い込まれるまでは、警察沙汰にはしたくない。学校側の体面を考えても、容易に考えられる反応だった。

「生徒の登校の状況を確認したくて来校しました。担当の先生にお会いしたいのですが」

「解りました。まずは、生徒を預かります。止めてくださって、ありがとうございました」

 不満が残って見えた。形通りの感謝は示したものの、余計な介入を訝っていた。


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