坑道を下る3-4
基本は役立たずだ。逃げようにもピンクの短ランは目立つし、サバゲーの知識以外はカスだ。だが、坑道の知識と、葉菜をパニックから救い出した事実には感謝できる。
「自画自賛んついでに、教えてくれんね。今はどげん行けばよかとやか」
「中坊んくしぇに、そいだけか?」
葉菜に優しい声を懸けたぶんだけ、順平が健次に居丈高になった。
「どげん意味やか、解らんけんばってん」
控えめに健次が訊くと、順平が語気を強めた。
「お願いします、は、どげんした。俺は先輩やぞ。馬鹿にしとるんじゃなかんか」
「馬鹿になんかしとらんちゃ。教えてくれんね。お願いするけんね」
慌てて健次は頭を振った。いきなり、順平にヘッド・ロックを懸けられた。
「教えてくれんねじゃねーちゃ。教えて下さい先輩やろ。中坊んくせに調子に乗んなや」
「苦しかとよ。手ば離しちゃんない。お願いするけん」
窒息すると、健次は順平の腕を叩いた。
「やめときんしゃい。男ん子たちな、いつまでんガキんちょなんやから。今、なんばせんやいかんかっち、真剣に考えてくれんね」
諫めた葉菜が、順平と健次の頭を順番に平手で叩いた。
「痛えな」と、順平が愚痴った。
「まずは坑道ん地図から見よろうか」
スマホを取り出して、順平がサバイバル・ゲームのコミュニティーに接続した。パスワードは隠している。
坑道が明るくなった。狭い場所だった。順平の説明通りに、突き当りの壁があった。
坑道の地図が見付かった。地下坑道を利用した非公式のサバイバル・ゲームが計画されていた。
電波が届く、限界の場所だった。あと少し坑道を下れば通信できなくなる。何度か失敗しながらも、順平がなんとか坑道の地図をダウンロードした。
充電も半分程度だった。電源が切れたら、真っ暗闇の地下迷路で迷子になる。
健次と葉菜のスマホにもデータを共有した。
「出発しゅるぞ。まずは、こん坑道ば登るからな」
順平の号令で、斜坑を登り始めた。
「警察の出口ば塞いどる。抜け出しぇる方策は、あっけんか?」
「途中で別ん斜坑に移る。出口は山ん上にもあるけん大丈夫たい」
不安は残るが、前に進む必要があった。立ち止まっていては、何も解決できない。
坑道から抜け出したい気持ちは、三人とも同じだった。
「見えてきよったぞ。もうしゅぐ隣ん坑道に移るからな」
スマホの光で坑道を照らしながら、順平が振り返った。大きな前髪が崩れかかっていた。真剣な表情だ。
少しは頼りになりそうな気がした。
信頼しなければ、暗闇の中では先に進めない。