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コントロール・アウト  作者: 柴門秀文
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坑道を下る3-3

 事実、明憲が戻らなかった。銃声が聞こえて、捜しに行った葉菜が死体を見つけた。

 パニックに陥った葉菜が、健次に助けを求めた。

 順平に示唆されて、明憲が計画した集団自転車泥棒を実行した。個人の限定を困難にするためだった。深い森の中の小枝になる。学習塾の仲間に頼んで一芝居を打った。

〈明憲兄ちゃんな、死体の見つかるこつば想定して、集団自転車泥棒ん計画ば練ったんかも知れんけんな〉

 死体を見つけた警察が、どこまで事実に近付けたかは、判らない。だが、真実は健次も知らない。

「なかなし、坑道から脱出しゅる必要のいるけんちゃね」

「脱出しゅるなら、俺の坑道ん地図ば持っているちゃ。警察のおる場所ば避けて、他ん出口に向かえばよかとしゃ」

 炭鉱は筑豊の地下全体に複雑に広がり、坑道の出口も複数が存在する。順平がサバイバル・ゲームで入手した坑道の地図を持っていた。

〈邪魔な奴だっち思っちいたばってん、明憲兄ちゃんな計画ん主要メンバーに選んだ理由があっけんちゃな〉

 納得した健次は、闇の中に頷いた。

 震える葉菜の声がした。

「出て行ったら捕まる。まだ、ここにいたほうの良かっち思うちゃ」

「こん場所は鉄砲坑道じゃ。逃げようにも先止まりたい。場所ば替えたほうのよかとよ」

 宥めるように、順平が優しく説明した。

「おいも賛成たい」と、同意を示して、健次は順平に訊いた。

「なして鉄砲坑道と呼ぶんじゃろうか。鉄砲なら出口ばってん良しゃそーなんに」

 少しだけ間があった。

「ふふっ」と満足そうな息遣いが聞こえた。

『何も知らんちゃなや』とでも言いたいばかりの口調で、順平が健次の疑問に答えた。

「発破に失敗して、なんも壊しぇなかった場合だ。空発やった場合だな。発破ん装填孔の、そんままで残るからな。連想して、鉄砲坑道ち呼ばれとるんじゃ」

「ふふっ」と、葉菜が笑った。ようやくパニックから抜け出した。健次は胸を撫で下ろした。

「ただん馬鹿ヤンキーだっち思っちいたばってん。順平しゃんばってん役に立つっちきのあっけんね」

「なんば言うとるか。俺ほど役に立つ男はおらんぞ。ルックスばってん最高やちな」

 馬鹿ヤンキーが、本気で自慢している。健次は呆れた。


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