得意技、どうにかならんかと訴えたい話
旅は終盤に差し迫っていた。
世界各地を旅して魔王を倒せる武器を手に入れたのだ。残るは本拠地へ乗り込むのみ。
長かったような、あっという間だったような妙な感覚だ。いや、まだ最期の大詰めが待っているからな、気は抜けないが。
旅を始めた頃は一人旅で、無我夢中で剣を振り回していたと思う。
当たり前だ、突然この世界に呼ばれ、魔王を倒せだなんて送り出されて。
さてまずはこの世界の歴史から勉強しましょう、なんて座学が始まるわけはなかった。
こういうものは余裕を持って呼ばれるモノではないのだから。
鬼気迫ってなんとかしてくれと乞い願われて呼ばれるのだから、一刻の猶予もない。
だから、召喚に成功し感謝を述べられるのもつかの間、さあ其方は勇者である、一日でも早く魔王を止めてくれと旅立たされたのだ。
この世界のこともなにもかも分からず、右往左往四苦八苦していた。
それに見かねて声をかけてくれたのが今の相棒だ。この世界の当たり前を教えてくれ、剣の使い方が様になったのも彼のおかげと言ってもいい。
旅を続けていくうちに成り行きで仲間も増えていき、今となっては俺にとってかけがえのない仲間だ。
仲間の助けもあり、この世界でもそれなりに生活してきて、この世界での当たり前を自分でも当たり前と感じれるようにはなった。
それでも納得いかないことはいくつかあった。
なんせ下手したら命に関わることが。
それは……戦闘で使うことができる得意技、必殺技が4つしかない、ということだ!!!
この事実を知ったとき、既視感を覚えた。
黄色いアイツが有名な、昔から愛されている、ポケットな彼らのようである。
旅を初めてからは一つだけ持ち技があった。通常の斬撃と唯一の持ち技だけで乗り越えていた。
初めて技を取得したのはレベル5のとき。
ひたすらに斬って敵を倒していたら突然閃いたのだ。
聞いて驚け。技名は『素晴らしいキレ味』。
効力は……初期技よりも若干威力が優れていて、まれに強敵でも一撃必殺ができるくらいの威力。
相棒に聞いてみると、理屈は分からないし人にもよるが成長していくと突然このように通常攻撃とは違う技が閃くのだそうだ。
その後、レベル10、レベル20と上げっていくにつれて技が閃いていった。
どうやら俺の成長では、レベル5を基準に、倍、倍となるにつれて閃いてくるようだった。
実際にレベル20のあとレベル40で次の技を覚えた。
20から40までは長かったな……この調子だと次はレベル80。気が遠くなりそうだ。
少し話がそれた、元に戻そう。
衝撃が走ったのはレベル40のときだった。
それ以前までは俺には4つの技を持っていた。
初期仕様の技『良いキレ味』
レベル5の技『素晴らしいキレ味』
レベル10の技『すごいキレ味』
レベル20の技『とてもすごいキレ味』
……すごいだろう、この名前。
我がことながらもう笑うしかなかった。
俺はどちらかといえば名より実をとるタイプだが、これはないだろう神様。
技名叫ばないと発動しないとか、勘弁してほしいなほんと……。
それがたとえどんなすごい威力だろうとも、技名叫ぶ時点で気が抜ける。
……また話がそれたな。
それでだ。レベル40となったとき閃きが起きた。いつものやつがきたんだと思った。
ただ、なにかいつもと違う感覚が起きた。頭のなかでつっかかるような何かが。
直感的に、技の容量がいっぱいでこれ以上は詰め込めない。何かを得るためには何かを捨てなければ。選択を迫られた。
そうだ、これを得られるなら代わりにあれを捨てよう。いち、にの、さん。
我に返った。あれ……おかしいなと。
はじめに持っていた技が思い出せない。
代わりに新しい技を覚えていた。どうやっても忘れてしまった技が思い出せない。なんだこれ。
困ったときの相棒だ。
そういうもんだ、と一言寄越しただけだった。
ちなみに相棒はどうだったんだと尋ねると、今は2~3個忘れてしまっているそうだ。
言われてみれば出会ったときに使っていた技は最近見ないなと思い返した。
よく聞いてみれば限界値は各々異なるようで、物理を得意とするモノは少なく、魔法を得意とするモノは多めの傾向があるそうだ。
俺は4つだけど、相棒は6つほどあるのだとか。
その、あまり言いたくはないが、俺ってこことは違う世界から呼ばれてきたんだよな?
もう少しこう、特別な感じとか、ないのだろうか……
まぁ、そういった仕様の世界である。
せっかく身につけた技が使えなくなるなんて釈然としないが俺に限って言えば、威力の弱い技をより強力な技に塗り替えたものだ。
戦闘ではさほど困ることもない。釈然としない気持ちのみで。
だが回復役や補助的役割をメインとする場合、困ることが多いのではないだろうか。
たとえば回復系だと、俺に着いてきてくれた彼女は、回復以外にも光属性の攻撃魔法も使えるのだ。
彼女にどれだけの技のキャパがあるのか分からないが、捨てた技はきっとある。
体力回復や異常回復の種類など、あればあるほど良いだろうに。
回復の手段が道具頼りの俺からすれば、何が起こるか分からないこの旅なのだから万全の対策を講じたいのに捨てないといけない技があるなど怖すぎる。
仕方がないので自衛できるものは自衛して、なんとか旅をしてきたわけである。
イチからの旅ももうじき終わる。はず。
仲間の顔を順番に見回し、最後に相棒の顔を見つめた。
お互い、頷き合う。俺たちの気持ちはひとつだ。
「行くぞ!みんな!!」
俺たちの最後の戦いがはじまる―――――!
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