*ステージ-7*
(えっ……EITO!?同じ学校、学年の芸能科だってことは中島さんから聞いてたけど、まさか同じクラスになるなんて……!)
「折下君、急にどうしたの?」
担任の先生が、EITOに問い掛ける。その声音には、ほんの少しではあったが、驚きや戸惑いが混じっていた。
EITOはそこで我に返ったようで、クラス中の視線を集めていることに気付くと、
「あ……な、なんでもありません。すみませんでした。」
小さな声で言い、静かにイスに腰を下ろした。
「そう、なら、話を続けるわね。彼女は───」
担任の先生は、また愛璃について話し始めた。
愛璃は、その声には耳を傾けず、EITOの方をうかがった。
愛璃と同じく、芸能科の制服に身を包んだEITOは、確かに昨日と変わらない容姿であったが、黒い眼鏡をかけていた。あと、これは愛璃の勘違いかもしれないが……
(なんか……少し雰囲気が暗いような……)
そう、ステージに立っているときや、他の人と話しているときとは違い、表情に影があるように見えた。
「───じゃあ、澄原さん、席は、空いているあそこの窓際の席で。」
「あ、はい!」
担任の先生の声で愛璃は1度思考を中断し、席に着いた。窓から暖かく日が差し込み、黒板からもほど遠く、とても満足のいく席だった。
そごて、HR終わりのチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン……───
鳴ると同時に、愛璃はクラスメイトに囲まれた。
「昨日のライブ、ネットで見たよ!」
「も~、ほんと可愛い~!!どこのコスメ使ってるの??」
「さっきの影人の反応、何!?2人は、どんな関係??」
待ってましたとばかりに質問攻めにされた愛璃だが、クラスメイトの質問に答えながら、こっそりEITOの方を見た。
(本名、折下影人って言うんだ……)
影人は、他のクラスメイトと、楽しそうに談笑していた。
(あれ?やっぱり、さっき感じた暗そうな雰囲気、勘違いだったのかな……。)
「ちょっと、澄原さん、聞いてる!?」
「あ、あぁ、ごめんね?んとー、ライブで歌った歌はー、───」
クラスメイトから尽きることなくぶつけられる質問に答えたり、初めての環境での授業を受けたりしているうちに、この日の昼は慌ただしく過ぎていった。
───そして、放課後。終業のチャイムが鳴るなり、それぞれの仕事に向かったクラスメイトのお陰で、愛璃はこの日初めての休息の時間を手にした。教室に残っているのは、愛璃と、まだ帰り仕度を終えていない影人だけだった。
(こんなにゆっくり帰り支度してるってことは、EITOも今日はお仕事オフなのかな……まぁ、昨日ライブだったしな……。)
このまま黙っているのも気まずいと思い、愛璃は、影人に話し掛けてみることにした。
「えと……影人、君?同じクラスなんてビックリだよね、あはは……。これから、同じ事務所のアイドル仲間としても、クラスメイトとしても、よろしくね!」
そう言い、愛璃お得意のアイドルスマイルと共に手を差し出す。……が。
「……。」
影人は、愛璃に目もくれず、そのまま帰り支度を終えると、足早に教室から去っていった。
ガラララ……ピシャッ
残ったのは、扉を閉める音の反響と、愛璃だけ。……もっと言うと、影人の態度に怒り狂った愛璃だけ、だった。
(は?何でムシされるの??愛璃何もしてないよね!?っていうか、先に学校で反応したのそっちじゃん!!ライブのときとか優しかったし、同じクラスだからきっと仲良くなれると思ったのに~!)
「もー!なーんーなーのーよー!!」
オレンジ色に染まった教室の中で1人、愛璃の声が教室中に響き渡った。
Twitter→@Cocona_Sakuhana
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