*ステージ-4*
柄にもなくあんぐりと口を開け、呆気にとられている愛璃。金縛りになったかのように、体が動かない。そうこうしているうちに、EITOがステージから降りてきた。
(あっ……、ちょっと待ってよ!)
「EITOっ……さん!」
文句の1つでも言ってやろうと、思わず愛璃はEITOに声を掛けた。
「……?」
愛璃を見つめながら、不思議そうに首をかしげるEITO。そんな、仕草1つ1つから染み出ている神々しいアイドルオーラに、なかなか次の言葉を紡ぐ事ができない。
そんな愛璃の様子を察し、EITOが口を開いた。
「……ステージ、行かないの?デビューライブなんでしょ?君の可愛さを早く皆にお披露目してきなよ。」
そういうと、EITOのファンなら誰もが泣いて喜ぶであろう王子様スマイルを愛璃に向けながら、
「頑張ってね!(パチッ)」
クールにウインクして、愛璃の元を去っていった。
「……。」
愛璃は、それでもなお、その場をすぐに動くことができなかった。
(これが、プロの………生の、アイドル、か。愛璃はこれから、この人の後のステージに……!)
愛璃はついに顔をあげ、ステージに向かった。その顔付きは、先程までのEITOへの文句なんて一切抱えておらず、純粋に、"プロのアイドル"への興奮と希望に満ちていた。
──そして、ステージにあがる。まばらに残る観客は、まだEITOの余韻が残り、愛璃がステージに立っていることなど、1人も気付いていない。
愛璃は、大きく息を吸う。
(いくよ。これが、愛璃の最初のステージ……!)
「皆さん、初めまして!澄原愛璃です!今日は、愛璃の名前、覚えて帰って下さいねっ!──早速ですが、聞いて下さい。デビュー曲、『私色の宝物』」
愛璃が歌い始めた瞬間、空気が変わった。
今まで愛璃に気付きもしなかった観客が、一斉に愛璃を見る。
愛璃は、そんな観客の変化に気付きもせず、ただただ精一杯歌い続ける。
(全員に聞いて欲しいなんて望まない。誰か1人でもいい、愛璃の歌を聞いてくれたら……それだけで、愛璃は満足!伝わって?これが、愛璃の歌──!)
歌い終わると、観客から、大きな拍手と歓声が起こった。
「えっ……、えっ……!?」
拍手や歓声が起きるなんて想像もしていなかった愛璃は、マイクを持っているのも忘れ、声を漏らす。しかし、数秒後には、戸惑いながらも、最高の笑顔で、手を振った。
EITOも、その歌を聞いていた。EITOは、軽く微笑みながら、小さな声で、一言。
「ふーん……、──なかなかやるじゃん。」
と。呟いた。