山城錬一の幸福
ハートフルなほっこりするお話を書きたいです
宜しくお願いします(^^)
ノクターンではドエロいのも書いているので
大きなお友達はそちらも読んでくれると嬉しいです。
「じゃあ香澄、行ってきます」
「はい、あなた」
そう言いながら玄関で香澄を軽くハグしてキスをする
新婚時代から必ず続けている習慣だ。
同い年で今年で34になる妻は大学の時に妊娠をして大学を中退して子育てをし、俺の大学卒業、就職を機に結婚した。
結婚までのスパンは長いが
いわゆるできちゃった婚ってやつだ
新歓コンパで知り合ってこうして結婚した今でも俺なんかと一緒にいることが時々不思議に思えるほど美しい女性、今でもふとした表情に見惚れてしまう
そんな日常が堪らなく嬉しい
「一度やらなくなるとできなくなる、面倒くさくても、しなくてもわかりあえていると思っても必ず続けること
こういうスキンシップの積み重ねが大事なんだ」
新婚当初、会社の先輩に言われてからこのハグとキスの習慣だけは欠かさず続けている。
母子家庭で育ち、5年前に母を亡くした俺にはもう家族と呼べるのは香澄と娘の香菜しかいない。
「相変わらずお熱いよね~うちのパパとママは」
洗面所から出てきた香菜がその様子をみて冷やかす。
「親をからかうんじゃないの」
香澄が少し恥ずかしそうに香菜をたしなめる
「からかってなんかないよ、パパとママは理想の夫婦だと思うよ、私も結婚するならパパみたいな相手としたい~」
「はいはい、今日も一輝君と学校に行くんでしょ早くしないと間に合わないわよ」
香澄は話題を切って娘を学校に急かす。
香菜は時計を見て「やばっ」と一言言って忙しく準備を始める。
俺もそろそろ出なくてはならない
「じゃあ行ってくるよ、香菜もママと仲良くな」
「はい、あなたいってらっしゃい」「はーい」
今日から半年間単身赴任だ、といっても隣の県だし週末は必ず帰るのだけど
一週間も香澄と香菜に会えない生活なんて俺には考えられない。
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「本日より、こちらに出向してきました、山城錬一と申します短い間ですが宜しくお願いします。」
俺が頭を下げるとパラパラと拍手がおこり、職場の人が笑顔で向かい入れてくれた。
良かった職場の雰囲気はよさそうだ。
案内された机に座ると直属の上司にあたる上田さんがやってくる
この人が俺たちに夫婦円満のコツを教えてくれた先輩だ。
この人も本社から出向組
「山城、急な話に応じてくれて助かったよ、なんせ前任者があんなことになってしまってな」
「いえいえ、正式な会社の辞令ですから、それより前任者の方はどうしたんですか」
「…ああ、聞いてなかったのか彼は会社を辞めてしまってな、まぁその事は後で話そう」
俺は簡単な引き継ぎを済ませて、仕事に取りかかる。
仕事内容自体は代わり映えはしない
むしろこの仕事のために自分は呼ばれたのだから当然なのだが
就業時間が過ぎて
正式な歓迎会は後日ということで
俺は上田先輩と二人で飲みに行くことにした。
ここは魚料理が美味しいんだと案内された居酒屋は
個室のある落ち着いた感じの佇まいで店員さんも気持ちのよい接客で気分がいい。
乾杯して、軽く職場での身の振り方を教わると
俺は気になっていた前任者のことを話題にあげる
出来れば話題にならずに終わりたかったのだろう上田先輩はちょっと気まずそうに話し出した。
「実は単身赴任中に奥さんが浮気をしてな、離婚してショックで仕事もやめて田舎に引っ込んでしまったんだ。」
それを聞いて一瞬どうしてもその彼と自分を重ねてしまう、自分には帰るべき田舎すらない。
「もちろん単身赴任者が必ずそうなるわけではないんだが気を付けないとな、俺が教えた夫婦円満のコツは実践してるか?」
「はい、1日も欠かさず続けてます、」
「ならいい、あくまでもレアケースだからな。ただ奥さんを信じなければ駄目だが同時に危険なサインを見逃しては駄目だぞ」
「危険なサインというと、例えばどんなものでしょうか」
俺はいつの間にか身を乗り出して先輩の話に耳を傾ける。
「前任者の彼が言うにはまずいつの間にか携帯にロックがかかっていたそうだ。
そして家にいるときも四六時中携帯を手放さない。
苦心して中をみたら浮気相手とのラブラブメールが満載だったそうだ。」
香澄の携帯は特にロックがかかっていなかったはずだ
今度確認してみよう。
携帯はリビングなんかに置きっぱなしだ。
「そして、その、夜の回数が激減したらしい
疲れてるとか生理とかでなんやかんや断れるケースが増えたそうだ。」
それに関しては懸念がある。実は私達は娘が生まれてからほぼ完全なセックスレスなのだ。
帝王切開だった娘の出産後、香澄は性行為自体に酷い恐怖感をおぼえるようになり、何度か試そうとしたがうまくいかなかった。
いつも香澄は申し訳なさそうに
口や胸や手で私の性欲を処理してくれている。
酒も飲まず黙り混む俺をみて何かを察したのか先輩が慰めるように話しかける
「まぁ、一度嫁さんの携帯をチェックしてみたらどうだ?無警戒なら黙って覗いてもバレないだろう
もしバレてもそれでお前の気が休まるなら奥さんだって許してくれるだろうさ」
先輩は最悪のケースを敢えて除外して俺に提案する。
「はぁ今度の週末やってみます。だから週末は絶対俺を帰してくださいよ」
「もちろんだここまで煽っておいて不義理なマネはしないさ」
そういって先輩は俺の飲みかけのコップにビールを注ぐ
正直食べ物の味なんて全くわからなかった。
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週末の土曜日、簡素な一人暮らしのマンション住まいから解放されて住み慣れた我が家に帰ってくる。
「ただいま~」
「お帰りなさいあなた」
笑顔で迎え入れてくれた香澄からの
いつも通りのハグとキス。特に変わった様子はない。
三人で食事を済ませると
香澄は風呂に入った。
チャンスだと思った俺はそぉっと香菜が部屋に戻ったのを確認すると
小さくごめんといってからドキドキしながら妻のメッセージやメールをチェックする。
携帯にはロックがかかっておらず
メッセージとメールのやり取りはほぼ娘とだけだった。
ちらほらと知ってる名前がある
香澄の学生時代からの女友達だ。逆にいうと知らない名前がない。
前任者の彼の奥さんの携帯にあったラブラブメールなるものは微塵もない。
息を止めて読んでいたが俺は安心してここで大きく息を吐いた。心臓の鼓動が徐々に治まっていく
しかしとある送信メールを見て凍りつく
決して色気のある文章ではない
名前の登録のないアドレスに対して香澄が
「わかりました。来週の日曜日22時に駅前の『ド・ゴール』ですね?」
そう返答している
それ以前のメールも返事も見つからない。
さっきまでの安堵の気持ちが嘘のようにひっくり返る。
明らかにその前に対話がなければ成立しない文章だ、
もしかしたら
香澄は俺に見つかってはいけないメールを消しているのかもしれない
その可能性に気づいたとき、まるで冷たい鉄の棒が俺の脳天から体に突き刺さるような感覚に陥る、手が震えてうまく操作ができない。
その後も震える手で香澄の携帯をしらべたが怪しいメールも、気になる送信メールの前の受信メールも見つからず
香澄が風呂から上がってきたので俺は泣く泣く携帯を元の位置に戻した。
「あなた~先にお風呂終わりましたお次にどうぞ~」
風呂上がりのほんのり赤い顔で香澄は上機嫌で鼻唄を歌いながら俺の前に出てくる
バスタオルの下は俺だけが知っている豊満な体が隠されている
胸は大きく形も色も素晴らしいが若干陥没している乳首、
そのことにコンプレックスを感じているのかおれが胸を揉むと恥ずかしそうに感じるときのあどけない表情
年齢を感じさせないキュっとしまったウエスト、大きなお尻
全ては俺のものだ、俺だけのもののはずだ。
「ん、どうしたの?」
「…何でもないお風呂もらうね」
そういって俺は浴室に逃げ込む、
香澄からは浮気をしている罪悪感といったものは微塵も感じられない。
あの香澄が浮気なんてするものだろうか?
もし仮に俺を裏切り、浮気をしていたとしてここまで平然としていられるだろうか
だが真実を確かめることなく、月曜日からまた単身赴任を続けることは俺の心が持ちそうにない
鼻から下を全て湯船に沈めながら
メールの待ち合わせ場所に俺もこっそり後をつけることを決めた
メールにあった来週の日曜日、それは明日のことだった。
風呂からでてベッドに入る
ベッドは別々にしない、これも先輩から教わった夫婦円満のコツだったが
今日はちょっとそれが煩い
いつもは俺から声をかけるのに一切口に出さない俺に配慮したのか
香澄のほうから夜のお誘いがあったが疲れてるという理由で遠慮した。
もし自分には抱かせてくれない香澄の体が他の男に抱かれ乱れている姿を想像をしただけで
とてもじゃないが行為をしてもらう気分ではなくなっていた。
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翌日
昼食は親子三人で餃子パーティーだった
香菜が出掛けるのは今日の22時以降、そんな時間に香澄が外出することはあまりないから
出掛ける前に俺に一言あるだろう
浮気と決まったわけではないのだから
今は忘れて親子のスキンシップを楽しむことにする。
兼ねてから約束をしており、冷蔵庫を開けると香澄は材料を全て準備してくれている。
我が家の餃子パーティーは餡を作るのは俺の役割
皮に包んで焼くのは香澄と香菜の役割だ。
以前有名な中華料理屋でバイトをしていた俺はそんじょそこらの店よりも美味しい餡を作ることができる。
美味しい餃子の餡を作るのはよく捏ねることが大事でなかなかの重労働だ。
俺は暗い気持ちを忘れるように餡作りに没頭する
香澄と香菜が軽く談笑しながら皮を包み、みるみる生餃子が出来上がっていく。
香澄がホットプレートに電源をいれて
中火で焼いてフタをして最後に軽く差し水
やがて美味しそうな餃子が焼き上がる。
「さあ食べるか!」
俺と香澄はビール、香菜はダイエット中とのことで麦茶で乾杯
餃子を一口、肉汁が溢れ出て旨味が口の中いっぱいに広がる
その味を充分に堪能したあとの火照った口内に冷たいビールを流し込む
「うん!旨い!!」
「本当に美味しい !」「パパの餃子を食べるとお店のが食べられなくなるよね」
香菜の位置からはホットプレートの餃子が摘まみにくいのか
香菜は片肘をテーブルにつけてもう片方の腕で箸を延ばして餃子をつまむ
「香菜!肘をテーブルにのっけないの!」
とたんに香澄が香菜を叱る。
普段あまり怒らない香澄だがテーブルマナーにはやたらうるさい、
以前電球を変えるためにテーブルの上に乗ったときも食べ物を食べるところに足をのせないでくださいと真剣に怒られた。
娘が真似をしますと
その時の俺と同じように
叱られた香菜が一言「ごめんなさい」というと香澄はホットプレートを香菜のほうに寄せた。
一口サイズにされた餃子はみるみる減っていく
「ここらで俺は味を変えるかな」
俺は戸棚からお酢を取りだす。
我が家で餃子にお酢を使うのは俺だけだ、香澄はお酢の匂いが苦手で普段から料理にも使わない、
ある程度餃子が腹にたまってからはたっぷりのお酢でさっぱり頂くのが俺の餃子の食べ方で
これについては香澄も承知していてなにも言わない。
しかし今日は真剣に餡を捏ねすぎた。
よく捏ねた挽き肉の脂は石鹸でも簡単には落ちない
俺はつるりとお酢の瓶を落としてしまう
バリンッと音が鳴り、辺りにお酢の匂いが充満する
「おっとすまん、なにか拭くものを」
「あっ♥️」「あん♥️」
「…その辺にないか?」
と言って香澄と香菜をみると顔を真っ赤にして震えて口をふさいでいる。
「ああごめん、お酢苦手だったよな俺が片付けるから二階にでも避難していてくれ」
そういっておれは火を止めて雑巾を探す、この場合トイレットペーパーかなんかで拭いたほうがいいのかな
「ふっ、うんっ、そ、そうねごめんなさいあなた…」
呼吸を荒くした香澄は寝室のほうに引っ込む
「…私もごめんなさいパパ、私もこの匂い堪らない…駄目かも」
香菜も自分の部屋に籠ってしまった。香菜もお酢の匂い駄目になったのかな
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結局そのまま餃子パーティーはお開きになってしまい
風呂に入りだらだらとテレビを見ていると時刻は21時前
香澄は申し訳なさそうに俺に話しかける
「あなたちょっと智子と約束をしているのだけど今から行ってもいいでしょうか?」
「ああ、どうぞ」
俺は気のない振りをしてテレビを見ながら返事をする
内心、心臓はバクバクだ。
「ごめんなさいすぐに帰りますから」
そういって出掛けていった。時間をかけて化粧をして
香澄が出ていくのを確認して、すぐに俺も出掛ける準備を始める、場所はわかっている先回りも可能だ
「香菜~パパはコンビニ行ってくるけどなにか欲しいものはあるか?」
香菜にも声をかける、二人が急にいなくなったら心配して香澄に連絡をとるかもしれない
「高いアイス~二個~」
二階から能天気にそんな声が聞こえてきた。ダイエットはどうした。
「ド・ゴール」は駅前にあるバーで終電までやっている
……そしてなによりすぐ裏はホテル街だ。待ち合わせによく利用されている。
俺がド・ゴールに入るとすでに香澄が座っていた
そして目の前には俺の見知らぬ男が座っている
男と二人きりで香澄は楽しそうに談笑している。
男の年の頃は俺より5,6才上だろうか、俺よりは香澄にお似合いだろう
俺の視界が真っ赤になる。
冷静に考えればこれは決定的な証拠ではない。
ここはこらえて、二人がホテルに入っていくのを確認すべきだ
だが駄目だ、これ以上は俺の心が持たない
香澄が他の男に抱かれるのを見過ごすなんて出来ない
ココロかカラダか、はたまた衝動が
理性が導きだした正答を拒否して俺を動かす
俺はずんずんと中に入っていく,香澄は男とのお喋りに夢中で気づかない。
腕を掴む、逃げられないように
「痛っ!」
腕を捕まれこっちをみた香澄に一言俺は
「香澄…」
そう名前を呼んだ
そこまでの怒りが嘘のように霧散し、発した声は自分が驚くほど弱々しい響きだった。
香澄の顔を見たときに先程までの怒りが全て悲しみに転嫁し、懇願するかのような情けない声で香澄に話しかける
「なぁ、智子さんに会いに行ったんじゃないのか?その男は一体誰なんだ」
俺は男を睨み付ける。
「あなた…違う、誤解してる。落ち着いて話を聞いて…」
香澄は俺の目を真っ正面に捉えて誤解だと言い張る。
逆に俺はそんな香澄の目をまともに見れない、これじゃあべこべだ。
「何が違うんだよ…」
そんなやり取りをしていると
「あれ?錬一さんじゃない、なんでいるの?」
………智子さんがスマホをいじりながらトイレから出てきた。
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「本当にすみませんでした!」
香澄の隣に座りなおした俺は先ほどまで睨み付けていた男性に頭を下げて謝罪する。
「いえいえお気になさらず、何もありませんでしたから」
「私からも謝罪させてください、元々は私が夫に黙っていたのが悪いんです。」
「サプライズでびっくりさせてやろうってのが見事に裏目に出ちゃったわねー
小林さんが一番ビックリよね本当ごめんねー」
智子さんも手を合わせて俺のために小林さんに謝罪してくれる
「確かに驚きましたが、もう気にしてませんので、これ約束の物です、では私はこれで…」
そういってそそくさと席を離れた。
「ごめんねーこの埋め合わせはするから~」
智子さんも小林さんを追いかけて退席する
テーブルに残されたものは新型の電子タバコ
俺が欲しいと言っていたが抽選でしか手に入らず
ネットではすでにプレミアがついてまともな値段ではなくなっていたので諦めていたものだ。
それを俺の誕生日プレゼントとして探していた香澄は
智子さんの知り合いに仕事の関係で手に入れられる人がいることを聞いて
譲って頂けるように交渉し
今日持ってきて貰う手筈になっていたということであった。
Q:なんでこんな遅い時間の受け渡しにしたのか?
A:智子経由で貰っても良かったが今日を逃すと俺は一週間帰ってこれないので誕生日に間に合わない
小林さんの都合を考えると今日のこの時間しかなかった。
Q:なぜメールを消していたのか?
A:サプライズにしたかったから念のため消していたが日時は間違ってはいけないから残しておいた。
まさか本当に携帯を見るとは思わなかった
Q:怒ってる?
「怒ってないと思う?」
「ご、ごめん!」
俺は男に引き続き香澄にも深く頭を下げる。
そして下げた頭を恐る恐る上げながら上目遣いで香澄を見ると香澄はちょっとだけ笑っていた。
「もう怒ってないです、ちょっと嬉しい気持ちもあったし
こんなに私のことを思ってくれているんだなぁって
小林さんには悪いけど」
「香澄…」
感極まった俺は香澄に抱きついてキスをする
そんな俺の頭を香澄は優しく撫でてくれた。
ああ、これが自然に出来るようにするために日々の習慣は必要だったのか
「それにもし誰かと密会なんてするならあんなに餃子を食べたりしません、あなたの餃子はニンニクの量が凄いんだから」
「本当だちょっと匂うや、でも全然気にならない、ずっとこうしていたい」
俺はさらに強く香澄を抱き締める。
「そんなあなただから一緒にいるの、あなたは私の理想の結婚相手なんだから」
ああ、この幸せが失われなくて本当によかった。
「なぁ昨日しなかったし今夜久々に……」
香澄は返事がわりに俺の唇に軽くキスをした。
薄暗い店内でここはそういう店じゃないんだけどなぁという他の客の視線を感じて慌てて店を出る。
いやらしいことをする気満々で帰宅したものの
当然というか香菜に約束したアイスは買い忘れ
俺は一刻も早く香澄にベッドでイチャつきたい気持ちを押さえ
コンビニに走った。
今夜は最後までやらせてくれるんじゃないか
そんな期待に胸とかを膨らませながら