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貞操逆転世界で幼馴染と純愛

貞操逆転世界で幼馴染と純愛するための前日譚

作者: ハムカト

お気に入りだった逆転世界で純愛してる作品があまり更新されなくなってしまったため、自分でも書いてみました。




「ゆーかおねえちゃん、ただいまー!」


小さな声が後ろから聞こえてくる。

脚を止めてふり返ると、保育園から帰ってきたばかりの

あの子が公園にやってきたところだった。


「おかえり。はやかったね」

「はやくきたらゆーかおねえちゃんがいるでしょ。がんばったよ!」


よしよし、と頭をなでてあげると、うれしそうに笑った。


「まなは?」

「まなはね、おすなばあそびのどうぐ、もってくるって!」

「そっか。じゃあ、まってようか」

「うん!」


本当は、今日は学校の友だちの家に行こうかなって思っていたけど、

小さな笑顔があまりにもうれしそうで、友達の家に行くのはやめにした。


「ゆーかねーちゃーん!」


と、すぐにもうひとつ、あたしをよぶ声が聞こえた。

おじさんに連れられ、まなが大きなバケツをかかえて

よたよたとやってくる。


「まな、大丈夫? あたしが持ったげる」

「いい!」


まなの所まで行こうとしたら、まなは首を振って歩いてきた。

大変だったみたいで、息を切らしている。


「すごーい、まな! がんばったね!」

「もう一人でへーきだもん!」


バケツの中には3本のスコップ。

きっと、急げばここにあたしがいると思って、3人分持ってきたんだろうな。


あたしもなんだかうれしくなって、こんどはまなの頭をなでた。


今はまだ3時。

夕方の鐘が鳴るまで、たくさん一緒に遊べるな――。






「っていう感じの話がね、昔はあったわけよ」

「え~まなさん可愛すぎません!?ありえない!」

「まーね。今からすると考えらんないよね」


心底びっくりした顔をしている悠斗くんに、私は苦笑いを返した。

よっぽど衝撃的だったのか、彼はまだはーとかへーとか呟いている。


「っていうか昔はおねえちゃんって呼ばれてたんですか?」

「うん、別に姉妹ってわけじゃないけど、近所のお姉ちゃん的な感覚で」

「じゃあ、今日来たあの人にも?」


言いながら、悠斗くんは事務室の奥に視線を向けた。

そこでは今、彼が店長にこの店のアルバイト採用面接を受けているところだ。


「そう。彼にもおねえちゃんって呼ばれてたんだ」

「あの人、学年だと僕の一つ上ですよね?」

「そう。で、私のいっこ下。仲良くしてやって」

「うーん、難しいかも」

「なんで? 悪い子じゃないよ」

「だって僕、同性に嫌われるタイプだから」

「ああ、だったら大丈夫。あいつはそういうの平気、わりと誰とでも仲良くできる子だよ」

「うっわ、僕が嫌われるタイプって否定しないし! ゆうかさん酷い!」

「君は同性に嫌われても自分が好きなようにする方が良いんでしょ?自覚もあって覚悟もあってやってるみたいだし。それに対してフォロー求められてもな」

「……」

「ん? 何?」


悠斗くんは私を見つめた後、心底残念そうに深く息を吐いた。


「僕がゆうかさんにイマイチ惹かれないのはそういうとこなんですよね~。騙しにくいっていうか厳しいっていうか。見た目悪くないし話やすいのにそのせいで対象外です。残念」

「……それはどーも」



その時、奥のドアが開いて中から2人が出てきた。


丁寧にお辞儀をする彼と、鷹揚に頷く店長。

彼は顔を上げ、私の方を振り返ると嬉しそうに笑った。


「採用だって」


一安心すると同時に、少し驚いて私は店長を見遣った。

店長は私に頷いて見せる。


「ゆうか、君は良い友人に恵まれているね。彼をスタッフとして迎えるよ」

「即決定って、早いですね」

「私は人を選ぶときに、自分の直感を頼りにするようにしているの。そして今のところその直感が間違っていたことは一度もないんだ。彼には来週からシフトに入ってもらうから、よろしくね」


悠斗くんは私の隣から一歩出て、彼の方に近寄った。

全身を上から下まで見聞するように眺めてから、にこっと笑う。


「悠斗です! まなさんと同じ高3です。これから一緒に働くみたいですね。よろしくお願いしまーす」


「よろしくお願いします。……このバイトでは先輩だから、悠斗先輩って呼んでいいですか?」


彼にマジメに聞かれて、悠斗くんが慌てて否定するように手を振った。


「え、やだ、いいですよそんなの!僕の方が年下なんだから、呼び捨てで!ていうか普通に喋ってください。落ち着かないし」

「じゃあ、悠斗くんって呼ばせてもらうね。頑張るから、色々教えて」


物怖じしない悠斗くんと彼は、意外にも気が合うんじゃないかな。

なんて、二人の様子を見ていて思った。


俺がいなくなっても、男子2人。

うまくやってくれることを期待しよう――。






面接からの帰り道。

夕暮れの坂道を連れだってのんびり歩いた。


「採用おめでとう」

「ありがとう、ゆうか。面接って緊張するね」


私の言葉に、ようやく安心したように彼はふわっと笑った。


「店長、人を見る目がけっこう厳しいんだ。だからバイトの応募は多いんだけど、なかなか人を採らないんだよね」

「そうなんだ……良かった、採用してもらえて」

「おまえなら大丈夫だと思ってたけどな」

「お世辞?」

「私がおまえにお世辞言ってなんかメリットあるの?」

「……ないのかな」

「ないだろ、何も」

「……」


何が不満なのか、彼は少しだけ口をつぐんだ。

拗ねているんだろうとは思うけど、なんで拗ねられたか分からない。


こういうことが最近よくある。

昔は彼が何を考えているかすぐ分かったのに。

子ども時代から抜け出すにつれて、考えていることが分かりにくくなった。


昔のままでは困るんだろうけど、それでも少し寂しい。


「……そういえば、おまえたちはいつから私のことを呼び捨てにするようになったのかな」

「え? どういうこと?」

「おねえちゃんって呼ばなくなったなと思って」

「……そんなの、小学生の頃までだよ。小学校中学年に入ってからは、もう呼んでなかった」

「ああ、そうだっけ」


なら、私が彼やまなの姉扱いされていたのは、本当に短い間だけだったんだな。

だけど幼児期の刷り込みというものは恐ろしいほど強烈で、

私は今も、その優しい呪縛の中にいる。


「しっかしおまえがウェイターか。なんでウチの店に来ようと思ったわけ?」


私はずっと感じていた疑問を口にした。


彼に私のバイト先を紹介してくれと言われた時は、正直驚いた。

彼は同じバイトでも、客商売をするようなタイプじゃないような気がしていたから。


「それは、ゆうかがいたから……」

「私がいた方が安心? その気持ちはわかるけどさ」


誰でも初めてのバイトは緊張する。

そこに知り合いが居れば、心強い。

現に同じような理由で、まなもあの店で時々働いている。


「でも、おまえも独り立ちしないとさ。いつまでも私に甘えてたら困るだろ」


そんなことになったら寂しくて仕方ないくせに、心にもないことを言ってみせると、

彼は本格的に黙り込んでしまった。


どうやら私は何かの地雷を踏んだらしい。

怒らせたか。


「……」


こいつはなかなかに頑固で、本格的に拗ねると長い。

そうなる前にどうにかして緊急回避をしなくては。


私は表情を変えず、その実、結構必死で考えた。


「そうだ、おまえ、これから時間あるか?採用祝いしよう」

「……え?」


無視されるかと思ったけど、彼はきょとんと顔を上げた。

ここは畳み掛けるチャンスだ。


「ケーキ買っておまえんち行こう。もちろん、ケーキは奢るよ。なんだったら2個でも3個でも。どう?」


彼の表情が戸惑いの色を浮かべる。

さっきの怒りを持続させるべきか、ここで折れるか、迷っている。


「……ごめん。なんで怒らせたのかわからないけど、おまえに怒られると堪える。できれば許してくれると嬉しいんだけど」

「……なんで怒らせたのか分からないって、どうかと思う」

「うん、私もそう思う。でも謝らないより謝った方がマシだと思わない?」

「ゆうかって、いっつもそうだよね……もう、仕方ないなあ」


言葉は突き放すようだったけど、呆れたように言う口調はもう私のことを許している。


私はほっとして胸を撫でおろした。

私はコイツに甘い自覚はあるけれど、彼だって私に十分甘い。


「あ、ってか、おまえんちがまずければ、どっか喫茶店でもいいよ。行きたい店とかある?」

「……ううん、いいよ。ゆうか、うちに来て」


うちに来て。

違う意味で言われているんだったら、嬉しいんだけどな。

……なんて、そんなことをちらっと考えて、すぐに頭の中からその考えを消去する。


そういうことを思ったら、

そういうことを思う素振りを見せたらきっともうコイツとは一緒に居られない。

少なくともこんな風に気軽に家になんか呼んで貰えない。


だから私は最大限の努力をして、この気持ちを押し殺す。


「食べ物につられたみたいで悔しいけど、ケーキは2個ね。コンビニのでいいから。その代わりにお茶も買って欲しいな」


ほんの少しだけ甘えを滲ませた彼の口調が、とても愛しい――。





「お邪魔します」

「はい、どうぞ」


まだ見慣れない彼の部屋に私は足を踏み入れた。

私がこの部屋に来るのは3度目で、1度目は引っ越しの手伝い、

2度目は部屋のブレーカーを落として困った彼に呼ばれてだった。


ちゃんと客として遊びに来たのは、そういえば今日が初めてだ。


「一人暮らしには慣れたか?」

「それなりには……あ、その節はご迷惑をお掛けしました」


ブレーカーを落とした時のことを言っているのか、彼はぺこりと頭を下げた。


「そんなの気にしないでいいよ。いい勉強になって良かったじゃないか」

「うん……」


彼は頭を上げると、ため息を吐く。


「ほんと、俺ってゆうかを頼るクセが抜けないね。指摘されるまでもなかった。ごめんなさい」

「別に構わないよ。いきなり全然頼られなくなるのも寂しいから、もうちょっと甘えてよ」

「……さっき独り立ちしろって言ったじゃん」

「あはは、ごめん。私もちょっとかっこつけすぎた」


素直に謝ると、彼は少し笑った。


コンビニの袋から苺のケーキとエクレアを取り出して、テーブルに並べる。


「今コップ持ってくるね。座ってて」


小さなキッチンに彼が向かい、私はカーペットの上に腰を下ろして部屋の中を見まわした。


彼はずっと両親と暮らしていたけれど、

この春から一人暮らしだ。


まだ新しい調度品に溢れた部屋だけど、それでもどこか温かな感じがするのは、

きっと彼の匂いのせいなんだろうか。


「お客さん用のコップなんて使うの、久しぶりだな」


グラスを2つ手に持って、彼が戻ってきた。


「……え?」


正面に座ると思ったのに、どういうつもりか彼は私の隣に腰を下ろした。

ベッドにもたれた方が楽だからだとは思うけれど、狭い部屋の中、近すぎて少し困る。


「……」


微妙に意識してしまっているのは、きっと私だけなんだろうな。

だけど彼もどうしてか黙り込んでいて、ほんの少し緊張しているようにも見える。

こういう時こそいつもの調子で喋って欲しいのに、その気はないらしい。

……どういうつもりなんだろうか。


「……ペットボトル、開けるよ」


極力何も気にしてないフリをして私はペットボトルを手に取り、綺麗な赤いお茶をグラスに注いだ。


「おまえ、紅茶好きだね。っていうか男の子は紅茶が好きだよね」

「……うん、そうだね。まあ、コーヒー飲めないし」


そしてまた少し沈黙。


耐えかねて私がどうでもいい話題を振ろうとしたときに、

彼はグラスに手を伸ばした。

紅茶の赤い水面を見つめて、不意に口を開く。


「……ゆうかって高校2年のとき、彼氏いたよね」


問い詰めるでも、質問するでもない口調で言われて、一瞬言葉に詰まった。

……うらぎりもの、と責められた気がしたのはどうしてだろう……。


まるで小さめの、でも破壊力抜群の爆弾を投げつけられたみたいだ。


「いたけど、別れたよ」


というか、実は高2だけじゃなくて、その前にも何度か告白されて付き合ったことはあった。

内緒にしていたつもりだったんだけど、なかなか敏い。


「別れたって、どうして?」

「……それは……まぁ、自然消滅っていうか」

「自然消滅?連絡取らなくなって?同じクラスなのに?」

「……私の元彼が同じクラスってことまで知ってるのね、おまえ?」

「……たまたま知っただけ」


たまたまにしては、一番知られたくない相手に知られちゃったなあ、と頭の端っこで私は軽く後悔した。


できれば彼には隠しておきたかった。

なんで隠さなきゃいけないんだというと、私も理屈では説明できないけれど。


「相手の人のこと、嫌いになったの?好きだったのに?」

「いや、それは……」


なんだか、何て答えても反応が怖い。

なので仕方なく少しだけ本当のことを言うことにした。


「……私は他に好きなヤツがいたの。だから一度は付き合ったけど、別れたの」


その答えに、彼の表情が険しくなった。

ああ、やべぇ。また地雷踏んでるな、私。


「じゃあ、相手の人とは好きでもないのに付き合ったの?」

「そういうんじゃなくて……」


まずいなぁ、うまく誤魔化せないかもしれない。

そう思って、もう少しだけ本当のことを白状する。


これも結構最低な話だけど、このまま軽蔑されるよりはマシだろう。


「……一番好きな相手は多分絶対ムリで、諦めなきゃいけないんだけど諦められないから、忘れるために別の子と付き合ってたわけ。……言っとくけど、それは相手にもちゃんと最初に言ったのよ。私は本当は他に好きな人がいるけど、アナタと付き合っている間は一番になるよう努力するって」


でも、やっぱり無理だった。


どうしたって、私にはコイツが一番大事で。


「だから、別れたの。双方傷が浅いうちにね」

「……そう、なんだ……」


何を思っているのか、小さく呟いて、彼は一口紅茶を口に含んだ。

すごく色んなことを考えている顔をしている。


そしてそんな表情のひとつひとつすら、可愛いと思う。


「……嫌なヤツでしょ、私。軽蔑したんじゃない?」

「ううん、しない。なんか、ちょっとほっとした」

「ん……?」

「……でも、怖いな。ハードル高そう」

「ハードル? 何の話?」

「……なんでもないよ。頑張ろうって、そう思っただけ」

「おまえも彼女欲しいの?」


顔を上げた彼は、目を見開いていた。


そんなに驚かせることを言ったかな……。

ごく普通の会話を装って聞いたんだけど。


「……欲しい。けど、ゆうかがいい」


そう言って、彼は私の腕にもたれてきた。


甘い重さに一瞬クラっとする。

ああ、もう、やっぱカフェかどっかにすればよかった。


このまま抱き寄せてしまいたい欲求は、半端じゃない。


「ったく、こんな大きくなっても甘えん坊だな、コイツは」


呆れたフリで笑って、勝ってきたケーキに手を伸ばした。


こんなことで動じていては駄目だ。

錯覚するな。

彼は私にそんなことは求めてはいない。


「ほら、ケーキ食べよう。せっかく買ってきたんだからさ」


彼の前にそっと置いてやると、彼は小さく頷いて、座りなおした。

身体が離れて内心で酷く安堵する。


……あとどのくらい、こうしていられるかな。


彼が離れていくまでに、私は強くならなくてはいけない。

いつか他の女と結ばれる彼を見ても、心が砕けてしまわないように――。





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― 新着の感想 ―
[一言]  女の子マインドの方から「付き合うならあなたがいい」とまで言われたのにその子を子供扱いして逃げんのはガチで腰抜けクソ女郎じゃないですかァー!!  しかもなんか躱し方とときめいた衝動押し殺すと…
[一言] 続き待ってます(あるか知んないけど) ヒロイン視点いいですね。
[一言] 最高です 作風からおそらくあの作品だろうなってわかりました 自分もあの作品大好きなので、(いい意味で)同じ香りのするこの作品も大好きになりました 願わくば、連載版も出していただけると有難…
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