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「柚月…!柚月!やめて!そんなの、いや…!柚月!生きて、生きてよ!」
僕の意識は覚醒をはじめた。頭が痛い。誰かが叫んでいる。
やめてほしい、声が頭に響く。
呼吸をし、酸素と血液が体を巡り始めると、頭が痛くてぼやけていた視界がクリアになる。
「柚月っ…!柚月ぃ…なんで…」
目を開けると、眼前に叫んでいたと思われる女の子が見えてきた。涙を大量にこぼし、顔がぐしゃぐしゃだ。
「どうしたの?泣かないで」
自然と声が出ていた。
女の子は泣かせちゃいけない。女の子が泣いた時は自分が悪いんだよ。
そんな風に、お父さんに言い聞かされたからか、自然と声が出たみたいだった。
「どうしたのじゃないよ…!だって…、だって…柚月が、柚月が自殺なんてするから…。いなくならないで…、いなくならないでよぉぉ…!!」
自殺?なんのことだろう。僕は柚月、とやらじゃないんだけど。
僕は死んだはず。死んだ感覚はあった。なら今の光景はなんだろう。
「ごめん、ごめんね、もうしないから」
反射的に答えていた。
自分の声が高くなっていたことに違和感を覚えたが、今は目の前の女の子を慰めるのが先だ。
「ごめん、ごめんね…」
僕は、女の子が泣き止むまで、頭を撫でて、慰め続けた。
*○*○*○*
ひとしきり泣いた後、女の子は寝てしまった。かわいい寝息を立てて膝枕で眠っている。
どうなってしまったんだろう。状況を確認すると、僕は、声が高くなり、髪は長く、胸が膨らんでいる。そして首がとても痛い。
にわかには信じがたいが、僕は、この体の女の子に憑依し、この女の子は自殺しようとして、失敗。
そして友達?らしきこの女の子に責められている、という状況だろうと思う。
「体の痛みは、病院にいた頃の方が酷かったし、健康体だ、この体」
不謹慎かもしれないが、健康な体を手に入れたことに、凄い興奮を覚える。
「僕、走ったりしていいのかな…!」
念願の望みが叶い、涙がこぼれそうだった。
「もう迷惑かけなくても済むのかな、もう、周りの人を苦しませなくても…」
そう考えてハッとした。今、僕がすべきことはなんだろう。
今、この子を苦しませている。人が入れ替わり、記憶がないなんてことになれば、更に苦しませることになるだろう。
苦しませないために、健康な体を求めたのに、苦しませてどうする。
「まずは、この子を苦しませない様にしよう」
そう決めて、膝枕している女の子が起きるのを待った。