1
白い天井。
数本の花が挿された花瓶。
窓からは庭師によって整えられた、緑が広がる。
「僕は、何もできない」
病棟の一室で、僕は呟く。
慣れ親しんだ、一室で。
僕は、五歳の頃からずっとこの一室で生きている。歩いた記憶すら有れど、走った事なんてない。
同じ歳の子達は、今は中学校に通い始め、勉強、部活、そして体育の授業で、思い切り走り回る。
「いいなぁ…」
そう声が溢れるほど、心からの羨望、望みだった。
僕は、生まれた時から、迷惑をかけ続けている。お父さん、お母さんは健康に埋めなくて苦しみ、僕が生きる事で、更に苦しませる。
いつも、どこかに影を潜ませた笑顔を僕に向け、お話を聞かせてくれる。
「ああ、来世があるのなら、健康な体を下さい。思い切り走り回れる足を下さい」
心からの望みだった。
健康な子供には当たり前であっても、彼にとってはとても欲張りで、お金や、恋人なんかよりも何百倍も欲しいものだった。
“私と変わってよ”
何か、聞こえた気がした。
「うっ…!」
急に目が眩み、どんどん意識が遠のく。
最後に聞こえたのは、主治医さんの慌てた声と、お母さんの叫び声だった。
「…ごめん…ね…ありがとう…」
最後に振り絞った言葉は届いただろうか。確認することもできず、意識は暗転する。