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「犬と猿を連れて歩いていると、雉が現れました」

 海の先にあるという、旧世界の知識の宝庫。

 そこを目指せば母さんを助けられる道具や知識が見つかるかもしれない。


 けれど、ハオウも具体的な場所までは分からなかった。伝え聞いただけの話だし、詳しい道程を記した地図があるわけでもなかった。


 カヌーフの集落、嘗ての病院跡で、ボクはハオウと一緒に傷が治るまで暮らした。

 ボクは次代の棟梁としてカヌーフたちに受け容れられた。ハオウのそれに似た個室が宛がわれ、食事も用意して貰えるようになった。


 食事と言っても、例の燻したフェラルや大鼠の肉ばかりで味気ないものだったし、地下深くから汲み上げているらしい水は変な味がする。


 この水は恐ろしいことに、生のフェラルの内臓と同じくらい強い汚染度を持っていた。こんなものを飲んでいたら、いくらカヌーフでもすぐ中毒になってしまうだろう。

 気になったボクはそのことについてハオウと話してみた。


「水を汲んでいるところを見せて欲しいんだ」

「好きにすればいい。お前はここの棟梁だ」


 強面でも鷹揚なハオウと、すっかりそばに居着くのが定番になったロボを連れて、ボクは廃病院内を歩く。

 たどり着いたのは地下にある井戸だった。これも昔の長が掘らせたものらしく、古めかしい機械がパイプに取り付けられていた。

 汚染計がけたたましい警告音を出していた。


「ここはすごいニュークの溜まり場だよ」


 二人が驚いていた。彼らは食べ物には気を配っていたみたいだけど、水が駄目になっているとは思っていなかったようだ。

 そこでボクは、ロボに使ったのと同じ汚染抗体アンプルを取り出し、井戸の水をろ過する装置の中へ投与した。

 抗体がろ過装置の中で増殖してニュークの量を減らしてくれるはずだ。


「これで、飲み水のニュークは減らせるはずだよ」


 二人はその場でろ過された水を汲んだ。ボクも見たけど、始めの頃のような匂いや味はなくなっていた。


「ペルーシク。お前は棟梁に相応しい行動をとったぞ」


 もはや見慣れたハオウの笑い顔がそう言ってくれた。


 

 傷が癒えたボクに対し、ハオウは提案した。


「昔、この廃病院の屋上からはたくさんの空飛ぶ機械が見えていた。先代の長はそれを『どろーん』と呼んでいた。そいつらは空のもっと高い所に目を持っていたそうだ」


 そいつを見つけて、海の先を目指そうというわけだ。

 ボクがカヌーフたちと別れる日が近づいてきた。

 ロボもハオウも、どうやらボクに付いてくるつもりらしい。


「俺はお前に救われた身だ。お前の旅が終わるまで付き合ってやるよ」

「カヌーフの棟梁ハオウはペルーシクに敗れた。ペルーシクの赴くところに俺は付いていく」


 旅立つボクらをカヌーフたちが見送ってくれた。


 昔ハオウが見たというドローンの編隊が向かったという方角を目指し、ボクらは進んだ。

 もちろん荒れた地平を歩けばフェラルや大鼠が襲ってきたし、その地には別の脅威もあった。


 そいつはボクの目から見ると、カヌーフによく似ていた。突き出た顎に鋭い歯、毛むくじゃらの身体に鉤爪を持っているし、頭には捻くれた太い角が生えていた。

 ハオウはそいつを『スメルチ』と呼んだ。


「スメルチは危険な相手だが、倒せば実りは大きい」


 ハオウはそう言って、物陰に隠れながら武器を構えた。


 ボクも武器を持つ。新しく手に入れたカヌーフのパイプライフルだ。

 狙うのは巨大で屈強な体を支える膝や腰だ。


 三丁の銃が一斉に発射されて排莢される。聞くに堪えない咆哮を上げ、スメルチがボクらを見つけてにじり寄ってくる。


 弾を入れ直して再び撃つ。膝が砕けたスメルチが頽れ、やがて動かなくなった。


 

 スメルチを狩りながら、時に廃墟を覗きながら、ボクらは旅をした。


 シェルターを旅立ってから三か月が経った頃、ボクらはお目当ての物を見つけた。


 ドローンの残骸があちこちに転がる場所があったのだ。どの機体も風雨に晒され汚れていた。


 それだけじゃなかった。ドローンは円盤状の浮揚装置に手足が付いた姿だったけど、手足が揃っている機体は一つも見つからなかった。黒ずみ、もぎ取られていた。


「生きているどろーんはいないのか……」当てが外れたハオウは落胆していた。

「すまないペルーシク。無駄足になってしまった」


 謝るハオウだったけど、ボクはそれを遮った。


「ハオウ、大丈夫だよ」

「しかし、ここにいるどろーんは、みんな死んでいる」

「死んじゃいないよ。みんな直せるんだ」


 ボクは二人にお願いして、目ぼしいドローンを何体か運んでもらうことにした。

 その日の寝床にする廃墟の中に並べられたドローンの残骸を見比べながら、ボクは言った。


「ロボ、ハオウ、これからボクの言うことを聞いて欲しい」

「おう」「分かった」


 乏しい灯りの中でボクらはドローンを解体し、使えそうな部品をより分けた。

 使えそうな部品を継ぎ足しするのに、バッテリーの残りが乏しいレーザーガンを使い切ってしまった。けど、この挑戦はうまくいった。


 ボクらは夜明けを迎えた頃、少し休み、起きてから自分たちの成果を見直した。


「すごい。死んだどろーんを繋ぎ合わせて生き返らせるなんて」

「父さんが教えてくれたんだ。これで、スイッチをいれれば……」


 ドローンの残骸から取り出したバッテリーはまだ生きていた。電源スイッチを入れると、バチッという火花の飛ぶ音と共に、浮遊装置が動き出す。

 円盤の表面がキラキラ光り、太陽の光を浴びて発電していた。周回するターレット・アイがゆっくりとボディを一周して、目の前のボクに焦点を合わせた。

「……再起動シークエンスを行ってください」


 機械音声がガイドを要求する。本当なら何か端末を使った方が良かったのだけど、ここにそんなものはない。

 なので、音声入力することにした。


「再起動シークエンスを行います……

「パスワードとIDを入力してください……

「パスワードとIDを再発行します……

「パスワードとIDの入力を確認しました……」


 ぶるぶる、と中のモーターがボディを揺らしてから、ドローンは滑らかにしゃべりだした。


「おはようございます。私は自律型軍用ユニット、ペットネーム『フ・ザン』シリアルナンバー2386です」


 ボクの後ろで二人のカヌーフが驚き、フ・ザンの目がそれを追いかけていた。


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