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第58話 炎ノ後ニ残ル者

笛を吹き鳴らし終えたバイカはゆっくりと唇に当てていた笛を下ろす。

その表情には微かな達成感と悲哀が同居している様に見える。


「オネーサン。一応、今の笛の音が何の合図か聞いてもいいかな?」

「貴様に答えてやる義理はない」


カナタの質問を一蹴し、バイカが不敵な笑みを浮かべる。

確かに笑ってはいる。だがその笑みもどこかぎこちない。

それはきっと自分の心を偽り。精一杯虚勢を張って作った表情だからだろう。

本当は怒りと悔しさで今にもどうにかなりそうな心を必死に抑え込んでいる。


(これで仲間達の遺体を回収する事は出来なくなってしまった)


任務の為なら仲間さえ躊躇なく手に掛ける白蓮衆だが、仲間同士の情がない訳ではない。

むしろ共に幼少期から血の滲む様な訓練を生き抜き、命を懸けて任務に臨む事からその結束は他者には理解できない程に強固である。

味方が死ねば余程の事が無い限り仲間の遺体や遺品は回収し、きちんと供養している。

だが、今回はそうする事が出来ない。

自分達の力だけで任務の達成が不可能であると分かった以上、こうする外に手がない。


(あの気紛れな風来坊が首尾よくやっていたとしても、聖女まで辿り着いているとは限らない)


あのヨルキという男は途轍もなく腕は立つが、強者を殺す事にしか興味がない。

なので今回の作戦にあたり奴にはリシッド・フォーバルの始末を任せてある。

しかしそれだけだ。ヤツはリシッドの首を取っても聖女を斬る事に興味は示さないだろう。

所詮は金で雇っただけの風来坊だ。しかしバイカ達白蓮衆はそうはいかない。

ヨルキと違ってバイカ達が優先すべきは任務の達成であり、仲間の遺体を回収する事ではない。


「だがこれでいい。これで私達の勝ちだ」


苦渋の決断ではあったが、これで任務を達成する事が出来る。

1階に待機させていた残りの白蓮衆のメンバーに、万が一の事を考えて大量の油を一回の隅々にまで撒くように指示しておいた。

そしてその時が来たら笛の音を合図に火を放つ手筈になっている。

しかしこれは一番最後まで残しておいた切り札であり、これでダメなら作戦は失敗だ。


(大丈夫なはずだ。相当な量の油を撒いてあるし木造の建物だから火の回りも早い)


すぐにこの屋敷は火の海に包まれる事になるだろう。

そうなればこちらの勝ちは決まったようなものだ。

いかに強い人間であろうと燃え盛る炎に包まれた建物から脱出するのは容易ではない。

しかも相手はこの屋敷の人間ではないので脱出ルートが分からないはず。

加えて彼らの周りには同じ様に火に巻かれた雑兵共が道を塞いで、きっと脱出にも手こずるだろう。

きっと任務は達成される。なのにどうしてかその考えに確信が持てない。


(きっとコイツのせいだ。コイツの存在が私を不安にさせるんだ)


明確な根拠はないが、何故かそう思ったバイカはカナタを殺気の篭った目で睨み付ける。

この得体の知れない怪物が何もかも全て悪い。そんな気がする。


「そんな熱視線を向けられても困っちゃうんですけど」


不安に駆られるバイカの心を嘲笑う様にカナタがふざけた事を言う。


「そうやって余裕ぶっていられるのも今の内だ」

「なんで?さっきの笛で合図して屋敷に火をつけたから?」

「っ!?」

「貴様!何故それを」


図星を言い当てられて動揺する白覆面達にカナタは余裕の笑みで答える。


「ああ、やっぱりね。この局面で考えられる手となるとそんな所だろうし」

「・・・こちらの手の内はお見通しか」

「どこに行っても追い詰められたネズミが考える事なんて似たり寄ったりだよ」


驚く様な事は何もないと言わんばかりのカナタにバイカ達は歯噛みする。

自分達をネズミ呼ばわりした事もそうだが、こちらの手の内を知って尚顔色一つ変えないカナタの態度がバイカ達の神経を逆撫でする。


「本当に不快な奴だ。お前達に恨みはなかったが、この1時間の間に貴様が私にとってこの世で一番嫌いな存在になった」

「うっ、女の人に面と向かって嫌いって言われたの初めてだからちょっとだけショックかも」


言葉とは裏腹にその表情からは一切の動揺が伺えない。

どうすればこの男の表情から余裕を消し去る事が出来るのかまるで分からない。

せめて悔しがらせられないかと苦し紛れの言葉を吐き出す。


「例え貴様が無事でも貴様が守ろうとした聖女達は助からないぞ」

「う~ん。その心配はないかな?きっとウチの聖女様やクソ貴族様は無事に脱出するよ」

「何故そんな事が言える」

「そりゃ~だってねえ・・・」


焦らすような物言いをしたカナタは口角を上げてニンマリと笑う。


「この程度で死ぬような連中なら、とっくの昔に殺されてるからさ」


ハッキリ言って炎の中から脱出する方が獣人を相手にするよりは幾分か楽なはずだ。

その程度の事で死んでいられる程、今日までカナタ達がしてきた旅は楽じゃない。


「だから先に言っておくよ。残念だったね」

「その様な事が理由になるか!」

「別に信じてほしいとは思わないよ。だって今日ここで人生が終わってしまうアンタ等には関係のない事だからね」


そう言ってカナタはバイカ達3人に向かって大きく踏み込む。

先程までの曲芸師の様なトリッキーな動きから打って変わって、放たれた矢の様なカナタの踏み込みに対し、バイカを守る様に立っていた2人が素早く反応する。

1人が防御に徹し、もう1人の白覆面が応戦するべく剣を振り上げる。


「舐めるな!」


前に出た白覆面がカナタに向かって飛び掛かかり、真っすぐに刃を振り下ろす。

だが、その刃はカナタに触れる事無く彼の目の前を通り過ぎて絨毯の上へと真っ直ぐに打ち下ろされる。

チェンジオブペース。身体能力の高さを生かしたカナタお得意の急激な速度変化で相手の攻撃の間合いとタイミングを見事に外させた。


「そんな動きじゃ俺は捉えられないよん」


そう言ってカナタは相手の懐に向かって片手剣を投げつけて腹部を貫く。


「がはっ!」


吐血し、膝から崩れ落ちる白覆面。その体が急にカナタの方に向かって押し出される。

負傷した仲間の背を蹴ってバイカが突っ込んでくる。


「ここで果てろ!悪魔め!」


鬼気迫る勢いで飛び込んでくるバイカ。

カナタとの間にある仲間の背中に隠れ、手にした武器を真横に振り抜く。


「仲間を盾にする様な連中に負けてなんかやらないっての!」


バイカの攻撃パターンを読み切ったカナタは、バイカが盾にした白覆面の両肩に手を乗せると同時に地面を思い切り踏み付けて真上に飛ぶ。

まるで跳び箱を飛ぶように飛び上がったカナタの足元を、バイカが繰り出したブーメラン状の刃が通り抜けていく。

2人の間で死にかけていた白覆面の体が上下に真っ二つに裂かれ絶命する。


「仲間を斬る様な下手糞が武器を取るなっての!」


そう叫んだカナタは空中で体を丸めて1回転し、バイカの右肩目掛けて踵を振り下ろす。

防御が間に合わず直撃を喰らったバイカの肩からゴキンッという大きな音が響き、バイカの右鎖骨が折られる。


「あぐぅっ!」


短い悲鳴を上げるバイカの手から握っていた武器が零れ落ち、その場に膝をつく。

動けなくなった彼女の眼前、空中で体勢を維持したまま今度は真横に体を回転させたカナタの蹴りが、容赦なく彼女の横顔を叩きつけ部屋の隅まで吹き飛ばす。


「カハッ!」


背中から壁に叩きつけられたバイカが苦悶の声を上げる。

そんな中1人残った白覆面は着地のタイミングを狙ってカナタへと攻撃を仕掛ける。


「これで終わりだ!」

「どっこい、そいつはアンタの方だよ!」


素早く腰の鞘から片手斧(グレーテル)を引き抜くいたカナタは、剣先を向けて体ごと突っ込んでくる相手に向かってその刃を振り抜く。

空中で器用に姿勢を変えたカナタの繰り出した斬撃が、剣の刃もろとも相手の手首を切り飛ばす。


「あっがぁああああああ!」


腕を落とされて絶叫する相手の足元に剣の柄を握った手首が落ち、折れた歯先がクルクルと回転しながら宙を舞う。

その刃をカナタは着地と同時に右足で前に蹴りだし、相手の右胸に蹴り込む。

ズブリという肉を割り裂く完食が足の裏から伝わった後、目の前の敵が地面に倒れる。


「残念でした」


そう言ってカナタは片手斧を軽く振って血を飛ばし鞘に納める。

それから床に落ちた片手斧をひょいっと持ち上げ振り返ったカナタは、地面に這いつくばって恨めしそうな目を向けるバイカの方を向く。


「もう諦めて降参したら?女の人を傷つけるのは趣味じゃなんだ」

「何を今更・・・」


さっきまで女相手に容赦のない攻撃をしておいてよくそんな事が言えたものだ。


「言う事からやる事までデタラメな奴め」

「褒め言葉として受け取っておくよ。で、どうするの?」


そう言ってカナタはバイカへと手にした片手剣の刃を向ける。

別に彼女に情けを掛けている訳じゃない。

カナタは必要とあれば女子供だって容赦なく殺すし殺せる。

外道と呼ばれる事に恐れもない。それでも矜持としているものぐらいはある。

だからこれは最後通告。これが受け入れられなければもう殺す以外の選択肢はない。


(このオネーサンに降参はあまり期待できそうにないけどね)


案の定というべきかカナタの情けは、バイカにとっては屈辱以外の何物でもなかった。

未だに自分を1人の敵としてではなく女扱いする少年に向かって、バイカは口から血が流れるのも構わずに吠える。


「まだだ!まだ私は生きている。生きている限り使命を果たす!」

「降参は出来ないと?」

「当然だ!我等最後の1人になろうと!使命を果たす」

「ここで死んだら使命を果たしたかどうかも確かめられないのに?」

「ならば首だけになっても使命を果たし結果を見届ける!」


勿論そんな事が出来る訳がない。首だけになれば死ぬだけだ。

だがそんな道理など今のバイカにとってはどうだっていい。

自分がどうなろうと命続く限り戦い続ける。そのいう風に育てられその様に生きて来た。

今更この生き方を変えられる等とは彼女自身思っていない。

それが死ぬ迄戦う事を宿命づけられた女の悲しい運命。


「ああ、そうですか。じゃあ仕方ないかな」


心の底から残念そうに溜息を吐いて、カナタは片手剣を振り上げる。


「恨んでくれて構わないから」


してそう言い放つカナタの目に先程までの感情の色はもう見えない。

バイカは諦めずに立ち上がろうとするが、今からどう動いた所で目の前の少年の攻撃を躱す事は出来ないだろう。


(このまま倒せなくても、白蓮衆の名に掛けて絶対に無傷では帰さない)


近付いた時にせめて一太刀浴びせようと、右手の袖に隠した仕込み刀をカナタに気付かれない様に構える。


(せめて一矢報いて死んでやる)


覚悟を決めたバイカの眼が、正面に立つカナタの姿を捉える。

喜びも怒りもない。ただ全てを見通す様な無機質な視線を向けるだけの目。

もしかしたら最後の足掻きさえ彼には見抜かれているのかもしれない。

そう考えるだけで心が折れそうになるのを必死に堪えながらバイカは最後の時を待つ。


その時、ボゴォンッという大きな音が屋敷内に響き渡り、建物全体が大きく揺れる。

どうやら屋敷のどこかで建物を支える大事な柱でも折れたらしい。

尋常じゃないほどの大きな揺れに2人の体が揺さぶられる。


「ん~、もうあまり時間がないみたいだね」

「だからどうしたと言うのだ。殺すなら早く殺せ」


揺れに姿勢を崩されそうになりながらもなんとか攻撃に備えるバイカ。

だが、そんな彼女の覚悟を知ってかカナタは思いがけない言葉を口走る。


「このままここに長居して、炎に巻かれて焼け死ぬのバカらしいから俺は逃げるね」

「・・・・は?」


後一撃加えれば、それだけで確実に殺せる敵を目の前にそんなありえない事を言うカナタ。

敵が言っている事の意味が分からず、その意図も読みとる事が出来ないバイカ。

こちらの動揺を狙っているのかと警戒を強めるバイカだったが、そんな彼女の目の前でカナタは手にしていた武器を鞘に納める。


「それじゃ、俺は行くから逃げるならどうぞご自由に」


シュタッと片手を上げてそんな言葉を言い残すと、カナタは部屋の外に向かって一目散に駆け出していく。


「・・・なんだと」


まさか本当に自分を残して逃げると思っていなかったバイカは完全に虚を突かれて呆然となる。

こんな事があっていいのかとしばし呆けていたバイカだったが、パチパチと音を立てて燃える火の音が身近に迫っているのを聞いて我に返る。


「クッ」


痛む体を抱えながら、壁を支えにして体を起こしたバイカは部屋の出口に向かってヨロヨロと頼りない足取りで歩き出す。

足下に転がる仲間の遺体に足を止めてしまいそうになるが、このまま敵を倒す事もなく死ねば彼らの死が無駄になる。

ここで仲間達と一緒に灰になる事は彼女には許されていない。

何より、戦わずして焼け死ぬなど白蓮衆の頭領としてあってはならないと自分に言い聞かせ、バイカは痛む体に鞭を打ち、足を前へと進める。

廊下に出て左右を見渡すと廊下は既に炎に包まれており、あちこちで仲間の死体が炎に焼かれて燃えている。

その中に、先ほどカナタと一緒に戦っていた男達の死体はない。


「1人も討ち取れなかったというのか」


自身に突き付けられた現実に愕然とするバイカ。

敵に対し倍以上の人数で挑んだにも関わらず、敵の戦力もロクに削れなかったという結果に悔しさと自分の甘さを痛感して血が滲むほどに奥歯を噛みしめる。


(なんという有様だ。)


俯いたままその場から動かないバイカ。頭の中では色んな考えが渦を巻き、少しでも気を抜けば足下に転がる刃で自害してしまいたくなる。

しかし、いつまでもそうしている訳にはいかない。

火の手はもうすぐそばまで迫っている。このままでは逃げ遅れて焼け死ぬ。


(これ以上、白蓮衆の名を貶めてなるものか)


最後の気力を振り絞り、バイカは1人で炎の中を突き進んでいく。

生き残ったとしてもその先に明るい未来がないと知りながら・・・。



  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  



燃え上がる屋敷の中をレジエト、ヤモックと共に駆けるカナタ。


「思ったよりも火の回りが早いな」

「これは俺らも急がないと焼け死ぬぞ」

「・・・みんな大丈夫だよね?」


さっきバイカの前でデカイ口を叩いた手前、これで全員助からなかったら目も当てられない。


「まあ聖女様達は大丈夫だろ」

「何せウチのリーダーが付いてるからな」

「それって根拠になるの?」

『ならねえな』

「オイ」


声を揃えてすっとぼける2人に思わずマジツッコミをしてしまうカナタ。


「まあ冗談はほどほどにしておいてだ」

「冗談かよ」

「ウチのリーダーの魔核武器の能力なら、まあ逃げ遅れない限り大丈夫だろう」

「あ~あれね」


バネッサの魔核武器の力は今日までの間に2回ほど見ているが、その詳しい能力についてはカナタはまだ知らされていない。


(まあ、聞いた所で素直に教えてくれるとも思えないけどね)


それでもこの2人が大丈夫だと言う程度の能力は持っていると見ていいだろう。


「じゃ、あっちは心配ないかな」

「むしろ心配なのは隊長さんの方じゃないか」

「ああ~確かに、あの人最後に居たのって3階最奥の部屋だったろ。逃げられるかな?」

「それこそ心配いらないかな。こんな所で簡単に死ぬ程ヤワじゃないよアイツ」

「まっ、そのくらいじゃなきゃ隊長は務まらねえか」


退路が狭まる中、平然と雑談しながら通路を走る3人。

まるで命の危機にあるというのが嘘じゃないかと疑いたくなるぐらいだ。

だが、どんなに軽口を叩こうと屋敷の中に火は巡り、確実に逃げ場はなくなっていく。

さらに、燃え落ちる屋敷の柱やら天井が次々と頭上から降り注ぐ。

もちろんそれは3人の逃げている通路とて例外ではない。

上から焼け落ちた梁が3人の目の前に落ちてきて通路を塞ぐ。


「あっ!これはちょっとマズイかも?」

「逃げ道塞がっちまったな」

「オイオイ、どうするよ」


相変わらず緊張感はないが悠長に足を止めていられる余裕もない。

足を止めていたらその間に逃げ道はもっとなくなって、最終的には上から落ちてきた瓦礫やらに潰されて本当に命がない。


「そりゃあもちろん切り開くしかないでしょうねえ」


カナタは走りながら片手斧と片手剣に手を掛けると、塞がった通路の脇にあるドアを蹴破り、部屋の中に飛び込む。


「こっちからなら通れるでしょ」


言って両手の武器を素早く抜き放ち、進行方向側の壁面を乱雑に斬りつける。

まるで薄い紙を切る様に簡単い壁が裂け、バラバラと崩れる。

開かれた壁の向こうも燃えてはいるが、通れない程ではない。


「おっ!こっちはまだ行けそうだな」

「よっしゃ!行くぞ」


開いた穴を蹴って広げ、3人は部屋を通って迂回し廊下へと戻る。

それから後はただひたすらに廊下を走って出口を探す。


「1階はもう駄目だから窓とかベランダ探せ」

「ああ~もう、この家無駄にデカすぎな上に換気機能悪すぎだろ」


さっきから走りながら周囲を確認するが窓が少ない上にあっても人が通れるだけの大きさのものがない。泥棒などへの用心と外からの見た目を重視した結果なのだろうが、おかげで逃げ道がほとんどない。


「ハハッ!きっと掃除のおばちゃんも大変だ」

「違いないな」


そう言ってカナタ達は目の前に横たわる柱を飛び越えて、突き当りの部屋に飛び込む。

部屋に入った瞬間、視界が真っ赤に染まり熱波が皮膚を撫でる。


「うわっ!あっつ!」

「景気よく燃えすぎだろ」

「だが、ベランダは見えたぞ」


宴会などに使う大部屋は目を開けているのも辛い程、炎に包まれていた。

しかし炎に遮られた部屋の奥にベランダの柵と僅かな街明かりを称える外の景色が見える。


「ゴールだ。一気に突っ切るぞ!」

「おうよっ!」

「こんな所で死ぬのは御免だからな!」


3人は衣服に火が移るのも構わずに部屋の中を一直線にベランダへと駆け抜ける。


「だぁらあぁああああっ!」


僅かに見える出口を目指し3人は全力で走り抜け、ベランダから庭へと飛び降りる。

着地と同時に庭の上を転がって服に燃え移った火を消す。


「無事か!」

「問題ねえよ」

「こっちもだ」


服に付いた雑草や土を払い落しながら3人が立ち上がる。

しかし、そこへすかさず何者かが襲い掛かってくる。


「うわっと」


咄嗟に反応して剣撃を躱し、返す刀で片手剣を相手の脇腹に叩きこむカナタ。


「まったく。いきなり何するんだっての」

「ぐへぇっ!」


カナタは相手の腹に突き刺した刃を手首を捻って抉る。

その姿は、屋敷の中で最初に襲ってきた連中と同じく顔を布で隠していた。


「なんだ。屋敷の外にもまだいたのか?」

「ったく。人が苦労して逃げて来たってのに面倒掛けてくれるぜ」


ヤモックとレジエトも武器を取り周囲へと視線を走らせる。

敵の数は20人程度、数は多いが白覆面に比べれば圧力を感じない。


「マジかよ。流石に今この人数は相手はちょっとキツイくないか?」

「泣き言言うなよ。言っても敵の数は減らないんだから」

「そうそう。死にたくないなら殺るしかないってね」


言いながらカナタは倒した相手の腹部から剣を引き抜いて目の前の敵に向ける。

3人ともここまで逃げるのに随分と体力を消耗した。

いくら彼等の腕が立つと言っても彼等とて人間であり、体力には限界がある。

今戦ってこの場を切り抜けるのは不可能ではないにしろ難しい所である。


「あれ?これって・・・・」


敵を倒すべく相手の布陣を確認した時、カナタは目の前の敵が何かを取り囲むように布陣している事に気付く。

その事が気になって彼らの包囲の中心へと素早く視線を移動させる。


「あっ」

「どうしたカナタ?」

「何かあったのか?」


思わず声を上げたカナタに釣られてレジエトとヤモックもカナタの視線の先へと目を向ける。

そこには、この街の兵士達の長であるサマーニが全身血塗れで片膝をついていた。


「おまえ・・・たちは・・・」


まだ微かに意識がある様子のサマーニが虚ろな目でカナタ達の方を見る。

なんとか生きてはいるが、その体は全身の至る所を斬りつけられており既に満身創痍。

もう武器を取って戦う事も、立ち上がる事も出来ない状態だ。


「あらら、随分派手にやられたみたいだね」

「うる・・・さい」


カナタの言葉に虚勢を張っては見るが、今の姿を見てしまっては何の迫力も感じない。

放っておけばすぐに的に殺されるか、そうでなくても失血で命を落とすだろう。


「どうするよ?」

「俺達だけなら逃げられる可能性もあるが」


この局面でサマーニを助けてやる理由はカナタ達にはない。

もしサマーニが死んだとしてもそれは自分の身を守れなかった彼の責任である。

それはサマーニ自身も分かっているのでこちらに助けを求めたりはしない。


「このおっさんを助けてやる義理はないな。だけどまだ屋敷の中にいるかもしれないレティス様達が、万が一にもここを通らないとは限らない」

「それは・・・」

「そう言えなくもないな」


カナタの言葉に苦笑を浮かべるレジエトとヤモック。

どうやら3人がここで取るべき行動は決まった様だ。


「だから邪魔になりそうな連中は全部排除する!」


そう言ってカナタ達は目の前の敵に向かって襲い掛かる。


「くそっ!あと一歩でサマーニにトドメが刺せるのに!」

「中の連中は何をやってるんだ!」


突如現れたカナタ達に敵は動揺しながらもカナタ達に応戦する。

燃え上がる屋敷の前で剣がぶつかり合う音が響き渡る。


「くぅ~っ!やっぱこの連戦はキッツイなぁ~!」

「愚痴ってる暇があったら手を動かせ。死ぬぞ」

「駄目だ。こっちはもう矢が切れた」


空になった矢筒を敵に投げつけて、レジエトが腰の短剣を構える。

体力の化け物であるカナタはまだなんとか行けるが、レジエトとヤモックは疲労の色が濃くそろそろ体力の限界が近そうだ。


(そろそろマズイか)


このままだと相手の数に押し切られてやられる。

その時、敵の一団に対して横から物凄い勢いで突っ込んでくる1つの影。


「でぇええやあぁあああ!」

「ぐはぁああっ!」


敵の1人に飛び掛かるなり、斬りつけたその影が炎に照らし出される。


「お待たせ!カナタくん」

「サロネ!ってことは!」


すぐにサロネが走ってきた方向へカナタ達が目を向けると、レティス、リルル、バネッサ、テーラ、ダスターの5人の姿。


「無事だったみだいっすね」

「まあ簡単に死ぬようなタマじゃないと思ってたけど」


そう言ってカナタに笑顔を向けるテーラとダスター。

そんな2人とは対照的に、不満そうな顔をしたバネッサが大声を張り上げる。


「何だらしない顔してるレジエト!ヤモック!敵は目の前だぞ!」

「そりゃないぜリーダー」

「俺達もうヘトヘトなんだけど」


容赦のないバネッサの言葉に愚痴を零しながらも、2人の目に活力が戻る。

2人の檄を飛ばしたバネッサの後、彼女の後ろからレティスとリルルがカナタに向かって叫ぶ。


「カナタさん!私達はもう大丈夫です!」

「だからそんな連中早くやっつけてしまいなさい!」


2人の声を聞いて、カナタの体の奥底から熱と共にが湧き上がる。

今なら1人でも目の前の連中に負ける気がしない。


「だったらすぐに片付けようか!!」


力を取り戻したカナタ達3人に圧倒されて、敵の動きが止まる。


「なんだかまずくないか?」

「いや、しかしだな」


戦況が不利に傾きかけていると察した敵に動揺が走る中、彼らにとってさらに状況を不利にする人物が背後から現れる。


「お前達。俺の事を忘れてないか?」

『っ!』


背後から聞こえた声に慌てて飛び退く敵兵の前に、金髪の兵士が双剣を手に立っていた。


「リシッド隊長!」

「無事でしたか!」


リシッドの無事にサロネやレティス達が喜びの声を上げる。

これで全員が無事に生きて脱出する事が出来た。

ただ、そんな中でカナタだけは不満の表情を浮かべる。


「なんだよ。死んでなかったのかよ」

「この程度で死んでいたら聖女の護衛は務まらん」

「その割には随分とボロボロみたいだけど?」

「うるさい。貴様には関係ない事だ」

「無理するなって、弱ってるヤツはそこで座って見学してろよ」

「ふざけるな。俺はまだ全然戦える」

「強がるなよ」

「強がってない」

「じゃあ証拠見せろよ」

「いいだろう」


いつもの様にいがみ合った2人が敵を挟んで互いに睨み合う。


「だったらどっちがより多くの敵を倒すか」

「勝負だ!」

『えっ!』


敵も味方も驚きに声を上げる中、カナタとリシッドが敵に向かって飛び掛かる。

数分後、ようやく騒ぎを聞きつけた街の守備隊が屋敷に駆け付けた頃には、その場に残った全ての敵が打ち倒されていた。


その頃、マルコフの館が燃え落ちるのを遠目に見ていたバイカ。

彼女の頬を一筋の涙が伝う。

生き延びた。いや違う。生き残ってしまった。

それも殺そうとしていた相手に情けを掛けられて生かされた。

その事がバイカの胸を締め付け、顔が悔しさと悲しみに歪む。


「うっ、うぅっ、うぅああああああああああああああああああああっ!」


自分達の完全なる敗北を噛み締め、バイカの魂の慟哭が夜空に響き渡る。

結成されてから今日までの長い年月で1度も任務をしくじった事のなかった白蓮衆の歴史に初めて敗北の二文字が刻まれた瞬間だった。


こうして長かった戦いの夜が明ける。

それぞれの心に数々の思いを残して

金曜更新と言いつつ土曜に更新

しかも2週間かかるという体たらく。

みなさんすいません。

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