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第56話 白キ蓮花ハ血ニ染マル

薄暗い廊下で対峙するカナタ達3人と白覆面の一団。

片手剣と短剣を手の中でクルクルと旋回させながら弄び、余裕を見せる目の前の少年。

その姿を前に奮い立つのは全ての白覆面を束ねる者、その証たる白と黒の羽飾りを胸に抱く資格を持つ者。


古くからガノン王国の歴史を陰から支えてきた闇の軍団があった。

王国の治政の邪魔になる者や都合の悪い事実を抹消する為、闇の仕事を任された者達。

名を白蓮衆という。

ガノン王国内にあって、ごく限られた者しかその存在を知らない組織。

その頭目となった者に代々、結成時から受け継がれる白と黒の二枚羽の羽飾り。

この羽飾りにはある意味が込められている。

黒は生涯において決して表に出る事なく王国の影に徹し、死ぬ迄国家を支え続ける使命を表し、白は王国の為にその手をどれだけ血で穢そうとその魂は清廉であり、その正義を永久に保証するというものである。

胸に付けたその羽飾りを抑え、白蓮衆の当代の頭領。

バイカと名付けられた悪鬼は目の前の少年を睨む。


(まさか、たった3人だけで我々をこの場で倒しきるというのか?)


いくら強いとはいえ、その言葉は聞き捨てならない。

それにこちらを舐め切った態度も気に入らない。

白い覆面の下で奥歯をギリッと音が成る程に噛みしめる。

未だかつて自分達を前にして、これだけ舐めた態度で相対した者が果たしていただろうか。


(噂ではこの国の人間ではないという話。ならば王国の事を知らぬは道理だが、とはいえ知らずとも随分と侮られたものだ)


確かに自分達が得ているカナタのここまでの戦績を考えれば、この少年の余裕も頷けなくはない。

なにせ並の兵士が数人がかりでも倒せないような戦闘種の獣人を単独で、それも複数倒すような化け物染みた相手だ。

実際この目で見るまで自分達でさえ報告された内容に対し懐疑的な部分があった。

だが、こうして目に見える結果として見せられれば嫌でも理解できる。

この少年の戦士としての能力は紛れもない本物だ。


(そう考えると血の気の多い連中を先にぶつけたのは正解だったな)


カナタの足元に転がる死体に視線を移しつつそんな事を考える。

相手の力量を推し量る為、ゴロツキ達には生贄になってもらった。

案の定、頭が弱く考えの足りない彼らはその役目を果たした。

彼等が無謀にも挑んだおかげで、カナタの脅威判定を見誤らずに済んだ。


(もっとも、未だその実力の底を見せている様子はないのだがな)


報告にある限り、これまで彼が本気を出して戦ったのは3度。

悪欲三兄弟の長兄ダゴとの戦いと、虎の獣人シュンコウとの2度の戦い。

しかしその3度とも戦いの全てを見ていたものはおらず。

戦闘の詳細な情報は得られずに彼の能力を計るには十分な判断材料にはならなかった。


(決して侮って掛かってよい相手で無いと分かったが、だからといって決して勝てない相手という訳ではない)


だが、どうやればその命に届くのかの道が見えない。

少なくともこれから仕掛ける自分達の心に彼に対する油断はない。

この相手に自分以外が1対1で勝つのはほぼ不可能だと判断。

ならばいつもの様に勝てる手を打って勝利をもぎ取るまで。


(この程度の困難で立ち止まる我々ではないぞ)


そう。困難かどうかは問題ではない。

やらねばならない。どんな手を使っても。

そうやって今まで表沙汰に出来ない困難な任務を数多くこなしてきた。

自分達とてそこいらの一兵卒とは比較にならない程の修羅場を潜ってきたという自負がある。

例え1人で適わないまでも数人がかりで掛かれば討ち果たす事ができるはずだ。

幸い自分の配下に命惜しさに逃げ出す様な者はいない。

皆、そのように教え込まれてきた。


(後は・・・あの2人か)


唯一問題を上げるとするならば、カナタの後ろに控える2人の存在が気掛かりだ。

事前の情報収集でベシュナー領から加わった面子だという事までは突き止めたが、それ以外の情報が全くない。

佇まいから冒険者らしき事は分かるが、冒険者に関する機関のないガノン王国内では素性や経歴を確かめる術もない。

公の場での交戦記録もないので実力の計りようもない。


(その場しのぎのに寄せ集めたと思っていたが、この少年程ではないにしろ、それなりに腕は立つ様子。警戒するに越した事はないか)


仕掛け時を誤ったかもしれない。僅かにそんな後悔が首をもたげる。

相手の実力次第ではこちらの全滅も免れない可能性がある。

元々、本作戦はサマーニとマルコフを抹殺する為に以前から進めていた計画。

そこへ突如、聖女暗殺任務が上乗せする形で舞い込んだ。

話を聞く限りでは雇っていた獣人が仕留め損ねた為、急遽自分達に回したという事だった。


(最初から余所者に任せず我らに任せておけばとも思ったが、これはとんでもない貧乏クジを引いたかもしれないな)


彼らの存在自体がそもそも貧乏くじみたいなものだがそこは考えない。

任務である以上は遂行するまでだ。

とはいえここまでの窮地はバイカが頭目になってから今日まで記憶にない。


(そういえばコイツ等と同じ時期に加わった女が聖女達の方に1人いたな。もしやさっき言っていたおっかない相手というのはあの女の事か)


確かに堅気とは違う雰囲気を纏っていたが、それ程の脅威は感じなかった。

やはり仕掛けるなら相手の事をもっと調べてから仕掛けるべきだったか。

急な任務で仕方のない事とはいえ、これで全滅などになっては目も当てられない。

屋敷突入までは計画通りに進んだのにと思わず舌打ちする。

そんなこちらの気を知ってか知らずか、カナタが口を開く。


「どうした?今更ビビりましたって言っても聞かないよ」


言って振り回していた片手剣の切っ先をピタリと止めて突き付けるカナタ。

口の端を吊り上げて笑うその笑顔が実に憎たらしい。


「いいだろう。ならば先に貴様達から片付けるまでだ」


これ以上は思考するだけ時間の無駄だ。

後は数と力で多少強引にでも圧し潰してすぐにその減らず口をきけないようにしてやると心に決める。


(王国の真の守護者たる我ら白蓮衆を侮った報いをその身で受けるがいい!)


スッと右手を挙げて部下に突撃の合図を下す羽根付き。

直後、両脇を白い影が走り抜け目の前の敵3人に向かって走る。

真白き死兆の風が眼前へと押し寄せる。


「おいでなすったぜ!」

「こっからどうするんだ!」

「どうもこうもないさ。向かってくるんだから叩き潰す!」


言うなりカナタもまた前方に向かって駆け出す。

その後にヤモックがやれやれといった様子で続き、レジエトは腰に下げた矢筒から矢を2本抜き取り、弓に矢を番える。


「しゃあねえ。付き合ってやるか」

「簡単にやられてくれるなよな」

「当然!」


威勢良く返事を返すカナタの目の前に先陣を切って駆け込んでくる白覆面が2人。

剣を低く腰溜めに構えた態勢で飛び込み、カナタに向かって左右から剣を振り抜く。

だが、その刃は目前の標的に触れる事無く空を切る。

左右に走り抜ける刃の上を飛び越え、カナタの体が2人の覆面の間を通り抜ける。

それを見越していたかかの様に間髪入れず背後に控えていた弓兵が矢を放ち、カナタへ目掛けて矢が飛び込む。


「よっと!」


目前に飛び込む矢を慌てるでもなく手にした}短剣ヘンゼルで叩き落し、カナタが2人の覆面の間を通り抜けて廊下に降り立つ。

それと同時にカナタの背後で背中合わせにに隠れる様に飛んでいたヤモックが両手の鎖鎌を背中を向けている2人の白覆面に振り下ろす。


「ウオラァッ!」


ヤモックの振り下ろした2つの刃が2人の頭上へと落ち、顔を覆った白い覆面の横を通って肩口に突き刺さる。


「ぐっ!」

「がっ!」


覆面の下からくぐもった悲鳴が漏れ聞こえ、全身を覆う白装束の上に赤黒いシミを作り出す。

一方、攻撃を仕掛けた側のヤモックの方も苦い顔で舌打ちをする。


「チッ、頭狙ったのに」


かなりうまい奇襲だったと思うのだが、咄嗟に反応した白覆面は首だけを僅かに逸らして致命傷を避けた。

その動きから相手も思っていたより以上にやり手である事が窺える。


「だけど、それじゃ足りねえな!」


直後、ヤモックの攻撃に注意が向いている合間を縫って2人の白覆面の頭頂部を鋭い矢が射抜き、頭が大きく揺らぐと2人の体から力がなくなりその場に倒れ伏す。

敵が倒れたのを確認したレジエトは矢筒に手を伸ばしながら愚痴を零す。


「何やってんだヤモック!一撃で仕留めろ。矢だってそんなに数ねえんだからよ」

「わーってるよボケ!ガタガタ言うな」


悪態をつきながらヤモックは血の付いた鎖鎌を構えなおす。

その後ろではカナタが襲い来る白覆面と刃を交える。


「うっは、中々やるかも」


仲間をやられたにもかかわらず動揺する素振りを見せるどころか、迷いや怯えといった感情さえも一切感じられない鋭い斬撃が次々と襲い掛かる。

両手に持った2種類の刃で斬撃を弾き飛ばしカナタが一歩踏み込む。


「おらよっと!」


右手に持った片手剣を相手の懐へ滑らせ、そのまま相手の腹部を貫く。

抉り込むように刃を捻った瞬間、剣の先から伝わる違和感。

刃を抑え込むように相手の体の中で筋肉が収縮する感覚が剣を伝わってくる。

何かヤバい。背筋をゾワッと寒気が走り咄嗟に片手剣を手放し後ろへと身を離す。

瞬間、片手剣が突き刺さった男の体の中から槍の切っ先が血肉を裂いて飛び出し、カナタへと襲い掛かる。


「マジかっ!」


味方を貫いたままカナタまでもを貫かんと伸びてくる槍の先端に、寸での所で左手に持った}短剣ヘンゼルを振って槍の先を斬り飛ばし辛うじて躱す。

が、予想外の攻撃に対処が遅れ思わず体勢が崩れて踏鞴を踏まされる。

その隙を待っていたとばかりばかりに、目の前で崩れ落ちる白覆面の死体の左右から新たに2人の白覆面が剣を振りかざし攻撃を仕掛ける。


「これで仕留める」

「覚悟!」


両側から迫る白覆面の下から感情のない目がカナタの姿を捉える。


「冗談!そんなので殺られてやるかよ!」


後ろに下がりながらカナタは咄嗟に右手を伸ばす。

自身の体の右手側、手の届く位置にあった客室のドアノブを掴むと思いっきり引き開ける。

勢いよく開かれた黒塗りの木製扉がカナタのすぐを横を通り抜けて右側から迫る白覆面の進路を塞ぐ。


「クッ!」


突然目の前で開かれた扉に対処しきれず右手側の敵がガツンッという大きな音を立てて扉に激突し後ろに大きく仰け反る。

これで2対1という数の不利を崩し、残った方に意識を向ける。

1対1ならば多少体勢が崩れていようとも対処可能だ。

左手側から走り込んできた敵が突き出した剣の切っ先に向かって左足を振り上げ、真下から思い切り蹴り上げる。

強引に上を向かされた剣が白覆面の手を離れ、勢いそのままに天井に突き刺さる。


「っ!」


手から武器を失った白覆面だったがすぐに思考を切り替えると同時に、カナタに掴み掛ろうと襲い掛かってくる。

一見無謀な攻撃。いや、1対1ならば実際無謀でしかない戦法。

だが、目の前の相手の意図がそこにはない事は先程の攻防で理解している。


「死にたがりの相手なんてまともにしてやらないっての。ヤモック!」

「分かってるっての!」


言葉と同時に大きく後ろに背を逸らしたカナタの顔の上を、ヤモックの鎖鎌が伸びて白覆面の首筋を刃が切り裂く。


「ゴフッ」


血を吐いて真っ赤に染まる白い覆面、その下で目の光が濁る。

ヨタヨタと力なく数歩歩いた所で白覆面はバタリと床の上に倒れる。

ドロリとした血が廊下に敷かれた絨毯の上で血溜まりを広げる。

その間にカナタは体勢を立て直し、短剣を構え直す。


「まったく、味方もろともとか、捨て石戦法とか勘弁願いたいね」


思わず愚痴を零すカナタの前で白覆面達の感情のない目がこちらを見る。

自分の命も味方の命も関係なし。敵を殺す為ならばどんな手も使う。

こういった手合いは昔からよく知っている。

かつて自分の前で自爆テロを決行した少年も同じ目をしていた。


(殉教者気取りの狂信者ってところか)


白覆面達の宗教観がどういったものかは知らないが、中身は同じだろう。

結果の為ならば敵味方おかまいなしの単なるイカレ集団だ。

僅かでも相手から余裕を奪い、他の者に仕留めさせる事に繋がると思ったのならば平気で己の身すら捨てる。

己という個の敗北よりも結果としての勝利を欲する戦い方は非常に厄介だ。


(嫌だな~こういう戦い方。凄く・・・嫌いだ)


幾度となく戦い、滅ぼしてきた中東や南米のテロ屋に似たやり口。

自身がその反省を殲滅に当ててきた相手と似た匂いに反吐が出る。

高い理想や信念を持つ者であろうと、最初に教え導いた者が間違っていたならそのまま間違った方向に進み。

聖戦だとか救済だとかクソの役にも立たない理屈を振りかざし、多くの者を傷つけ、喜んでその手を血で染める極大級の災いが出来上がる。

きっと目の前のコイツ等もそういう生き方をしてきたのだろう。

言葉もロクにかわしたわけではないが、分かる。

彼等は、自身が生涯敵対する定めにある類いの人種だと。


「オレ、凄く嫌いなんだよねお前等みたいな奴等がさ!」


折れた槍を捨てて仲間の死体からカナタの片手剣を抜く白覆面とドアに弾かれた白覆面がユラリとこちらへ迫る。

生きているのにその目に生への執着はない。

彼らの頭にあるのは目の前の敵との戦いを生き抜く事ではなくどこかの誰かに教え込まれたこの戦いの場にはない関係のないいつ叶うとも知れぬ理想の実現だけだ。


「そんな死んだ目する程、生きることはつまらないかねぇ。おいしいもの食べるとか、可愛い女の子と遊ぶとか色々あると思うんだけど」


問いかけるカナタの言葉を無視して、白覆面がじわじわと距離を詰める。

そんな風にしか考えられない様に教え込まれた事に僅かな同情を抱きつつ、カナタは小さく息を吐く。


「ま、どうでもいいか」


彼等の理由や事情がどうであれ関係ない。

こちらはこちらで報酬に見合うだけの業務を淡々とこなすだけだ。

金の為、彼女の為、明日も楽しく生きていく為に。

邪魔な眼前の敵を殲滅すべく。カナタは床を蹴り体を前に進める。


「とりあえず、それは返してもらおうかな」


目の前に突き出される片手剣の切っ先に向かって躊躇いなく飛び込み、刃スレスレの位置を通り抜けながら相手の肘を掬い上げる様に短剣を斬りあげて相手の肘から先を斬り落とし、そのまま振り上げた刃を逆手に持ち直して相手の喉元めがけて一気に振り下ろす。

防御も回避も適わず為す術なく喉を貫かれた相手が残った左手でカナタを掴もうと必死に伸ばすが、その手が振れるよりも早くカナタの蹴りが相手の鳩尾にめり込み、その体を後方へと蹴り飛ばす。

後ろに続いていた者をも巻き込んで吹っ飛ぶ白覆面に、さらに追い打ちをかけるようにレジエトの放った矢が転がる白覆面達を襲う。

今の攻防だけで白蓮衆側から7人の命が失われた。


(クッ!ここでは場所が悪いか)


普通の屋敷より広く造られているとはいっても所詮はただの廊下。

一直線に真っ直ぐなだけで逃げ隠れする場所もない。

この様な場所では折角の数の有利を活かす事も難しい。

数が多くともせいぜい同時に攻撃できるのは最大3人が限界。

しかも槍のようにリーチの長い武器では先程倒されたゴロツキ達の様に味方同士互いの動きを阻害する結果になりかねない。

大して相手はレジエトを後衛に置き、ヤモックが中近距離で前衛のカナタのフォロー。

この狭い空間をそれぞれの役割に合わせて有効に使っている。


(このままでは分が悪い。戦いの場をここより広い場所へ移すしかないか)


このまま戦い続けていても犠牲が増えるだけでしかない。

結果の為に命は惜しまないが、結果に結びつかない犠牲など無駄でしかない。

どうせ死ぬならせめて結果に繋がる死でないと勿体ない。

ここにいる白覆面と同等の人間を育て上げるのだってタダでもなければ、ましてや簡単なはずもない。

王国の裏で長い歳月と金をかけ続けてようやくここまでになった人材を投入しておいて簡単に殺されましたでは主に申し訳が立たない。


「全員下がれ」


バイカの言葉に従って白覆面全員の動きが攻撃から後退へと転じる。

当然、その転換で生じた隙を見逃してやるようなカナタではない。

手早く武器を短剣を鞘に納めると、片手剣だけを握りしめて正面にいる相手の退く動きに併せて前に出る。

素早く短剣と片手剣を納めると、足元に転がる剣を2本拾い上げて目の前の敵に向かって思いっきり投げつける。

先頭の白覆面が咄嗟に剣を盾にしてガードし、剣を真上にはね上げる。

防御姿勢を取った事で動きが止まった瞬間を狙い一気に間合いを詰めたカナタは、相手がうかつにも前に出した足を踏み台にしてそのまま相手の体を足場にして駆けあがり白覆面達の頭上へと飛び上がる。


「来るぞ!構えろ!」


こちらが下がる動きに間髪入れず合わせてくるその戦闘能力の高さに舌を巻く。

何から何までこちらの思惑を潰しに掛かってくるあの少年。


「なんて邪魔な奴なんだ」


バイカの視線の先で宙空へ舞い上がったカナタは先程敵が跳ね上げた2本の剣を掴む。

カナタに向けて弓兵が慌てて手に持った弓を引き絞る。


「遅い!」


両手を大きく引いたカナタは体を弓なりに逸らしたかと思うと、両手の剣を弓兵に向かって思い切り投げつける。

弓を構えて両手が塞がった弓兵に防御の術はなく、矢を放った直後に胸を剣に射抜かれて2人の弓兵が崩れ落ちる。

対して、放たれた矢は一直線にカナタへと飛ぶがその身を貫く前に手で掴み取る。


「だが、これならば!」


これで相手は空中で両手が完全に塞がった状態。

後は自由落下で落ちるだけだが、彼の足元には抜き身の剣を持った白覆面がカナタを串刺しにしようと待ち構える。


「突き殺せ!」


バイカの合図で待ち構えていた6人の白覆面達が落ちてきたカナタに向かって一斉に剣を突き出す。

回避不能の一撃を前にしてカナタは不敵に笑い、真下の刃に足を向ける。

直後、カナタの靴が剣の先の上に乗る。

そのまま足の裏を貫くかに思われた刃の先でガチンッと固い音が鳴ったかと思うとカナタの体が再び跳ぶ。


「なんだと!」

「バカなっ!」


足を貫くと思われた刃を弾き返され、目を見開く白覆面を嘲笑いながらカナタが背中の剣を抜く。


「チタンはそうそう抜けないよん」


再び浮かび上がったカナタは天井に剣を突き刺す。

天井に突き刺さった剣を軸にして体を丸めたカナタは、天井を足場に天地逆さまのまま猫の様な姿勢を取る。

自分達の頭上で重力を無視した動きをするカナタに白覆面達は手が出せない。


「そんじゃいくぜ!」

「っ!」


言うなりカナタは剣を抜き天井を蹴って飛ぶ。

天井から通路右側の壁面に向かって飛んだかと思えば、突如軌道が変わって反対側の壁に向かって飛ぶ。

かと思えば再び天井、右側の壁、廊下と左側の壁。

壁に掛かった絵の額縁やカンテラ、ドアノブ、あらゆるものを足場にして、右、上、左、下と長い廊下をまるでピンポン玉の様に跳ね回る。


「くそっ!なんだこれは!」

「早い」

「追いきれない!」


まるで獣、いや獣以上の動きについていけなくなる。

そういった者達を置き去りにしてカナタは白覆面達の中を文字通り縦横無尽に駆け抜け、気が付けば廊下を塞ぐ白覆面の一団の中を通り抜けてバイカの目の前へと迫る。


「お前がコイツ等の頭目だな」

「チィッ!」


ありえない程の短時間、しかも全く予想外の方法で自分の前に辿り着いた少年の動きに戦慄しながらも、咄嗟に剣を抜いて応戦する。

キィンッ!という甲高い音が空気を裂いて、ぶつかり合った互いの刃が火花を散らす。

パワーはほぼ互角。その分勢いのついていたカナタの一撃が相手の剣を上回り体勢を崩す。


「死ね」


相手が後ろに体を逸らす中、腰に下げた片手斧を引き抜き相手に向かって踏み込み、片手斧を振り抜く。

目の前に迫る刃からなんとか逃れようとバイカは弾かれた反動を利用して体を反らす。

脇腹に痛みが走ったかと思うと体の前面を真上に向かって斜めに熱が駆け上がる。


「ぐっ!」


外套の下に着こんでいた鎧をも容易く切り裂いた刃が視界の端で上を向く。


(霊獣級の魔核武器が相手では気休めにもならんか!)


辛うじて致命傷は避けられたがこのままではマズイ。

上を向いた刃が今、下を向けば今度こそ終わる。

一刻も早く退かなければと焦るバイカ。

だが、恐れていた一撃はいつまで経ってもこちらにこない。

それどころか刃は上を向いたまま動きを止めていた。


(一体何が・・・)


動揺を覚えつつもこの隙に一気に身を離すバイカ。

カナタとの間に距離的余裕が出来た所で改めて武器を構え目の前の少年を見る。

その顔はどこかバツが悪そうに視線を逸らし、指で頬を掻いている。


「あ~・・・その・・・なんだ。ごめん」


何故か急に謝罪を述べる少年にバイカは首を傾げる。

意味が分からず自身の姿に目を落とすが、右脇腹から胸元に掛けて服が裂かれ、血が滲んでいるくらいだ。

分からずにいるバイカに向けてカナタが短剣を握った手の人差し指を向ける。

指が向けられた先、切り裂かれ肌が露わになり僅かに膨らんだ胸元を差していた。


「まさか女だとは思わなかった」


そう言ってチラリと視線を向けてきたカナタに、バイカは初めて白蓮衆の長としてではなく、1人の人間として心の底からの怒りを覚える。


(女だからと手心を加えられた。この私が!)


こんな屈辱は初めてだった。

女である事等とうの昔に捨て1人の戦士として今日まで生きて来た。

誰よりも武芸に優れ、誰よりも知恵をつけ、誰よりも殺してきた。

その実績を見止められ当代の頭領にまで上り詰めた自分を、女だからと目の前の少年は手心を加えた。

許せるはずなどない。


「こんな・・・侮辱。許さない」


怒りに震える手で頭首の証、白と黒の羽飾りを手で剥ぎ取ったバイカは、切り裂かれた外套を脱ぎ去る。

と同時に、顔を隠していた覆面が剥がれ落ちてバイカの素顔が晒される。

ショートカットの茶髪に少し幼さを残した顔、小奇麗な顔に似合わぬ鋭い目つきの女性。

その手に握り締めたした羽飾りを前に向け、彼女は言葉を紡ぐ。


「羽ばたけ、死翼剣ジャルギィ」


バイカの声に応え、羽飾りが光を放ったかと思うと手にしていた羽飾りが巨大化し、大きなブーメランの様な形状へと変化する。

白蓮衆の頭首が代々受け継ぐ証であり、殺戮級(マスカリードクラス)魔核武器。

『死翼剣ジャルギィ』

王国北部の危険地帯に生息するキルギィと呼ばれる獰猛な魔獣の魔核から作られた強力な範囲攻撃が可能。

狭い廊下では味方を無駄に傷つけると思って使わないようにしていた武器を手にバイカは目の前の少年を睨む。


「今の一撃で殺さなかった事を後悔しろ」

「それは無理。女子供は無闇に斬らない主義だから」

「ならば死ね」

「それも無理。まだ仕事の途中だからね。だから決めたよ捻じ伏せるってね」


言ってカナタは後ろに迫っていた白覆面を素早く斬り伏せて前を向く。


「そんじゃ、第2ラウンドいってみようか」


長らくお待たせしてすいませんでした。

途中体調不良があったりとか、

自分の納得のいく展開が書けなくてつまりました。

今後はペースを戻せると思います。


余談ですが、こっちと並行してもう一本書き始めました。

ダークファンタジー的なものを考えてます。

バトルは少なめのマフィア物になります。


暗黒街の烏と呼ばれた男と精霊術師

http://ncode.syosetu.com/n8610dp/

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