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第55話 血染メノ華

リシッドとヨルキがマルコフ屋敷3階客間にて開戦したのと丁度同じ頃、カナタ達もまた屋敷2階廊下にて敵と鉢合わせていた。

廊下に所々吊るされたカンテラの明かりが廊下で睨み合う両者の姿を映し出す。

カナタ達を見て足を止めた賊の一団は、何やら小声で相談を始める。


「オイ、作戦前に言ってたのってコイツじゃないか?」

「ああ、このガキだな。間違いない」

「おいおい、冗談だろ。本当にこんなガキが強いっていうのか?」


事前に相手についてある程度の話を聞いているとはいえ、やはり信じられない。

むしろ実際にカナタを見てその情報が間違いじゃないかという疑念が浮かぶ。

そこそこの武器を身に着けている様だが、それを扱うカナタは自分達と比べると体の線は細く華奢な印象を受けざる負えない。

銃火器の様な指先の動き1つで簡単に他者を殺傷できる道具が普及していないこの世界において、一部例外を除けば戦闘能力とはつまり物理的な力の強さを指す。

そして力の強さとはつまるところ筋肉の総量。つまり体の大きい者程強いというのが多くの者が考える強さの基準だ。

もちろんカナタ達の前に立っている賊連中とてその例に漏れない。


「こんなガキにやられるなんて信じられないな、本当は大した事ないんじゃないのか?」

「大方負けた連中がプライドを守る為に話を盛ったんだろうぜ」

「だな。あんなヒョロっちい奴なんて俺1人でも十分だぜ」


想像力の乏しい連中はカナタの外見だけでを見て先の情報が間違いだと断じる。

リシッドの様な王国兵士ならばいざ知らず。防具もロクに着けてない少年1人を脅威だと口で言われて信じるのは難しい。

相手が魔術師等の超常の力を扱う存在だというならまだ納得できるが、今回の相手はそういった風でもない。

おまけにカナタからは強者特有の圧も感じない。これで信じろというのは流石に無理がある。

相手の実力を確かめもしない内から、カナタが大した相手ではないと決めつけた彼らはニタリと笑って武器を構える。

いくら顔を隠しても中身は所詮、金持ちに寄生して生きるしか能のないおつむの弱いゴロツキである。

釘を刺された理由を自分で考察し理解する様な知力は持ち合わせていない。

そんな中、相手側の会話を漏れ聞いたカナタはキョトンとした表情をしている。


「ねえ、なんかアイツ等俺の事知ってるみたいなんだけど・・・」

「そうみたいだな。何か心当たりあるか?」


何気なく尋ねたヤモックの言葉に少しだけ考え込むカナタ。


「う~ん・・・。直近のところだと今日の昼間ぶっ飛ばした連中かな」

「はぁっ!マジで心当たりあるのかよ!」

「ちょっと待て。昼間?そんな話聞いてないぞ」


カナタの口から出た思いがけぬ答えに2人は信じられないと言った顔をする。

まさかそんな直近のタイミングで揉め事を起こしているとは思ってもなかった。


「いや、俺は別にそんなつもりなかったんだけどリルルがやれって言うからさ」

「リルルってあのちっこい方の聖女様か!」

「だからってぶっ飛ばすかよ普通!」


ギャアギャアと揉め始める3人を前にして、賊の一団の間に苛立ちが見え始める。

相手が強者ならともかく自分より弱そうな相手に舐められるのはただでさえ上我慢ならないのに、自分達がいるのを知りながら欠片程の緊張感も見せないカナタ達の態度はますます相手の神経を逆撫でする。


「なんなんだアイツ等の態度はふざけやがって!」

「俺らを舐めたらどうなるか思い知らせてやる!」


賊の中でも特に気の短い連中の怒りが、瞬間湯沸かし器の如く一気に沸点まで上昇し、似た様な感性をもつ者達の間に伝播する。

怒りに駆られた者達がすぐにでも襲い掛かろうと身を前に乗り出す。

それを見咎めた数人の者が間に入って止めようとする。


「よせ。勝手な真似してしくじったらどうする」

「何言ってんだ。あんな奴らにビビリ過ぎなんだよ!」

「それによく見てみろよあの連中。後ろの男以外は痩せガキとゴブリンみたいな小男しかいないんだぜ。楽勝だろ」

「こっちは20人以上いるんだ。心配しなくてもすぐに片が付く」


根拠のない自信に突き動かされた者達が、その闘争心に火を灯す。

対して話を聞いていたカナタ達の方はというと不満を顔に張り付けている。


「なんか今凄い馬鹿にされた気がするんだが」

「奇遇だな。俺もだ」

「そうか?俺はそうでもないが・・・」


レジエトが不用意に放ったその言葉に、カナタとヤモックがジト目を向ける。

そこからしばらくブーブーと文句を垂れる2人にレジエトはただただ引き攣った笑みを返す。


「もう限界だ。俺は行くぜ」

「ああ、あんな奴らすぐに捻り潰してやる!」

「待て、勝手な真似をするな!」

「うるせえな。心配ならお前らはそこであの覆面共が来るのを待ってろ」

「その間に俺達が手柄を頂くがな!」

「いくぞっ!」


勢い勇んだ数名がカナタ達に向かって群れの中から飛び出す。

さして広くない廊下を一直線に突っ込んでくる敵を前にしたカナタは、悠然と戦闘態勢へと移行する。


「とりあえず邪魔だから片付けようか」

「そうだな。このまま廊下を塞がれたんじゃリーダー達と合流できないしな」

「数が多いのが少々厄介だが、まあ問題にはならんか」


言って矢筒から矢を取り出すレジエトと鎖鎌を構えるヤモック。

カナタは武器には手を付けず素手のまま迫る敵の一団に向かって踏み出す。


「とりあえず先に行くから2人は適当についてきなよ」

「分かった」

「んじゃ、任せるぜ」


2人の返事を聞きカナタは小さく頷くと、突っ込んできた敵に向かって走り出す。

一気に両者の距離が縮まる中、敵は隊列を組み換えて廊下一杯に広がる形を取り3人が並走する様に足並みを揃える。

あからさまな3対1の構図。これで部屋に逃げ込む以外に廊下の上に逃げ道はなくなった。


「逃げ場はねえぞ!死ねやオラァッ!」


カナタが間合いに入ると同時に、中央を走ってきた男が大声を張り上げてか刃を振り下ろす。

瞬間、カナタの体が急加速して男の剣の軌道のさらに内側へと侵入する。


「うるさいよ」

「っ!?」


相手の懐に飛び込んだカナタは腰の短剣(ヘンゼル)を引き抜き、相手の喉笛を即座に掻き切る。


「ごほっ」


血を吐き白目を剥いて崩れ落ちる男の体を壁にして左手側の相手から姿を隠すと、そのまま残った右側の相手に狙いを定める。


「クソッ!よくもっ!」


怒りに任せて突っ込んでくる敵が握った剣をカナタに向かって横薙ぎに振るう。

懐に飛び込む刃の動きに併せてカナタは右膝を繰り出し、その上に右肘を振り下ろす。


 バギッ!


アリゲーターの牙が獲物を噛み砕くように、肘と膝が上下から剣を挟み込み鋼の剣を真ん中でへし折る。


「なっ!」


目の前で折れた剣の先が宙を舞うのを見て男が驚きに目を見開く。

その驚きの合間を縫うようにカナタの手に持った短剣が懐へと滑り、男の胸板を正面から突き刺し心臓を抉る。

何が起こったのかを相手が理解するよりも早く意識は肉体から剥離する。

抜け殻になった肉体だけが残りカナタの足下に崩れ落ちる。


「うぁああああああっ!」


背後から雄叫びが上がったかと思うと、残った1人が剣を手に突っ込んでくる。

相手の攻撃を落ち着いた表情のまま見極めたカナタは、落下してきた折れた剣の先を掴み取ると、相手に向かって投げつける。


「がっ!」


空を切って真っ直ぐに飛んだ刃は男の右肩を正確に捉え、突き刺さる。

痛みに相手が怯んで体勢が崩れた所へ、カナタが間髪入れずに飛び込み相手の胸に掌打を打ち込む。


「ごほっ!」


カナタの体格からは想像できない程の強い衝撃をもって後方へ突き飛ばされた男は壁に叩きつけられ視界が明滅する。

敵が身動き取れずにいる間に、カナタは足元に転がっていた最初に倒した男の遺体から剣を取り上げるとそのまま一気に踏み込んで男を突き刺し、壁に張り付けにする。


「ぐっがっ!」


痛みに悶絶し、もがく男が救いを求める様に震えながら手を伸ばす。

一気に喉元を駆け上がった血液が口の端から零れ、顔を覆う布を真っ赤に染める。

そのまま少しの間を置いて男の男の手が力なくダラリと垂れ下がる。

目から光がなくなった男の体が壁に寄りかかったのを見届けた後、カナタは視線を廊下の先へと向ける。


「さて、次はどいつかな?」


手に着いた血を払いながらカナタが微笑みと共に問いかける。

その姿はさながら絵物語で語られる悪魔か死神に見えた。


「なんて事だ!」

「そんな、まさか一瞬で・・・」


ほんの数秒にも満たない時間で3人を瞬殺して見せた目の前の少年に、前に進み出ていた賊共は畏怖する。

正直何が起こったのかはほとんど分からなかった。

だが、瞬く間に転がった3つの死体が、カナタがやった事を教えてくれる。

多少は強い可能性を考えなかった訳ではないが、まさかこれほどとは正直思っていなかった。


「おい、どうすんだよ」

「どうするって、やるしかねえだろ!」

「慌てるな。3人だから駄目だったんだ。落ち着いて数人で掛かれば」


狼狽しながらもなんとか迎え撃とうとする敵の一団に対し、カナタは足元に落ちた剣を拾い上げて肩に乗せる。


「来ないならこっちから行くよん」

「ちょっ待っ!」


狼狽する相手を無視してカナタは廊下を一直線に走り出す。


「くそっ!応戦するぞ!奴を近づけるな!」

「お、おうっ!」

「これなら大丈夫だろ!」


槍を構えた3人が前に出て、その後衛として剣を持った3人がつく。

狭い廊下に横並び2列の6人体制でカナタを迎え撃つ男達。


「残念。それじゃ俺は殺れないよっ!」


カナタは手に持った剣を軽く持ち上げると、槍投げの用量でもって投擲する。

放物線を描いて飛んだ剣は敵の目の前で床に突き刺さる。


「ハハッ!ビビッて手元でも狂ったか?」


隠した顔の下で嘲笑を浮かべる男達の前にカナタは速度を落とす事無く猛然と突っ込む。


「今だ!突き殺せ!」


誰かの掛け声を合図に3本の槍が走り込んできたカナタへ向かって一斉に伸びる。

だが、その先端はカナタの体に触れる事無く空を切り、突き出された槍の上を一筋の影が疾る。


「どこを狙ってるんだかね」


槍先を飛び越えたカナタが空中を飛びながら男達に迫る。


「バカが!これで逃げ場はないぞ!」


一度飛んでしまえば羽でもない限り空中で方向転換は不可能。

無防備になった着地の瞬間を狙えば勝てる。そう考えて剣を構える後衛3人。

しかし、そんな彼らの思惑は目の前で見事に打ち砕かれる。


「よっと」


カナタは空中で僅かに姿勢を変えると、槍と槍との間に突き立つ何かを踏みつけてそこからさらに跳躍する。


「何っ!」

「バカなっ!」


予想外の動きでもって自分達の頭上を飛び越えていくカナタの姿を呆然と見上げる6人の男達。

カナタが踏み台にしたのは先程男達の前に投げ込み地面に突き刺さした剣の鍔。

まさかそんな小さな足場に使うとは誰も思っていなかった。


(ここまで読み切った上で、さっき剣を投げていたのか)


その考えが脳裏を過ぎった途端、背筋をゾワッと寒気が這い上がる。

まるで相手の掌の上で踊らされている様だ。


「今更後悔しても許してやんない」


恐ろし気に見上げてくる敵連中を見下ろしながら、カナタは空中で背に下げた剣を引き抜くと相手の背後に降り立ち後衛3人の背中を容赦なく斬りつける。

短い悲鳴を上げて次々と男達が崩れ落ちる。

背後から上がった悲鳴に、身を竦ませながら前衛の槍使い達が振り返ろうと槍を抱えたまま身を捻る。

だが、槍が何かにぶつかって振り返る事が出来ない。


「おい、何やってんだ!邪魔だからどけ!」

「そっちこそ!」

「くそっ!つっかえて回らんぞ!」


男達の意思に反して、彼らの手に持つ槍が隣の仲間にぶつかったり、壁につっかえて振り返る事が出来ない。

焦る彼らを見てカナタが邪悪に口の端を歪める。


「これだけ狭い廊下で槍みたいな長物を横回転させるとどうなるか、考えれば子供でも分かると思うけどね」


嘲笑の笑みを浮かべるカナタに男達は顔を隠す布の下で顔面蒼白になる。

目の前の存在は少年の姿をした別の何かであり、到底自分達の力の及ぶような相手ではなかったのだ今更ながらに思い至る。


「まっ待て!待ってくれ!」

「話せば分かる!」

「俺達が悪かった」


降伏の意思を示し必死に助命を願い乞う男達。

そんな彼らの姿を見てカナタは僅かに目を細める。


「大丈夫だよ。別に俺、お宅等にそういうの求めてないから」

「へっ?」


呆けた声を上げる男の前で、カナタが抜き身の剣を真横に振るう。

ヒュンッと風切り音が近くで鳴ったのを最後に男達の意識は終わりを迎える。

3人瞬く間に斬り伏せたカナタは血の付いた剣を軽く振って血を払う。

一連の様子を眺めていた残りの賊連中があまりの事に声を震わせながら後退る。


「なんてヤツだ」

「だから言ったんだ。先走るなと・・・」

「しかし、どうする。このままだとこっちに来てしまうぞ!」

「俺は嫌だぜ。あんな得体の知れない奴の相手なんて」

「俺だって願い下げだ」


目の前で仲間が辿った末路、自分だけは同じ目に遭うまいとあってたまるかと恐慌状態に陥った彼らの足は自然と足がカナタから離れようと動く。

怯える彼らの背後に新たな人の気配。

それに気づいてハッとなった彼らの背後には到着を待ちわびていた白覆面の一団。


「すまない。待たせてしまったな」

「おお、使者殿!」


羽飾りを付けた白覆面の者の言葉に僅かな安堵の空気が広がる。

得体の知れなさはカナタと同列ではあるが、こちらは心強い味方である。

彼等が来たのならば目の前のバケモノ染みた少年にも勝てるかもしれないという淡い期待が男共の間に広がる。


「少し数が減ったようだが?」

「すみません使者殿。お申し付けに背いて先走った何人かが奴の餌食に・・・」


残った者を代表して答えた男の言葉に、羽飾りを付けた覆面が僅かに俯く。


「そうか。私達がもっと早く来られれば良かったんだがな」

「滅相もありません。あれは言いつけを破った奴らの自業自得です。されど・・・」


言い淀む男の言葉に、羽飾りをつけた白覆面がその言葉の先を察する。


「分かっている。あのような者が相手と知って油断しないでいるのは難しいだろう。それに実力が予想以上だったのも。ともあれ我々が来たからにはもう心配ない。後は我等で引き受けるので君達は他の者達のサポートに回ってくれ」

「はいっ!」

「かしこまりました」


羽飾りの覆面の言う事に従い、賊共が逃げる様にその場から立ち去る。

そうして残されたのはカナタと、羽飾りを付けた者も含め白覆面が20人程。


「そういう訳だ。ここからは私達が相手をしよう」


突然現れて我が物顔で仕切りだした白覆面にカナタは訝し気な視線を向ける。

顔を隠していてよくは分からないが、放つ雰囲気は先程の連中とは別物だ。


(これは少し気合を入れ直してかかった方がいいかな)


両手に持った片手剣と短剣を握りなおし、臨戦態勢を取る。


「どうでもいいけど。アンタ達はどこの誰?」

「我々が誰か等、君が知る必要のない事だ」

「そういう事言われると無性に知りたくなっちゃうカナタくんなんだよね」


不敵に笑って見せたカナタを見て、覆面の間から覗く目が鋭い光を放つ。


「我々に口を割らせると?キミには出来るとは思えないが」

「そうかな?なら試してみようか」

「いや、結構。何故ならキミは今から死ぬからだ」


先頭に立つ羽飾りを付けた覆面がそう言った瞬間、覆面達の背後から数本の矢が一斉に飛び出す。

会話で注意を引いた隙を狙った上での、不意を突く一撃。

通常であれば反応出来ずに射抜かれて決着となるのだが、


「下手糞。そんな見え見えの手に引っかかる訳ないだろう」


カナタは落ち着いた様子で剣を左右に振って身に迫った矢だけを叩き落す。

砕けて地面に散らばった矢の破片が足下に転がる。


(ほう、これを読み切るとは噂通り大した化け物だ。だが・・・)


あわよくば初撃でカナタを始末できればと思ったが、それはどうやら簡単ではなさそうだ。

それでも一応の所問題はない。覆面達がこの場にいる本来の目的はあくまでカナタ達の足止めなのだから、カナタをここに釘付けに出来ればそれでいい。


(最悪、味方から数名の犠牲は止む無しだがそれも仕方あるまい)


彼等覆面の一団にとって今回達成すべきはあくまで聖女2人の抹殺。

その為に最大の障害となるであろうリシッドとカナタさえ抑えておけば、他の者でも十分に目的は達成できると踏んでいる。なので問題ない。

彼等の意図を読み取ってか、カナタの表情が変わる。


「随分と余裕みたいだけど、何か企んでる?」

「いや、どうだろうな」

「ああ、もしかして俺をここで足止めしてれば聖女様を殺れるとか思ってる?」

「・・・・・」


こちらの顔も見ずに思惑を読み取ってくるカナタに、白面達は小さく息を呑む。

目の前の少年は戦闘能力が高いだけでなく、どうやらこちらの思惑を見抜けるだけの頭も回るらしい。

無言を貫く白面達だが、カナタにはその反応だけで十分だった。


「やっぱりそうか。という事はこの分だとリシッドも足止めを喰らってる感じなのかな」

「・・・だったら何だと言うんだ?」

「いや、可哀想な奴等だなと思ってね」

「可哀想だと。それはどういう意味だ」


僅かに動きに動揺を見せる白覆面達相手に、カナタは饒舌に語って聞かせる。


「言葉通りの意味だよ。俺とリシッドの足を止めてれば聖女様を殺せると思ったんだろうけどその考えは大きな間違いだ」

「何?」

「アンタ等がどこの誰の差し金でここへ来たかは知らないが、情報が古かったみたいだな。2人の護衛についている王国兵士は3人とも腕利きだし、もう1人とっておきを付けてるからね」


もう1人いるという単語に、羽飾りの白覆面の心に僅かな波紋が広がる。


「とっておきだと?」

「そう。もしかしたら俺やリシッドよりもおっかないかもよ」


ハッタリかとも思ったが、どうにも嫌な胸騒ぎがする。

もしこの少年の言っている事が真実だとするなら、聖女襲撃に向かって連中だけでは返り討ちに遭う可能性が高い。


(どうする。数人を加勢に向かわせるか?強引に押し込んで一気に片付けるか)


即座に最善手を打つベく思考を巡らせる白覆面。

一瞬だけ思考に意識を傾けた瞬間、眼前に矢が飛び込んでくる。


「っ!?」


咄嗟に身を逸らして矢を躱すが数人が矢の直撃を受け、その白い装束を赤く染める。


「あ~あ、他の事なんか考えてるからそんな事になる」

「くっ!卑怯な」

「イヤイヤ、アンタ等にだけはそんな事を言われたくないんだけど・・・」


思わぬ相手の反応に思わず苦笑いを浮かべながらカナタが前に出る。

その後ろから矢を番えたレジエトとヤモックが闇の中から姿を現す。


「まあいいや。とにかくアンタ達はこっちを足止めしたつもりか知らないけど、本当にここから離れられなくなったのは果たしてどっちかな?」


不敵な笑みを浮かべるカナタに白覆面達は思わず後退る。


「さあ、必死に頑張ろうか。生きてここから離れたいならね」



  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  



同じ頃、聖女2人がいる部屋の前には敵が押し寄せていた。

通路の両側に一杯に広がった敵を前にサロネは溜息を吐く。


「はぁ、これは多い。多いよ」

「ちょっと・・・マズイっすかね」


左右それぞれに20人程の人数が狭い廊下にひしめき合っている。

対してこちらは兵士3人に傭兵1人、聖女2人は部屋の中に隠れてもらっている。


「こんな事なら2階の部屋じゃなくて1階の部屋にしてもらえばよかった」

「確かに、それならもう少しはやりようがあったでしょうが」


土精霊ドノウから授かった精霊武器(スピリットアームズ)の力を使えばこの程度、物の数でもないのだがいかんせん場所が悪い。

大地の力を借り受けるという能力の都合上、建物の2階など地面に接していない状況では能力の使用が出来ない。

同様の理由で聖女2人の神霊晶術「地霊招来」も発動不可。


「今すぐ窓から飛び降りるって手もあるけど・・・」

「冗談でしょ。下に敵が待ち構えてたら着地を狙われかねない。却下」

「ですよね~」


テーラの否定の言葉に、サロネはがっくりと項垂れる。


「せめて隊長か、カナタくんがいてくれればな」

「そりゃ多分無理っすね。この分だと向こうも抑えられてるっすよ」

「やっぱりそうだよね」

「無い物ねだりはそのくらいにして2人共、目の前の相手に集中しなさい!気を抜いたら死ぬわよ」

「分かってるっすよ。テーラの姉御」


サロネ達3人が剣を構え周囲の敵兵に睨みを効かせる中、悠然と敵の一団に向かって歩き出す1人の人物。


「どこの誰かは知らないが、運が悪かったようだな」


腰の鞘から剣を引き抜いたバネッサが悠然と立つ。

兵士に混じっていながら1人妖艶な美しさを放つその姿に賊共が困惑の表情を浮かべる。


「なんだこの女は?」

「確か聖女一行に同行している女がいたって話だったが・・・」

「へへっ、中々にいい女じゃねえか」

「なんだ、俺達の相手をしてくれるってのか?」


厭らしい笑みを浮かべてにじり寄る男共、その邪な視線を受けて表情一つ変えずにバネッサは手にした剣の切っ先を敵方へと向ける。


「話に聞いていた獣人ではないようだが、聖女を狙っている様だし契約に基づいてこれから殲滅を開始するが構わないか?」

「あっ、えっと・・その・・・それはもちろんお願いしたいのですが」

「了解した。ならばこちらは私1人で引き受ける」


事もなげに言い放つバネッサに3人は目を丸くする。


「えっ!1人?」

「それは流石にいくらなんでも・・・」


バネッサの実力のほどを知らないサロネ達は流石に判断に迷う。

カナタやリシッドが同行を認めたので心配はないとは思うが、その実力が未知数すぎてどう判断したものか答えが出ない。


「心配なら無用だ。それよりも反対側の連中の相手は頼んだぞ」


サロネ達の返事を待たずにバネッサは廊下を埋め尽くす敵の一団へと歩き出す。


「へへ、姉ちゃん。こっちに下るなら今の内だぜ」

「そうしたらベッドの上で可愛がってやるからよ」


ゲスな言葉と卑しく絡みつく視線に真正面から答える。


「私が認めるのは私より強い男だけだ。私が欲しいなら力尽くで組み敷いて見せるんだな」

「いいだろう。だったらお望み通りにしてやるぜぇ!」


3人1組で押し寄せる男共、バネッサは切っ先を相手に向けたまま言葉を紡ぐ。


「カローレ・ロッソ」


言葉の終わりと共に剣の先端が赤い光を纏ったかと思えば、彼女の前方に赤い光の球が飛び前列の男の体に触れる。

接触と同時に、男の体を中心に半径2m程の赤い光のドームが生まれ、すぐに消える。

直後、そのドームのエリア内にいた賊共が苦しみながら次々と倒れ伏す。


「がっ・・・ああ・・・」

「ぐるじぃ・・・だすけ・・・で」

「なっ何だ今のは!一体何があったんだ!」

「こんなの聞いてないぞ!」


苦し気に嗚咽を漏らす仲間の姿に狼狽する男共に向かってバネッサが言い放つ。


「1つ言い忘れていたが私の愛剣ピカロアマンテはとても嫉妬深くてな。私に言い寄る者や触れようとする者に容赦がないからそのつもりでな」

「なっ!」


王国兵士が魔核武器を持っているのは知っていたが、どれも近接戦の基本能力しかないと聞いており、こんな特殊な魔核武装を持っている者がいるとは聞いていなかった。


「話が違うじゃないか」

「こんなの勝てるかよ!」


思わず逃げ腰になる前衛に向かって後衛から声が上がる。


「落ち着け!魔核剣技だとしても連射は出来ないはずだ!」

「次を打つ前に潰せば問題ない!一気に畳みかけろ!」


後ろの者達からの声に押し出されるようにして前衛が倒れた仲間を踏み越えてバネッサへと襲い掛かる。

だが、それすらもバネッサの掌の上でしかない。


「仲間を踏み付けて行くような連中に慈悲は要らないな」


相手の間合いに素早く侵入したバネッサは、仲間の体を踏み付けにする男共の足に連続して鋭い突きを打ち込み足を破壊する。

人の上という不安定な足場でバランスが取れなくなり、転倒した者の背中を一突きにして命を絶つ。

血の付いた剣を振ったバネッサの剣の先がボウッと赤く灯り、付着した血が固まり剥がれ落ちていく。


「どうする?逃げる者は追わないが、向かってくるなら命はないぞ」


バネッサの言葉に圧倒された男達が二の足を踏む。

進もうとする自分の意思に反して心がそれを強く拒否するのだ。


「強いっすね」

「うん。しかも相手を脅すのもウマイ」

「あちらの心配は必要なさそうね」


背中を預けるに足る十分な実力を見せつけたバネッサを頼もしく思いながら、サロネ達は自分達の正面にいる敵に意識を集中する。


「こっちも負けていられない。必ずここを死守するぞ!」

『応!』



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