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第52話 怨嗟ノ向カウ先

カナタ達がマルコフの屋敷にお呼ばれしている頃、コムタッカの町の外れ。

マルコフの商会が所有しているエリアにある無数の倉庫の中、その内の一つに集う不審な者達が居た。


「クッソがぁああああああああ!」


突如、大きな怒鳴り声を上げて1人の男が置いてある木箱の山を蹴りつける。

衝撃に耐えられなかった木箱が壊れ、木片が床に散らばる。


「フゥッ・・・・フゥッ・・・・」

「あ~あ~、何やってんだよったく」

「いい加減に落ち着けよ」


荒々しい男に向かって仲間と思しき者達から窘める様な声が飛ぶ。

それでも男の怒りは納まらないらしく。周囲の物に次々と当たり散らす。

部屋に灯った僅かな光が揺らぎ、怒りに染まる男の顔を照らし出す。

それは先程、カナタ達をサマーニの下まで案内した兵士だった。


「クソッ!クソッ!サマーニの野郎。調子に乗りやがって!何が遅いだ!だったらテメエで迎えに行けってんだゴミクズ!」

「気持ちは分かるが、ひとまず落ち着けって」

「あの野郎がクソだってのはここにいる全員が分かっている事だ」


荒れる男の意思に同調する周囲の男達。

ここに集まっている彼等もまた男と同じくこのコムタッカに常駐する兵士達。

その中でも特にサマーニに対して強い憎しみを持っていたり、ちょっとした不始末でサマーニから厳しい罰則を喰らい恨みを溜め込んでいるいる者達だ。


サマーニという男は真っ直ぐすぎる程に実直な性格で、剣の腕も有り王国への忠誠心も他の者とは比べ物にならない程高い。

ただ厳格に過ぎるきらいがあり、融通が利かず自分と同じだけの誠実さと勤勉さを他者にまで求めてしまう。

自分だけでなく他者にまで厳しい訓練や指導強いるだけでなく、厳格なルールによる締め付けを行ってしまい、結果としてそれらの行いが部下からの不況を買い続け、やがて積もり積もって膨れ上がった部下達の不満は多くの者に憎悪を抱かせるまでに至ってしまった。


「もう我慢の限界だ。これ以上あんなクズ野郎にペコペコするのはまっぴらだ!」

「分かってるっての、だから今日ここにこうして集まったんだろうが」

「今夜だ。今夜こそ必ずヤツを地獄に叩き落してやる」

「分かってるっての、何のために今日まで計画練ったと思ってんだよ」

「そうだぜ。ヤツを殺るのは俺達の悲願だからな」


強い殺意の篭った目で意思を確かめ合う兵士達。

実際過去にも何度か同じ様な計画を立てた事がある。しかし、どれも理由あって実行に移す事無く断念している。

まず実力行使だが、直接的な武力ではサマーニには到底及ばず。成功したとしても少なくない犠牲が出る可能性があった為に断念。

弓による遠距離からの攻撃は、一度外した場合のリスクが高すぎて断念。

毒物等を使う事も考えたが、入手が困難な上に殺せたとしても入手経路から足がつく可能性があった為に断念している。

何をやろうとしても完璧に達成できる見込みが立たずにいたが、それもつい最近までの話。

今回は仲間も多く集め、協力者も心強い後ろ盾も得る事が出来、今までにない程計画は順調に進んでいる。


「今夜だ。今夜すべてが・・・」


拳を握り締めて熱い思いを吐露する兵士の言葉に、同じような思いをもってこの場に集まった兵士達が大きく頷く。

憎しみの下、結束を固める兵士達を倉庫の隅から冷めた目で見詰める者達が居た。


「やる気があるのは結構だが、しっかりと頼むぜ王国兵の兄さん方。意気込みすぎて下手うったりせんでくれよ」


横合いから飛び込んできた声に、兵士達が部屋の隅へと視線を向ける。

そこにいたのは高そうな衣服に高価な装飾品に身を包んだ長身瘦躯の身なりのいい男と、その取り巻きと思しき頭の悪そうな男達。

身なりのいい男の名はグリニ。マルコフの商会でNo.2を務める男であり、兵士達にとっての協力者であり似た様な目的を持つ者だ。

彼の目的は自分の主人であるマルコフの抹殺であり、ある者の仲介により利害の一致した兵士達と今回協力関係を結ぶ事になった。


「以前にもお話した通り今回の件はかなり大がかりなヤマになりますからね。ミスは即命取り。その事を踏まえたうえで行動して頂きたいものですな」

「おまえに言われなくても分かっている!」

「お前達の方こそヘマをするなよな。失敗して困るのはお互い様なんだからな」

「分かっていますとも、少なくともアナタ方よりはね」


厭味ったらしい言い回しをするグリニ。

やる気に水を差された兵士達は不満を隠そうともせずグリニを睨み付ける。

敵意を見せた兵士達の態度に、グリニの取り巻き達が身を乗り出して威嚇する。


「グリニさんに向かって随分な舐めた態度じゃないかお前等」

「王国兵士だからってちょっと態度がデカすぎじゃないのか?アァッ!」

「お前等から先にやっちまうぞゴラァッ!」

「なんだと!この腰巾着共!」

「貴様等の方こそゴロツキの分際で偉そうに!」


さして広くもない狭い倉庫の中で諍い合う2つの勢力。

これから一緒になって悪事に手を染めようというのに、のっけから険悪な雰囲気を醸し出している。

その様な状況に、場に居合わせた者の中でも比較的冷静な者達はこれからの計画を実行するのに不安を覚える。

纏まりなく両者がいがみ合っているところへ倉庫の扉を来訪者が現れる。

首から下を覆う高そうな灰色の外套に身を包み、頭部を白い覆面で覆った一団。

見るからに怪し気な彼らを見て諍い合っていた者達が動きを止める。


「遅くなったな」


たった一言だけを口にすると覆面の一団は倉庫の中を音もなく進んで、2つの勢力の目の前に立つ。


「おお、これはこれは使者殿」

「お待ちしておりましたよ使者殿」


覆面の者達が現れた途端、兵士やグリニ一派はコロッと態度を変え覆面の者達の前に跪く。

それだけでこの場の一番の上位者が誰なのかは一目で理解できる。

傅く男達の前を前にして覆面集団の中で唯一、他とは違い襟元に白と黒の2色の羽飾りを付けた1人が前に出ると、男達に向かって問いかける。


「支度の方は出来ているか」

「はい。言われた通り万端に整えてございます」

「こちらの方も抜かりはございません」


リーダーと思しき羽飾りの覆面は上位者らしい不遜な態度で抑揚に頷く。

覆面の者達がこの場の者達に与えた役割、兵士達にはここ数日のサマーニの行動予定の把握と今回の件に参加する者を集める事。

グリニ達には作戦に使用する薬物や毒物、それに武器や身元がバレる事を防ぐ為の変装道具一式を揃える事を命じてあった。


「そうか。ご苦労だったな。こちらも先程奴らの今夜の寝床は突き止めた」

「おお、流石にございますな。して、その場所は?」

「マルコフの屋敷だ」


羽飾りの覆面が語った場所を聞いて、この場に集まった者達がにわかにざわつく。


「なんと!それはなんという僥倖。まさか標的の方が勝手に集まるとは」

「これぞまさに天の思し召しだろう」

「これで後は作戦を実行に移すのみですな」


興奮気味に騒ぐ者達を前に、覆面達は微動だにせず小さく頷く。


「その通りだ。今日まで長く待たせてしまったが今宵奴らめの命を断つ」

『おおっ!』


羽飾りを付けた覆面の者によって長い準備期間が今終わり、作戦決行の命が下る。この瞬間を待っていたと兵士達やグリニ一派が再び頭を下げる。


「ここまでこれたのも全て使者殿の助力のおかげにございます」

「流石は国家の重鎮たるあの御方の使者。見事な手腕でございます」


喜々とした様子で語る兵士やグリニに、覆面は鋭い気配を向ける。


「あまりその話を人前でするな。今回の1件にあの方の名も我らが関与した事も外には決して漏らすな。秘事である事を忘れるな」

「こ、これは・・・考えが至らず失礼いたしました使者殿」


羽飾りを付けた覆面の者から向けられた凄まじい気配と強い口調で放たれた言葉に、グリニは額に汗が滲むほど圧倒され、必死に平伏して謝罪の言葉を述べる。

必死に謝罪するグリニを見下ろし、羽飾りを付けた覆面の者はその強烈な威圧的なを納める。


「分かればよい。ともあれまずは目の前の作戦だ」

「重々に承知しております」

「全て使者殿のお申し付けの通りに」


覆面に対して多くの兵士やグリニ一派が異様な程に敬意を示した所で、集められた兵士側の1人がおずおずと手を上げる。


「あのう。少しよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「今回の作戦で、サマーニとマルコフの2人を討つのは分かるんですが、その・・・」


歯切れ悪く言い淀む男の言葉に、相手の言いたい事を理解した覆面は、右手を前にして男の言葉の先を制する。


「聖女と呼ばれる存在を手に掛ける事が不安か?」

「えっと・・・その、まあそうですね」


思惑を言い当てられた男は少しばかり動揺しながら小さく頷く。


「心配には及ばん。あれは影武者だ。本物はとうの昔に死んでおる」

「えっ!そうなんですか?」

「うむ。我等が主の下に集められた確かな情報だ」


覆面の言葉に男の表情から緊張の色が抜け落ち、落胆とも取れる表情へと変わる。

それでも一応の納得を見せた事で、覆面はその話はそれまでと打ち切る。

勿論、今しがた覆面が語った内容は嘘だ。

カナタ達と共に旅をしているレティスもリルルも両者とも紛れもない本物である。

作戦を前に仏心など出されても何かしら失敗をされては敵わないと、考えておいた嘘で誤魔化した。

とはいえ、何かしらの要因で嘘が露見する事も考えられる。

その時の事も考えて言い含めておく必要がある。

羽飾りを付けた覆面の者は先程質問をした兵士に向かって尋ねる。


「万が一にもし相手が本物の聖女だったとして何の問題がある?」

「えっ?」


覆面の言っていることの意味が理解できず。兵士は目を丸くする。

動揺する相手に反論の余地を与える事無く一方的に喋り続ける。


「我々はあの御方の命を受け王国の未来の為に行動している。それに対し聖女は所詮、聖教会が民衆を扇動する目的で用意した単なる傀儡。卑しい道具に過ぎぬ。王国の未来の為に戦う我等とは目的が違う以上、邪魔になるならば排除せねばなるまい。違うか!」


覆面で顔を覆いつくされているせいで表情こそ分からないがその瞳には真剣な色が宿っており、相手をよく知らない兵士でさえ、それがどの程度本気での発言であるか理解できるほどだった。。


「は、はいっ!仰る通りです」

「フフッ、それでこそ誇り高き王国の兵士。キミに様な兵が居る事を知ればあの方もさぞお喜びになるだろう」

「勿体ないお言葉です!」


恐縮しきりといった様子の兵士の態度を見て、覆面は小さく笑い声を漏らす。

今日ここに至るまで、一度たりとも素顔を見せた事のない彼等覆面の集団。

真っ当な人間ならば、まるで信用する事が出来ない様な恰好の者達は完全にこの集まりの中心を担っている。


勿論、接触した当初は兵士達もグリニ一派も彼らの風貌からいきなり信用する様な事はなかったが、彼らの持ち物に刻まれた紋と持たされた書状が覆面の者達の身元を確かなものとして保証しており、その事と今回の計画のお膳立てをした彼ら自身の恐るべき手腕がここにいる全員を信用させるまでとなっていた。


それから少しの時間、細々とした打ち合わせを済ませた所で羽飾りの覆面が再び、集まった者達を前に高らかに吠える。


「よいか!今宵の我らが標的はコムタッカの兵士長サマーニ、マルコフ商会の主マルコフの。そして聖女を語り王国の民を騙す小娘共とそれに加担する者達、その全てを抹殺する事だ」

『応っ!』

「王国の未来の為にこの者共に天誅を下す!」


船飾りを付けた覆面の者の宣言に、沸き立つ者達。

こうして自分達にとって都合の悪い他者を殺害しようという彼らの悪しき思惑に、王国の未来の為という大義名分が付与される。

その事により作戦決行に及び腰になっていた者達の心から罪の意識は取り除かれ、この集団の結束が高まった。

全てはこの場を支配する覆面達の思惑通りである。


「さて、ではこれより作戦を始めるが、事前に幾つか伝えておくべき事がある」

「何でございましょう使者殿」

「我々ならば今更何があろうと臆したりはしませんよ」

「君達の思いは分かっている。が、大切な話だからこそ改めてだ」

「ハッ!」


覆面の言葉に兵士達は即座に返答する。グリニも文句はないと言った様子だ。


「まず、一般人には絶対に手を出すな。我らの役目はあくまで義の為にある」


これにはグリニ一派のゴロツキ共は最初はかなり難色を示していた、兵士と違って彼らにその様な分別を付けるのは難しい。とはいえ下手な真似をしてグリニから不況を買うのは彼等とて望む所ではないらしく渋々ではあるが受け入れた。


「次に、相手方の人数が少ないとはいえ、いずれも手練れ揃いだ。1人を相手に必ず3人以上で当たれ。人数はこちらが上だからそれを最大限利用しろ。特に護衛隊長のリシッドと、カナタとかいう名の小僧には注意しろ。強敵だから最低でも5~6人以上で当たれ」


羽飾りの覆面の言葉に一同がゴクリと生唾を飲み込む。


「それ程の手練れなのですか?」

「うむ。何せ相手は王国兵士から選び抜かれた精鋭の部隊だからな。だが、数を用いれば圧倒できるだろう。カナタという小僧については素性が分からぬ上に傍目にはそうと見えぬかもしれないが気を付けよ。一応ここに似せ絵を用意したから見ておくと良い」


そう言って懐から取り出した似せ絵を男達の前に広げる。

掲げられた紙に描かれた人物像を見て、グリニの取り巻きの何人かが驚きの声を上げる。


「あっ!このガキは昼間の!」

「知っているのか?」

「へい。昼間に町の外でちょいとやりあったんですが、ガキの癖にとんでもなく強い野郎だったんですよ」

「こっちは6人もいたのに、まるで子ども扱いで掠り傷一つ負わせられなかった」

「しかもあの野郎。まるで本気を出してないみたいだった」


ゴロツキ達の証言で、居並ぶ男達が再びざわつき始める。

だが、覆面達に驚きはない。彼らは情報収集の過程で既にこの事を知っていた。


(事前にこちらに届いていた情報では獣人を単騎で倒す程の手練れだという話だからな、ゴロツキ程度をあしらう等造作もないだろう。となるとやはりここにいる者達では相手にもならないか)


覆面達の考える限り、この作戦を遂行する上でカナタという少年はかなり大きな障害になる可能性が高い。

とはいえ覆面達の標的は彼ではないのだからまともに相手をする必要もない。

最悪、全員が熟練の手練れである覆面達が総出で足止めしてその隙に事を為せばいいと考える。


「慌てるな。もし、その小僧と遭遇した場合はすぐに我々を呼べ、我々が直接相手をする」

「なんと!使者殿達自らが!」

「それならば安心だ」


これでもう恐い物はないという空気が倉庫の内に広がる。

頃合いだろう。そう見て取った羽飾りを付けた覆面の者が号令を発する。


「それでは作戦開始だ。王国の未来の為に!」




  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  



一方その頃、襲撃される事等露程も知らないカナタ達一行は、マルコフの屋敷で歓待を受けていた。


「くっそ~。なんでこんな事にぃいいいい」


ブツブツと不満を漏らすカナタは苛立ちを隠そうともせず、皿に乗った卵料理の上に手に持ったスプーンを突き立てる。

苛立つカナタの視線の先、自身のいるテーブルから離れた場所にはマルコフを始め、レティス、リルル、そしてリシッド隊の面々が同じテーブルを囲んで談笑しているのが映る。

一方のカナタはというと、バネッサ達冒険者組と一緒にレティス達がいる部屋の隣の部屋でテーブルを囲んでいた。


「カリカリすんなよ。ただ隣の部屋ってだけだろ」

「そうだぜ。出された食事は同じなんだし、文句はないだろ」

「文句ない訳ないだろ!むしろ文句しかないよ!」


窘めるヤモックとレジエトの言葉に、耳を貸さず憤慨するカナタ。

このテーブルに案内され柄からもうずっとこの調子である。

流石に面倒くさくなってきたらしくレジエトとヤモックはカナタを無視して、目の前の食事に集中する事にする。


「あんのジジィ~。何故俺を除け者にぃいいいいい」


ギリギリと音がする程に歯を噛みしめ、地獄の底から響いてきそうな恨みの篭った声をあげるカナタを見て、バネッサが可笑しそうに笑う。


「なんだ?そんなに聖女様達と離れるのが不安なのか」

「あん?いや別に不安って訳じゃないけど・・・」

「けど?」


離れてるとはいえ隣の部屋だ。カナタの俊足をもってすれば何か起こったとしても十分に対応できるし、向こうのテーブルにはリシッドだっている。

どの程度信用していいかは謎だが、一応マルコフが雇っている腕利きらしい用心棒達もいるので彼らが裏切らなければ盾代わりにはなるだろう。

なので例え今すぐ襲撃があったとしても、シリウスクラスの敵が出てこない限り、すぐにどうこうという事もないだろう。

では、何故自分はこんなにも落ち着かないのだろうか。


「よく分からないけど、こういう食事の時はいつも同じテーブルで食事してたから・・・その・・・なんとなく?」


自分でも今の心境をうまく表現する言葉が見つからない。

珍しく四苦八苦するカナタの姿を見てバネッサはますますその笑みを深くする。


「相変わらず分かりやすいね」

「ぐっ、それって絶対褒めてないだろ」

「そうでもない」

「そうか?」

「ああ、むしろキミのそういう所に私は好感を持てる」


バネッサの口をついて出た言葉に、スプーンを口に運ぶヤモックとレジエトの手がピタリと止まる。


「リーダーが他人を普通に褒めた・・・だと」

「おいおい、こりゃ天変地異の前触れか」


信じられないと言った顔で顔を見合わせる2人に、バネッサがスッと氷の様に冷たい視線を向ける。


「お前達・・・今、何か言ったか?」

『いいえ、なんでもありません!』


ブンブンと音がする程激しく首を左右に振った2人は、慌てて目の前の皿を掴むと料理を一気に口の中に流し込む。


「まあいい。ところでカナタ。少し別の話をしてもいいか」

「別の話?」

「ああ、さっきの詰所でリシッドがしていた話だ」

「詰所での話って・・・・あっ!」


そこでカナタはバネッサに言いたい事に思い至る。

サマーニに事情を説明する過程でリシッドが語った内容でバネッサ達に関わりがある事というと、聖女が獣人につけ狙われているという件だ。

彼女達を雇い入れる時、断られる事を避ける為、その事実は伏せていた。


「最初の話だとフラープでの領主襲撃の件を考慮した上で、用心の為という話だったと思うんだが?」

「えっと、それは、その~」


必死になって言い訳を考えるが、とてもじゃないがカナタでは彼女を納得させられるような言葉は浮かんでこない。

リシッドと話をして本当は最後まで黙っているかギリギリまで言わないつもりでいたのだから無理もない。

カナタが答えに窮している前で、バネッサは表情を和らげる。


「まあいい。獣人に狙われている件をこちらに明かさなかった理由については大体見当がつく。大方、相手が戦闘種の獣人につけ狙われているなんて知ったら依頼を受けないかもしれないと思ったのだろ」

「おお、正解。よく分かったね」

「これでも冒険者なんでな。厄介事には慣れている」


いまいち冒険者と厄介事という2つのワードの関連性がピンとこないが、彼女達の実力からそれなりに苦労してきたであろう事はなんとなく分かる。


「確かに相手が戦闘種の獣人で、しかも偶発的な遭遇戦ならともかく。標的として確実に狙われているとなると受ける人間はそうそういないだろう。何せリスクが高すぎるからな」

「あ、やっぱり?」

「当然だ。戦闘種の獣人というのはそれだけ厄介な相手なのだからな。例え受けたとしてもいざとなった時にはその大変が逃げだすだろう。何せ冒険者は傭兵と違って金のために命を懸けたりしないからな。手に負えないと思ったら自分の命を優先してまず逃げ出す」


バネッサの説明を聞いてそりゃそうだよね~とカナタは首を縦に振る。

もし、ここで彼女達に離脱されると旅を続けるのは非常に困難だ。

最悪、この地でシュパル達と合流を計るか増援を待つしか手がなくなる。


「じゃあやっぱりこの仕事降りる?」

「いや、降りるつもりはない」


普通ならば予想外と思うバネッサからの答えをカナタは黙って受け取る。

なんとなく、本当になんとなくではあるが、彼女達ならばそのように答える様な予感がしていた。


「どうしてとか聞いてもいい?」

「そうだな。この仕事を引き受ける時にも言ったと思うが、キミ達との旅はおもしろそうだからかな」

「後は金がいいから」

「聖女様もかわいいしな」


バネッサの言葉に続いてレジエトとヤモックが不敵な笑みと共に言葉を繋ぐ。

理由としては説得力に欠けるものだが、彼らの表情には確かに歴戦の冒険者としての力強さが垣間見えた。

その表情だけでカナタにとっては十分。万の言葉を並べる以上の説得力があった。


「そっか。じゃ、今後ともよろしくって事で」

「ああ、こちらこそだ」


ひとまずバネッサ達が継続して旅に同行する事が決まり、安堵する。

その後は、食事が終わるまで互いの今までの旅の話について語り合った。

食事が終わった後も、話があるといって残ったリシッドを残し、カナタ達はマルコフから宛がわれた屋敷内の部屋に向かって廊下を歩く。


「いや~ひっさびさのご馳走でしたね」

「ええ、流石は町一番の商会の主の屋敷ね」


満足そうに食事の感想を述べながら先頭を歩くサロネとテーラ。

その時、薄暗い廊下を前方から歩いてくる3つの人影が目に留まる。

屋敷の人間だろうかと目を凝らす一同に向かって、人影の方から声がかかる。


「おや、もしや聖女様と御付きの方々ですしょうか?」

「はい、そうですが」


レティスが返事を返すと、現れた長身痩躯のみなりのいい男は足早にレティスの前まで進み出て満面の笑みを向ける。ちょっとキモイ。


「これはこれは、お初にお目にかかります。私はマルコフ様の側近をしておりますグリニと申します。どうぞお見知りおきを」

「どっどうも」

「・・・・・」


グリニの態度に若干引き攣った笑みを浮かべるレティスと相変わらずの人見知りでシカトを決め込むリルル。

そこへ、グリニの後ろを歩いていた人物が現れる。


「なんだ。お前達か」

「あっ、サマーニ兵士長いらしたんですか」

「ああ、マルコフの相談というのが気になってな。お前達が出て行った後、リシッドと共に話を聞く事にしたのだ」

「そうだったんですか」

「そういう訳なのでこの場はこれで失礼いたします聖女様」


サマーニは聖女2人に大して恭しく一礼すると、グリニに先を案内するよう促す。


「では聖女様。名残惜しくはございますが、私もここで失礼させて頂きます」

「あっ、はい。ご苦労様です」


こちらも聖女2人に恭しく一礼するとサマーニを伴って廊下の奥へと歩いていく。

その後ろをグリニの雇った用心棒と思しき顔中傷だらけの男が長剣と思しき長鞘を肩に担いで付いていく。

彼らが去った後、バネッサがカナタの傍に身を寄せて囁く。


「気付いたか?」

「ああ、アイツ・・・」


2人の視線の先にはサマーニの後ろを歩く長鞘の男。

風貌こそただのゴロツキに見えるが、纏った雰囲気から相当の使い手である。

食事の席にいたマルコフの雇った用心棒達より一回りレベルが上だ。


「なんで屋敷の主人じゃなくて側近の方に強い用心棒が付いているんだ?」

「ただの見る目の問題じゃない?あのグリニってヤツの方が見る目が合っただけみたいな」


奇妙な違和感を感じる2人に、仲間達から声が掛かりひとまずこの件は保留し、皆でマルコフより割り当てられた部屋へと向かう。

ちなみに今夜の配置はレティスとリルスは隣同士の部屋となっており、護衛にはそれぞれバネッサとサロネ、テーラとダスターが付くことになっている。

カナタとヤモック、レジエトは少し離れた部屋で待機だ。


「それじゃ、皆さんおやすみなさい」

「おやすみ~」


レティス達と部屋の前で別れたカナタは用意された部屋の中に入るなりベッドの上に飛び込む。


「ああ~久々のまともな寝床~」


柔らかな布団の感触に思わず頬ずりをするカナタを見て、ヤモックは呆れる。


「あんまりはしゃぐなよ~」

「うるせ~。おめ~はベビーベッドで寝てろ~」

「誰が赤ん坊サイズだ!カナタ、テメェ表出ろ!」

「絶対に嫌だ。この布団は俺のもんだ」

「こんのクソガキィッ!」


ベッドの上でギャアギャアと喚き散らすバカとマイクロおっさんを余所に、レジエトは室内の調度品を見て感嘆の溜息を漏らす。


「ほへぇ~流石は金持ち。寝具までいいもん揃ってやがるぜ」

「ほけ~だってさ。おっさんくさっ!」

「誰がおっさんだ!」


バカ1名追加である。

折角整えられていた布団の上をぐちゃぐちゃにしたところで、ようやくは落ち着いた3人はベットの上で天井を見上げる。


「しっかし、ド偉い旅に巻き込まれたもんだぜ」

「後で追加料金を請求しないとな」


ゲラゲラと笑う2人のおっさんに釣られてカナタもおかしそうに笑う


「先は大変かもだけど、ともあれ今夜はぐっすり眠れそうでよかったよかった」


だが、そんな彼らのささやかな願いはこの後儚く散る事になる。

夜が深まると共に、押し寄せる憎悪の波がマルコフの屋敷に眠れぬ夜を引き連れて連れてくる。

次回は戦闘回。こっからちょっと陰謀に触れていくかも

キャラ紹介も進めないとな~

仕事でやらなあかん事もあるし時間が足りない。

読みたい小説とかもあるんだけどな~

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