第45話 旅立チヘ誘ウ鳥
街の外で野盗を制圧したカナタは、偶然遭遇したバネッサ達冒険者チーム「赤鳥の羽」と行商人の一団を引き連れてフラープの街へと来た道を戻っていた。
道すがら退屈しのぎに話題を振ってみる。
「そういやさ。バネッサ達はなんでこの辺りに来たの?」
「ふむ、そうだな。私達は知っての通り冒険者、諸国を渡り歩いているんだが、ガノン王国に来るのは今回が初めてで国内に入ったまでは良かったが、まだ王都には行けていなくてね。折角だから少し王都も見ておこうと思ってな」
「へぇ~。そうなんだ」
バネッサの話を聞いて大きく頷くカナタ。未だに大陸の形どころか大陸の中の一国。それもごく僅かな土地しか知らぬカナタにとって国外の情報というのは非常に興味を引く。
(ベーゾンの話だと王都まで行けばガノン王国と周辺国を記載した地図はあるって話だけど・・・)
ガノン王国はどちらかと言えば閉鎖的な国である為、我等がベーゾン先生の知識をもってしても国外の情報は僅かにしか得られないのが実情。
少し前にユーステス領でテナンから聞いた周辺国と緊張状態にある事を国の兵士であるリシッド達でさえ知らない有様なのだから。
そんな状況でカナタの前に現れたバネッサ達冒険者。
国外をその足で渡り歩き生の情報を見聞きしてきた彼女達からなら国外の面白い話が聞ける。
そう思って、国外の事を尋ねようと口を開きかけた時、バネッサの後ろで赤鳥の羽の1人が会話に割って入る。
「リーダーはそんな事を言っているが、実を言うとそいつは建前で、その実態は恥をかかされた野郎を見つけたして仕返しするのが目的なんだけどな」
「・・・仕返し?」
男の口から齎された情報にカナタの頬が思わず引きつる。
男の語った内容が、どうにも自分と無関係に思えない。
「そうそう。実は俺達こないだまでかなり割のいい働き口があったんだけどよ。そこでヘマしてクビになっちまったんだよ」
そう言って男達が豪快に笑い声を上げる。
ただ、それを聞いているカナタの額には焦りから薄っすらと汗が滲む。
そうなるのも無理はない。何せ彼らが仕事をクビになる要因を作ったのは紛れもなくカナタなのだから。
そうとは知らない「赤鳥の羽」の面々は聞きもしないのにペラペラと喋り始める。
「いい稼ぎには違いなかったんだがな。でも、まあ随分とあくどい商売してたみたいだから、縁が切れて良かったっちゃ良かったのかもな」
「ほんとだぜ。俺なんてあの司祭の野郎を何度斬り殺しそうになったか分かりゃしねぇよ」
「まったくだ。しかもあのジジイ、加齢臭を隠すつもりか知らないけど香焚きすぎて臭えんだよ」
出るわ出るわ次から次へと赤鳥の羽の面々から留まる事無く愚痴を垂れ流す。
どうやら彼ら自身自覚していなかった鬱憤がかなり溜まっていたらしい。
さして興味の湧く話でもない他人の悪口を聞かされながら適当に相槌を打つカナタ。
「へ、へぇ~。ちなみにヘマって何をやったんだ?」
「何もしちゃいない。いや何もできなかったってのが正解だな」
「知り合いから実力を買われて紹介してもらった警備の仕事だったんだけどよ。たった1人の侵入者相手に俺達を含め雇われた奴ら全員が出し抜かれて、挙句囲い込んでた職人を攫われるっていう。まあ警備としてはあるまじき大失態ってのをかましちまってな」
「いや~、参ったぜ本当」
「ハハハッ!そりゃクビにもなるってな」
楽しそうに笑いながら失敗談を語る彼らの姿に、もう気にしていないのかとカナタが希望的見解を持ち始めたのも束の間、男達の会話にバネッサが水を差す。
「全く笑い話じゃない。いくら気乗りしない仕事だったとはいえ他の冒険者から紹介された仕事を失敗するなんて・・・次にドーリに会った時何を言われるか分かったもんじゃない」
「あ~そりゃ確かに億劫だわ」
「ドーリの野郎、面子潰されるのすげえ嫌がるからな~」
仕事を紹介してもらっておいて失敗したのだから失われる信頼も相応に大きい。
冒険者仲間からの評価が低下するのは必定。
紹介相手に再会した時の事を考えた赤鳥の羽の面々の表情が一様に曇る。
「そうは言っても今更だぜリーダー」
「そうそう。出し抜かれた俺達より出し抜いた相手が一枚も二枚も上手だったって諦めるしかねえよ。むしろ俺は今回を俺らを出し抜いたヤツは大した野郎だと思うぜ」
「確かにな。あれだけの人数を出し抜くなんざ早々出来るもんでもないぜ」
感心した様子で頷く男達の言葉に、バネッサは苦々し気に口元を歪める。
「そんな事は分かっている。だけどそれに納得できるかどうかは別の話だ」
「そりゃそうだ」
「やられっぱなしってのは面白くねぇしな」
「剣も交えず負けを見止めろってのは確かに無理な話だ」
何やら雲行きが怪しくなってきたバネッサたちの会話に、嫌なものを感じながらもカナタは話の核心部分に斬り込む。
「ちっ、ちなみにその相手を見つけたらどうするんだ?」
「そんなの決まってんだろ」
「だな」
「ああ」
カナタの問い掛けに対し、赤鳥の羽の面々は顔を見合って頷きあう。
「私達も自分の腕で旅をしている。それをコケにした相手は総じて・・・」
『叩き潰す』
声を揃えての答えた彼らの言葉に、カナタは必死になって顔に作り笑いを張り付ける。
「あ~・・・。その相手、見つかるといいな」
「ああ、幸いにもイシマを出る際にそれと思しき男を見かけたという話が聞けてな」
「へ?」
「どうやらソイツは要人の護衛を務めていたらしくてな。それと思しき一行が王都の方へ発ったという話を聞いて後を追っていたんだ」
「そっそうなんだ。ハッ、ハハハ。」
バネッサの言葉に適当に相槌を打って答えたカナタは、バネッサ達の視線から逃れる様に視線を逸らす。
(マズイ。マズいぞ。これは非常にマズイ)
今は気付かれていないみたいだからこうして談笑していられるが、彼らが持っている情報次第では街について、カナタが聖女2人の護衛役だと分かった瞬間にバレる可能性がある。
(どうしよう。協力を得るのは諦めるようかな?)
正直この状況下で揉め事を起こすのはカナタにとって望む所ではない。
これ以上の厄介事は旅の妨げにしかならない。
(とにかく街に付いたら俺の素性がバレない様にしないと)
レティスやリルルがいる宿屋に近付けない事はもちろん。
リシッド達護衛メンバーにも接触させてはならない。
何がきっかけでイシマの件と自分の事が結びつくとも分からないのだから。
焦りながらもどうにかして彼等とレティス達の接触を避けようと画策するカナタ。
その時、キャラバンを率いている行商人の1人が声を上げる。
「おや、あれはもしや聖女様では?」
「・・・え?」
耳に届いた言葉の意味が理解できず、思わず間抜けな声が漏れる。
呆けた顔を上げたカナタの視線の先、城壁の外、街の入り口付近にとてもよく見慣れた白い修道服。
こちらに向かって大きく手を振っているレティスとその隣で憮然とした表情を浮かべるリルルの姿。
そしてその周りにはリシッド隊の面々が立っている。
まさに勢ぞろいであった。
(あ~笑顔で手を振るレティス様超かわいい。・・・じゃなくて、なんで全員いるんだよぉおおおおおお!!!)
馬の背に顔を押し付け、カナタは心の中で絶叫する。
背中に乗せたカナタの突然の奇行に、馬がビクッと怯えた様に震える。
「どっどうした突然」
「腹でも痛いのか?」
「薬あるけどいるか?」
突如馬の背にしがみ付くように突っ伏したカナタを心配して声を掛ける赤鳥の羽の面々。
人相悪い上にガラも悪いが、意外と人情味のある連中である。
だが今はそんな気遣いを求めていない。
カナタの頭の中ではどうやって誤魔化すかで頭が一杯だ。
周囲からの心配の声を無視してカナタは1人思考に没頭する。
「聖女?もしやレメネン聖教会の十六聖女か?」
「そういえば確か例の1件の時もイシマの町に十六聖女が滞在してるって聞いた様な・・・」
「ああ~なんか情報屋がそんな事言ってたな」
「ここにいるって事はあの時イシマに居た聖女様か。妙な偶然もあるもんだな」
レティス達を見て呑気に会話を続けるバネッサ達の横でカナタは青い顔でぜんしんにびっしょりと冷や汗をかく。
(偶然も何もアンタ達が追ってる男の一行だよ!)
心の中で毒づきながらこの場をどう切り抜けるか考える。
焦りの中、周囲の同行を観察するカナタだったが、そんな彼の心境に反して赤鳥の羽の面々は変わらぬ様子で会話を続けている。
「にしてもこんなとこで何やってんだろうな?」
「こっちに向かって手を振ってるみたいだけど、知り合いでもいるのか?」
思わぬ反応を見せる赤鳥の羽の面々にカナタは首を傾げる。
(・・・アレ?気付いてない?)
そこでカナタは改めて違和感に気付く。
レティス達が聖女だと知って尚、変化を見せないバネッサ達の態度。
訳が分からず混乱しそうになる頭で、カナタは一つの可能性に行き当たる。
(どういう事だ?もしかしてバネッサ達が情報屋から聞いた情報が間違っていたのか?)
そこでカナタは先程バネッサが話していた内容を思い出す。
彼女の語った内容では確かそれらしい人物が仲間を連れて王都へ向かって出発したという話だったはずだ。
要人の護衛をしていたというキーワードからてっきり自分達を特定されたと思っていたがどうやらそうではないらしい。
(偶然か?まあいいや。理由は分からないけれどひとまず今回はバレずに済みそうだ)
バネッサ達が勘違いしている相手が気になる所ではあるが、とにかく今は予想していた最悪の状況を回避できた事に安堵する。
気を取り直したカナタは、体を起こし馬を前へと進ませる。
そのままバネッサ達、赤鳥の羽と行商人のキャラバンと歩調を合わせて街の入り口まで馬で乗りつけた後、馬を下りてレティス達の前まで歩く。
「お疲れ様です。カナタさん」
「えっと・・・ただいま」
レティスの出迎えに少しだけ照れくさそうに頬を染めるカナタ。
そんなカナタを見て呆れた様にリルルが不満を漏らす。
「まったく護衛に雇われているというのに勝手に飛び出すなんてなってませんわ」
「人助けだったんですし許してあげましょうよ。お嬢様」
「そうっすよお嬢。カナタさんの気を引きたいならもっと別のアプローチを・・・」
「べっ別にそんなんじゃありませんわよ!」
ダスターの言葉を真っ赤になって否定するリルル。
何やら揉めているリルル達を放っておいてシュパルがカナタに問いかける。
「その様子だと問題なさそうだが、事態は無事に収集できたのか?」
「う~ん、まあ一応。とっ捕まえた野盗は全員そっちの馬車に詰め込んである」
「了解した。そちらは我々が街の牢に繋いでおこう」
そう言うとシュパルは手早く指示を出し、ダットンとベーゾンの2人が行商人から野盗を押し込めた馬車を引き受けて街の中へと歩いていく。
彼らを見送った後、レティスは先程から気になっていた事をカナタに尋ねる。
「ところでカナタさん。そちらの方々は?武装しているから行商人という訳ではないようですが・・・」
「ん?ああ、この人たちは・・・」
紹介しようとするカナタの前へとバネッサが一歩進み出る。
「お初にお目にかかりますレメネン教の聖女様。私共は冒険者チーム『赤鳥の羽』。私がチームリーダーを務めるバネッサ。後ろに控える見苦しい男共がウチのメンバーです」
「なっ!」
「ちょっとリーダー!」
「今の紹介は酷くないか!」
『そうだそうだ!』
散々な言われようをした赤鳥の羽の男共が餌をねだるヒナの様にギャーギャーと抗議の声を上げる。。
悪人面な上にガラも悪い男共が子供の様に騒ぐのを、バネッサは一睨みして黙らせる。
「ウチのメンバーが失礼しました」
「い、いえ、大丈夫です」
バネッサ達のやりとりに圧倒されたレティスは引き攣った笑みを浮かべる。
「私共は、この辺りで噂になっていた野盗の頭目を追っていたのですが、その時に偶然こちらのキャラバンが襲われている場面に出くわしましてね。野盗を制圧した後、護送がてらこちらまで同行した次第です」
「そうだったんですか」
バネッサの説明を聞いてレティス達が納得した様子で大きく頷く。
仲間への態度はともかくとして、荒くれ者の冒険者らしからぬ礼儀正しい態度で接するバネッサの印象は悪くない様だ。
流石にあの司祭の相手をしていただけあって場面に応じた受け答えというものを心得ているらしい。
「野盗の護送にご協力頂きありがとうございますバネッサさん。領主様に代わってお礼を・・・・」
「いえ、これも仕事ですのでお気になさらず」
「あの、申し遅れましたが私はレメネン聖教会の十六聖女が1人。レティス・レネートと申します。こちらが同じく十六聖女の1人でリルル・テーステス様。どうぞお見知りおきを」
「恐れ入ります」
挨拶程度に言葉を交わすレティスとバネッサ。
会話内容は大したことないが、美少女と美女が話している姿はかなり絵になる。
(美女2人とかいいね!実にいいね!!)
美人が2人並んでいる。ただそれだけの事に思わず握った手に力が篭る。
周囲の男連中も目の前の光景に見惚れて意図せずその場で動きが止まっている。
そんな中、ただ1人動じる事のない男がいた。
先程から一言も発する事無く一連のやり取りを傍観していたリシッドだ。
目の前の幸せな光景には目もくれずにカナタの方へと歩み寄る。
「話がある」
「ヤダ。断る」
「何故1人で勝手に動いた」
「ウルサイな。今いい所なんだから邪魔するなよ」
こちらの意思を無視して問い詰めてくるリシッドを煩わしそうに手で追い払おうとするカナタ。
だが、リシッドはその手を掴み険しい表情で詰め寄る。
「いいから答えろ」
「えぇ~、面倒くさいクソ貴族様だな~」
答えを言うまで相手に引き下がる気がない事を悟ったカナタは諦めたように口を開く。
「単純に野盗制圧なんかに時間を掛けたくなかったからだよ」
「それは俺達が一緒だと足手まといだって事か」
「は?何言ってんの?野盗なんか相手にするのに一々雁首揃えて行く必要ないじゃん。そもそも俺達の役割はレティス様達の護衛だろ。2人を守るのに俺1人いなくても問題ないと思ったから1人で行っただけだ」
然も当然とばかりに言い放つカナタの言葉を、リシッドは驚きをもって受け止める。
言い方が随分と雑ではあるがカナタはカナタなりに考え、リシッド達の実力で2人を守れると判断してとった行動なのだと理解できた。
「・・・そうか。ならいい」
自分達がまだ背中を預けるに足らない。そう思われているのではないかというリシッドの思いを晴らすには先ほどの言葉で十分だった。
初めてであった時から比べると自分自身随分強くなったという自覚はあったが、腕を上げる程にカナタとの間にある実力差を感じていた。
単純な膂力という点だけ考れば負けるどころか勝っているにもはずなのに。
目に見えない差がどれほど埋まったのか知る術はないのかもしれない。
それでも自分の認める少年の語った言葉が、その見えない差が少しは埋まったのだと実感させてくれた。
今はそれでいい。それで十分である。
「何ニヤついてんだよ。気持ち悪いな」
カナタに言われてリシッドは自分の表情の変化に気づく。
確かに口角が少しあがっている。どうやら自分でも知らぬ内に笑顔になっていた様だ。
だが、その理由を目の前の少年に素直に言おうとは思わない。
「うるさい。どこで笑おうと俺の自由だ」
「はいはい。だったらせめてこっちの目につかないところで1人でやれよな」
「知るか。そう思うならお前がどこかへ行け。この馬鹿者」
「な・ん・だ・と~」
「なんだ?やるのか?」
至近距離で視線をぶつけ合うリシッドとカナタ。いつも通りの光景である。
小競り合いを始めた2人の様子を見て、見慣れた仲間達はやれやれまたはじまったと生暖かい視線を向ける。
逆にこのやりとりを初めて見る赤鳥の羽の面々と行商人達はどうしたものかと困惑の表情を浮かべる。
「あの~、止めなくてよろしいんですか?」
「気にしないでください。いつもの事なので」
「ですが・・・」
「大丈夫ですよ。私の知る限り今まで罵り合いで死んだ人間はいませんから。そんな事より今の内に一度街の中に入っちゃいましょう」
「は、はぁ」
2人のやりとりを心配する行商人達をサロネが慣れた様子で応対し街の中へと先導する。
煮え切らない思いを残しつつも赤鳥の羽の面々と行商人達はその後に続いて街の方へと移動する。
その後、周囲に誰もいなくなった後も、しばらくの間2人の罵り合う声が街の外に響き渡った。
散々互いを罵り合った後、喉の渇きに負けた2人は宿の方へ向かって歩いていた。
「そういえばさっきの冒険者だが、何者だ?」
「今更それを聞くのかよ。・・・・まあいいや。あいつ等はイシマで例の職人誘拐した商人に雇われてた連中だよ」
「何っ!という事はコクタク殿を誘拐した連中の一味か。よくそんな相手を連れて来たな。危なくないのか?」
「大丈夫だろ。仕事はクビになったって言ってたし、奴らに義理を立てするような間柄でもないみたいだったし」
悪事に加担していた者を街に入れるという事に不安を感じるリシッド。
その気持ちは分からないでもないが、彼ら(バネッサ以外の男連中)の人相は確かに悪いが、だからといって無闇やたらに暴れる様な連中でないのは今までのやりとりを見て大体分かった。
(まあ、何かしでかしたとしても問題はないだろうけど)
油断は禁物だが、バネッサ達全員を相手にするのはシュンコウと1対1で戦うよりは苦にはならないだろう。たぶん。
「しかしだな。彼らがクビになったのはおまえが職人を連れ戻したからじゃないのか?」
「話の内容からすると恐らくそうだろうな」
「だったらその事がバレたらどうなる?契約が切れたとはいえ彼らも面子を潰されているわけだし話し合いで穏便にともいかないだろう」
「その辺は確かに危うい部分もあるけど、今の所バレる心配はなさそうかな。どうやら別の人間がやったと勘違いしてるみたいだし」
「・・・そうなのか?」
「ああ、少なくともこっちがヘマしなけりゃバレる心配はないだろう」
だからなんの問題もないと言わんばかりのカナタの態度に、リシッドの中で不安が募る。
こういう根拠のない自信を抱いている時が人間一番危ういものだ。
カナタを窘めようとリシッドが口を開きかけた時、それを遮る様にカナタの方からリシッドに声を掛ける。
「そんな事よりも1個相談があるんだけど」
「相談?おまえが俺に?」
カナタの方から頼み事をしてくるという意外な行動にリシッドは思わず目を丸くする。
もっとも内容についてはなんとなく思い当たる。
「嫌な予感しかしないが聞くだけ聞いてやる」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
リシッドに促されたカナタは一度咳払いをして提案を口にする。
「あの冒険者、バネッサ達『赤鳥の羽』を雇わないか?」
カナタの口から出た言葉に、リシッドは驚く事無く目を伏せた後小さくため息を吐く。
「やはりそうきたか。雇ってどうする?」
「そりゃ、俺達がこの街を離れる代わりに王都からの応援が来るまで街を守らせるとかすればいい」
「正気か?相手は冒険者で、しかも悪党に加担してたような連中だぞ」
「もちろん知ってる。でも腕は立つし金を払えば信用できると思う。男連中の人相に大分問題があるけど」
「無理だ。そもそも彼らが国外の人間だという時点で検討にすら値しない」
「なんで?」
「決まっているだろう。もし彼等を雇った結果、その口から国内で起こっている事が明るみに出れば、国内は大混乱に陥る上に他国からの侵略の引き金にすらなりかねないんだぞ」
それ以上の理由は必要ないと言わんばかりの強い口調で語るリシッド。
だがそれはカナタとてもちろん考えている。考えた上で提案している。
「おまえはそう言うが、今回のプラ―フでの1件、少なくともこの街に住人や街に滞在していた行商人達には知れ渡って今更隠す事は不可能だ」
「ぐっ」
カナタの言葉にリシッドは言葉に詰まる。
何故ならばカナタの言った通り今回の1件は当然街の住人や、その時街に居合わせた多くの者の知る所となった。
情報統制しようにもこの街に駐留していたほとんどの兵士がシュンコウ達によって命を奪われており兵の数は足りない。
その上、リシッド達が行動を起こすより先にいくつかの行商人が街を出て行ってしまっていた。
もはや隠し通す事は不可能。どうあがいた所で今回の二十貴族襲撃の件は国中に知れ渡る事になるだろう。
「幸い聖女が殺されたという事実は今も隠し通せているみたいだけど、貴族が襲われたという事実は確実に広まる」
「それは分かっている」
「むしろバネッサ達には今回起こった様な襲撃が再度起こった時の為の用心という理由をつけて依頼をする事が出来るんじゃないか?悪事に加担していたっていうのは確かにあるから心配する気持ちも分からないでもないけれど、一度契約を結んでしまえば信用していい相手だと思うぜ」
まさかカナタがここまで彼らを推してくるとは思わなかった。
なんとなくその理由が気になったので尋ねてみる。
「おまえがそこまで言う根拠は何だ?」
「えっ?そうだな。強いて言うなら・・・なんとなくかな?」
急に首を傾げてトーンダウンするカナタにリシッドは肩透かしを喰ったような気分になる。
「・・・お前はそれで俺を説得できると思っていたのか?」
「いや説得なんてしてないし。納得しろって言っているだけだ」
悪びれる様子も見せずそんな事を当たり前のように口にするカナタにリシッドは僅かな苛立ちを覚える。
正式な自分の部下だったならグーパンを食らわしていたところだ。
「はぁ、彼らを街の守りに当てるという案事態はもう少し条件が良ければ採用したんだがな。もっとも実行に移すにしても彼ら冒険者だけに任せる訳にもいかないぞ」
「なんで?」
「さっきも言ったが彼らはあくまで国外の人間、スパイでないにしてもこの国の事に責任を持つ必要がないからな。そういう点でいざという時に信用できない。流石にそれではこの街の人々も安心できないだろうしな」
「だったらどうすんだよ。他に方法があるのか?」
何とも煮え切らないリシッドの回答にカナタが食って掛かる。
このまま何の対策も講じる事無く無為に時間を過ごす事だけはしたくない。
そう訴えかけに睨み付けるカナタにリシッドは冷静に答えを選ぶ。
「まだ決まったわけじゃないが、おまえが言った事と、当初俺が考えていた策でなんとかこの事態を打開できるかもしれない」
「ほんとか!」
リシッドから伝えられた言葉に、今度はカナタが驚きの表情を浮かべる。
領主の館での1件以降、ほとんど部屋から出てこなかったから、守れなかった人々への責任を感じて落ち込んでいるのだとばかり思っていた。
改めてリシッドが次期この国の未来を担う人間だと感じる瞬間だった。
「タイミング的には今日中にその条件を達成できるかどうかの報せが届くはずだ」
「あの伝書鳩みたいなやつか!」
「でんしょばと?それが何かは知らないが、まあ鳥を使った早文だな」
気持ちが昂って食い気味にカナタの問いかけてくるカナタに、リシッドはあくまで冷静に話を続ける。
「文の返答が戻ったところで結果が望んだ通りに運ぶかは分からない。あくまで達成すべき条件の1つだ。他にもいくつかの条件が揃わない限り我々は街を離れることは出来ない」
「分かっている。で、その一つ目の条件を達成するのに必要な手紙には何が書かれているんだ?確か送った手紙は臨時の統治者の件だったはずだが・・・」
「おまえが言う様に臨時の統治者を立てる件についてだ。それが決まれば、さっきおまえが話ていた内容を含めて考えられる手が1つある」
あくまで実現可能かは分からない数ある可能性の1つ。
それでもこの停滞した状況を打破できるならとカナタは拳を握りしめる。
丁度その時、頭上を小さな影が走り抜けていった。
空を見上げたカナタの視線に、宿屋の屋上へ向かって飛ぶ1羽の鳥が見えた。
同じ様に視線を送ったリシッドが真剣な表情を向ける。
「どうやら報せが来たようだな」
どちらともなくそう呟いた後、2人は鳥が向かった先へ向かって駆けだした。
すいません。また話が伸びたので
赤鳥の羽のメンバー紹介は次話となります。
以前上げたキャラクター情報についてですが、
特に要望ございませんでしたのでしばらくは現状のままにします。
以降も感想やメッセージでご要望、ご意見は承ります。




