第42話 星爪ヲ統ベル者
シリウスと名乗った男は、カナタの正面に立つとその顔をジッと見つめる。
「ふむ、思っていたよりも小さく細いな。もっと大柄で筋肉質な人間を想像してたんだが・・・」
カナタの印象が余程予想した姿から掛け離れていたのか、シリウスは意外そうに感想を漏らす。
好き勝手言っているシリウスを前に、カナタはというと微動だにしない。
いや、本当は動けないのだ。下手に動けば自分の命が終わると本能が告げている。
(なんなんだこのバケモノ。見た目はシュンコウと違って普通に兄ちゃんって感じなのに、纏っている空気が今まで出会った誰とも違う。この世界にはこんな男がいるのか)
人間体のままでありながら放つ空気はシュンコウと同等かそれ以上。
この男がもし獣人体に変化を遂げたならば、一体どうなるのか想像もつかない。
(とりあえず今分かっている事は、この状態でやり合ったら1分と保たないでバラバラにされてカナタさん終了だな)
冷静に状況を分析した上での希望も理想もない混じる余地のない現実。
それでも、いや、だからこそ慎重に行動する。
(まだきてやらなきゃならない事も楽しみにしてる予定もたっぷり残ってるんだ。こんな所で死んでやる気はない)
両手は最早武器を取る握力すら残っていない。
片方の耳は聞こえない。
疲労と出血で体力が落ち、呼吸は乱れ、動きは鈍い。
それでもその眼に諦めの色はない。
これが17年の人生で作り上げられたシジマ・カナタという人間。
今までの人生が割とハードモードだったせいか、どれ程の逆境、苦境であっても命が消えない限り、体の奥底に染み付いた生存本能が生きる事を諦めさせてくれない。
そんなカナタの意思を感じ取ったのか、シリウスは表層に張り付けていた薄い笑みを引っ込め、真剣な表情へと変える。
「少年。キミはこの状況でも勝つことを諦めていないのか?」
「さあ、どうだろうね」
「俺が言うのもなんだが、正直状況は最悪だと思うんだが」
「それについて否定はしないな」
シリウスの視線を真っ向から受けながら冗談めかして答えるカナタ。
そのまま静かに視線をぶつけあう両者のすぐ傍ら、ユラリと幽鬼の様に立つ影。
「ウゥウウウッ・・・アアァアアア」
右目を潰され、鍛え上げた自慢の両肘から先を失い、右足を剣で貫かれて肉体は崩壊寸前。
理性と引き換えに仕掛けた攻撃も不発に終わり、辛うじて生きている哀れな獣。
多くを失いながらも怒りに突き動かされるシュンコウは、呻き声を上げながらゆっくりと2人へと近付く。
涎を垂らしながら、口を大きく開けてその鋭い牙で襲い掛かろうするシュンコウ。
だが、そんな彼の往く手は彼の味方であるはずのシリウスによって阻まれる。
「やめろシュンコウ。お前の負けだ」
「チガ・・ウ・・。オレハ・・・マケ・・・ナイ」
「俺とスナーが来なければお前は死んでいた。負けを認めろシュンコウ」
シリウスの言葉に反応し、シュンコウは少しだけ顔を上げる。
その目は焦点が定まっておらず虚空を彷徨い、目の前のシリウスさえも認識できていない。
「ウゥッ・・アア・・イヤダ。マダ・・・ワタ・・シハ・・・」
「"深層獣化"の影響か。止むを得ないな」
シュンコウの状態に事態の深刻さを理解したシリウスは、シュンコウへと体を向けると、素早く彼の左肩を掴み空いたもう一方の掌でその胸を打つ。
打たれた胸部が滴が落ちた水面の様に波打ち、シュンコウの体が大きく跳ねる。
「ゴホォッ!」
全身を波の様に駆け巡る衝撃に耐えられず、シュンコウの首が真上を向き口から血を吹き出す。
そのまま背を反らせて立ち止まると、やがてプツリと糸の切れた人形の様に静かに崩れ落ちる。
「おっと」
シリウスは素早く崩れ落ちるシュンコウの前に体を差し込むと、その体を抱きとめる。
「すまないなシュンコウ。今回はおまえの我儘を聞いてやれない」
「・・・ァァ」
シリウスの言葉に反応したのか、小さく呻いたシュンコウはそのまま目を閉じる。
ピクリとも動かなくなったシュンコウを見てカナタはシリウスの背中に向かって問いかける。
「殺したのか?」
「そんな訳ないだろ。少し強引に意識を絶っただけだ」
「・・・少し?」
シリウスの言葉に思わずカナタの頬が思わず引き攣る。
いくら死にかけているとはいえ、あのシュンコウを獣化もせずに素手で気絶させる等ゴリラの様な怪力の人間か武術の達人でもなければ不可能だろう。
(どこが少しだよ。どう考えても今の掌打だけで普通の人間なら心停止するか肋骨が何本か折れるっての!)
目の前の男の圧倒的な強さを目の当たりにし、心の中で悪態をつきながらカナタは改めてシリウスの危険性を認識する。
おかげで目の前で無防備な背中を見せているシリウスの背中に攻撃を仕掛ける気が全く起こらない。
とてもじゃないが、今の状態で仕掛けたとしてもシリウスを殺せるイメージが湧かない。
むしろ次の瞬間、血まみれで横たわる自分の姿を幻視する程だ。
(ああ~どうしよコレ。きっついな~)
突破口を見出せないまま動けずにいるカナタを無視してシリウスは館の屋根の上で待機しているスナー達山猫師団に向かって声を上げる。
「スナー!手伝ってくれ。急がないと手遅れになる」
「了解です。シリウス団長」
返事を返したスナーと山猫師団が屋根から飛び降りてシリウスの下へと駆け寄る。
素早く瓦礫の上を走る山猫達がカナタの横を抜けていく。
山猫達がカナタの横を通り抜ける度に、憎悪に満ちた視線をこちらへと投げつける。
「同朋の仇め」
「必ず貴様を殺してやる」
すれ違い様にそんな言葉がいくつか耳に飛び込んでくる。
こちらが動けないのを良い事に随分と好き勝手言ってくれるものである。
(ガキのイジメじゃないんだからコソコソせずに堂々と言えっての)
恨み言を言い残していく獣人達に心の中で獣人達に悪態を吐きながら、カナタはその場を動く事無く様子を見守る。
シリウスの手からシュンコウを受けとった山猫達は手持ちの薬や包帯で応急処置を開始する。
「ともかくまずは止血だ」
「腕はどうしますか?」
「目はもうダメだな。腕は繋げるかどうかは怪しいところだがひとまず傷口を縛って回収しよう」
「わかりました」
シリウスの指示を聞きながらテキパキと処置していく山猫達。
あっという間に傷の縫合が終わり、包帯でグルグル巻きにされるシュンコウ。
「この場で可能な処置はしました。ですが・・・」
「分かっている。すまないが急いで先生のところへ連れていってくれ」
「ハッ!直ちに!」
部下達はシリウスの言葉に即座に頷くと、シュンコウを抱え上げると、すぐさま駆け出し、あっという間に館の屋根まで飛び上がりその場から離脱する。
彼らの背中を黙って見送った後、残されたのは数人の山猫の獣人とスナー、それからシリウスがカナタへと視線を戻す。
「で、シリウス団長。これからどうするんです?」
「俺はもう少しそこの少年と話がある」
山猫達にそう告げると、シリウスはカナタへと視線を戻す。
スナー配下の山猫達はその言葉に困惑の表情を浮かべる。
動揺する部下達を素早く手で制し、彼らに代わってスナーが応じる。
「分かりましたよ団長。ところで表にいる聖女達は如何します?今なら2人ともアタイ達だけでも始末をつけられると思うんですが?」
「っ!?」
スナーの言葉にカナタがすかさず反応し、鋭い殺気を飛ばす。
叩きつけられた殺気の鋭さにスナーが顔を顰める。
だがそれだけだ。カナタの殺気に怯む様子はない。
1対1で対峙するならまだしも、今この場にはシリウスがいる。
その絶対的優位がある限り、カナタはスナーに傷一つつけることは出来ないと確信している。
「残念だったね。万全な状態ならいざ知らず。今のアンタじゃ武器を取るより早く団長に首を落とされて終わるよ」
「・・・・」
スナーが言い放った言葉にカナタはギリッと音が成る程強く奥歯を噛みしめる。
表情を歪めるカナタに向かってスナーは余裕の笑みを返す。
だが、その表情は次に放たれる言葉によってすぐに塗り替えられることになる。
「山猫師団はこのままシュンコウを連れて撤退。聖女2人と護衛の兵士達にこれ以上は手を出すな」
「えっ!」
自身の想定していたものとは違うシリウスの言葉にスナーの表情が固まる。
「シリウス団長。今、なんと?」
「聞こえなかったかスナー。撤退だ。以降、俺が許可するまで戦闘を固く禁ずる」
「しかし、それでは契約が・・・」
「分かっている。だが今回はダメだ。シュンコウ達は無関係な者を殺しすぎた」
そう言ってシリウスは崩壊した館の瓦礫の方を指さす。
崩れ落ちた瓦礫の中、領主に仕えたが故に巻き込まれた館の使用人達の遺体が見える。
「しかし、今回の戦いでこっちは虎爪師団の仲間を多く失って・・・」
「それは私怨に駆られ独断で行動したシュンコウ達の自業自得だ」
「でも結局殺すのだから同じ事じゃ・・・」
「確かにそうだな。だが俺は今回のシュンコウ達のやり方を認める気はない。そして仲間の不始末は同じ団に属する俺達でその分のペナルティを負うべきだと思っている」
「だから見逃すと言うんですか団長!」
感情的になり食い下がるスナー。彼女の手下達も口には出さないが同じ思いらしく明らかに不満の色が顔に張り付いている。
そんな彼等に対し、シリウスは努めて冷静に答える。
「そうだ。付け加えると今日より10日の間、星爪の旅団の全ての団員はいかなる勢力との戦闘も禁ずる」
「そんな!」
「何故ですか!」
「シュンコウ達の様な間違いを起こす者が他に現れないとも限らない。一度全団員を集めて今後の対応について協議する」
「しかし!」
自分の配下からの否定的な声が上がる中、シリウスは表情一つ変えずに彼らの意見を一蹴する。
「おまえ達には悪いがもう決めた。俺がいいと言うまでしばらく誰にも手を出すなよ」
「・・・・・わかりました」
スナーを含めた山猫師団全員が不承不承といった様子で頷く。
例え不満に思っていても、彼らはシリウスの決定に異を唱える気はないらしい。
カナタには分からないが彼らの中で何かしらのルールが存在するのだろう。
(まぁ、どうでもいいから居なくなるならサッサと消えてくれ)
こうして立っている間もカナタの体力は痛みで削り取られており、時間が経つほどに状況が悪くなっていく。
「今言った内容を直ちに王国内に散らばる全ての団員達に伝えろ。わかったなら行け」
シリウスの指示にスナーは背後に並んだ部下達に向かって視線を送る。
即座に数人がその場を離れて館の向こうへと消えていった。
その場に残った数人は無言でテキパキとシュンコウに応急処置を施していく。
「ついでにこっちも治療してくれよ」
冗談のつもりでそんな事を言ったら今すぐ殺すと言わんばかりの目で睨まれた。
「ハハハ・・・ですよね~」
山猫達の敵意に満ちた視線を受けながら乾いた笑いを浮かべるカナタ。
こうしている間も全身の傷が痛む。
両腕も満足に利かないのだからもう少し優しくしてほしいものだ。
いっそ気絶出来たらどれだけ楽だろうかとも思うが、生憎左腕に刺さった矢の痛みが酷くて気を失う事も出来ない。
(ここまでくると早く殺すなりして楽にして欲しくなってくるな~)
それでも生き残ろうとする自分の本能がこんな時だけ恨めしく思えてくる。
「悪いな少年。俺が治療をしよう」
「うおっ!?」
いつの間にか目の前まで近づいていたシリウスにカナタが思わず飛び退く。
だが思った以上にダメージが大きく、着地と同時に膝の力が抜けてその場に膝をつく。
(これは思ったよりもずっとヤバイかも・・・)
立つ事もままならずに座り込むカナタの下へシリウスが歩み寄る。
「心配しなくても今日この場所でキミを殺すつもりはない」
「大変うれしい申し出なんだけど、それを信じられる根拠がないんだよね」
「確かにそうだな。だが心配せずともこちらも君に今死なれたら困る理由がある。決して君への詫びや贖罪でやる訳じゃない」
「・・・さいですか」
これ以上の論じていても状況は好転しない事を悟り、カナタは観念した様子で矢の刺さった左腕を持ち上げる。
シリウスはカナタの手を掴むと、腕に刺さった2本の矢を引き抜く。
「~~~~~~~~~~っ!!!!」
腕から駆け上った痛みに、カナタは思わず声にならない悲鳴を上げる。
抜けた矢が穿った穴から血が流れ出て腕を伝って地面に落ちる。
目の端に涙を浮かべるカナタを余所にシリウスは山猫師団から薬や包帯を受け取ると、手早く応急処置を済ませる。
手慣れた様子で腕に包帯を巻き終えたシリウスがカナタの目を見る。
「後はキミのとこの聖女にでも治してもらえ」
「どーも。お手数かけました」
さっきまで殺し合いをしていた相手の所属する組織、その親玉に治療されるという
人生初の奇妙な経験をした事に何とも複雑な心境のカナタ。
そんなカナタの気持ちを無視してシリウスは話を続ける。
「触れてみて分かったが筋力は並の兵士よりはあるみたいだな。とはいえシュンコウには遠く及ばない。そんな貧弱な肉体であるにも拘らずシュンコウに勝つとは大したものだな」
「・・・治療の合間に何を調べてくれちゃってんだアンタ」
知らぬ間に自身の身体能力を調べられ、非難の声を上げるカナタを無視してシリウスはカナタの姿を上から下まで観察。一通り観察し終えるとカナタの顔を覗き込む。
シリウスの青みがかった双眸がカナタの2色の瞳を捉える。
「左右で目の色が違うのか。それは生まれつきか?」
「・・・教えると思うのか?」
「素直に答える気はないと・・・。まあいいさ」
何やら納得したようにシリウスは1人で頷く。
自分の部下を大勢葬ってきた仇とも呼ぶべき相手を前に随分と呑気なシリウスの姿にカナタはどう反応すべきか迷う。
マイペースというかなんというか非常に相手にしづらい。
しかも、彼の持つ強大な気配に圧倒されて分からなかったが、そもそもこの男は現れた時からまるで殺気を向けてきていないのだ。
随分と落ち着いた様子のシリウスに、カナタは思わずその理由を尋ねる。
「アンタは怒ってないのか?」
「怒る?何について?」
カナタの問い掛けにシリウスは本気で首を傾げる。
何かの冗談かと思って表情を窺うが、その瞳に虚偽の色は見られない。
「マジかよ。自分で言うのもなんだけど俺はアンタのとこの手下をそれはもう結構な人数ぶっ殺してきたんだけど・・・」
「ああ、そうみたいだな」
「それに対して何も思わないの?仲間の仇を前にして怒りとか湧いてこない訳?」
カナタの問い掛けでようやくその意図を察したシリウスは少し考える様なそぶりを見せた後、表情を変える事無く淡々と答える。
「もちろん皆の命を預かっている俺としてはまったく怒ってない訳ではない。だからといってキミを恨むのも少し違うと思っている」
「どういう事?」
今度はカナタがシリウスの意図を量りかねて首を傾げる。
「別に難しい話じゃない。最初に戦いを仕掛けたのは俺達。仕掛けた理由も俺達の都合による所が大きい。そんな一方的な都合を押し付けられる人間達にしてみればたまったもんじゃない。そうだろう?」
「そりゃな」
「当然抵抗があって然るべき。その結果こちらに死者が出たとしても、それに文句を言うのはそれこそお門違いというものだ」
「そういうもんかねぇ」
「自分達の理想の為に他者の命を奪う以上、その他者によって自分の命が奪われるのは覚悟して当然。それが出来ぬならば戦場に立つべきではないし、そんな者に夢や理想を目指す資格もない」
シリウスの語った内容に流石のカナタも言葉を失う。
言っている事は分かるが、それは普通の人間の考え方ではない。
獣人というのがそういう考え方なのかとも思ったがスナー達の反応を見るにそういう訳でもなさそうだ。
(なんだろう。旅団なんてやってるから情に厚い奴かと思ったが、人望というよりはその力と畏敬の念で人を束ねてる感じなのかな)
この男が何故、星爪の旅団等という組織でボスの座に納まっているのかが分からない。
「俺の考え等、今はどうでもいいだろう。それよりも少年よ、俺こそキミに聞きたい事がある」
「そう。答えるかどうかは内容次第ってところだけど?」
「どうしても聞きたいなら力づくというのもこちらは可能なんだが?」
「それをやったところで俺が真実を吐くかどうか、あんたにそれを確かめる術があるのかい?」
相手の気まぐれで生かされているにも関わらず、随分と挑戦的なカナタの言葉。
普通なら相手の逆鱗に触れて感情的に殺されても仕方ない行為。
だが、シリウスは真面目な顔で何やら考え始める。
「う~む。そう言われると確かにそうだが・・・。まあいい」
思考を切り上げたシリウスはその視線をカナタへと戻す。
「俺が聞きたい事は1つだけだ。キミは何者でどこから来た?」
カナタにとっては少し予想外の質問だった。
それも当然。今更そんな事を聞いた所でシリウス達に何のメリットがあるか分からない。
「なんだそれ?そんな事聞いてアンタになんの意味がある?」
「確かに俺も最初は興味無かったんだがな。スナーからの報告に少し奇妙な点を見つけてね」
「奇妙な点?」
シリウスの言葉にカナタが怪訝な表情を浮かべる。
特に彼らが喰いつく様な出来事が頭に思い浮かばない。
不思議がるカナタを余所にシリウスは言葉をつづける。
「キミと遭遇してから数日、スナー達は国内に張り巡らせた網を使ってキミについて色々と調べていたんだが、その中でキミの存在が最初に確認されたのはカラムク領ヘソン村になる。魔獣との戦いで負傷したキミを聖女レティス・レネートと護衛の兵士が運び込んだと聞いている」
「それの何が不思議なんだよ」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、シリウスは口の端を吊り上げて笑う。
「ヘソン村より以前の旅の間、レティス・レネート達の旅にキミがいなかった事は確認している。その間、他のいかなる場所でもキミの様な人物がいたという痕跡がないんだよ。それこそ、どこからか突然現れたとしか思えないほどにね」
「・・・ただ印象に残らなかっただけじゃね?」
「勿論。普通の人間相手ならそれも考えられるが、キミは存在そのものが少々目立ちすぎる。それまで穏便に生きてきた等とは到底思えない程にな」
「いやいや、俺みたいな凡人どこにだって転がってるって」
シリウスの告げる内容に、背中に冷や汗をかきながらなんとか話をはぐらかそうとするカナタ。
だが、そんなカナタの悪あがきも空しくシリウスはさらにその包囲を狭めていく。
「しかもヘソン村に運び込まれた当時のキミは見た事もない服装をしていたという村人の証言も入ってきているんだよ」
「・・・・・結局、アンタは何が言いたいんだ?」
「俺はな。もしかしたらキミは天渡。つまりこの世界とは別の世界から来た存在なんじゃないかと思っている」
「っ!?」
確信を突くシリウスの言葉に、カナタの表情が思わず強張る。
まさか自分が異世界人だというブッ飛んだ事実に辿り着こうとする者がいるとは思わなかった。
「分からないぜ。他の大陸から渡ってきた可能性も・・・」
「それも検討したが、カラムク領の南東部の海は切り立った崖に面していて、とても接岸、上陸出来る様な地形ではないんだよ」
「・・・・・・空を・・・飛んできた可能性も」
「可能性はあるが、キミに空を移動する手段がある様には見えないが」
「ぐぅ・・・そう言うが、異世界なんて本当にあると思っているのか?」
苦し紛れに放った言葉、だがその言葉にシリウスは意外な事実で返す。
「それがそう不思議な話でもない。この大陸には太古より天を渡って異世界の民が降臨したという記録がいくつかあってな。しかもその多くが英雄として活躍したり、国家を樹立したりと様々な歴史的偉業を成しているんだ」
「・・・え、そうなの?」
シリウスの語った内容に思わず問い返すカナタ。
その瞬間、シリウスの目の奥に怪しい光が灯る。
「随分と喰いつくんだな。心当たりでもあったか」
「・・・あっ」
カナタは慌ててシリウスから目を逸らす。
思わず話が気になって食い気味に聞き返してしまった。
失敗したと思いつつも、カナタはそこで浮かんだ疑問をシリウスへと投げかける。
「ちっちなみに、俺がその天渡ってヤツだとしても、アンタ達に関係ないんじゃないのか?」
「そんな事はない。もし俺の予想通りキミが天渡だと言うなら俺達、星爪の旅団はキミを迎えたいと考えている」
「っ!?」
完全に予想外だったシリウスの発言にカナタが目を見開く。
だがそれは、この場に居合わせた山猫師団達も同じだったらしく混乱している様子。
「シリウス団長!そんな話聞いてませんよ!」
「正気ですか!コイツは仲間達の仇なんですよ!」
異議を唱える背後の山猫達にシリウスはゆっくりと視線を向ける。
「ウルサイな。俺は今、少年と話をしているんだ。少し黙っていろ」
肩越しに振り返ったシリウスの高圧的な態度に山猫達は一斉に口を閉ざす。
たったの一睨みしただけで、全員を黙らせたシリウスは、再び視線をカナタへと戻す。
「で、どうだろう。考えてもらえるだろうか?」
「いやいや、俺はまだあんたの言ってる天渡ってヤツだと認めてないんだけど・・・」
「ああ、そうだった。どの道こちらも今日は確認と挨拶だけのつもりだったからな。別に結論を急ぐつもりはないから安心してくれ」
「・・・人の話聞いてる?」
シリウスはカナタの話をまるで聞かずに一方的に話を進める。
「いずれまた使いを出すからその時までに答えを決めておいてくれ」
「はぁ・・・」
好き勝手に言い放つシリウスに生返事で答えるカナタに、シリウスは頼みもしないのにさらに話を続ける。
「後、折角だから忠告しておこう。キミがこのまま戦い続けたとしても聖女達は助からないし、キミも無駄死にするだけだから早めに傭兵を辞める事を勧めておく」
「それはどういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ。俺が語らずともキミ自身がいずれ知る事になるこの国の抱えた闇というやつをね」
そこまで言い終えると、シリウスは背後に控えていたスナー達に声を掛ける。
「俺の用件は終わった。戻るぞ」
「はぁ・・・了解です」
どこか納得いかない表情を浮かべながら、スナーはシリウスに従う。
2人に従い、他の山猫師団の者達も彼らの後に続く。
駆けだした獣人達はあっという間にカナタの前から走り去り、崩れた館の向こう側へと消えた。
「・・・あっちって湖の方角じゃなかったっけ。まあいいや」
橋がある方角とは逆方向に走り去ったシリウス達を、1人見送ったカナタは周囲に全く人の気配がなくなったのを確認してからその場に座り込む。
「はぁ、なんとか生き残ったか」
気が抜けたのか、一気に全身から力が抜けて天を仰ぐカナタ。
もう立ち上がる気力もない。
シリウスの残した言葉について考える。
「異世界からの来訪者、天渡か。俺以外にもいるのかなぁ」
もしかしたらその事を調べたら元の世界に戻る術が見つかるかもしれない。
(ま、今の所その予定はないし、帰るつもりもないけどな)
普通の人間ならばともかく、地球でも異世界でもカナタのやる事は特に変わってない。
だったら、今は目の前の仕事をこなし、レティス達の為に出来る事をやろうと思う。
「この国の闇だっけ?何があるか知らないけれど全部蹴散らしてやるから見てろよシリウス」
カナタはそう言って去っていた敵の親玉の顔を思い浮かべながら、虚空に向かって拳を突き上げた。
遅くなって申し訳ありません。
最近更新が遅くなりがちですみません。
ちょいと歯科治療とか色々ありまして・・・。
次は3日以内に上げられればと思います。
後、あるユーザーさんから提案があったのですが、
キャラクター詳細とかそんな感じのものってあったほうがいいですかね?




