第39話 宿ル大地ノ力
カナタが領主の館に入ると同時に、館の中から外へと虎の獣人達が次々と飛び出す。
館の中から現れた敵の数は20人。
さらにはリシッド達を館まで案内してきた男、門番に偽装して後からついてきた2人が加わり、総勢23人の獣人がリシッド達の前に立ちはだかる。
その中から、目を血走らせた1人の獣人が血気にはやって飛び出す。
「仲間の仇だ!死ねぇええええ!」
先頭切って突っ込んできた獣人がリシッド目掛けて拳を振り下ろす。
目の前に迫る攻撃に応じてリシッドも前に出る。
「それはこちらも同じ事だ!」
身勝手な感情をぶつけてくる目の前の相手、
荒ぶる感情を乗せて繰り出された鋭い拳打を両手に持った2本の剣で受ける。
激突の瞬間、ズンッ!と鉄球がぶつかった様な重たい衝撃が両腕にのしかかる。
やはり生物としての基本性能は相手の方が上、相手の力に押し込まれるリシッド。
「潰れろぉっ!そして死ねぇ!」
好き勝手な事を口から撒き散らす目の前の獣人、対するリシッドは冷静に対応する。
(落ち着けリシッド・フォーバル。力の強弱が勝敗を決する訳ではない)
その事は今までに何度だってこの目で見てきた。
力が強いものが勝つのではない。相手の命に先に刃を届かせた者が勝つのだ。
リシッドは相手が力を押し込んできた瞬間、腕の力を少し抜いて拳を受けとめている剣の確度を変える。
斜めに傾いた剣の上を、鋭い獣人の拳が上方へと滑っていく。
拳が上へと流れた事でガラ空きになった懐に、すかさずリシッドの体が滑り込む。
「っ!」
「まずは1人だ」
リシッドの声が相手の耳に届くよりも早く右手に持った刃が相手の脇腹に一閃。
脇腹に感じる激しい痛みと熱、急激に体から力が抜けて獣人の膝がガクンと落ちる。
「ぐうぅ何がぁあ」
混乱の中、痛みの出所へ目を向けると深々と切り裂かれて血にまみれた自身の脇腹。
自分が斬られたと認識した時、既に勝負は決していた。
相手が自分の受けた傷に気を取られた一瞬の隙に、左の剣で伸びきった右拳を真下から切り上げて落とし、右手の剣を相手の胸へと叩き込む。
鋭い剣先が獣人の分厚い胸板を貫き、その命を絶つ。
「ごぼぉ」
血を吐き崩れ落ちる獣人。
物言わぬ死体となった相手を見下ろした後、リシッドの目が目の前の獣人達に向けられる。
力も数も上で圧倒的有利な獣人達、それに対しリシッド達は半分以下のたった8人。
劣勢も劣勢。そんな状況にありながらリシッド達は怯む気配はない。
むしろ闘志に満ちたその瞳が、獣人の本能を刺激し警鐘を鳴らす。
この相手は決してなめてかかってはいけない相手だと、改めて認識する。
逆にリシッド達もそんな相手の油断が消えた事を察知し。剣を握る手に力を込める
。
「これは・・・ちょっと早まったっすかね」
「アンタねえ。それ今更言う?」
前回は戦いの時にはいなかった新参メンバー2人が今更そんな事を言う。
無理もない。彼らにしてみればとばっちりもいいところだ。
ただ星爪の旅団の目的が聖女と貴族の抹殺である以上、どういう道程を選んだとしても、
いずれぶち当たるか、その前に死ぬかしかなかったので結局は同じ事だ。
「しっかしこちらの増員が2人に対して向こうは前回よりも8人増えるってのは流石に酷くないですか」
「どうだろうね。今、見える範囲の死体をざっと数えたんだが30人以上いるから合算するとこちらの方が人数的に多いって事にはなるんだよな」
「おいおい、そういう嫌な計算はするなよ」
「まったくだ。今回ばかりはジーペに賛成だな」
サロネ、ダットン、ジーペ、ベーゾンの4人がいつもの調子で言葉を交わしながら武器を構える。
彼等とて決して余裕がある訳ではないが、今日までの戦いの中で随分と鍛えられたという自負がある。
最もカナタが引き起こすイザコザに散々巻き込まれた為に感覚が麻痺したともいえるのだが・・・。
「状況はあまり良くありませんが勝算はおありですか隊長?」
「そんなものがあるのなら是非とも御教え頂きたいものだ」
「そこは嘘でも勝算ありと仰って頂かないと士気に関わるんですが」
「悪いなシュパル。私は嘘と冗談が苦手なんだ」
「ハハッ、そうでしたな。私とした事が失念しておりました」
リシッドとシュパルの2人も目の前に迫る敵を前に落ち着いた様子で得物を構える。
普通に考えれば絶望的状況にも関わらず眼前の脅威を前にまるで負ける気がしない。
何故だろう。魔法が掛かったかのように全身に力が漲る。
(あのバカのノリに当てられた様で少し癪だが、たまにはそういった感覚に身を任せるのも悪くない)
手にした双剣を握りしめてリシッドが前を向く。
目の前の獣人達がこちらに歩みを進めながら仲間内で情報共有をし始める。
「お前達、本気で掛かるぞ」
「勿論だ」
「ただし、間違っても事が終わるまで聖女2人には手を出すなよ」
「分かっている。そんな事をしたらシュンコウ師団長に殺されるからな」
「ああ、あくまで仲間の仇を討つのが先だ」
「仲間の仇だ。最も苦しい死を与えてやれ」
殺意に満ちた44個の瞳から突き刺すような視線が向けられる。
獣人達の一団の先頭にリシッド達を案内してきた男が代表して前に出る。
「虎爪師団!本能の赴くままに目の前の敵を喰い散らかしてやれ!」
『おぉおおおおおおおおおおおおおっ!』
大気を震わせる22人分の虎の咆哮をその身に受けながらリシッドが声を上げる。
「来るぞ!リシッド隊、陣形を組んで応戦!」
『了解!』
再び押し寄せる獣人を前にリシッド隊も隊列を整え迎え撃つ。
ダスター、ダットン、ベーゾンを前衛、左翼側にシュパル、テーラ、右翼側にジーペとサロネ、センタ―にリシッドの隊列。
「聖女様2人は巻き込まれない様に離れた場所へ退避してください!」
「はいっ」
「分かりましたわ」
リシッドの指示に従ってレティスとリルルが彼らから少し離れた場所へ移動する。
離れ際、リシッドが聖女2人に視線で合図を送る。
それは今回の様な事態を想定して前もって決めていた作戦を実行に移す合図。
リシッドの意図を理解したレティスとリルルが小さく頷く。
「やりましょう。リルルさん」
「言われなくても分かっていますわ」
言葉を交わした後、リシッド達から少し離れた位置に移動し、すぐに2人は杖を構えて詠唱を始める。
「我等、大いなる神レメネンの十六使徒なり、大地に神霊達よ我らが声を聞け」
「古より共にこの地を守りし者達よ、今一度我らの願いを聞き届け給え」
聖女2人が詠唱を開始し始めたのを遠目に確認したのと、ほぼ同時に前衛が目の前の敵とぶつかる。
もちろん何もせず真っ向からぶつかれば先程のリシッド同様、力負けするのは目に見えている。
だが、リシッド達には獣人達の知らないとっておきの秘策があった。
(今こそ、使わせていただきます土精霊の長よ)
リシッドは懐に隠し持っていた卵程の大きさをした琥珀色の石を取り出す。
同じ様にリシッド隊のメンバー全員が隠し持っていた石を手にする。
『土精霊よ我らに今こそ大地の加護を!!』
リシッド達の声に合わせて琥珀色の石が光を放つ。
光はリシッド達の手の中の剣へと収束すると、彼らの手の中でそれぞれに形を変えていく。
「何をする気か知らないが、もろともに引き裂いてくれる!」
「死ねぇ!人間共!」
最前列に立っていた獣人達が叫び声を上げ、光を手にしたダットン達前衛組に向かって襲い掛かる。
対するダットン達前衛3人組はラグビーのタックルの様に相手の攻撃に向かって突っ込む。
「うおりゃぁあああ!」
「そいやぁああああ!」
「だりゃぁああああ!」
繰り出された獣人の拳に向かってダットン達が手の中の光を前に突き出す。
瞬間、グシャリという鈍く生々しい音が辺りに響く。
「グギャァアアアアッ」
「ヌグゥオオオウッ」
「ばっ馬鹿なぁあああ!」
痛みに悲鳴を上げたのは虎の獣人3人、見れば繰り出した彼らの拳はグシャグシャに潰れて骨が肉を突き破って剥き出しになっていた。
対するダットン達3人は無傷。掠り傷一つ負ってはいない。
「流石は土精霊の力、凄い衝撃吸収能力だ」
「あっ、でもちょっとだけ肩と足が痛いっす」
「だが、これならイケるな」
3人はそう言ってキッと鋭い視線を前に向ける。
彼らの手の中には先程まで握っていた剣とは異なる円形の大きな盾が握られていた。
「くそっ!なんだアレは!」
「怯むな!相手は盾しかもっていない!」
「力で押し込め!」
手を負傷した獣人達に代わって後ろから次の獣人達が前に出る。
相手が前に出るのと同時にダットン達3人も一歩後ろへ下がる。
瞬間、盾と盾の隙間から槍の先が突如飛び出し、獣人の体に突き刺さる。
「ぐぅあっ!」
「げぇっ!」
短い悲鳴を上げて攻撃を受けた獣人達が後退る。
相手が怯んだその隙に目の前の盾の間からリシッド達が武器を手に飛び出す。
直後、刃の嵐が吹き荒れて獣人達の体を切り刻む。
獣人の強靭な肉体が瞬く間に血に染まり、次々に地に倒れ伏す。
「どういう事だ!」
「あんな武器は以前はなかったはずだ!」
「どういう事だ!聞いていないぞ!」
苦々しい表情を浮かべる獣人達を前にリシッド達が手にした武器を構える。
その手の武器は異様な形に変化を遂げている。
リシッドの手の双剣は青龍刀の様な大振りの曲刀へと姿を変え、
サロネ、テーラの武器は長槍、ジーペとダスターは戦斧、シュパルは大剣へと変わっている。
「いや~凄いですね。コレ」
「こんなに強いとは思わなかったっす」
「性能だけじゃない。力まで溢れてくるわ」
手にした武器から流れ込んでくる力を感じながらリシッド達が前を向く。
目の前で起こった事が信じられず、獣人達の間に動揺が広がる。
呆気に取られている獣人達を余所に、今が好機とリシッド隊が攻勢に出る。
「総員突撃ぃっ!」
『応っ!』
リシッドの掛け声に合わせてリシッド隊は隊列を保ったまま目の前の獣人の一団に向かって突っ込む。
自分達よりも強靭な肉体を持つ獣人達の一団をたった8人の兵士が分断していく。
「クッ!怯むな!敵はたった8人だ」
「力も数も我らが上だ!」
「押し返せぇ!」
なんとか現状を呑み込んだ獣人達もすぐに応戦を開始する。
目の前の戦況を分析しながら、リシッドは冷静に状況を見極める。
(事前に聞いてはいたが土精霊の加護の力は凄まじいな)
それ故に状況を甘く見ない様、戦況を正しく判断する必要がある。
(油断はできない。全て倒しきれなくても、せめて数の優位が取れる状況まで持ち込まなくて)
リシッドは自分の手にした武器、精霊武器<スピリット・アームズ>を授かった時の事を想いだす。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時は遡って土精霊ドノウとの戦闘の後、平原の真ん中でリシッド達は腰を下ろし休んでいた。
彼らの目の前では土精霊ドノウが鼻歌交じりに奇妙な踊りを舞っている。
「ホッホホイのホイホイ~ホホイっと~」
『おお~』
ドノウが舞う程に戦闘で荒れ果てた大地の裂け目がみるみる埋まり、
マグマや雷撃で焼けた大地から上には草花が芽吹いていく。
その光景を見ているだけで土精霊ドノウの持ちうる力の程が窺い知れ、
今までの戦いが彼が見せた力がその全てでなかったという事が良く分かる。
「ジジイ。さっきの戦い本気じゃなかったろ」
「ホッホッホ。さて、どうじゃろな~」
「・・・ホント嫌味な爺さんだ」
相手の出した条件をクリアして勝利したにも関わらず、カナタは面白くなさそうに憮然とした表情を浮かべる。
彼としては割と全力で挑んだ戦いだっただけに、その胸の内の悔しい気持ちも分からないではない。
とはいえドノウが全力だったなら生き延びる事は不可能だったのだから、ここで文句を言っても仕方がない。
そうこうしている間にも荒れ果てていた平原は瞬く間に元の姿を取り戻す。
「ホッホ。ざっとこんなもんかのぉ」
周囲の景色を見てドノウは満足そうに頷くと、休んでいたカナタ達の方へと向き直る。
巨大蛙の巨体の前、聖女2人に傷を癒されるリシッド隊にドノウは満面の笑顔で尋ねる。
「ホッホッホ。それでワシに勝った褒美はやるとしようかのぉ?」
「どうでもいいけどくれるなら早くくれないか?こっちも早く次に行きたいんで」
「カナタくん。流石にその言い草はちょっと」
「精霊様が相手だしもうちょっと敬意をもった方が・・・」
仲間達からの非難の声が上がるが、カナタはそれらを全て右から左へ聞き流す。
「ホッホッホ。かまわんかまわん。それよりも役に立つものという話じゃが生憎我々精霊にお主等人間にとって何がどれ程役に立つかというのが分からんでの~。とりあえずこんなもんでよいかのぉ?」
そう言ってドノウは手に持った小さな杖で地面を2度叩く。
すると地面が盛りあがり、土の台座を形成する。
リシッド達は立ち上がって台座の上を覗き込むと、台座の上には琥珀色の輝きを放つ石が8つ。
「あの~これは?」
「ホッホッホ。むか~し冒険者やっとるドワーフと契約しとった時に遊びで作った道具で、魔核の武器を強化する道具なんじゃ」
「魔核を強化?そんな事が出来るのですか?」
「まあの~魔核というのは魔力の塊。精霊の力とは性質の違いこそあれ同じ魔力。じゃから相互に干渉して力を高め合う事が出来るのじゃ」
「なるほど」
「その様な事が可能だったのですね」
ドノウの説明を聞きながらリシッドやテーラが納得したように頷く。
何やら話し込むドノウとリシッドを遠目に見ながらカナタが呟く。
「なあ、前から思ってたんだけど魔核って何なの?」
「えっ?カナタさん知らないんすか?」
「マジかよ」
「ベーゾン。教えてなかったんですか?」
「・・・知っていると思っていた」
「そういえばカナタくんって常識ないんでしたね」
仲間達から改めて非常識呼ばわりされた事に不服そうに頬を膨らませるカナタ。
とはいえ教えてもらわない事には何もわからないので早く教える様に催促する。
やれやれといった様子でベーゾンが語り始める。
「この世界の至る所に形のない力が常に漂っている。我々はそれを魔力と呼んでいるのだが、その魔力が集まって結晶化したものが魔核。魔力をコントロールする核となる事からその名が付いたとされている」
「ふ~ん」
「魔術師達の様に魔力を操る力を持たない者でも魔力を操る事が出来る事から戦闘を生業とする者達からは重宝される様になった」
「そうそう。しかも魔核にも色々な種類があるんですよ」
「種類?」
話に割り込んだダットンの言葉にカナタが首を傾げる。
その疑問を補足するようにベーゾンが言葉を繋ぐ。
「うむ。一般的に世に出回っている魔核の多くは魔獣の体内で蓄積された魔力が結晶化して出来た魔獣魔核か、魔力が溜まりやすい山なんかで採掘される鉱石魔核。ちなみに俺達の使っている剣には鉱石魔核が使われていて、ルード殿やデニク殿といった王国騎士や悪欲三兄弟のダゴなんかが使ってた剣に使われているのが魔獣魔核だな」
「そうなんだ。じゃあ俺のは魔獣魔核?あれ?でも前に霊獣魔核とか言われたような気が?」
言いながらカナタは自分の腰に携えているヘンゼルとグレーテルに触れる。
その言葉を聞いてサロネが目を輝かせながら話に割り込む。
「何言ってるんだい。カナタくんの持っているのは紛れもない霊獣魔核。所謂上位魔核に分類されている凄い物なんだよ」
「上位魔核?」
鼻息荒く語るサロネに若干引き気味に尋ねる。
「上位魔核っていうのはね。通常の魔核よりも強く特異性を持った魔核の事だよ。霊獣魔核の他だと聖獣魔核に凶獣魔核、龍魔核とかがそれに分類されるね」
「うむ。後は大陸中にも僅かとされる超越魔核っていうのがあるな。星獣魔核、龍王魔核、天獣魔核というのが存在している。他にも実在するかは不明だが伝承の上では天龍魔核、と邪龍魔核というものが存在したという記録もある」
「はぁ・・・」
何やら熱っぽく語るサロネとベーゾン。
どうやら2人ともこういう話が好きらしい。
きっとレアカードとかレアガチャに夢中になる子供と同じ心理なのだろう。
「ちなみに小僧の霊獣魔核にこの道具は効果を発揮せんからの」
ベーゾン達の説明に割り込んできた声にカナタが視線を向けると、
いつの間にか話を中断していたドノウ達がこちらを見ていた。
「なんでクソ貴族達のは良くて俺のはダメなのさ」
「ホッホッホ。こ奴らの魔核と違って霊獣魔核は強力な上に固有の特性を持っとる。その特性が邪魔をしてうまく機能せんのじゃよ」
「なるほど。確かにヘンゼルとグレーテルは雷の力。土精霊とは相性が悪そうですしね」
「はあ、なんだよそれ。じゃあ俺の分は無しかよ」
カナタはそう言って両手足を投げ出して地面に寝そべる。
不貞寝を始めたカナタを余所に、リシッドは台座の前に集ると、台座の上の石を見詰める。
その後ろでテーラがおずおずと手を上げる。
「あの~それって私達も貰っていいんですか?正直あまり役に立った気がしないんですが」
「ホッホ。まあ今回はお主等の息の合ったこんびねーしょんというヤツに一杯食わされた所もあるからのぉ。おまけじゃ」
「ほんとですか!」
「やったっすね!テーラの姉御!」
自分達も貰えると聞いてテーラとダスターが歓喜の声を上げる。
お伽噺程度でしか知らない精霊の道具が手に入ると言うのだから彼らが喜ぶのも無理はない。
喜びに打ち震える部下達の前でリシッドは琥珀色の石を手に取る。
「ホッホ。ちなみにその石の能力は武装強化。術者に応じて武器の形態を変化させる。しかも単純に武器を強化するだけじゃなくて武器の性能に合わせて使用者も強化してくれる優れモノじゃ」
「おお!」
「それは凄い!」
能力を聞いただけで盛り上がるリシッド隊の面々。
間違いなく今後の旅の助けになる力だ。
「ただし、これも所詮は道具。使いたい放題使えるというモノでもないぞよ」
「使うのにも条件があるという事ですか?」
「うむ。その通りじゃ」
ドノウの言葉にリシッド達の表情が真剣なものに変わる。
これからの自分達の命に関わる話。聞き逃したりしない様に意識を向ける。
「ドノウ様。その使用条件とは何なのでしょうか?」
「うむ。使用条件はいくつかあるが、まずガノン王国領内である事。ワシが土精霊の長といってもあくまでこの辺りに限る。他国の精霊にまで協力を取り付けられるかは正直微妙なんじゃ」
「なるほど」
「我々の活動範囲はあくまで王国領内ですからそれは問題ないかと」
ドノウの告げた条件を確認する様にリシッド達が頷きあう。
この先どうなるかは分からないが、とりあえず今は王都へ無事に辿りつければ良い。
「うむ、ならば次じゃな。常に地脈の傍に身を置いて置く事」
「地脈ですか?」
「そうじゃ、その道具は当然の事ながら精霊の力を使うんじゃが、精霊は基本的には地脈の傍に棲んでおるからの」
ドノウの告げた2つ目の条件に一同が困惑した様子で顔を見合わせる。
というのも彼等人間種に地脈を見ることは出来ない。
亜人種の一部か魔族にならばそういう能力を持った者もいるようだが、
「お言葉ですが、我々には地脈を見る術がないのですが」
「分かっておる。心配せずともそれは人間様に作られた道具じゃ。近くに地脈があれば感知できるようになっておる」
「そうなのですか」
「うむ。その証拠に石を見てみぃ」
促されるままリシッド達は手の中の石を覗き込む。
石の中心部分に何やら光の玉の様なものが浮かんでいるのが見える。
「石の中心部分があわ~く光っとるじゃろう。そんな風に石の中心が光っとれば近くに地脈があって精霊の力を借りられるという合図になっておる」
「分かりました。気を付けるようにします」
「よろしい。では最後の条件じゃが、その道具は魔核武装にしか効果がない。同時に魔核の持っているエネルギーを消費するようになっとる。現状のお主等の武装だと発動していられる時間は恐らくお主等人間でいう所の10分程度。魔核が成長すればもうちょい保つようになるだろうが今はそれぐらいが限界じゃろう」
説明を終えたドノウがニンマリと楽しそうに笑みを浮かべる。
リシッド達には説明しなかったが、この道具を使えば精霊間の連絡網で彼らの状況を共有できる様に作っている。
それを見て彼らの今後を観察して楽しむつもりだ。
(こ奴らを観察しておればしばらく退屈はせんじゃろうて)
そんな底意地の悪い事を考える内心で笑うドノウ。
一方、精霊の道具を授けられたリシッド達を羨ましそうに見る聖女2人とカナタ。
「ホッホッホ。そう残念そうな顔をするな」
「べっ、別に残念とかじゃねーし」
「私も別に物欲しそうになどしておりませんわ」
「そうですか?私は少しだけ羨ましいです」
強がるカナタとリルル、羨望の眼差しを向けるレティス。
「心配せんでも、使徒様の転生者2人と童には他にやるものがある」
「マジッ!」
「私達も精霊様から何かお譲り頂けるのですか?」
「うむ、それについては今から説明するんで少し待っておれ」
ドノウはそう言って一度リシッドへと目を向ける。
「その道具、精霊武器<スピリット・アームズ>』の特性や弱点をよく考えて使いこなし、生き延びて見せよ」
「御忠告ありがとうございます。頂いた力を必ずや使いこなし全員無事に王都に辿り着きます」
「ホッホッホ。お主等の今後の活躍期待しとるぞよ」
そう言ってドノウは再び笑い声を上げるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ドノウからの言葉を思い出したリシッドは目の前の敵の一団に目を向ける。
制限時間は10分。決して長い時間とは言えない。
この短い時間を有効に使いきれなかった場合、自分達に勝機はない。
(制限時間がある事を相手に気付かれる事無く攻め切らなければならない)
他のメンバーもその事を十分に理解しているらしく。
獣人達に向かって一気呵成に攻め立てる。
ここに来るまでに何度かこの武器を使って訓練をして、各々の武器の特性を理解してフォーメーションも考えた。
前衛3人を防御の主軸として、残りの4人が前衛と入れ替わりながら攻撃に転じる。
いかに獣人が優れた身体能力を持っていたとしても防御と攻撃の隙間が無ければ攻撃に転じるのも容易ではない。
「何をやっている!相手はたった8人だぞ!」
「うるさいっ!そんな事は分かっている!」
「クソッ!何故1人も倒せない!」
数の上でありながら相手に攻め込まれる獣人達が怒りの声を上げる。
そんな敵の一団の中から、上空へと飛び上がる3つの影。
「馬鹿共が、正面から突破しようとするからそんな事になるのだ!」
「真上から押し潰してやる!」
鋭い爪が唸りを上げて頭上から迫る中、ベーゾンの背を蹴ってリシッドが上空へと飛び上がる。
奇しくもそれはいつかの森での戦いと同じ構図。
あの時は1人を倒せたが残りを仕留めきれずに地面に落とされた。
「今度は全員落とす!」
自分達に向かって飛び上がってきたリシッドに向かって獣人達がその矛先を変える。
「人間風情が舐めるな!」
「叩き落してやる!」
空中での激突。
1人目が繰り出した鋭い爪に向かって、一手早くリシッドが剣を振り下ろす。
強靭な硬さを誇る獣人の爪が腕ごと縦に真っ二つに切り裂かれる。
驚きと痛みに目を剥く相手への体へと斜めに刃を走らせて切り裂く。
「なん・・・・だと・・・」
「落ちろ」
全身から力が抜け、落下を始める獣人の体を踏みつけてリシッドは更に飛ぶ。
「おのれぇええええええ!」
「貴様!よくもジーンをぉおおお!」
後続に続いていた残りの2人がリシッド目掛けて、同時に拳を蹴りを繰り出す。
狙いは正確、当たればひとたまりもないであろう一撃。
「受けろ。これが貴様らに殺された者達の痛みだ!」
両手の剣を強く握ると、リシッドは空中で大きく体を捻って回転する。
リシッドを中心に築かれた刃の輪が獣人2人の手足を斬り飛ばす。
大きく姿勢を崩された2人の獣人はそのまま重力に引っ張られて味方の頭上へ落下する。
「ぐへあっ!」
「ぐがぁっ!」
落下してきた仲間を受け止めた獣人達が頭上を見上げる。
リシッドはそのまま敵の一団に向かって上空から飛び込む。
「お前達誰1人として逃がしはしない!」
「ほざけぇっ!」
「それはこちらのセリフだぁああ!」
敵の中心に降り立ったリシッドに向かって獣人が襲い掛かる。
乱戦の様相を呈してきた戦場から離れた位置。
聖女2人はその様子を見ながら自分達の役割を果たすべく行動していた。
土精霊ドノウから彼女達に与えられたのは力や物ではなかった。
レティスやリルル。十六使徒が本来有する筈の力の一部を行使する為の知識。
彼曰く、十六使徒は元々戦う力を有していたが、戦いのない期間が長く続いた事により、
代を重ねる毎にその力や記憶が失われていったのだろうという話だった。
「十六使徒の操る力は神霊の力。ワシ等精霊とも近しい存在じゃ。その力の一部を操る術を伝授しようぞよ」
そうしてドノウによってが十六聖女の2人は、長き時の中に消えた力を再びその手の中に取り戻した。
「今こそ目覚めよ。大地の戦士!ガイアウォーリアー!」
「大地の守護者よ、ここに顕現せよ!グランドガーディアン!」
詠唱を終えた2人の前に、淡い光を伴って魔方陣が浮かび上がる。
その中心には2m程の巨大な体躯をした2体の土人形が立っていた。
片方は巨大な大剣をもった上半身裸の人型の巨人、
もう一方は大きな全身を鎧に包んだ大きな盾を持つ人型の巨人。
今まで戦う力がなく守られてばかりだった2人が初めて行使する戦う為の力。
他者を殺しうる力を前に腰が引けそうになる自分をレティスは叱咤する。
今まで自分がカナタやリシッド達に負わせてきた重荷を共に背負い、生き延びるために。
「ガイアウォーリアー!リシッド隊長達を援護してください!」
「グランドガーディアン!敵を薙ぎ払いなさい!」
聖女2人の命に従い、2体の巨人が行動を開始する。
この2体の投入により、戦局はリシッド達有利へと大きく傾く。
「よし、このまま一気に行くぞ!」
『応っ!』
リシッドの掛け声に皆が応じた直後だった。
ズッドォオオオオオオオオン
まるで大地を揺さぶる振動と、鼓膜に突き刺さる轟音が周囲に広がる。
何事かと周囲を警戒するリシッド。周囲の獣人達も攻撃の手を止めて周囲を確認する。
直後に頭上に黒い影が差したのを確認し周囲の全員が空を見上げると、
頭上を覆いつくす程の石や木材。恐らく吹き飛ばされた館の屋根と思しき破片が降り注ぐのが見えた。
「なっ!」
「そんなっ!」
「ヤバイッ!」
「総員、敵を警戒しつつ全速後退!」
敵味方関係なく全員が降り注ぐ破片の雨から逃れるべくその場から離脱する。
僅か数秒の間に、重力に引かれた巨大な天井の残骸が地面に落下し粉塵を巻き上げる。
撒き散らされた破片が飛び散る中、2体の土の巨人がリシッド達を守る様に前に出る。
「無事ですか!」
「ありがとうございます聖女様!」
「それよりもこの破片って・・・」
「ああ、こんな事が出来るのは恐らく・・・」
これだけの破壊はあの馬鹿には出来ない。
出来るとすればそれは敵の大将たるあの男しかいない。
「領主の館を吹っ飛ばすなんて、どんなパワーだよ」
「カナタくんは大丈夫でしょうか」
「・・・マズイかな」
「いくらなんでもこれはマズイんじゃないっすか?」
建物を半壊させる程の強力な力を持つ敵の力。
それに対しカナタは決して力が強いタイプの戦士ではない。
カナタに勝てるのかという不安が隊員たちの間に広がる中、
ただ1人落ち着いた様子でリシッドが前を向く。
「アイツの事は気にするな。俺達は目の前の敵に集中するんだ」
「・・・しかし」
「今からでも向こうの手助けに行った方が」
自分達が加勢に行った所でどうにかできる保証はない。
それでも何か助けになればと思う部下達の言葉にリシッドは首を左右に振る。
「向こうはあのバカに任せたんだ。それともアイツがただ力が強い程度の輩に負けるとでも?」
「それは・・・ありえないですね」
「絶対ないですね」
「むしろ相手をおちょくってそうですね」
リシッドの言葉に納得した様子で隊員達が口々に意見を口にする。
次第に彼らの表情から不安がなくなり、集中力が戻ってくる。
「そういう事だ。奴を信じて我々は我々の役割を果たすぞ」
『了解!』
隊の思いが一丸となったところへ獣人達が積み上がった瓦礫の向こうから飛び出してくる。
リシッドは向かってくる獣人達を前に薄く笑う。
その脳裏には以前、森での戦いでカナタと交わした約束を思い浮かべていた。
「そういえば奴との勝負を預けたままだった。丁度いい。あのバカより早くお前達を倒して今回こそ俺はアイツに勝つ!」
咆哮と共にリシッドは獣人を迎え撃つ。
精霊武器の稼働リミットまで残り時間4分。
戦いはより一層激しさを増していく。
なんだか最近更新頻度が遅くなり申し訳ない。
歳かな?歳なのかな?実感したくないな歳。
そういえばアクセスのユニークが3000を越えました。
ご覧いただいている皆様に感謝です。
それはさておき次回は40話。
キリのいい数字に相応しく?
カナタ対シュンコウの戦いです。
タイトルは『凶刃ト狂虎』です。お楽しみに




