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第34話 嵐ヲ呼ブ少年

土精霊ドノウとの戦いから6日が経過。

この間、獣人達からの襲撃はなく順調に旅程は進み、カナタ達はユーステス領の北西部にあるイシマという町に辿り着いた。

イシマはユーステス領に隣接するベシュナー領と山一つ隔てた場所にあり、

此処を抜ければ、いよいよベシュナー領へ入る。


ちなみにこのイシマには他の村や街にない特徴がある。

それは良質の武器や魔核武装の素材となるレウレーン鋼という名の金属の産地である事。

その産出量はガノン王国内でも1、2を争う程であり、

町の中は、素材の買い付けに来た商人や、ここでしか手に入らない武器を求めて訪れた冒険者や傭兵でかなり賑わっていた。


「へぇ~。領主の街以外でもこんだけ賑わってるとこがあるんだな」


多くの人で賑わう通りを歩きながらそんな事を呟くカナタ。

彼にとっては領主の街以外でこれほどの人を見るのは初めての事。

物珍しそうにキョロキョロするカナタの隣を歩くダスターも同じ様に周囲を見渡しながら答える。


「そうっすね。確かにこのイシマは王都から離れている町の中ではかなりのものだと思うっすよ」

「そうなんだ~。やっぱそうなんだな~」


ダスターの答えに納得と言った様子でカナタは通りへと視線を戻す。

そこでふと目の前の景色に抱いた疑問が口をついて出る。


「ところでなんで野郎ばっかなんだ?」


言われてみれば確かに道行く人達の大半は商人や、屈強そうな体躯の職人や傭兵達。

男女比でいえば1対9で圧倒的に男性比率が高い。

確かにこの町の栄えた理由を知らない者からすれば異様な光景かもしれない。


「カナタさんは知らないんでしたっけ?この町はガノン王国内でも数少ないレウレーン鋼の産地で、ここにいる多くの人がその鉱石やそれを使って作られた武器や道具を求めて集まってるんすよ」

「へぇ~。って事はこの中の何人かはご同業って事か」


ダスターの答えに納得した様子でカナタが前方へと視線を戻す。

確かに言われてみればそれらしい男達がさっきからちらほら目に入る。

その多くが自分の持つ武器を見せびらかす様に背中や腰に下げている。

確かに武器の性能だけ見れば悪くはなさそうだ。


「使い手がヘボだったら無意味だけどな」


目の前で身の丈ほどもある巨剣を背負った男を見ながらカナタが呟く。

その言葉が耳に入ったのか目の前の男がカナタの方を振り返る。


「あん?小僧、今なんか言ったか?」

「別に~」

「カナタさんっ!ちょっとー!」


いきなり揉め事を起こしそうになるカナタの肩を掴むダスター。

こちらを睨んでいた男もダスターの恰好を見て国の兵士と分かったらしく、

舌打ちをしてどこかへと歩き去っていく。

どうやら揉め事を回避したと安堵するダスターがカナタを見る。


「出てくる前に、余計な揉め事は起こすなって言われてなかったっすか?」

「ああ、そんな事言ってたかもね~」


そう言って素っ気なく答えるカナタにダスターの口から思わずため息が漏れる。

実は買い出しに出てからというのもカナタの機嫌が悪い。

それは今、2人が町へ買い出しに来ている事に関係がある。

そもそも今、2人の周囲に他のメンバーの姿は見えない。


「あのクソ門番のヤツ。次会ったら覚えてろよ」

「・・・ははは」


何やら不穏な発言をするカナタに思わず苦笑いするダスター。


事の始まりはイシマの町についてすぐの事だった。

この町にはレメネン聖教会の司祭がおり、町に入ったら聖女2人は教会に顔を出す事になっていた。

勿論、カナタもこれに護衛としてそれに同行するつもりだったのだが、教会前で門前払いを喰らった。

なんでも傭兵という人の命奪う事で生計を立てる様な汚れた仕事をする者は、

聖域たる教会の敷地に踏み入る事を許さないというのが向こうの言い分。

そう言った経緯から現在こうしてダスターと2人で買い出しに来ているのだが、

カナタの怒りは収まっていないらしくずっとご機嫌ナナメなのだ。


「なんで護衛の兵士が良くて傭兵がダメなんだよ。馬鹿じゃねえの?」

「それをおれっちに言ってもどうにもなんないっすよ」

「愚痴くらい聞いてくれてもいいじゃん」

「まあ、気持ちは分かるっすけどね」


カナタの愚痴に併せて愛想笑いを浮かべるダスター。

確かに命を奪うという点に関しては兵士だって大差はない。

カナタには言っていないが、実はこの町の司祭が大の傭兵嫌いである事は兵士の間では有名な話だ。

今回も単純にルールがどうのというよりは、司祭の好き嫌いが原因で追い返された可能性が高い。


(でもこれ言ったら絶対この子、教会に乗り込む気がするっす)


こうして話をしてみて分かったが、思った以上にカナタの内面はガキだ。

今もこうして無駄に喧嘩を吹っかけたりして、八つ当たりしている事からもそれは明らかだ。


(リシッド隊長が、ああ言ってたのも分かる気がする)


買い出しに出る前にダスターはリシッドから、司祭の件については絶対カナタの耳に入れるなと言われていた。

最初は何故そんな事を言うのか分からなかったが、今なら納得できる。


「思った以上に面倒くさいっす」


こんな事なら買い出しに志願しなければよかったと今更ながら後悔する。

後悔に苛まれるダスターの隣で、カナタが足を止める。


「なあ、ダスター。この店寄ってってもいい?」

「えっ?」


呼びかけられたダスターも足を止め、カナタの方へと振り返る。

カナタの指差した方へと目を向けると、店先に並ぶ武器の数々。

一目見て武器を取り扱う類の店だと分かる。


「流石イシマ。これだけの武器を店頭に無造作に置くなんて・・・」


他の町であれば相当な額で取引されるであろう武器が、

ポンと店先に並べられている光景にダスターも言葉を失う。

この町でしか見られないであろう特異な光景に気圧されるダスターの隣でカナタが店の中へと足を向ける。


「買いたい物あるから寄って行こう」

「え、ああ、そうっすね」


ダットンに頼まれている買い物リストに今回、武具の類は入っていないが、

ここは好きにさせた方が、カナタの機嫌も良くなるだろうと思い、彼の意見に同意する。

中に入ると、すぐに金属特有の匂いが鼻をつく。

店内は思ったよりも広く、そこらかしこに刃物や鈍器が並べられている。

地球、それも日本であれば絶対にお目に掛かれない光景を前にカナタが感嘆の声を漏らす。


「うぉっほ~。すげぇ~」

「まあ、国内でもトップクラスの武器の町っすからねぇ」


ダスターの説明などまるで聞かずにカナタが店の中を歩き出す。

店内は扱う武器によってコーナー分けされており、宛ら本屋かCDショップの様相だ。

大剣、長剣、片手剣、短剣、ナイフ、メイス、鎌、斧、ハンマー、槍等、種類も豊富。

そんないくつもの武器がある中、カナタは迷う事無くナイフ等が並ぶコーナーへと足を向ける。


「投げナイフはっと・・・」


ヘソン村での戦闘で使い切ってしまった投げナイフ。

その代用品になるものはないかと目の前のナイフを眺めるカナタ。

元来、カナタの得意とする戦闘スタイルは中近距離戦。

銃かナイフで攻撃、もしくは牽制し、近距離でトドメを刺すのがパターン。

今まではヘンゼルとグレーテルを主体に、環境に合わせて対応してきたが、

シュンコウ級の相手と戦う場合、今のままでは勝ち目が薄い。


(恐らくヤツとはもう一度戦う事になるだろうし、今のうちに装備を充実させておかないとな)


シュンコウとの再戦を見越して、今から用意をしておく必要がある。

そう考えてカナタは目についたナイフを手に取って確かめる。


「ふむ、グリップ部分の造りなんかは悪くない」


手にした感触を確かめながら指先でクルクルと回して取り回しも確かめる。


「出来れば同じやつで数を揃えたいんだけどな」


投げナイフという武器は基本消耗品。

使えば二度と戻ってこない事を考慮した上で運用する必要がある。


「高いものである必要はないけど、使い勝手は重要だし・・・」


何やら真剣な様子でブツブツと呟くカナタの姿に、ダスターは声を掛けられるに立ち尽くす。


(さっきまでとはまるで別人、こりゃ邪魔しない方がいいっすかね)


とはいえいつまでもここで道草を食っている訳にもいかない。

戻る時間は決まっているし、ダスターは必要な買い物をする分の金額しか持たされていない。

どうしたものかと考えていたダスターの前で、カナタが店員に呼び止められる。


「何かお探しですか?」

「ん?ああ、ちょっと投擲に使えるナイフを何本かと、片手剣が1本欲しいなと思って」

「左様ですか、ところでお客様は随分お若い様ですがご予算の方はおありですか?」


どうやら熱心に品物を見ていたカナタを不審に思ったらしく声を掛けたらしい。

口調は丁寧だが、どこか態度や発言にトゲがある店員の態度。

それも無理からぬ事、ガノン王国でカナタぐらいの年齢の若者は、

普通は徴兵か学校、その他だと農家か狩人くらいしか道がない。

そんな人間がこんなところにいれば誰だって場違いだと思うのは当然だ。


「金の心配ならいらないよ」


相手の思惑を知ってか知らずか、カナタは自身の腰に下げた袋の紐を外し、中身が店員に見えるように差し出す。

何かと思って差し出された袋を覗き込む店員の目に、僅かな光を跳ね返す金色の輝きが映る。


「しっ、失礼しました!」

「いーよ別に、気にしてないし」


そう言って興味無さげに店員から視線を外すと、袋を腰のベルトに結びなおしてナイフを物色し始める。


「よろしかったら商品のご説明を・・・」


先程までの態度から一転し、品定めしているカナタへと揉み手ですり寄る店員。

上客であると分かるや否やこの変わり身の速さ。流石商売人というべきなのだろう。

それでも2人のやり取りを前に、ダスターは世の(ことわり)を感じずにはいられなかった。

聞きもしない事を隣でベラベラと喋る店員を無視してカナタがいくつかのナイフを手に取る。


「この中で同じものを30本ぐらい数出せるのってある」


一通り品定めを終えたカナタが店員に尋ねる。

手の中には5種類のナイフがあり、どれも少しずつ違った形状をしている。


「30ですか。・・・少し在庫を確認させていただいても?」

「ああ、じゃあその間に片手剣見させてもらうよ」

「畏まりました。少々お待ちくださいませ」


恭しく一礼して店員が店の奥へと引っ込んでいく。

店員が消えてからすぐにカナタは片手剣のコーナーへと移動する。

流石にメジャー武器だけあって店内でも一番のスペースを占められている。


「ダスター。魔核の片手剣ってあるかな?」

「いや、流石に大店(おおだな)でも魔核武装は早々置いてないと思うっす。それにあったとしても値段が高くて手が出ないっすよ」


カナタが結構な額の金貨を持っているのは同行を始めた頃に聞いたが、

それだけの金を持ってしても購入できる魔核武装の数は多くはない。

相場的に考えて狩猟級(ヤークトクラス)でも最低で50ガノ(推定500万円)からスタートだ。


「それにカナタさんの持ってる短剣(ヘンゼル)片手斧(グレーテル)よりいい品は早々ないと思いますよ」

「そうなんだ。じゃ、普通の片手剣にしとこうかな」


カナタは目についた剣を手に取ると、鞘を払って刀身を検める。

以前使っていたマチェットの代わりになる武器を探し始めるカナタ。


「やっぱ背中に長物があった方が安心感が違うよなぁ」


ヘソン村での戦闘でも長剣も使ったが、どうも体に合わない。


(剣を振って体が流されてる感じがするんだよな~)


剣を振るだけの筋力は十分あるが、長剣を振るには自分では体重が軽いと感じている。

リーチの長さは欲しいが、使いこなせない武器を無理して持つのは愚者のやる事。

武器とは使いこなせて初めて武器だというのがカナタの考えだ。


(理想はやっぱ昔使ってたマチェットだけど、この店には同じ様な武器はなさそうだし、いつか買い替えるにしてもちゃんとした物がいいなぁ)


命を預ける武器選び、この選択一つが明日の己の命を左右する事もある。

慎重になりすぎて悪い事など何一つない。勿論値段についても同様。

今手持ちの額で足りないなら馬車に戻って追加を持ってくることも考えている。


(今回は金額的に高い物でも手持ちの額で足りそうかな)


いくつか目ぼしい物を見繕った所で、後はどれにするか決めるだけだ。

荷馬車の中も人が増えて随分と手狭になった。

投げナイフの在庫を置く事を考えると、片手剣を箱買いする訳にもいかない。

本当なら他の店も見て決めたい所だが、この後の予定が分からない為、このまま機会を逃す可能性もある。


「予備を考えても2本が限界かな~」


手にした剣を眺めながら厳選を重ねるカナタ。

その後ろではそろそろ買い出し行こうとダスターが念を送っている。

そこへ店員が戻ってきてカナタへと擦り寄る。


「お客様。お待たせしました」

「あ、うん。在庫あった?」

「それなんですが、ご用意できるのはこちらとこちらの物だけになりそうでして」


心底残念そうに告げる店員。

折角の商機が失われるかもしれないのだからそりゃ残念この上ない事だろう。

対するカナタはというと冷静に差し出された2本のナイフを見詰める。

片方は先端が矢尻の様な形状をしたアローヘッドナイフと呼ばれるタイプ。

もう片方は真っ直ぐな棒状の形をした柄の短いタイプ。


「じゃあ、その2つを30個ずつ買うよ」

「お買い上げありがとうございます!」

「早速だけど教会の敷地に停めてある馬車まで運んどいて」

「かしこまりました」


店員は満面の笑みを浮かべると、店の奥に向かって声を掛けて荷運びの指示を出す。

指示を出し終わるのを見計らってカナタは店員に声を掛ける。


「でさ、試し斬りとかしたいんだけど何かある?」

「試し斬りをされるとそのままお買い上げ頂く事になりますが?」

「そっか~。じゃあ素振りは?」

「それでしたら・・・まあなんとか」


本来であれば素振りも断る所だが、もう結構な金額を購入している客。

より高額な商品を買ってくれる可能性がある以上その申し出を無下にも出来ず、店員が渋々といった様子で許可を出す。


「ただ、他の商品は傷つけないでくださいね」

「流石にそんな下手糞じゃないよ」


言うなりカナタが手にした剣の鞘から剣を抜いて軽く振るう。

流れる様にスムーズな動きと、風を斬る音。

その動きだけで、目の前の少年が今まで見てきた客の中でも相当な腕利きであると分かった。


「はぁ~、失礼ながら見かけによらず相当な腕前なんですね」

「・・・本当に失礼だけど、まあいいや」


褒められたのか貶されたのかよく分からず、カナタは適当に返事を返す。

カナタの反応をどう捉えたのかは知らないが、店員が語りだす。


「いや、実は過去に素振りされた方が店の床とか商品を傷つけた事がありましてね素振りは本当はご遠慮いただいてるんですよ」

「そうなんだ」

「ですが、お客様は初めて扱うとは思えないほど武器の扱いに慣れていらっしゃるので感心してしまいました」

「ふ~ん、そうなんだ。こっちとしては職業病みたいなもんなんだけど」


店員の話を聞いている間も目星をつけた何本かを軽く素振りしていくカナタ。

形状もリーチも違う刃を、器用に振り回しながら感触を確かめていく。


「ん~。これだとちょっと軽いか。さっきのよりは取り回しはいいんだけど・・・」


ブツブツと独り言を呟きながら刃物を振り回す事数分。

結局、蛮刀を1本とショートソード1本を選んで会計を済ませる。


「こちらの2本も馬車の方へ?」

「うん。それでよろしく」


購入した品を店員に預け、ダスターと共に店を出る。


「これで俺の買い物は終わり。んじゃ行こうか」

「カナタさん。買い物長いっすよ」

「必要な物だし、ここは目を瞑っておいてよ」


悪びれる様子もなくのたまうカナタにダスターは小さくため息を吐く。

カナタが必要だと思って行動した以上、ダスターに口を挟む理由はない。

今日までの間に彼の戦闘を見る機会は2度あったが、2回とも大した戦いぶりであったと思う。

リシッドを含めた面々が、彼に一目を置くのはあの戦いを見れば十分に理解できた。


(にしても本当、この若さであれだけの戦闘が出来るのはなんでなんすかねぇ)


少なくとも真っ当な育ち方などしていようはずも無い事は分かる。

そうでなくては若い頃から訓練を積んでいるリシッドやダスター達より強い理由に説明がつかない。


(一体どこで、どんな師について、どんな訓練をしたのやら)


以前に少しだけ聞いてみはしたが、適当にはぐらかされてしまった。

おかげで謎が彼に対する疑念と謎が深まるばかりである。

考え事をしながらカナタの後をついて歩くダスター。

町を歩き回って買い物を続ける間も観察を続けてみるが、特に新しい発見はない。


(同行すれば何か発見があるかと思ったんすけどねぇ)


思惑が外れたと肩を落とすダスター。

両手に持った荷物がグンと重さを増したような気がする。

ヤル気を無くし始めたダスターの前で、不意にカナタが足を止める。


「なぁ、ダスター。あれ何やってんの?」


カナタからの問い掛けに、ダスターは彼の指差す方向へ目を向ける。

そこには、往来の真ん中に何やら大勢の人だかりができていた。

流石に人が多すぎて、遠目だと何をやっているのかまでは分からない。


「何すかね?あんなに集まって」

「ちょっと覗いてみようぜ」


好奇心を擽られたのか、カナタが喜々とした表情を浮かべている。

とはいえ自分達は今、必要な買い出しを終えて戻る途中。

集合の刻限までもそう時間がある訳でもない。


「時間もないし、やめといた方がいいっすよ」

「大丈夫だって、ちょっと見るだけだから」


ダスターが止めるのも聞かずに、カナタの足はどんどん人だかりに向かって進んでいく。

その後ろを付いていくダスターの心の中で、徐々に不安が広がっていく。

この町に来るまでの間、確かに獣人達からの襲撃はなかったが、幾つかの問題はあった。

それらの出来事がダスターの頭の中でリフレインする。


(この流れ、絶対マズイ予感がするっす)


ダスターの心配を余所に、カナタは人ごみの中へと分け入っていく。


「ちょっと通りますよ~」


申し訳程度の謝罪の言葉を述べながら目の前の人を押しのけながら前進。

人だかりの中心に向かって突き進むカナタ。

数人を押しのけた所で、目の前の景色が急に開ける。

直後、目の前に一人の男が倒れ込んでくる。


「おっ?」


小さく驚きの声を上げながら、倒れ込む男を受け止める。

何事かと思って倒れてきた男を見ると、全身が砂にまみれ、

服もあちこちが破れてボロボロになり、顔は腫れ上がり鼻血も出ている。


「う・・・ううう」

「あらら、随分なヤラレっぷり」


呻き声を上げる腕の中の男から、彼が倒れ込んできた方へと目を向ける。

そこには首にたっぷりの贅肉を纏わせ、腹も大きく張り出た巨漢と、手下と思しき3人の男達。


「おう、兄さん。その野郎をこっちに渡してもらおうか」


手下の1人がカナタの方へと指差しながら告げる。

どうやらこの男と彼らの間で何やら揉めているらしい。

といってもこの状況から恐らく展開はかなり一方的な様だが。


「早く渡さないと兄さんにも痛い目を見る事になるぜ」

「ふ~ん。なんで?」

「その野郎がアニキの剣にそこの安っぽい剣をぶつけやがったんだよ」


男の指差した場所を見れば確かに地面に転がった剣が1本。

偶然か故意かは分からないが、それが接触した事で因縁を付けられたらしい。

なんともついてない男がいたものである。


「そういう訳だから早く渡せよ。じゃねえと代わりにテメェに焼き入れるぞ」


やけに強気な相手の脅し文句を聞き流しながらカナタが腕の中の男を見る。

鼻血でうまく呼吸が出来ないのか、苦しそうに息をする男。

腫れ上がった瞼の下の目が、カナタの視線と重なる。


「・・・助・・けて」

「いいけど、いくら出す?」


息も絶え絶えに救いの言葉を口にした相手に、平然と見返りを要求するカナタ。

そんな彼の言葉に周囲が野次馬達がザワつく。

やれタダで助けてやれだの、相手をよく見た方がいいだのと他人事だからと好き勝手言っている。

外野の言葉等、一切耳に入れずにカナタは相手の返答を待つ。


「どうする?このままボコボコにされる?」

「分か・・った」


男は懐から財布と思しき袋を取り出してカナタの手に握らせる。

これ以上やられたら命に関わると判断したのだろう。


「いい判断。後は安心していいよ」

「ちょっとカナタさん!何する気っすか!」


人ごみを掻き分けてようやく追いついてきたダスターがカナタに向かって手を伸ばす。

丁度良かったと言わんばかりにカナタは男の身をダスターへと預ける。


「少し待っててよ。すぐ片付けて来るから」

「いや、ちょっと!揉め事はダメっすよ!」

「大丈夫だって、揉め事にはなんないから」


笑いながら手を振って、カナタが前に進み出る。

物見遊山で喧嘩を眺めていた周囲も、その無謀な行動に不安を漏らし始める。


「おい、流石にまずいんじゃないか」

「憲兵呼んで来いよ」

「あの坊主殺されちまうぞ」


不穏な空気に包まれる場の中で、悪い予感が当たったとダスターが頭を抱える。

今日までの旅の途中。

立ち寄った2つの村でも、同じ様にトラブルに巻き込まれた。

勿論、どちらも最終的には解決した。力づくで。


「なんでこうなるんすかね~」


関わらなくてもいい揉め事に首を突っ込むカナタのトラブル体質。

肩を落とすダスターの思いなど露知らず。

1人歩み出るカナタに、男達が苛立ちに満ちた表情を浮かべる。


「なんだ兄さん。俺らとやろうってのか?」

「やるとか、やらないとかはないかな」


威圧的な態度で臨む男達を前に、カナタは締まりのない笑顔で答える。

まるで散歩でもする様な気軽さで、足元に落ちた剣を拾い上げる。


「俺が一方的にアンタ達をぶっ飛ばすだけだよ」

「なんだと!」

「このガキが!」

「舐めやがって!」


カナタの言葉に逆上した手下達が、怒りに顔を真っ赤に染める。

対照的に親玉の巨漢はジロリと冷たい視線をこちらへ向ける。


「ガキィ。自分の言ってる事の意味が分かってるんだろうなぁ」

「御託はいいよ。時間もないし、サクッと終わらせる」


言うが早いか、カナタは目の前の手下の間合いに飛び込み、開いた口に剣を叩きこむ。

硬い剣鞘が相手の口の中に割り入って口の中を蹂躙する。


「ぶぎゃっ!」


歯を粉砕され、口の中を血の味で満たしながら男が背後に倒れ込む。

初撃で意識を刈り取られた仲間が倒れる様に他の手下が呆然とその光景を見詰める。

相手の意識がそちらに向いている間に、カナタは次の攻撃に移る。

トントンと軽くステップを踏んで飛び上がり、体を大きく縦に捻って蹴りを繰り出す。


「ほいっ」

「んごっ!」


真上から振り下ろされた踵が男の側頭部を撃ち抜く。

グラリと男の体が大きく揺らぎ、膝から崩れ落ちる。

意識を失って倒れていく2人目を横目にしながら、カナタが起き上がる。


「おお、決まった決まった」


威力はあるが隙の多い技なので実戦で使うのは初めてだったが、うまく決まって良かったと安堵。


「この野郎!」


仲間を2人やられて激昂した3人目の手下が、剣を抜いて襲い掛かる。

大上段に剣を構えて飛び掛かる相手を、冷めた目で観察しながらカナタが前に出る。

相手の間合いに無造作に飛び込むと、相手が剣を振り下ろす動きに合わせて剣を振り上げる。

カナタが振り上げた剣は相手の剣の柄の底を叩き、上空へと打ち上げる。


「はへっ?」


手の中からスッポ抜けた剣を見上げながら男が呆けた顔をする。

完全に無防備になった男の腹目掛けて、カナタが容赦なく右拳を叩きこむ。

男の腹部に重鈍な衝撃が走り、体をくの字に折ってその場に蹲る。

手下達をあっという間に片付けたカナタがゆっくりと巨漢へと向き直る。

カナタの視線を受け、目の前の一部始終を傍観していた巨漢がゆっくりと動き出す。


「思ったよりやるじゃないか小僧」

「どーも。あんたは俺の想定を越え無さそうだけどな」


相手からの賞賛を皮肉を込めた言葉でもって返す。


「言うじゃないか小僧。だがなぁ、その細身でこの俺様をやれんのかぁっ!」


怒りの咆哮と共に長剣を振り上げる巨漢。

その迫力に、事態を見守っていた周囲でざわめきが起こる。

だが当の本人であるカナタは相変わら涼しい顔をしている。


「いいから来なよ。それともデカイのは口と態度と腹だけなの?」

「なんだと!舐めるなクソガキがぁ!」


煽るつもりが、逆にカナタの挑発に乗って男が怒り出し、

手にした長剣をカナタ目掛けて振り下ろす。

繰り出された斬撃の軌道を眺めながら、体の位置をズラして斬撃を躱す。

目の前を銀の刃が通り過ぎ、重たい一撃が地面を打ち付ける。

ズンッという地鳴りを耳にしながら、カナタが手にした剣の鞘を払う。


「よっと」


地面に打ち付けられた刃の側面目掛け、手の中の剣を腰撓めに振り抜く。

キンッという短い金属音と共に、相手の剣の先端が切断されて宙に舞う。


「なんだとっ!」

「おっ、凄いじゃん」


目の前で起こった出来事が信じられず、巨漢が驚きに目を見開く。

何故かカナタも小さな驚きの声を上げて、折れた切っ先を眺めている。

カナタとしては剣を砕くつもりで振ったのだが、思いのほか剣の性能が良くて相手の剣を斬り飛ばしたのだ。


「いいなコレ。ちょっと欲しくなった」


敵の前だと言うのに手にした剣を眺めながらカナタが呟きを漏らす。

一方の巨漢は、高い値を出して買った自慢の一品を壊された茫然自失している。


「俺の・・・剣が、こんなショボイ剣に・・・」


驚きの言葉を漏らし、事態を呑み込む巨漢。

その顔が紅潮し、驚きは怒りへと変換されていく。


「よくも・・・やりやがったなガキィッ!」


怒りに我を忘れ、背に帯びた大斧へと手を伸ばす巨漢。

だが、男が斧を構えるスピードより速くカナタが懐へと飛び込む。


「言ったろ。サクッと片付けるって」

「っ!?」


巨漢が斧を握る手に力を込めるよりも早く。

カナタの足が男の股座を鋭く蹴り上げる。


「っ~~~~~~~~~!!!!!!」


金的を蹴り上げられ、男が大口を開けて声にならない声を漏らす。

手にしていた大斧を取りこぼし、激痛に悶絶しながら膝をつく巨漢。

歯を食いしばり、痛みに堪える巨漢の目線の高さがカナタと同じになる。


「いらっしゃ~い」


満面の笑みを浮かべて男を迎えるカナタ。

その笑みが何を意味するか察した巨漢が必死に訴える。


「ま"っでぐれぇ」


涙目で訴える巨漢だったが、カナタには届かない。

直後、答え代わりのサマーソルトキックが男の顎を打ち上げる。

顎が砕ける音を聞きながら、巨漢の意識は遠くへと旅立つ。

ズンッという地鳴りと共に、巨体をが地面に倒れ伏し、周囲に沈黙が降りてくる。


「これで終わりか。さて、帰ろっと」


目の前の光景に言葉を失い、呆然とする周囲を余所にカナタはダスターへと歩み寄る。


「お待たせ。じゃ、帰ろうぜ」

「はぁ、分かったっすよ」


やれやれと肩を竦めながらダスターが応じる。

剣を鞘に納めたカナタが、顔を腫らした男に声を掛ける。


「これで依頼は完了ね。後、怪我酷そうだから早く医者に診てもらいなよ」


そう言って男に剣を返し、背中を向ける。

ダスターと共に教会へ向かって歩き出そうと踏み出すカナタに、後ろから声が掛かる。


「待って・・・下さい」


痛々しい程に腫れ上がった顔で男が、必死に言葉を紡ぐ。


「んっ?礼ならいいよ。お金貰ったし」

「いえ、違・・・うんです。助けて・・・ほしいんです」

「へ?」


相手の言っている事が分からずに首を傾げるカナタ。

隣のダスターは拭い去れぬ嫌な予感を肌に感じる。


「ウチの・・・師匠を・・助けてください」


ダスターの予感は的中する。

こうしてカナタの気まぐれで関わった小競り合いから始まった出来事は、

大きな問題へと発展していく事になる。

トラブルメイカーカナタさんが今回のお話。

今回は新武器調達がメインになります。

前回の戦いのご褒美についてはまた先の話で語る予定です。

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