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第33話 魔核ノ目覚メ

巨大蛙(マッカーサー)が首から下げた籠の中でドノウは少しだけ気分が高揚していた。


(思っておったよりは少しはやるみたいじゃのぉ。正直見くびっておったわい)


カナタを除けば1人1人の持つ力の量はさして大きくない。

個として見れば取るに足りない存在だが、その力不足を補い合うように連携が出来ており、

一団としての強さで見れば中々捨てたものではない。

気を抜いていたら、危うくペットに大怪我をさせてしまう所だった。


「じゃが、ここからが本番じゃて」


口の端を釣り上げてドノウが笑うと同時に、マッカーサーの猛攻が始まる。


大きく開かれた蛙の口から目の前に一本の赤い線が自分に向かって急速に伸びる。

攻撃を察知すると同時にサイドステップで軌道上から体を逃げしてそれを躱す。

直後、先程まで自分が立っていた地面がごっそりと抉り取られ、草や土が飛び散る。

一撃で人が1人ぐらい入る程の大きさの穴が穿たれた。

明らかにさっきまでの攻撃より威力が増しているのはきっと気のせいじゃない。


「オイオイ、勘弁しろよ」


愚痴を零しながら、巨大蛙(マッカーサー)へと視線を向ける。

広い平原であるにも拘らず、視界の中で強く主張する緑色の巨体。

その眼には怒りの炎が燃えている・・・様に見えなくもない。


(流石に両生類の感情までは分からんな)


まあ、さっき見た時よりも顔の辺りが仄かに赤くなっているし、

頭の上から湯気みたいな蒸気も上がってるし、きっとそうなんだろう。


(腹の傷が治ったとはいえ、痛みを与えた記憶まで消える訳じゃないしな)


さっき腹を斬って、傷口抉って、雷流し込んだ事をきっと恨んでいる事だろう。

だがそれはこちらとて同じ事である。

さっき防御した手の痺れと、地面を転がった際に負った傷がズキズキと痛む。


「ああ~痛い。クソッ、絶対にぶっとばすかんなジジイ」


こんな事になった原因。土妖精(ノーム)の長、ドノウを睨み付ける。

このままやられっぱなしでいるつもりはない。

幸い体中に痛みはあれど、両手足の動きに支障はない。


「そのニヤケ面をすぐに出来ないようにしてやる!」


姿勢を前傾に倒し、両足に力を込めて全身を前に向かって押し出す。

平原の中心に向かって、カナタはその身を風と化す。



対するドノウはカナタ達への攻撃で揺れる籠の上で考えていた。


「さて、どうしたものかのう」


先程、妙な魔力の吸収をして以降、少年(カナタ)の動きに大きな変化は見られない。

土煙に紛れて放った不意打ち気味の一撃も、持っている力の量から考えれば簡単に弾けた筈だ。

それを手持ちの武器と自身の身体能力のみで受けた挙句派手に吹っ飛んだ。


(なんで力を使わないんじゃ?隠しておるのか?)


もしそうなら何故そんな事をしているのか分からない。

なんとか防御できたとはいえ、失敗すれば只では済まなかった筈だ。

そんな危険を冒してまで隠す理由に思い至らない。


(もしや、一緒にいる連中を気にしておるのか?)


確かに人の身でありながらあの力の許容量はおかしい。

知られると何か不都合な事があるから隠している可能性もある。


(あれだけの力を持つ者が大陸全土で一体どれだけいるだろうかの)


人間だけでも、あれだけの力を持つ者は1つの国家に数人といないだろう。

そんな者が混じっていれば、人間社会であれば何か問題があるかもしれない。


(人間という奴らは強者や多種族に対してどうも考え方が極端じゃしな)


ドノウ自身、今まで人間達からは畏怖や憧憬といった視線を向けられてきた。

精霊にとってはどうでもいい事だが、人間同士だとそうもいかないのは長く生きてきたから知ってはいる。


(じゃが、ワシにとってお主の都合はどうでもいいんじゃ)


力の正体を知りたい。

その為だけにこんな面倒な事を仕掛けたのだから、今更引く気はない。

とはいえ力の全てを引き出す様な事をするつもりもない。

むしろそこまですると恐らく自分にも危害が及ぶのでやりたくないというのが本音。


(魔龍なんぞだった場合、ワシがタダじゃすまないし)


理想としては絶妙な力加減で追い詰めて、その力の片鱗だけ拝めればいい。

それだけで相手の力の正体は分かるはずだ。

それがどのようなものであるか知る事が出来れば満足できる。


「しかしどうやって追い詰めようかのぅ」


ドノウはそう呟くと手の中の杖に力を注ぎ込む。

大気中の魔的エネルギーに干渉し、漂う力に指向性を与え、魔術を放つ。


「ほいっ、クレイドールカーニバル」


陽気な言葉の後、ドノウの思い描いた通りに巨大蛙(マッカーサー)の足元が隆起する。

盛り上がった土の塊が徐々に人や獣の形に姿を変える。その数30体。


「っ!」

「なんだとっ!」

「くっ」

「マズイですわね」


目の前に現れた土人形を前にリシッド達の間に緊張が走る。

現状、精霊1人と魔獣1体に手こずっているのに、ここでさらに敵が増えるのは流石にマズイ。

動揺するリシッド達の前で、マネキンの様にのっぺりとした顔の土人形達が体を向け動き出す。

機械の様なぎこちない動きで数歩進んだ後、突如機敏になって襲い掛かる。

相手の動きに応じてリシッドが咄嗟に指示を飛ばす。


「全員、防御陣形!急げ!」

『了解っ!』


指示と同時にジーペ達4人はすぐさま聖女2人を守るシュパル達のいる後衛へと下がる。

リシッドは後衛に下がるジーペ達を援護すべく1人土人形の一団に突っ込む。


「ハァアアアアッ!」


手に握った剣を横薙ぎに振って土人形を斬りつける。

だが、その刃は相手の体の表面に触れた瞬間、硬質な音と共に弾かれる。


(くっ!硬い!)


見た目以上に硬く出来ているらしく。

普通の斬撃では表面を僅かに削る事しか出来ない。


「だったらこれはどうだ!フォースセイバー・ジェミニ!」


声と共にリシッドが両手に持った剣が白色の光を帯びる。

リシッドの前に立っていた土人形が。右腕を剣の様に変形させ、その鋭い切っ先を突き出す。


「当たらんっ!」


突き出された切っ先を紙一重で躱しながら、相手の腹部にカウンターの一閃を叩きこむ。

剣を握る右手に腕に想像よりも重たい手応え、その重さに剣を振る手が止まりかける。


「うおぉおおおおおおっ!」


腕にかかる負荷を筋力で強引に押し返し、力まかせに剣を振り抜く。

上下に2つに分かたれた土人形の上半身が、空中で一回転して地面に落ちる。

地面に落ちた瞬間に土人形の体が砂の様に地面に散らばる。


「まずは1体!」


1体倒した勢いをそのままに、体を回転させながら前進。

続け様に現れた土人形2体の前に姿勢を低くしながら飛び込み、それぞれの片足を斬り飛ばす。

片足を失った土人形が体勢を崩して地面に倒れる。

先程と違って今度は砂の様に散らばらずに、失った足が再生を始める。


「むっ!片足だとダメなのか?」


足を復元しながら立ち上がろうとする2体の背後から剣を振り下ろし、縦に真っ二つに切り裂く。

縦に割れた2つの土塊は今度は砂の様に散らばる。


「これで3体。まだっ・・・やれる!」


振り返ったリシッドが目の前の土人形の群れを睨み付ける。

たった3体倒しただけなのに体力を随分と削られた。

大きく肩を揺らすリシッドの後ろで、他の仲間が防御陣形を組み終え、

彼らに守られながら2人の聖女がリシッドに向かって支援魔術を放つ。


「アッパーフォース・トレント」

「ディープパワー・アンダレーション」


最初にリルルの杖から赤い炎の様な光が放たれ、地面を伝ってリシッドの体へと伸びる。

地面を伝った赤い光が足元からリシッドの体を駆け上り、魔核とリシッドの一体感が増し、両手の剣の光が輝きを増す。

次にレティスの杖から青い光がリシッドの頭上に伸び、彼の全身に降り注ぐ。

光を浴びる程に疲労した全身に再び力が湧き上がってくるのを感じる。


「ありがとうございます聖女様!」


後衛の聖女2人に礼を言いながら、リシッドは再び前に出る。

眼前には今尚複数の土人形が迫っており、足を止めてはいられない。


「いくぞっ!」


掛け声と共にリシッドは両手の剣を目の前の土人形に向かって振りかざす。

その後ろでレティスとリルルの2人が他の者達にも支援魔術を放っていく。

魔術を放つほどに2人の表情に疲労の色が増しいく。

聖女と言えど神の使徒の力である神霊晶術が使えること以外は普通の人間より多少魔力量が多い程度だ。

今使っている支援の魔術は通常の魔核魔術の為、他の魔術師同様に使う程に疲弊する。


「まさかこんなに魔術を行使する日が来るとは思いませんでしたわ」

「そうですね。もっと体力付けとけば良かったです」

「・・・そういうものでもないでしょうけどね」


自分達を守る兵士達全員に魔法を掛け終えた2人は、最後にカナタの方へと視線を向ける。


「後はカナタさんにも・・・」


そう言いかけたレティスだったが、一抹の不安が脳裏をよぎる。

先程カナタに放った支援魔術の失敗の原因が未だにわからない。

今も兵士全員に使った時に先程の様な失敗の気配はなかった。

自分に失敗する様な理由が思い至らない。


(となるとカナタさんに何かがある?)


そんな疑念が彼女の中で浮かび上がる。

だが、悠長に考えていられる程の余裕がある訳でもない。


「何をしてるんですの。早く次の支援魔術をしますわよ」

「そっ、そうですね」


訝し気なリルルに促されるままレティスは再び杖を構える。


「アッパーフォース・トレント」

「シルフィン・ヴェール」


2つの魔術が巨大蛙に向かって突撃するカナタに向かって伸びる。

今度こそと思われた魔術はカナタの体に触れる直前で再び掻き消える。


「なっ!」

「・・・」


驚きに声を上げるリルルの隣で、レティスは静かにカナタを見詰める。

先程の事もあってなんとなくこうなる予感はしていた。


(やっぱり、カナタさんには何かがある)


予感が確信に変わり、レティスの中でカナタへの謎がまた一つ増える。

レティスがそんな風に考えている一方で、カナタはというと、

再び目の前で消えた支援魔術に疑問を抱きながら目の前の土人形の一団へと飛び込む。

自分に向かって突き出される鋭い切っ先を躱しながら、相手の胸へとヘンゼルの先端を滑り込ませる。


「シッ」


一息に突き込んだ刃だったが、先端に金属の様に硬質な手応えを受けて跳ね返される。


「ああ、やっぱ無理か」


予想していた結果に動揺する事無く、相手の刃の届かない範囲までバックステップで下がる。

先程のリシッドの戦いぶりを見て、可能性として考えてはいたが、

リシッド達の使っている魔核剣技でなければ刃を通す事は難しい様だ。

そうして自分の手に持っている刃に視線を移す。

自身の目前で魔術が消えた後から、今度は目に見えて放電量が上がっている。

とはいえ雷の出力が上がったくらいじゃ目の前の土人形は斬れない。


(だったら目の前のコレは無視だな)


早々に土人形を倒す事を諦めると、向かってくる土人形の脇を抜けて後ろへと走り去る。

次々に向かってくる土人形達を躱しながら、巨大蛙に向かって突っ走る。

土人形達をまるで相手にせず向かってくるカナタを見て、ドノウが文句を垂れる。


「折角出したんじゃから少しは相手をしとくれんと甲斐がないんじゃが・・・」

「そんな事知るか。こっちはアンタをぶっ飛ばせば終わるんだから無視するに決まってんだろ!」


簡単に言ってくれるが、土人形と言えどその動きはそんじょそこらの兵士では到底及ばない程に速い。

そんな相手の攻撃を躱しながら進むのは勿論簡単な事ではない。

だが、目の前の少年はそれらをものともせずにドノウへと突き進む。


(魔力感知等の能力を使っている様子もないのに、身体能力のみで突破しおるか)


獣人でも機動力に特化した者でなければ出来ない様な芸当。

それを人間が何の力も使わずにやっている事は驚嘆に値する。


「ホッホホェ。ならば尚の事、隠しているその力の正体を見て見たいのぉ」


未だ欠片程もその力を見せない事にドノウの興味も熱を増す。

多少手荒になってでもその力を引きずり出したくなってくる。


「これでどうじゃろか?イラプジョンラーヴァ」


ギラリと小さな老人の目が鋭い光を放つ。

ドノウが手にした杖を頭上に掲げると、杖の先にある小さな赤い石が今までで一番強い光を放つ。


「ホェホェ、これは今日見せた中じゃ一番強力な術じゃから、心して掛かるんじゃぞ(ワッパ)

「あん?なんだって?」


回避に専念してて話をちゃんと聞き取れなかったカナタが顔を上げる。

直後、腹の底にズシンと響く程の地鳴りと共にカナタの足元が大きく揺らぐ。


「・・・今度は何しやがった」

「な~に、ちょっとしたもんじゃよ。ちょいとこの辺りの地脈を操っての・・・」


ドノウの言葉の間も地面は揺れて、地鳴りの音は大きくなっていく。

体の底から焦燥感が駆けあがり、今から起こる最大級の危険を本能が告げる。

直後にバキバキという不快な音が響き、周囲の大地に裂け目が生じる。

突如生み出された裂け目の上から飛びのくカナタの前で、土人形が数体、開いた裂け目に落ちていく。


「オイオイ。見境なしかよ」


言いながらチラリと聖女2人と味方へと目を向ける。

なんとか裂け目に落ちずに済んだようだが、大地に出来た裂け目に囲まれて逃げ場を失っている。


「なんとか無事・・・・か?」


無事を確認してホッと胸を撫でおろした所で違和感に気付く。

確かに巨大蛙の周囲一帯の地面に亀裂を走らせたのは凄まじい力だ。

だが、攻撃としては裂け目に落ちなければ問題ないだけで、

巨大蛙の攻撃や土人形の集団に比べると脅威としては低く感じる。


「ホッホッホ。早合点するなえ。本番はここからじゃ」

「何っ!」


瞬間、近くの裂け目から強烈な熱を感じて慌てて離れる。

直後に裂け目から熱風が噴き出したかと思うと、真っ赤な溶岩が噴き出す。


「イ”ッ!」


目の前を覆う赤熱のカーテンを前に、流石のカナタも動きが止まる。

これでは攻撃する事はおろか、近づく事も出来ない。


「流石にこれは・・・」


無理だ。思わず口をついて出かけた言葉を喉の奥で押し留める。

今まで見てきた魔法にここまで強力な者はなかった。


「・・・ちょっと精霊舐めてたわ」


諦めの言葉の代わりに賞賛(?)の言葉を吐き出す。

心配なのは他のメンバーだ。四方を囲まれて逃げ場を失っていた後衛組が危ない。


(だが、どうする?俺にこの局面を打開できる様な力はないぞ)


手元にあるのは放電量の増した2つの刃だけである。


(せめてあの時みたいな事が出来たなら・・・)


脳裏に思い浮かべたのはいつか大蛇をズタズタに切り裂いた雷光の剣。

あれだけの力があったならば現在の状況も打破出来る可能性もあるのだが。

しかし、あの時あの力を与えた黒い剣が姿を見せる気配はない。


(俺、今割とピンチなんだけど、なんで出てこないかな・・・)


あの時、剣の出現と共に聞こえた言葉を思い出す。


≪全ク、困ッタ子ダネ君ハ。仕方ガナイカラ少シダケ手ヲ貸シテアゲルヨ≫


確かこう言っていたはずだ。

つまり、カナタ自身の生命の危機だと何者かが判断した事によりあの力は発現した可能性がある。

ただ、問題はそれがどの程度の窮地でないといけないかだ。

思い当たる命の危険を感じた場面を思い返す。

ヘソン村でのダゴとの戦闘では姿を現さなかったし、先日の山中でのシュンコウ戦でも同様だった。


(相手が魔獣でないと出てこないとか?)


もしくは他に条件があるか考えてみるが考えた所で分かる訳もない。

というか実は現状、自分の事だけであれば左程ピンチという訳でもないのだ。

後ろを見れば自分達が出てきた林が見える。

つまり、他のメンバーを見捨てていけば自分だけ逃げ遂せる事は可能。

だからと言ってこのまま逃げるつもりは毛頭ない。


(この任務をやり遂げれば、王都で新居も身分も財産も手に入るんだ。それに・・・)


ビエーラの館での約束が少年の足を前へと進ませる。

人によっては下らない約束かもしれない。

だが、この世界で多くを持たないカナタにとっては数少ない確かな約束。


「王都に着けば嬉し恥ずかし、レティス様とのドキドキデートが待ってんだ。こんな所で見捨てられる訳がないだろうが!」


馬鹿な事を言っていると分かりながらも、この意思は曲げられない。

そんなカナタの意思に呼応するように両手の中の雷が激しさを増す。

すると突如、頭の中に浮かぶヴィジョン。


「なんだ?」


訝しむカナタの中に浮かぶそれは、いつか森の中でカナタの手に掛かって死んだ霊獣の姿。

血肉となり今日この時までカナタの命を繋いだ獣の瞑らな瞳が静かにこちらを見ている。


(今更、呪いでも掛けようってか?)


警戒するカナタの前で、悠然と立つ霊獣。

その頭に称えた2つの角の間で稲光が生じると、それはやがて2つの間で強大な雷を発生させ、天に向かって巨大な光の柱を伸ばす。

あの森の中での遭遇戦では見なかった光景。

しかし何故それが今自分に見えたのかは分からない。

それでもその光景から、何か暗示めいたものを感じ取ったカナタは、手にした2つの刃に視線を落とす。

2つの刃と自分の間に何かが繋がっている感覚を覚える。


(そういや誰かが言ってたな、魔核武器はパスが通じると技を使えるようになるとかなんとか)


正直半信半疑だったし、そのパスが繋がる感覚というのが信じられない

しかし、まさかこのタイミングでそれを体験する事になるとは思わなかった。

もしかしたらさっき2人が使った魔法で放電量が上がった事と何か関係あるのかもしれないが、今それはどうでもいい。


「これがパスが繋がるって事で、今見えたのがそうだと言うなら!」


両手を前に突き出してヘンゼルとグレーテルを並べる。

イメージするのは先程見た天を貫いた雷の柱。


(こいつで駄目なら後がないな)


さっきから裂け目から噴き出す溶岩の量が増して、このままだと全滅も時間の問題である。

内心で焦るカナタの手の中で、手の中の双刃が纏った雷を交わらせ、より強大な雷光を帯びていく。

正直、今の体勢を維持しているのはカナタ的に落ち着かない。

機動力重視の戦闘スタイルを取っているカナタにとって、敵の前で足を止めたままでいるというのはそれだけで心臓に悪い。

幸い視界を覆っている赤熱のカーテンのおかげで巨大蛙やドノウからの攻撃はない。


「まあ、このまま何もしなくてもこっちは死ぬからな」


苦笑交じりにそんな事を呟きながら目の前の刃に意識を集中させる。

刀身が見えなくなる程の雷を纏った両手の刃を見てふと思う。


「ところでこれってどうやって撃ちだすんだ?」


力を溜める事はイメージするだけで出来たけれど、マグマの向こう側にいるドノウへと撃ちだす方法が分からない。


(イメージするだけでいいのか?それとも何か他に・・・)


あれこれ思案して居たその時、いつか聞いたはずの声が耳に届く。


《君ガ以前ノ世界デ使ッテイタ銃トカイウ道具ヲ撃ツイメージダヨ》

「なるほど。それでいいのか」


どこからか響いた声だったが、カナタは何の疑いもなくそれに従う。

両手で剣を握っていた人差し指を浮かせ、トリガーに指を掛ける様に曲げる。


(方角的には確かこっちだな)


巨大蛙が居た咆哮を見据えて双刃を向ける。

相手が移動していた場合は大問題だが、あの巨体が動いた気配は感じない。

先程までと同じ位置でこちらが倒れるのを高みの見物しているはずだ。


「どうせそこで高笑いしてんだろジジイ。今、目に物見せてやる」


銃の照準を合わせる様に、巨大蛙のいるであろう位置に狙いを定める。

銃の扱いはハンス程うまくはなかったから正確にドノウを狙えるかは分からない。


(そもそも雷がどう飛ぶかも分からないんだけど・・・)


若干の不安はあるが、あの巨大蛙に当てるか、最悪、目の前の溶岩壁を撃ち抜いて道を開ければそれでいい。

意を決し、トリガーを引く様に人差し指を曲げる。


「いくぞっ!」


声と共に剣の先端から雷が迸り、赤熱のカーテンへと光の柱が突き刺さる。

まるで空間事吹き飛ばす様に着弾点に大穴が開かれる。

当然その反動も大きく雷を撃ち出すと同時に、衝撃で体が後方へと流される。

だが、その眼は真っすぐに正面を向いて雷撃の行方を追う。


「届けぇええええええっ!」


カナタの咆哮に応える様に、雷撃は目の前の溶岩壁を次々に撃ち抜いて真っ直ぐに突き進み、

最後の一枚をも容易く突破した雷撃が巨大蛙の体の前へと飛び出す。


「ホッホッホ。させぬよぉ」


カナタの攻撃を察知していたドノウは驚く事無く巨大蛙の前に分厚い土壁を生成して防御する。

ドノウの目は溶岩壁越しであろうと生物の魔力を見る力がある為、カナタの動きは最初から見えていた。

ただ、想定外だった事が1つだけある。


(この攻撃はあの魔核武装の力であって、あの(ワッパ)の内包する力はほとんど使われていない)


霊獣の魔核の力を使えばこの程度の出力は出せて当然。

だが、今ドノウが見たいのは霊獣の力などではない。


(技の発動前に僅かに気配に揺らぎはあったんじゃが)


攻撃を放つ直前に、カナタの中の力が何か意思をもって動いたように見えた。


(じゃが、あの程度の動きでは何も分からんのぉ)


どうしようかと考えるドノウの前で分厚い土の壁に亀裂が走る。


「おっといかん」


慌ててもう一枚土の壁を生成して防御壁を二重にする。

直後、一枚目の土壁を貫いて雷撃が二枚目の壁に突き刺さる。


「むぅ、これは思ったよりも強烈じゃのぉ」


想像以上の威力にドノウの表情から笑顔が消える。

普通の魔核であれば土壁1枚でも十分に防げたはず。

むしろ2枚目を生成しないと防げない程の威力の攻撃等早々ありはしない。


(じゃが、防げないほどではないぞよ)


目の前で雷撃の威力が落ちていくのを感じながらドノウがほくそ笑む。

巨大蛙(マッカーサー)への直撃を防ぎ切ったと安堵した瞬間、

自身の側面に広がっていた溶岩壁を突き破って何かが飛び出す。

それは先程兵士4人がかりで放っていた赤い斬撃の魔核剣技。


「なんじゃとっ!」


意識を完全にカナタへと向けていたドノウは、予想だにしなかった攻撃に反応できず。

巨大蛙(マッカーサー)はその身に赤い斬撃をまともに喰らう事になる。


「ゲェッゲェエエオオオ」

「マッカーサー!」


斬撃をまともに喰らった巨大蛙の腹の皮膚が大きく裂けて血が溢れ、

激痛に巨大蛙が涙を流しながら体を大きく揺らす。

首にぶら下がった籠にしがみ付きながらドノウが攻撃の出現した場所へと目を向ける。

そこには、飛び散る溶岩を浴びながら技を繰り出し、負傷した4人の兵士と、

彼らを癒すべく術を使う聖女2人と彼らを守る様に防御壁を張る3人の兵士の姿。


「抜かったのぉ。まさか防御を減らして攻撃に転じるとは・・・」


彼らの存在を軽視していた事を後悔するドノウ。

そんな彼に追い打ちを掛ける様に、兵士達の開いた道を1人の男が駆けてくる。


「オォオオオオオオオオオオオッ!」


リシッドはその手にした2つの剣と共に、切り裂かれた蛙の腹に向かって飛び込む。

流石にこれ以上のダメージは巨大蛙(マッカーサー)にとってマズイと判断したドノウは、

発動していた魔法に割いていた力をリシッドへの攻撃へと回す。


「地より穿てグランドスピア」


ドノウの意識に呼応して杖が輝き、リシッドの足元から特大の槍がその身に向かって飛び出す。

咄嗟に剣を盾代わりにして防御するリシッド。


「ぐっうぅっ!」


奥歯を噛みしめながら重たい一撃を受け止めたリシッドの体が、地面から浮き上がる。

ドノウの視界の中で、リシッドの体が宙に舞う。

その表情を捉えた瞬間、ドノウの背中に寒気が走った。


「笑っておる・・・じゃと」


ドノウの中で僅かな混乱が生じる。

今の一撃で少なくとも骨の2、3本は確実にへし折った手応えがあり、痛みで笑うどころではないはずだ。


(それなのに何故笑う。魔法を解除出来たからか?)


確かに、今の連携は中々上手く決められたせいでイラプジョンラーヴァを維持できなくなった。

とはいえ、これを防ぎ切ればもう一度同じ状況を作り出す事が出来る。

それを分からない程、目の前の若者が浅慮だとは思えない。


(ならば、何故・・・・まさか!)


そこまで考えたところでドノウは今、自分の思考から抜け落ちていたものに気付く。

ほんの一時、今回の時分の目的だった相手の存在が頭から消えていた。


慌てて、雷撃を受け止めていた土壁の方へと意識を向ける。

そんなドノウの眼前で、土壁を飛び越えて現れる人影。


「っ!?マッカーサー!」


急ぎ巨大蛙(マッカーサー)に指示を出すが、腹を裂かれた痛みで正確な狙いもつけられずに舌が発射される。

大きくカナタから逸れた舌の一撃がカナタの足元の土壁に減り込む。

カナタはその上に飛び乗ると、舌の上を走りドノウへと迫る。


「舌を戻すんじゃ!」


ドノウの指示でマッカーサーが土壁に減り込んだ舌を口の中へと巻き戻す。

それを狙ったかのように舌から飛び降りたカナタは、

蛙の舌に刃を突き刺し、その勢いに乗って急速に蛙の喉元へと近づく。


(あと少し!)


攻撃の届く所まで後少しの所で、舌を刺された巨大蛙(マッカーサー)が痛みで首を大きく振った事で、ヘンゼルの刃が抜けて振り落とされる。


「くっ!」

「ホッホ。残念じゃったな」


空中に投げ出されたカナタを見ながらドノウが笑い声を上げる。

内心ではもう少しで攻撃を喰らいそうになり、焦っていた。

だが、これでもう為す術はない。

そう思っているドノウだったが、カナタの目はまだ諦めていなかった。


「まだだっ!」


空中で体を旋回させながら、カナタは自分の体の斜め下、巨大蛙の胸部分に照準を合わせると、

手の中にあった短剣(ヘンゼル)を躊躇なく投げつける。


「何を悪あがきを・・・」


通常攻撃が効かないのは先程攻撃を弾かれて知っているはずなのに、

やけくそになったかと思ったドノウだったが、次の瞬間、驚きの光景を目にする。


ヘンゼルの直撃を正面から受けたマッカーサーの皮膚が凄まじい威力を伴い、鉾の様に皮膚が突き出る。

その砲弾に匹敵する威力を伴った皮膚の突出部分を、寸分の狂いもなくカナタの足が踏みつける。


「これで・・・決める!」

「なんとっ!」


マッカーサーの体質を利用して足場を形成したカナタは、力強く皮膚の上を蹴って跳躍し、ドノウの乗った籠の前に躍り出る。


「歯を食いしばれ!クソジジイッ!」

「フォッ!」


叫ぶカナタの前で驚きの表情のままドノウが固まる。

直後、振り上げたカナタの右拳が、籠を突き破って土妖精の小さな体に叩きこまれた。

時が止まった様な静寂が周囲の空間を支配する。


「・・・・痛ってぇええええええ」


静寂を破った男の声にリシッド達が声のする方へ視線を向けると、

籠に手を引っ掻けて涙目になるカナタの姿。


「フォッホッホ。ワシは土精霊じゃからの、この体は土で出来とるんじゃ」


高笑いするドノウの声に、カナタが非難の声を上げる。


「だからって硬すぎんだろ!金属殴ったかと思ったわ!」

「そんな事は知らんわい。殴ったのは自己責任じゃて」


痛がるカナタを愉快そうに見つめるドノウ。

そんな2人のやり取りを呆然と見詰めるリシッド達に、ドノウが告げる。


「不本意ではあるが約束は約束。お主等の勝ちじゃよ」


ドノウの言葉を聞いたリシッドや聖女達は皆それぞれに顔を見合わせる。

実感がわかずに思わずレティスがドノウに向かって問いかける。


「私達の勝ち?・・・という事はこれで・・・」

「ホッホッホ。仕置きはこれで終いじゃ。安心せい」


ドノウの口から今度こそ確実に告げられた戦いの終わり。

ジワジワと湧き上がってくる実感と高揚感に、皆の目に光が戻る。


『やったぁあああああああああああ!』


感極まって天に向かって両手を突き上げる兵士達に、

身を寄せ合って抱き合う聖女2人。


「ふぅ、なんとかなったか」


仲間達の喜び合う姿を見ながら折れた脇腹を抑えるリシッド。

結構なダメージを負ったが、なんとか切り抜けることができたと安堵する。

その頭上ではカナタがドノウに向かってグダグダと文句を言っている。


「まったく。折角の勝利も、あれでは喜び半減だな」


そんな風に零すリシッドの足元に大きな黒い影が差す。

何かと思って見上げると、右手の中にドノウの体を掴んだカナタの姿。

慌ててその場から飛びのくと、カナタが地面の上に着地する。


「こっちは旅の途中なんだからあんま迷惑な事するなよな」

「ホッホッホ。それはそっちの都合じゃが、まあ悪かったのぉ」


まるで反省の色は見えないが、謝罪の言葉を述べるドノウにカナタがさらに続ける。


「迷惑料として何か寄越せ」

「ホッホッホ。精霊から物をせびるとは罰当たりな奴じゃの」

「そんな事は知らん。いいから出せ」

「ホッホ。まあいいじゃろう。ワシに勝った褒美ぐらいはくれてやるわい」


目の前で繰り広げられる恐喝紛いの行いに、リシッドは軽い頭痛に見舞われる。


(精霊から品物を賜るなんて、伝説級の栄誉がこんな醜悪なやりとりでいいのか?)


自分の思い描く伝説や神話への憧れに泥を塗られる様な光景を前に肩を落とすリシッドの前で、話は勝手に進んでいく。

こうして、彼の理想とは違う形で話は決まり、カナタ達は土精霊からご褒美を貰える事になった。

奇しくも、この品がこれから王国で起こる出来事に際して大いに活躍する事になるのを、この時はまだ誰も予想だにしなかった。

最近投降の感覚が空いて申し訳ないっす。

とりあえず体調も大分良くなりましたんで書きました。

まだまだ、先は長いですがこれからも頑張りますぜ。


折角回復したのにまた連勤が続くのが難点ですが、

なるだけ早く書き上げて投稿します。

それではまた次回!

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