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第29話 疑惑ノ容疑者

カナタとリルルが館へ戻ってしばらくの後、リルルの部屋の隣に用意された護衛の控え室の中。

テーラとダスターは、虚ろな目で白い天井を見上げていた。


「姉御。俺っち、どうやらまだ寝てるみたいっす」

「急に何言ってんのアンタ?」


訳の分からない事を言い出したダスターに、テーラが呆れた表情を浮かべる。

だが、彼がそう言いだしたくなる気持ちも分からない訳ではない。

見上げていた天井から視線を下ろし、向かい合った2人は互いの手元に視線を送る。

2人の手には、先程リルルから渡されたこの街でしか手に入らないスイーツを包んだ紙包みが握られている。


テーラとダスターは共にリルルの護衛について3年になるが、こんな事は初めてだった

しかもまだ朝も早い時間だと言うのに、わざわざ街に出向いて買ってきたと聞いた時は驚きのあまり言葉を失った程だ。


「きっとこれは夢ですぜ姉御。だってあのお嬢が俺らみたいなもんの為にこんな・・・こんなっ」


胸の中に込み上げる感情を抑えきれずダスターが早口に捲し立てる。


「馬鹿言ってないで現実を見なさい。というか早く食べないと冷めるわよ」

「だってよ。だってよぉおおおお」


落ち着いた口調でダスターを窘めるテーラ。

しかし、とうとう感極まったダスターの涙腺が決壊し、嗚咽を漏らし始める。

そんな彼の姿を見つめるテーラの目にも薄っすらと涙が浮かんでいる。

たったこれだけの事にこんなにも感情を揺さぶられる日が来るとは思っていなかった。

本当ならリルルだってきっとまだ辛い筈なのに、自分達をこうして気遣ってくれた事が嬉しくて悲しかった。


テーラとダスター。

リルル護衛の部隊の中で生き残った2人にとっては、一生忘れる事はないであろう惨劇の日からまだ10日程。

そしてそれはリルルにとっても同じかそれ以上に辛い記憶。


彼らの部隊では基本的にリルルの世話等は隊長であるヨノルが行っており、テーラ達はそれを遠巻きに見ているだけだった。

別にリルルの事が嫌いだったわけではないが、聖女であり、貴族の娘という二重の意味で近寄りがたい存在であった為、話掛ける事すら憚られた。

何より兄妹の様に仲の良かった2人の傍に自分達の居場所が見いだせず。近づく気にはならなかった。

それでも、仲のいい2人を見ているだけで充実しており、そんな2人を見守る日々がいつまでも続くと思っていた。

だが、そんな彼らの思いは突如現れた獣人の刺客達によって永劫に失われた。



  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  



あの日、いつもの様に街を出て街道を少し進んだ所で、旅人を装って近づく者達があった。

特に変わったところも見受けられず。

そのまますれ違う所まで近づいた時、目の前で旅人が突如その姿を変えた。

驚く暇もなくまるで花を散らせるように護衛の1人から簡単に命を奪い去った。

綿毛の様に吹き飛んだ仲間の頭部の向こうに見た薄ら笑いを浮かべる獣人の顔は今でも鮮明に覚えている。

仲間を失った事に同様と恐怖が体中を駆け巡ったが、悲壮感よりも、聖女を守ろうという意思がかろうじて勝り、必死の抵抗に出るテーラ達。


格上の獣人相手に先手を取られながらも奮起し、踏み止まるヨノル隊だったが、その実力差は圧倒的であり、次第に劣勢に陥る。


「あっ・・・ああ・・あ・・・」


馬車の中で外の様子を窺っていたリルルは恐怖で馬車の中でその小さな体を震わせる。

次々と傷を負っていく仲間達の姿、迫りくる獣人達の前でヨノルの下した悲しい決断。


「お前達はリルル様と往け!ここは私が道を切り開く!」


迫りくるをどうにか切り伏せた所で、ヨノルの発した言葉にテーラが即座に否定の言葉を返す。


「隊長いけません!ここは私達がなんとかしますのでどうか聖女様とお2人で逃げてください!」

「それは・・・できない相談だ!」


突っ込んできた獣人を力任せに押し返してそう答えるヨノル。

既に肩で息をする程疲弊しており、今の敵の数から考えてとても逆転の手がある様には見えない。

だからといってこのまま戦い続けても持ち堪えられることは出来ない。


ダスターを含めた仲間達もまだなんとか生きているが、皆傷を負い戦闘継続は難しかく。

テーラ自身も、激しい戦闘の疲労から、既に剣を握る握力すら満足に保つ事が出来なくなっていた。


「現状、まだ戦えるのは私だけだ」

「しかし、それでは!」


テーラは悲痛な声を上げて叫ぶ。

今、こうしている間も馬車の中で身を小さくして震えているであろう少女の事を想ってだ。

まだ年若い少女がこれから歩む聖女という過酷な役目。

そんな少女の未来の為にも、目の前の男が必要だとテーラだけでなく皆が思っていた。

それは男の決意と歩んできた道のりを知るからこそでもある。


幼き少女が聖女として見出されて間もなく、自身が仕える主から少女が親元を離れ、孤独な役目に就くと知らされた。

自分よりも若い年端も往かぬ少女の重い役目を知った少年ヨノル。

その後の彼の行動に迷いはなかった。

書き置き一つを残して家を飛び出し、その足で王都に向かい、少女を守る為だけに兵士の道を志した。

たった1人の少女の為に、己の人生すら投げ打った男。

それほどに大切に守ってきた少女と今、彼は一生の別れを迎えようとしている。


(いけない。それは!だって私達はずっと!)


笑いあう2人の姿を守っていたいと思ってきたのだから。

なのに手が、足が、体がもういう事を聞いてはくれない。

意思に反しガクガクと手足を震わせるテーラにヨノルが背を向けたまま告げる。


「テーラ。ここからの指揮と護衛の全権を君に委ねる」

「待ってください隊長!どうか、早まらないで!」


だが、そんなテーラの悲痛な声は襲い来る敵の声に掻き消される。

こちらの意図を察してかその攻め手が苛烈さを増し始める。

隣に立つテーラの体を片手で抱え上げたヨノルが馬車の方へ向かってその体を投げ飛ばす。

抵抗できずに宙を舞ったテーラをダスターが受け止める。


「時間がない。ダスター!最後の命令だ!」

「っ!?」


有無を言わせぬ迫力を持ったヨノルの言葉にダスターは悔し気に顔を歪める。

ヨノルの最後という声を聴いてリルルが慌てた様子で馬車から飛び出そうとする。


「ヨノル!ヨノル!」

「いけません聖女様!」


馬車を飛び出そうとするリルルを護衛の2人が必死に止める。

傷ついた体で彼女を止める2人の顔は悲痛な表情を浮かべていた。


「離しなさい!ヨノルが!」

「出来ませぬ!」


振り払おうとするリルルを力任せに椅子に抑えつけた2人の目には涙が浮かんでいた。

もう、これ以上他にどうする事も出来ない。

2人の表情がそう告げていた。

馬車の中の様子を察したダスターは馬の手綱を握る手に力を込める。


「私が今から開く道を全力で駆け抜けろ!」

「了解!」


ダスターの決意の篭った声を背に受けたヨノルは剣を握る手に力を込める。

そして誇らしげな表情を浮かべて目の前の敵を見る。


「いくぞ!」


彼女の護衛になる事を決めた時にこうなる事も覚悟していた。

思い残す事があるならば最後の約束を果たす事が出来ない事だけだ。


(大丈夫だよリルル。後は彼らが君を助けてくれる)


踏み出すヨノルに、ダスターの隣でもはや動くことが出来なくなったテーラが必死の声を上げる


「行ってはいけません隊長!」


テーラの声はヨノルの耳に確かに届いた。

それでも彼はその声を振り切り、自分の剣に魔力を漲らせる。

もう随分と力を酷使した為か、剣が宿す輝きにも陰りが見える。


「グランフォース・セイバー!」


咆哮と共に長剣を振るって前面の敵に向かってヨノルが最後の特攻に出る。

その鬼気迫る迫力に圧倒されて獣人達の間に僅かな隙間が出来る。

僅かな隙間に体を滑り込ませたヨノルが剣を振り回してそこに道を開く。


「今だ!行けぇえええ!」

「チックショォオオオオオ!」


ダスターが絶叫を上げて馬を走らせる。

今まで出した事のないスピードで馬が走り、馬車が大きく揺れる。

ヨノルの開いた道を瞬く間に駆け抜ける馬車。

一瞬、馬車の上でこちらに手を伸ばすリルルの泣き顔が視界に映る。


「ヨノル!!」


微かに自身の名を呼ぶ彼女の声が聞こえた気がした。

が、走り去る馬車からはもう何も聞こえてこない。

馬車の後に追い縋ろうとする獣人達の前にヨノルが立ちはだかる。


「誰1人、彼らの後を追う事は許さない」


1人残ったヨノルの前で獣人達が苦々し気に表情を歪める。


「だったら貴様を殺して後を追うまでよ」

「そうか。だが、今の私は相当しぶとい。何人かは道連れにさせてもらうからそのつもりで」


手にした剣を正眼に構えて、獣人達と対峙する。

その心では、忠誠を誓った主に詫びる。


(リルル。最後まで守ってやれなくてごめんな。でもきっと大丈夫。私がいなくなってもきっとテーラ達が君を守ってくれる)


テーラやダスター達、自分の部下達がリルルと自分をどんな風に見守ってきたかは知っている。

そんな彼らにならば自分が居なくなった後のリルルの事を任せられると思った。

だから1人この場に残って彼らが生き残る為の礎となる事を選んだ。


(神よ。願わくばどうか、彼らの未来をお守りください)


血を踏みしめ、指先に力を込める。

これが最後、全てを出し切ると決めた。


「死を恐れぬ者から掛かってこい!」


ヨノルの言葉に併せて獣人達が襲い掛かる。

男は目の前の暴力の渦の中へとその身を投じた。



こうして少女と仲間の為に、男はその命を散らせた。

なんとか次の街まで逃げ伸びたテーラ達だったが、問題はその後だった。

街へ着いてから自分達が代わってやれればどれほど良かったかと思う程、リルルの悲しみは深かった。

暗く沈んだ彼女の下へは、追い打ちをかける様に齎された聖女襲撃の話。

他の聖女と合流し、王都を目指す事が決まってからも、気丈に振る舞おうとする彼女の姿は痛々しく見ていられなかった。

この時から彼女の物言いが随分とトゲがあるモノへと変わっていった。


それでもなんとかこのユーステス領まで辿り着き、迎えに来たテナンと合流する直前に例の山猫師団の襲撃を受ける事になった。

この戦いでテーラとダスター以外の2人がリルルの盾となって命を落とした。

その後、テナン達が駆けつけた事でなんとか持ち直し、カナタの救援で命を繋ぎ止める事が出来た。


2人の仲間を失った。そんな事があった後だからもっと落ち込んでいるかと思っていたが、まさか自分達を気遣ってこんな事までしてくれるなんて思わなかった。

だからこそ、感動も一入というモノだ。

涙ながらに手の中の甘味を貪るように頬張る2人。

口の中に広がる甘みを噛み締めながら、ダスターが切り出す。


「にしても姉御」

「ん?」


口の端にクリームを付けたまま真剣な顔を向けるダスターにテーラが応じる。


「あのカナタってあんちゃん。何者なんすかね?」

「それなら昨日言ってたじゃないか、カラムク領主ビエーラ様に雇われた傭兵だって」


テーラの言葉にダスターが首を納得いかない様子で眉間に皺を寄せる。


「それにしたっておかしいでしょう。昨日の話じゃ魔獣は倒すわ、野盗は壊滅させるわ、獣人の襲撃は退けるわ。普通じゃ考えられないっすよ」

「それはまあ、確かに」


言われてみれば確かにそうだ。

20日も経たぬ間にそれだけの事件に遭遇する事も相当稀有な話だが、それら全て成し遂げるのはこの国でも上位の力を持つ騎士にだって難しい。


「並みの傭兵じゃあそんな事は出来ない。それは昨日くたばった連中を見ればわかるこってすよ」

「うん。そうねぇ」


昨日、テナンが連れていたこの街の傭兵はその悉くがあの森で命を落とした。

素早すぎる相手の動きと投げ込まれる無数の刃で為す統べなく倒れていった光景は薄ら寒いものを感じた。

だが、あのカナタという少年は相手の動きを完全に捉え、相手の動きまでも胃のままに操っている様に見えた。


「ありゃ~相当な場数踏んでますよ。そりゃもう並みの兵士なんて足下に及ばない、騎士に匹敵するレベルですぜ」

「いくらなんでも言いすぎじゃ・・・・ないか」


昨日の戦いではテナンの騎士であるデニクですら相手の機動力に手を焼いていた。

デニクが相手にしていたスナーと呼ばれる獣人も相当強かったようだが、カナタが対峙したという獣人の名を聞いて撤退した事も気にかかる。


「確かに大した力量みたいだけど、それがどうしたの?」

「いや姉御は気にならないんすか、そんな人間がどうしてこんなところにいるのかとか、どうやってそれだけの力をつけたのかとか」

「う~ん。言われると気になるような気もするけど・・・」


確かに、昨日の会談の場でその実績や手腕についての話こそあったが、彼の素性については誰も口にしなかった。

聞きにくい理由があるのか、その素性に何か問題があるのか。

まだ会って間もない相手だが、謎が多い事には違いなく、気にし始めると疑問が次々と湧き上がってくる。


「で、アンタはそれを知ってどうするのよ?」

「えっ!そりゃ・・・えっと・・・どうすんですかね?」

「・・・ハァ」


大して考えていなかったダスターが返答に窮する姿に、テーラが呆れた様子で溜息を吐く。


(とはいえ、一応警戒するに越したことはないか)


騎士に匹敵する力を持つ相手に自分達が警戒した所で何ができるとも思えないが、亡き仲間達に託された聖女をみすみす死なせる様な事は出来ない。

手にした甘味を残す事無く完食した2人が座っていた椅子から立ち上がる。


「ま、とにかく今は王都へ無事に辿りつく事が先決よ」

「分かってますって、んじゃ下に行って馬の準備をしましょうか」


そう言って扉の方に歩き始めた2人の前で、扉の向こうに立つ人の気配。


「テーラ殿、ダスター殿。部屋の中におられるか?」


向こうから聞こえたのは昨夜顔を合わせたリシッド隊の副隊長シュパル・フォーバルの声。

兵士としてはテーラと同格だが、こちらは平民、向こうは末端とはいえ貴族の縁戚。

少し緊張した面持ちのテーラが扉に向かって声を上げる。


「テーラ、ダスター共におります」

「そうか。少し話があるのだがいいだろうか?」


思った以上に丁寧な相手の口調にテーラとダスターが顔を見合わせる。

彼らの知っている貴族はもっと上から目線で高圧的な感じがするので意外だった。

少しの逡巡の後、扉の向こうに向かって返事を返す。


「構いません。どうぞお入りください」


返事の後、ゆっくりと開いた扉の向こうからシュパルが部屋の中へと入ってくる。

その後ろにはダットンという名のスキンヘッドの男が続く。

テーラとダスターの前にシュパルが立つ。

2人よりも体格のいいシュパルに見下ろされて2人が少し困惑する。


「突然すまない」

「いえ、とんでもないです」

「丁度今、出立の準備に向かう所だったんすよ」

「ちょっと、アンタね」


余計な事を言うダスターを肘で小突いて黙らせるテーラ。

そんな2人にシュパルが真剣な面持ちで話を始める。


「ああ、その事なのだが、その前に一つやっておかなければならない事があってな」

「やらなければいけない事?」


シュパルの言った言葉の意味が分からずに2人が首を傾げる。


「2人は今回の襲撃についてどの程度まで聞いている?」

「どの程度といいますと?」

「合流場所、時刻、護衛に就く兵士の規模等をどの段階でどの程度まで知っていた?」

「えっと、それは・・・」


現在隊の全権を持つテーラに事前に伝えられた情報はそれほど多くはない。

森の入り口付近の村へ着いた時、テナンの使いという男からテナンが森の中のノームの泉まで迎えに来ると聞いた。

その正確な刻限や護衛の規模については特に言及していなかった事を思い出す。


「村の外で、テナン様の使いの者から森の中のノームの泉で待つとだけ聞かされましたが、それが何か?」

「それなんだが、どうもリルル様とテナン様の襲撃は事前に仕組まれていた可能性が出てきた」

「えっ?」


全く予想だにしなかったシュパルの言葉にテーラとダスターは互いの顔を見合わせる。


「一体誰がそんな・・・・」

「まだ分からない。だが、これは由々しき事態だ」

「ええ、分かっています」


シュパルの言葉に事の重大さを理解したテーラが頷く。

もしこの事が真実であるならば、事情に通じた内部の犯行という事。

つまり、この館の中に敵の内通者が居る事を指している。


「もしこのままこの場を離れた場合、テナン様の下に危険が残る事になる。それは何としても避けたい」

「ええ、その為に此処を発つ前にその内通者をなんとかしようという事ですね」

「その通りだ」


事情を理解したテーラとダスターの前でシュパルが頷く。

横に居たダットンがシュパルの隣に立つと、手にした帳面に目を落とす。


「聞き込みをしたところ現在、館にはテナン様以外に騎士のデニク殿、テナン様の奥方クラーラ様。その他にクラーラ様の弟君と、あとはトラキネン領から買い付けに来た商人が護衛数人と共に逗留中、後は兵士が20人と使用人が30人ってところですね」

「怪しいのはトラキネン領から来た商人とその護衛っすかね?」


ダスターの問いかけにシュパルが難しい顔をする。


「分からない、もしそうなら少しあからさまにすぎる気がするな」

「目的が成功して領主が死んだ後なら怪しまれても関係ないじゃないですか?」

「いや、だとしてもここには我々が来る事も事前に知らされていた筈だ、それは考えにくい」

「確かに、森での襲撃が成功しても、もう一方の標的であるレティス様達にバレたら台無しですしね」


そう言って考え込む一同だったが、こんなところで考えた所ですぐに答えが出るはずもない。

一度思考を脱したシュパルが口を開く。


「とにかく、一度大広間に集まって話し合おうとウチの隊長が言っている。悪いが来てもらえるか?」

「あ、はい。もちろんです。シュパル様」

「・・・むぅ」


テーラの返答にシュパルが眉を寄せて困ったような表情を浮かべる。

その隣ではダットンが可笑しそうに口の端を釣り上げている。


「先に言っておくが、私は立場は一介の兵士であり君達と同じだ。様など付けて呼ばなくて構わない」

「しかし・・・」

「何より今日から共に命を懸けて旅をする仲間だ。他人行儀はよしてくれ」


シュパルはそういうとどこか恥ずかしそうにして足早に部屋から出ていく。

その後に続いてダットンが軽く会釈すると彼の後を追って部屋を出て行った。

残されたテーラとダスターは、無言で2人の出て行った扉の方を向いて立ち尽くす。


「思ってたよりもいい人達みたいでよかったっすね姉御」

「そうね。もっと堅苦しい人達だと思ってたけど」


何せ相手は二十貴族会の重鎮であるカナード・フォーバルの息子の部隊。

きっと規律正しく真面目一筋な人達ばかりの部隊だと思っていた。


「これなら、王都までの間も仲良くやれそうですかね?」

「どうかしら?何せウチのお嬢様は随分と気難しい方だから」

「ああ~、そういやウチのお嬢のが問題でしたね。何せ・・・」

「ええ、お嬢様はレティス様がお嫌いみたいだから」


理由については不明だが、過去何度か対面した時もやたらと突っかかっていた。

ヨノルが零していた話だと、彼女の出自等がどうにも気に入らないみたいだと言っていたが、詳しくは彼も知らなかった。


「どうしやす姉御?このままだと・・・」

「う~ん。でもさっきカナタ君だっけ?彼と一緒だったし大丈夫じゃない?」


そこで先程リルルが件のカナタ少年を連れていた事を思い出す。

だが、テーラの言葉にダスターは不満とも不満とも取れぬ複雑な表情をする。


「どうなんですかねぇ?正直をあのあんちゃんは他の人と一緒にするのは抵抗あるんすよね俺っち的に」

「どうして?」

「普通に考えて領主様や聖女様相手に初対面でいきなりあんな軽口叩く様なヤツっすよ。とてもじゃないけどまともな神経してるとは思えないんすよね」

「・・・・そうね。そこはアンタの言うとおりだわ」


きっと彼を基準にするのはダメだ。参考にならない。

これからの旅路に一抹の不安を抱く2人だったが、ともあれ今問題はそんな事ではない。


「あまり待たせても悪いし、ひとまず大広間へ行きましょ」

「そっすね」


2人は部屋を後にして大広間へと歩き出した。



2人が館の中を移動して大広間に着くと、既に大広間の中にはリシッド隊の面々の姿。

他にも領主テナン・ユーステスとその妻クラーラ、テナンの騎士デニクの領主組、レティス、リルルの聖女2人に件の少年カナタまでがその場に集まっていた。

皆、真剣な面持ちで円卓を囲む様にして立っている。


完全に出遅れたとテーラが内心で焦る中、隣でダスターが困り顔で呟く。


「うひゃー。姉御俺っち達が最後見たいっすよ」

「馬鹿!分かってるから静かにして」


声に出してしまった事で、立場が上の人間を待たせたという罪悪感がより一層強まる。

もちろん、リルルからは視線で人が殺せそうな程に睨まれている。

慌てて小走りにリルルの下へと駆け寄り、何食わぬ顔で輪に加わるテーラとダスター。

当事者が全員揃った事を確認し、リシッドが居並ぶ面々に向かって話を始める。


「これで、全員揃った様ですので早速本題に入りましょう」

「リシッド殿。先程の話だと、この館に内通者がいるという話だったが本当かい?」


事前に話を聞いていたテナンは信じられないといった様子。

その傍らのクラーラとデニクも同じ思いらしく険しい表情をしている。


「この館で共に働く使用人や兵士達を疑うなど・・・」

「それだけでなく私の弟まで疑われるなんて心外です」

「お怒りは分かります。ですが皆さまの命に関わる事ですので」


不満を漏らす彼らを宥めながらリシッドは落ち着いた様子で切り出す。


「テナン様に確認ですが、今回、リルル様をお迎えに上がるのはいつ頃決断されましたか?」

「それはリルル様が森の近くまで来ていると聞いて、いてもたってもいられずなくてね。妻に話をしてすぐに支度を整えさせた」

「そうですね。ですから館のほどんどの者がこの事を知りません」


テナンの言葉とそれをフォローするクラーラの言葉に、話を聞いていたサロネが意見する。


「ちょっと待ってください。それっておかしくないですか」

「おかしい?何がですか」

「リルル様と護衛の方のお話だと、森の前で迎えを出すから待っている様にテナン様の使いの者から聞いたというお話だったはずです」

「なんだって、それは本当ですか?」


驚き、尋ねるテナンの言葉にリルルとテーラが大きく頷く。


「ええ、確かにその様に伺いましたわ」

「はい。私共もその場におりましたので間違いありません」


2人の答えを聞いたテナンは足元が喪失する様な感覚を覚え、大きくよろめく。

クラーラとデニクが慌てて彼の背中を支える。


「旦那様!」

「領主様、お気を確かに」

「ああ。すまない。二人とも」


2人に支えられたテナンが青い顔をしてリシッドの方へ視線を戻す。


「今のお話だけで十分にご理解頂けたかと思います。今回の一件は謀られたものだという事が」

「確かに・・・どうやら敵は我々の思っていた以上に根を張っていたらしい」

「ご理解いただけた様で幸いです」


体勢を立て直すテナンにリシッドが再度尋ねかける。


「私からテナン様へ確認したい事は1点。テナン様にリルル様が近くまで来ている事を報告したのは誰ですか?」

「・・・それは」


リシッドに問われたテナンが口を開きかけて止まる。その目が一度だけ自分の妻、クラーラの方を向いて止まる。

先を告げようとするテナンよりも先に室内に声が響く。


「リルル様到着の方をご報告申し上げたのはこの僕。クラテラト・トラキネンである。そうですよね兄上」


ここに集められた者の声ではない第三者の声。

突如、部屋の隅から聞こえた声のした方へと皆が一斉に視線を向ける。

そこには白い紳士服に煌びやかな細工を施した派手な服装に、大きな宝石が無数に着いた指輪やらネックレスやらでやたらと着飾った長い金髪の青年がいた。


見るからに成金貴族といった風貌の青年クラテラト。

突如、現れたこの男が語る言葉は一体何を齎すのかだろうか。

なんだかここのところ新キャラ連投してますな。

まあ、構成上の話なので問題はないんですが


さて、現在30話執筆中なのですが、

30話掲載後、今までの話を再確認と修正します。


ここまでお読みいただいている皆様には感謝を!

そして今後も続きが読みたいと思って頂けるよう励んで参ります。

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