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第27話 聖女二人ト迫リ来ル戦乱ノ兆シ

テナン・ユーステスの館の中にある大広間。

領内の商業主等を招いて晩餐会に使う部屋の中、一堂に会する者達。

部屋の中央に用意された大きな円卓には、領主テナンと妻クラーラ、その傍らには騎士デニク。

テナンから見て左側には聖女リルルと護衛の兵士が2人、対する右側には聖女レティスとリシッド隊の面々とカナタ。

立ち上がり、テナンは居並ぶ者達の顔をゆっくりと眺めた後、口を開く。


「では、皆様御揃いの様ですので改めてご挨拶を、私がこのユーステス領を治める二十貴族会が1人。テナン・ユーステスと申します」

「その妻、クラーラにございます」


頭を下げるテナンに続き、クラーラも立ち上がって深々と頭を下げる。


「そしてこっちの彼が・・・・」

「テナン様付きの騎士、デニクと申します。以後お見知りおきを」


テナンに促されたデニクが一歩前に出て一礼する。

挨拶を終え、デニクが再び元の位置に戻ると、テナンが皆へと視線を向ける。


「私共の自己紹介はこのくらいにして、続いてご紹介します。こちらが・・・」

「テナン様。後は自分で致します」


リルルを紹介しようとしたテナンの言葉を遮り、リルルが優雅に席を立つ。

彼女の動きに併せて隣に座っていた2人の兵士も立ち上がる。


「レメネン聖教会の十六聖女。第六席 リルル・テーステスと申しますわ。で、こちらの2人が・・・」

「リルル様の護衛の兵士。テーラです」

「同じく。ダスターっす」


リルルに促され、挨拶をする2人の兵士。

片や折り目正しい感じの女兵士と、片や眠たい目をした男の兵士。

気怠そうにするダスターをテーラがチラチラと横目で見て肘で小突く。


「しっかりしなさいダスター。このような場で・・・」

「わりぃ。姉御。どうにも眠たくてね」


小声でやりとりをしているが、周りが静かなのでほとんど丸聞こえの2人の会話に、周囲が苦笑を浮かべる。

リルルだけはまるで無感情に表情を変えない様に周囲からは見える。


(いや、ありゃちょっと怒ってるなぁ)


頬の辺りが少しだけヒクついているのをカナタは見逃さなかった。

貴族出身で気位の高い彼女にとっては護衛の醜態は自分の恥だとでも思っているのだろう。


(もっと気楽にしてりゃいいのに)


そんな事を考えていると、不意にリルルと目が合う。

ジッとこちらを値踏みするような目を向ける彼女に、適当に笑顔で返す。

が、まるでノーリアクションのまま彼女はこちらに無感情な視線を投げ続ける。


(なんだってんだよ全く)


笑顔の下で居心地の悪さを感じながら平静を装うカナタ。

実は館に到着するまでの間も、ずっとこの視線を向けられていた。

道中に何度か尋ねてみたが、まるで答えは返事を貰えずに今に至る。

訳が分からずにいるカナタの前で挨拶を終えたリルル達が席に着く。


「では私達も・・・」


そう言って立ち上がるレティスに合わせてリシッド達も椅子から立ち上がる。


「レメネン聖教会の十六聖女が1人。第十席 レティス・レネートと申します。よろしくお願いします」


恭しくお辞儀するレティスに、テナン達やリルルの護衛の2人が視線を送る中、リルルだけは未だにカナタの方を見ている。

その視線に変わらず居心地の悪さを感じながら気付かないフリし続けるカナタ。


「そしてこちらが私の護衛の任に就いているリシッド隊の皆さんです」


レティスに促され、リシッド隊の面々が背筋を伸ばし敬礼する。


「ご紹介に預かりましたリシッド隊、隊長のリシッド・フォーバルと申します」

「副長のシュパル・フォーバルでございます。後は私より順に、ダットン、ベーゾン、ジーペ、サロネと申します」


貴族階級の2人が先に挨拶をし、その後でシュパルに紹介されたダットン達が一糸乱れぬ動きで一礼する。

こういった所は流石貴族出身者が隊長の部隊だけあって洗練されている。

笑顔で頷く周囲の中、リルルだけが微かに不満そうな表情を作る。

大方自分の護衛よりも統制の取れた護衛をレティスが連れている事が不満といった所かと予想を立てるカナタ。


ともあれこれで顔合わせは終わりかと思っていたカナタの方へと全員の視線が集まる。

まだ何かあるのかと小首を傾げるカナタに、皆を代表してレティスがおずおずと口を開く。


「あの・・・カナタさん」

「ん?なに?」

「次、カナタさんの番なんですけど」

「・・・・えっ?俺もやるの?」


カナタの疑問にレティスが首を縦に振る。

そんな事はお偉いさん達だけでやるもんで、傭兵の自分には関係ないと思っていたカナタは慌てて立ち上がる。

皆の視線がカナタに向けて集められる。

気のせいか今までで一番関心の篭った目を向けられている気がする。


(何これ?何か言った方がいいのかな?)


向けられる視線に若干動揺しながらカナタが口を開く。


「えっと、俺の名前はカナタ。ビエーラの婆さんに雇われてレティス様の護衛をやっている傭兵・・・かな?」


言いながらリシッド達に確認の視線を向ける。

呆れるリシッドの隣でシュパルが首を縦に振っている。どうやら合っていたらしい。

他に何か言おうかどうかと考えるカナタへテナンが問いかける。


「という事は君は元々ビエーラ様の配下なのかい?」

「う~ん、どうなんだろう?どう思う?」

「いや、私が聞きたいんだけど・・・」


質問に質問で返すカナタにテナンが思わず笑みを引き攣らせる。

領主相手に平然と溜口で話している事に、デニクとリルルの護衛2人が困惑している。


(テナン様相手にあの様な口を利く者がいるとは・・・)

(え、アレいいの?怒られたりしないの?)

(おれっちでも流石にあんな態度は無理かな~)


驚きや羨望の目で彼らがカナタへと視線を注ぎ、事前の会話で彼のキャラクターを少なからず知っているクラーラは小さくため息をつく。

そんな周囲の反応とは別に、相変わらず無感情な目でリルルがカナタを見ている。

周囲の様々な感情の篭った視線を受けて思わず身を捩るカナタ。


(やりにくい!なんかやりにくいよ!)


視線に圧されているカナタに助け舟を出すべくレティスが話を引き継ぐ。


「カナタさんとは旅の途中立ち寄った森で偶然出会いまして、それからずっと助けていただいているんです。その過程においてビエーラ様が傭兵としてお仕事をお願いした形になります」

「なるほど、そのような経緯がおありでしたか」


レティスの返答に頷くテナンに続いて、今度はデニクが尋ねる。


「ずっと助けてと仰いましたが、それは例の獣人の件ですか?」

「それもありますが、それだけではありません」

「ほぉ、他にも何かあったのですか?」

「それについては私の方から・・・」


話を隣で聞いていたリシッドが話に割って入り会話を引き継ぐ。


「旅の途中。遭遇したのは大蛇の魔獣、それと悪欲三兄弟なる野盗の一団であり、それらを全て、そこのカナタが単身で討伐しました」

「なんと!」


この答えには戦闘職の面々が驚きの声を上げる。

それは当然だ、この国で魔獣を単身で撃破できるのは騎士と数人の魔導を修めた者に限られ、兵士だと数人が束になってようやく互角レベルである。

それに野盗についても数人ならまだしも一団丸々相手取るのは騎士にだって難しい。


「魔獣を単身でとは・・・俄かには信じられないな」

「悪欲三兄弟と言えば他領内でも知れた大悪党ではないですか!親玉のダゴなる輩は強力な魔核武器を持っていたと聞いておりますが、それも1人で?」

「はい、どちらも1人です」

『おぉおおおお』


一同から驚嘆と感嘆の入り混じった声が漏れる。

聖女と領主にも凄いという事は分かるらしく感心した様子だが、それがどれほどの偉業か分かっている騎士と兵士からは羨望に近い眼差しをカナタへと向ける。

周りから褒め称えられてカナタが居心地悪そうに視線を彷徨わせる。


「で、そこの殿方の活躍は分かりましたが、その時、聖女の護衛たる貴方達は何をしていたの?」

「それは・・・」


リルルからの鋭い指摘にレティスが何かを言おうとするが、リシッドはそれを手で制する。

こうなる事が分かっていたからこそ彼女の話に割り込んだのだ。


「大蛇との戦闘の際には当初、我々が対応していたのですが、相手の反撃で負傷して動けなくなり彼に救われました。野盗との戦闘では村の防衛に徹しており、戦闘にはほとんど参加しておりません」

「へぇ・・・そうなの」


どこか嘲るような雰囲気でリルルが冷たい視線をリシッドへと向ける。

次にリルルが口にしたのはリシッドを責める辛らつな言葉だった。


「ガノン王国の精鋭と呼ばれている貴方達が随分と情けない話ですね。それで護衛が務まるのですか?」

「お嬢様。それ以上は・・・」

「お嬢。流石にそれは言い過ぎ・・・」

「お黙りなさい!」


テーラとダスターがリルルに制止を促すが、彼女は2人の進言に取り合わず逆に叱りつける。

まるで聞く耳を持たないリルルに2人が肩を竦める。


「その辺り貴方はどう考えているのかしら?リシッド・フォーバル」


糾弾するリルルにリシッドは極めて冷静な様子で応じる。


「リルル様の仰る通り。言い訳のしようもでございません」

「そう。自分たちの不甲斐なさは分かっている様ね。だからといって失態が許されるわけではないですけれども」


随分とリシッドに対してキツイ態度で接するリルルに、テナンとクラーラは困惑し様子を見守る。

彼らの対峙した状況の困難さを、戦いの場に身を置いてよく知っている騎士デニクやリルルの護衛の2人は、リシッドに対し同情的な視線を送る。

現状を見かねたレティスがリルルの言葉に口を挟む。


「リシッド隊長達は命懸けで私を守ろうとしてくれました!」

「そんな事は当たり前の事。それよりも貧民上りは口を挟まないでくれるかしら」

「それは出来ません!」


リルルの言葉に珍しく熱くなるレティス。

真正面から言い争う聖女2人に、面食らう周りの面々。

周囲の反応を余所に、2人の応酬が始まる。


「では貴方は命を懸けたなら任務を失敗しても許されるとでも言うつもり?それなら最初から彼らは必要ないのではなくて?」

「いいえ、リシッド隊長達が居たからこそ私は今こうしてこの場に居られるのです。彼らが居なければ私は既に死んでいました」

「所詮は結果論でしょう。実際彼らは何の役にも立たなかったわけだし、いっそ命を盾にして貴方を守って死んだほうが兵士として本望だったのではなくて?」

「そんな事ある訳ないです!」


語気を強めるレティスをリルルは一笑に付す。


「どうかしら?兵士というのはそういうものでしょう?むしろそうでなくてはこれから王都までの護衛が心配で仕方がないのだけれど?」


どこまでも上から目線。貴族としての気位が悪い方向に作用しているとしか思えない高慢な態度に、静観していた周囲の面々からも嫌悪感を滲ませる。

そう思わせる程に彼女の言葉には情が感じられなかった。

場に険悪な空気が漂い始めた時、口を開いたのはカナタだった。


「1個確認だけどさ。今言ったことってアンタの為に死んだこの場に居ない4人も同じって事だよね。守る為に死んで本望だろうってさ」

「・・・ええ、もちろんですわ」


カナタの言った言葉にリルルが小さく頷く。

そう。本来であれば彼女の横には後4人の兵士が座っている筈だ。

この場に辿り着く迄の間に命を落とさなければ。


「でもそれって本当はアンタの為に死んだ彼らの命が無駄じゃなかったと思いたいから出た言葉なんじゃないの?」

「っ!?」


突如カナタから投げかけられた言葉に少女の心臓が大きく跳ねる。

それは彼の言葉が間違いなく図星を指しているからに他ならない。

図星を指されて内心が嵐の海の様に波打つ彼女の前でカナタが尚も言葉を続ける。


「さっきから気になってたんだけど。アンタがレティス様やリシッドに突っかかるのってさ。全員が無事にこの場に辿り着けた事の羨ましさとか、自分達が皆揃ってこの場に辿り着けなかった事の悔しさとか嫉妬から出た言葉じゃないのかな?」

「平民が分かったような口をきかないで!」


思わず声を荒げたリルルが慌てて自分の口元を抑える。


(しまった。これじゃまるで彼が言っている事を肯定しているのと同じじゃありませんか)


あまりに的確に心を突いてくるカナタの言葉に、つい感情的になってしまった事を悔いるがもう遅い。

先程まで自身に向けられていた嫌悪の視線が、同情的なものへと変わっていく。

こうなる事が一番嫌だったのに、失敗したと内心で思う。

言い合っていたレティスまでもが申し訳なさそうに目を伏せる。


「あの・・・私」


シュンとなって謝罪の言葉を口にしようとするレティスよりも先にリルルが口を開く。


「その顔。やめてくれないかしら」

「でも・・・」

「それは私にも、私の護衛をした者に対しても侮辱ですわ」


尚も毅然とした態度で接するリルルに、レティスはまだ何か言おうとするが、それ以上言うなと威圧する様な彼女の目に見据えられ、言葉を喉の奥へと押し戻す。


「わかりました。すみません」

「・・・はぁ」


分かったと言いながらも結局最後に謝罪しているレティスに、リルルがため息をつく。

これも全てあのカナタと呼ばれる平民のせいである。


(本当に余計な事をしてくれて!)


腹の底からこみ上げてくる苛立ちからキッとカナタを睨みつけるが、相手の方は意に介する風でもなく。

むしろヘラヘラと締まりのない笑顔で、軽く手まで振ってくる始末。

こうなるとなんだか1人で気を張っていた自分がバカバカしくなってくる。


「もういいですわ。それよりも今後の話をしましょう」


話が進まなかったのはおまえのせいだけどな。と皆が内心で思ったが流石に誰も口には出さない。

皆を代表してテナンが一つ咳払いをして話を始める。


「それではまず、今分かっている事についてだが、今、王国内で聖女や貴族を狙う者がいる事は皆知っていると思う」

「星爪の旅団なる獣人を中心とした一団ですね」

「その通りだ」


リシッドの言葉にテナンが頷き、語り始める。


「この星爪の旅団だが、どうやら大陸の北方から流れてきた獣人と彼らに従う人間が集まって作られた組織らしいという事が分かった」

「北方・・・ですか」


大陸の北方。それはガレイアス帝国やダラグノン王国、ディトランデ公国といった戦争大国が覇権を争い続ける激戦地帯。

その中で小さな国家が生まれては消えを繰り返すまさに混沌の坩堝。

国を追われ、逃げ出す様に脱出する者達も少なくはない。


「恐らく戦争で国を失った者達が寄り集まったのだろう」

「自分達の居場所を求めた結果、他国で暗殺者まがいの事をするまでに身を落としたと、迷惑な話ですね」


甚だ迷惑であるといった態度を取るリシッドに皆が同意し、テナンも大きく首を縦に振る。


「まったくその通りだが、それをここで愚痴ったところで何の解決にもならない」

「仰る通り、して今後の方針は?」

「それについてはリシッド君達には妻の方から先に話があったと思うが、傭兵の雇用や兵士の増員で手を打つことになっている。ただ、事が公に露見するのを避けたい事もあって数はあまり増やす事が出来ない」


テナンの言葉にリルルが険しい顔で異を唱える。


「ちょっとお待ち下さい。国家の宝たる聖女を守る事こそが一番大切な事でしょう。なのに市勢の顔色を窺う為に私達を危険に晒すというのは些か本末転倒に過ぎるのではありませんか?」

「・・・仰る事は分かるのですが、これは国内だけでなく近隣諸国に対してガノン王国の力を見せる為でもあるのです」

「どういう事です?」


テナンから只ならぬ気配を感じて怪訝な表情をするリルル。

一同の顔を見渡したテナンは努めて落ち着いた口調で言葉を紡ぐ。


「これはまだ公になっていない話です。ですので今から聞く話は決して他言しない事をお約束頂きたいのですが」


テナンの放った言葉に場が静まり返り、居並ぶ面々の緊張感が高まる。

しばしの空白の後、意を決したようにレティスが答える。


「分かりました。主神レメネンに誓ってこれからのお話しは一切口外いたしません」

「こちらも同じくですわ」


レティスに続いてリルルが答えた所で、テナンは一度大きく頷き、続いて他の面々の顔色を窺う。


「他の皆さんもよろしいですか?」


確認を求められた兵士達は皆顔を見合わせたが、すぐに答えが出たのか互いに大きく頷きあう。

彼らの視線を受けたこの場で一番兵士として地位のあるリシッドが代表して答える。


「我等兵士一同、誇りにかけてこの件、決して外部に漏らしたり致しませぬ」

「よろしい。後は・・・」


最後の確認とばかりにテナンがカナタの方へと顔を向ける。


「カナタ殿はいかがか?」

「別にそんな知り合いとかいないんだけどな~」


そう言ってカナタが頬を掻く。

実際のところカナタは異世界人なので外国の知り合いどころか、国内にだってほとんど知り合いはいない。

居ても辺境の村の鍛冶師とかシスターとか村長ぐらいのものだ。

だがそれを知らないテナンが確認を求めるのは当然と言えば当然の事。


「いくら君がビエーラ様に身元を保障されているとはいえ、有事に逃げ出さないとも限らないのでね。きちんと言葉にして聞いておきたいのだよ」

「そういうもんなの?まあ、いいんだけどさ」

「して、返答やいかに?」


随分と念を押してくるテナンにカナタは肩を竦めて返す。


「いいよ。誰にも話さないし、話すつもりもない。話した所で大して得する事でもなさそうだしね」

「結構。では早速本題に入るとしよう。覚悟はよろしいかな?」


ゴクリと誰かが唾を飲み込む音がやたらと大きく聞こえた。

それほどまでに静まり返った場で、テナンがゆっくりと口を開く。


「我がガノン王国は現在、戦争の危機に直面している」

『っ!?』


カナタを除くその場の全員に衝撃が走った。


「テナン様!それは本当ですか!」

「ああ、本当だよ」

「・・・信じられませぬ。我がガノン王国がそんな」


ほとんど全員が愕然とした表情をしている。

無理もない。長い年月を周辺国と小競り合いの一つも起こさず。

魔獣や野盗ぐらいしか脅威のなかった日々の中に突如湧いた戦争話。

いきなり信じろと言われて信じられる者は多くはないだろう。


「私も何度この話が夢であったならと思ったよ」

「お言葉ですがその様な話、噂にも聞いた事がありませぬ」

「それは当然さ、この件については徹底した箝口令が敷かれているからね。王族と

と二十貴族会、聖教会の幹部といった一部の者しか知らぬ秘事だ」


そう言ってテナンは疲れた笑みを浮かべる。

力ないその笑顔が、何よりも今の言葉が真実であると告げている。


「敵は・・・相手はどこの国なんですか?」

「リベアード?シドレー?それともサングランですか?」


サロネが口に出したカナタには聞きなれない単語。

ベーゾンの授業で確か聞いた記憶があると思い返す。


カナタ達がいるガノン王国はグラナベル大陸と呼ばれる巨大な大陸の南東に位置する国だ。

国の東部と南部は海に面しており、北部にはリベアード王国、シドレー公国、西部には魔道国サングランという3つの国に囲まれている。

長年他国とは大した交流はないものの、争いもなく、互いに不干渉を今日まで貫いてきたという話だったと記憶している。


「落ち着きたまえ。あくまで戦争の危機であって、まだ決まった訳ではないよ」

「しかし!」


詰め寄りそうな程に身を乗り出す兵士達にテナンが落ち着いた様子で話し始める。


「ところで君達はリベアード王国の王が昨年急死した事を知っているかい?」

「・・・いいえ」

「知りません」

「相手はリベアード王国なのですか?」


話題を逸らす様なテナンの質問に兵士達が揃って首を傾げる。

彼らの返事に、テナンが小さく頷き、言葉を続ける。


「ではその後、保守派である第1王子と主戦派である第2王子の間で国内を二分する王位争奪戦が起こっている事も当然知らないよね」

「はい」

「まさか第2王子が王位に?」


シュパルの言葉にテナンは首を左右に振って否定する。


「いや、どちらが王になるかはまだ決まったわけではないんだけど。ただ、現在の王選の戦況は非常に芳しくなくてね。このままだと第2王子が王位に就く可能性が非常に高い」

「なんと!」

「それ程とは!」


表情を強張らせる兵士達の中、一番の学者肌であるベーゾンが尋ねる。


「しかし、第2王子が勝つと何故ガノン王国との戦争になるんですか?言っては何ですがガノン王国はリベアード王国より国力は高いですよ」


リベアード王国はガノン王国の約3分の2程度の国土で国民の数もガノン王国よりは少ない。

土地も切り立った崖や山麓が多く、国内生産も高くない。

だが、ベーゾンが告げた言葉にテナンが乾いた笑みを浮かべる。


「ハハハ。それがそうでもないんだよ。リベアードはここ数年で急激に国力を増していてね。北方から新しい魔核武装や最新の兵器を大量に買い込んでいて、兵士の数では我が国に及ばなくても十分戦えるだけの力を既に有しているんだよ」

「魔核武装を大量に!」


魔核武装、それは一つあるだけで格上の相手すら容易く凌駕、あるいは倒す事すらも可能とする魔の力を有した武装。

魔獣や魔石に蓄積された魔的エネルギーを蓄積した魔核と呼ばれる石に人の持つ魔的エネルギーで干渉する事でその力を使う事が出来る。

ちなみに技を発動させる際に技名を言うのはイメージする技を素早く発動させる為であり、言わばショートカットコマンドである。

これを言うか言わないかで技の再現度や発動スピードが大きく左右される。

難点としては魔核には相性がある事と、ある程度の期間慣らしを行わないと、所有者との間でパスが構築されず。技を構築、形勢、発動できない事。

この魔核武装にはランク付けが存在し、


・狩猟級<ヤークトクラス>・・・狩猟等で使用するレベル。

・殺戮級<マスカリードクラス>・・・大量殺戮すら可能な武器。

・軍隊級<レギオンクラス>・・・1つで一国の軍隊に相当する力を有する。

・財産級<フォーチュンクラス>・・・売れば領地が買えるか小さな国が作れる。魔獣すら敵ではないレベル

・宝物級<<トレジャークラス>・・・一国の英雄クラスが所持するレベル

・極限級<エクストリームクラス>・・・俗に勇者と呼ばれる存在が所持を許される武器。

・遺産級<レガシークラス>・・・伝説に残る英雄達が使ったとされる武器。

・聖遺物級<レリッククラス>・・・神々の武器。


という評価が付けられる。

ちなみにランクの高い魔核程、扱いが難しく。

使いこなす前に魔核に精神や肉体が汚染される事もあるのだとか。


尚、前述のランクはあくまで武装のみでそれ以外に使うランクや規格外もあるそうだ。


ちなみに今までカナタが遭遇した物だと、リシッド隊の持っている剣がヤークトクラス。

ルードやデニクの持っている騎士剣がマスカリードクラス。

悪欲三兄弟のダゴが持っていた巨剣はレギオンクラスに相当する。

そんな1つでも厄介な魔核武装を大量に戦争に持ち込めば、数で劣る国でも十分に大国を倒すことができる。


「であれば尚更我が国ではなくより小さな国に攻め入った方が被害も少なく済むはずなのに」

「損得だけで見ればそうだが、今回は歴史的背景が少し絡んでくる」


テナンの言葉にサロネがギョッと驚きに目を剥く。


「歴史って・・・ガノンがリベアードを下したのはもう何百年も前の話じゃないですか!」

「そうなんだけどね。向こうはそう思ってないらしく。現に第2王子は王選前のスピーチで集まった聴衆に向かってこう言ったそうだよ。『私が王位に就いた暁には、ガノン王国が我等が偉大なる先祖から不当に奪った国土の全てを再びこの手に取り戻す』ってね。おかげで向こうはすっかり好戦ムードみたいだ」


テナンの言葉に大きく肩を落とす兵士達、聖女2人も先程までの諍いを忘れて青い顔をしている。

そんな中、カナタだけは興味深そうにテナンの話に耳を傾ける。

そもそもは物心ついてから長い時間を戦いの中で過ごして来たカナタにとってはどこで誰とどんな理由で戦うかは大した問題ではない。

むしろいつか争う事になる相手の情報を得る事を自然と脳が選択する程だ。


「ちなみにですが、第2王子が王位に就いた場合。どのぐらいで戦争になりますか?」

「遅くても5年。早いと2~3年の内には開戦になるだろうね」

「そんなに早く」


もう驚く元気もなくなった周囲を見渡し、テナンが話を纏めに掛かる。


「私はね。今回の星爪の旅団なる連中の襲撃はリベアード王国の差し金なんじゃないかと考えている。まあ、筆頭やカナード様は私とは違ったお考えの様だが・・・」

「確かに、来る戦争に備えて今から手を打っていると考えれば合点がいきますが」


かろうじて言葉を絞り出したリシッドの言葉を最後に場が沈黙に包まれる。

呼吸をするのも億劫な程、自分に掛かる重力が重たく感じる。

もしテナンの予想通りなら獣人達の背後には1つの国家がいるという事だ。

いくらリシッド達が強くなっても、バックに国家を持つ相手とやりあえる自信はない。

頭を押さえつける様な空気の重たさに、皆が下を向く中、カナタが口を開く。


「別にどこのどいつが来るとか、戦争がどうとかなんて関係ないだろ。俺はレティス様と一緒に王都へ行くだけ。それを邪魔する奴らは全て叩き潰すだけだ」

「カナタ」

「カナタさん」

「任せなさいな。人間だろうがバケモノだろうが叩き斬ってやるからよ」


カナタの言葉を受けてレティス、リシッド達の面々が顔を上げる。

普通であれば目の前の現実に押し潰されてしまいそうなところだが、不意に旅に加わった正体不明の少年。にも拘わらず何故か彼が言うとなんとかなるような気がするから不思議である。


「そうだな。王都までそう長い道のりじゃない」

「確かに今更ですね。怖気づくには遅いくらいだ」

「そうですよね。今までも散々な目に遭いましたし」

「カナタが、いや俺達が居ればなんとかなるさ」


気力を取り戻したリシッド達を見てテナン達、リルルと護衛2人が呆気にとられる。

たった1人の少年の言葉1つでこうも持ち直せる事が理解できなかった。

皆の思いを代表してリルルが皮肉を込めた言葉を告げる。


「こんな少数でなんとかなると思っているのかしら?」


現実を直視した彼女自身の言葉にカナタは真正面から受けて立つ。


「違うよ小さな聖女さん。なんとか"なる"んじゃない。なんとか"する"んだよ」

「ちっ、小さいって貴方!無礼な人ね」


自信満々に答えたカナタの言葉にリルルが椅子から立ち上がって怒り出す。

だが、口調はともかく見た目は多く見積もっても中学生女子レベルのリルルでは迫力に欠ける。


「そんなプリプリ怒んなって。可愛い顔が台無しだよ」

「かっかわ・・・!」


カナタにとっては言葉通りで他意のない言葉だったが、言われ慣れていないリルルは柄にもなく顔を真っ赤に染める。

少女の反応に若干違和感を感じながらカナタが笑顔を向ける。


「これから王都まで一緒するんだから仲良くしようぜお嬢さん」

「先程から失礼ですよ貴方。私はこれでもレティス・レネートと同じ歳ですわ!」

「へっ?」


少女の言葉に、思わず笑いを止めて冗談だよねという意思を込め、カナタが周囲へと視線を送るが誰も目を合わせようとしない。

唯一目が合ったレティスだけが苦笑いを浮かべて首を左右に振る。


「・・・嘘だろ」

「女性に自ら年齢を口にさせるなど紳士にあるまじき振る舞いですわ」

「あ、うん。なんかその・・・ごめん」


未だに信じられないと言った様子で少女に謝辞を告げるカナタに、リルルが照れとも怒りともつかぬ表情で応じる。


「まっ、まあ、貴方達の今後の働き次第では許してあげなくもないですわ」

「ん?ああ、そっちについては任せてよ。無事に王都まで連れてくからさ」

「その言葉、神に誓えますか?」

「それは無理だ」

「・・・・はぁ?」


まさか舌の根も乾かぬ内に前言をひっくり返すのかとリルルが呆れかけるが、その結論を出す前にカナタが言葉の先を続ける。


「信じてもいないものに誓う様な野暮はしたくないだけだよ」

「信じていない?神をですか?」

「うん」


事もなげに答えるカナタに、先程とは違った理由でリルルが呆れる。


「神の信徒たる私達の前でよくもまあぬけぬけとそんな事が言えますね」

「それは前にも聞いたよ。悪いけどこれがマイポリシー。譲れないんだなぁ」

「まいぽりし?なんですそれ?」

「気にしなくていいよ。後、どの道誓いの言葉は必要ないと思う」

「何故?」

「出来なければ皆まとめて死ぬだけだから」


確かにその通りであるが、そんな事をサラッと口にする事が、彼がその他の者と違う異端である事を強く印象付ける。

その事が可笑しくてリルルは思わず笑い声を上げる。


「ウフフフフ。それもそうね。いいでしょう。あなたの真贋はこれからの旅の中で見定める事とします」

「そうして頂戴な」


カナタの言葉を聞き、席に着いたリルルが先程と違った笑みを浮かべる。


(私の心を見透かした事と言い、一国を敵に回すかもしれない状況でのあの胆力と言い、おもしろい方を見つけましたわ。まあ、貧民出のあの女が連れてきたと言うところが少しマイナスですが)


チラリとレティスを見ると、穏やかな笑顔を浮かべている。

その笑顔に僅かな苛立ちを覚えたのも束の間、リルルが小さな笑顔を浮かべる。

ただそれは穏やかな優しい笑みなどではなく。含み笑い。


(レティス・レネート。貧民には過ぎた力を得た愚かな女。身の程を弁えぬ貴女から護衛の兵士もそこの傭兵も私が全て奪ってあげますわ)


聖女という言葉から縁遠いプライドの塊の様な少女の野望がこうして動き出す。

クククと邪悪に笑うリルルの隣でテーラとダスターが眉を顰める。


「ああ、お嬢様がまた悪い顔をなさってる」

「お嬢。中身は外見同様ガキだからなぁ。仕方ないさ」

「なるべく、あちらの皆さんに迷惑が掛からない様にしないといけないわね」

「そういうのは姉御に任せるよ」

「・・・あんたねぇ」


頭を抱えるテーラとダスターであったが、2人はこの後の旅の中で嫌という程思い知る事になる。

聖女の子守りをしていた頃の方がずっと楽だったという事を。

新キャラ目白押し?

ともあれ旅の仲間、リルル、テーラ、ダスターが新規加入となります。

まずます激しくなる戦いが待ち受けている中、彼らがどんな活躍をするのか!


ともあれ、今回国家の話と魔核武装についてやっと書けました。

もっと細かい設定があるにはあるんですが、詳細はおいおい。


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