序
昔、男がいた。男は、人形に恋をしていた
口も開けぬ人形に恋をするなどと、人々は男を笑った。
男は、人形の言葉を、彼女の本心を知りたいと思った。
そしてこの想いを伝えたいと願った。
男は“いのち”を造ることにした。
言葉がわからないなら、人形に“いのち”を与えればいいのだと。男はそう考えた。
最初に男が作ったものは、彼女によく似た人形だった。しかしそれは、ただ動いて喋るだけの人形で、無機質で、無感動だった。
次に男が作ったものは、彼女によく似た人間だった。しかしそれは、ただの人間で、人形である彼女自身には成り得なかった。
最後に男が作ったものは、彼女によく似た何かだった。それは人間でもなければ、人形でも無く、ただそこに存在する人形のような人間のような形をしたもので、結局彼女では無かった。
結局自分は彼女によく似た、別のものを造っていただけだ。彼は絶望した。造った“にんぎょう”達は誰ひとり愛せなかった。ただ、愛するのは、あの人形の彼女だけ。あの人形の想いはあの子にしか宿らない。しかし男は終ぞ純粋な“いのち”を造り出すことは出来なかった。
後の世に男は、誰もの口に上る伝承となり、こう呼ばれた。
偉大なる愚者、生命の錬金術士、と。