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テガミ ──The short tales of LETTERs──   作者: 蒼原悠
Ⅰ 伝われ、この気持ち。
1/25

ずっとずっと ──少女→少年──



【letter-01 forever and a day】




 ……大好きだった赤坂(あかさか)颯大(そうた)に想いを伝えられないまま、引越しで離れ離れになってしまった中学生の少女・青山(あおやま)莉那(りな)


 募る想いを抑えきれず、ついにある日彼女は決心します。


 住所を調べあげ、テガミを書こうと。

 そこで、想いの丈を吐露しようと。


 『第一のテガミ』は、そんな彼女の心の叫びです。




挿絵(By みてみん)






赤坂(あかさか) 颯大(そうた)




 拝啓



 って書いちゃったけど、何て続けたらいいのか分かんないや……。


 ごめんね。一行目から面食らうような文章で。



 私です。青山莉那です。


 覚えてますか?


 突然の手紙に驚いたよね。颯大が今、鹿児島に住んでいると聞きました。番地まで住所を教えてもらいましたが、もう三年前だから変わっているかも分かりません。届いたらいいな、と願いながら書いています。



 もうすぐ、年の瀬です。


 ここ六本木は、相変わらずの賑やかさでいっぱい。東京ミッドタウンのイルミネーション、覚えてますか? 今年も東京の中心を、きれいな光で照らしてくれてます。写真を添えたかったけど、撮り忘れちゃった。



 そっか。


 もう、離れてから二年も経つんだね。



 私と颯大が出会ったの、いつだったっけ。


 多分、幼稚園の年中だったと思うんだけど。正直よく覚えてないや。あの頃から変わらなかったのは、住んでるマンションだけだったもんね。


 私が二十九階、颯大がその上の三十階。


 これからもずっと、変わらないとばかり思ってたのに。永遠なんて、この世にはないのかな。



 私たち、よく二人で遊んでたね。


 ほら、小学校の校庭があんまり広くなかったじゃない。遊び場がないなりに、六本木タイムズスクエアのフロアの中を駆けずり回ったり、首都高の高架の柱でかくれんぼしたり。日が暮れても東京の街は明るくて、調子に乗って八時まで遊んですっごい怒られた事もあったね。懐かしいな。



 でも、一番大変だったのはやっぱりあれだったね。


 気がついたら国会議事堂の辺りまで行っちゃってた時だよ。



 なんであんなに遠くまで行っちゃったんだろうね。はっとしたら周りは知らない風景で、真っ黒な服着た背の高い大人ばっかりで。怖くて怖くて、でも颯大は絶対に泣かなかった。私も意地張って、泣かなかった。はぐれないように二人手を繋いで、なんとか六本木を目指して歩いたんだよね。


 ちょうど、このくらいの時期だったかな。珍しく東京は雪景色で、寒くて暗くて、人も多くて。冷たい風が吹き荒れる首都高の下の道を歩きながら、握った颯大の手の温かさだけが私の意識を保ってた。


 あんなに、人って温かいんだって思えたのは、初めてだった。



 今思うと、やっぱりあの日の私は幼かったんだね。


 それが、私の颯大への気持ちの表れだった事が、分からなかったんだもん。




 最近また、東京では雪が降る日が多くなってきた気がするの。


 そんな時、いつも私は颯大の事を思い出すんだ。


 後悔するんだ。


 ああ、あの時ああすればよかった、って。



 結局、私は一度も颯大に伝えられなかった。


 だから、いまこの場を借りて言おうと思うの。



 あなたが、大好きだった。


 間違いなく、私は颯大に恋してた。


 勉強で落ちこぼれたりイジメを受けたりして、私がつらい思いをしてた時、いつも颯大は私に寄り添っていてくれた。いつも笑って、前を向いてた。いつも、私の味方だった。


 私の心の中で、颯大の存在はどんどん強くなっていっていたんだよ。



 あの頃、伝えたかったな。この気持ち。


 そしたら、離れずに済んだのかな。


 雪が降る時、私はいつも空を見上げながら、そう思っています。





 小六の時、だったよね。


 颯大が引っ越すって話が持ち上がったの。




 あの日、何の話をしてたっけ。


 確か、学校の授業で夢について発表するとかいう課題が出てて、二人して夢の話をしていたんじゃなかったかな。


 私がキャビンアテンダントで、颯大が新幹線の運転士だった。微妙に違う夢だったけど、思い描く未来には自然とお互いの姿があったと思う。だからこそ、颯大が引っ越すって聞いた時の絶望感は大きくて。すっごく大きくて。


 どこ、とまで颯大は教えてくれなかった。その代わり、うんと遠いところって言ってた。


 ショックで、私あの時泣いちゃったよね。言葉に出来ない寂しさと不安と虚無感に襲われて、颯大の隣で泣き崩れちゃった。


 それでも、颯大はいつものように、私が泣き止むまで手を握っていてくれた。決して、離さないでいてくれた。


 あの日も、東京は雪が降っていたね。




 この手紙を書いている今も、外は雪が舞ってるんだ。


 あの日、私たちが座っていた東京ミッドプレイスの公園のベンチも、走り回ったあちこちも、六年間を一緒に過ごした区立の小学校も、何もかもが雪に包まれてるんだなぁって思うと、ちょっと不思議な気分。


 楽しかった颯大との日々が、頭のあちこちから沸き上がってくるから。



 本当は、ずっと颯大の側にいたかった。


 あの温かい手を、いつも握っていたかった。



 颯大がいなくなって、私は中学に上がったけれど、正直初めの頃はすっごく情緒不安定だったんだ。ちょっとした事にも泣いて、怒って、凹んで。きっと、颯大がいなくなったって事がまだ理解しきれてなくて、戸惑ってたんだと思う。ううん、今だって戸惑ってる。


 時々、どうしたらいいか分かんなくなるんだ。


 いつも颯大は私の側に立ってくれて、私を助けてくれた。その強さに私はどこかで甘えてたんだ。その分、独りになってみると大変な事ばっかりで。



 だから。どうしても辛くなった時、切なくて悲しくてやりきれない時、私はあのベンチに座るんだ。


 そこから夜空を見上げれば、


「頑張れ」


 って、颯大の声が聞こえるような気がするから。




 ごめんね。手紙、長くなっちゃったね。そろそろ、締めないとだよね。


 本当は、伝えたい事はまだまだたくさんあるんだけど。




 颯大に、会いたいな。


 会って直接、伝えたい。


 颯大への、この想いを。


 私の気持ちは今もこれからも、たとえ雪が二度と東京に降らなくても、絶対に褪せたりしないって事を。



 会えなくても、私は忘れない。


 あなたという人と出会えたこと。握った手の温かさ。かけられた言葉。もらった勇気の数。励ましの数。無限大のチカラ。ぜんぶ未来の自分の糧にして、私も夢に向かって頑張るよ。キャビンアテンダントに、きっとなってみせるよ。


 だから、颯大も忘れないでほしいな。あの日誓った、夢の事を。私の事を。



 なんか、泣けてきちゃった……。


 紙が染みだらけになっちゃったな。字も汚いし、読みにくかったよね。ごめんね。




 ありがとう。



 颯大と出会えたことは、私の一生の宝物だよ。





 最後に、




 颯大、大好き。



 颯大の事、ずっとず──────っと、愛してる。



 敬具





青山 莉那

 









 ……今日で、一週間になる。

 あの手紙を送ってから。


 ため息をつきながら、エレベーターで一階まで下りてきた莉那は郵便受けを開けた。案の定、それらしきモノは入っていない。

 そうだろうと心の中で、予想はしていたのだが。


──やっぱり私のことなんか、忘れちゃったのかな。

  それとも、住所が間違ってたのかな。


 暗い気持ちで見上げた空は、今日もなんだか悲しげで。今にも泣き出しそうに歪んでいて。

 莉那だって泣きたかった。

 勇気を振り搾った結果がこれなんて、ひどすぎる。むごすぎる。




──寂しいよ。



──悲しいよ……。



──応えてよ……!



「ソウタ…………!」




 張り裂けそうな胸の中で、そう叫んだときだった。

 莉那のケータイが突然、鳴動を始めたのだ。

「……?」

 電話帳に登録されていない、謎の番号。怖いが、そのまま切るのもなんだと莉那は思い直した。出るだけ出てみよう、と。

 ……そう思えたのは、一瞬だけ胸の奥で煌めいた淡い希望を、逃したくないと直感的に考えたからかもしれなかった。

 緊張の一瞬。


「もしもし、青山です」





「リナ!?」




 頭の中が、奥から真っ白になってゆく。


「俺だよ! 赤坂だよ! その声、リナだよな!?」


 耳元で叫ぶその声に、抑揚に、調子に、莉那の記憶は確かに反応した。

 そうだ、忘れもしない。その声の主こそ、莉那の求めていた人だったのだ。


 赤坂颯大。

 もう二度と会うことはない。

 一度はそう思った、その人だ。



 莉那は、ケータイを持ったまま路上に立ち尽くした。

 やがて、その頬をゆっくりと熱い何かが辿っていった。




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letter-01 forever and a day

公開日 2013/12/25 19:00

舞台 東京都港区・六本木




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