瞳に映るプレリュード 5
「右だ!」
ヴィクターの声が示す方向から、拡散の火線が迫る。それをすれすれでかわし、ヒトミはショウコに向けて再び走り出した。
魔法少女が見据える攻撃。次々に面毒サイの魔法陣から放たれる拡散の火線を全てかわし、さらに軽くなったと感じる自らの動きを、研ぎ澄ましていった。
「次、左。それと上から」
ヴィクターのナビゲーションも的確。着弾予想は寸分の狂いもない。これならばと思うが、ヴィクターには懸念があった。
まだ、集束砲撃を絡めてきていない。
そうなのだ。一斉射のあと面毒サイはそれを撃ってこない。まるで、それをトドメにと狙い澄ましているように、拡散だけを放ち、ヒトミが動きまわる空間を狭めている。このままではやがて、とヴィクターの気持ちが離れた瞬間、ヒトミへの指示が遅れた。
「前、それと――」
右から火線がヒトミを襲う。半身になって前からのをやり過ごしたまでは良かった。が、右から来る火線に反応できていない。
「右だ」
はっと息を呑みながら、ヒトミが見開き認めた火線。これは、避けられない。
「きゃあっ」
肩を打ち抜かれるようにして着弾。衝撃にヒトミはぐるりと宙を舞う。けれど、ヒトミはしっかり地面を見据え、体を捻り、着地する。間に髪入れず迫る次の火線を駆け抜けさばいた。
肩に痛みは残っている。けれど、肩を撃ち貫かれた訳ではなかった。初めに展開したオートディフェンサー――魔法少女の衣装が黒くくすんだだけで、腕も繋がっている。
痛くない。痛くない。
走る激痛をなかった事にするように、内心で言い聞かせる。もしこんな状況でなければ、泣いていても不思議じゃなかった。
でも泣かない。
きっと、ショコたんの方が痛い!
ぎゅっと足を踏ん張り、進む方向を無理矢理曲げる。縦横無尽に逃げ回るのはもう止めだ。向かう先は一点。
「ショコたんを返せぇっ!!」
叫ぶ。と、ヒトミの中でガラスが割れるような音がした。パリンとひとつ。それを聞いたのはヴィクターだけだったのだろう。けれど、彼は悟る。
魔力制御の魔法結界が、破壊された。いや、放棄されたってのか。
気付けばヒトミの肩にあったくすみが消えている。魔力の底上げが、ディフェンサーの威力を増した。
真っ直ぐショウコへ向かうヒトミ。だが、それを良しとする災悪ではない。
絶対的な障壁として立ち塞がる五芒星の魔法陣。集束砲撃を司るそれが、魔法少女に狙いを定めた。
「これで本当に最後、これ以上面倒な事はイヤだ」
呟くように、吐き捨てるように面毒サイは、涙をぬぐう事さえさせず、ショウコの腕をヒトミに向け突き出させた。そして――
「消えてしまえ」
放つ集束砲撃。だが――一斉射でないなら。
「突っ込めっ!」
ヴィクターが言った。言われなくてもっ!
掌を突き出し迎え撃つ。そこからバリアが生まれ、ヒトミを包み込み、砲撃を弾く。太い閃光の中を、ヒトミは駆け抜けた。そして突き当たる壁――それは集束砲撃の魔法陣――物理的に触れる感覚。ヒトミはそれをそのまま握るように、砕きつぶす。
集束を描いた魔法陣が音を立てて崩れさると、砲撃は消え、すぐそこにショウコの姿。
「馬鹿な……」
面毒サイがヒトミの姿を見下ろし、慌てて拡散の火線をそこへ向ける。が、遅い。
ヒトミの行動は早かった。ショウコへ抱きつき、そのままの勢いで抱えて通り過ぎる。火線の雨が、空を切った。
しかし、と面毒サイはほくそ笑む。その先は、“空”だと。
確かに、ショウコのいた場所は展望室の端。ショウコを抱えたヒトミは、空に跳び出し、落ちる。現に、重力に引かれたヒトミたちは、落ちていた。
落下の加速と共に耳元で啼く風が、空気が、まるで死神の誘いに聞こえる。目を背けたい現実。けれど、背けるわけにはいかない。見据えた地面はもうすぐそこだ。
無意識にショウコの頭を庇おうとするヒトミ。
耐えられるのだろうか?
過る疑問。いや、違う。耐えてみせるんだ。
と、きつく唇を結んだ時、ヴィクターの声が聞こえた。
「いい覚悟だぜ」
ヴィクターの開いていたページが輝きを放つ。そして、ヴィクターが言葉を紡ぎ出した。
「我が言葉は、彼の言葉。紡がれし魂の呪い――」
どこかで聞いた事のある言葉。それが術式の展開だと、記憶の奥で誰かが言う。いや、誰かではない、ヴィクターと同じ姿をした、シュバルツが言った。
中空に――ヒトミたちの眼下に――展開される六芒星の魔法陣。描かれる赤いルーンはヴィクターが開いたページのもの――
「聞き入れよ、汝の支配を我がものに――」
魔法陣が輝く。そして――ヴィクターから紡がれるトリガー。
「《フライト》っ!」
声が魔法陣にあたる。すると、ヒトミから重さが消えた。いや、それだけでなく加速が弱まり、ふわりと魔法陣の上に着地した。徐々に魔法陣は下へと降りて行っているが、それだけ。ダメージは、ない。
「これって……?」
魔術書に目を向ける。と、ヴィクターはルーンの光るページのまま、言った。
「浮遊魔法だ。さすがに詠唱破棄ってのは無理だが、ブーストを使えば、な。お陰でもう俺に魔力は残ってねェ。素寒貧だ。あとはこのまま下に降りてタンゴたちと合流する。そっからがオメェ頼りだぜ、ヒトミ」
聞いてヒトミは、腕の中で気を失うショウコを見下ろした。乾き始めた涙の跡が、頬に浮かんでいる。ぎゅっとショウコを抱き、ヒトミは見上げた。もちろん、睨み据えた先にいるのは面毒サイ。
憎々しくヒトミを見下ろす浪人人形は、その赤い瞳を三度笠から覗かせている。その視線が交錯すると、今まで感情をあらわにしなかった面毒サイが、震えた叫びを上げた。
「なんだよ貴様はっ、なんで思い通りいかないんだよ!? クソッタレっ! なんでそこまで邪魔するかなっ! ああもう、何もかもがめんどくさい! お前も、そいつも、世界も、全部っ! 全部、ぶっ壊してやるよっ!」
ビリと空間が震えた。ぴんと張り詰めた空気が、面毒サイを中心に広がり、世界を闇に変えて行く。
暗転。それが正確な表現なのかはわからない。けれど、この空間をヒトミは知っていた。シュバルツと出会ったあの地獄階段で見た闇の世界だ。
心の隅から蘇る震え。それをきゅっと結んだ口でせき止める。絶対に目を逸らさない。じっと、面毒サイを見据えた。何があってもショウコを守る。
しかし、更に固められる決意の横でヴィクターは、見据えた現状に青い目を若干曇らせた。
「クソっ。空間剥離だ――」下まで行けばリマ、タンゴの助力もあったかもしれない。いや、あったはずだ。が、切り取られてしまえば、それも望めない。ストラップ単体での空間干渉など、自分たちには不可能だ。このままやるしかない。「気をつけろ、正体を現すぞ」
ヴィクターの言葉通り、面毒サイの姿がみるみる変わって行く。着物は肥大した体に押し破られ、三度笠も落ちた。肌も、所々に暗緑色の苔を生した暗い灰色のがさつく皮膚に変化し、同様に肥大した太い丸太のような四肢をつく。顔は長く突き出し、その動物を代名する二本の角が鼻先から伸びる。赤い目が怪しくきらめくと、陸の重戦車とも言われる巨大な犀へと姿を変えた。
「あれが、正体?」
「そうだ、面毒犀。それが、あいつだ」
レリーフでありながらも、ヴィクターの表情が歪んだ。奴を一撃で倒せる魔法が、俺に綴られていたか? タンゴなら持っているだろう。が、それを今、考えていても仕方がない。
パラパラと、ヴィクターのページがめくられて行く。しかし、決まったページで止まる事はなかった。最後までめくり終えると、今度は逆にとめくり直される。
対抗策がみつからない。もし、特定の行動をとってくれれば、打開策もあるのだろうが、所詮、受身である防御型の自分に攻めの魔法など……。思考を巡らすヴィクター。だが、変身を終えた面毒犀は、単純な行動に出る。
「潰れて、しまえっ!」
ぶわっと面毒犀の巨体が展望室を踏み切った。重力を味方に――いや、それだけではない。どういう理屈でなのか理解に苦しむが、空気を蹴って、自らも加速している――速度の二乗と質量をかけあわせた、物理的な体当たり。
どうする?
展開できる魔法は少ない。はっきり言って、面毒犀の一撃を防げる自信はない。できる事と言えば“回避”。だが、浮かぶだけで動きの遅いこの魔法で、空気を蹴る面毒犀にどこまで通じるのか。
二度目のめくり直し。
その時、接近する面毒犀を見据え、ヒトミが言った。
「ねぇ――」
☆
「我が言葉は、彼の言葉――」
魔法の冒頭を口にしたヒトミ。その言葉にヴィクターのページが止まる。
「これが、ブーストの呪文なんだよね」
「ああ」と、返したが、何をするのかとヴィクターは思う。その時、また、魔力制御が割れる音を聞いた。暴走している訳ではない。ただ、妙に肝の座ったヒトミの魔力を感じる。
「だったら、試してみたい事があるの」
まるで、呪文を知っているかのような口ぶり。この状況でも落ち着き払ったヒトミは、方手でショウコをギュッと抱きとめると、もう一方の手を、掌を、迫り来る面毒犀へ向けた。そして――
「我が言葉は、彼の言葉。紡がれし魂の呪い――」
魔力を絡め、紡がれた言葉。フライトを司る足元の魔法陣が、肥大する。それはまるで、相手を受け止めてしまおうと言わんばかり。広がり、ゆっくりと時計回りに回転をしていた。
いや、それだけではない。ヒトミが突き出した掌の先にも、空間に六芒星を描く平面魔法陣――周囲にルーン文字を含むそれが、用意される魔法の意味を示す。が、それをヴィクターは見た事がなかった。初見のルーン。しかし、何故だろう。どうしてつい先ほど魔法少女となったヒトミが、ルーンの構築などと言う事ができるんだ。ヴィクターに浮かぶ疑問。それを横目に、更に紡がれる言霊。
「届くのならば聞き入れよ。聞けぬのならば消滅を持って――」
魔法陣を描く文字が激しく輝く。合わせて、ヴィクターの意志とは別に、ページがめくられ始めた。今までにない程激しく、素早くめくり示されたのは見開きのページではなく、中途半端に一枚天を突くように残ったページ。それが二枚一組であったのか、ぺリぺリと、赤い輝きを放ちながら引き剥がされ、新たなページが生まれた。
そして知る。ここに綴られたルーンと、新たにヒトミが創りだしたルーンが同じだと。
これが、俺の中に――
意味を知り、ヴィクターが息を呑む。すると、ヒトミの術式が完成した。
「裁きとする」
告げた言葉。一層魔法陣の輝きが増す。面毒犀はもうすぐそこだ。が、間に合う。あとは仕上げの術式発動。
「ヒトミ、叫べ。望むままに!」
――リジェクションとっ!
「リジェクション!」
一杯に引き絞られたトリガーが魔法陣に触れ、縒りあわされる赤黒い魔力の流れ。それが纏まり、魔法陣の前で魔力と同じ色をした斑模様の玉を生む。と、その玉が膨張したと思えば収縮し、爆発。赤黒い光の奔流が、甲高い音を孕みながら面毒犀へ向けて放たれる。それはまるで、面毒犀が放った集束砲撃のように、いや、それとは比べ物にならない密度と質量をもって、退けるべき敵へ。
だが――
「こんなものぉ!」
面毒犀がいなないた。五芒星の魔法陣を展開し、リジェクションの波動を押しのける。ヒトミがやってのけたように、突き抜ける気だ。
しかし――
パリンと聞こえた内なる音――
「突き抜けろおおおおっ!」
気概と共にグンと更に突き出したヒトミの腕。既存の砲撃が、更に出力を増した。
ピシ――面毒犀のバリアに亀裂が入ったかと思った瞬間、ヒトミの砲撃が、全てを呑みこみ、貫いた。
それでも威力が余るエネルギー波は、面毒犀が上げたであろう断末魔の言葉すら消し去って、暗闇の天をも貫く。それはまるで余韻と共に建てられた赤黒い破壊の尖塔。
軌跡の全てを薙ぎ払い、捉えた相手を消滅せしめたその塔は、自身を削りながら花弁のように魔力を舞い散らせる。その美しさと禍々しさは、魔術書に戦慄を走らせた。
「なんて、でたらめな威力だ……」
ヴィクターが零す。もし自分ならこの波動を防ぐ事ができたか? いや……、と描いた想像を内心否定する。
そして見上げた尖塔は、次第に細くなり、やがて終息した。
どうやら剥離された空間すら貫いていたのだろう。暗転した上空にはぽっかりと浮かぶ空色の月。その中で雲が流れたと思えば、風が吹き込み、満月の縁から空間の闇にひびが入る――そこから闇が、軋み、砕けた。
グワンともパリンとも聞こえた音と共に、天井が割れていく。
青い背景に黒い光沢が欠片となって舞い散る空を見上げ、ヒトミは息の上がった胸に手を添える――そして、同じ鼓動を確かめるようにショウコを見つめ、そっと抱きとめた。
「お帰り、ショコたん」
蘇った太陽の光を反射しながら散る隔離空間の残骸。それが、霧になって消えていくと、元の世界が戻ってきていた。
★
「何?」
背筋に走った何とも言えない感覚に、暗転した世界の中で、マジックインダストリ極東支部所属の魔法少女は反射的に振り返った。少女の肩に乗るアルビノウサギもまた、同様の気配を感じ取ったのか、つぶらな赤い瞳を、切り取られた世界の端――その先へ向けて髭を揺らした。
「アリサ。たぶんもう一体災悪がいたんだよぉ」
「じゃあ……」
と、零したアリサは、茶色のセミロングを揺らし、足元に展開してあった黄色い魔法陣を操り、気配がした方へ向き直った。しかし、ウサギは首を横に振る。
「でも大丈夫ぅ。見た感じ空間剥離は解除されてるしぃ。災悪はもう消えてるよぉ」
「けど、この街にわたし以外の魔法少女なんて……、あの腐れ巫女?」
訝かる少女に、ウサギは肩をすくめた。
「うーん……、どうだろぅ。この気配は巫女ちゃんじゃないと思うよぉ。あの波動は魔法だったからぁ、きっと同業者だと思う。そぉ言えばぁ、本部へ帰っちゃったメアリーの代わりに、今日付けで新しいストラップエージェントが来るって話ぃ、聞いてなかったっけぇ?」
「ああ……、そんな事言ってたわね」と納得したアリサだったが、「けど――剥離空間ふたつ越しを伝える波動魔力って、よっぽど優秀なエージェントって事? 候補者がいたとしても、すぐにストラップ化だなんて、早くない?」と首を傾げて見せた。
「それはどうだかわからないけどぉ。メアリーの代わりだったらさぁ、それくらいやってもらわないとねぇ。ボクたちだけじゃあ、やっぱり限界ってものがあるよぉ。いくら巫女ちゃんが形式上の味方だとしても、向こうはそう思ってくれてないみたいだしぃ。頼れる仲間が増えたんだからぁ、素直に喜ぶべきじゃないかなぁ。こっちは結局、こんなんだしねぇ」
と、ウサギが目線を後ろへ回し見上げる。あわせてアリサも振り返り、瞑目。そして、見上げた先には、暗闇に浮かぶ巨大な球体魔方陣――サッカーボールに似た網目みたく六芒星の魔法陣と複雑なルーンが描かれた球体――が、黄色く輝き、夜空に浮かぶ満月のようにその存在を誇示していた。
その中で胎動する魔力に眉を寄せたアリサは、「そうね……」と、唇を結んだ。
「これで休みが増えるんだったら、大歓迎なんだけど……」
★
木漏れ日が優しく差し込む展望公園のベンチ。そこでジャージ姿に戻ったヒトミは、気を失ったままのショウコを膝枕し、休ませていた。
公園の前を走る幹線道路からは車の走る音が聞こえ、イヤホンをしたランナーが、彼女たちの前を軽快に走り抜けて行く。
世界は、元に戻ったのだ。
ふと、低く吹き込んだ風が、ショウコの髪を巻きあげる。おでこに乗っかった髪をそっと整え、ヒトミは天を仰いだ。
微かに揺れる木々、その度に木漏れ日は表情を変え、時折眩しいくらいのきらめきが、ヒトミを刺激する。まるで、映画のひとコマか、それともアニメかなにかのワンシーン。
のどか、そして平和。
そう思うと、先ほどまでの戦いが、夢幻だったんじゃないかと、疑ってしまう。
魔法少女に出会って、シュバルツ、ヴィクター、リマ、タンゴ――それぞれに出会った。そして、一回きりの魔法少女。
スリリングだった。と、あとになってだから思える。
――スリリングなんて要らないって――
ショウコの言葉。ホントそうだよ。
あれから、ヴィクター達は姿を消した。簡単な別れの挨拶だったけれど、不思議と寂しいとは思わなかった。それは彼らが望む事のように思えたし、ヒトミ自身も涙々の別れなど想像できなかった。言ってみれば「バイバイ」と気軽に手を振る事が当然で、夢物語は胸の中にしまっておくのだとヒトミは思った。
いや、やっぱり、ただ単に軽かっただけなのかもしれない――
「一時はどうなる事や思たけど、まあ、よかったんちゃうか?」
と、タンゴが言い。
「もしよかったら、これからも魔法少女やってみない? ボクから推薦状を出しとくけど」
と、リマが言った。
「無理無理、あたしが魔法少女だなんて、もう無理だって」
バタバタと掌を振るヒトミに、白い犬の姿に戻っていたヴィクターが肩をすくめて見せた。
「そうか? オメェは天才だぜ。俺も知らねェ魔法を使ったんだからな」
「いや、その。あれはシュバルツの使ってた魔法なんだよね」
苦笑とも照れ笑いとも取れる笑みを浮かべながらヒトミが言うと、ヴィクターは鼻をスンと鳴らし。
「どっちにしたって、オメェには借りができたな」
小さく頭を垂れた。
「べつに、いいよ。あたしはショコたんが助けられればさ。それで」
ベンチに横たわらせたショウコへ視線を流し、ヒトミが笑うと、ヴィクターはククっと笑った。それに横目を向けヒトミは意地悪く言う。
「それにあの格好は恥ずかしいもん」
「オイ、あれはオメェのセンスだろうが。……ま、それはそれとして、魔法少女に成りたくねェなら無理強いはしねェ。できるなら俺たちもオメェを含めて魔法少女の力を借りたくはねェのさ」
おどけるような語調で言ったヴィクターに、ヒトミは微笑む。
「平和が一番ってこと?」
「ああ」
ヴィクターに合わせてリマもタンゴも頷いた。
「じゃあなヒトミ。魔法の事なんか忘れて、二度と会わねェ事を祈っててくれ」
そうやってヴィクター達は背を向けた。バイバイと揃えて尻尾を振りながら遠ざかって行く彼らの姿を見送りながら、ヒトミは内心苦笑する。
そんな事言って、それがフラグになったりして、ね。
なんてやり取りを思い出し、ヒトミは笑った。ふふふと。それがきっかけになったのか、ショウコの瞼が動いた。「うーん」と唸ったあと、ぱちっと見開く。そして、自分を覗きこむヒトミに気付くと、跳ね上がるように起き上がった。
「ちょ、なに? あれ? ここは?」
何が何だかと見回すショウコに、ヒトミは微笑む。
「どうしたのショコたん?」
「え、いや、って、なんでわたしこんな恰好で公園にいんの?」
半纏の袖を引っ張ってベンチに座ったままのヒトミに見せつけるショウコ。それにヒトミは首を振った。
「わかんないよ。たまたまあたしがここでショコたんを見つけたの。そして膝枕してたんだよぉ」
ニヤリと歪んだヒトミの怪しい笑顔に「うっ」と息を呑むショウコ。けれど、何かを思い出したかのように、バタバタと手ぶりを交えて訴える。
「って、おかしい。こんな恰好でわたしが出歩く訳ないじゃん。あんた、何か催眠術みたいなのかけて、ここに連れだしたんでしょ? ――はっ、それでか、魔法少女になったあんたと戦う夢見たし――。って、それよりも膝枕なんてありえないし。なんか他にもやってんでしょ?」
突拍子もない解釈を含め、色んな言葉をマシンガンのように喋り出すショウコへ、なんと説明すべきかヒトミは迷った。けれど、まあ、簡単に事実だけを告げる事にした。
「胸は揉ませていただきました。また大きくなってたね」
これ以上ない満面の笑顔を見せたヒトミに、ショウコの顔が赤くなる。
「何やってんのよ、このバカチン!」
「いったーい」
ゴチンと叩かれた頭をさすりながら、状況が把握できないショウコの慌てるさまに目を細め、穏やかな木漏れ日の中ヒトミは、明日からの高校生活を思うのだった。
魔法も争いもない平和な学園生活でありますように、と。
第一話 瞳に映るプレリュード 完。
読んでいただき、ありがとうございます。藤咲一です。
このあとがきを書いているのは、もう三月一日に変わってしまった午前零時。
四年に一度とか、そんな事を口実に投稿した「まじっく☆いんだすとり《瞳に映るプレリュード》」ですが、「I think about――」よりも前に書いていたヤツです。
もっと言えば、「銀星スターライト」の反動で、書き始めたファンタジー。
ですから、銀星スターライトで書いた内容と、主軸が結構被ってたりするんですよねぇ。
それもあって、中断していたストーリーだったんですけど、最近小説書いてないなぁってことで、ちょこちょこ手直ししながら、好き勝手に書きました。
序盤はそこそこ笑えて、ご都合主義的に転がり、熱血バトル。
ま、これも面白いんじゃないかなぁって思ってしまったものだから、投稿してしまいました。
適当に張った伏線を回収できるのか?
なんて、考えてません。
あらすじにも書きましたが、行き当たりばったりのご都合主義で、書き切るかどうかもあやふや。
一応、第二話までは、書いてあります。ってか、書いてあったので、そこまでは投稿できるかなって思ってますが、それより先はどうなることやら……。
というより、読んでくれる人が居るんだろうかと、弱気になってますね。
なんて……。
嘘です。
久しぶりに投稿できて、すがすがしい感じ。
いろいろと設定を組み上げていくのが楽しい。
魔法とか、神話とか、妖怪とか、悪魔とか――
ククク……。
私の中の中二病がうずくのですよ。
え?
あとがきが一番痛い?
HAHAHA!
と、いうことで、ひとまずあとがきはここでお終いです。
それではまた、どこかでお目にかかれることを夢見まして、ここらあたりで失礼します。
藤咲一でした。12/3/1