ガラスの向こうのエンドレスワルツ 7
「もう大丈夫だから……」
小さく、囁くようなショウコの声が聞こえ、ヒトミの心臓が跳ねた。
まさか、この声――
けれど、抱きとめられたままでも肩越しに見える制服姿のショウコ。
こちらを燃えるような赤い目で睨み据えながら、ギリと奥歯を鳴らすショウコが居る。
でも、耳元で聞こえた声は、間違いなく――
ショウコのものだ。
それを確かめるため、ヒトミが喉を振るわそうとした時――赤い目をしたショウコが、重々しい声を出した。
「貴様――どうやってここに……?」
聞いて、燕尾服のショウコはふっと笑い、半身に振り返った。胸ポケットから覗くクジャクの飾り羽が、キラリ輝く。
「親友に助けを求められちゃ、来ない方がおかしいでしょ?」
三角帽子の広いつばから覗くシャープな顎と、潤った唇――そして、銀色の弦を持つリムレス眼鏡の奥に、大きく黒い双眸。
やはりそうだ。この少女もまた、ショウコ。
「ショ、ショコたん……?」
うわ言のように漏れた言葉。それに燕尾服のショウコは、ふんと鼻を鳴らし「そうよ」と頬を赤らめ、ツンと唇をとがらせた。
「ったく、あんたは……、よくもまあ、あれだけ大きな声でこっぱずかしい事を叫べるわね? 言われたこっちは、どんな顔すればいいのよ」
照れ隠しに吐く悪態も――やっぱり、そうだ。間違いない。
だから――
「笑えば、いいと思うよ……」
「バ、バカ。こんな状況で、なに言ってんのよ」
「せや、冗談はそのヘンチクリンな式服だけにしとけ」
ショウコの頭上から違う声が降ってくる。しかしこの関西なまりのイントネーションもまた、どこか、いや、いつか聞いた事がある。
それにいち早く反応したのは、ヴィクターだった。見回しても、黒猫の姿をしたタンゴはいない。けれど――ショウコの纏う燕尾服からタンゴの魔力が匂ってくる。それは、残り香と呼べる物ではなく、高揚し、今、すぐそこで溢れだしてくるような、強い魔力だ――
「まさか、オメェ……、タンゴか?」
「まあの、成り行きでな……」と、声が聞こえたと思えば、ショウコの三角帽子から猫耳がぴょこんと生え、大きなふたつのネコ目が――ぎろり――金色の光彩を見せてヒトミたちを見下ろす。「っと、それよかヴィクター。積もる話もあるやろが、それはいったん後回しや。やるべき事は、先にやらんとな」
「ああ……」とヴィクターが、ページを開き――
「うん」と、ヒトミが踏みしめ――
「そうだね。タンゴ」とショウコが、制服姿の“ショウコ”へ、右手に持つタクトを向けた。青白い炎の刃が、轟と燃え上がり、タクトを纏う。
合わせて、タンゴの目が、睨むように細くなる。
「さあ、ここいらでホンマのフィナーレといこか……、泥者――いや、メフィストフェレス!」
タンゴの啖呵に、ショウコの姿をした災悪――悪魔メフィストはクククと、片手で表情を隠しながら笑った。次第に肩の揺れが激しくなり、笑い声が大きく――そして、狂ったような高笑いに変わる。
「どうやら、“あいつ”は二度寝返った訳か……、同等と思って好き勝手にさせておけば実に狡猾――なかなか楽しい道化を演じてくれた。……だが、そうだな……。ひとつ文句を言わせてもらえるなら、詩人を残し、終演を迎えることなく舞台を去るのはいただけない――これでは詩人か道化師か、結論を見ること叶わぬ――」
メフィストの顔を覆った指の間から、鮮やかな赤い目が覗く。
「されど、こうも見れる……。出魔も楽団も消え――静寂に穿たれた詩人の歌を、わたしひとり最前列で聴けるのだ。ならばその代償も惜しくはなかろう。よい舞台であったが、おおよそここまで」
ピンと、空間が凍り付く。いや、これは――
空間剥離。
メフィストを中心に広がる見えない境界。それが這うように世界を撫でれば、白と黒で塗られた空間の色が、反転していく。
同時――メフィストの目が、静けさを孕んだ青色に変わり、白へと変わった頭髪を突き破って、山羊の物に似た二本の角が現れる。細く綺麗だった指は黒い毛皮に覆われ、鋭い爪がぬらりと怪しくきらめいた。
獣のように――それでいて、ショウコの面影を残す影に変わったメフィストが、前傾に両腕を垂れると、背中を裂いてコウモリのような翼が広がった。
その姿はまさに、悪魔と呼ぶにふさわしい。
「さあ……」男性と女性のものが重なったような声を発し、メフィストは顔を上げた。「望み通りのフィナーレだ――仮初なれど、恩寵の空間は今ここにある――いざ、見せてみよ。汝らの宇宙そのものを」
ぐっと、メフィストが屈んだかと思えば、その姿が、消えた。
いや、違う。
唯一、真実を認められたのはタンゴ。
「構えろショウコ!」
叫びに似た警告――反射的にショウコはタクトの刃を構える。が――一瞬にして間合いを跳躍したメフィストの掌がそれごとショウコを捉え、連れ去り、そのまま十字架へ叩きつける。
「――っ!」
声にならない声を上げ、挟まれる衝撃を浴びた。それでもショウコは把持したタクトを放さない。ギリと競り合い、メフィストの爪を炎の刃で受け止めていた。
「うむ、良い目だ」メフィストの目が、笑う。「しかし――」
「ショコたんっ!」遅れてヒトミが、振り返る。
と、そこで、こちらに目を向けるメフィストと視線が交錯した。
「あちらはどうか……」
言葉を残し、ぶれる空間――メフィストの爪がヒトミへ襲いかかる。
「早ェエ……」ヴィクターが零す。
だがっ!
進行を阻む魔法障壁を展開――しかし、メフィストはそれを爪で穿ち、突き破る。
「ぬるいっ!」
そのままヒトミの喉笛へ狙いを向ける爪。
しかし今度はヒトミが両手を突き出し、魔法障壁を生み出す。
パンと甲高い音が弾け、赤く瞬く障壁が、メフィストの爪を受け止める。
が、じり、じりと、ヒトミが障壁ごと押された。
「くぅ……」
「この程度の拒絶で、私を阻もうなどと――」
クククと、メフィストの笑う声が聞こえたかと思えば――障壁越しにヒトミを映す悪魔の目が、一層輝く。
「片腹痛しっ!」
再び、メフィストの体がぶれた。瞬間、ヒトミの視界から姿を消す。
「え? 消えた? また?」
どこ?
と、目をこらした刹那――背中に衝撃が走る。
「きゃあっ!」
ドンと、激しく回し蹴ったメフィストの一撃が、中空へヒトミを弾き飛ばす。式服のおかげで、痛みが緩和されているとはいえ、慣性は適応され、錐もみながら宙を舞う。
天井と地面がめまぐるしく入れ替わるヒトミの視界へ――
「それでは輝くこともままならぬ」
体をすぼめた悪魔の姿が映り込む。
追撃!?
寄り添っていたヴィクターがヒトミを庇うように間へ、メフィストの放つ蹴り足に向け魔法障壁を展開する。
しかしメフィスト一撃は、易々と障壁を破り、ヴィクターごとヒトミを蹴り抜く。
「ぐあっ!」
ヴィクターから漏れた痛みを置き去りに、弾かれ、打ち出されたヒトミたちは白い大地へ叩きつけられた。
それを見下ろし、翼を大きく広げたメフィストが笑う。
「どうした? 汝の性質などそんなものか?――足りぬ。足りぬなぁ。せめてあの時と同等に憎め、怒れ、輝いてみせよ。でなければ、ご退場願おうか」
言い、メフィストは、横たわり動かないヒトミへ掌を向け、魔法陣を展開――術式は、《フレア・ランス》――さらなる追い打ちだ。
そこに――
「うわぁああああーっ!」
ショウコの叫び。
メフィストが目を向けると、刃を切り上げるショウコが、すぐそこに――咄嗟に左腕を向けるが、それでは遅い。ショウコの刃が、メフィストのその腕を断つ。
「ほう……」
メフィストが自らの傷痕に感嘆を漏らす。その間に、ショウコは刃を返し、振り下ろす。
が、メフィストは術式を放棄し、もう一方の爪で刃を捌き、いなし、自らぐるり体を回転させ、ショウコの腹部を膝で蹴り上げた。
跳ね上がるショウコの背中。そこへメフィストの肘が落ちてくる。
二連撃。
いや――
衝撃に弾かれ墜ちるショウコの背を、踏みつけるようにメフィストは蹴り、そのまま自身を加速させ大地へと運ぶ。そして未だ動けないヒトミを狙い澄まし、そこへ――
「――!」
生まれた轟音と粉塵。魔法少女ふたりを重ね伝った一撃が、黒く染まった大地を割った……。
それらの衝撃に弾き出された大地の欠片が舞う中、メフィストはとんぼを切るようにして中空へ舞い戻ると、折り重なるように動かない魔法少女を見下ろし、切断された左腕を掲げた。
メフィストの頭上に展開される魔法陣――それに合わせ、散った黒い大地が泥のように変質し、メフィストの掲げる失われた腕へ吸い寄せられていく。そして寄り集まった泥は、新たな左腕を形成する。
「先ほどはなかなかであったよ。黒衣の詩人」
メフィストが再生した掌をぐっと握り込み、開く。
と、魔法陣の上に、小さな太陽にも見える特大の火球が具現化された。
「だが、弱い。薄い。所詮、汝らの宇宙では、私を映すことなど叶わぬ」
すっとメフィストの目が細くなり、特大の火球は、さらにその大きさを一回り、二回りと肥大させた。
と、そこに――
「我が言葉は彼の言葉、紡がれし魂の呪い」
早口で紡がれるヒトミの声。見れば、ショウコの下から白い袖を纏った掌がメフィストに向けられている。
「届くのならば聞き入れよ、聞けぬのならば消滅を持って――」
六芒星の魔法陣が描かれ、輝く。
「裁きとする」
そして、引き絞られるトリガー。
「リジェクションっ!」
赤黒い閃光と、甲高い呻りが空間を劈く。
が、放たれたリジェクションを、メフィストは目にも留まらない早さで避ける。その場に残っていた魔法陣と火球をリジェクションの波動が貫いた。
中心をくりぬかれ、ドーナツ状になった火球が、魔法陣を失い粒子に変わる。
経緯に目を奪われていたメフィストの顔が、微笑をたたえ魔法少女へ――気を失ったようにもたれかかるショウコを支え、立ち上がるヒトミへ向いた。
「先の言質は撤回しよう。薄くはない――」
中空でメフィストが腰を落とす。
「が、稚拙だ」
言葉と共にメフィストが姿を消した。
ざわり、ヒトミに悪寒が走る。
咄嗟にショウコを突き放し、自らもその反動で身を投げると、先ほどまでの空間を、メフィストの残影が通り抜けた。
身を転がし、立ち上がるヒトミが行く末に目を向ければ、翼を広げ、中空に静止するメフィストの姿。
ショコたんは? と、一瞥。どうやら巻き込まれずにすんだようだ。帽子を押さえながらゆらり立ち上がる姿があった――
「大丈夫? ショコたん」
「すっごく痛い……。けど、大丈夫」
苦痛に目を細めながら、唇を噛んだ。そして――
余裕か、油断か、慢心か――魔法少女たちをせせら笑いながら見下すメフィストを、睨み上げた。
けれど――
「復元能力に、あの早さ」ショウコが零し――
「ちと……、厄介やな」
タンゴが付け足す。
不安の色が、ショウコの魔力に混じった。
そんなふたりを横目に――
「だが……」とヴィクターが口を鳴らす。「勝てねェ相手でもねェさ。ヤツを見た限り、復元能力にしたって、高速移動にしたって制限はある――。もしそれがメフィストの油断だとしても、そこを突かねェ手はねェ」
「それって――」
ショウコの中でも思い当たることがあるようだ。ならば、尚のこと――
「ああ……。ヤツを倒すにゃ切り刻んでも無理だ。修復の余地を一片すら残さねェ一撃で仕留めねェと、何度も同じ事を繰り返す羽目んなる。だから……、あんたにひとつ頼みてェ――」
ぐっと、ショウコのタクトを握る手に力がこもった。その意味をわかりながら、ヴィクターは続ける。
「なんとかヤツをヒトミの射線上に引き込んで欲しい。もしそれが上手くいきゃ、目一杯の《リジェクション》で終わる」
「ヴィクター。そんな、ショコたんひとりに任せるだなんて」
うろたえるヒトミ。それをショウコが制した。
「大丈夫。わたしを誰だと思ってるの? それに」と、三角帽子のつばを引っ張る。「今は、タンゴもついてる」
「せや、ワシの事を忘れんな」
「でも……」
「勘違いすんじゃねェよヒトミ。オメェは、オメェで、無理してもらうってんだ」
聞いてヒトミは、ぐっと唇を噛んだ。
「目一杯って言っただろ……?」キッとヴィクターの目が、決意を映す。「《リジェクション》の詠唱レベルを一段階上げる」
「第二段階――」タンゴの目が、虹彩を細くした。
――我が言葉は、彼の言葉。紡がれし魂の呪い――これが、基本となる第一段階。そこから一小節――わずか一小節――言霊を連ねるだけで、魔法の威力が単純計算数倍に跳ね上がる。しかし、力を得ると言うことは、そのリスクもまた跳ね上がる。それを押さえつけ使いこなすとなると、魔法のセンスを超越した――術者とストラップの経験が肝になるはずだ。
才能ではどうにもならん部分やで……。
「できるんか? ヴィクター」
「できるかどうかじゃねェ。耐えてみせるさ。俺も、ヒトミも――。だから……」
言葉に詰まるヴィクター。そんな言葉にショウコは微笑を見せると、踏み出し、背中で言った。
「わかってる。わかってるわよ……。いちいちそんなこと言わなくたって、もとよりわたしはヒトミを信じてる」
「ショコたん! でもあたし」
遠ざかるショウコの肩に手をかけようとした。が、それをヴィクターが阻む。
「オメェはひとりで戦ってるつもりかっ!?」
「そんな……、そんなことないっ! けど、アイツ相手だよ。そんなのショコたんが――だったら、あたしが囮になるよ」
「それはでけんな」タンゴが言った。
「どうしてよ? あたしたちの方が防御に適してるはずだよね。ヴィクターは守護が専門なんだし」
「見えとらへんのに、防げるんか? 破られとんのに、防げるっちゅうんか?」
「それは……、大丈夫だよ。次は絶対」
「次で、終わりかもしれんで」
ゾクリとするような言葉。それにヒトミが息を呑む。
「それはもう、囮言わん。ただの捨て駒や」
言葉が、返せなかった。
「でも――」とショウコが言った。「ヒトミなら、アイツにとどめを刺せる」
「ショコたん……」
「泣き言や文句は、後でいくらでも聞いてあげる――」ショウコの握るタクトが振られ、青白い刃が、轟と燃え上がる。「だからっ、あんたは魔法の準備をしなさい!」
同時、ショウコの足下に魔法陣が浮かんだ。
「すまねェ、ふたりとも」
ヴィクターの声を、タンゴは鼻で笑い、ショウコは照れ隠しに俯いた。そして――
「行くわよ、タンゴ!」
「おうさっ!」
タンゴの声にショウコはぐっと腰を落とし、メフィストを睨む。律儀に待っていましたと言わんばかりの余裕。その顔が自分と同じなだけに、許せない!
足下の魔法陣が、輝き、タンゴのトリガーを受け止める。
「《アクセル》っ!」
ドンと、カタパルトで打ち出されるかのように、ショウコが跳ね上がり――虹色の魔力を纏いながら加速した。
見据えた先のメフィストが、口角を上げる。
「魅せてくれる良い輝きだ、詩人よ」すっと腰を落とし、ぬらりとした爪を構える。「その輝き……、ぶつかり散れば、さぞ美しいのだろうな」
途端、メフィストを取り巻いていた空間がぶれる――高速移動だ!
が――
「見えとるな? ショウコ」
ショウコの目には、しっかりその姿が見て取れた。
「もちろん」
「初めにも言うたがアクセルの加速は、ものの数秒や。かけ直し含めて、計算せーや」
「わかってる……」
タクトを握る手に力がこもった。
そこで会敵――メフィストの右爪が突き出される。それをタクトで受け、流し、巻き付けるようにして去り際に腕を切り裂く。
微塵になったメフィストの右腕が、バラバラと砕け、散る。
これなら、行ける!
さらに体をひねり、反転するショウコ。それにタンゴが呼応し、足場となる魔法陣を生み――
「《アクセル》っ!」
メフィストの背後をとった。突き出す刃。
ズンと、刃がメフィストの背中から胸を突き抜ける。
しかし、手応えがない。
「良い攻撃だ」流れた白髪から、ニタリと笑うメフィストの口が覗いた。「だが――少し鋭すぎる」
途端――じゅるりとメフィストの体が泥に覆われ、後頭部だった白髪の中から、不適にゆがんだ顔が覗く――ざわり、ショウコが怖気だつ。
体の前後を入れ替えた!?
咄嗟に刃を引き抜き、ショウコはメフィストの体を蹴りつける。が、蹴り足が、泥に呑まれ、離れられない。いや、泥の中でがっしり足が掴まれている――
ショウコの感覚に、間違いはなかった。体の中心に埋まっていたショウコの足が、いつしか体の中をスライドし、新たに生えたメフィストの右手に握られていた。そして――
メフィストが翼を広げ、中空に止まる。
「――っ!」
慣性にショウコの体が振り回される。しかしメフィストはその足を放さず、掴んだまま振りかぶると、空間をふるわせた。
アクセルが途切れた途端の、強制的な高速移動。
ショウコの視界が暗く、狭まっていく。
いや、それだけで終わるはずもない。なにせ、敵に行き先を握られているのだ。
「攻撃とは、断つものではない。折り、砕かなければ終わらぬ」
迫る十字架――ショウコは両手をクロスさせ、せめてもの防御姿勢をとった。
瞬間、フルスイングで十字架へと叩きつけられる――その衝撃で霧のように立ちこめた粉塵の中――巨大な十字架が、折れた。
「ショコたんっ!」
ヒトミの悲痛な叫び。まるで、自身が痛めつけられているような顔を見せる。
しかしそれをヴィクターが制した。
「耐えろヒトミ。ダチを信じろ。あいつらはあんなもんじゃくたばらねェ。それよか、オメェがしっかりしなきゃ、あいつらの戦いが全部無駄んなる――さっき教えた第二詠唱ってのは、言葉にするだけなら簡単なもんだ。けどなっ、気持ちを右往左往させながらこなせるもんじゃねェ! あいつらの強さを信じろ!」
「ショコたん……」ヒトミが唇を噛み、見据えた先――粉塵の中から、ショウコが纏う魔力の尾を引きながらメフィストと切り結んだ。その額には血がにじんでいる。それでも、メフィストが繰り出す爪を捌き、切り裂く。
タンゴの生み出した魔法陣を足場に、何度も、何度も亜音速の世界に身をやつし、再生を繰り返すメフィストと交錯する。
捌きを違い、メフィストに弾かれても、吹き飛ばされても、ショウコの目は――魔力は、虹色の光を帯びていた。
「だよね……、ショコたんが負けるわけないっ!」
すっと半身に構えたヒトミが、右手を突き出す。
「いいかヒトミ、チャンスは一度だと思え。そこに、ありったけの《リジェクション》を打ち込む。俺たちは、あいつらが受けた痛みを、倍にして返すんだ」
バラバラとめくられていたヴィクターのページが止まる。
「これ以上の説明は、要らねェな?」
ショウコが最初の《アクセル》で飛び立った後、ヴィクターが“これだ”と口にした“詠唱”を心中繰り返したヒトミは、大きく息を吸い、吐き出す。そして胸に手を添え、自身の鼓動を聞いた。
「大丈夫……。行けるよ」
「よし……」見開かれる青い宝玉。「なら俺らの全力を――」
「全開でっ!」
突き出した右手に、左手を合わせ――両掌を、ショウコたちが戦う空間へと突き出したヒトミは、彼の詠唱を口にする――
「我が言葉は、彼の言葉。紡がれし魂の呪い――」
掌の先へ六芒星の魔法陣が展開された。ここまではいつもと同じだ。が、ここから段階が上がる。
「天地を巡る風の音は、終わりに向けて吹き抜ける――」
言葉にすれば、これだけのことだ。しかし、ヒトミの体を押さえつけ、締め付けるような感覚が生まれ、突き出した腕が重くなる。
しかし、その反面――最初の魔法陣より一回り大きな魔法陣が、連なるように描き上げられた。
「届くのならば聞き入れよ――」
魔法陣同士が呼応するように瞬き、輝き、緩やかにそれぞれが逆方向へ回転を見せ――ヒトミの体から漏れ出した魔力が、渦を巻き、風を生む。
「聞けぬのならば消滅を持って――」
式服が荒ぶり、音を立て、大地に散った欠片が、中空へと巻き上げられていった。
「裁きとするっ!」
告げればさらに苦しみが増す。
膝にかかる重圧が――
腕にかかる重さが――
桁違いに跳ね上がった。
下がる右腕を、左手で支え、なんとか狙いを定める。
しかし、射線にメフィストが留まらない。
焦りが、苦しみが、今すぐにでもトリガーを引けと言っている。
「堪えろヒトミ。チャンスだ、チャンスを狙え……」
苦悶を混じらせるヴィクターの声。見れば、魔術書もまた、眩く輝き、重圧に耐えている。
そうだ、辛いのは皆同じ――
くっとヒトミは口を閉じると、トリガーが漏れないように、一文字に結んだ。
空間を震わせるほどの魔力が収束していく魔法陣を眼下に、ショウコはすれ違いざま、メフィストの胴を刃で薙いだ。
青白い軌跡を境に、悪魔の脇腹が裂ける。が、どうにも手応えがない。
やっぱり――
ぐるりと体を返す視界の中で、ショウコへ迫るメフィストの傷跡が、暗闇の泥によってつなぎ合わされていく。
先の攻撃など、なんの意味もない。そう言っているような勢いで迫る爪。捌くか、それとも受け止めるのか。刹那の判断。
しかし、ここに来てタンゴの反応が遅れたか――
作られるはずの足場が、ない。
「はははっ! どうした黒き詩人。未来でも見失ったか? まだまだ円舞を踊ろうではないか」
言葉と共に繰り出された爪を、なんとか刃で受ける。が、やはり――
金属同士がぶつかるような音を立て、ショウコの体が吹き飛ばされる。
「くぅ――」
ジンと痺れるタクトを握る腕――それでもショウコは、高速で迫るメフィストの追撃を見据え、刃を放さない。しかし、その刃も細く、短く、風前の灯火のように見える。
魔力に寄って構成されるべき足場も、刃も――もはや形として生み出すことすらできていないとは――
メフィストが、つまらないと目を瞑る。
「もはや、魔力もここまでか……」
突き出していた爪を引き、メフィストは身構えたショウコの脇を通り過ぎる。そして翼を広げ中空へ静止すると、振り向きもせずにショウコの背中を肘で打つ。
その衝撃で、折れるはずの背骨の代わりに、ショウコの燕尾服――その上着が、ガラスのように砕けた。
「――!!」
声にならない痛み。いや、痛みなど感じていなかったのかもしれない。それほどの一撃だった。
力なく、ずるりとメフィストの肘から、ショウコが重力に引かれる。
だが、メフィストはそれすらも許さない。
肘を伸ばすように――振り返るように腕を薙ぎ、ショウコの体を投げ落とす。
そして――ショウコの落ちる先――ヒトミの描いた魔法陣を見下ろした。
「大切な者であろう? 受け取るがいい」
ショコたん――。
ヒトミの顔が、悲痛に歪む。それをメフィストは声高に笑った。
「さあ、ここで最後の選択だよ白き詩人。好きな方を選ぶがいい――私と絶望へ墜ちるか――」
嘲る青い双眸が、ぬらりと未来を見つめた。
絶望を闇とし、闇を己とする災悪。その真意が、ヒトミを狙う。
「友と闇へ還るか」
宣告。それを残し、メフィストの姿が亜音速の世界へ消える。
次の瞬間、ショウコの落下が加速した。見ればショウコを盾にし迫るメフィストの姿。速度が落ち、今のヒトミでもしっかりそれが見える――いや、見せているのだ。
どれだけヒトミの準備した魔法が強力な射撃魔法であろうと、ショウコを盾にすれば放てないことをメフィストは知っている。
だからあえて、“受け取れ”と口にし、速度まで落とした。
さあ、苦悩し、自ら選ぶがいい。そして知るのだ――
己が信念の脆さと、理想の儚さ――
やがて、絶望の心地よさを……。
が――
「それが油断だってんだよ、メフィスト!」
ヴィクターが吠える。
――ヒトミの第二詠唱が、メフィストに探知されることなど織り込み済み。
――ショウコを盾にすることは、想定の範囲内。
ヒトミの掌の先――照準の中で、帽子のつばから覗くショウコの口元が笑い――タクトの炎が燃え上がる!
「《アクセル》!」
タンゴの叫び。虹色の魔力を纏ったショウコがメフィストの呪縛をほどき、跳ね上がる。
いや――
それだけではない。瞬時に体を返すショウコ。その足下には――魔法陣。
「《アクセル》!!」
重ね掛け。ドンと音の壁を越えたショウコが、青白い軌跡を残しメフィストを通り抜ける。
しかし斬撃など恐るるに足らず。ならば射線軸から離脱し、仕切り直すだけのこと――
メフィストが翼を広げ、高速移動を解除しようとした時――表情が凍る。
青白い断面を見せながら細切れに崩れていく翼。
これでは――
慣性に引かれるだけ……。
ヒトミの魔法陣が輝き、メフィストを中心に据えた。
「ぶちかませェエエっ!!」
「リジェクションっ!!」
収束した魔力が、最初の魔法陣で赤黒い斑模様の玉を生み出す。それがふたつ目に吸い込まれ、爆発。甲高い音を孕み放たれる砲撃の口径は、悠に十数メートル。普段の比ではない。
それがメフィストを呑み込み、一瞬で消滅させる。
散った翼も――
断末魔も――
何も残さず、消し去った。
★
鈴蘭女学園校舎上の春空が歪み、赤黒い光の斜塔が雲を突き抜いて行く。
その閃光が何で構成され、その閃光が何に寄るモノかなど、考えるだけ無駄だ。
隔てた空間そのものを、いや、それらの境界を劈き、禍々しくも“この世界”に具現化された“魔”を認めるしかない。
そう――校舎の屋上でたたずみ、掌を庇に、消えゆく斜塔を見上げた青年。
思考すべきは、知り得ている状況と、今見えている現状との隙間を埋めるべきなのだろうが――
――その口元から漏れる感嘆が、口笛を鳴らす。
「こりゃあ、とんでもねぇ……。確かここに巣くった邪念は、向こうじゃなかなか名の通った悪魔だったはずだ。それを結界ごと打ち抜くたぁ……。正気の沙汰じゃねぇな。こっちのことはお構いなしかよ」
自身が座標を読み間違えることはないにしろ、他の巻き添えを考えなかったのか?
瞑目する青年。その髪が春風によって流れると、鈴の音と共に背後へ舞い降りる気配。それに敵意がないことは既に知っている。それでも表情を強ばらせてしまうのは、青年の癖のようなものだ。
微笑を作り直す青年。そこへ、少女の声が滑り込む。
「現状は? 漆狐九」
その声は鈴のようであっても、軽やかさはない。けれど、透き通るように凍てついた氷のような少女の声に、苦笑交じりで青年は振り返る。
「さっきのアレが、なにもかも終わらせましたね」
そう言葉を向けた先には、ひとりの少女――この場に似つかわしくない赤袴の巫女装束を纏い、低い背の半分はあろうかという長い黒髪を後頭部で縛りまとめた馬の尾のような髪が印象深い。
いや、この少女の本質は、姿形ではない。前髪の下にある透き通るような白い顔――その中で、一層赤く輝く双眸がそれだ。
それに、少女の足下へ寄り添う、琥珀色の毛並みをした紫色の目の狐も――
「そう……」少女が言った。「けれど、あの魔法使い――アリサとか言ったかしら、ずいぶん粗雑な魔法を使うようになったわね」
少女の言葉に、漆狐九と呼ばれた青年は肩をすくめてみせる。
「いいえお嬢、ここをやったのは別の魔法使いですよ」
「別の?」と狐が女性らしい声を上げた。
獣が言葉を口にする――そんな事など“当たり前”とばかりに、漆狐九は狐を見下ろした。
「覚えてるか狐白。俺が追っていたあの時の当事者」
降ってきた言葉に、狐白と呼ばれた狐が、目を細めた。
「漆狐九、あんたはあの子が魔法使いに成ったって言いたいのかい?」
「感じた波動は同じだった」
「お嬢」と狐白は少女を見上げる。「やはりあの火唆詐欺は、煮ても焼いても食えませんよ。あたしらへの牽制も全て、あの子を取り込むためだった」
確かに、あの火唆詐欺は口が上手い。しかし――と、漆狐九は含み笑った。
「いいや、それは違うな狐白」
「なにが違うって?」
と狐白の眼光が漆狐九を射貫く。が、漆狐九は軽く頭を振り――
「火唆詐欺はもういない。波動の前にどこかへ行った。契約したのは、また別のヤツだ」
と、顎を校門の方へしゃくって見せた。それに、少女と狐白が目をやれば、虎が一頭――祈るように顔を伏せ、座っている。
「あれは――確か……」と少女が零す。
「ええ、そうです。あの時のヤツですよ」
「ならアレかい?」と狐白が口を挟む。「あそこに居ない禁血猫か――」
「あの、白いヤツだろうな」
じっと睨み合うように視線を交錯させた漆狐九と狐白。そのことで生まれた沈黙を、少女が「で――」と断つ。
「結論から見てどうなの? あの子は敵に成り得るのかしら?」
「極めて危険な存在であることは変わりなし、ってとこですかね」
「ふぅーん」と、片眉を上げる少女。「根拠は?」
「ここに巣くった邪念に堕ちなかった。って事でどうです?」
おどけながら言う漆狐九に、狐白は牙をむいたが、少女はふんと鼻を鳴らし、踵をかえした。
「まあ、いいわ――。その時は、その時……。邪魔になれば薙ぎ払うだけ」
そうとだけ残し去ろうとする少女を、漆狐九が呼び止める。
「お嬢」
無言で半身に向く少女の目。そこへ腕に巻いた腕章を見せつけながら漆狐九が続けた。
「ところで、どうです? この容姿。咄嗟の都合で御神楽の分家――あの坊の姿形を真似たんですが、なかなかなものだと思いませんか?」
確かに、今の漆狐九は、背の高いスマートな好青年といった姿だ。さらりとした髪も、線の細い顔も、その印象を強くしている。
が――
少女は一瞬むっとし、半眼で言った。
「筋肉が足りない」
「は?」
と、漆狐九の目が丸くなる。それを狐白が大声で笑った。
☆
メフィストが生み出していた結界が割れ、空間剥離も崩れ去ると、歪に曲がった空間も、闇に染まった世界も光の粒となって消え去り、その隙間を埋めるように周囲の空間が定着していく。今まで受けた痛みも、傷も、消えゆく世界と共に、和らぎ、薄れ、消えて――背景が学校の昇降口に確定した。
それを横目で認めたショウコが零す。
「これで終わったんだよね?」
「たぶん……」
周囲を見回しつつ生返事をしたヒトミが、コヨリの下足箱を見つけた。しかしそこに収まっていたコヨリのローファーは、汚れひとつない綺麗なものだった。
あれ?
と、動きを止めたヒトミに、ヴィクターが言った。
「メフィストをやった。結界も崩れた。すべては元通りになったのさ――な、タンゴ」
魔術書のレリーフが、瞑目する。詳細を語れとのパスなのだろう。
それをタンゴは鼻で笑い、受け取った。
「あのメフィストが無理矢理空間をねじ曲げとったんや、割り込んどった分だけズレとるかもしれんが、問題はない。ワシらの傷と同じでな、そのうち、運命に修復される」
「と、言うことは?」ヒトミが首をかしげる。
それにタンゴとヴィクターは半眼になるが、ショウコはヒトミへ笑顔を向けた。
「ハッピーエンドってこと」
聞いてヒトミも破顔し――
「やったね、ショコたん」
がばっとショウコへ抱きつく。
するとふたりの式服が解け、足下に白い毛並みのヴィクターが――
下足箱の上に黒猫のタンゴが――
それぞれ姿を現す。
そしてタンゴがヴィクターを見下ろし言った。
「結局、お前はそうなったか……」
「まぁな……、けどオメェは想定外だ」
見上げたヴィクターの視線が交錯すると、ふたりは同時に鼻を鳴らす。
と、昇降口へ迫る多くの足音――それがとまり、女生徒の声が――いや、確かこの声はショウコと言い合ったクラスメイトの声――それが聞こえた。
「やっと見つけた。委員長ぉー、こっちこっち」
声のした方を見ればやはり――あのグループの子たちが、揃って廊下の奥へと手招きをしている姿。
それを見て、ヒトミとショウコが一気に現実へと引き戻される。
「ねえ、ショコたん」
「うん、確かさ――わたしたちが居たのって、教室だったよ、ね?」
「気にすんなよ、オメェら」
とヴィクターが口を挟めば、ふたりの目がキッと睨み付ける。
「なにが気にすんな、よ」とショウコが言い――
「そうよ。教室から突然居なくなったんじゃ、ホントは怖い学校の摩訶不思議アドベンチャーになっちゃうって」
ヒトミのパニック具合に、ヴィクターは溜め息を吐く。
「ったく、なに言ってんだオメェは……。さっきタンゴが言っただろ、運命の修復があっから気にするこたぁねェ。適当に話あわしゃあ、問題ねェよ」
当然だろ? と言うヴィクターにヒトミが気づく。
犬が喋るのもマズイ。
「って、ヴィクター隠れて、隠れて」
ヒトミがヴィクターを抱え、背後へ回す。その腕の中でもヴィクターは続ける。
「普通のヤツにゃ、俺らは見えねェし、声も――」と、言ったところで、ヒトミの尻が降ってきた。「ムゴっ!」
そうやって静かになったヴィクターを無理矢理スカートで隠し、ヒトミが座り込む。
「静かにしててよ」
そう告げた言葉が届いたかどうかは別にして――ヒトミたちの前へ、コヨリの姿が現れた。眉根をもむようにして、頭が痛い、と見せる委員長に、ヒトミとショウコは「えへへ」と笑う。
それにコヨリは――
「戸高さん。寺沢さん」
名を呼びながら、ふたりの顔を順番に見た。その目には、“委員長”が宿っている。
しかし、溜め息をひとつ――微笑を見せた。
「まったく、ふたりとも……、倉田先生は休んでるって言ったでしょ? どれだけ探しても居ないわよ」
「へ?」
と、ヒトミが零した。その横でショウコが「うーん」と唸る。
いまいち話が見えない。たぶん、あの教室からわたしとヒトミは倉田先生を探すため飛び出していった。と解釈すればいいのかしら?
そんなふたりに、グループの子たちが口を開く。
「もういいって、証拠とか、証言とかいらないから」
「あたしたちが、勘違いしてたんだ」
「恥ずかしい話だけど、ね」
「噛みついて、ゴメン……」
そう口々に言う子らは、出魔に踊らされていたのだろう。仲の良い友のため――そのやり方は賛同できないが――その原因をわからなくもないショウコには、運命のつじつまが見えた。
「そういうことよヒトミ」
と、ショウコがヒトミを見下ろした。
「どゆこと?」
「わたしたちは倉田先生を探す必要もないし、あとは正々堂々にってこと」
そう言っても、疑問符を飛ばすヒトミ。
少しは悟れ。と心中毒づき、ショウコはグループの子らに目をやった。
「だよね?」
それに少し頬を染め、グループのひとりが頷いた。
しかし――
「つまり?」
とヒトミが首をかしげる。
ああ、もう。この恋愛偏差値ゼロがっ!
「つ、ま、り――」とショウコが口にしたところで、委員長が笑った。
「つまり自習は続行よ、寺沢さん」
それでようやくヒトミの途切れた運命がつながりを見せる。自習の内容を思い出したのか、ヒトミの顔が引きつった。
「マ、ジ、で、す、か?」
「委員長として、あなたに落第されても困るし――なにより、私を助けようとしてくれたあなたを、今度は私が助けたいから――びしばし、教えてあげるわ」
そう言いながらコヨリが差し出す手を、ヒトミは「ひぇー」と弱々しい悲鳴を上げながらも――しっかり握り返した。
「お手柔らかにお願いします……」
第二話 ガラスの向こうのエンドレスワルツ 完
読んでいただき、ありがとうございます。藤咲一です。
さて、前話に続き、四年に一度の閏年を口実に投稿してきました「まじっく☆いんだすとり」ですが、ここに来て、一旦完結です。
なんで?
と思われたあなた。
それは正解だと思います。
正直言って、コレで完結はあり得ないでしょうけど――
あの、その、あれです。
ストックがないんですよね。この先の……。
一応、書いてみようと第三話としてポチポチ進めてはいますが、いろいろとありまして、この投稿が成される頃に書けているかが、わかりません。
ですので、下手な期待を自身に掛けず、完結設定をいたします。
もちろん。脱稿していれば続きますが、続いていなければ、ダメだったのだと、鼻で笑ってやってください。
ホント、ごめんなさい。
さて、では、《ガラスの向こうのエンドレスワルツ》について少々。
実は……、
今話は、「小説家になろう」(サイトの方ではなく私の書いている作品名の方)と深い関わりがあります。
といっても、そちらで使おうとしていたネタを、こちらでやっちゃってたって話なんですが――。
「銀星スターライト」の、一色の部分と、ゲーテの「ファウスト」。
それらの融合が、これでした。
ですから、シリアスぶっ通しで、客観的に楽しい話ではなかったんじゃないかなって思ってます。
けれど、これはこれで面白いと思う私もいたので、投稿と相成りました。
しかしまあ、やはりと思うのは、「ファウスト」の存在感ではないかと思います。
正直言って、「ファウスト」を読んでしまうと、私の書いてる小説なんぞ、って思ってしまいますね。
だから、突拍子もない内容を、好きなようにといった、ヒトミが作中で勝利した訳なんですけど。
小説家になろうにおいては、座長の悩みみたいなものを置いてけぼりにでき、自己満足を綴れる。
それを体現できたんじゃないかなって、思ってます。
ま、そこをしっかり悩んで、妥協点を見つけ、さらには、しっかりとした作品にできる人は、きっと凄い小説家なんだろうなぁと、ここに、ある種の結論を書いてしまう私でした。
と、ここで後書きはお終いです。
それでは、また、どこかでお目にかかれることを夢見て、ここいらで筆を置きます。
藤咲一
12/3/31