瞳に映るプレリュード 1
「いいか貴様らっ! 今からが本番だっ!」
ドンと部屋の窓を揺るがすほどの野太く低い声が、姿勢を正し、整然と並ぶ二十六名の研修生に向け、壇上から叩きつけられた。ビリと感じる空気の震えに研修生は皆、採用されてから一年間と長かった研修期間を思い浮かべている事だろう。
自然と張り詰める空間の中で、研修生らから鬼軍曹と恐れられた教官は今一度、口を酸っぱくし言い続けてきた言葉を、研修生らに向ける。
「これからは訓練なんて甘いもんじゃない。貴様らは、生きるか死ぬかの戦場へ向かう事になる。はっきり言おう。弱ければ死ぬ」
物騒な事を言う。と、誰もが思うかもしれない。けれど、外を知らない新人たちにとっては、それが事実なのだと、それぞれが口元を強張らせた。
「だがな。私は貴様らを軟な《ストラップ》として教習した覚えはない。泥をすすり、血反吐を吐いた研修を思い出せ。絶望の淵に立ち、底から這い上がって来た経験を今、己が力としろ」
鬼軍曹の訓練に胸を張る研修生たちに混じり、その中のひとりが目線を伏せた。それを見逃さない壇上の軍曹ではない。バンと、前足で床を叩き、皆の背筋を震わせる。
「いいかっ! 貴様らは強い!」
傷跡で塞がれた赤い隻眼が、ぎろりと研修生たちを射抜いていく。そして豹の姿をした鬼軍曹は腰を上げ、黒い体躯から天井に向け突き立つ尻尾を見せつけるように、真っ赤な口を開け、吼える。
「誇りを持て、志を持て!」
その迫力に皆の目が釘付けになった。犬の姿をした者、鳥の姿をした者、リス、ハムスター、アライグマ――集まった様々な瞳に、鬼軍曹は耳をぴんと立て、背筋を伸ばす。
「いざ行け若人よ!」
そう言って、前足を皆に――
「我らは魔法少女と共にっ!」
☆
暖かい日差し。青い空には薄い雲がちらほらと見える。肌に感じる風は緩やかで、穏やかな日常を感じさせてくれた。けれど、黒いセミロングを揺らし歩く少女は少し不機嫌だった。
明日に高校の入学を控え、その準備に追われていたここ最近。ようやく時間ができたと一息ついた時に、姉から命令と言う名のお使いを頼まれた。
「牛乳買ってきて」
「そんなもの、自分で行けばいいじゃない。買いに行くって言っても、コンビニまで大変なんだから」と、一応、抵抗をしてみたものの……、そんな事が姉に通じる事もなく、蛇が蛙を睨みつけるような「買ってきてっ!」に気押され、だぼっとしたジャージ姿のまま、しぶしぶ近くのコンビニへ牛乳を買いに行く羽目になった。
別に、他に欲しい物もなかったし、頼まれた小山内牛乳一リットルパックをふたつ買っただけ……。それをコンビニ袋に入れ、片手に提げ、トボトボと歩く返り道――ぶちぶちっと、たった二年早くに生まれただけで暴君である姉の文句を零しながら、少女――寺沢ヒトミは丘の上にある団地へと続く階段を見上げ、立ち止った。
ヒトミの家に帰るには、この階段を通るのが近道だ。もちろん行く時はここを下って来たのだけれど、登るとなると別の話。手すりのついたコンクリート製の階段は急で、かなり長い。
階段を選ばないのであれば、丘の縁を巻くようにして緩やかに登る道を進まなければいけないのだが、そのどちらにしろ最終的に得る位置エネルギーは同じ。ただ、グラフとしての“2X+A”を行くか“1/2X+A”を行くかの違いだ。
行きは良い良い、帰りは辛い。
見晴らしは保証するけど、さ――
「しっかしなんで、こんなに不便なのよ」
さんざん悩んだ挙句、悪態をついてヒトミは、「よっし」と意を決し、のっしのっしと“2X+A”の階段を選択した。
某県栄市郊外――桜のある街、桜ケ丘――山を切り開いて作られた新興住宅地に引っ越してきたのは三年前。何度となく零した文句だけど、零した所で改善される事はなかった。眼下に市街地を見る景色は素晴らしい。低階層の屋根と、その中心で抜群の高さを誇る病院と電波塔が織りなすカラフルな市街地は、青い空に映えて、アーティスティックな街並みだと地方紙に取り上げられた事もあった。けれど、それを望む桜ケ丘は、車なしで生活するには辛い。
バスは一時間に一本。中学校への通学だって大変だった。正直、自転車で登るにしてもこの坂道は大変なのだ。原付の免許を取った姉ならば、ブイーンと楽チンだろうに……、それすらしない姉に腹が立つ。
「絶対、あたしだったら、自分で、行くけど、なっ」
怒りを力に変え、階段を登る。けれどまだ、中腹――にも至っていない。前を見ても辛いだけ。空を見上げては、はるか向こうの頂上を思い、下を見ては、歩む足先を眺めた。
履き古したコンバースのスニーカー。中学校の入学祝いでおばあちゃんに買ってもらったものだ。「これで徒競走さ、せんとな」と、受け取った少し大きめのスニーカーで、最初はランニングとかしたものだったけど、結局三日で投げ出し、物持ちのいい孫として褒められる事になったスニーカー。
もし、あの時ランニングを止めていなかったら、きっと、こんな階段なんて――
簡単に登れるはずっ!
「でやぁーー」
周りに誰もいないのを確認したうえでの掛け声。勢い良く階段を駆け上がる。手に持ったコンビニ袋の中で牛乳がガウンガウンと揺れても気にしない。どうせ飲むのはあのお姉ちゃんだ。もし牛乳が炭酸飲料だったら仕返しとしてばっちりだったろうに。
想像し、ニヤつく。牛乳パックを開けて白い液体まみれになる姉。雑誌が雑誌なら、十八歳未満閲覧禁止だ。
っと、よそ事に意識を持って行かれた瞬間、足が空を切った。
だがしかし、堪える。両手をばたつかせバランス、バランス。つんのめりそうになる体制をギュッと耐え、上半身を起こすと、今度はぐらり――体全部が後ろにひっぱられた。
「へ?」
体に感じる無重力。いや、やっぱり重力は背中を後ろにひっぱっている。
これがジブリのアニメだったら、空を泳いで間一髪とかなのだろうけど、ここはそんなギャグの通じる世界じゃない。空気をかいた所で反作用など得られるわけがない。
つまり――
落ちるって事。
「うそ……」
器用に身をよじれば、今まで登って来た階段が、西洋の拷問器具のようにとんがって見えた。いやいや、そんな風になっていなくとも、転がり落ちればただでは済まない。
助けてっ! 神様っ!
目を閉じて祈った。どんなに運動神経が良かろうと(ちなみにヒトミの運動神経は中の下の下)、この状況をやり過ごす事は出来ない。もし、百歩譲って魔法が使えたならば、助かるかもしれない。けれど、それはない。だから、祈る。祈るしかない。精一杯、命の限り祈るしかないのだ。
神様! 仏様! 刹那・F・セイエイ様!
根拠のない祈り。だが、それは――
つむった瞼の向こうで、光が弾けた。瞬間。ヒトミの体が、重力から切り離されたようにふわりと、支えられた気がした。
いや、事実、ヒトミが感じるのは落下の印象ではなく、背中と膝裏を抱え込むような――誰かの細腕。自身は誰かに受け止められた――それは?
まさかと恐る恐る目を開けると、そこにはエメラルドグリーンに縁どりされた眼鏡をかける少女の顔があった。茶色の外はねセミロングに、白百合の髪飾り。そして、ふりふりのレースが付いた深い青に白が映えるエプロンドレスを纏った肩には、アルビノの白ウサギがちょこんと乗っていた。
そんな少女の姿はまるで――
アニメの中から飛び出してきた魔法少女だ。
魔法少女にお姫様だっこされたヒトミは、ふわふわと宙を漂い、そしてそっと階段に座らされた。
怪我もなく、ただただ放心状態のヒトミに、魔法少女は「うん」と背景に星を散らす笑顔で頷くと、右手に持ったカラフルなステッキを振り、どこからともなく集まって来た光に包まれ、消えてしまった。
☆
「で、その魔法少女はヒトミを助けてどっかへ行っちゃったと?」
そう言ったのは、同じ桜ケ丘に住む同級生の戸高ショウコだった。キューティクルが天使の輪を作る長い黒髪を、額に見える「一徹」と書かれた鉢巻きで左右に分け、赤い半纏に身を包んだショウコは――「世間は春? はっ笑わせるわ。あたくし、まだまだ現役なんですからねっ」と部屋の中央に鎮座するコタツに頬杖をつき、対面に座るヒトミへ半眼を向けた。
「ああっ、その顔。ちょっとしか信じてないでしょ」
「ちょっと? 全く信じてないんだけど」
見てわからない? と、更に疑いの眼差しをヒトミへ向けるショウコに、ヒトミは天板の上で散らかる漫画のネームが書かれたB5用紙を手元に引っ張って、裏返す。それに怪訝な顔を見せたショウコから、持っていた鉛筆を奪い取ると、さくさく線を走らせていった。
一心不乱に何かを書くヒトミにショウコは溜め息をつく。
「あのさ、そのページ使うんだけど」
「どうせ清書するのはあたしでしょ、邪魔だったらホワイトで消すわよ」
「ああそう」
と、この部屋の主人であるショウコは、両手を絨毯へつき、体をのけぞらせた。六畳間のプライベートルーム。小学校時代から愛用する学習机と、今はベランダに布団を干しているため骨組みだけのパイプベッドが目に映る。
換気に開けた窓からは、緑色のカーテンを揺らし、まだまだ冷たいと感じる風が吹き込んで、ショウコの肩胛骨まである髪を撫でた。
ヒトミとショウコは三年前からの付き合いだ。先に桜ケ丘に住んでいたのはショウコ。その隣に家が建ったと思いきや、引っ越してきたのが同い年のヒトミだった。
まあ、お隣と言う事もあり、気が付けば親友。同じ中学を卒業し、明日からは同じ女子高へ通うのだから、もう、腐れ縁の域へ達しているのかもしれない。
いやいや、ふたりで男の子同士が絡む、肌色と言うかピンクと言うかの薄っぺらい本を書いているのだ。既に腐っていると言っていい。
いや、断言すべきだ。
腐っていると。
「できた。ほらほら見てよショコたん」
嬉々として向けられた声に、ショウコが体制を戻すと、親友のキラキラとした瞳の先に彼女の言う魔法少女が描かれていた。
多少ディフォルメされているのだろうけれど、ふりふりのドレスに乙女ちっくな装飾品をつけた少女は、贔屓目に見て、オリジナル魔法少女のコスプレイヤーくらいにしか見えない。
「なんで、劇画?」
「写実的と言ってくれないかな」
「いやいや、同じ。なまじ上手いからコスプレ喫茶の店員にしか見えない」
「じゃあなに? ショコたんは、こっちの方がいいって言うの?」
え? もう一枚書いてたの? って、それ一番大事なページ!
なんてショウコの心の叫びなんて露知れず、眼前に差し出されたネームの脇に、小さく書かれた少女漫画――と言うより、大きなお友達が好む萌えなイラストが……。
平静を装いつつショウコは半眼を向けた。
「ま、まあ、魔法少女って言うなら、こっちじゃない?」
「どうしたの声? 震えてるよ」
誰のせいか!?
言いたいのを抑え、ショウコは劇画で描かれた魔法少女を見下ろした。彼女の書いた魔法少女の顔。長いまつげに守られた大きくて自己主張をはっきりしている目や、スッキリとした鼻筋は、目の前にいるヒトミによく似ていた。
「それにしても、この顔って、どことなくヒトミに似てない?」
「うそっ、似てないって、どっちかって言うとショコたんに似てると思ってここに来たのに」
劇画調のイラストに持ち替え詰め寄るヒトミの姿に、ショウコは眉を寄せた。
髪の長さも違う。顔つきだってここまで乙女ちっくなものじゃない。服のセンスなんて鼻で笑う。なのにこれが私だと?
「どこが似てるのよ?」
「決まってるじゃん。眼鏡」
「眼鏡だけか、オイ」
「でもさでもさ、あたしのまわりで眼鏡かけてんのってショコたんだけだし」
「眼鏡だけで判断すんなし。ってか、どれだけ交友関係狭いのよ。眼鏡なんて他にもたくさんいるでしょうに」
溜め息交じりに言うショウコの前で、ヒトミは激しく首を横に振ると、天板をバンと叩き、人差し指をショウコの眼鏡に向けた。
「いないって、眼鏡はとっても万能な器具なんだよ。それだけで賢さが六は上がるし、可愛さだって千は軽くプラスされる伝説の武器なんだってばよ。そんな伝説の武器を装備できる勇者がホイホイいてたまるもんですか」
何を力説してんだか……。
「いやいや、伝説の武器ならお店で買えないっつうの。あんたは眼鏡に幻想を抱き過ぎ」
「それにさ――」
「オイ、人の話を聞けって……」
「ショコたんが魔法少女だったら、凄くない? あたしたちに内緒で、密かに悪者と戦ってるんでしょ? 激しい戦いでコスチュームとか破れて、いやーん、まいっちんぐ、的なシーンが盛りだくさんなんでしょ?」
「オイコラ。何を想像して……」
「あたしにも見せた事のないその豊満な体を、誰に晒したぁ」
「誰にも見せとらんわ、このボケナス!」
身を乗り出して迫るヒトミの脳天に、ショウコの手刀が振り下ろされた。
「いったーい。なんでぶつのよ?」
「ツッコミが追いつかん妄想をするな。それに私が魔法少女って前提で話を進めようとするなっての」
「違う、の?」
「涙目になるな、背景に点描をおくな、ぼかしを入れるなぁ!」
ショウコが言うと、ヒトミの背景から特殊効果が消え、表情もけろっと、いや、今にも舌打ちをしそうだ。
「ちぇっ」しやがった。「ショコたんが魔法少女だったら高校生活もスリリングだと思ったのに……」
「スリリングなんて要らないって、高校生活に何を求めてんのよ」
「聞きたい?」
そう言ったヒトミにショウコはゾクリとした。星が散り、輝く瞳。頬を紅葉させ、両手に作った拳を口元に添える仕草――“何を”考えているのかはわからないけれど、どうせ“ろくでもないこと”に決まってる。
「遠慮しとく」
「えーっ! どうしてよ? 時間ない? 五時間くらいへっちゃらよね?」
「五時間も喋るつもり!?」
「ショコたんが望むなら六時間――ううん。八時間だって」
「誰が望むかっ! こちとら――」
漫画を書かなくちゃいけないんだからっ、っとショウコが続けようとした時、携帯の着メロが鳴った。某宇宙戦争に出てくるダースなんとか卿のテーマ曲――デーン、デーン、デーデデデー、デデデー。
それを聞いてヒトミの顔が青ざめる。
「はわわ、お姉ちゃんからだ……」
これはチャンス。ショウコの眼鏡が怪しくきらめいた。
「呼び出しじゃないの? ほら、早く電話に出ないと」
「ま、まだわからないよ。メールかもしれないし……」
着信音を変えている割には、メールと電話を区別していないヒトミは、ポケットから携帯電話を取り出すと、ひとまず胸をなで下ろした。
「メールだった」
「それにしても鳴動時間長かったわね」
「お姉ちゃんからの指令を聞き洩らすわけにはいかないんだって」
「そう。で、お姉さんはなんて?」
「牛乳」
「はい?」
メールに書かれていたのはたった二文字。しかも本文はなく件名にしか打ち込まれていない。それでもヒトミにはその意味が恐ろしい程にわかった。
慌てて、周囲を見る。けれど、探し物は見つからなかった。
「ない!」
「何が?」
「牛乳!」
そう言ってコタツ布団をめくりあげ、その中にもぐりこむヒトミ。もぞもぞ、ゴン! っと動くコタツの挙動にショウコが退避しようとした時、ウチ太ももに触れる手の感触。そして、チェックがらのスカートを被ったヒトミがコタツの中から顔を出した。
「ないよショコたん!」
「なにがないよショコたんだ! 人のスカート被ってなに寝言言ってんのよ!」
慌ててスカートを押さえると、ヒトミの鬼気迫る眼差しが見えた。
「こうなったら、仕方ないよね。ショコたん。その巨乳から牛乳出して」
「ば、バカ言ってんじゃないって、アホかあんたはっ!」
「バカでもアホでもいいからさ、十五歳として卑怯な胸をもませてよっ!」
「趣旨がかわっとるやないかイロボケっ!」
ゴチン。
殴った。それもグーで叩きつぶすように。それ以外に方法はなかったと思う。もし、ヒトミの申し出を許可していたなら、これには重大なタグが付く事になる。どこかの都知事にも規制されてしまうだろう。書棚を分けられるか、並ぶことさえ許されない。ま、もともと並ぶような物でもないのだろうけど……
そんなショウコの一撃で我に返ったヒトミは正座して、土下座した。
「わたくしが持ってきた牛乳をば、御存知ないでしょうか、ショウコ殿」
「うーん。ところであんた、この部屋に牛乳なんて持ってきてたっけ?」
「ちゃんと持って来たよ。お姉ちゃんに牛乳頼まれて、買って帰る時に魔法少女に助けてもらって、それからここに直帰したんだから」
「直帰って、家に帰れよ。ここじゃなくてさ」
「ここも立派なあたしの家だよ」
「あんたんちは隣。Your home is a house next door. Do you understood?(あんたんちは隣。わかってる?)」
「I do not want to understand your English.(あなたの言う英語を理解したくありません)」
「理解しろよ。てか、わかってんでしょう? いい加減に帰りなさい」
「帰れないよ」
「どうして? あんたには立派な足がついてるじゃない」
「その代わり、牛乳がないの」
ああ、もう、話しが振り出しに戻った。
「でもさ、わたしの部屋に牛乳は持ってきてないと思うよ。どこかで落としてきたんじゃない?」
「落として来たってショコたん。初めてのお遣いじゃあるまいし、あたしがそんな事するわけ……」
と、記憶を巡らせたヒトミが、そこで「あっ」と声を上げた。「もしかして、階段のとこ」
遺失場所を思い出したようだ。けれどショウコにはピンとこない。
「階段? うちの?」
「ううん。ここじゃなくって、魔法少女が助けてくれた」
「ああ、地獄階段ね。急いで行けばまだあるかもね」
「だよね。うん。ありがと。じゃあ、あたし行って来る」
素早く立ち上がるヒトミ。そして、走り出した足は絨毯をたわませてから、びゅんと、彼女の体を運んで行った。
まるで嵐が去った後の静けさが残り、ショウコは少しの寂しさを感じてしまう。ヒトミに漫画の続きを書く元気もみんな持って行かれた。けれど、それも楽しかったと寝転がった時――窓の外から自分を見下ろす三度笠を目深に被った小さな浪人姿の人形が見えた。
「なに? あれ?」