第981話 レーベリア会戦・突破口(2)
「サフィ、どうして……」
「はぁ……シャル、人の気も知らないで。貴女は自分の気持ちばかりね――――そういうところ、大嫌いだったわ」
その言葉を受けて、シャルロットは本気でショックを受けたような表情を浮かべる。
神学校時代、『ウイングロード』として一緒にやっていた頃は、傍から見ても仲の良い友人同士に見える程度の関係は築いていた。元来、偏屈なタイプであるという自覚をサフィールは持っているが、それでも上辺を取り繕って穏便に付き合うくらいは四大貴族の令嬢として演じられる。
そう、サフィールはどこまで言っても貴族であって、王族ではない。本物のプリンセスたるシャルロットにも、ネルにも敵わない。生まれ、という絶対的な格差を意識しながら、サフィールは常に『ウイングロード』のお姫様二人と付き合ってきたのだ。
「なに、その顔。私が本気で、貴女に友情を感じていると思っていたの?」
その単純さが、堪らなく憎かった。
子供のようなワガママばかり、考えなしの行動力。まるでガキのお守りを押し付けられた気分だった。
サフィールの真意など全く知らぬ存ぜず、欠片も察することもなく、シャルロットは本気で自分のことを大切な友人の一人であると信じ切っているようだ。袂を別ち、明確に敵対関係となった、今となっても尚。
だから尚更に憎い。シャルロットの純粋さ。それは決して自分では手に入らないモノだから。
そしてその純粋さが、ネロを惹きつける一番の魅力だった。何もなければ、このまま流れで結婚しても構わない、と彼に思わせるほどに。
「所詮、私はハイドラの娘。本物の王族じゃない。自分より上の者に対して頭を下げるのは当たり前のこと。私もただ、シャルロットというお姫様に対して、跪き媚び諂っていただけに過ぎないのよ」
「違う! 私はサフィのことを、そんな風に思ったことなんて一度も――――」
「いっそ、下賤な女と見下してくれれば良かったのに」
そうすれば、こんなにも憎まずに済んだだろう。本物のお姫様だって、自分と同じように醜い差別意識を抱いているのだと。
慈愛と博愛に満ちた、万人を思うお姫様など所詮は理想像。現実で存在するはずない。していいはずがない。
けれど、シャルロットもネルも、美しかった。理想的なまでに、その容姿も心根も。暗く淀んだ感情ばかり渦巻く、自分とは根本的に在り方が異なる。
だから届かない。ネロは振り向いてはくれない。彼が愛するのはシャルロットの純粋さと、ネルの清純さだったから。
「サフィ……それでも私は、貴女のことは大切な友人だと今でも思っている。たとえ貴女にどう思われようとも、私はサフィール・マーヤ・ハイドラの親友で、一緒に『ウイングロード』として戦った戦友なのよっ!」
ああ、やはりシャルロットの心は美しい。そうでなければ、この期に及んで、こんな綺麗事は吐けないだろう。
「だから私が、いいえ、私達がサフィを止める。たとえ、この手で殺すことになっても」
「ふふっ、甘っちょろいお姫様に、それが出来るかしら」
「私も、自分で自分の道を選んできたの――――サフィ、大人になるって、悲しいことね」
説得などする気はない。かつての友を殺す気で来たのだと、サフィールは悟った。
「嬉しいわね、シャルとカイ、二人のバカがこんなに成長するなんて。でも、全ては無駄よ。その意志も覚悟も、この私の力には及ばない――――『烙印王冠』」
魔導書を開く右手の甲に、十字と王冠が合わさった聖痕が輝く。
その青白く清浄さを思わせる光は、死体を操る屍霊術師には似合わないが……新たな力をサフィールにもたらしているのは、紛れもない事実であった。
「へっ、やっぱ聖痕を習得してやがったな」
「いいえ、これは貰った力よ。ネロからね」
「ってことは、まさか」
「そう、これがネロの特化能力。無限の白色魔力を配下に分け与える王の力、『烙印王冠』よ」
まずい、とカイが瞬時に察したことをサフィールは気づく。こういう戦いの趨勢に直結することに関してだけは、本当に理解が早い。
使徒は最強の個人戦力である。だからこそ、自由に動かれると最も困るネロを本陣に縛り付けておくために、ネルを使者として寄こす策を弄してきたのだ。
考えたのは魔王クロノか、影の支配者と噂の女王リリィか。あるいは、完全に兄への見切りをつけたネルか。誰でもいいが、使者としてやって来たネルの真意を見抜いていても、サフィールはネロに諫言することはない。
他ならぬネロ自身が決めたことだ。ならば、それは決して翻らない。特に愛する妹の絡むこととなれば尚更。
かくしてネロという使徒を戦場に登場させない魔王軍の策は成功したように見えるだろう。だが、その成功も完全ではない。
これは使徒の隔絶した力を封じなければ意味のない策だ。自分自身を強化する類の特化能力であれば何の問題もないが……白き神がネロに与えたのは、仲間への強化能力であったのだ。
それが『烙印王冠』。
誰にでも、無制限に力を与えられるワケではない。使徒の力の欠片を与える条件は他でもない、ネロの信頼である。
すでに『ウイングロード』は解散し、使徒の力と権威でもって一息に成り上がったネロは、孤高の王だ。信頼するべき腹心、と呼べる人物は全くいない。
故にこの能力の恩恵に預る者は少ない。
ほとんど唯一といっていい、ネロが戦力的に信頼するドラゴンハート団長ローラン。表向きの恋人となっている聖女リン。
そして唯一、『ウイングロード』でネロについた、この自分。
三人。ネロが『烙印王冠』を刻めたのは、僅か三人だけである。
だが、数が少ないからこそ、その絆も強くなる。
聖痕を浮かばせたサフィールは今、これまでの自分の努力と修練が馬鹿らしくなるほど、莫大な力の奔流を感じていた。
自分の才能だけでは決して辿り着けない領域に至り、サフィールは己が従える真の『主力』を解放する。
「見せてあげるわ、代々受け継がれしハイドラの至宝」
真白の輝きが閃く。サフィールの乗るキメラドラゴンの前面に、膨大な白色魔力が込められた巨大な魔法陣が展開される。
円でも四角でも紋章でもない、それは捻じれた大樹のような、歪な形をした魔法陣であった。
その形状は歴代のハイドラ当主達がソレを使役するため、新たに書き足していった術式。当代最強の屍霊術師を当主に据えてきた、ハイドラの積み重ねた歴史と力そのもの。
歴代の天才屍霊術師達が紡ぎあげた複雑怪奇な魔法陣は今、白き神の力さえも取り込んだサフィールによって、究極の完成形を迎えた。
白き神の聖なる白色魔力と、屍を操る忌まわしき闇の魔力。白と黒。二色の力が入り混じった、不気味な斑模様を描く捻じれた大樹の陣より呼び出すのは、最強にして最古の下僕。始まりの一体。最初の犠牲者。その名は――――
「――――『天使の歌声』」
一人の少女、否、少年が静かに草原へ降り立つ。
生きているかのように、瑞々しい白い肌。誰もが少女と見紛う美貌は、幼さを残した愛らしさに溢れているが、その髪と目は濃密な闇の力に染まり切った、禍々しい赤黒い色合いを映していた。
およそ戦場に似つかわしくない、タキシードを身に纏った執事の装い。明らかに未成年の少年でありながら、その佇まいは熟練を超えた老練の域に達している。
事実、彼は代々のハイドラ当主に仕えてきた下僕だ。それも、ハイドラ家が屍霊術によって、最初に作り上げた一体目。
いいや、正確に言うならば、彼を、天使の歌声と讃えられたこの少年ただ一人を欲したが故の、屍霊術なのだ。
「さぁ、ワイス、聞かせてちょうだい。ハイドラを魅了し続けた、天使の歌声を」
ネロと出会わなければ、きっと自分もこの美しい少年の人形に入れ込んでいたのだろう。歴代当主の全員がそうであったように。病的なまでに愛し、求めたに違いない。
けれど自分に、綺麗な屍人形の慰めなど必要ない。今のサフィールに必要なのは、ただ磨き抜かれた戦闘能力のみ。
「はい、ご主人様」
永遠に声変わりの来ない少年の声音を発しながら、ワイスは両腰に携えていた二振りの剣を抜く。
けれど、構えはしない。深呼吸を一つだけ。
そして、その白く細い、ハイドラ家の紋章が焼きつけられた喉を奮わせて、歌い始めた。
「ضوء أبيض الله يعطي الراحة الأبدية لجميع الاموات، وعلى ضوء(白き神よ、全ての死者の霊魂に、永遠の安息を与え、絶えざる光でお照らしください)」
先んじて打って出たカイ達を追うように、俺達も突撃の準備を進めていた。
敵左翼が完全に前線から抜けたことに気づいた敵右翼も、動揺している。穴を埋めるべくさらに攻めるべきか、それとも形勢不利として一度退くべきか。どっちつかずの判断で迷っているような、半端な攻勢となっている。
真正面はまばらに展開したブラスター部隊や射手部隊が散発的な攻撃を飛ばしてくるだけで、こっちがまとまって突っ込めば容易く破れる程度の薄い戦線だ。大遠征軍としても、ちょっと進めば黒竜と巨人の決戦場に踏み入る中央部を、重要視してはいないだろうが。
しかし、その危険地帯を突破し、真っすぐ最短で敵陣へ殴り込むのが俺達の作戦。今こそそれを実行するべく、機甲鎧に身を包んだ『暗黒騎士団』と重騎兵の『テンペスト』が揃った。
後はいよいよ、大将たる俺の号令待ちというタイミング。異変はその時に起こった。
「――――見つけた」
不意に、口をついて出てきた台詞。
俺ではない。何かを見つけてもいないし、気づいてもいない。
けれど、その言葉は確かに俺自身が発していた。
「マスター?」
何気ない呟きとして、流されてもおかしくない一言。けれど怪訝な雰囲気を纏ったサリエルが、俺を鋭く観察するような視線を送って来る。
「いや、今のは――――」
何でもない、と取り繕う台詞を口にしかけたところで、俺はようやく気づいた。いつの間にか、抜刀していることに。
俺が右手に握りしめていたのは、漆黒の大鎌『獄門鍵エングレイブドゥーム』」だった。
「まさか、お前が」
勝手に出てきた。いいや、それどころじゃない。墓守の呪いが、俺を浸食している。
呪いと最高の相性を誇る黒化による制御によって、俺は今までほとんどノーリスクで呪いの武器を使ってきた。『天獄悪食』のように御しきれないモノもあるが、『ホーンテッドグレイブ』から、この墓守の薙刀は大人しかった。進化を果たして『獄門鍵エングレイブドゥーム』となっても、呪いらしく怨念が俺自身を乗っ取ろうという気配は全く感じなかった。
完全に使いこなしていると、油断していた?
いいや、違う。今この瞬間、刃に宿した墓守の怨念が強烈に反応したのだ。俺の自我さえ浸食するほどに。
「マスター、危険です。すぐに放棄を」
「いや、いいんだ、サリエル。このままでいい――――墓守が、呼んでいる」
巨大な鎌の刃に浮かぶ不気味な紫色のエーテルラインが激しく明滅し、同じ色合いの光が柄を握った右手の肘にまで及んできている。一瞬でも気を緩めれば、俺の意に反して呪いの大鎌が振るわれることだろう。
強烈な怨念に自分まで飲み込まれそうな感覚。けれど不思議と、嫌悪感も拒否感も湧かない。
今までずっと、黙って俺に力を貸してくれていた。そんなお前が、これほどまでに怒り猛っているのだ。
ならば俺は、お前の意志に応えよう。そこに、お前の求める何かがあるのだろう。
「すまないサリエル、作戦変更だ。俺はカイ達と合流し、右翼から敵陣へ向かうことにする……どうやらコイツの因縁の相手が、そこにいるようなんだ」
「了解。中央突撃の指揮は、私にお任せください」
この土壇場での変更にも、サリエルは静かに肯定するのみ。
魔王でなくても、部隊を率いる長として、こんな敵前逃亡みたいな真似は許されないだろう。怖気づいてここから抜けた、と後ろ指をさされるに違いない。
けれど、これまで散々頼ってきた呪いの武器に、ここまで求められれば応えないワケにはいかないだろう。呪いの武器は、ただの道具じゃない。確かな意思を宿した、相棒なのだから。
「本当にすまない。こちらは任せた」
「いえ、問題ありません、陛下。どうやら敵左翼に別動隊が現れたようです。相手は裏切者のハイドラ。小娘ですが、油断できない戦力を操っています。陛下がそちらにお味方されれば、右翼突撃も迅速に突破できるでしょう」
無茶な命令変更にも慣れているのか、『テンペスト』を率いるエメリア将軍も淡々と承諾してくれた。
暗黒騎士団長であるサリエルとエメリア将軍が揃っていれば、俺がいなくても部隊指揮には何の問題もない。フィオナもいるし、突撃時の火力面も安泰だ。
あのサフィールが随分と屍の大軍団を連れて出張ってきたなら、俺がそっちに加わってちょうどいいくらいかもしれない。
「よし、飛ばすぞメリー。墓守が待ちかねている」
今にも右腕だけで引っ張られて、サフィールの現れた方へすっ飛んでいきそうな具合だ。よほどコイツに恨みがあるのか、それとも死体となって使役されている誰かが本命か。
どちらにせよ、俺は呪いの意志に従うまでだ。
左手一本だけで手綱を握りしめ、俺はメリーを全速で走らせた。
「もう派手にやりあっているな」
草原を東側に向けて駆ければ、すぐにでも戦いの様子が見えてくる。
屍と貸したケンタウロスを中心とした雑多な混成軍団は、やはりかなりの数を揃えているようだ。だが中型以上のデカいモンスターの屍も多数、大暴れしているので、戦場というよりは大規模討伐クエストのような様相を呈している。
「相手をするのが第一突撃大隊で良かった」
なにせ彼らは全員が高ランク冒険者。モンスターとの戦いの方が手慣れている。
これで普通の歩兵部隊だったら、一方的に蹴散らされていただろう。銃はあくまで対人に有効な武器であって、一定以上の防御を誇るモンスター相手には無力なのだから。
精鋭の突撃大隊、火力と防御を両立している四脚戦車ティガ、機動力に優れるケンタウルス戦士軍団。それぞれの特性を活かして、サフィールの混成軍団を相手に上手く立ち回っている。
正面から押し寄せる中型以上の大物は、即席でパーティを組んだ大隊員が引き受け、四脚戦車が援護射撃と装甲を活かして敵の遠距離攻撃に対する盾として動く。敵の大半を占める屍歩兵や空を飛びまわるモンスターは、ケンタウルス戦士がその数と足でもって牽制。大隊員の大型討伐に邪魔が入らないよう激しい射撃と、時には突撃を敢行して捌いていた。
今のところは戦況は安定しているように見えるが、
ドォン!! ゴロゴロゴロ――――
蒼く輝く大きな雷が閃く。草原を揺るがすような雷鳴が轟くと共に、バチバチと肌を刺激する強烈な魔力の気配が叩きつけられる。
「ヤバいのが一体いるな……お前のお目当ては、ソイツか?」
暴れ回っている大型モンスターを明らかに超えるほど強力かつ濃密な魔力を発している奴がいる。
青い稲妻が幾本も突き立つ激戦地、そのど真ん中に向けて強くエングレイブドゥームが反応した。
悪食に対するミサのような、怨敵がこの蒼雷の主なのか。もしソイツを討ち果たせば、墓守の呪いは消え去ってしまうのだろうか――――悩む必要などない。たとえここでお前を失う結果になるのだとしても、俺は呪いの主として、解呪を妨げない。ましてそれを、自ら望んでいるなら尚更だ。
「だから安心しろ、俺が、俺達が呪いの因果を断ち切って見せる」
いよいよ右肩にまでエングレイブドゥームの発する紫に輝く浸食が進みながら、俺は蒼雷が乱れ飛ぶ嵐の渦中へと飛び込んでいった。
大鎌を振り上げれば、刃はミシミシと音を立てて変形し、薙刀形態へと移行する。純粋な対人戦なら、こっちの方がいい。
メリーから飛び降り、鎧のスラスターを吹かせてジグザグの機動を描いて青い落雷をかわしながら、ついに俺は因縁の相手らしき人影の間合いへと入った。
刹那、振るわれるのは二筋の剣閃と雷光。
雷魔法じゃない、コレは雷を宿す二本の魔剣……いいや、コイツもまた呪いの武器だ。
青き雷双剣と黒き墓守の刃が、雷鳴と悲鳴を轟かせながら衝突した瞬間に俺はそう理解した。
「――――悪いな、カイ。コイツの相手は俺に譲ってくれ」
「クロノっ!? なんでここに!」
この一番強い奴の相手は、やはり大隊長たるカイが務めていたようだ。
「シャルロットも下がっていろ。アイツは俺がやる」
「ええっ、で、でもぉ……」
突然の魔王陛下の登場に、すでに加護を発動させて赤い雷撃を杖から迸らせているシャルロットも困惑していた。
「お前たちには自分の手でケリをつけたい奴が、すぐそこにいるだろう」
チラと視線を上へと向ければ、歪な三つ首のサラマンダーに乗り、生者と死者が入り乱れる戦場を平然と見下ろしている術者の姿が見える。
屍霊術を発動させる闇属性魔力と、使徒のように強い白色魔力を纏った、スパーダの裏切者、サフィール・マーヤ・ハイドラがそこにいた。
「……すまねぇ、頼んだクロノ」
「ありがとう」
「気にするな、俺はそっちの方に因縁があるだけだからな」
俺の意図と状況を即座に察し、カイとシャルロットは頷きあって、この場を俺に任せて走り去っていく。
そこへ、青い雷光が閃き、
「おい、お前の相手は俺だぜ、お坊ちゃん」
薙刀を一閃。再び双剣と刃を合わせると、全く手ごたえ無くフワリと飛んで行く。
「……」
そこでようやく、奴は俺へと視線を向ける。
ソイツは少年執事、と言うより他はない姿をしていた。少女漫画の世界から飛び出てきたのか、ってほど麗しい顔立ちに、戦場には似合わないバリっとしたタキシードを着こなしている。
少々の間ではあるが、カイとシャルロットのコンビを相手に目立った傷どころか汚れもない様子から、かなりの腕前を誇るのだろう。俺も最初の一撃と、さっきの一撃、どちらも軽くいなされたからな。
普通に強敵だ。ただ操られているだけの死体じゃない、とんでもなく手間暇かけて強化をされた肉体に、呪いの武器を持ち、さらにそれを十全に使いこなせるだけの剣術も磨かれている。今まで見てきたアンデッドモンスターとは、完成度が段違いだ。
しかし、最も厄介なのは、
「やっと……やっと見つけた、ワイス」
また勝手に口が動く。
俺の心に流れ込んでくるこの感情――――憎悪ではない。
どうやら墓守は、このワイス少年を恨んで呪いと化したのではないようだ。
「参ったな、ただ倒せばいいってワケじゃないのか」
さて、どうするか。
少なくとも、再会した二人は幸せなキスをしてお終い、とはいかないだろうな……