第957話 ラグナ公国
パンデモニウムの中心に突き立つ巨塔『テメンニグル』。かつてカーラマーラの全てを支配した冒険王ザナドゥが君臨したこの場所が、エルロード帝国でも表向きに利用される玉座となっている。
アヴァロンのミリアルド王やファーレンのブリギットなど、魔王クロノ直々に謁見をする際はディスティニーランドの魔王城を使うが、帝国内の統治に際して使われる頻度は、圧倒的にテメンニグルの玉座が多い。
そしてこの玉座に座すのは魔王クロノ、ではなくパンデモニウムの真の支配者たるリリィ女王陛下である。
「————ようやく調べ物は終わったのかしら、オルエン?」
値踏みするような眼差しで見下ろしながら、跪く本日の謁見人へと声をかける。
面を上げよ。直答を許す。形式的な許可を近衛たる暗黒騎士が挟むと、謁見人————オルエン・リベルタスは顔を上げた。
「いいえ、肝心なところは終ぞ分かりませんでしたよ、女王陛下」
パンデモニウムに住まう者なら、誰もが恐れおののくリリィの視線を真っ直ぐに見つめ返して応える。
かつてカーラマーラで名を馳せたギャング『極狼会』組長の一人息子が、オルエンである。
狼の耳が生えた藍色の長い髪を持つ美少女に見えるが、れっきとした男だ。自分の美貌を分かって女装趣味もあるが、女王陛下へ謁見するため、一見すれば華奢に思えるその身には、『極狼会』の正装である黒い羽織りを纏っていた。
オルエンの属する『極狼会』も当然、ザナドゥの遺産相続レースにも参加していたが……クロノが勝者となり全てを手に入れた後、すぐに組織を解散。構成員の大半は抵抗することなく帝国に、より正確には風前の灯火であった弱小ギャング『カオスレギオン』から一躍、帝国の大貴族カーラマーラ大公へと成り上がってしまったジョセフ・ロドリゲスの下に組み込まれた。
だが組長アンドレイを筆頭に、数人の幹部達が行方をくらませていた。この帝国でリリィの目から逃れることはできない。それでも見つからないということは、遺産相続レースが決着した直後に、アトラス大砂漠から脱していたに違いない。
リリィは特に『極狼会』に対して思うところはなかった。記憶を失ったクロノを、オルエンを通じて多少世話をしたようで、僅かに恩を感じないわけでもない。
だがしかし、あの時は本当にただ行き場のない青年でしかなかったクロノにオルエンが接近したのは、単に腕っぷしを見込んでのことではないようだった。コイツには裏がある————それを分かった上で、リリィはパンデモニウムに残って、何かを嗅ぎ回っているオルエンを監視していた。
「それでも私の前に顔を出す気になった理由、当ててあげましょうか?」
「どうかこの私めに、釈明の機会をお恵み下さい。全てをお話しましょう、女王陛下」
こちらから思惑を言い当てて白状させるのと、向こうから打ち明けるのとでは、話が違ってくる。今この場においてオルエンは、自分の正体に気づきながらも泳がせ続けたリリィに対し、誠意ある交渉を持ちかけるためにやって来たのだ。
「いいわ、聞かせてちょうだい」
素直に耳を傾ける意を示したリリィに、大袈裟なほどの感謝の言葉を述べながら、オルエンは打ち明ける。最早、秘密にしておく段階を過ぎてしまったが故に。
「私はラグナ公国より遣わされた諜報員、『忍』の一員にございます」
「シノビねぇ……ルーンでもそう呼んでいたけれど、流行っているのかしら?」
「異邦人の世界における、諜報の達人を『忍ぶ者』、と呼ぶそうで。異邦人文化の残る国では、その名がつけられることもあるのでしょう」
いつかクロノに聞いた通りの内容である。シノビ、あるいはニンジャ。彼らは剣の達人にして忍法という固有魔法を扱い、あらゆる人物に変装し、闇夜に姿を消し、空を飛び、水中行動も可能という、非常に強力なアサシンクラスだとリリィは記憶している。
「私の任務は、冒険王ザナドゥの活躍当時に影響力を増し始めた、『黄金魔神カーラマーラ』の調査と監視でした」
「へぇ、アレのことを最初から知っていたの」
「詳細を知るのは、私の主、黒竜大公だけです。黒竜として、古代の知識を持つ大公閣下には、現代を生きる私達には計り知れない深謀遠慮が————少なくとも、かの『黄金魔神カーラマーラ』が現世に蘇るような事態は避けたい、とのお考えでした」
「クロノがいなければ、誰にも止められなかったけどね」
「全く以てその通り。己の実力不足を恥じるばかりです」
カーラマーラの復活を食い止めるには、すでに手遅れなほどに都市の欲望は膨れ上がっていた。あの時、あの場に辿り着いたのがクロノでなければ、次元の彼方に魔神を叩き返すことはできなかった。
あるいはこれも、魔王の加護を授かった者の運命として定められたことかもしれない。
「幸い、クロノ魔王陛下のお陰でカーラマーラ復活の脅威は過ぎ去りましたが……」
「それでお次はクロノに目をつけたワケね?」
リリィの視線の鋭さが増す。
魔王の加護を持つクロノの存在を危険視して敵対しようものならば、その先は言わずもがな。
静かな殺意が広間に充満して行く。
「ええ、私がカーラマーラ、失礼、パンデモニウムに残ったのは、魔王クロノが真の魔王たるかどうか、見極めるためにございます」
「それなら答えはとっくに出ていると思うけれど」
「仰る通りにございます。しかしながら、どうしても一つだけ確認しなければならない点があったのですが————それを確かめる前に、時が来てしまいました」
「この帝国に、宣戦布告でもするつもり?」
「ラグナ公国はエルロード帝国へ正式に大使を派遣することを決定いたしました。大使には本物の黒竜が選出されており、自ら魔王クロノとの関係を定めるおつもりです」
もう自分が色々と嗅ぎ回る段階は過ぎてしまったのだ。ラグナの頂点に立つ黒竜が直々にやって来る。すなわち、この大使との話し合い如何によって、エルロード帝国とラグナ公国が敵対するか同盟するか、あるいはこれまで通りの中立を貫くか、その立場が明確に定められる。
「そう、分かった。そういうことなら、エルロード帝国は黒竜大使の訪問を歓迎するわ」
パンドラ大陸において、最強の国はどこか。
正統な魔王ミア・エルロードの血を受け継ぐアヴァロン。剣王と名高きレオンハルトの治める剣闘都市スパーダ。レムリアの海を支配するルーン。パンドラ北部に君臨するオルテンシア。最高の技術力を誇るアダマントリア。古より武を貴ぶヴェーダ法国。最果ての欲望都市カーラマーラ。
人により、地方により、意見は様々に分かれるだろう。
だがしかし、どこの誰に聞いても、まず間違いなく最強格として挙げられるのは————黒竜大公の治める、ラグナ公国である。
黒竜、その名の通り黒いドラゴンがパンドラにおいて特別視されているのには理由がある。
モンスターの頂点、ドラゴンとしての圧倒的な戦闘能力を誇るのは当然。何よりも特筆すべきなのは、明確に人としての知性があることだ。
現代に生きるパンドラの人々は、古代文明が潰えた後の長い暗黒時代を経たことで、黒竜だけが他のドラゴンと違い人として存在していることに誰も疑問を感じていない。彼らはそういう種族なのだと、そう誰もが信じているし、畏れ多くも黒竜の生態を事細かに調べようなどという無礼者は誰かしらに止められるか、そうでなければ死んでいる。
そんな最強の種族である黒竜が治める国が、ラグナ公国である。
複数の黒竜が団結して国家を形成している、という事実の一点のみで、パンドラ最強の筆頭候補となるに相応しいであろう。
そんなラグナ公国だが、遥か昔の建国から現代に至るまで、その領地に変化は一切ない。侵攻は許さず。されど拡大もせず。
間違いなく最強格の戦力を持ちながらも、大陸統一どころか一平米の領土拡大すら望まないラグナ公国の真意を、周辺諸国は知る由もない。下手な探りを入れることも危険。誰だって竜の逆鱗に触れようとは思わないのだから。
そうして長らく眠れる竜として扱われてきたラグナ公国は、今日も今日とて平和。黒竜の絶対的な戦力を基盤とした公国の平和は揺らぐことなく続く。明日も明後日も、百年後もきっと————そう絶望していた公国の主、黒竜大公ヴィンセントは、ダマスクからもたらされた報告に戦慄していた。
「……諸君、よくぞ集まってくれた」
点々と小さな赤色灯だけに照らし出された暗い広間に、ヴィンセントの疲れ切ったように覇気のない声が僅かに届く。
ラグナの頂点に立つ黒竜大公と言えば、周辺諸国は勿論、遠く離れた異国にもその名が轟く。しかし人間としての姿は、明日にでも天寿を全うしそうな、細く小さく、腰が曲がって杖をついた、絵に描いたような貧相な老人である。
薄っすらと白髪が残された禿頭に、萎れた白髭。くすんだ赤い瞳に生気はほとんど失われ、シンプルな黒ローブに全身を包んだその姿は、スラムの路地裏にひっそりと佇んでいそうな雰囲気が漂う。
「全く、いつにも増してしけた声を出して」
「そう言うな。大公閣下のご心労は、察して余りある」
ヴィンセントに対するのは、これもまた二人の老人。
一人は絵本に登場する悪い魔女のように、高い鼻に深い皺の刻まれた細面の老婆。同じく黒いローブを身に纏い、これで三角帽子と杖を持っていれば、誰がどう見ても魔女にしか見えないであろう。
そんな彼女は皮肉を口にしながらも、鷹のように鋭い目でヴィンセントを睨んでいる。
もう一方は、がっしりとした体格に背筋も伸びた、まるで衰えを感じさせない老騎士のような男だ。
彼もやはり黒ローブを着込んでおり、老け込みながらも精悍な顔で、真っ直ぐに大公を見つめていた。
「二人共、話は聞いておるな」
「勿論さね。じゃなきゃ、こんな陰気な場所になんか来るものかい」
「三竜公が集うほどの、由々しき事態に相違ない」
老婆はダリアニス・ルフト公爵。大柄な老人はグラナート・ラント公爵。そしてヴィンセント・ゲネレイル・ラグナ大公。
この三人がラグナ公国の頂点であり、合わせて三竜公と呼ばれる絶対者である。
集った広間の中央にある石の円卓に就くことを許されているのは三人だけ。ここには他にも、同じ黒竜達が十数人ほど控えている。彼らが円卓よりやや下がった位置で、直立不動での待機を厳守していた。
この場においての発言は許されていない。だが話の内容を聞くことは許されている。
「ダマスクにて、炎龍を使役した者が現れた」
ヴィンセントの声に、二人の公爵は黙って頷く。一方で、初めてその報告を耳にした黒竜達は声こそ上げないものの、誰もが息を呑んでいた。
「我らが大願成就よりも先に、よもや龍に手を出す者が現れるとはのう……」
重苦しい溜息を吐きながら、ヴィンセントがしわがれた手を翳せば、円卓の上に映像が投影される。
そこには灼熱地獄と化すアダマントリアの首都ダマスクの光景が。中央に立つ王城へと、八首を持つ巨大な炎龍が今まさに襲い掛かる瞬間であった。
「コイツは……ああ、なんてことだい……」
「うぅむ、これほどまでとは……」
実際に記録された映像を目にして、ダリアニスもグラナートも思わずと言ったように唸る。ヴィンセントに至っては、目にするのも忌まわしいとばかりに、固く目を瞑っていた。
「驚くのはまだ早い」
八首炎龍に巨大な炎の結界で対抗する王城だけでも驚嘆に値する光景だが、真に驚くべきはこの直後。
炎龍の首の一つが、ゆっくりと鎌首をもたげて王城を覗き込むように動いたかと思えば————次の瞬間に、その姿を変えた。
「嘘だろ、完全に一体化しとるのかい!?」
「ま、まずい、これはまずいぞ……」
つい身を乗り出して叫ぶダリアニスに、この世の終わりを目にしたように項垂れるグラナート。
炎龍を操り、さらには完全な一体化を果たし、自らの姿を模して変化までさせる術者の存在に、黒竜達は慄いた。
「一体、誰なんだいこんなイカれた真似をした女はっ!!」
「魔王の花嫁、魔女フィオナ・ソレイユ」
ダリアニスの叫びにヴィンセントが応えれば、さらにフィオナのパーソナルデータが表示されてゆく。
ぼんやりした眠そうな顔をした、青い髪に金色の目をした美しい少女だ。三角帽子と杖とローブ、古典的な装いをした正真正銘の『魔女』である。ランク5冒険者パーティ『エレメントマスター』のメンバーにして、帝国軍の対使徒部隊『アンチクロス』の序列第一位。
「————だから言ったじゃないか! 帝国と魔王の名を僭称する身の程知らずは、すぐに潰すべきだとねぇっ!!」
「身の程知らずだからこそ、我らが動かずとも勝手に自滅すると、お主も納得したであろう」
「あの時の選択に誤りはない。軽々しくカーラマーラまで出張ることなど、出来ようはずもなかった」
魔王を名乗り、さらにエルロード帝国の名を騙ることは、黒竜にとって許し難い行為。
だがしかしパンドラ大陸に住まう者が、かの魔王伝説に憧れることも当然。歴史上、魔王を名乗り大陸統一の野望を燃やした者達は枚挙にいとまがない。
そんな有象無象にいちいち目くじらを立てて戦争を吹っ掛けていては、キリがない。
どの道、無謀な野心を抱く者の末路など決まっている。行きつくところまで行って、破滅を迎えるだけ。何故なら誰も、本物の魔王の加護を得ることは出来なかったのだから。
故にカーラマーラで成り上がっただけの、クロノという人間の男が、真の魔王の加護を得たと称し、帝国を興した時も「またか」と三竜公は思ったに過ぎない。
「だがあそこまで龍に取り入っちまったんじゃあ、話は別だよ!」
「然り、ルフト公の言う通り。このままでは、全てが手遅れになってしまう可能性も。大公閣下、今こそご決断が必要な時かと」
炎龍の使役。その上さらに、自らの姿まで反映させるほどの一体化を成し遂げている。精霊魔法の神髄とでも言うべき御業だが、これを素直に称えられるのは現代の魔術師だけ。
黒竜は、彼らだけはそれを許すわけにはいかない理由がある。
「龍の暴走。文明崩壊の再来、か……ダリアニス、グラナート、お主らの懸念は至極当然じゃ」
古代文明は龍によって滅ぼされた。
この星に満ちる力。地脈を巡り龍穴に集う莫大な星の魔力を糧とする、生物としての枠を超えた超越種、それを総称して『龍』と呼ばれる。
古くはその土地の神として人々に崇められ、魔法文明の絶頂期においてその存在と生態が解明され————そして龍の逆鱗に触れ、文明は滅び去った。
龍は世界中に眠っている。パンドラ大陸にも、アーク大陸にも、まだ誰も知らぬ、あるいは忘れ去られた未知なる暗黒大陸にも。
その中でもパンドラは、この地こそが星の中心地と言わんばかりに特に強大な魔力が集約されている。オリジナルモノリスが築かれた大地脈と巨龍穴に住まう龍が本気で怒り狂えば、今しがた映像で見た八首炎龍すらも遥かに超える、正しく神と呼ぶに相応しい存在が顕現するであろう。
八首炎龍を超えるほどの力を持つ龍が大陸各地で暴れ始めれば、如何に優れた魔法文明を人が誇ろうとも、抗うことはできない。
「所詮、我らなど時代の敗北者よ。本物の龍の前では、あまりにも無力」
滅び行く古代文明、最大にして最後の抵抗が、生物兵器『黒竜』を生み出したこと。
龍に対抗するには、同じ龍の力しかない。しかし黒竜は『龍』にまで至ることはなかった。それが恐らく人の限界、魔法の限界、人工的に生み出された彼ら自身の限界だったのだ。
「だからこそ、私らでも手が負えなくなる前に、龍災の芽は摘まなきゃならない。そうだろう、ヴィンセント!」
「如何にも、それこそが我らに課された最後の使命」
「復唱————ラグナ大隊はハイデンベルグ市の防衛、及び周辺領域での龍災防止に努めます」
遥か古の時代に受けた命令を、一言一句違わずヴィンセントは口にする。
これが彼ら三竜公、正確にはエルロード帝国第十三黒竜戦団ラグナ大隊の唯一にして絶対の行動原理。人としての知性を与えられながらも、生物兵器として命令に服従するより他はない、最強の種でありながら誰よりも不自由な彼らに許された生き方である。
「少々離れちゃいるが、十分に私らが止めるべき龍災の危険性だと思うがね」
「うむ、現段階で止めねば、我らの手に負えなくなる」
「また命令の拡大解釈……まぁ、いつものことじゃな」
こじつけのような理由をでっちあげてでも、忠実に命令を遂行しているという大義名分を立てねばならない。馬鹿正直に命令の言葉を遵守していれば、生きていくことすらままならないのだから。
「しかし、事を急いてはならぬ。どの道、我ら三人全員が出撃することは叶わぬのだから」
「私が出る。ダマスクまでならひとっ飛びさね」
「賛成する。ルフト公の機動力ならば、最速で事を成すだろう」
「待てと言っておろう。いきなり事を構えようとするな。件のクロノ帝国は、魔王を名乗るに相応しい破竹の勢いで急拡大しておる。アトラス大砂漠からヴァルナ森海、飛んでアヴァロンとファーレン、そして今やアダマントリアまでその版図に治めているのだ」
古のエルロード帝国に所属する兵器として、断じて他所をエルロードと呼ぶことは許されない。彼らが認められるのは、あくまでクロノという男が皇帝として君臨する帝国、ということまでだ。
しかしながら、そのクロノ帝国は最早、無視できぬほど勢力の拡大を果たしている。
黒竜が勢揃いするラグナ公国だが、その国土は決して大きくない。かつてのエルロード帝国にて、ハイデンベルグ市と呼ばれた領域内でしか、彼らの活動は許されていないのだ。
「純粋な国力の差は如何ともしがたい。今のクロノ帝国に総力をもって攻め込まれれば、このラグナとて無傷では済まぬ」
「うぅむ、それは防衛任務に反する結果となる、か」
「なら尻尾を触れって言うのかい? 魔王を名乗る人間の小僧に」
「良い頃合いだと、思わぬか」
円卓に両手を組んで乗せたヴィンセントが重々しく言う。
「魔王の加護を得た男。黒竜を駆る魔王。クロノ、かの者が真に魔王たるかどうか、確かめる時が」
解答は沈黙。
軽々しく、口には出来ない。ともすれば、それは希望であり、絶望にもなりえることだから。
「クロノ帝国へ、大使を派遣する」
「大公閣下に賛成する。まずは交渉の余地を探るが良かろう」
「ふん、甘いことを……その大使には、誰を寄越すんだい」
「ガーヴィエラ」
「はっ!!」
小さくかすれたヴィンセントに呼ばれれば、凛とした少女の声が響き渡る。
発言は許されず円卓の後ろに並んでいた黒竜達の中から、一人の少女が前へと歩み出た。
「ふむ、彼女か……ある意味、外へ出すには相応しい人選か」
「はっ、ガーヴィナルの娘かい。父親と同じように、そのまま飛び出て行かなきゃいいけどね」
「恐れながら、ルフト公! 私は帝国軍ラグナ大隊として、身命を捧げております!」
自分は違う。自ら魔王になるなどと、馬鹿げた野心を抱いて国を出奔した、愚かな父とは。
竜王とその名を轟かせた黒竜の娘は、そうきっぱりと宣言した。
「我が孫娘、ガーヴィエラよ。お主ならば、大使としてクロノという男を見定めるに相応しかろう」
「はい、大公閣下! どうぞこのガーヴィエラ・ゲネレイル・ラグナにお任せください!!」