第930話 黄金砂丘
「くそ、くそっ、くそぉ! どいつもこいつも、好き勝手やりやがってぇ……」
宮殿を守る聖堂結界まであっけなく破られ、急変する事態にミサはただただ悪態を吐く。
結界破りの主犯であるネル姫は、そのまま宮殿まで侵攻を始めようとしていたが、その前に立ちはだかったのはいつの間にか出撃していた聖堂騎士達である。ネルに続いて、見覚えのある魔女も合流し、魔王軍幹部と目される二人を相手に、聖堂騎士は派手に戦いを開始していた。
もう一方、シャングリラより飛来してきた女王リリィは、こちらもまた聖堂騎士が迎撃に動いていた。宮殿の裏、後部甲板にて展開された高度な複合魔法の結界『大聖堂の光牢』の内にリリィを閉じ込め、その恐るべき空中機動力を封じて戦っているようだ。
光り輝く強固な結界の内までは、流石にピースフルハートも映像化できないようで、中でどのような戦いが繰り広げられているかは分からないが、激戦は必至。もしリリィを仕留めることに成功したとしても、聖堂騎士も無傷では決して済まないだろう。
周辺では天馬騎士と竜騎士が血で血を洗う激しい空中戦が演じられ、シャングリラからはいよいよピースフルハートへと乗り込んでくる制圧部隊もゾロゾロと現れ始めている。
ミサの意思など誰もが無視するかのように、戦場となった己の城で戦況は拡大の一途を辿っていた。
「ああっ、もう、何でもいいからとりあえず、あの忌々しいシャングリラって船をぶっ壊してやる」
誰から攻めるか、どこの戦場に介入すべきか。考えた末に出した結論は、一番大きく目立つ敵の船を破壊することであった。
短絡的な思考ではあるものの、決して悪手ではない。
クロノとサリエルを欠いた魔王軍において、リリィ、フィオナ、ネル、の三人は最高戦力となる。ただの兵士なら一方的に蹴散らす彼女達だが、聖堂騎士であれば勝ちの目もあるし、敗北を喫するとしても十分以上の時間稼ぎはしてくれる。
ならばこそ十字軍において最強たる使徒の自分が、敵の本拠地となる空中戦艦そのものを先に落とせば、相手は退路も戦力も断たれる。
「私があの船を落とすまで、精々頑張りなさいよね、ヨハネスの犬共」
それだけ吐き捨て、ミサはついに宮殿を後にして進軍を開始した。
宮殿正面では、ネルとフィオナのコンビと聖堂騎士の激戦を中心に、何とか体勢を立て直しつつある防衛隊と、雄たけびを上げて突っ込んでくる敵制圧部隊の乱戦も繰り広げられている。
ミサは早くも血みどろの白兵戦を演じる戦場を、目の前に立つ邪魔者だけを斬り倒しながら、真っ直ぐにシャングリラへと向かう。
「使徒だ!」
「使徒が出て来たぞ、退けぇー!」
「あの女とは戦うだけ無駄だ! 近づくんじゃない!!」
十数人ほど斬り捨てた辺りで、そんなことを叫びながら敵が自分を避けていくようになった。どうやら下っ端に至るまで、第十一使徒ミサの脅威は伝わっているようだ。
普段なら魔族は一匹たりとも逃がさないとばかりに、根こそぎ狩り尽くすところだが、今は優先すべき目標がある。雑魚に構っている暇はない。
手間が省けたとばかりに、遠巻きに疾走するミサを眺めるだけの腰抜け共が開けた道を駆け抜ける。
そうして、いよいよシャングリラへと乗り込もうかというところで、一人の人影が真正面に堂々と立ち塞がった。
「クロノッ————じゃない、誰よアンタ」
大柄な黒い鎧を纏った男の影に、怨敵の姿を連想するが、すぐに別人であるとミサは察した。
シルエットだけなら似たようなものかもしれないが、漆黒の装甲に輝かしい黄金の装飾は、あの禍々しい呪いの古代鎧とは全く異なる美しいデザインだ。何より、晒されたその顔に全く見覚えはない。
そこに忌々しい黒髪と黒目はなく、艶やかに翻る亜麻色の髪と整った容貌。全くの別人であると一目で分かるほどの美丈夫は、鋭い眼光を放ちミサを真っ直ぐに射抜いた。
「俺の名はゼノンガルト・ザナドゥ。貴様ら使徒を滅する『アンチクロス』第五位を与っている」
「滅する? 使徒を? バァーッカじゃないのぉ」
あまりにも自信満々な自己紹介に、荒れていたミサの心はかえって落ち着き、笑いが込み上げて来る。
こういう身の程知らずに挑んでくる奴は好きだ。その自信、誇り、尊厳、そういったものを全て叩き潰してズタボロになった姿は、心の底から笑えて来る。まして、それが強く美しい男であれば、尚更に満たされる。
「でもいいわ、アンタは結構好みの顔してるから。この第十一使徒ミサ様が、相手してあげる」
腹いせにシャングリラを殴り続けるよりは、よほど楽しそうだとミサは目の前の男、ゼノンガルトへとターゲットを切り替えた。
「ふっ、聞いた通りの傲慢ぶりだな。だが、相手をしてくれるのならば好都合。尻尾を巻いて逃げられるのが、一番困るからな」
「ホントに男って一騎討ちが好きよね。ほらほら、どこからでもかかって来なさいよ」
ゼノンガルトの挑発的な台詞にも、余裕の笑みで応える。右手に武装聖典『比翼連理』をただ握り、無防備に両手を広げてミサは先手を譲った。
「いいだろう、使徒が相手となれば、俺も出し惜しみはせん。最初から全力で行かせてもらう」
受けの姿勢を見せるミサに対し、ゼノンガルトはゆっくりと背負った大剣『征剣コンクエスター』を引き抜き、己の奉る神の名を口にする。
「寂莫の大地に咲く一輪の花————『天恵巫女アトラス』」
加護、発動。
ゼノンガルトの全身から黄金に輝くオーラが発せられる。しかし、その光は黄金魔神カーラマーラとは似て非なるもの。
飽くなき欲望の顕現たるギラついた光ではなく、大地に燦燦と降り注ぐ陽光の如き煌き。これこそ正しく大砂漠の正統な支配者たる、砂漠の女神アトラスの威光である。
「無限の砂漠に惑うがいい————『黄金砂丘』」
閃光のように駆け抜ける眩い黄金の光は、甲板上で繰り広げられる戦い全てを塗りつぶすように広がり、
「はっ、なに、何処よここ……?」
光が収まった次の瞬間、ミサが目にしたのは地平線の果てまで続く広大な砂漠であった。
雲一つない晴天に、なだらかな丘陵を形成するサラサラの砂。空と砂。ただ二色でのみ描かれる虚しい景色の只中に、いつの間にかミサは立っていた。
「なんで砂漠になってんのよ!? 私のピースフルハートはどこ行ったってのよぉ!!」
「なんだ貴様、『次元魔法』は初めてか?」
呆れた声に振り返れば、そこにゼノンガルトが立っている。
大剣を手にしているが、構えることもなく、ただ無防備な棒立ちでいる彼に、ミサは俄かに怒りの形相を浮かべて翼を模した大鎌を向けた。
「次元魔法、これが……?」
「初めて喰らうにしても、あまりにも察しが悪いな。やれやれ、貴様はそんな調子で、よくクロノ達と相対して生き残れたものだな」
「あ? このミサ様を、見下してんじゃあねぇわよぉ!!」
無造作に振るわれただけの一撃。しかし使徒の絶大な膂力と、怒りを込めて振り下ろされた大きな刃は、立ち尽くすだけのゼノンガルトに回避も防御も許さず一刀両断————
「そう気を悪くするな。俺もまた貴様と同じだったさ」
回避も防御も、必要はない。
切り裂かれたゼノンガルトの体はグニャリと揺らいだかと思えば、幻のように綺麗に消え去って行った。それはまるで、砂漠に浮かんだ蜃気楼のように。
「次元魔法は強大な加護を授からなければ使うことは叶わぬ、特別な神の魔法だ。使い手は国に一人いるかどうか……まぁ、普通は会うこともなければ、戦うことなどまずありえん」
「ちっ、なによコイツ、幻術ぅ? ウザい真似しやがって」
朗々と語る新たなゼノンガルトが姿を現す。挟み込むように、左右から二人。明らかに偽物で、本物はどこかへ隠れているとミサでも容易に想像できた。
「初めて戦う次元魔法の使い手が、俺で良かったな。ここで無様な敗北を喫することはないだろう。貴様のプライドは守られる」
「どこに隠れやがった! さっさとぉ————出て来やがれ腰抜けヤロォ!!」
切る、切る、叩き切る。
だがしかし、目に映るゼノンガルトの姿は全てが実体のない単なる幻。使徒の持つ絶大な威力の斬撃でどれほど刈り取ろうが、全ては無駄な八つ当たりにしかならない。
怒りを込めた一撃の余波で、砂漠の地があちこち抉れ、割れ、濛々と砂煙が立ち上り、その破壊力を示しているが……この無限に続く砂漠の中にあっては、蟻地獄に落ちた小虫の足掻きに等しい。
「くそっ、本物はどこにいるのよ」
血走った目でギョロギョロと左右を見渡すが、それらしき異常は見当たらない。空と砂、そして幻の敵の姿だけが立ち続けるのみ。
流石のミサも、このまま延々と幻影を切り裂き続けるだけでは埒が明かないと思い至るが、
「————んがっ!?」
突如として背中を襲い掛かった爆発と衝撃に、ミサは前のめりに倒れ込む。
ただの人間ならそれだけで上半身が爆ぜてなくなるほどの威力はしかし、白銀のオーラに守られた使徒の体を傷つけるには足りない。
しかしながら、自慢の美貌を砂の地面に突っ込ませたミサを、驚かせるには十分ではあった。
「なっ……なによ、この程度の攻撃で……」
慌てて跳ね起き、直感に任せるがまま回避行動に動けば、さらに続けて地面が爆ぜて行く。
大した攻撃ではない。自分の命には到底届かない、並みの攻撃である。
けれどミサが驚いたのはその威力ではなく、そんな並みの攻撃を一発直撃しただけで、体に走った衝撃の大きさが故である。
そう、本来であればこれくらいの破壊力を受けたところで、すでに十分なオーラを纏う自分を揺るがすことすらできないはずなのだ。
「どうした、何を驚いている?」
ミサの心中を見抜いているかのように、ゼノンガルトが声をかける。
「ここは女神アトラスの領域。貴様の加護が弱まるのは当然のこと」
言われずとも、ミサとてそれは察している。
自分が次元魔法を受けることは初めてだが、その話は聞いている。まだ第四使徒ミカエルの下で世話されていた時にも、使徒が最も注意すべき敵として、加護封じの効果を発揮する次元魔法使いの存在は教えられていた。
さらに直近では第十二使徒マリアベルが、アトラス大砂漠での戦いで敵の魔女の次元魔法に囚われ実質的な敗北を喫したこともある。
けれどミサは、戦いの天才ではない。過去に学べる賢者ではなく、経験によってのみ学べる愚者に過ぎない。こうして自ら体験するまで、ミサは次元魔法への対抗策など考えたこともなかった。
「そら、もっと祈るがいい。神の慈悲に縋って力を恵まれただけの乞食が、貴様ら使徒なのだろう?」
「黙れぇ!!」
大振りの横薙ぎでゼノンガルトの幻を一掃し、その先にいるであろう敵へと視線を向けた。
「そぉこぉかぁあああ!!」
飛んで来た相手の攻撃によって、本物のいる位置におおよその見当がついたことで、ようやく反撃に移る。
構えた『比翼連理』に眩い白光が灯り、振り下ろせばソレは白く輝く幾本もの斬撃と化し、砂漠に爪痕を刻みながら飛んで行く。
光の刃は相手が陣取る遠い砂丘まで駆け登り、その向こう側まで強烈な斬撃を届かせるが、
「ちっ、なによ、また後ろからぁ!?」
今度は背後で凍てつく冷気が爆ぜた。氷属性の範囲攻撃魔法から逃れきれなかったミサの体に纏わりつくように氷結されてゆくが、動きが阻害されるよりも早くオーラがバキバキと氷を砕く。
氷片をバラバラと撒き散らしながら回避に動くミサへ、さらに輝く光の矢の雨が降り注ぐ。
「くっ、どうなってんのよ、敵は一人じゃないってコト!」
あまり得意ではない防御魔法を仕方なく展開しつつ、飛んで来る攻撃の方向へと反撃の斬撃を放つ。
遠い砂丘の向こうにまで離れた間合いで、四方から飛来する遠距離攻撃に晒され、ようやく自分が包囲されていることにミサは気づく。ゼノンガルトの堂々とした態度から一騎討ちだと思い込んでいたが、向こうにそんなつもりはハナからないようであった。
「その通り。よもや、卑怯とは言うまいな?」
「コソコソ隠れやがって、この陰険ヤローがぁ!!」
挑発的に笑うゼノンガルトの幻を切り捨てながら、砲撃が来る方向へと向かってミサは駆け出す。
敵が何人いようと関係ない。全て殺せば、それで済む話。いつものように、使徒の力はそれを容易く可能とするのだから。
「————ふん、馬鹿め。いつまでも同じ場所に留まっているワケがなかろう」
「クソがぁっ!!」
砂塵を巻き上げ超人的な速度で砂丘を超えて間合いを詰めるが、そこで待ち構えていたのはやはり変わらぬ姿で佇むゼノンガルトの幻。
怒りの勢いに任せて幻影を切り付ければ、再び背後から様々な攻撃魔法が降り注いだ。
「————出て来なさいよっ! この私と、勝負しろぉ!!」
爆炎を割って転がり出たミサが叫ぶ。
だが、その先に立つゼノンガルトはただ嘲笑って言った。
「はっはっは、すまんな」
「————ねぇ、ゼノ、お願いがあるんだけど」
それはアトラス戦略からヴァルナ戦略へと大幅な方針転換が決まった『アンチクロス』会議を終えた後のことである。
クロノが去ったのを見計らってから、シモンはゼノンガルトへとそう声をかけた。
「ふむ、他ならぬお前の頼みだ、聞こう」
頼み事の内容は定かではないものの、このタイミングでわざわざ自分に言ってくるということは、軽い内容ではないのであろう。特にクロノにはあまり聞かれたくないものと見た。
ちらと周囲の様子を伺えば、他にもう誰もいはしないが、第五階層にいる限り全ての言動は恐怖の妖精女王には筒抜けである。
「場所を変えよう。いい店を知っている」
気を利かせたゼノンガルトはシモンを連れて、冒険者時代から利用している防諜性の最も高い店へと向かった。当時はあらゆる勢力からの監視や盗聴を防げると信頼できたが、リリィ統治下においてはそれもどこまで通用するかは分からない。
だが現状では、最も信頼性の高い場所であることに変わりはなかった。内緒話をするならば、ここが一番である。
「うわっ、このお店、絶対高いとこじゃん」
「たかが飲食如きの値段を気にするような身分ではないだろう」
「僕、自分が今幾ら稼いでいるのか知らないんだよね。面倒だからシークさんに任せきりだし」
「下手に誰かに任せるよりも、女王陛下に財布を握られている方が安心か」
魔導開発局長シモンの秘書が、スパーダにいた頃から付き合いのある女ホムンクルスであることをゼノンガルトは知っている。そんな直でリリィに通じている人物を傍に置くのは自分なら絶対に御免であるが、クロノの味方でいる限りは信頼性という点では抜群だろう。
この場は奢るから気にするな、とひとまず金勘定の話は置いて、本題に入ることとした。
「それで、何が望みだ?」
「僕も一緒にミサと戦わせて欲しい」
真っ直ぐ見つめてそう言うシモンに、一切の迷いはない。
それなりの覚悟を決めた上でのこと、とすぐに察せられるが、さりとて二つ返事で了承するには危険な話である。
「何故、と問いただすのは無粋であろうな……今のお前の働きで、すでに十分報いているだろう」
「うん、シャングリラを仕上げることが、今の僕に出来る一番の仕事だというのは分かっているよ」
ミサとの決戦において、シモンが率いる魔導開発局の働きは不可欠である。他に務められる者はいない。直接的に使徒と戦わずとも、決戦そのものに大きく貢献できる働き。『アンチクロス』メンバーに数えられるほどと、魔王自らが認めている。
「でもね、僕にだって意地がある」
「なるほど、例の使徒を恨んでいるのは、クロノだけではないということか」
事情を察するには余りある。
アルザスの戦い。その顛末はゼノンガルトも聞いている。十字軍の強大さ、そして何より使徒の恐ろしさを強烈に刻み込んだ、クロノの最も屈辱的な敗北の記録。最悪の大敗を喫したからこそ、そこには戦訓としての価値が詰まっている。
そして大切な仲間を失うことの、悲しみと絶望も。
「せめて一撃くれてやらないと、僕はスーさんに合わせる顔がない」
「ふん、可愛い顔して男らしいことを言うではないか」
「これでも僕はスパーダの男だからね。軟弱なことは言ってられないのさ」
真面目な顔してそんなことを言うシモンの姿に、ゼノンガルトは小さく笑いながら、頼んだ酒を煽った。
覚悟を決めた男に、応えてやるのもまた男。まして自分は、一度は本気で魔王を目指した男である。
生まれながらに恵まれた体力も魔力の才もなく、ただ己の頭脳をもって『アンチクロス』の席に並ぶこの少年の、力になってやりたいとゼノンガルトは素直に思った。
「この俺と肩を並べて戦うならば、力を示せ。いつでも相手になってやる。俺が資格ありと認めたならば、お前の望みに応えよう」
「ありがとう。元より足を引っ張るつもりも、守ってもらうつもりもない。僕は必ず、使徒と相対するに相応しい力を、君に見せるよ」
かくして男同士の約束は交わされた。
シモンとてこれが自分の意地に過ぎないと分かっている。個人的な感情を優先して、ヴァルナ戦略に万に一つも不足があってはならない。
自分の仕事を完璧にこなしたその上で、ミサへの報復も果たす。たとえ思い叶わなくとも、せめて第十一使徒ミサを討ち果たすための最後の戦いで、せめてそのチャンスには挑みたい。
想定される戦況次第では、シモンどころかゼノンガルトさえも出番がないこともありえた。理想的な流れではクロノ率いる『エレメントマスター』メンバーでミサを『煉獄結界』に落として完封することだ。
だがしかし、運命に導かれるように機会は巡って来た。
リリィ達はそれぞれ聖堂騎士によって足止めを喰らい、ミサが宮殿に籠ることなく単独で出撃し、シャングリラへと向かってきた。
そしてその前に立ちはだかるのが、フィオナに次ぐ次元魔法の使い手たるゼノンガルト。
第十一使徒ミサを確実に倒すため、『アンチクロス』の戦力が集結するまで時間を稼ぐ。それがゼノンガルトに課された役目である。
そうして任務も約束も、共に果たす。
自分は使徒の力を弱体化させる『黄金砂丘』の維持のみに集中し、ミサへと攻撃を仕掛けるのは仲間達に任せる。
これで倒そうとは思わない。ほんの僅かでもミサの力を削れれば、それだけで十分。基本的なバトルスタイルが近接型のミサに対し、遠距離攻撃のみに徹し、決して近づかない。
対ミサの基本戦術は現状、見事なほどに機能にしていた。
「さぁ、時間はまだある。昔日の恨み、今こそ晴らすがいい、シモン」