第916話 近衛連隊
リリィの尽力のお陰で、山のように書類が積み重なることはないデスクでハンコを押すだけの簡単な執務をしている最中のことだ。
「マスター」
「ん、どうしたサリエル?」
珍しく軍服姿でサリエルがやって来た。
平時では基本的にメイドとして俺の傍に控えて給仕に護衛、そして何より十字軍総司令官を務めた経験を活かして、執務についてもサポートしてくれている。今日は非番のはずで、傍仕えはプリムと元祖ホムンクルスメイドのロッテンマイヤーが担当してくれていたのだが。
「近衛連隊の編成が完了しました」
「そういえば、そんなこともしてたっけ」
他人事のように言う実に無責任な俺である。
そう、こんな俺でもエルロード帝国皇帝。国家元首には、専属の護衛がつくに決まっている。それが近衛騎士団と名乗るわけだ。
「すっかり忘れていたな……なんか『暗黒騎士団』だけで十分だったし」
「戦力的に問題はないが、体面の問題はある」
これまでは短い傭兵団時代から続く『暗黒騎士団』のメンバーが、そのまま俺の直属である近衛騎士団のような扱いをしていた。フィオナやサリエルを除けば、その全員がリリィ謹製ホムンクルスなので、スパイや裏切りの心配はない信用できる者達だけで構成されていると豪語できる。
そして実際に彼らは、スパーダ防衛戦から俺と共に戦い続けた実績がすでにある。その戦いぶりに不満はないが、
「ちゃんと組織編制しとくに越したことはないよな」
「連戦だったので、時間がかかった」
アヴァロン、ベルドリア、ファーレン、と続いたからな。落ち着いて組織編制なんてしている場合じゃなかった。目の前の戦いに集中するので精一杯だ。
けれど早い内にしっかり決めておかないと、帝国軍が拡大するにつれて収拾がつかなくなりそうだし。いいタイミングだったということで。
「実際、どんな感じなんだ?」
「魔王直属の戦力を連隊規模まで拡張。ホムンクルスを中心に、古参兵を選抜しました」
「俺の下にだけベテラン集めて大丈夫か?」
「マスターは大体最前線まで出張って来るので、近衛もそこで戦う羽目になる。貴重な精鋭戦力を出し渋る心配はない」
「これからは自重するつもりだから……」
ただし、出来るとは言っていない。必要と思えば、幾らだって戦う。結局、俺の一番の長所は強さしかないからな。
「俺の『重騎兵隊』と『暗黒騎士団』はどうなるんだ?」
「『暗黒騎士団』に統合されます。全員の機甲化が完了したので、重騎兵としての運用も可能です」
ようやく暗黒騎士団全員に行き渡るほどの機甲鎧が揃ったワケだ。
元々、古代鎧であった『ハウンド』の性能は疑いようがないが、シモンが開発した現代の魔法技術のみによる機甲鎧『黒鬼』も十分な戦果をコナハトで残してくれている。このまま練度と性能を上げて行ければ、十字軍の機甲鎧にも真っ向から対抗できるだろう。
「近衛連隊において『暗黒騎士団』が、皇帝陛下の傍に侍ることを許された最精鋭となります。これからも、変わらず私達がマスターのお傍に」
「ああ、よろしく頼む……そういえば、任命式とかする?」
「近衛ですので、一度は顔を合わせておくべきかと」
俺の直属だからな。連隊規模だと千人くらいだから、一人ずつ面談ってのは無理だが、校長先生よろしく激励の挨拶くらいは儀式としても必要だろう。
「その後でいいから、『暗黒騎士団』連れてダンジョンに潜っておきたいな」
「実戦訓練ですか」
「ああ、ヴァルナに行く前に、一度はやっておきたいんだ」
全員が機甲鎧を装備した『暗黒騎士団』の力を、是非とも見せてくれ。
翌日、近衛連隊の任命式が執り行われることとなった。早くね、と思うが俺の許可が下り次第すぐにでも出来るよう用意はしていたとのこと。相変わらず段取りがいい。
俺も最近はこうして人前に出る仕事にも、少しは慣れてきた気がする。地道なスピーチ練習の成果が出たと思いたい。いつも付き合ってくれて、ありがとうウィル。
そんなワケで、本日の予定は総勢千人の連隊全員の前で大袈裟な演説をしてから、各中隊長以上には直々に階級章を授与し、その様子をプロパガンダ用の番組として帝国中に放送するというもの。今度こそ放送事故はしないぞ。
という意気込みでリハーサルを終えた後のことである。
「マスター、『暗黒騎士団』の新入団員が面会を希望している」
昨日に引き続き、バリっと漆黒の軍服をキメたサリエルが訪れ、そう問うた。
「新入団員って、新しいホムンクルスか?」
「いいえ、今回はホムンクルス以外を対象とした入団試験を実施している」
「そういえば、そんなのも許可したような気が……」
アヴァロン解放戦を終えて、ベルドリア攻略に向けて動いていた頃だったか。
身内だけで固めているような『暗黒騎士団』だが、戦力増強のためにはホムンクルスを越える実力者も引き入れるのが望ましい。ホムンクルスは忠実無比で一定の戦闘能力はあるのだが、高ランク冒険者のような飛びぬけた実力を身に着けるにはなかなか至らない。
そもそも生まれて間もないのだから、圧倒的に成長するための時間が足りていない。大人の体で生まれ、必要な知識を持ち、即戦力で採用できるだけチート級の人材である。これ以上を求めるのは欲張りが過ぎるというものだ。
「それで、期待の新入団員は何人いるんだ?」
「一人です」
「それって俺と面談するのが一人って意味だよな?」
「合格者は一人です」
「受験者何人だよ」
「約三千人」
「倍率三千倍かよ……狭き門ってレベルじゃねぇ」
「今回の入団試験は、それほど広く募集したワケではない。これでも受験者は少ない方」
「そりゃ百人も一気に採用できるとは思っちゃいないが、幾ら何でも厳選しすぎじゃないのか」
「近衛は実力を含め、忠誠心がより重要となる」
そう、俺の傍仕えをするにあたって最も気を遣っているのがその点だからこそ、基本的にホムンクルス任せとなっているのだ。
この一般採用でホムンクルス並みの忠誠心をいきなり求めたところで……そりゃあ、こんなポっと出の魔王に、深い忠誠を捧げる道理はないだろう。
「もしかして、リリィが面接したりした?」
「しました。最終面接は必ず見せろ、との仰せでしたので」
口八丁で幾らでも忠誠アピールは出来るが、テレパシーで頭の中全部覗かれるとか、無理ゲーじゃん……
「いや逆によくリリィ面接を突破した奴がいたな」
一体どんな人物なのか、物凄く気になって来た。三千倍の倍率を突破し、リリィに全てを曝け出しても尚、合格を勝ち取るとは。
「それでは、もうお呼びしてもよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
サリエルが一つ手を叩くと、すでに外に控えていたのだろう、ノックの音が響いた。
「どうぞ」
俺の代わりにサリエルが入出許可を出すと、開かれた扉から漆黒の鎧兜を纏った新入団員が、実に堂に入った華麗な動きで俺の前へ跪いた。
「クロノ魔王陛下へ拝顔の栄に浴し、恐悦至極に存じます」
「ファルキウスじゃん!」
現れたのは、スパーダナンバーワンの座を欲しいままとする、スーパースターの剣闘士ファルキウスであった。その魅了が宿るレベルのイケメンは、これまで俺の出会った中でも彼一人だけである。
美しい肉体を際立たせる壮麗な白い剣闘鎧のイメージが強いが、暗黒騎士の黒い鎧も似合っている。イケメンはなに着ても似合うからズルいよな。着ぐるみ着てもカッコいいぞコイツ。
「頭を上げてくれ。今ここでは、俺にとってお前は友人だ」
「ふふ、そう言ってくれると思ったよ。ありがとう、クロノくん」
キラキラしたエフェクトを幻視するような笑顔を浮かべて、ファルキウスは立ち上がる。
立ち話も何なので、そこにかけてくれ、と応接用のソファへと案内し、着席と同時にティーセットをヒツギが用意してくれた。
今日はプリムもこの後に任命式があるので、軍服姿で待機中なのだ。よって、珍しくヒツギが真面目にメイドのお仕事を一人でしているのだった。
「ふふん」
お茶を出すだけで、このドヤ顔である。
おい、お客さんが来ている前で、メイドが自分の仕事ぶりをアピールしてるんじゃない。
「それにしても、まさかファルキウスが入団してくるとは……と思うが、お前なら合格するのも納得だよ」
「なかなか大変だったけどね。特に、リリィ女王陛下による最終面接は」
傍から見ればコネ採用に思えるかもしれないが、リリィがそれだけで暗黒騎士団への所属を許すとは思えない。ファルキウスは間違いなく、その実力をもって突破してきたのだ。
「今まで時間がかかってしまったのは心苦しいけれど、君のすぐ傍で戦うには近衛になるしかないからね」
カイの突撃大隊と違って、暗黒騎士団は実力の他にも見るべきところは学問から礼儀作法まで幅広く求められる、厳しい選抜試験だ。それ相応に時間をかけて行う、長い試験となってしまった。
「その気があるなら、俺に言ってくれれば良かったのに」
結果的にファルキウス一人だけを採用するなら、その方が絶対に手っ取り早かっただろう。
「自分の実力を示したかったから。僕はほら、アヴァロンの公爵令嬢とは違って、身分だけで君の隣に立てるような立場ではないからね」
確かにセリスは、アヴァロン解放戦後はほとんどそのままの流れで暗黒騎士団の所属になっていた。実はホムンクルス以外で団員となった最初の一人が彼女である。
「そう言わないでくれ。セリスも微妙な立場だったし……それにファルキウスだって、卑下するような立場じゃないだろう」
「僕なんて、ただの解放奴隷さ。自由を勝ち取ったと言えば聞こえはいいけれど、卑しい生まれが変わることはないからね」
「それなら俺は、そもそもこの世界の人間ですらないからな。命からがら逃げだして来た実験動物だ」
「ふふ、お互いに、随分と成り上がったものだよ」
何の憂いもなくそう微笑んで言うファルキウスからは、本気で自分の生まれに苦悩しているような気配は感じられない。
だが俺にはリリィのようなテレパシーはない。ファルキウスのように上手に笑顔の仮面を被れる者を相手に、その心理を見抜く様な真似はとても無理だ。
「アヴァアロンでは、随分と酷い扱いを受けたと聞いている。このパンデモニウムで、また剣闘士をやる道を選んでも良かったし、もう一切の戦いからは身を引いたとしても構わないと思っていた」
ファルキウスは自ら解放奴隷を名乗ったように、その身分は自由である。ウィルやネル、セリスのように王侯貴族として、果たすべき責務もない。
もう十分に戦った。十分に苦しんだ。パンデモニウムで、戦いを忘れて静かに暮らすという選択肢も、彼には許されていたはずだ。
「確かに僕は貴族でも何でもないけれどね、それでも誇り高きスパーダ人さ。故郷を奪われて、黙っていられるような腰抜けではない。僕は自分の全力を賭けて戦い抜くと、他でもない、魔王たる君に誓うよ」
「そうか、ありがとう……ファルキウスが力を貸してくれるなら、心強い。その忠誠に恥じない魔王になるよう、俺も頑張るよ」
「でも、今度またリリィ女王陛下に反旗を翻されたら、流石に逃げるからね」
「そ、そうならないようにも頑張ります……」
やはりリリィとガチンコバトルを経験した猛者は違うな。あの死闘を共にした当事者だけに許された冗談に笑い合いながら、俺はこの新たな暗黒騎士を歓迎した。
当然のことながら放送事故はなく、つつがなく任命式を終えた後。
「ファルキウスはやっぱり剣闘士やってた方がいいんじゃないのか?」
思わずそんな感想が漏れる姿を、早速あの新人暗黒騎士は見せつけてくれた。
今回も現場リポーターとしてエリナが任命式を放送しており、ファルキウスがインタビューに答えていたのだが……そのトーク力たるや。
元々の才覚に加え、すでに相当の場数を踏んだ歴戦リポーターと化したエリナに対し、ファルキウスもこれぞ本物のスーパースターと言わんばかりの存在感を輝く様な笑顔で放っていた。完全に本物の芸能人を目撃した気分で、俺は二人の様子を眺めるばかりであった。
「これから『暗黒騎士団』は近衛として、多くの人目に触れることとなる。見栄えが良い者の方が望ましい」
「おいサリエル、もしかして入団試験って容姿も含まれていたんじゃ」
「当然、含まれている」
まさかの顔採用。いや、顔も含めた採用だから、益々厳しいな。
これスケルトンとかだったら容姿の採用基準どうなんの?
「私を含め、ホムンクルスは表情に乏しい。セリスとファルキウスは、近衛の顔となるに相応しい人材」
「ああ、アイツら二人並んで映ってたからな、絶対ファンついただろ」
エリナも並び立つ近衛連隊の面々から、最も顔面偏差値の高い者を目ざとく見つけ出し、二人を並ばせてしばらく撮影していたからな。
麗しい微笑みを浮かべてカッコいいポーズをとらされているセリスとファルキウスのコンビには、少女漫画の背景みたいに花々が咲き誇るエフェクトを見た気がした。あんなの帝国中に放送したら、憧れる少年少女続出だろ。
プロパガンダここに極まれり。美しいは、やはり強い。
「————失礼、魔王陛下の御呼び立てにつき、まかり越しました、レギンにございます」
華々しい任命式会場とは打って変わって、すでに場所は薄暗く武骨な石造りの壁が囲う広間へと移っている。
そこで俺達を迎えてくれたのは、スパーダ時代からお世話になっている鍛冶師レギン・ストラトスだ。
「すみません、レギンさん。忙しいところ、わざわざ呼びつけてしまって」
「はっはっは、相変わらずですな陛下は。こんな老いぼれ鍛冶師のことなど、どうぞお気になさらず」
ああ、このドワーフとは思えない人の好い笑顔に癒される。暴力的なまでの美形を見せつけられた後に、この如何にも気のいいおじさん顔は癒されるね。
レギンさんには今でも変わらず呪いの武器のメンテナンスもちょくちょくしてもらっているが、それに加えてシモンの下で凄腕を揮ってもらっている。純粋な仕事量で言えば、魔導開発局長であるシモンを凌ぐほどらしい。
流石はかつて『王剣クリムゾンスパーダ』を打ち直した超一流鍛冶師。その実力と経験を遺憾なく発揮している。
さて、そんなレギンさんの仕事の成果の一つが、俺達の前に揃っていた。
「こちらが暗黒騎士用に改良を施した機甲鎧『黒金鬼』にございます」
現代の魔法技術のみで製造された機甲鎧『黒鬼』を、近衛たる暗黒騎士専用にカスタムした一品である。
追加された金の一字が示すように、黒一色だった装甲には瀟洒な黄金の装飾が施されている。ベースはほとんど同じだが、武骨な黒鬼とは打って変わって、一気に見栄えの良い鎧兜といった印象を与える。
「魔王陛下の近衛として侍らせるには、少々地味かもしれませんが、性能を優先とのことでしたので、戦闘に支障がないデザインに留めおきました」
「いいや、見栄えとしても十分だ」
これ以上ド派手なデザインにしたら、逆に俺が霞んでしまう。『暴君の鎧』は普通に着ているだけだと黒一色だし、戦闘機動させないと赤い魔力ラインも浮かばないからな。
金銀ギラギラの豪華鎧の近衛に囲まれた、黒一色の俺一人とか、絵的にちょっと。オシャレなダンスパーティーに黒シャツ黒ズボンで来た、みたいな感じになるのは困るし。
「金装飾には、本来ならば純金を使うべきなのですが、これも性能優先ということでメッキになっております」
勿論、ただのメッキではない。レギンさんが近衛カスタムのためにわざわざ配合したという金メッキは、炸裂した魔力と反応し、相殺する効果があるという。つまり何かしらの攻撃魔法を受けると、金メッキが剥がれる代わりに威力を打ち消すという防御効果を発揮するのだ。
さらにこの金装飾のデザインそのものが魔法陣としての効果も併せ持ち、鎧そのものを硬化させる機能もあるのだとか。
凄いな、見栄え重視の派手な装飾に見せかけて、二重の防御機構が仕込まれているとは。
「それから本体にも少しばかり手を加えております」
「出力上げたんですか?」
「いえ、稼働時間を伸ばしました」
素晴らしい。やはり超一流は目の付け所が違う。
機甲鎧の強さに直結するのは、パワーとスピードにダイレクトに影響するエーテル出力だ。俺の『暴君の鎧』はぶっちぎりの出力を誇る。十字軍の機甲鎧など相手になるはずがない。
だがどんなに高出力であっても、稼働時間が短ければその力を発揮することはできないのだ。いつかのリリィと同じように、ちょこっと時間稼ぎされるだけで封殺されてしまう。
何より実戦においては、常に短時間、一定時間で戦いが終わるとは限らない。むしろ朝から晩まで徹夜で戦い通しとなることも、戦場では覚悟すべき。
一旦戦闘が終わったと思ったら、すぐ次の敵が襲ってくるという波状攻撃もあれば、移動中や撤退中に奇襲や不意の遭遇戦などなど、想定される戦況も様々だ。
稼働時間の長さは、そのまま戦闘に対応できる時間の増大を意味する。長く戦えるということは、それだけで強みとなる。
「本体の燃費を良くするとは、素晴らしい改良だ」
「そんなに褒められるほどのものではありません、ちょっとした工夫みたいなものですから。今のところは現状の補給方法に頼り切りになってしまいますよ」
エーテルの補給は、基本的にはモノリスで行う。パンドラ各地には無数のモノリスが、一般的には古代の石碑『歴史の始まり』として残されている。現代でも地脈が枯れてさえいなければ、モノリスにはエーテルが通っており、方法さえ知っていればガソリンスタンドで給油するが如く、手軽に補給が可能となっている。
それから移動できる補給手段としては、バッテリーではなくタンクのように大型のエーテル保存容器を備えた古代の遺物を利用している。
樽型や箱型などなど、古代で使われていた運搬用エーテルタンクもあれば、プロパンガスのように施設に備えられたタンクを外して使ったり。後はゴーレムの中にいる大容量タンクを持つ奴から剥ぎ取ったり、とにかく現状使えるモノは何でも使う状態だ。
今は数少ない機甲鎧を運用するだけなので補給体制は足りているのだが、これから先のことを考えればエネルギー問題は必ず行き当たってしまう。
「エーテルバッテリーもまだまだ容量が心許ないですから、今は出来る範囲での改善の積み重ねで、少しずつ伸ばしているといった状況です」
「決戦まであまりにも時間が短いのは、申し訳ないと思っています」
「なぁに、シモン君なら必ずや陛下のご期待に応えてくれますよ。楽しみに待っていてくださいな」
孫を自慢するような顔で、レギンさんはそう言い切った。確かに、なんだかんだ言いながらシモンなら絶対に間に合わせてくれるだろう。
「それじゃあ早速、この『黒金鬼』の性能を試させてもらおう」
「イエス、マイロード」
紹介用に俺の前に立っていた『黒金鬼』にエーテルの光が灯り、装着したホムンクルスの暗黒騎士が応える。
同時に、すでに装着を完了させた暗黒騎士達もそれぞれの機甲鎧を起動させた。
「久しぶりのダンジョン攻略だ。張り切って行こう」
実戦を積むならやはりダンジョンが一番。挑むのは勿論、大迷宮の新第五階層『大魔宮』だ。
これから俺が各小隊と組んで、『大魔宮』を進み、最初のエリアのボス撃破を目指す、というのが目標である。
「クロノ!」
「ダンジョン攻略と聞いて」
リリィとフィオナがあらわれた!
リリィとフィオナは、仲間になりたそうにこちらを見ている。
「いや、今日は暗黒騎士団の訓練だから」
とぼとぼ帰っていく二人を見送ってから、俺は暗黒騎士を率いて『大魔宮』へと潜るのだった。
また今度、ちゃんと『エレメントマスター』でダンジョン攻略しよう。そうしよう。