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黒の魔王  作者: 菱影代理
第44章:ヴァルナ空中決戦
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第912話 アトラス戦略の転換

 大遠征軍が真っ二つに割れた。

 アヴァロン奪還を掲げてネロが帰還へ。一方のミサは魔王討伐を叫び遠征の続行を宣言。綺麗に兵力を二分して、ネロとミサはそれぞれ逆方向へと進むこととなった。

 そんな馬鹿な……と思ったものだが、どうやらこれが本当らしい。

 初報はカール王子と話をした21日であったが、より詳細な情報と大遠征軍の動きを探らせ、白金の月が終わる30日には、ついに確定情報が入った。

 ネロは本当に自分の軍勢を率いてアダマントリアの首都ダマスクから北へ、すなわちもと来た道を引き返し始めたと。

 この情報が俺に届いた今頃は、進軍速度からネロはすでにパルティアへと入ったことだろう。

 対するミサはまだダマスクから動いていないものの、今日か明日にでも進軍命令が出てもおかしくない、といった様子であるらしい。数日中に、ミサ進軍の報が届くだろう。

「皆、すでに聞いているとは思うが、改めて言わせてもらおう。俺は大遠征軍に対するアトラス戦略を放棄する」

 第五階層の司令部にて、俺は集った『アンチクロス』メンバーへとそう伝えた。

 ネロとミサ、二人もの使徒を抱えた大軍である大遠征軍を迎え撃つ、当初の計画がアトラス戦略である。

 この戦略の肝は何といっても流砂操作による砂漠の大津波、ベルドリアを沈めた『アトラスの怒り』が使えること。これを敵主力部隊に直撃させることに成功すれば、後は使徒二人に対処するだけ。

 さらに大砂漠は天空戦艦シャングリラを運用するのに最も適した範囲であるし、砂の海の海軍戦力である砂漠艦隊もアトラス諸国を征服した帝国には、その全てが集結している。大遠征軍がどれだけの数がいようとも、船もナシに広大な砂の海を渡ることはできないし、こちらの艦隊を越える規模の軍艦を新造するのも現実的ではない。

 このアトラス大砂漠に誘い込むことさえできれば、大軍を労せず無力化できる。これほどのアドバンテージがとれる作戦は他にはない。

「アトラス戦略はこちらが取りうる最大にして最善の策だ。しかし、これを実行するには大きな犠牲を払う必要がある」

 大遠征軍が砂漠に到達するということは、その途上にある国は全て蹂躙された後となる。騎兵の大軍を要するパルティアも早々に打ち破られ、鉄壁の守備を誇るはずのアダマントリアさえ、あえなく陥落した。

 次は獣人部族の住まうヴァルナ森海だ。深い密林は大軍相手に有利な地形とも言えるが……地の利だけで大遠征軍を食い止めることが出来るとはとても思えない。

 そうしてヴァルナの獣人部族を滅ぼした後、いよいよ帝国の領土へと奴らは踏み入る。こちらが大砂漠まで相手が入って来ることを待たねばならない以上、少なくとも砂漠の玄関口となる港湾都市ロックウェルは確実に占領される。場合によっては近隣の港町まで侵略の手を伸ばすかもしれない。

 同盟相手と自国領の一部を捧げて、ようやく成立するのがアトラス戦略だ。俺がどれだけ犠牲を減らすよう尽力したところで、たかが知れている。沢山の血が流れることに違いはない。

 それでも大遠征軍を倒せなければパンドラそのものが滅亡する————そう理解しているからこそ、俺は犠牲を重ねても万全を期してアトラス戦略の実行を決めたのだ。

「だが自ら戦力を半減して来るというのなら、これだけの犠牲を払う意味はない」

 常識的に考えてありえないだろう。こっちが何もしていないのに、集結させた決戦兵力を二分するのだ。大兵力の強みを捨てる、愚かな選択としか言えない。

 俺がアヴァロン解放を決断した時も、ネロなら大遠征軍の一部を割いてこちらに向かわせて戦力を減らすことができるかもしれない、くらいの事は考えた。

 だがしかし、まさかネロが直々にネオ・アヴァロン全軍を率いてとんぼ返りしてくるとは思わなかった。そんな馬鹿な真似をするはずがない、楽観的にして希望的観測に過ぎる。奴の将校は何をしているんだ。今すぐ戻ってアヴァロン取り戻すんだよぉ! とキレ散らかしたところで、それは止めようよと諫めるのが役目だろうが。

 いいや、最早そんな常識が通用しないほど、使徒という万能の力に溺れているのだろう。俺が戦えばどんな相手だろうと必ず勝つ。だからどんな選択をしようが上手くいく。兵法など考える必要もない……それくらい思っていそうだな。

「これで俺達の相手は、第十一使徒ミサと、大遠征軍に残った寄せ集めの奴らばかりだ」

 大遠征軍はパルティア侵攻から進むにつれて、行く先々で隠れ十字教徒の国々と合流し、その戦力を増大していた。

 ネロがまとめてパルティアの総力を結集した騎兵軍団を殺し尽くしたことで、もうロクな防衛戦力がケンタウロスの各部族には残っていない。広大な領土を持つパルティアは、それだけ接する国々も多い。内陸国でもあるパルティアは、防衛力を失った途端に全方位から一斉に侵略された。まるで道端に落ちたアイスに群がる蟻のように。

 その侵略国の大半は大遠征軍と示し合わせた隠れ十字教勢力だが、ファーレン方面から十字軍の一部もパルティア東部を奪おうと進出を始めている。ファーレンの首都ネヴァン解放にはまだ時間がかかるので、パルティアに進んだ奴らの後背を突くことはできない。今は放置しておくしかない。

 他にも、十字教とは全く関係のない周辺諸国も純粋にチャンスと見込んで領土拡大に動き出したりもして、パルティア全土は略奪と虐殺の嵐が吹き荒れる地獄と化しているだろう。

 そうして大遠征軍が通ったパルティア縦断ルートには、各国からの兵士が占領し、一部は大遠征軍と合流してさらなる征服を目指して轡を並べている。なまじ連戦連勝、破竹の勢いで勝ち進めているものだから、十字教の影響が少ない国であっても勝ち馬に乗ろうと大遠征軍と協力を申し出ているところも増えているらしい。

 その結果、本来ならば進むだけで消耗していくはずの遠征が、かえって勢力を増して進み続けるに至っているのだ。

 アダマントリアに攻め込んだ時点で、すでに総数は十万の大台を超えるほどだという。

 十万といえば、スパーダを攻め滅ぼすに足る兵力である。それが今度は俺達の帝国にやって来るというのだから、アトラス戦略を実行するしかないと覚悟も決まるが……使徒も兵も半分になったなら、何とかなる。いや、絶対に何とかして見せる。

「ネロが自軍を全て率いてアダマントリアから出て行ったため、ここの領有を放棄したと見做されたようだ。お陰で隣国が大々的に兵を繰り出し、ダマスクを占領したらしい」

 アダマントリアには国境を接する二つの隣国がある。

 片方は何かと引き合いに出される、『青き森の民』と称するエルフの国。

 もう片方はローゲンタリアという人間の国。

 アダマントリアのドワーフ達にとっては過去に幾度も争いがあり、交易のある今でも何かと反りが合わないと敵対的な関係だったのは『青き森の民』のエルフであったのだが……今回のことで牙を剥いたのは、表向きは無難な友好国を演じていたローゲンタリアの方である。

 ダマスクを筆頭にアダマントリア領の大半を、速やかに大軍を繰り出したローゲンタリアが占領したらしい。奴らの狙いは当然のことながら、アダマントリアが持つ豊富な鉱物資源。長らく虎視眈々と狙い続けてきた念願のバルログ山脈の鉱床を、ついに手に入れて大喜びなようだ。

 お陰で、ローゲンタリアの大遠征軍への支援も相当なものになっているらしい。

「ミサの大遠征軍がこのまま進めば、後はヴァルナ森海へと入る手前、商業都市サラウィンでさらに兵力を補充するだろう」

 獣人誘拐事件を行っていたカルト宗教『審判の矢』をぶっ潰した街だ。

 サラウィンで暗躍していたのは奴らだけではなく、生粋の十字教徒が隠れ潜んでいたことが今になって明らかとなった。もう自分達の存在を隠す必要がないとばかりに、大遠征軍に対して大々的に支援を計っている動きが確認できている。

 ヴァルナ森海への侵攻を始める前に、近隣の十字教勢力をここで合流させてさらなる戦力増強を図る計画らしい。

「だが、それでも奴らの数が十万を超えることはない」

 いいとこ七万。八万以上まで増えることはないだろうと、サラウィン周辺国の様子から判断している。どこの国でも、そう簡単に何万もの軍勢を遠征に出せるわけではないからな。

 大遠征軍は多くの国々から数千単位で兵を受け入れた、キメラの如き連合軍と化している。圧倒的多数を占めて戦力の中核を担うネオ・アヴァロン軍が丸ごと抜けた今、その内情は大変なことになっているだろう。

 それでも奴らは十字教という一つの信仰に基づいて戦える。第十一使徒ミサという絶対的な存在がいる限り、最低限の指揮系統は保たれ軍としての機能は維持されるだろう。

「ピースフルハートを落とし、ミサを討てば、後は烏合の衆だ」

 今回の戦いで重要なのはこの二点。

 制空権という究極のアドバンテージを得られる戦略級の古代兵器、天空母艦ピースフルハートと、その主であり総大将でもあるミサ。

 これさえ何とか片づけることができれば、残りはヴァルナの深い密林に取り残された軍勢だけ。数こそ多いが、始末のつけようはどうとでもなる。

「勝機は十分にある。俺はアトラス戦略の代わりに、この密林で大遠征軍を迎え撃つヴァルナ戦略を立案する————皆の意見を聞かせて欲しい」

「私は賛成よ」

 真っ先に表明したのはリリィ。次いでフィオナ、サリエル、と賛成票が投じられる。まぁ、この三人には一番最初に話が通っているから、今更是非を問う段階にはない。

「私も賛成します。敵が砂漠に来るまで待ち構えていれば、どれだけの犠牲が出るか……それを防ぐことができるのならば、多少のリスクがあっても戦う価値があると私は思います」

 そう語るネルの顔は、一国の姫君に相応しい威厳が感じられた。つい先日、猫耳メイドでニャンニャン言っていたのが嘘のようだ。これがギャップ萌え……

 ともかく、これで過半数の賛成意見は集まったが、俺は別に全員の意見を統一した気になって満足したいワケではない。こういう時に必要なのは、反対意見だ。

「現状では、素直に賛成は出来んな」

「僕は反対かなー」

 我がアンチクロスの貴重な男性枠である、ゼノンガルトとシモンの両名から、いよいよ反対意見が来た。

「詳しく聞かせてくれ。問題点を明らかにしておきたいからな」

「最大の問題点は『アトラスの怒り』という絶対的な優位を自ら捨てること。敵の大軍と戦って失われるのは俺の、失礼、魔王陛下の兵の命である。確かに同盟国が大遠征軍に蹂躙されるのは痛ましい事であるが、それを帝国兵の命で贖うのは割に合わぬ」

 至極真っ当な意見だ。一国の君主であるならば、自国の犠牲を一切許さぬ気概を持たねばならない。正義に反しようが、不利益を他国へ押し付ける傲慢さや狡猾さが必要なのだ。

 そういう観点で言えば、俺の判断は皇帝としては失格だろう。しかし、俺は魔王だ。

「確かに今の帝国兵に犠牲を強いることとなる。だが、それで救う命は同盟国という他国ではない。いずれ帝国となる、未来の俺の臣民だ。救うべき価値は十分にある」

 十字軍と大遠征軍。二つの大軍勢が暴れ始めたことで、最早、通常の同盟関係だけでパンドラを守り切ることはできない。

 アトラスを平定し、アヴァロンとファーレンの二国を併呑。この時点で、すでにパンドラ大陸では最大の領土を誇ることとなっている————ただし国土の大半は砂漠と森林になるが。

 それでもスパーダとアダマントリアも解放され次第、帝国領となる。ミサの大遠征軍を打ち破り、アダマントリア解放も終えれば、次はパルティアにも進出しなければならない。

 帝国の拡大は留まるところを知らない。この拡大路線は俺にも止められないだろう。解放地域は恭順させなければならず、十字教勢力を一掃すればそこも取り込まなくては意味がない。

 恐らく、ミアもこうして大陸統一をする羽目になったんだろう。いつか言っていたな、野望によって統一したのではなく、十字教を倒すためにそうするしかないからやったと。

「そして何より、俺のエルロード帝国は十字軍を倒す為にある。多少の損害を受けようとも、率先して十字軍と戦うことが、その存在意義だ」

「そうか、ならば俺の諫言は無意味だったようだな。兵の命を思うがままに使い潰すがいい」

「それに見合った戦果が得られるよう尽力しよう」

 どの道、全ての人々に理解してもらえるとは思わない。むしろこんな戦争狂のような思想には反発の方が強まる。これから帝国が拡大し、さらに参加する人々が増えれば、その分だけ無数の火種があるだろう。そしてその内の幾つかが大火となるかもしれない。

 そうならないために、リリィの洗脳やエリナのプロパガンダがあるのだ。真の理解など得られぬが故に、より多くの意思を統一するための策謀だ。

「ゼノンガルト、まだ意見があるなら聞かせてくれ」

「ヴァルナの獣人を恭順させられるのか? このまま戦えば、奴らはただ帝国軍に救われるだけ。恩義を感じればマシな方。お前らが勝手に戦った、助けくれとは頼んでいない、と恩を仇で返してでも主権は手放さぬだろう」

「痛いところを突いて来るな」

 そう、今回ばかりはこれまでと事情が異なって来る。

 スパーダ、アヴァロン、ファーレン。これらの国々は十字軍の前に敗れている。そしてアトラス諸国は帝国と一戦交えた結果、降伏した。

 どちらの場合であっても、国家の主権を維持できる状態にはないほどにまで追い詰められているからこそ、帝国に加わることをよしとしたのだ。

 しかしヴァルナ戦略が成功して、見事に大遠征軍を樹海で討ち果たしたとすれば、ヴァルナ百獣同盟は十字軍に勝利した立場だけを手に入れることが出来る。領地も民も蹂躙されることなく救われる。すなわち、帝国に庇護を求めるほど追い詰められた状況には陥らないのだ。

 困ってもいないのに、一体誰が好き好んで国を売り渡すというのか。恩義など知らぬ存ぜぬと突っぱねてでも、自分達の独立維持を守ろうとするだろう。国を守るとは、そういうことなのだ。

「大遠征軍は半分に割れたとは言え、ヴァルナ百獣同盟の戦力だけでは抗い切れない大軍であることに変わりはない。どれほど意地を張ったところで、サラウィンに集結した時には自分達だけではどうにもならないことを悟るだろう」

 帝国が手を貸さねば、樹海に生きる全ての部族は滅ぼされる。奴らなら草の根を分けてでも狩り尽くすだろう。

「どうだかな。俺が支配できなければ、滅びた方がマシだと思う奴らも大勢いるぞ?」

「そんなことはありえない……と言いきれないのが辛いところだな」

 道理の通じぬ奴がいるのも世の常だ。そして、そういう奴に限ってしっかり権力を握っていたりもするのだから始末に負えない。

「残念ながら、そうなった場合はリリィに頼むことになる」

「なるほど、愚か者は洗脳すれば済むことか」

「嫌だわ、洗脳なんて非人道的な真似、そう簡単にやるわけないじゃない」

 えっ、ここ笑うところ? みたいな表情で俺を見るのは止めるんだフィオナ。ネルも何か痛ましい感じの顔で見つめないでくれ。

「ゼノンガルト、私が最初にどうやってカーラマーラで成り上がったか、忘れたの?」

「それはザナドゥの遺産を————いや、まさか、またなのか。また勝手に人の国のライフラインを握ったと?」

「メテオフォールにはオリジナルモノリスが。そして各部族の住む場所には、まだ生きている古代遺跡が神殿として祭られているの。神聖にして、恵みを授けると、とっても大切にされているみたい————ある日突然、使えなくなったら大変ね」

 うわぁ、という顔でゼノンガルトも俺を見た。

 なんで皆して俺に視線を集めるんだよ……リリィに直接言えばいいじゃん……

「そういうワケで、カーラマーラほどではないが、各部族もそれなりに古代遺跡を利用しているようだ。中枢部であるオリジナルモノリスの制御は、すでにリリィが握っている」

「ふっ、良いではないか。恩を仇で返されたなら、その報いを与えてやればいい。いや流石は魔王陛下、その深謀遠慮にはまるで及びませぬ」

「納得してくれたようで、何よりだよ」

 笑って皮肉をくれるゼノンガルトを、ちょっと睨んでそう返した。

 俺としては道理と利益を持ってヴァルナ百獣同盟も帝国傘下へ組み込みたい。だがそれが通じなかった場合は、残念ながらリリィに出張ってもらう。彼らが賢明な判断を下すことを祈っている。

「それで、シモンははっきり反対と言ったが」

「時間がないから無理ぃ……」

 疲れた顔で、また一段と濃くなった隈のあるジト目で俺を睨みながら、シモンはそう宣言した。

「すまない」

「謝罪より納期を何とかしてよ」

 いや、本当に申し訳ないと思っている。

 今この場で最も忙しく仕事に追われているのは、他でもない魔導開発局長シモンだ。こうして会議に呼んでいるだけでも申し訳ない。お喋りしているだけじゃあ、仕事は終わらないんだからな。

「ヴァルナ戦略を実行する場合、アトラス戦略よりも準備をかけられる時間が短くなることは分かっている」

「それでもギリギリ間に合うかどうかのスケジュールなんだよ」

「ああ、だから今回は計画の多くを後回しにする。選択と集中ってやつか。ミサとピースフルハートを攻略するのに必要な装備だけを最優先で仕上げてもらう」

「ピースフルハートはシャングリラと同格の古代兵器だよ。対空兵器を後回しにしちゃっても、本当にいいの?」

「その分は竜騎士ドラグーンでカバーしよう」

 俺もただの興味本位でベルドリアに出向いたワケじゃあないからな。

 現在もクリスティーナの竜騎士団はラシードの竜騎士教導団と合同で訓練を行っている。それもこれも、こうしてすぐに一緒になって戦わねばならない時が来ると分かっていたからだ。

 竜騎士団の強化が成されれば、シャングリラに搭載する兵装の完成が遅れても空戦能力は十分に補えるはずだ。何もかも全て思い通りに仕上げるには、時間が足りていないというのは俺も認識している。これ以上、シモンに無茶ぶりはできない。

「最悪、例の決戦装備だけ仕上がればそれでいい。後は出来る範囲で十分だ。もしも今シモンが倒れたら、俺はアトラス戦略に戻さざるを得ないからな」

「あー、うん、それなら何とかなりそうかなぁ……」

 ちょっと穏やかな顔で言うシモンだが、疲れた表情のせいでそのまま寝落ちしそうな雰囲気が漂う。うん、まずはこの後、寝かせ上げよう。

「さて、他にまだ意見のある者はいるか?」

 どうやら、これでひとまず意見統一は出来たようだ。後は実行するだけ。

「皆には苦労をかけることになる。相手の規模もこれまでで最大だ。相応の犠牲も払うことになるだろう」

 今までの戦いは、良くも悪くも小規模で済んだ。アヴァロンとファーレンの解放には大軍を投入してはいないし、ほとんど全力出撃だったベルドリア攻略も数に任せた圧勝である。

 相手と対等な規模の大軍勢で真っ向勝負を仕掛ける決戦は、俺も今回が初めてとなる。

 第五次ガラハド戦争では、俺はただの冒険者でしかなかった。しかし今回は俺が率いる。俺の帝国軍が一大決戦に挑むのだ。

「力を貸してくれ。この決戦で必ず第十一使徒ミサを討ち、大遠征軍を滅ぼし、パンドラの未来を切り開く」

「オール・フォー・エルロードッ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言]  アルザス村での防衛戦で、リリィが仕留めそこなった天馬騎士達や指揮官だったノールズはミサの所だろうか?グレゴリウスは危機回避能力が異様に高そうだから、こいつが死ぬのはシンクレア共和国が滅びる…
[良い点] なるほど、大チャンスだけどリスクもあるのか。 未来の臣民という視点や、十字軍を倒すためには大陸統一せざるを得ないというのがよく分かる。 こういう将来を見据えた選択が架空戦記だなぁ。 そし…
[一言] 休みよりも先に納期を気にするのは共感できるブラックさですねw なお、会議後クロノが暴れるシモンを横抱きに寝室へ運ぶ姿をどこかのホムンクルスが見たとか見てないとか……
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