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黒の魔王  作者: 菱影代理
第43章:黒き森のネメシス
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第907話 竜騎士教導団

 俺がファーレン解放へ行っている間に、ベルドリア全土の征服は完了していた。

 砂漠に面した王都は東端にあたり、そこから西に向かって伸びる国土はそれなりの面積を誇っているが、王族や重鎮も軒並み捕縛、さらには国中からかき集めた防衛隊が壊滅という状況。ベルドリアはもうどこにも、抵抗するための戦力は残されていなかった。

 国王は倒れ、すでに後継者として権力の中枢に立つ王太子ラシードがやたら好意的かつ協力的なお陰もあって、実にスムーズに進んだそうだ。

 ベルドリアは王族を筆頭に多くの隠れ十字教徒が支配していた国のため、他のアトラス諸国のように、そのまま国王を総督に任じて統治を任せることはできない。よって、ベルドリア総督はリリィが選んだ元カーラマーラ議員に任され、その他の人員もパンデモニウムとアトラス各国から募った官僚達で首脳部は構成されている。

 実質的にベルドリアは、リリィの直轄地だ。名目上は魔王のということになっているが、俺が何か口出しすることはないだろう。

 ベルドリアを併呑したことで、国境線はついにアトラス大砂漠を越えて、大陸南西側の国々とも接することとなった。

 大陸南西にひしめく小国家群には、幾つも十字教勢力が潜んでいることは、ベルドリアに支援を行っていたことから明らかである。また、ヴェーダ法国の傭兵団が王城にいたように、ベルドリア西端は他国に通じる玄関口となっている。

 幸いというべきか、この西端の町もファーレンのコナハト同様に、ちょうど狭まったルート上にあり、防備は固めやすい。それはベルドリアも分かっているからこそ、この町は大陸南西側への備えとして、昔から大きな防壁が建てられ城塞化されているという。

 ライフルで武装した帝国兵をそれなりの人数を駐留させるだけで、ひとまずは十分な防衛体制となる。勿論、すでに十字教であることを隠さず動きを活発化させている国々がある以上は、相応の備えが必要となるが……限度ってものがある。

 これから大遠征軍と戦うにあたって主力を集結させているし、その上でファーレンの防衛にも兵員を割いているのだ。ひとまず十字軍や大遠征軍ほど巨大な敵勢力が確認できない以上、ベルドリア西端の防備は二の次となってしまうのは仕方ないだろう。

 ともかく、そういうワケで俺がファーレンから帰った時には、すでにベルドリアの新統治体制は機能し始め、西端の防衛にも帝国兵が配置され、特に問題なく治まっている。

 そんなベルドリアに俺が足を運んだのは、他でもない、ここには直接この目で見ておきたいと思える重要な施設があるからだ。

「————ようこそお出でくださいました、クロノ魔王陛下、そして我が愛しの黒竜ベルクローゼン様ぁ!!」

 晴れ渡る青空の下、喜色満面を越えてだらしない笑顔で出迎えてくれるのは、王太子ラシード・マウザ・ベルドリア————否、今はただのベルドリア竜騎士教導団長ラシードである。

「お前は相変わらずだな、ラシード」

「妾は主様だけの黒竜じゃ! ええい寄るな、気色悪い!」

 俺が黒竜形態のベルに乗って飛んで来たものだから、ラシードは最初からテンションマックス。不敬罪上等とばかりに、諸手を挙げて黒竜ベルに迫ると、尻尾の先で押し退けられてぶっ倒れた。

「あふぅん!」

 なんでちょっと嬉しそうなんだよ。恍惚の表情で尻尾に打たれて倒れ込むラシードの姿に、ちょっと帰りたくなってきたけど……コイツの竜騎士育成能力は本物だ。きっとパンドラ大陸一、飛竜に詳しい男、ドラゴンガチ勢である。

「————これは大変、失礼を。憧れの黒竜を目の前にすると、どうも自制が効かぬもので。お恥ずかしいところをお見せしました」

「ホントだよ」

「むぅー」

 ひとまずベルが幼女状態に戻ればラシードの興奮も収まり、流石は元王太子と納得できる立ち振る舞いへと戻った。

 うん、黙っていれば普通に褐色美青年だし、気品溢れるエキゾチックな王子様なんだが……黒竜フェチのせいで全部台無しだよ。

「とりあえず、案内を頼む」

「はい、どうぞこちらへ魔王陛下」

 セリスのように貴公子然とした華麗な一礼をして、ラシードが先導して歩き出す。

 続いて俺が一歩を踏み出し、

「主様、抱っこ」

「ああ、ここまで俺を乗せてくれたからな。今度は俺が乗せてやるぞ」

 当然のように甘えてくるベルを、俺は快く抱き上げる。

 年齢250とはいえ、見た目は幼女であることに変わりはないし、その生い立ちから誰かに甘えることが出来なかったベルである。同情と言えばそれまでかもしれないが、俺は出来得る限り彼女の求めに応えたい。

 抱っこくらい、幾らでもするさ。

「黒竜は主を乗せ、人の姿になれば主に抱えられる……な、なんたる尊さ……」

「おい、見世物じゃないぞ」

 涙目でガン見してくるラシードがウザい。本当に一瞬で自分のカッコ良さを台無しにする男である。

 勝手に感動でむせび泣くラシードの反応をあえて無視して、俺は改めてこの場を見渡す。

 広い。とても広大なグラウンドである。何十もの飛竜ワイバーンが集まっても尚、余裕をもって離着陸ができるほどに。

 開けた土地の向こう側には、峻険な岩山が連なっている。抜ける様に爽やかな青空と、荒々しい灰褐色の山脈を背景に、何頭もの飛竜が飛び交うシルエットが映る。

「あちらが基地の本棟となります。現在、増築工事中につきお見苦しい有様ですが……いずれは、帝国一の飛竜基地に相応しい装いにしてみせましょう」

 ここは元々、ベルドリア竜騎士団が駐留していた基地だ。王都の空を守る最高戦力が集う場所であると同時に、竜騎士の養成所でもある。

 そして飛竜に関しては才気煥発の王太子ラシードが基地の長へと就任してからは、彼が推進する飛竜の繁殖、調教を一貫して行う育成施設ともなった。

 代々精強な竜騎士団を鍛え続け、ラシードの代からはサラマンダーさえその戦列に加え、百を超える飛竜の大軍を育て上げた、正にベルドリアの最高峰にして最先端の軍事施設である。

 天空戦艦にリリィとベルクローゼンという常識外の空中戦力があったからこそ難なく返り討ちにしたように思えるが、普通はベルドリア竜騎士団を相手にできる戦力は滅多に存在しない。現代の知識と魔法技術のみで用意できる、最大級の戦力と言っていいだろう。

 これを利用しない手はない。というか、アテにしていたからこそ、リリィ自ら出撃し、『星屑の鉄槌スターダストハンマー』で竜騎士を殺さず無力化するに留めたのだ。

 そうしてここはベルドリア竜騎士団から、新たに帝国空軍ベルドリア竜騎士教導団として、予算と人員をさらに投入して竜騎士の強化拡大に務めるための軍事施設となった。

 ドラゴン大好きラシードならば、団長としてその才を尽くしてくれるだろう。彼をおいてここを任せられる者はいない。

 ただこれでも一応は隠れ十字教徒ではあったので、二心を抱えていないという疑惑はある。よって、リリィ直々にテレパシーによるダイレクト脳内検査を敢行したが————彼の信仰心は、とっくにドラゴンの足に踏み潰されていることが判明したので、めでたく団長就任と相成った。

「ここが兵舎、そちらが竜舎となります」

「おいおい、包帯巻いた怪我人まで整列させるんじゃない」

 兵舎の前にはズラっと騎士達が立ち並び、俺が姿を現すと一糸乱れぬ敬礼で出迎えてくれる。

 一目で竜騎士と分かる完全武装の装いだが、その半分ほどは痛々しい包帯が覗く。骨折のためにガントレットを嵌められず腕を釣っている者。松葉杖をついている者もいる。

「彼らは先の戦いで撃墜された者達です。空の王者を自負する我らを地に叩き落した魔王陛下をお迎えするのは、彼らにとっての誉。無様な敗者と嘲笑ってもらっても構いませんが、どうか御身の前に姿を晒すことを、お許しいただければ」

「……そう言われれば、ケチのつけようもないな」

 これが彼らなりのプライドということか。ベルドリアにおいて竜騎士は騎士階級の最高峰。その誇り高さも筋金入りだろう。

「出迎えご苦労。諸君、楽にしてくれ」

 大仰な魔王演技全開で、俺は兵舎前に整列する騎士達の前へと立つ。

「帝国が誇る最強の古代兵器、天空戦艦シャングリラに対し勇猛果敢に戦ったその勇姿、賞賛に値する。諸君らのように精強な竜騎士を帝国へ迎えられたことは、非常に喜ばしい」

 わざとらしい言い方だろうか。いやでもこういう時は大袈裟なくらいがちょうどいいのだと、ウィルも言っていた。

「このベルドリア竜騎士教導団が、今度こそ世界最強の竜騎士団を作り上げると俺は信じている。パンドラの空を征する翼が、この魔王クロノと黒竜ベルクローゼンと共に舞う日を心待ちにしている」

「オール・フォー・エルロードッ!!」

 力強い斉唱を背に、俺は立ち去る。偉い奴の長話はウンザリするからな。こういうのは手短に済ませるに限る。まして怪我人まで並んでいるんだから。

「まさか労いのお言葉まで賜れるとは。感無量にございます、魔王陛下」

「事実を言ったまでだ。数と質も伴った最高の空中戦力だからな、期待している」

「どうぞ我々にお任せあれ。必ずや陛下のご期待に応えて見せましょう」

 ただのリッピサービスなどではない。本当に頼むぞ、ラシード。

「むむっ、あそこにはワイバーン共が寝転がっておるな。よし、ここは主様に倣って、この妾が一喝してくれよう!」

「それは素晴らしい! 是非とも、飛竜をひれ伏せさせる黒竜の勇姿をお見せください!!」

「おい止せ、ベル。あの竜舎に入っているのは怪我してる奴らなんだから、いじめるんじゃない」

 百近い飛竜を収納する巨大な竜舎群へと、嬉々として突撃しようとするベルを止める。

 騎士は主人から激励の言葉をかけられることに意味はあるけど、ワイバーンには迷惑なだけだろう。まして彼らは怪我で療養中の身である。

 ベルは自分と同じドラゴンには容赦がないからな。三体のサラマンダーをパンデモニウムに駐留させた時とか、修行と称して好き勝手に振り回していたそうだ。

「それに、どうせすぐ暴れることになるんだ」

 今すぐ騒ぐ必要はない、とベルを宥めてから、ラシードの案内に従って基地内を周っていく。

 本棟と併設されている育成施設も、同等規模を誇る立派なものだ。実質的にラシードの研究施設と言っても良い。

 ここにはワイバーンの確実な孵化方法とノウハウ、調教法といった飛竜育成の機密情報の宝庫だ。警備も硬く、魔法的な防諜措置も何重にも施されている。

 だが俺は魔王なので、ラシード本人から幾らでもその内容を聞くことが出来る。とはいえ、語らせると長いので、ざっとあらましを聞く程度に留まるが。

 ちなみに、孵化したばかりの雛竜はめちゃくちゃ可愛かった。餌やりとかしたが、これもう完全にふれあい動物園だな。遊びに来たワケじゃないんだが……と散々堪能してから反省する始末である。

 邪魔ばっかしてすまんな。予算は増額しておくから許してくれ。

 そんな感じでおおよその案内が終わり、俺達はだだっ広い発着場へと戻って来た。ただし、場所は降り立った真ん中ではなく、端の方。

 そこは断崖絶壁となっており、壁や柵などの落下防止のための設備も何一つない。

 そこから先は、荒々しい高い岩山と深い渓谷が織りなす巨大な地形と、澄み渡った大空だけ。

 ドラゴンが飛び立つには、うってつけのロケーションである。

「全員、揃っているな」

「————はい、魔王陛下。『帝国竜騎士団インペリアル・ドラグーン』、全騎出撃準備完了ですわ!」

 俺の前には竜騎士団長クリスティーナが、今日も立派な金髪ドリルを翻して、自信満々の笑顔で配下を従え整列している。

 彼らは俺がこの基地へ視察に来るにあたって同行してきた護衛役。

 だが本当の目的は、次の戦いが始まるまではこの基地に駐留させて、ベルドリアの竜騎士と合同でより実戦的な訓練を行うためだ。魔導開発局が試作した、竜騎士用の新装備などの実験なんかも兼ねている。

 けれど、今日はここに俺とベルがいる。

 そして基地には現役のベルドリア竜騎士と、クリス率いる帝国竜騎士、実に二つの竜騎士団が勢揃いだ。単純な数だけで合わせれば、現時点でネロの『ドラゴンハート』も超えるだろう。

「相手にとって、不足はない」

「ふはははは! 魔王が駆る黒竜の力、今一度見せつけてくれようぞっ!!」

 再び黒竜の姿と化したベルに、俺は颯爽と跨る。

 一斉に敬礼をしてから、クリス率いる帝国竜騎士団が先に飛び立つ。すでに上空で展開しているベルドリア竜騎士と合流すると、そのまま編隊を組んで周回を始める。

 その動きは基本的な空中警戒だが、どちらの竜騎士も高い練度を感じさせる隙の無い飛び方。ついこの間に戦争した者同士とは思えないほど、互いに連携できている。

「ラシード、お前も準備はいいか?」

「よもや、再びブルーサンダーの背に乗り戦える日が来ようとは……我が身の全てを尽くして、お相手させていただきます」

 伏せたブルーサンダーに跨ったラシードが、キメ顔で応えてくれる。ドラゴンに乗ると急にカッコよくなるな。

 忘れがちになるが、このラシード自身も優れた竜騎士。そして何より、最もブルーサンダーを操るのに長けている以上、ベルドリア最強と呼んでも過言ではない。

 青い翼を羽ばたかせ、再びベルドリアの空を舞うブルーサンダーを見送る。そして、すかさずサラマンダーの僚機が付く。

 ブルーサンダーと二騎のサラマンダー。ベルドリアが誇る最強編成が再結成である。

 これで相手の準備も整った。

「それじゃあ、俺達も行くぞ————」




「————いや流石に勝てんわ」

 負けた。

 ちょっと久しぶりに、多勢に無勢という言葉を実感させられたね。

 空の上って、前後左右だけじゃなくて、上下も含めて立体的に完全包囲できるから、それが成立できるくらいの数の差があるととんでもないことになる。

 その上、囲んでくるのは数頼みの有象無象ではなく、鍛え抜かれたスーパーエリートたる竜騎士だ。物理、魔法、どちらも激しい攻撃を仕掛けるのは当然のことながら、まさか空中で封印魔法まで仕掛けてくるとは……ワイバーンを越える巨躯を誇る黒竜を落とす為に、彼らも対策を講じていたワケだ。

「すまないな、ベル。やっぱり竜騎士としての実力は、まだまだ俺には足りないようだ」

「なぁに、負けるのは慣れておる。模擬戦でお姉様方に勝てたことなど、数えるほどしかないからのう」

 幼女姿でカラカラ笑いながら、俺の頭を撫でるベル。今だけはちょっと、年上としての貫禄を感じさせる。

 魔王じゃなくてもちょっと人様には見せられない姿だが、すでにパンデモニウムの第五階層へと帰還を果たしているので気にする必要はない。

 俺達は時間いっぱいまで模擬戦を行った。休む間もなく、一度も地上に降りずに戦い通しである。ベルドリア攻略よりも、よほど激しい戦いとなったな。

 今回の模擬戦では俺の敗北を認めざるを得ない結果とはなったが、相手も無傷とはいかない。勿論、死者は出さなかったが、怪我人はそこそこ。怪我がなくても、長い激戦によって騎士も騎竜も、どちらも疲弊しきっていた。

 みんな疲れているのは明らかなので、俺は締めの挨拶だけさっさと終えて、パンデモニウムへの帰路へとついた。今夜はゆっくり休んでくれ————明日はリリィが来るから、と言ったら、制圧されたベルドリア王城を目の当たりにした時の兵士と同じ表情をしていたな。

 気持ちは分かる。リリィは俺より容赦がないだろうからな。

「負けたのは俺で、ベルは負けていないからな」

「同じ黒竜でなければ、死なせてしまうからのう」

 今回の模擬戦には、一つ大きな縛りを加えていた。それはベル自身が戦わないこと。飛行も俺が操り、その通りにしか飛ばないよう制約を課した。

 すなわち、俺自身の空戦能力を試すのが、模擬戦の目的なのだ。

 記念すべきベルの初戦である大天使とのアヴァロン空中決戦では、ぶっちゃけ俺は乗っているだけだった。

 そして続くベルドリア攻略でも同様。ファーレン解放でも、十字軍の砦や陣地を焼き払ったのはベルのブレスだ。

 俺は何もしていない。そう、何もしていないのである!

 これではいけない。このままただ黒竜ベルクローゼンの力を揮うだけでは、俺など電池に過ぎない。いや、剥き出しで乗っている以上、単なる弱点としか言いようがない。

 竜騎士の真価は、人竜一体となった空戦能力。竜騎士はただの運転手などではない。自らの力を攻防共に発揮する戦闘要員なのだ。

 だからこそ、黒竜ベルクローゼンの契約者たる俺は、その背に乗るのに相応しい強さがなければいけない。空の上では決して黒竜に勝つことはできないけれど、それでも最低限の自覚はあると納得できるくらいには、竜騎士としての強さを示さねば。

「ふふん、まったく欲張りな主様じゃのう。空の上では、妾に全て任せておいてよいのじゃぞ?」

「甘やかさないでくれ。頼りたくなっちゃうだろ」

「もーっと妾を頼ってよいのじゃぞー!」

 ワシワシと両手で髪を撫でるというより、揉みくちゃにしてくるベルの無邪気な笑顔が眩しい。

「今回の模擬戦はいい経験になった。もっと空中での立ち回りや、黒魔法もより適した調整ができそうだ」

 それが仕上がり次第、また挑みに行こう。

 さて、夜も更けて来た。いつまでも反省会をしているワケにもいかない。明日も早いからな。

 ベルを部屋まで送り届けてから、俺は第五階層の最奥にあたる寝室へと戻る。

 扉の前には、共にメイド服を着たサリエルとセリスが番として立つ。寝室の番は暗黒騎士団の中でもさらに選ばれた限られた者にのみ許されている、らしい。

 俺は特に口出ししていないが、そういう決まりにしているそうだ。お陰でローテーションが短いので、すぐに不寝番をする順番が回って来て大変だろうに。

 特にサリエルは明らかに多い。不寝番なんて野営する冒険者のような真似をしなくても。サリエルには色々と苦労をかけている自覚はあるので、ゆっくり休むくらいはさせてやりたいとは思うが……なんてことを考えながら寝室へと入った瞬間、俺は自分が何を考えていたのか忘れるほどの衝撃を喰らう。

「おかえりなさいませ、ご主人様!」

 そう出迎えたのは、ヒツギではなかった。

 だが、メイドではある。サリエルやプリムが普段着用している、由緒正しいタイプのメイド服ではなく、スカート丈は短め、エプロンにはフリルがふんだんについた見栄え重視の衣装。

 そして何より、装着されたホワイトブリムの脇から誇らしげに突き立つ、猫耳。そう、猫耳である。

 天使の如く白翼を広げ、猫耳メイドの衣装を身に纏ったネルが、そこにいた。

「ネル、何やってんの?」

「今夜はこの羽猫メイド・ネルが、ご主人様に————」

 古流柔術の達人であるネルが、隙の無い舞うような動きで両腕を構え、

「————ご奉仕するニャン!!」

 そう高らかに宣言した。猫のポーズで。

「ネル、何やってんの……?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ベルとクロノの距離感が良い。相棒感がある。 ネルとクロノのやり取りに爆笑した。
[一言]  わざわざ魔王の加護を持つものと黒竜との契約を行った意味って何だろう?今の所、契約時にベルちゃんが元気になった事と、テレパシーがクロノとベルちゃんとの間で繋がった事くらいですよね?  もう…
[一言] もうダメ猫のメイド
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