第905話 豪華絢爛ダークエルフハーレム
コナハト解放を成し遂げた後、後詰の到着を待ってから、俺は暗黒騎士団と第一突撃大隊を連れて帝国へ帰還することとした。
モリガンからコナハトの間に広がるファーレン領の三分の二にあたる土地には、いまだ万を超える十字軍占領部隊が跋扈しているが、奴らはすでに袋のネズミである。
主要街道は帝国軍によって抑えられており、補給どころか身動きもままならない。今はまだ統制を保てているだろうが、遠くない内に盗賊同然の脅威にまで成り下がるだろう。そうなる前に、領土を取り戻して意気軒高なファーレン軍に狩り尽くされるかもしれないが。
ともかく、後のことは予定通りコナハトに防衛戦力を集中させて要塞化。守りに徹する。ファーレンでの俺の仕事はお終いだ……と、思うじゃん?
「それではクロノ様、お約束通り、魔王陛下に相応しい席を設けさせていただきました」
にこやかな笑みを浮かべるブリギットに案内された扉の先には、想像を絶する光景が広がっていた。
黄金と褐色美女。ギラギラ輝くような強烈なインパクトが視覚に叩き込まれる。
カーラマーラ大迷宮の第五階層を想起させるほどに、煌めく黄金で飾り立てられた広間だ。そこに整列する、薄絹を纏ったダークエルフの美女達。
ブリギットにも負けず劣らずの美貌と抜群のスタイルを誇っている。そんなスーパーモデル級の美女が、揃いも揃ってズラズラと何十人いるんだこれ……
そして彼女達が身に纏う衣装は、ブリギットの勝負服よりもさらに露出過多な、というかこれ完全にマイクロビキニだろ。艶めかしい褐色肌に映える黄金の布地は際どいラインで食い込み、大きな胸は今にも零れ落ちんばかり。
その魅惑的な肢体を申し訳程度に隠すかのように、スケスケの白い薄絹を羽織り、煌びやかな装飾品で飾り立てられている。けれど輝く様な美貌と、金や銀に、淡色系の色合いの艶やかな髪をなびかせる姿は、それそのものが宝石の如き存在感と……そして何よりも、むせかえるほど濃密な色香を放っていた。
俺も魔王となり、女性経験もそれなり以上に積んで来たという自覚がある。
しかし、だがしかしである。幾ら何でもこのエロゲーのハーレムを具現化したような光景を前にすれば、平常心を保てない。
俺は一体、何を見せられているんだ……
「さぁ、クロノ様、どうぞこちらへ」
あまりの驚愕に固まっている内に、ブリギットに手を引かれて黄金のハーレム空間へと引き込まれてしまう。
そして気が付けば最奥の席へと座し、
「ここでは、どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ。私共が何でも、どんなことでもご奉仕させていただきます」
腕を組んでしな垂れかかってくるブリギットは、気が付けば彼女達と同様のあぶない衣装となっていた。
おかしい、ついさっきまで露出のない神官服を着込んでいたはずでは。そんなささやかな疑問を無言で封殺するように、彼女の柔肌が押し付けられ、目の前には芳醇な香りを放つ酒杯が差し出されていた。
この酒、媚薬とか入ってるやつじゃないの……?
やけにキラキラ輝いている琥珀色の液体を見て、次にこの酒杯を差し出してくれているダークエルフの女性をチラ見する。
華やかに結い上げた白髪の彼女は、全てを包み込む様な笑顔。あまりに眩しいその笑みに視線を逸らせば、露出過多の衣装によって惜しげもなく曝け出された豊満な肉体があり……さらに視線を逸らすと、今度は隣でピッタリとくっついているブリギットの深い谷間が覗いた。視線の逃げ場もねぇぞ。
「……ありがとう」
俺は酒杯を受け取り、目を閉じて一気に煽る。
まずは駆けつけ一杯、というワケではないが、これほどの歓待を用意してもらったのだ。せめて一杯は飲ませてもらわなければ礼儀に欠くだろう。
だが、これ以上はいけない。
明らかにアルコール度数が高い香りを放っているくせに、驚くほど飲みやすく、スっと喉を通っては胃の底で燃えるような熱を覚える。腹の奥底で俄かに炎が灯ったかのように、体が火照って来ると感じるほどだ。
たったの一杯で酩酊を覚えながら、俺は空になった杯を返した。
「ふぅ……よし、ちょっと一回落ち着こう」
つい先ほどまで、俺は戦勝の宴に臨席していた。
さっさとパンデモニウムへ帰って次の作戦準備に取り掛かりたい、というのが本音ではあるものの、大半の領土奪還を果たしたファーレンの勝利を総大将として祝い、祝われなければ、気持ちの区切りもつかないだろう。祝宴の一つにも顔を出さずに、早々に帰ってしまえば、魔王陛下はファーレンを軽んじている、と取られてもおかしくはない。
すでに帝国へ下った以上はご機嫌取りに執心する必要もないが、せめて一晩の祝宴くらいは付き合わなければ、いらぬ不安や疑心を抱かせるだろう。何より、この苦しい戦いを乗り越えた兵達を、労ってやらなければならない。
そういうワケで、ファーレン全てのダークエルフを代表し、シャルトラ殿下主催の祝宴が開かれたのだった。場所は勿論、モリガン神殿である。
俺は上座で魔王らしくふんぞり返って、殿下を筆頭に次々と感謝と臣従の言葉を述べに来るファーレンの偉いさんを相手に、うんうん頷いて過ごしていた。トップの立場になると、祝宴など無礼講で飲み食いする場ではなく、純粋に外交の場であって、全く心は休まらない。
これもまた一国を与る君主として必要な仕事、と割り切って厳かな魔王演技に徹している中、ブリギットが切り出したのだ。
「クロノ様もお疲れでしょう。おくつろぎ出来るよう場を設けさせて頂きましたので、よろしければ是非こちらへ」
いやぁ、流石はブリギット。挨拶と顔見せもほどほどに済んだところで、自然に抜けられるように取り計らってくれるとは。
それじゃあ、後はみんな楽しく過ごしてね、と俺は意気揚々と彼女の手をとって気疲れするだけの祝宴を後にしたのだったが————
「なぁ、ブリギット、これはどういうアレなんだ」
「どう、と申されましても。魔王陛下の御心のままに」
「……解散、って言ったら困るやつ?」
「申し訳ございません。これが今のファーレンにおいて用意できる、最上級のもてなしにございます。これでは足りぬと申されれば、至らぬことを伏して詫びるより他はありません」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……すまない、少し下がっていてもらえないか」
早くも次の酒杯を構えている白髪美女さんを一旦、間合いの外へと下がるよう命じつつ、俺はただでさえベッタリとくっついたブリギットを抱き寄せる。
「ぁん」
ちょっと、エロい声出さないで。
語尾にハートマークが見えるほどの色っぽい声音に惑わされそうになりつつ、コソっとブリギットに聞く。
「簡潔に教えてくれ。マジでどういうつもりだ」
「ウチの王様にしか許されないハーレムプレイね。ほら、ダークエルフは人間より子供は出来にくいから、手当たり次第にヤリまくってまずは一人目作ろうっていう感じの王家公認乱交よ」
回りくどい敬語表現抜きで、非常に分かりやすくブリギットが素の口調で教えてくれる。だがあんまり明らかにしたくなかった事実を知ってしまったな。
「じゃあそれ王様にやればいいじゃん」
「今はクロノ様が魔王でしょ」
「そ、それはそうだけど……」
「ファーレンの伝統ってことで、ハメを外して好き放題しちゃっていいのよ」
幾ら何でも外し過ぎだろう、こんな場所で遊び狂ったら、人間ダメになっちまう。
「安心して、ここにいるのは神殿でも選りすぐりの訓練された処女だから」
安心要素どこだよ。処女だから病気の心配しなくていいとか、訓練されてるからどんなプレイにも応えられるとか、そういう意味なのか。
どっちにせよ、それを聞いて「わーい!」とはならん。
「勘弁してくれ……俺がこういうのを素直に楽しめるような奴じゃないってのは、ブリギットだって分かっているだろ?」
「女王様にはバレないようにしてあげるから」
「それもあるけど、そういうことじゃない!」
「もう、分かったわよ……ホントにいいの?」
「ああ、後悔するほど魅力的だが、俺は絶対に断らなければならない。だからこの場は、角を立てずに上手く解散させてくれ」
「この場が流れちゃったら、もう彼女達とはできないわよ。次はシャルトラ殿下の順番になるから」
「このハーレムプレイをあの子がやるの!?」
「当然でしょ、王位継承者だもの」
なにソレ、ヤバいエロい。ちょっと興奮してきたかも。
自分では絶対手を出さないけど、それはちょっと見たいと思ってしまった。
「俺はそれを聞けただけで満足だ」
「えっ、取られたいの? そういう性癖?」
「断じて寝取られも覗きも趣味ではない。純粋にそのシチュエーションの価値を認めているだけだ」
物凄いそそられる設定のエロ本を見つけた的な。
男なら誰しも経験があるだろう、自分の好みドストレートの作品と出会った時の、あの胸の高鳴りを!
だがそのセンチメンタルなお気持ちを、女性に理解してもらおうというのはお門違いだよな。
「とにかく、俺には必要ない。ブリギットだけで十分だ」
「ふぅん……じゃあ、そういうことにしておいてあげる」
見上げる様に妖しい微笑みを浮かべつつ、ブリギットは俺から離れると、ゆったりと立ち上がった。
「魔王陛下は、私達の心遣いを大変お喜びくださっております。ですが、伴侶となるこの私を愛する証として、操を立ててくださると仰せられました」
「まぁ!」
「なんて素敵な」
「素晴らしいですわ」
ブリギットの大仰な台詞に、俄かに色めきたつ女性達。
本気で感心しているのか、こちらの意を汲んでの演技なのか。この際どちらでも構うまい。重要なのは建前である。
俺は歓待を喜んだ。彼女達は俺を満足させた。そこに一切のサービスや本心が存在しないでっち上げであろうとも、お互いにとってそれが事実であった、とすることで全てが丸く収まるのだ。
「そして、何よりも魔王陛下は一刻も早いファーレンの復興を望んでおられます。よって、陛下が貴女達に求めるのは、速やかにファーレンを継ぐ次代の子を作ること……シャルトラ殿下へよく尽くすように、との仰せです」
「はい、魔王陛下の御心のままに————」
一糸乱れぬ敬礼に、ブリギットが手を叩いて合図をすれば、速やかに彼女達は広間から退室していった。
「はぁ……」
ひとまず、これでようやく落ち着けた。
だがブリギット以外の女性が全員出て行ってガラーンとなった広間を見ると、若干の寂しさと後悔が……いや、この選択に悔いなどない。ないと言ったらないのだ。
「お望み通り、これで二人きりね?」
「————そうはさせませんよ」
バーンと扉が開くなり、現れたのはフィオナであった。
「そうです、二人きりになどさせません!」
さらにネルも続く。
良く知った顔に、いつもの格好をした二人の姿にちょっと落ち着く。露出は、多ければ多いほど良いというものではないのだな。
「これはこれは、フィオナ様にネル姫様。こんなところにまでお出でとは、よほど火急の用件がおありなのでしょうか?」
瞬時に微笑みの仮面を被り直したブリギットが、突然の乱入者二人相手にも一切の動揺を見せず、嫌味のような問いかけを放つ。
緊急でもないのによくも来やがったな、といったニュアンスであるのだが、
「いえ、別に急ぎの用はありませんけど」
フィオナにそういうのは一切通じないんだよな。
天然の鈍感力は嫌味や皮肉といった回りくどい言葉には圧倒的な耐性を誇る。
「こ、このような真似、私は許しませんよ!」
ぼんやり答えるフィオナに代わって、ネルが吠えた。
だがこの場所の淫靡な空気と、分かりやすいほどに男を誘惑する格好をしたブリギットを前に、ちょっと目が泳いで落ち着かない感じである。清らかな乙女であるところのネル姫様において、今この場は少々刺激が強いだろう。
「このような真似とは、どのような真似のことを申されているのでしょうか?」
「そ、それは、その……複数人で致すなんて……そんなのダメに決まっています!」
「えっ、複数でもいいからヤリに来たんじゃないんですか?」
「違いますよ!? じゃあフィオナさんはどういうつもりで来たんですか!」
「それは勿論、ダークエルフの房中術を見るためですけど?」
「なっ!?」
「なんだそれ……」
絶句するネルと困惑する俺だが、フィオナの表情はいたって真面目。そしてブリギットもまた、偽りの笑みの中でややその眼光を鋭くしたように見えた。
「聞くところによれば、そのブリギットさんはクロノさんと初体験にも関わらず、一晩相手をしきったそうではありませんか」
「ええっ! ほ、本当ですか!?」
「魔王陛下より初めて寵を賜る、記念すべき一夜ですから。私も一人の女として、殿方を満足させるのは当然のことにございます」
「これは途轍もない快挙です。私は幾度もの挑戦を経て、ようやく一回戦を戦い抜けるようにはなりましたが……房中術においては完敗だったと認めざるをえません」
などと神妙な顔で語っているフィオナだが、その内容は実に赤裸々なものである。正直、そろそろ勘弁して欲しい。
ほら、そういうのは女の子同士のガールズトークでして欲しいというか。
「本当に気絶せずにクロノくんとエッチできる方法があるんですかぁ!?」
「ネル、ちょっと落ち着け。ストレートな物言いはやめよう」
「うふふ、方法を知ったところで、純粋無垢なお姫様には難しいかと」
「ブリギットも挑発しないでくれ」
今にも翼を羽ばたかせて突進してきそうな勢いのネルと、余裕の笑みを浮かべるブリギット。
まずい。このままだとおかしな方向に話が拗れる気配がプンプンしてきやがる。
「そういうワケですので、今夜の主役はブリギットさんに譲りますが、私も参戦させてもらいます」
堂々たる宣言と共に、フィオナが魔女ローブを一息に脱ぎ去る。
その下から露わとなる白い裸体には、つい先ほどまでこの場にいたダークエルフの女性達と同様の黄金マイクロビキニの衣装が。
「ぁああああ! フィオナさん、な、なんて恰好を!!」
「相手の技を盗もうと言うのです。同じ装備を用意するのは当たり前のことでしょう」
恥ずかしげもなく、露出過多な衣装を纏った肉体を晒すフィオナに、ネルは顔を真っ赤にして騒いでいる。
フィオナとは最も回数を重ねているが、それでも彼女のこんな格好は初めて見た。下着姿は様々だが、これはまた別な新鮮さと、何より妖艶さが違う。ブリギットと比べれば肉付きは一回り劣るが、まだまだ少女らしい体を誇るフィオナが、この手の衣装に身を包んでいれば背徳的な感覚も増す。
フィオナ、なんて恰好を。ネルが言わなければ、俺が言っていたであろう。
「それで、ネルはどうします?」
「ううっ、わ、私は……」
「邪魔をしなければ、お好きにどうぞ。貴女は経験不足どころか、いまだ未経験ですし、観戦するのはいい勉強になるでしょう」
そんなことを言いながら、あわあわ言っているネルを差し置いて、フィオナが俺の隣、ブリギットの反対側へと座り込んだ。
いつものぼんやり顔でありながら、その金色の瞳に情欲の炎を燃やすフィオナ。対するブリギットは変わらぬ微笑みのまま、怜悧な視線で魔女を射抜く。
うわぁ……なんかこういう感じ、ちょっと久しぶりな気がするぞ……
「流石は帝国一の魔女。素晴らしい向上心でございますね」
「食と男に関わることに、手段は選びませんので」
「ふふふ、強い男の血を得るためにモリガン神殿が磨き上げた性の奥義、ご覧に入れましょう。二十にも満たぬ小娘に、習得できるとは思いませんが」
「ご心配には及びません。私、天才ですから」
「あわわわ……」