第889話 焼かれる森
「————ついに来たか」
高精度の『鷹目』によって、地平線まで続いているのではというほどに長大な十字軍の列を捉え、エメリアは苦々しく呟いた。
スパーダ軍第二隊『テンペスト』を率いる将軍にして、四大貴族バルディエル家の長姉エメリア・フリードリヒ・バルディエル。現在の彼女は、恥を忍んで隣国ファーレンへとその身を寄せていた。
剣王レオンハルトが討たれ、首都が陥落し、十字軍により大国スパーダは滅ぼされた。エメリアの『テンペスト』は敵対したネオ・アヴァロンへの備えとしてダキア方面の守備を任されていたが……僅か一晩にしてガラハド要塞が突破され、首都が包囲されているという最悪の情報を聞き、ダキアより撤退。
ネオ・アヴァロンにダキア領の全てを奪われる覚悟での撤退だったが、向こうがそれ以上の手出しをすることはなかった。幸いだったのはその程度であり、そこから先は最悪に次ぐ最悪の連続であった。
可能な限り速やかな撤退を果たし、『テンペスト』全軍を率いて首都へと救援に駆けつけた時には、すでにスパーダ王城には十字の旗が翻っていた。
精強な騎馬軍団である『テンペスト』だが、三重防壁を誇る巨大な要塞都市である首都を奪い返すのは、どう考えても不可能であった。たとえ壁がなかったとしても、相手は十万に近い兵力を誇る大軍団。勝負にすらなりはしない。
最早スパーダが滅亡したことを悟ったエメリアは、スパーダの第一王妃シャルディナが嫁いだことで同盟関係を結ぶにいたった隣国ファーレンへの亡命を選択した。苦渋の決断、とは正にこのことか。
スパーダの騎士としても貴族としても、首都を我が物顔で占領する十字軍に一矢報いて死にたい————その思いはしかし、万に及ぶ自身の配下と、それ以上にこれから来る十字軍の暴威に晒されるスパーダ人の存在によって、貫くわけにはいかなかった。
エメリアは十字軍が各地へ占領軍を繰り出すよりも早く行動を開始し、スパーダを南下。出来る限りその途上にある兵と民を吸収し、ファーレンへの避難を目指す難民の軍団と化して進んだ。
十字軍の占領軍に追いつかれることもあったが、自ら殿を務めて全て撃退することに成功。スパーダを占領した十字軍はシンクレア貴族の連合軍と聞いていたため、やって来る占領軍も先走って追いかけて来ただけの、半ばはぐれ部隊のような戦力だけだったのが幸いしていた。
これでまとまった軍団に追われていれば、愛する弟が遭遇したアルザスの悲劇の二の舞となっていたであろう。
そうして何とか無事に辿り着いたファーレンでは、シャルディナ王妃がスパーダの難民達を出迎えてくれた。本来ならば、歓迎などされるはずもない厄介者の集団でしかないが、万全の受け入れ態勢を整えてくれたのは、ひとえにシャルディナの尽力のお陰である。
更なる幸運として、倒れたレオンハルト王に代わり、第三王子ウィルハルトが王位を継いで新スパーダ王となり、首都に住まう民と、籠城戦に徹していた兵をまとめて、ついこの間に転移が開通したばかりのパンデモニウムへと避難し、臨時政府を樹立したことも聞いた。ほどなく、訪れたウィルハルト王とも面会し、多大な支援物資も受け取った。
パンデモニウムはファーレンと同盟を結んでおり、そのお陰でスパーダ難民にも便宜を図ってくれたのだ。武勇は壊滅的な残念王子と噂されていたウィルハルトであったが、彼の働きはこの状況下では何よりもありがたいものであった。
そうした様々な支援もあり、エメリアはいまだ『テンペスト』の兵力を維持したまま、十字軍の襲来に備えてスパーダとファーレンの国境沿いに駐留し続けていた。十字軍はパンドラ大陸全土の征服を目論んでいる。スパーダを占領して満足することはなく、準備が整い次第、すぐにでも新たな侵略の魔の手を伸ばすだろうことは明らかであった。
よって、本来なら他国の騎士団などとっくに解散させるところを、貴重な味方の兵力として『テンペスト』は残され、エメリアはファーレンの国境守備についていた。ウィルハルト王からは、全員でパンデモニウムに来ないかと誘われたが……苦難のスパーダ脱出と国を奪われた激しい怒りが、エメリアに戦地から退かせる決断をさせなかった。スパーダ人としての意地、と言ってもいいかもしれない。
だが、そんな強い戦意をもってしても、限界が訪れるのはそう遠い話ではないだろう。
「奴らめ、一体どれだけの兵力を動員するつもりだ……」
ファーレン目指して進軍してくる十字軍は、再び十万規模の大軍となってやって来る。
天然の要害であり、古代兵器を要し、レオンハルトを筆頭に超人的な力を持つスパーダの精鋭たちが守ったガラハド要塞でも、どうにか凌ぎきれたような大戦力である。
常識的な規模の国境砦では、ロクな時間稼ぎも出来はしないだろう。
「それでも、せめて一矢報いなければ、レオンハルト陛下にも……シモンにも、恥ずかしくて顔向けはできないからな……」
絶望的な戦いを予感しながらも、エメリアはスパーダで唯一生き残った将軍としての務めを果たすことを選んだ。
夜空を焦がさんばかりに赤々と燃え盛る森を、第八使徒アイはのんびりと眺めていた。
「いやー、燃えてる燃えてるー。どこまで燃えるのさコレ」
「ここらは森ばかりで、土地が狭いですからな。見渡す限り焼野原にするくらいで、ちょうどいいかと存じ上げます」
ファーレンの深緑の森が燃え上がる様を能天気にアイが言えば、平身低頭で畏まった答えを返す一人の男。煌びやかな装飾に彩られた鎧兜に、大きく家紋の入ったマントを着用する姿は、貴族の当主かそれに準ずる者にのみ着用が許される装備である。
ダーヴィス・ウェリントン伯爵。
鍛えられた大柄な肉体を誇るアイゼンハルトと並んでも、見劣りしない立派な体格は無言で己の武勇を誇っているようだ。実際に、その皺が目立ち始めた険しい顔にも、筋骨隆々の肉体にも幾つもの傷跡が彼の戦歴として刻み込まれていた。
「随分と派手にやっちゃって。このアイちゃんが味方してるからって、調子に乗っちゃった感じかにゃー?」
スパーダより攻め寄せて来た十字軍は、正しく鎧袖一触とばかりにファーレン国境を越えて侵入してきた。
国境線を守る砦は随分と奮闘したようだが、第二波、第三波、と数に任せて襲い続ければ、あえなく砦を捨てて敗走した。アイが出るまでもない、ささやかな前哨戦である。
そうして堂々と国境の街へと襲い掛かり、ツリーハウスの目立つダークエルフの住居を焼き討ちしている内に、周囲の森にも火の手が回り森林火災へと発展。激しい炎が、深い森に落ちる夜の帳を明るく照らし出していた。
「初戦はこれくらい派手な方が、勢いづきますからな。無論、第八使徒アイ卿がご同行くださるのは、正しく白き神の加護に守られているも同然。これほど安全な戦場を、このダーヴィス経験したことはございません」
「ふーん」
如才なく答える伯爵の解答に、アイはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「なるほど、これが最後の戦いだから、無難に終わればそれでいいってコト」
「何を仰る、魔族の国を一つ落とした程度で、十字軍の聖戦に終わりは————」
「ああ、いいって、別に責めてるワケじゃないから。さっさと新領地を確保して、のんびり余生を過ごそうっていうんでしょ。いやぁ、ダーヴィス君、見た目に反して意外と堅実な性格だねぇ?」
「やはり使徒の目は誤魔化せませぬか……恥ずかしながら、私もここ最近は特に衰えを感じておりましてな」
「寄る年波には勝てない。ああ、かつての燃え上がるような野心よ、情熱よ、さらば」
「仰る通りにございます」
武闘派を名乗るに相応しい華々しい戦歴を持つウェリントン伯爵は、それらの戦に臨んだ在りし日には更なる栄達を求める野心家であった。異教徒の反乱やモンスターの大群の襲来は勿論、権謀術数を用いて自ら戦を起こし、数々の貴族家を下し、領地の拡大にも努めてきた。
そんなシンクレア貴族の典型例のような男であったが、自ら告白した通り、今の彼には往年の野心など消えて久しい。本来ならば、この十字軍のパンドラ遠征に参加などしたくもなかった。
だが十字教会を筆頭に、熱狂的なまでに遠征を後押しされている本国において、高い武名を誇るウェリントン伯爵家が不参加、という不名誉を被るのは以後の領地経営に大きな支障をきたす。遥か遠い魔族の大陸を攻めるなんて、自分が死んだ後にしてくれ、と恨み言の一つも神様に言いたい気分にもなった。
だが、時勢には逆らえない。
そこで伯爵は、満を持して自ら歴戦の騎士団を率いて参戦。十字軍全体の勢いがある内に、早々に新たな領地を獲得し、以後はそちらの経営に集中して、十字軍の戦いの一線からは退く……それが伯爵の画策した、穏便なドロップアウト計画であった。
彼に必要なのは、他の貴族達に誇れるそれなりの戦果と、自らの手で占領した新たな領地。それもできれば、十字軍が大陸全土を征服した後、重要となる立地にある場所が良い。
スパーダはシンクレアからパンドラ大陸へ入る主要ルート上にあるので、立地としては最高だ。広い平野部を活かした広大な農地を有し、発展した街並みもそのまま残る、元より豊かな土地でもある。しかし、だからこそスパーダ領は貴族同士が領地を奪い合う激戦地。
下手すれば、スパーダ領の占領地争いで十字軍を割って内乱が起こりかねない。十字軍総司令アルス枢機卿は上手く治めているようだが、それでも落ち着くには今しばしの時間もかかるであろう。
そんなスパーダをハナから諦め、早々に自ら新領地を占領すれば、誰にも文句はつけられない。伯爵はスパーダ領での領土獲得争いが上手くいっていない者達にそれとなく渡りをつけて、ファーレン攻めへと誘った。誰かしらは参戦するだろうし、極少数しか味方がいなくとも、自分が鍛え上げた騎士団の実力も信じている。
それなりの領地を確保することは十分に可能だろうと思っていたが————まさか、第八使徒アイが自ら名乗りを上げてファーレン攻略を大々的に行うとは予想外であった。だが伯爵にとっては、これこそ望外の幸運でもあった。
「それじゃあ、幸せな老後計画のために、頑張らないとね」
「はい、アイ卿のお手を煩わせたりせぬよう、我ら騎士団も一丸となってダークエルフ共を蹂躙して見せましょう」
アイの参戦により、勝ち馬に乗ろうとする貴族が続出。あれよあれよという間に、ファーレン攻略へ向かう兵力は十万に届かんばかりとなっていた。
流石のウェリントン伯爵もこれほどの大軍を率いた経験はないが……第八使徒アイ直々の御指名と、総司令アルス枢機卿の承認をもって、ファーレン攻略軍の総大将を任されるに至っている。
これには枯れたと思っていた将としての情熱も、燃え上がろうというもの。戦いに彩られた自分の人生において、最後にして最大の戦いを制すべく、伯爵の目には往年の闘志が宿っていた。
「あっ、張り切るのはいいけどさ、ファーレンの王様と王妃は、私に譲ってよね」
「ははっ、勿論、身の程は弁えておりますれば。露払いは我々にお任せあれ」
「頼むよぉ。折角来たんだから、ちゃんと美味しいところはいただいておかないと」
その日の夜も、ファーレンの森を焼く火が消えることはなかった。
炎はむしろ、日々拡大の一途をたどる。十字軍の放つ戦火はついに、ファーレンの首都ネヴァンにまで及ぼうとしていた。
「あれが使徒、か……化け物め……」
ファーレン王城の最奥、薄暗く灯りを落とした王の寝所にて、呪詛のような言葉が王妃シャルディナの口から漏れた。
スパーダ王家の血を色濃く受け継いだ炎の如き赤い髪とギラつく黄金の瞳。剣王の娘と謡われた女傑はしかし、今はその身に大粒の汗を浮かばせながら、全身を苛む苦痛に耐えていた。
「シャル……」
「大丈夫だ、この程度、明日には治る」
ただ一人、ベッドの傍らで彼女を心から案じる視線を送るのは、夫であり、王であるサンドラ。年若きダークエルフのファーレン国王は幼げな容姿で、傍から見れば、母親を案じる愛娘といった姿である。
妻の言葉に、サンドラの中性的な美貌は悲痛に暮れていた。
「私が愚かだった。あれに挑むべきではなかった」
ファーレン軍は、十字軍に敗北した。
先日、怒涛の勢いで国境線を越えて侵攻して来た十字軍に対し、サンドラ王は首都の北西50キロほどに位置する街に本格的な防衛線を展開した。
国境を破られたものの、森を進む曲がった街道により十字軍の進軍速度は鈍い。対して、元より十字軍の侵略を見越して防衛体制を整えていたファーレンは、滞りなく軍勢を集結させた。
その街は規模も防壁もファーレンでは有数であり、そこへ続く街道周辺も鬱蒼と緑の森が広がっており、ダークエルフの兵が侵略者を迎え撃つにはうってつけの地形であった。
万全の防衛体制を整えた。十字軍は大兵力を擁する強大にして残忍な、恐ろしい敵であると油断もしてはいなかった。
サンドラ王を筆頭に、誰もが国を守るために全身全霊を賭けて戦った————だが、負けた。
「すまない、私の剣が及ばぬせいで……父上と祖国の仇を討つどころか、ファーレンの存続すら危ういほどだ」
街道を埋め尽くさんばかりに連なった十字軍の先頭に立つのは、剣王レオンハルトを討ち、スパーダを滅ぼした第八使徒アイ。十字教において最強の個人戦力に数えられる使徒の一人。
アイはその絶大な武勇を、いいや、加護の力をもって真っ直ぐに襲い掛かって来た。狙いはサンドラとシャルディナの二人。王と王妃、だからではない。
シャルディナは剣王の娘として超人的なスパーダ王家の剣技を受け継ぐ剣士として。サンドラは代々王家に伝わる秘術と、国王のみが契約できる大精霊を従える、ファーレン最高峰の精霊術士として。この国で最強であろう二人組だからこそ、己の標的と定めた……というのは、戦った時にアイが自ら嬉々として語ったことだ。
使徒の個人的な動機など、どうでもよい。ファーレン軍も、むざむざ敵の最強戦力と守るべき国王と王妃の決闘など許すはずもない。
だがアイは立ち塞がる全てを力ずくでねじ伏せ、サンドラとシャルディナのコンビも圧倒してみせた。卑劣な策や妨害など何もない。単純な力と力のぶつかり合いの結果、第八使徒アイの力の前に、敗れ去ったのだ。
あの場で出来たことは、決死の覚悟で割り込んだ近衛騎士と宮廷魔導士が、何とかサンドラとシャルディナを逃がすことだけ。
魔力を使い果たし消耗したサンドラに、アイの大技が直撃して重傷を負ったシャルディナ。二人の搬送と同時に、防衛線は放棄され首都ネヴァンまでの全軍撤退という名の敗走をするに至った。
今の首都は厳戒態勢で十字軍の襲来に備えているが……もう一度戦ったとしても、まるで勝機は見えない。使徒を止められる者が、誰もいないのだ。
「魔王クロノの忠告は、正しかった。それを聞いておきながら、私は一国の王として判断を誤ったのだ。全ての責は私にある」
帝国との同盟締結にあたり、十字軍への対策はエルロード皇帝クロノとファーレン国王サンドラ、両者の合意によって定められた。
「どこの国王でも、同盟相手とはいえ他国の大軍を招き入れることなど許さん。まして、自国に十分な兵力があると自負していれば、尚更な」
クロノは帝国軍の派兵を提案されたが、サンドラはこれを穏便に断った。他国の戦力をアテにするなど、独立国としてあってはならない状態だ。どこぞの小国や属国となれば、そういう選択肢もありえるが、スパーダと対等に並び立つ国家として、ファーレンにはその提案を受け入れる余地はなかった。
その立場を理解した上で、クロノは快く出来る限りの支援を約束し、即座にそれが実施されたことは、彼の誠実さと帝国の本気を示している。
しかし残念ながら、結果はこの有様。クロノの言う通り、帝国の増援も合わせ、国家としての見栄もプライドも捨てて最大戦力を集めるべきだったのだ。
「けれど、後悔は先に立たないもの。すでに進退は極まった……せめて一矢報いなければ、私は祖霊と精霊神に、顔向けはできない」
「ああ、そうだろう。だから、最期までお前と共にいる」
「……ありがとう。ごめんね」
見た目通りの子供のように悲しみに涙を流すサンドラを、シャルディナはただ黙ってその身を抱き寄せた。
しばしの間、静かに抱き合い、寄り添い合っていた二人の耳に、扉を叩く音が聞こえた。こんな時刻に、それも王の寝室である。本来なら許されるものではないが、サンドラは待っていたとばかりに、快く来訪者を迎え入れた。
「————お体の具合はいかがですかな」
「ああ、一晩眠れば治る程度だ。これでまだ戦える。見事な処置に感謝する、アグノア大神官」
国王夫妻が揃って礼を示すのは、モリガン神殿の大神官アグノア・ミストレア。ファーレンの精霊信仰における、宗教組織のトップに立つダークエルフの老人は、その精霊術の腕前も国内最高峰である。
アイによって重傷を負ったシャルディナが一命をとりとめたのは、高等儀式による精霊魔法の治癒を行ったアグノアのお陰だ。
「やはり、まだ戦うおつもりですか」
「無論だ。ここで引いては、王族としての示しもつかぬ」
「陛下も、それでよろしいので」
「……うん、最期までシャルと共に、王の務めを果たすよ」
寂しげに微笑むサンドラの言葉はしかし、確かな決意が籠っている。二人の覚悟を確かめたアグノアは、大きく頷いてから、こう続けた。
「ならば、この私も共に最後まで戦い抜きましょう」
「貴方まで道連れになる必要はない」
「私達が倒れれば、民をまとめるのは神殿が中心となろう。その長を、こんなところで失うわけには————」
「なぁに、ブリギットもいい歳ですからな。そろそろ後任を譲るべき時にございます」
「本当に、それでいいの?」
「ようやく、いい男とも縁を結べましたし、儂が心配することは何一つありはしません。あの子の晴れ姿を見届けることができぬのは心残りではありますが……モリガンの大神官として、そして先々代様の盟友として、サンドラ陛下のお供をさせていただきたく」
若くして王となったサンドラは、それだけ早く父親が身罷れらた、ということでもある。アグノアは見た目通りに長寿のダークエルフでも高齢の域に達しており、世代としてはサンドラの祖父と同じになる。
祖父である先々代の国王は、若き大神官アグノアと共に、まだまだ開拓の途上にあった首都ネヴァンと周囲一帯を大きく切り開いていった、ファーレン中興の祖として名高い。二人がどのような苦難を経てファーレンを拡大してきたのか、それはもう当人の胸の中にしかないことだが、アグノアにとってはファーレン王と最期を共にするのに躊躇しないほどの、覚悟は決まっていた。
「それに黒薔薇城の仕掛けを使うならば、儂が適任でしょう。なにせ、アレを仕込んだのは儂ですからな」
はっはっは、と自慢気に笑うアグノアに、サンドラは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、アグノア大神官。どうか最後まで、私達に力をお貸しください」
「勿論でございます。必ずや、使徒に一矢報いてみせましょう」
2022年8月12日
第43章はファーレン解放戦になります。
たまに感想でエメリアどうなったの、という疑問の声がありましたは、決して忘れていたワケではありません。ここに至るまで描写する余地がなかったもので・・・
エメリア含め久しぶりに登場させたキャラが多いので、誰だっけ、となった場合は第33章『黒き森』の序盤だけでも読むと思い出せるかと。