第886話 ベルドリア攻略反省会(1)
「————というワケで、何とか宣言通りに一日でベルドリアは落とせたよ」
「小国とはいえ、向こうも総力を結集していたであろうに。流石の武勇であるな、クロノ」
王と臣下、ではなく純粋な友人同士として、俺はウィルと語らっている。
無事にベルドリアを制圧した後、俺を含めて天空戦艦に乗っていた面子はすぐに帰国した。敵主力は壊滅し、王城を制圧した上に国王と王太子、その他の王族や要人を軒並み捕縛したのだ。ベルドリア全土の制圧を完了させるのには、砂漠船で乗り込んだ地上部隊だけで十分である。
そうして早々にパンデモニウムへと帰った俺は、報告も兼ねて留守を任せていたウィルと、会談という名の飲み会をしてプライベートな時間を楽しんでいた。
「失礼いたします、魔王陛下」
「ああ、ありがとう」
ウィルの護衛メイドであるセリアが、絶妙のタイミングで俺の杯に酒を継いでくれる。随分と久しぶりに彼女の顔を見た気がするが、こうして変わらずウィルの傍に仕えている姿を見ると安心する。
頼むから、もうボロボロのアサシンスーツで救援依頼を求めて来るような状況は勘弁して欲しい。マジでイスキアの時は焦ったよね。
と、俺が歓待を受ける側となっているのは、ここがウィルの居城となっているスパーダ臨時政府庁舎だからだ。パンデモニウム中心街の一等地にドーンと構えられた、以前はカーラマーラ有数の大商人にして勿論、議員であった者の大商会本店だったらしい。そんな大商人だった彼は今、議員職に専念してテメンニグルで可愛らしい女王陛下の為に、毎日泣いて喜びながら帝国に尽くしてくれている。
欲望都市カーラマーラで議員にまで登り詰める者は、強欲、悪徳、当たり前な海千山千の大商人達だ。頭のキレも尋常ではないし、人を見る目、人を動かす力、カリスマ、と戦闘能力以外において飛びぬけた才能を誇っている。その上さらに、数多の修羅場を潜って来た経験と、それに伴った豊富な知識、学識まで持つ。
そういう奴らが軒並みリリィ女王の前に跪いてくれたのだから、パンデモニウム成立直後から即戦力の文官として活躍してくれている。冒険王ザナドゥの長男であるザナリウスなんて、もう外交特使というか実質、外務大臣として毎日モノリスで各国へ飛んでるし。
ともかく、商人から文官に鞍替えした者が多いので、接収した建物はリリィが自由に使っている。スパーダ臨時政庁にここを選んだのも、色々と考えあってのこと……監視まで含めてな。
どうせここでの会話も、リリィには筒抜けなのだろう。第五階層の最奥、白百合の玉座にあるオリジナルモノリスには俺の行動は最優先で記録されているに違いない。
リリィに見られているのはいつものこと。何もなくても、俺達の目は繋がっているんだし、今更気にするほどの事でもないが。
「こっちもほとんど全軍出撃だったからな。この戦力差で苦戦してたらまずいだろう」
「なに、大軍ともなれば、動かすというだけでも大変なことなのだ。この一戦で魔王の統率力を内外に知らしめたことであろう」
「統率力、か……ほとんどリリィ頼みだけどな」
アヴァロン解放戦においても、スムーズかつ効率的な部隊運用を可能にしたのは妖精通信があってのこそ。そして数多の妖精達を通じて大軍の隅々まで行き届かせた通信網の中心、彼女達を仕切る元締めとなるのがリリィである。
いまだ伝令を走らせるのが基本的な情報伝達手段であるこの異世界の軍隊において、遠距離通信のアドバンテージなど今更語るまでもない。結局、俺はリリィがいなければ自分の軍隊も満足に動かすことなどできないのだ。
「俺の指揮なんて、作戦通りに指示を出すだけだったしな。むしろ、訓練通りに動けたみんなが優秀なだけだよ」
砂漠津波をぶつける『アトラスの怒り』とかいうリリィのチート技が炸裂して以降の作戦遂行は、実に見事であった。
シャーガイル提督は巧みに艦隊を操って迅速な揚陸と艦砲射撃による火力支援を行い、上陸した部隊はゼノンガルトを筆頭にして、敵の防衛線を瞬く間に突破せしめた。
いくら津波で前線が崩壊したとはいえ、後詰が陣取っていたのは街中である。市街地戦、それも土地勘のない敵の都市となれば、防衛側の有利に働く。そんな地の利を跳ね除けて見せたのは、ゼノンガルトの奮戦のお陰と言っていいだろう。
「そうさな、目立つ戦果は魔王と女王の二人占めであるからな。真面目に作戦を遂行した各々の働きを、きちんと評価してやらねば、次からは功に焦る者も増えてしまうだろう」
「あの時は、それが最善だと思ったんだよ……」
正直、今はすまんかったと思ってる。冷静に考えて、トップたる魔王と女王が手柄を独占するのはおかしいだろう。
王とは、手柄を上げた者に「よくやった、褒美を遣わす!」と褒める役であるべきだ。王様本人が手柄上げたら、それは部下のチャンスを奪うだけの形になってしまうのでは。
「此度の戦は、万全の戦力で臨んでおるからな。戦闘は全て配下に任せた方が、被害は多少増えたであろうが、今後のためにはなったかもしれぬぞ」
「そうだよな……」
流石に出しゃばりすぎたか、とちょっと反省。思えば、別に俺が出なくてもラシードは捕まえられただろうし、王城の攻略だって何の問題もなかった。
俺が到着した時点で、城内はカイの突撃大隊がほとんど制圧していたし、サリエル達も玉座に乗り込んでいたところだった。俺がわざわざベルで玉座の間に突っ込む必要性は皆無である。
ごめん、完全にラシード捕まえた勢いで、王様も捕まえようと思って軽はずみに飛んで行っちまったわ。
「いやでも、レオンハルト王は竜王ガーヴィナルと一騎打ちしてるし。やっぱ王様でも、戦っていいんじゃないのか?」
「それはクロノ達が使徒を相手にするような、限られた時だけであろう。というか、そのための『アンチクロス』だろうに」
「……それもそうか」
ごめん、やっぱ今回は出しゃばり過ぎだったわ。
しょうがない、この反省は次に活かそう。次こそ、魔王らしくふんぞり返って配下の活躍を見守る役に徹しよう。それが出来るだけの、余裕があればの話だが。
「ウィルも、よくこっちを仕切ってくれたよ。ほとんど任せきりになってしまったけど、本当に助かったよ。ありがとな」
「なに、前線での戦働きと比べれば、大したことではない」
大軍を動かすのはそれだけで大変、とはウィル自身が言ったことであるが、こと戦闘以外の面においては、移動と兵站、この二つが重要となる。
戦うためには、まず戦場へ向かわなければならない。俺は天空戦艦でもベルでも好きに飛んで行けるが、今回の戦いでいえば大多数の将兵は砂漠船での移送となる。
アトラス連合艦隊とほぼ同様の構成ではあるが、元から空前絶後の大艦隊。これをただ集結させるだけでも一大事業であるし、さらに一隻の脱落もなく戦地であるベルドリアへ送らなければならない。
すでに彼らは各国家の連合軍ではなく、エルロード帝国によって統一された軍隊である。ならば当然、その全ての艦船を把握、管理しておかねばならないわけだ。勿論、船だけでなく、そこに乗船する船長以下の水兵達に、同乗して移送する上陸部隊員まで、管理しなければならない情報は増える。
船と兵が揃ったら、今度は彼らが必要とする軍需物資を用意しなければならない。人数分の食料だけでも膨大な量となる。それも何日、何十日、下手すれば何年単位で揃えなければいけないのだ。
それだけの大量の食糧をどこから集めるのか。誰が集めるのか。どこに、どれくらい、いつ、運ぶのか。全てが上手く調整されなければ、兵士の元に食事は届かない。
そして飯の食えない兵士など、あっという間に暴れる人型モンスターへと早変わりだ。特に我がエルロード帝国なんて、国への忠誠やら愛国心とはまだまだ無縁の新興国家。大半の兵士は洗脳などされていない以上、彼らを縛るのは軍規の鞭と利益の飴しかない。
軍需物資は食料だけに限らない。武器、防具、の装備品を筆頭にポーションなどの医薬品、その他生活に必要な日用雑貨や消耗品に至るまで、全て過不足なく揃えなければ行軍そのものに支障をきたす。
兵站は必要なものを、必要な時に、必要な量、必要な場所に、補給されなければならない。言葉にすれば当たり前のことであるが、これを大軍規模で現実に滞りなく実行するのがどれほどの大仕事かというのは……俺だって想像ができるというくらいで、その実感があるとは言い難い。自分で戦うしか能のないのが、魔王クロノの実態である。
「本当によくやってくれたよ。補給に関して、大きな問題は発生しなかったからな。正直、これほどの大軍を動員すれば、絶対もっとトラブルが続出するだろうと思っていた」
「短期決戦の戦略が成功したからこそだ。予想外に長引いていれば、流石にどこかで綻びが出たに違いない……この数日間だけでも、ほとんど徹夜であったからな」
「やっぱり、無理はさせていたか」
「今回のが良い経験になった。次はもっと上手くやれる」
不敵に笑って、グラスのワインをウィルは煽った。
神学校時代に、自慢のスパーダワインと言って振舞ってくれたのと同じものだ。今はもう作られることはないが、カーラマーラの数多ある酒蔵の中に在庫が残っていたのは幸いだった。
残り少ないスパーダワインを飲み尽くす前に、何とか取り戻したいものだが……
「そうだな、戦いはまだまだ続く。早い内に、より効率的なやり方を完成させておかないと。試行錯誤ができるのも今の内だからな」
ウィル達、後方支援に関してもベルドリア攻略はいい練習となったようだ。やはり実際に運用してみなければ、分からないことは多い。
そう、こうなるはずだったのに、どうしてこうなった、ということも起こったりはするのだ。
「————ご覧ください、ベルドリアを僅か一日で陥落させたクロノ魔王陛下の偉業に、パンデモニウムは戦勝に沸き返っております」
「女王陛下万歳!」
「オール・フォー・エルロード!!」
やかましいほどの歓声が響いてくるのは、この部屋の正面に設置された中型ヴィジョンからである。
映し出された映像には、ジョセフが治めるパンデモニウム外周区のどこかで、大勢の人々がジョッキを手に戦勝を理由にバカ騒ぎしている背景を、一人のレポーターが麗しい微笑みと共に紹介していた。
レポーターは、これぞエルフ美人! と誰もが唸るような美貌を誇っている。ただ生来の美しさだけではなく、その美を完璧に引き立てるべく念入りに、それでいてナチュラルに施されたメイクがバッチリ決まっていた。
細身でありながら出るところは出ている魅惑のボディラインを強調するタイトな衣装は、漆黒の帝国軍装。通常の女性用制服でもなく、高級将校用でもない。間違いなく、彼女を魅力的に見せるためだけに作られたオーダーメイドだ。
「ベルドリアは魔王陛下に下らなかった愚か者の裏切り者だ! 女神アトラスだって、そりゃあ怒るさ。砂漠の津波に飲まれたのは、当然の末路だね」
「これでアトラスは完全に統一されましたからね。魔王陛下には、このまま伝説の通りにパンドラ大陸を統一して、早く平和になって欲しいです」
「ええ、生活は以前よりもずっと良くなりました。戦争が始まると聞いて不安でしたけど……特に影響はなくて、ホっとしています。もう悪徳商人と凶悪なギャングが暴れるカーラマーラには、絶対に戻って欲しくないですね」
美人のエルフレポーターは、上機嫌にはしゃぐ人々へ街頭インタビューを敢行。にこやかに彼女にマイクを向けられれば、男は鼻の下を伸ばして喜び何でも答えるし、女性もその美貌に憧れるような眼差しを向けていた。
次々にインタビューを捌いては、的確なコメントを返し、淀みなく進行してゆく姿は、完全に元の世界でのニュース番組を思い出させる。いや、地球でもこれほど美人のレポーターはいないだろう。
「————以上、現場から帝国軍報道官、エリナ・メイトリクスがお伝えしました」
「エリナはなんでレポーターに転職してんの?」
そう、今やスパーダ臨時政府のスパーダ冒険者ギルドマスターであり、俺が彼女の願いを汲んで、兵站業務担当の輜重兵科へと配属、実質的にはウィル直属の部下ということにしたのだが……
「うぅむ、そのことなのだが……やはり、まずかったであろうか」
「いや、まずくはない。むしろ、メチャクチャ似合ってるし、これ天職じゃないってレベルで凄い上手くやってたじゃないか」
その美貌もさることながら、ギルド受付嬢として鍛え上げられた完璧な笑顔の仮面に、はきはきと聞き取りやすく、それでいて耳に優しい聞き心地の語り口。見た目、表情、喋り、どれをとっても一流だというのが、先の街頭インタビューを見ただけでも分かる。
「そうか、クロノが認めてくれるなら、安心だな。流石に我も、彼女に任された業務の範疇を逸脱してしまったと思っていたのでな」
「勝手なことするな、なんて口出ししないさ。ウィルもエリナも、それが自分にできる最善だと思って行動した結果だろうからな」
「そこまで信頼してくれるとは、嬉しい限りだ」
「そりゃあ、魂の盟友だからな」
エリナがただのワガママでレポーター始めたとは思っていない。何かしらの考えあってのことだろうというのは想像がつく。
確かに俺が最初に指示したのは輜重兵科での仕事だが、それをやっていないように見えたというだけで、「なに勝手なことしてんだ!」と怒鳴るような短絡的な真似はしないし、したくもない。
どんな些細なことでも、「俺の言う通りにしなかった」というだけでキレる教師や上司というのは存在している。この場合、如何なる理由があろうとも『俺の言う通り』に反したことそのものが怒るポイントになっているので、道理は通じない。相手の言い分を聞こうともしない、公平な視点を持つことを放棄した、ただ主観的なだけの幼稚な怒り方だ。それを上司など上に立つ立場の者がすれば、それは最早一方的な暴力も同然。
そして俺とエリナの関係性でいえば、一国の君主とただの一兵卒。曲がりなりにも皇帝の座に就く者が、名指しで「気に食わん」なんて言えば、それは処刑宣告に他ならない。
流石にウィルも、俺の立場があまりにも上がり過ぎた結果、こういう部分で気を揉むことになっているのだろう。余計な気苦労をかけさせて申し訳ないとは思うが、仕方のないことでもある。
「何かあるんだろうとは思うが、その何かは全く想像つかないな」
「我もこんなことになるとは予想だにせんかったさ……エリナ嬢も最初は普通に、いや、相当に良く働いてくれていた」
ウィルの話を聞くに、俺が思っていた以上の働きぶりをエリナはしてくれたそうだ。自分自身の仕事もさることながら、人の差配もかなり上手かったと。スパーダ防衛戦の時に地獄を経験したのが活きているのかもしれない。
ともかく、エリナの働きが今回のベルドリア攻略において、潤沢な兵站を実現した一助となったのは間違いない。その活躍をウィルも大いに評価するところであったのだが……
「クソがっ! アイツら、全然分かってねぇ!!」
ある日、エリナがそう怒声を上げた。
大軍動員のせいで激務とあって、エリナが怒鳴るのはすでにして日常茶飯事だったそうで……エリナごめん……ともかく、ウィル達同僚も気にはしなかったそうだが、どうやらその時のエリナはいつも以上にキレたらしい。
「分からせてやる……平和ボケしたクソ共に……分からせてやる……」
鬼気迫る表情で、何故か右手に鋼鉄のメイスを握って出て行ったエリナを、誰も止めることは出来なかったらしい。エリナ、もしかしてあのメイス、まだ持ってんの……?
「そうして、エリナ嬢はその日の内に報道官となったのだ」
「ごめん、全然意味分かんない」
「うむ、その時は我も意味分からんかった」
「そうか、良かった。一緒だな」
話の飛び具合についていけない俺が頭悪いのかと思っちまったぜ。
「それで結局、どういうことだったんだよ」
「エリナ嬢はどうやら、パンデモニウム外周区に住む、なんだ、その、リリィ女王陛下にアレされていない普通の元カーラマーラ民の意識について、大いに不満があったそうな。それだけでなく、我らと共に避難してきた、スパーダ人にも」
「不満?」
「戦争に反対する者と、この戦争でもまだ日和見している者だ」
ベルドリア攻略に際して動員された大兵力。これを支えるために、俺はシモンの魔導開発局と帝国工廠をフル稼働させて、軍需物資の拡充に努めた。何とか食えるレベルにまで進化した、カロブー粉のパンの開発などもその一環だ。
古代が誇る完全栄養食カロリーブロックことカロブー。何もなくても無限湧き状態で孤児の命を繋いでいた最底辺食。これは沢山ある。だからコイツを兵糧に転用すれば、かなりの量を賄えるし、栄養補給の面でも効率的だが、フィオナが評した通り虚無の味であるカロブーの常食は、よほどの飢餓状態でなければ無理だ。
カロブー由来の食品利用は一定の割合までが限界であり、それ以外は普通の食料が必要となる。そしてそれは、食料以外にも帝国工廠だけで賄いきれない各種物資に関しても同様。
つまり、民間からも大いに物資を購入して、集めなければならなかったのだ。
「なるほど、戦争反対と日和見の考えをする商人は、協力的じゃなかったと」
「そうでなくても、売り渋って値を釣り上げようと画策する者も多かったからな。商人なら半ば当然の行動ではあるのだが……そういうのを含めても、エリナ嬢には許しがたかったようだ」
こっちは戦争しようとしてんのに、自分の利益だけ追求してんじゃねぇ、滅私奉公しろオラァ! といった気持ちだろうか。
一般人の立場でいえばとんでもない暴論、正しく軍靴の音が聞こえて案件だが、俺達は戦争を遂行する側なので、確かに協力が得られないのは面倒だ。何のために戦っているのか、誰のために戦っているのか。
十字軍との戦いの意味を心から分かっている者なんて、実際に奴らによって全てを奪われた者にしか理解はできないだろう。
「それで自ら報道官になって、プロパガンダ活動ってか」
「しかしこれが意外と効果的であってな。というより、自分の美貌と才覚を武器に矢面に立ったエリナ嬢の働きあってのことだろうが————今回の、宣言通り一日でベルドリアを制した圧勝によって、彼女の戦争推進は日々勢いを増しておる」
今ではかなり、戦争反対などと真っ向から言い出せないような風潮が漂っているそうだ。
こうして多数派の勢いのまま、少数派の意見を封殺しようというのか。恐ろしい同調圧力。その内、非国民とか言い出しそう。
「我としては、クロノがこういった方法はあまり好かぬというのは分かっておる。もう十分だと、この辺で釘を刺しておこうか?」
「ありがとな、ウィル」
俺のことを、そう思ってくれたというだけで十分だ。だから、これ以上の気遣いは無用である。
「けど、その必要はない。エリナの活動を後押しする。リリィも積極的に協力するだろう。必要な事があれば、何でも言ってくれ」
「……良いのか?」
「エリナの十字軍に対する憎悪は本物だ。そして俺は、それほど強い思いを抱く仲間が必要なんだ。エリナを帝国一の人気キャスターにして、世論に対する影響力を最大限まで高めようじゃないか」