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黒の魔王  作者: 菱影代理
第41章:アヴァロンに舞う翼
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第855話 霊獣攻略(2)

「日輪の淵、紅蓮の園より来たれ、『火焔獅子王・エンガルド』」

 火炎で描かれる巨大な魔法陣。

 その内から火の輪を潜り抜けるように現れるのが、全長30メートルはあろうかという巨大な炎の猛獣。

 燃え盛る火炎の鬣と王冠のような角を生やした紅蓮の獅子が、真っ直ぐにこちらへと飛び掛かって来る。

「じゃあ、コイツは俺が貰うぜ————『極一閃アルティマ・スラッシュ』っ!!」

 武技と共にエンガルドの前に割り込んだのは、漆黒の大剣を振り上げたカイだ。

 俺とサリエルが上がっている木造のお立ち台。この中に潜ませていたのである。

「グルゥ! グガァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 横っ面に強烈な武技が叩き込まれ、エンガルドの巨躯は身を翻すように飛び退いた。

「デケぇだけあって、タフだな。ランク5級か」

 カイが楽しそうに笑いながら、大剣を構える。その背中からは、絶対に俺の元まで通さないという気迫を感じさせる。

「なら、やっぱり一人で相手するのは大変だよ、カイ君」

「ガッハッハ! デカブツの相手はワシらに任せときぃ!」

 続いて現れるのは、ファルキウスとグスタブ率いる『鉄鬼団』の面々。

 エンガルドを単独のランク5モンスターとして見れば、討伐するには十分すぎる戦力だろう。

 砂漠での戦いは、不意打ちのようなものだった。俺達『エレメントマスター』だけで、二人もの使徒を相手しなければならなかった。

 だが、ここには仲間がいる。大勢いる。

 使徒を相手でも共に肩を並べて戦える、頼れる仲間達だ。

「エンガルドの相手は、任せたぞ」

「仰せのままに、クロノ魔王陛下」

 優雅な一礼でもってファルキウスが返答をくれるその後ろで、カイを先頭にエンガルドへと嬉々として彼らが飛び掛かって行った。

「ちいっ、霊獣の足止め戦力か。だが、こんな奴らだけで止められると思うな————黒雲の果て、雷霆の彼方より来たれ、『紫電雷公・ラムデイン』」

 続いて、空中に迸る電撃で形成された魔法陣から、雷鳴を轟かせて巨大な大鷲が飛び出る。

 紫電を纏う翼を大空に広げ、俺のすぐ頭上でバリバリとスパークを散らして旋回。今にも急降下で飛び掛かって来そうな迫力だ。

 空を飛ぶモンスターは、ただでさえ厄介である。サラマンダーなどの飛竜を討伐する際には、まず飛ばせないようにするのがセオリー。

 自在に空を飛び回る機動力はそれだけで大きな脅威となり、まして本体が強力な魔法の力も扱うとなれば、危険度はさらに跳ね上がる。

 前回の戦いでも、リリィが一番厄介だと感じたのは、この雷の大鷲ラムデインだそうだ。俺を行方不明にもしてくれたしな。

「おぉーほっほっほ! アヴァロンの空を支配するのはぁ、この暗黒竜騎士クリスティーナですわよ!!」

 高笑いと共に、クリスを筆頭とした竜騎士部隊が空に現れる。

 空を飛ぶモンスターは厄介だが、今回はこちらにも航空戦力があるのだ。ならば、これを使わない道理はない。

 クリス達はこの辺の屋敷の屋上などに分散して待機させており、ラムデインが召喚され次第、即座に飛び立ち迎撃できるような態勢をとらせていた。

「魔王陛下! 空の上はどうぞ、私達にお任せくださいませ!」

「ああ、頼んだぞ」

 これでラムデインの脅威も封じた。頭の上を気にする必要はない。

「くっ————輝きの湖、清き乙女の呼び声に応えたまえ、『霊泉女侯・セイラム』」

 薄っすらと白い霧が立ち込めると共に、大通りの石畳に俄かに水面が広がる。丸い泉のような魔法陣から現れるのは、ドレスを纏った女性型の精霊モンスター、セイラム。

 しかし聖水の精霊が漂うその泉には、暗い紫に輝く光がすでにかかっていた。

「————『重力結界グラヴィティフィールド』全開。位相フェイズヘヴィープラス

 通りに面する建物の高い屋根の上に、セリスの姿があった。

 全身から紫色のオーラを放ち、その身に宿す『天元龍・グラムハイド』の加護を解き放ち————ズン! と重苦しい音を立てながら、メキメキと石畳みが割れる。

 それは重力。

 何倍、いや何十倍にも加重された重力が、その黒紫に輝く光の内に発生している。

「ルォオオアアアアアアアアアアアアッ!!」

 重力の檻に囚われたセイラムが、女の悲鳴に似た叫び声を上げた。

 倒れるように泉へと屈し、身動きは完全に封じられている。

 精霊とはいえ、聖水という物理的に存在する肉体を形成しているのだ。物質としてあるならば、決して重力の軛から逃れることはできない。

 液体状の精霊モンスターをその場で拘束するには、非常に適した効果である。

 しかし、足止めだけでは終わらない。

「————『火神塔バーニングバベル』」

 瞬く間に組み上がっていく、黒々とした塔。重力に囚われ身動きがとれないセイラムをその内に閉じ込めて、天を目指して突き立ってゆく。

 そして天井が閉じられたと同時に、点火。正確には、溶岩を流し込むと言うべきか。

 リリィを『妖精結界オラクルフィールド』ごと殺すためにフィオナが編み出した、灼熱の溶岩でもって圧壊させる大魔法。

「セイラム、撃破です」

 何てことのないように言いながら、フィオナはカイ達が出てきたのと同じく、台の下から『ワルプルギス』片手にのっそりと歩み出た。

「流石はフィオナだ」

「前に倒しましたから」

 だとしても、召喚から拘束、必殺の一撃、というスピード討伐は見事だ。

 簡単に倒したように見えるが、セイラムは聖水による防御魔法と治癒魔法によるサポートが非常に強力な効果を発揮する。コイツを放置しておけば苦戦は免れない。

 さて、これで以前の戦いで見せた霊獣三体は召喚済みとなった。

「どうした、マリアベル。もう霊獣は打ち止めか?」

「な、舐めるなよ……僕の『霊獣召喚スペリオールサモン』はこんなものではない! 遥かな霊峰を駆ける、白き影。響く遠吠えは狩りの始まりを告げる。凍てつく牙を突き立てろ、『フロストバイツ』」

 俄かに吹き付ける吹雪と共に現れたのは、フェンリルのような白い毛皮の狼。

 体長5メートルほどもある大きな狼に率いられ、普通サイズの狼がゾロゾロと出でる。その数およそ50体。

「ウォオオオオオオオオオオオオン!!」

 一斉に上げた咆哮が、冷たい氷の魔力と共に大通りに響き渡る。

「悪逆を閉ざす門を守れ。その角は罪を突き刺し、その蹄は咎を踏み潰す。異形の極卒、天罰を全うせよ『牛頭番鬼ゴズール馬頭衛鬼メズール』」

 さらに続けて現れたのは、二体の巨人。牛頭馬頭の名の通り、それぞれ牛と馬の頭をした、筋骨隆々の大きな人型だ。

 どちらも10メートルはあるだろうか。その身の丈にあった武装もしており、牛頭は戦斧を、馬頭は棍棒を握り、どちらも左手には巨大な門扉のような大盾タワーシールドを備えている。

 モンスターそのものの姿であるが、石膏のような白一色であり、彫像が動いているかのような無機質さ。だが唸りを上げてこちらを睨みつける様は、殺意に満ち溢れていた。

「動く八つ足砦。忌むべき殻に聖なる旗を掲げ、我らを守る城となれ。『マスターピース・ルーク』」

 ドンッ! と石畳を割って降り立ったのは、白いルークスパイダーだ。

 どこかでテイムしてきた奴なのだろうか。それもわざわざ、より強力な鋏と長い尾を持つサソリ型の亜種だ。

 ゴツゴツとした白い大岩のような外殻に守られたルークスパイダーが二体、マリアベルを守るように立ちはだかる。

「我が手に集え精霊達よ! 燃え盛る炎の渦、凍てつく氷塊、不動の巨岩、果てなく根差す緑————聖なる意志の下に、その身を顕現せよ『大精霊ギガスエレメンタル』召喚!」

 吹き上がる火柱。突き立つ氷柱。大地を割って現れる大岩と大樹。

 それぞれが薄っすらと白い光を纏いながら、唸りを上げて動き出す。

 火柱は白熱した胴体を持つ、燃え盛る手足を持つ炎の巨人に。

 氷柱は無秩序に伸びた歪な氷の外殻と、吹雪を纏った氷の巨人と化す。

 大岩からは四本の脚が生え、岩の甲羅を背負った亀のような形態となり、緑の大樹は太い根と枝を波打たせてエルダートレントのように動き出した。

 四体の大精霊の周囲には、それに惹かれて集まっているのか、下級精霊エレメンタルが幾つも形を成している。

「天より降り立て、楽園エデンを守る神の騎士達。白き神の代行、使徒の名をもって命じる、全騎降臨————『天空庭園の守護騎士団スカイハイ・ガーディアンズ』」

 そして、鎧兜を纏った天使のような光の精霊達が、眩しいほどの光と共に空を舞う。

 前の戦いでは5体繰り出して来たと聞いたが、今回はその十倍はいる。出せるだけ出した、全力出動といったところか。

「ど、どうだ、これが僕の力……セイラム一体を倒したところで、僕の軍勢は止められない!」

「軍勢なら俺も持っている。帝国軍の力、見せてやろう」

「イエス、マイロード」

「全隊、前進!!」

 背後に控えさせていた部隊が大通りを進み始める。

 挑発のために、俺達の立ち位置は王城にギリギリまで近い場所に陣取っており、向こうから見ればかなり突出しているように見えるだろう。

 王城を包囲する帝国軍はさらに後方に位置しているが、俺の背後に待機している部隊だけは、ややこちら側に寄せている。俺から離れているようには見えるが、実際に動き出せばすぐにでも距離を詰めて駆け付けられる。そんな絶妙な配置距離だ。

 そして今、控えさせていた彼らが一斉に動き出す。

 その最前列に立つのは、漆黒の鎧兜で完全武装した自慢の『重騎兵カタフラクト隊』。副官アインの号令一下、一糸乱れぬ動きで通りを進む。

 それと共に並び立つのは、エリウッド率いる『ブレイブハート』の精鋭部隊。隠すことなく戦意を漲らせながらも、こちらも統率された見事な行軍を見せる。

「魔王陛下、露払いは我らにお任せあれ」

「プリムが、ゴミを片付けます」

 直立不動のエリウッドと、装着した『ヘルハウンド』の目を輝かせるプリム。

 どちらも静かに立つのみだが、今にも突撃せんばかりの闘志を感じさせる。

「ああ、頼んだぞ。だが、敵のモンスター軍団はなかなか強力だ。無理はしなくていい。こっちの邪魔さえさせなければ、それで十分だ」

「ですが、倒してしまっても構わんのでしょう」

「ご主人様を邪魔するゴミは殲滅する」

 凄まじいヤル気だ。

 使徒と真っ向勝負となるここが、アヴァロン解放戦の山場である。俺も彼らに負けないよう、気合を入れて挑むとしよう。

 マリアベルが呼び出したモンスター軍団。対するは、選び抜かれた帝国の最精鋭。

 召喚術に特化したマリアベルだからこそ、霊獣と召喚獣を食い止める配下の存在はこの上ない有効打となる。

「くっ、下等な魔族をどれだけ集めたところで、僕の軍勢を破れはしない!」

「どれだけ雑魚を従えたところで、俺の帝国軍は止められない————己自身の弱さを恨んで、ここで死ね、マリアベル」

 向かい合う、俺とマリアベル。帝国軍と魔物軍団。

 一瞬の静寂が大通りを包み込む。

 だが、互いの殺意は膨れ上がり、すぐに限界を迎える。

「霊獣達よっ、かかれっ!!」

「全軍、突撃」

 かくして、魔王と第十二使徒との決戦が始まった。

 2021年12月10日


 今回の話はいつもよりも短めとなってしまい、申し訳ありません。

 どうしても話をここ以外で区切ることができなかったので、やむを得ずこのような形となってしまいました。

 その代わり、ここで短かった分を補える程度には文字数を増やした話が近い内にありますので、「あっ、この話ちょっと長いかも」と思ったら、そこで補填されたということになります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マリアベルの召喚数やば [一言] 倒してしまっても構わんのでしょう?
[良い点] さぁ、役者がそろった [一言] あれ? もう、一体…まだ頑張ってるのでしょうか… 頑張り切れると嫁の一員になれる可能性があるかも~
[良い点] マリアベルの本気は、召喚獣での人海戦術か。人じゃないけど。 まだベルクローゼンを使役できてないのがクロノにとっては幸運だな。敵としてでてきたら悲しいぜ。クロノのハーレム候補だし? 敵と…
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