第848話 ルーンの執政官(2)
「————ここに、エルロード帝国とルーンの同盟を締結いたします」
ルーンの宰相コルネリウスがサインを記し、正式に同盟が結ばれることが決まった。
ハナウ王の同年代である老ゴブリンの宰相は、第二執政官ソージロの言われるがままに、同盟を承認し、異例のスピード締結と相成った。弱みでも握られているのか、と思うほどの唯々諾々ぶりであったが、宰相コルネリウスはハナウ王の信任も厚く、長年に渡ってこの地位を務めあげてきた実績がある。
そしてリリィはテレパシーによって、彼が決して耄碌などしておらず、権謀術数渦巻く王宮で渡り合ってきた賢明にして狡猾な頭脳を有していることを悟っている。
つまり、ルーンもまたこちらの同盟に飛びつくほどの理由を抱えていた、ということのようだ。
「それでは、本日はどうぞこのまま王城にてごゆるりと。両国の同盟を祝い、最高のおもてなしをさせていただきます」
「ありがとう」
「うむ、心遣い感謝致す、コルネリウス殿」
そうして、宰相と第二執政官の両名は先に退室していった。
リリィとミリアルドは、このまま二人で話し合いを続けたいと希望したことで、一旦そのまま部屋に残ることとなった。向こうとしても、今夜の晩餐会の準備などで時間も欲しいだろうしで、快諾してくれた。
すっかり人払いも済ませ、静かになったところで、ミリアルドは大きく溜息を吐く。
「ひとまず、同盟が成立したことは喜ばしいのだが……この即決ぶりは少々、いや、かなり異常に見える。リリィ女王は、その辺りの事情はお察しで?」
「ええ、全部、彼が教えてくれたわよ」
リリィはにこやかに答えた。
ミリアルドとて一国の王である。外交交渉の妙はそれなりに理解もしているし、経験もあった。故に、自分には全く流れが理解できなくても、リリィが何か上手くやって同盟締結までこぎつけたな、とお察ししたことで、説明求む、などと邪魔をしないよう空気を読みつつ、さも全てお見通しですよという表情でサインもした。
晴れて目的を達成し、人の目もなくなったことで、ようやくリリィに質問することができたのだった。
「あの第二執政官の青年か……ま、まさか、彼もリリィ女王の手の者であったとか」
「彼とは初対面よ。ただ、人間とは思えないほど強力なテレパシー使いなの。お互い、手を握れば何を考えているか、すぐに通じ合うわ」
「ということは、あの握手をした僅か一拍の間に、お互いに交渉を済ませたと?」
「ええ、こちらの状況と向こうの状況。お互いに事実確認ができれば、交渉の余地もないわ。相手は十字軍だもの、戦うか、滅びるか、しかないのだから」
だが、それを訴えて馬鹿正直に信じられる者はいないだろう。
しかしながら、テレパシーで通じ合えば、互いに虚偽を疑うことなく本音で話し合うことができるらしい。少なくともリリィが知る限りで、相手に開示すべきと判断した情報は全てソージロには伝わっているようだ。無論、逆もまた然り。
「ふぅむ、ルーンはすでに十字軍と、というよりネオ・アヴァロンとの敵対を選択していたということであったのか」
「十字教は敵か味方か、あるいは中立で共存できる勢力か否か、かなり熱心に調べたそうね。けれど詳しく調べるまでもなく、敵対するのは決まっていたわ」
「それほどの決定的な理由が?」
「『黄金太陽・ソルフィーリア』、という神様の名前、聞いたことはあるのでしょう?」
「太陽神の娘……ああ、そうか、すっかり失念していたよ。ルーンは太陽信仰だったな」
その女神もまた、黒き神々の一柱として数えられる。
パンドラ神殿は全ての黒き神々を祀っているが、国や地域によって、より多く、より強く信じられる神々は異なって来る。アヴァロンなら魔王ミアを、スパーダであれば建国の祖たるジークハルトを。エルフ、ドワーフ、ゴブリン、獣人……それぞれの種族の国であれば、まず第一に信仰されるのは、同族の神々となる。
それがルーンにおいては『黄金太陽・ソルフィーリア』という名の女神なのだ。
「私はさっき教わって実感できたけれど、ルーンはかなり強くこの女神を信仰しているそうね」
「ええ、パンドラ神殿と合わせて、太陽神殿という『黄金太陽・ソルフィーリア』を祀るための場所が必ずあるそうだ」
首都にある太陽神殿はルーンを代表する巨大建築であり、太陽信仰の総本山となっている。
そしてこの王城と、玉座の間の紅白と黄金模様の様式も、元々は太陽神殿のもの。王家とも深く関わる、ルーンの根幹を成す独自信仰といえよう。
「十字教は魔族を決して認めないけれど、同じ人間であっても信じる神が異なれば、異教徒と呼んで魔族同様に殺戮するわ」
「宗教戦争は避けられない、ということか……まったく、血生臭くて嫌になるね」
皮肉でも何でもなく、ただ単純に苦い顔でミリアルドはまた溜息をついた。
しかしながら、その極端な教義のお陰で、こうして敵対関係が明白になったのも事実である。
「ルーンは人間中心の国だけれど、この太陽信仰があまりにも強力だから、奴らも布教より滅ぼした方が早い、と判断したのでしょう」
「例のアリア修道会が活動している形跡はないようだし、そういうことなのだろうね」
異教徒の国、と認定されれば、いずれ攻められることは明らかだ。
ネロの大遠征はクロノを狙うからこそ、ルーンは無視して素通りとなったが、本来ならルーンを落としてレムリア海の制海権を握るところから始めるべきだろう。もっとも、今は手出しがされなくとも、今後もそれが続く保証などあるはずもない。
「聖杯同盟が進んで十字教勢力が中部都市国家群を掌握すれば、ネロの大遠征が終わらなくても、ルーン侵略が始まる可能性も十分にあるわ」
「いくらルーンでも、大半の沿岸都市国家と敵対すれば厳しいだろう。たとえ防衛できたとしても、その損害は甚大なものになるのは違いない」
「そこで弱ったところを、今度はスパーダの十字軍が出張って来るかもしれないしね」
「ルーンはすでに、十字教勢力による包囲網が完成しつつある、という危機感を抱いている段階なのだな」
「そういうことね。だから、是が非でもアヴァロンを貴方の手に取り戻してもらわないと困るのよ」
「十字教の容赦のなさと、勢力の急拡大があってこその同盟成立というわけか。今回は話が早くて助かったが……相手の強大さのお陰で結びつきが強くなるというのは、皮肉なことだ」
「それすら分からず破滅する国もあるから。その点、ルーンは情報収集力と決断力に優れているわ。同盟国として、期待できるわよ」
速やかな同盟成立と、その対応力に、リリィは心からの微笑みを浮かべてそう語るのだった。
第二執政官ソージロは、宰相コルネリウスと共にハナウ王へ同盟締結の報告を済ませた後、一人王城の上階にある王族の居住区へと向かった。
本来そこからはプライベートスペースとなるため、基本的に宰相であっても直接的に足を踏み入れることは許されない。王族以外でこの場にいることを許可されるのは、専用の侍従と選りすぐりの近衛騎士のみ。
しかしソージロが現れるや、上階へ至る階段を守る近衛騎士は敬礼をするのみで、無言で彼を通した。完全に顔パスである。
廊下を行き交う侍従も、ソージロが通れば最敬礼で道を譲った。彼を止める者は誰もいない。
そうして堂々と突き進んだ先は、国王の寝室に次いで出入りが厳しい部屋————すなわち、王女の自室であった。
未婚の乙女たる第一王女のいる部屋を守る最後の番人である女性の近衛騎士が二人、扉の前に立っているが……彼女達もまた、ソージロはノック一つで気軽に入室していくのを黙って見送るのみであった。
王女の室内は、当然それに見合った広さと内装であるが、妙に薄暗い。さらには、常に清潔を保たれるはずが、一目で分かるほどには散らかっており、生活臭が籠っている。
そんな王女の部屋としてはありえない状態であることに、ソージロは眉一つ動かすことなく、眼鏡の奥にある怜悧な目を部屋の奥へ続くさらなる暗闇へと向けた。
「……」
すると、音もなく人影が現れる。それはまるで、暗闇から出でる幽霊のよう。
背の高い細身の女だ。
猫背気味に前のめりになった不気味な姿勢。力なく垂れ下がった細腕と、羽織ったガウンから死人が如き青白い肌が覗く。
長く、あまりにも長く伸びた黒に近い藍色の髪は床へと届かんばかり。
もし、その姿を何も知らない者が見たならば、王女を呪う悪霊が現れたのだと思うことだろう。
しかし、ルーン国民なら誰しも見違えることはないだろう。顔を覆わんばかりの長い髪の奥にあるのは、目元が全く見えないほどに分厚く、野暮ったい、ポーションの瓶底でもくっつけたかのような眼鏡がかかっているから。
その瓶底眼鏡は、ルーン第一王女を示す、何よりも分かりやすいトレードマークとしてあまりにも有名であった。
「……ソーくん、来てたんだ」
「はい、姉さん。ただ今、参りました」
第一王女、ファナコ・ゴールドサン・ルーン。
父はハナウ王。そして母は、レッドウイング伯爵家から嫁いできた長女である。つまり、ソージロに対してファナコは従姉ということ。
本来ならば、ただのいとこ同士というだけで真っ直ぐこの部屋まで通されることはないのだが、そこは実の姉弟同然に育ってきた間柄あってこそ。そして何より、ファナコ姫が心を許すのは、両親に次いで従弟のソージロであるということが大きい。
彼女たっての希望で、こうしてソージロの自由な出入りが許可されているのだった。
「ど、どうしたの……締切はまだのはずだけど……」
「いえ、そちらの仕事ではありません。急なことで申し訳ないのですが、今晩の晩餐会には姉さんも出席していただくことになりました」
「ばん、さん……かい……?」
「はい。アヴァロン国王ミリアルド陛下と、もうお一方を招いて、急遽催されることとなりましたので」
「ば、晩餐会……出るの? 私が……?」
「ルーン第一王女として、必ず出席させるようにとの陛下の仰せです」
きっぱりとソージロが言い放つと、ファナコはその長身痩躯をフラフラさせながら、貧血で倒れ込むかのようにソファへとうつ伏せに転がった。
「うっ……ううぅ……む、むりぃ……」
「姉さんのお気持ちは痛いほど伝わっておりますが、残念ながら今回はお断りすることは不可能です」
「そんなぁ、急に言われても……心の準備がぁ……」
「急に決まったことですので」
「あっ、ミリアルド陛下がいらしたということは……もしかして、ね、ネロ王子も……?」
「いえ、あの男がルーンに来ることは、もう二度とありません」
「はぁ……良かったぁ……本物のイケメンは無理……遠くから見るだけでいい……心臓に悪いから」
俄かにファナコとネロの婚約が決まったのは、本当につい最近のことである。
前回にミリアルド王がルーンを訪れたのは、ネロをファナコと合わせるためであり、姫と王子が二人きりで語らう時間なども設けられたのだが————ファナコがその後一ヶ月は落ち込んで何も手につかない状態だったのを見る限り、成功どころか大きな精神ダメージを負ったことは明らかであった。彼女の名誉のため、ネロとの間にどのようなやり取りがあったのかは、ソージロもテレパシーで覗き見ることはしなかった。
「安心してください、姉さん。今回は一言挨拶するだけで、後のことは全て私にお任せいただければ」
「ホントに?」
「本当です。しかし……決して、触れてはなりません」
「え? 触れて……ってなに?」
いつも理路整然と丁寧に説明をくれる弟が、よく分からないことを言い出したことに、思わずファナコも顔を上げる。
その頬には涙の跡がはっきりと残っており、ソファに転がって駄々をこねていたのではなく、本当に嫌でガチ泣きしていた証であった。
今も晩餐会など絶対に出たくないという意思に変わりはないが、ソージロの妙な言葉の方が気になってしまった。
「パンデモニウムの女王リリィ、という名はご存知でしょうか」
「えっ……し、知らないけど……」
「最近、カーラマーラで大きな政変が起こったようでして。パンデモニウムと名を変え、そこを治める女王として、リリィという妖精が即位したのです」
「妖精の女王様? えっ、なにそれ凄い! カワイイの!?」
「天然の『魅了』を宿す、絶世の美少女です」
「おおおぉ……」
「決して、その美貌と愛らしさに惑わされることはないように。あのリリィ女王は恐ろしい怪物です。彼女の心は正に深淵。あれほどまでに底知れぬ精神の持ち主は、今まで見たことがありません」
精神感応を持つ者の宿命として、図らずとも相手の心を垣間見てしまうことがある。
リリィとの握手は、お互いに見せるべきところを見せる、という意思の下でテレパシーが交わされたのだが————その時、ソージロは表情を引きつらせることなく、冷や汗の一筋も流すことなく感情を抑えきることに、途轍もない労力を要した。
第二執政官として、国内の王侯貴族は勿論、外国の要人や大商人との交渉などなど、若さに見合わぬ怒涛の実務経験を重ねてきた。その中には、かの剣王レオンハルトも含まれる。
だがしかし、リリィを前にしてはこれまでの外交経験など、ままごとのようなものだったと感じてしまう。テレパシー能力、というアドバンテージで上回られたのは、初めてのことだった。
「妖精は生来テレパシーを持つ魔法生物です。とりわけ強力なリリィ女王となれば、私如きのテレパシーでは到底、太刀打ちできません」
「そ、そんなに……? なんだか怖くなってきた……でも気になる……」
「幸い、この度は友好を結ぶことと相成りましたので、リリィ女王も礼儀には十分に配慮してくれるでしょう。しかし直接的にその手に触れられれば、秘めたい心の奥底まで見透かされてしまうことは避けられません」
「それは絶対ダメぇ!!」
だからこそ、こうして事前に注意をしておいたのだ。
うっかりリリィの愛らしい幼女姿に騙されて、握手したり頭を撫でたりなどしようものなら、自ら秘密を差し出すに等しい。接触状態でテレパシーをかけられれば、ソージロも妨害することはできないのだから。
「わ、私の秘密が知られたら……うぅ、もう生きていけない……今でも生きてて恥ずかしいのに……」
「顔見せの挨拶にのみ留めれば、問題ありませんので。それに姉さんの秘密など、いつかは受け入れられる時も来るでしょう。今はまだ、時代が追いついていないだけなのです」
「やっぱり、分かってくれるのはソーくんだけだよぉ……」
「というワケで、急いで晩餐会へ向けて支度を整えてください。姉さん、また徹夜しましたね?」
「えっと……調子がよかったから、つい……」
「顔色と肌艶が悪いですね。化粧で誤魔化すのにも限度がありますよ。それに昨日、湯あみもされませんでしたね?」
「筆が止まらなくてぇ……」
言い訳など聞いても仕方がないとばかりに、ソージロはテーブルに置かれたベルを手に取った。
カランコローン、と涼やかな音色が響き渡ると、
バァン!
と扉が勢いよく開かれ、ゾロゾロと侍女達が突入してくる。
「一時間で仕上げてください」
「かしこまりました、ソージロ様」
そうして、背を向けて逃げ出そうとしたファナコを侍女が罪人を捕らえるように両脇からガッシリと掴み、部屋から引きずり出して行く。向かう先は勿論、ルーン王城ご自慢の大浴場である。
一国の姫としては、少々身だしなみのだらしないファナコ姫。この強制身支度執行は、公の場に出る際の恒例行事であった。
ほどなくして、ルーン王城の大広間にて晩餐会が催された。
二国もの君主が出席しているが、急な来訪であることに加え、異例の即決で同盟締結である。急遽準備されたものなので、贅を凝らした盛大な、というほどではないが、それでもレムリア海を制する海洋国家ルーンに相応しい食事が用意されていた。
もっとも、新鮮な魚介類を中心としたルーン料理の数々にリリィの興味はあまりない。重要なのは、この場に顔を出すルーンの中核を成す王族と重鎮達である。
「————なるほど、あの子がルーンの第一王女」
リリィがこの場で最初に目をつけたのは、ファナコ姫である。
ハナウ王、コルネリウス宰相、第二執政官ソージロ、とすでに最重要メンバーの顔は見ている。次に気になるのは、政略結婚の駒である王女であった。
「なんだか、パっとしない地味な子ね」
「うぅむ、ファナコ姫はとても内向的な性格なようで……物静かで、とても思慮深い方だと言われている」
身もふたもない第一印象をコソっとミリアルドに言えば、最大限に取り繕ったフォローが返って来た。
ファナコの姿は、第一王女としては控え目な黒いドレスを着ている。宝石や黄金の装飾品も最低限といったところ。しかしながら、かなり長い藍色の髪を大きく結ったヘアスタイルは見事な仕上がりで、全体的には落ち着いたシックなコーディネートとなっている。
女性としてはかなりの長身でありながら、細く締まった長い手足に、それでいて出るところは出るモデルのような体型が、少女というよりも大人の魅力を放っていた。
「ただ、あの大きな眼鏡は気になってしまうのは致し方ないが、あれにも事情あってのことなのだ。あまり気にしないで上げて欲しい」
地味でパっとしない、という評価が出てくるのは、ひとえに綺麗なドレス姿でありながらも、目元を大きく隠す瓶底眼鏡だけはそのまま装着されているからだろう、とミリアルドは思い、その最大級の欠点についても捕捉をする。
「見れば分かるわ。魔眼でも抑えているのでしょう?」
「うむ、そのように言われている」
公には、ファナコ姫の眼鏡の理由はそう説明されている。デリケートな問題であるため、それ以上の詳しい事情については伏せられており、それを根掘り葉掘り聞きだそうとするほど無礼を働く者はいない。
もっとも、リリィが「パっとしない地味な子」と評したのは、そんな外見的なことではなく、彼女の全身から発せられている陰気なオーラを感じ取った故のことだ。
直立不動で何の動きも見せないファナコ姫だが、リリィは特にテレパシーで探る気がなくても、彼女が無理をした緊張状態でこの場に立っているのだと言うことは察するにはあまりあった。
「————お初にお目にかかります。ルーン第一王女、ファナコ・ゴールドサン・ルーンにございます」
特にこれといってボロを出すことなく、ファナコ姫の挨拶もつつがなく終えた。
リリィは、彼女に触れることはしなかった。この女がルーンの重大な決定に関わるような立場にある、または使徒のような戦略級の戦力を有しているとも思えなかったからだ。
ひとまず急いで探りを入れる必要性はないと、あまり気にすることはしなかった。
そうして、ざっと出席者との挨拶回りも終えて、ルーン首脳陣の顔と名前を覚えた。やはり第二執政官ソージロの他に、これといって注目に値する人物は見受けられなかった。少なくとも、強力な加護や特殊な能力を有する者はいないようだ。
と、リリィが判断を下そうとした、ちょうどその時である。
「————遅れてしまい、申し訳ありません」
ハナウ王が呼んだであろう、最後の招待者が大広間へと現れた。
「おお、よくぞ来てくれた。こちらの急な呼び立てに応えてもらい、感謝する」
にこやかにハナウ王が招くと、その招待者は真っ直ぐにリリィ達の下へとやって来た。
「リリィ女王には、是非ともご紹介しておきたかったのだ。こちらは、我がルーンにて特に信仰が厚い太陽神殿の代表となる」
ハナウ王が直々にそう紹介をしたのは、一人の少女であった。
淡い水色の髪に、金色に輝く美しい瞳。
透けるような白い肌に、その身に纏うのは純白のローブ型に近い、独特の神官服。
神秘的な美貌を持つ少女は、丁寧に一礼をして、リリィへと名乗った。
「『黄金太陽・ソルフィーリア』の今代の御子を務めております、フィアラ・ソレイユと申します」
流石のリリィも、驚きに言葉がすぐに出てこなかった。
フィアラ・ソレイユ。そう名乗った少女は、その名前以上に、フィオナとよく似た容姿をしていたのだから。