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黒の魔王  作者: 菱影代理
第6章:スパーダへ
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第84話 親睦


 イルズ村に存在する利用価値ある施設の破壊は、俺が当初予定していたよりも上手く行った。

 穀物倉庫を焼き払うのが精々、と考えてはいたものの、凄まじい魔法の威力を叩出すフィオナさんのお陰で、頑丈な造りの冒険者ギルドすら破壊し、村の中央広場一帯を更地にすることに成功した。

 粗方壊し終わると、俺達はすぐにイルズを出て、夜にはクゥアルまで帰りついた。

そして現在は待機組みとなっていた他の冒険者達も含めて戦果の報告、という建前でギルドに集って杯を酌み交わしているのだ。

 この非常時にそんなんでいいのか? と思うかもしれないが、俺達冒険者は殿のため村を出てゆくのは最後であり、そして村には避難に持って行くことが出来ない物資が残っているので、好き勝手に飲み食いさせてもらっているのだ。

 もしかすれば最後の晩餐、なんてことになりかねないが、俺含め冒険者の誰もが表立って不安を出すようなことは無かった。

「まぁ、よくやった方なんじゃねぇの? ギルドの屋上に行くなんて言い出したときは、土壇場になってブルっちまったのかと思ったぜ、はっはっは!」

 ヴァルカンのデカい掌がバンバンと背中へ叩きつけられる、普通に痛いのだが、獣人特有の肉球があるお陰でかなり衝撃が軽減されているんだろうな、これでも。

「だからちゃんと説明はしただろ、それで役目もきっちり果たしたぞ」

「旦那が一発で敵さんのドタマふっ飛ばしよる大活躍、ちゃんと見とったで!」

 このエセ関西弁で喋っているのは、黒いローブを纏った白骨死体、では無くスケルトンの魔術士モズルン、通称モっさんと呼ばれている人物だ。

 今日の戦闘において『邪心防壁デス・ウォルデファン』で大通りの前方を塞いでくれたのが彼である。

 モロに死神のような風貌の上に『闇魔術士ダーク・ウィザード』というストレートなクラス名をギルドカードに表記し、いかにも邪悪の化身みたいな第一印象だったが、

「いやぁこの若さであれほどの黒魔法習得しとるなんて天才やで! こりゃあナントカ軍団の撃退なんざ楽勝やな! がははは!」

 もう中身が大阪のおっさんだとしか思えてならない。

 話してみればこんな感じに調子が良いなので、良い人(?)ではあるんだろう。

「楽勝、とは言い過ぎですけれど、クロノさんはリーダーとして十分信用できそうですし、高度な原初魔法オリジナルを習得しているのは確かですよね」

 落ち着いた感じで話しているのは、スーさんことスライムの盗賊、その姿はどこからどうみても人間、中肉中背で良くも悪くも目立った容姿ではない普通の女性にしか見えない。

 スライムという種族はRPGでお馴染みのゼリー状のモンスターであることは確かなのだが、個体の能力が上がると様々な姿に変化することができるのだという。

 ちなみに、美男美女といった容姿へ変化する為には、それ相応の技術と魔力が必要らしい。

 美しい姿には魅了チャームが宿るような世界、やはり美しいというだけで魔法的に特別な意味合いを持つようだ。

 あとついさっき知ったのだが、名前が『スース』なのでスーさんと呼ばれているのだとか、スライムのスーさんでは断じてない。

「けど、やっぱり一番驚いたのはフィオナさんの魔法じゃないかしら?」

「そうでしょうか?」

「ええ、そうよ」

 相変わらず眠そうなフィオナの目を真っ直ぐ見て話しているのは柔和な微笑を浮かべるエルフの女性。

『三猟姫』のリーダーにして三姉妹の長女イリーナさんである。

三人は金髪碧眼と細身の体格に加えて装備も全く同じではあるが、髪型がそれぞれ異なっているので見ればすぐに判別できる。

イリーナさんは首の後ろで長い髪を一本の三つ編みにするヘアスタイルだ。

「あのゴっつい魔法、近くで撃たれたらかなわんなぁ」

「あの配置で正解でしたね」

 モっさんとスーさんの台詞を聞きながら、あらかじめフィオナから「魔力の制御に自信が……」と聞いておいて良かったと改めて思う。

 確かにあの威力の魔法を、狭いダンジョンの中で毎回使われたらシャレにならないだろう。

「これは褒められているのでしょうか?」

「ああ、フィオナさんの魔法は凄い威力だ、俺のパーティに入ってくれて本当に良かった」

「……そうですか」

 小さく呟いて俯くフィオナさんの頬が心なしか少し赤い、どうやら酔いが回ってきているようだな。

「そうだ、フィオナさん」

「はい?」

 彼女が酔いつぶれる前に、言っておかなければならないことがある。

「後で俺の部屋に来てくれないか?」

「っ!?」

 パリーン、とグラスが床に落ちて割れる音が響き渡る。

「どうしたリリィ? 大丈夫か?」

「……ごめんなさい」

 俺の膝の上に座っていたリリィが、ふとした拍子にグラスを落としてしまったようだ。

「なんだぁ、妖精のお嬢ちゃんも酔っ払っちまったかぁ?」

「いや酒は飲ませてねーよ」

 酔っ払ってはいないが、リリィには疲労が溜まっている。

 満月の夜にしか元の姿に戻れないリリィだが、昨日は村長の前で避難を進言したり、俺をリーダーになるよう話した時など、光の泉から持ってきたアイテムを使用して意識だけだが長時間元の状態に戻っていた。

 リリィ曰く、

「『紅水晶球クイーン・ベリル』を使えば、私は元の姿に戻ることが出来るけれど、体に負担がかかるから1日あたり30分が限度」

 らしい。

 妖精女王の加護を受けて始めて自然に元の姿へ戻れるのだ、いくらキーアイテムだった『紅水晶球クイーン・ベリル』が手元にあるとはいえ、その効果は莫大な魔力を利用した強化ブーストに過ぎない。

 もっとも、30分というのは真の姿で戦闘可能な時間であり、意識だけならもっと長く保っていられる。

 しかしそれでも体にかかる負担はゼロじゃ無い、疲労という形でその負担は確実にリリィの小さな体に蓄積されていることだろう。

 とりあえず、今はさっさと切り上げてリリィを部屋へ運ぶとしよう。

「リリィが疲れてるみたいだし、俺達は先に上がらせてもらう。

 明日の予定はさっき話した通りだ、またよろしくな」

 テーブルについた冒険者達から了解の声を聞き届け、俺はリリィを抱っこして席を立つ。

「クロノさん」

「ん?」

「私も行きます」

 席から立ち上がったフィオナさんの顔は、なぜかさっきよりも赤くなっていた。




 ギルドの客室、そのベッドの上にクロノ、リリィ、フィオナの三人がいた。

 真剣な表情のクロノ、冷めたいつも通りの表情のフィオナ、そして二人の間にちょっと不機嫌な表情のリリィ。

(クロノさん、もしかして私を……)

 つい先ほどまで、クロノ以外あの場に居た全ての冒険者が想像したような色っぽい状況を、フィオナもまた脳裏に描いていた。

(確かにクロノさんは、アイスキャンデーを食べさせてくれたり、私の攻撃魔法に引いたりしなかったり、とても良い人ですが、そういう関係になるのは早過ぎると思います)

 夜に「俺の部屋に来い」なんて男から初めて言われたフィオナは、やや混乱する頭でそんな思考をしていたのだが、

「フィオナ、ウチのパーティのルール、忘れてないでしょうね?」

 ベッドに寝転がったリリィがその言葉を言い放った瞬間、今夜クロノがどう熱烈なアプローチを仕掛けてきたとしても、フィオナの貞操が破られる可能性はゼロであると悟った。

 そして椅子のない客室で、ベッドの上に三人が座る(リリィは寝転がったままだが)今の状況となっている。

「リリィ、意識を戻しても大丈夫なのか? 疲れてるんじゃ……」

「大丈夫、気にしないで。

 だって、これから大事な話をするんでしょう? ちゃんと聞いておかないとね」

 笑顔で答えるリリィに、クロノはどこか納得した表情。

 そして、もうリリィのことは気にせず、フィオナと向き合い口を開く。

「フィオナさんを部屋へ呼んだのは、どうしても聞いておかなきゃいけないことと、話しておきたいことがあったからだ。

 フィオナさんはアーク大陸の人間だってことを打ち明けてくれたし、俺も自分の正体について話しておこうと思う」

 フィオナは相変わらずの眠そうな表情で、クロノが何故自分を部屋へ呼んだのか、その理由がおぼろげながら理解できた。

「そして、聞きたいこととはアーク大陸、シンクレア共和国、十字教、そういった事についてですか?」

 クロノの話しておきたいこと、までは予想がつかなかったものの、自分から聞くような内容はこれしかないとすぐに分かった。

 そして、他の冒険者にフィオナが元々十字軍の傭兵であったことを知られないために、部屋へ呼んだのだということも理解した。

「その通りだ、けど俺が一番聞きたかったのは――」

 だが、フィオナもクロノがその言葉を口にすることは全く予想できなかった。

「――『使徒』ってのは、一体何者なんだ?」



 次回で第6章は最終回となります。果たして、使徒の正体がフィオナの口から語られるのか!?


 今回で多くの冒険者メンバーの名前が明らかになりました。まだ名前を覚えるような段階ではないですが、一応キャラ紹介にまとめておきますので、今後忘れそうになったらご覧ください。

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