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黒の魔王  作者: 菱影代理
第41章:アヴァロンに舞う翼
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第841話 レジスタンス(2)

 新陽の月10日。

 俺達は何とか全員無事に『神滅領域アヴァロン』を抜けることに成功した。

 パンドラ最難関を誇るランク5ダンジョンだけあって、ここへの挑戦者は非常に数少ない。細心の注意を払ったのが無駄になるほど、無人の入口から俺達は出た。

 ひとまず、ここから向かう先はアヴァロンで最初の拠点として用意した郊外のログハウスだ。

 まだホムンクルスが最初の九人だった頃、アヴァロンで『ピクシーズ』という冒険者パーティとして活動させており、そのホームとしていた。勿論、本当の目的はディスティニーランドにまで通じるモノリスがここにあるからだ。

 ここのモノリスが機能していれば、神滅領域を通らなくても一発で転移できるのだが……ネロが使徒となり、王の座を奪ってからはアヴァロン王城のオリジナルモノリスは完全に十字教の手に落ちた。ここのモノリスは黒色魔力で黒染めのままではあるが、どうやら周囲一帯とは孤立状態となり、どこにも飛べなくなってしまったのだ。

 幸い、ここが俺達の拠点であるとバレてはいないようで、捜査の手は伸びていない。こんな誰も来ない山の中なら、多少の人数が集まっても全く人目につかない。こういう時に利用するにはうってつけの場所だ。

「お待ちしておりました、マイロード。どうぞ中へ」

 念のためにある程度分散して、拠点へと入る。出迎えてくれるのは、現在の『ピクシーズ』メンバーであるホムンクルスだ。冒険者という自立行動が許されているので、リリィが製造を続けているホムンクルスの中ではエリートである。

 久しぶりにやって来たここの拠点だが、如何にも山の別荘といった洒落たログハウスが一軒だけだったのが、今は二軒建っており、他にも倉庫やら鍛冶場か魔法の工房のような設備が増えていた。ここを利用するホムンクルスが『ピクシーズ』以外にもいるそうなので、彼らの稼ぎに応じて拠点拡張を行ってきたのだろう。

 それでも、流石にこの50名全員を収容はできないので、悪いが兵士の大半は野営してもらうことになった。これだけ設備が整っている場所だから、野営というよりはキャンプみたいなもんだ。俺もたまには冒険者時代を懐かしんでテントで寝たりもしたい。

 だが、ここにはリリィ渾身の完全再現された妖精の森の小屋があるので、その日の夜は……

 ともかく、ここから先は、それぞれの役割に応じて分かれることになる。首都へ潜入するチームと、ルーンへ渡るチーム。それから、コネを活かすべく各地へ散る者達もいる。

 それぞれの目的地へと出発するのだが、そのための準備もここで済ませておく。現地の詳細な地図などの情報を始め、彼らがあらかじめ手配しておいたルート、そして、アヴァロン内を俺達が動いても目立たないような変装用の衣装などなど。彼らの段取りは完璧だ。

「それじゃあ、リリィ、頼んだぞ」

「うん!」

「ミリアルド王も、どうかご無事で」

「ああ、必ずやルーンとの同盟を成立させてこよう」

 最初に出発したのは、リリィ率いるルーン外交チーム。

 小さすぎず、それでいて大きすぎない、絶妙な中規模商人といったキャラバンに偽装して出発する。当然、偽の身元や、見せかけの商品なんかも用意してある。カーラマーラで適当に見繕ってきた貴重品、珍品、といった感じの品々をパンデモニウムから持ち出して来ている。

 リリィは妖精の羽を隠し、商人の娘に変装。平服姿が珍しい。だが隠しきれない可愛さである。これは『魅了チャーム』発動してますわ。

 ミリアルド王はキャラバンを率いる商人、だと目立つので、その従者といった感じの変装にしてある。めっちゃ似合う。完全に小間使いだけで何十年とやってきたような、絶妙な小物のオッサンといった風情だ。

 本物の王様に演技とはいえこんな真似させて大丈夫かと思ったが、意外にも抵抗はないらしい。学生時代は身分を隠して色々とやったこともあるそうで、演技すること自体には多少、慣れていると。あのレオンハルト王と同期だそうで、色んな無茶に振り回された青春時代だったらしい。

 他に連れて行く兵士達は、そのまま護衛に雇われた冒険者を装ったり、商人の従業員に変装したりして、どこの街道を歩いていてもおかしくない、何の変哲もない中規模キャラバンとなった。ただし非戦闘員はミリアルド王くらいで、後は全員、古代の銃器で武装した帝国の精鋭達である。万一、見る目のない盗賊などに襲われた場合は、徹底的に目撃者を消すべく殲滅することとなるだろう。

 そうして結成した偽装キャラバン隊はまずセレーネへと向かい、そこで船を手配する。完全に出たとこ勝負だが、急遽決まった作戦であり、こればかりは仕方がない。

 そこから先は、すでに国交を求めて送り込んでいた使節団と合流し、公式にルーン王宮に紹介される流れとなる。

 ルーンは聖杯同盟に加わってこそいないが、関係悪化すればレムリア海を渡れなくなる。すなわちネロの大遠征がスタート時点でつまずくことになるので、表向きはアヴァロン時代と変わらぬ関係を維持しているそうだ。これはルーンもまた人間の人口が多い国だから、十字教としても一旦放置というのも許容できるのだろう。

 そういう事情もあって、アヴァロンとルーンの間の商船の行き来は特に規制されてはいない。何事もなく、ルーンまで渡れれば良いのだが……リリィを信じるしかない。というか、何かあってもリリィなら、という信頼感。

「お前達も、くれぐれも気を付けて行ってくれ。決して、無理をする必要はないからな」

「ははっ、どうか我々にお任せあれ、クロノ魔王陛下」

 大袈裟な平身低頭なのが、アヴァロン各地へと散る者達となる。

 彼らだけはアヴァロンの貴族や商人にコネのある、スパーダの外交官や商人などで構成されている。ホムンクルスのように生まれながらの忠誠心はないが、スパーダが亡命政府となっているので、少しでも故国の地位向上を目指し、彼らの士気は高い。というか、そういう人をウィルに選んでもらってるし、リリィにも確認してもらっている。

 基本的には彼らも商人などに偽装するが、ミリアルド王ほどの護衛はつけられないので、最低限度のホムンクルス兵だけを連れて行くこととなる。だが資金は十分に渡してあるので、現地で冒険者を護衛に雇い入れてもいいので、安全面はさほど心配はしていない。彼らとて素人ではない。

 そして、散り散りに行動したとしても、各自が連れて行く妖精によって、リアルタイムで情報のやり取りができる。連絡、報告、相談は勿論、相手との交渉にも利用可能だ。存分に活用させてもらおう。

「さて、俺達もそろそろ出発するか」

 最後に、首都アヴァロンへと潜入する俺達が出る。

 当たり前の話だが、ネロが大遠征で出払っている首都は、それなり以上に出入りの厳しい状況となっている。その厳しい監視の目が向けられるのは、主に人間以外の他種族になるのだが。

 しかし、ネロが俺を名指しでぶっ殺してやると軍を率いて出て行ったのに、その本人が首都へ乗り込んでくるのだ。万が一にもバレれば事なので、まずは無事に首都へ潜入することが最初の関門となるだろう。

 俺の演技力が試されるな……




 首都アヴァロンの大正門には、長蛇の列が並んでいる。

 由緒正しい歴史ある国の首都にして、中部都市国家群で一二を争う影響力を持つアヴァロンは、普段から大勢の人と、大量の物の行き来がある。しかし、ここ最近は普段にも増して出入りは急増していた。

 理由は勿論、ネオ・アヴァロンが推進する強力な十字教政策によるものだ。

 人間優遇。他種族排斥。

 この露骨とも言える差別的な政策が聖王ネロによって強権的に断行された結果、アヴァロンには各地から多数の人間達が流入し、逆に首都に住む他種族の者は次々と追われて行った。

 元々、人間の比率が高いアヴァロンではあるが、それでも他種族で構成される人数は全体の3割にも上る。この3割もの人口が丸ごと入れ替わっていくならば、途絶えることのない長蛇の列にも納得がいくだろう。

 そうして急遽増員された首都の出入りを管理する門衛は、今日も今日とて大量の人員を捌いて行く。

「おい、押すな! そこで止まれ!」

「どうどう、よーし、いい子だ」

 人間優遇の首都へ出稼ぎか移住に来たであろう他領の者達を満載した竜車が、門衛の指示で止まる。

「ギルドカードなど、身分証を持つ者は提示しろ」

「竜車を降りて、そこに整列するんだ。荷物は、あー、とりあえずそのままでいい」

 順番待ちに辟易した後ろの者達が早くしろと騒ぎ続ける中、門衛は慌ただしくチェックを進めて行く。

何しろこの人数だ。多少、作業は甘くなる。この際、身分の不確かな者でも、さほど追及することはない。

 重要なのは、人間かどうか。それから、賞金首などの手配犯かどうか、といった程度である。

「よーし、いいぞ、通れ!」

「ようこそアヴァロンへ。神のご加護を」

 やや疲れた顔ながらも、笑顔を浮かべて門衛は満車状態の竜車を見送った。

 そうして、次の者達に順番が回って来る。

「おっと、司祭様のご登場だ」

 純白の法衣に身を包み、手には聖書、首からはロザリオをぶら下げた格好は、今のアヴァロンで見違う者は誰もいない。

 だが、その司祭はやけに目立つ。背の高い大柄な男である、というだけで目立つには十分なサイズ感であるが……ただの一兵卒に過ぎない門衛が見えても、まるで精鋭騎士かのような堂々とした佇まい、それでいて隙のない立ち姿に思えた。

 明るいブラウンの髪を丁寧に撫でつけた、厚い眼鏡をかけた青い目の男である。

「すみませんね、司祭様が相手でも、手続きはさせてもらいます」

「いえ、構いませんよ。お勤め、ご苦労様です」

 精悍な顔に微笑みを浮かべて、司祭の男は答える。

「えーと、アリア修道会の方では……ないようですね。珍しい、どこからお出でに?」

「私はスパイラルホーン男爵領の片田舎より。出稼ぎに出て来た者達の引率者、のような役ですね」

 紹介するかのように、後ろに並ぶ者達へと司祭はチラと首を向ける。

 確かに、如何にも田舎から出て来たばかりといった、薄汚れた格好に粗末な荷袋を抱えた連中が続く。ただ、彼らの首には一様に白い十字の飾りがキラリと輝いていた。

 他の門衛が、すでに整列させた彼らのチェックを始めている。

「では、彼らを送り届けた後は故郷へお帰りに?」

「いえ、私もしばらくの間はここで暮らそう思っています。その、今のスパイラルホーンは……」

「ああ、なるほど、確かにあそこは今ちょっと危ない感じですからねぇ」

 ついこの間に、首都から『近衛騎士団ロイヤルガード』の一部が出撃し、スパイラルホーン男爵領の制圧に向かったことは、門衛も当然、知り及んでいる。

 ドワーフの男爵を廃し、この機会にアヴァロン最大のミスリル鉱山を王家直轄地にしようと、そういう動きである。だが隣り合う領地の貴族も当然この鉱山は欲しいので、それぞれ兵を繰り出し争奪戦の様相を呈しているので……ともかく、今はこの男爵領は非常に危険だ。片田舎の村とはいえ、いつ戦火が飛び火するか分かったものではないだろう。

「今の首都は大きく十字教徒に門戸を開いると聞きました。村の多くの者は敬虔な十字教信者ですから、彼らの新天地となればと思い参った次第です」

「へぇ、それはまたご立派な志をお持ちで。今のアヴァロンは、にわか司祭ばかりですから。貴方のような本物の司祭様なら大歓迎ですよ」

 それなりに長く門衛を続けている彼は、人を見る目も相応に養ってきたつもりだ。

 その上で、この司祭の身なりを見れば、急いで十字教に取り入る者達とは異なることなど一目瞭然だ。にわか司祭共に共通するのは、真新しい法衣に、新品の聖書だ。勿論、その教義も中身もロクに理解はしていない。

 しかし、この司祭の法衣も聖書も、どちらも確かな年季が入っている。法衣にはところどころ解れた補修跡が見受けられるし、聖書は日に焼けた色落ちに、紙質も随分と古く見える。急激に十字教が隆盛した今のアヴァロンにおいて、特に古本の聖書など売りに出されることなどまずない。古い聖書を持っていれば、それだけ「私は昔から~」と言い張ることができるのだ。高い金を出してでも、欲しがる者は後を絶たない。

「温かいお言葉、どうもありがとうございます。これも、白き神のお導き……勇敢なるアヴァロンの兵に、どうか神のご加護がありますように」

 スラスラと出てくる聖句に、手慣れた十字を切る祈りのジャスチャー。やはり、本物の司祭は格が違うと門衛はしみじみ思った。

「そちらの可愛いお嬢さんは、娘さんで?」

 司祭の背中に隠れるようにひっついている、濃紺の修道服の女の子を、門衛は微笑ましい視線を向けて問うた。

 可愛いお嬢さんとは、お世辞でも何でもなく、事実、人形のように整った愛らしい顔立ちをしている。

「いえ、身寄りのない子なので、私が世話を」

「なるほどぉ、流石は司祭様ですね」

 孤児を引き取り世話するのは、宗教組織ではありふれた慈善事業である。アヴァロンで十字教の総本山と化しているアリア修道会も、スラムで大々的な孤児救済を活動してきたことは有名だ。

 別段、疑うような関係性ではない。

 ないのだが、子供にしては妙に大きく膨らんでいる胸元に気づき、門衛は思わず二度見、三度見してしまった。何を胸に隠しているんだ! と言いがかりをつけてしまおうかと不埒な考えが脳裏を過るほどに魅惑的な膨らみだが……流石に十字教の司祭を目の前に、馬鹿な真似はするまいと正気を取り戻した。

 しかし、修道少女がギュっと司祭の腰元にしがみつくことで、大きな胸がぐにゃりとたわむほどに押し付けられている様を見せつけられると、再び理性が溶け始めてしまう。ああ、神よ、どうか罪深き私をお許しください……祈るような気持ちで、門衛はなんとか少女から視線を逸らした。

「お、おい、そっちはどうだ?」

「特に異常はありません。ただの田舎者ですよ」

「よせ、司祭様の前だぞ」

「おっと、これは失礼を」

 笑って誤魔化す門衛をそれ以上は追求せずに、彼はまた別の者へと質問を向ける。

「そっちの冒険者は? てか、そのお嬢さん方もまた随分と美人なもんで」

「ランク3冒険者パーティ『白き灯』のリエルです」

「同じく、魔術師のイオナです。火属性が得意です」

 ごく普通の剣士といった軽装の少女と、真っ赤な髪とローブが特徴的な魔術師の少女の二人が名乗る。別に聞いてもいないのに得意属性を名乗る魔術師少女だが、その赤い出で立ちで火属性以外の何を使うんだと思うが、特に突っ込むことはしなかった。

 彼女のぼんやりした表情を見れば、ああ、この娘は天然なんだな、というのはお察しである。

「私がパーティリーダーのエイトです。司祭様の頼みで、ここまで護衛を」

『白き灯』を名乗る彼らも十字教徒なのだろう。やはり首から十字の飾りを下げている。二人の少女の他に、リーダーの男と、もう一人戦士の男、合わせて四人組らしい。

 勿論、全く聞き覚えのないパーティ名だが、アヴァロンではなく彼らの地元で活動しているならば、知らないのは当然だ。

「冒険者ギルドで正式にクエストを?」

「いえ、司祭様とは同郷で。全員、大変にお世話になったお方です。今回は、司祭様のお力になりたく、我らの方から願い出た次第ですよ」

「なるほどねぇ、それは随分と人徳のある司祭様だ。あんた方もアヴァロンにはしばらく滞在するつもりで?」

「ええ、折角ここまで来ましたので」

「まっ、今のアヴァロンなら仕事には事欠かないだろうよ」

 そんな雑談をしながら、『白き灯』のギルドカードを簡単に確認していく。名前、クラス、そして発行はスパイラルホーン男爵領の冒険者ギルドであることを確かめた。

「よーっし、通っていいぞ!」

 そうして、司祭一行は首都アヴァロンへと足を踏み入れた。




「————ふぅ、ザルな検査で助かったな」

「私達の完璧な変装と演技をもってすれば、こんなものですよ」

 と、私は火属性担当ですという自己主張が激しい真っ赤なカラーリングに変装中のフィオナが自信気に言う。正直、変なこと言い出さないかドキドキしていたが、何事もなく終わって良かった。

 俺達は無事に、首都アヴァロンへと入ることに成功した。

 俺は十字教司祭に、プリムが修道女で、フォオナ達の一部が護衛冒険者役、その他は上京してきた出稼ぎ労働者、といった構成である。

 昔取った杵柄、というには最近のことだが、第五次ガラハド戦争後に手足のないサリエル背負って開拓村で偽司祭をやった経験が今回は活きた。聖書の内容は大体覚えているし、司祭の役目もおおまかに体験済みである。どこぞの田舎村くらいなら、今すぐにでも俺は司祭としてやっていけるだろう。

 そして何より、ニコライ司祭という本物の司祭が長年使ってきた法衣や聖書などを、俺が持っていたのも変装に役立った。これで新品同様の司祭装備一式を身に着けていれば、にわか丸出しで怪しまれるしな。

 その他、冒険者や田舎者に変装するための衣装や小道具は、あらかじめ用意しておいたものである。門衛に見せたフィオナ達のギルドカードなどは、パンデモニウムにいるエリナに作ってもらった、ある意味では本物だ。安っぽい偽造ギルカではなく、冒険者ギルドにある本物の設備でもって製造されたもの。門衛が目視確認だけで偽物と見抜ける代物ではない。

 ちなみにネネカ達妖精組は、それぞれ適当な場所で防壁を飛び越えて潜入している。空を自由に飛べるって、本当に凄いことだよ。

「マイロード、この先が目的地です。私が先行して参りますので、このままお進みください」

「ああ、頼んだアハト」

 冒険者の変装継続中のアハトが足早に俺達から離れて行く。

 現在、彼の案内で俺達はアヴァロン市内のとある場所を目指していた。

 この街中をあの人数でゾロゾロと列を成して進むのは目立つので、これもあらかじめ用意しておいた場所でそれぞれ解散し、潜伏する。

 なので、今ここに残ったメンバーは、『白き灯』に俺とプリムの二人を加えた、六名となっている。勿論、司祭と修道女の恰好で冒険者パーティに混じっていると目立つので、俺はカーラマーラで愛用していたアッシュの灰色ローブを纏い、プリムには白い法衣の治癒術士プリーストの装いに変更済み。

 そうして、ただの冒険者パーティに偽装してアヴァロンを歩き、ここまでやって来たわけだ。

「『メイクラヴ・エンタープライズ』……ここだな」

 分かりやすく掲げられた看板が、間違いなく目的地を示してくれた。

 やけにポップなフォントが明るい桃色で描かれ、大きなハートマークまであしらわれた看板は、まるで休憩できるホテルか女の子と恋愛できるお風呂屋さんのようである。

 そんないかがわしい看板に反して、店舗は非常に武骨な造り。建物は堅牢な石造り3階建ての本館を中心に、大きな倉庫のような建物が幾つも軒を連ねている。その広大な敷地を檻のように囲う、高い鋼鉄の柵。

 商人の大店というよりは、小さめの砦か城館、いや、刑務所のような雰囲気と言った方が正しいだろう。食料品や日用雑貨を扱うような、ごく普通の店ではない。

 そう、ここは奴隷商だ。

「こちらです」

 先行させたアハトが、すでに開かれた正門で待っていた。

 軽く周囲を確認すれば、市内でも外れにあたるこの場所に人通りは疎ら。特に俺達へと注意を向ける者は誰もいない。

 人目がないことを確認してから、俺達は店へと入る。

 そのまま正門を抜けて、真正面に建つ本館へ。すでに準備されていたのだろう、何も言わずとも、内側から扉が開かれ————

「お待ちしておりましたわ、クロノ————いえ、クロノ魔王陛下、とお呼びした方がよろしいかしら?」

 そこで俺を出迎えたのは、如何にもお嬢様といった真っ赤なドレスを身に纏った、でっかい金髪縦ロールの少女。この印象的なビジュアルは忘れもしない。

 クリスティーナ・ダムド・スパイラルホーン。アヴァロンの竜騎士団の副団長を務める、呪いの武器マニアな女だ。

「陛下はやめてくれ、クリス」

 彼女とは、セレーネでカオシックリムと戦って以来となる。

 何故、彼女がここにいるのか、まぁ色々と事情があるのだろう。まずは、その辺から詳しく聞かせてもらおうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても長い物語だからこそ、今回のようなクロノの変装に納得が行きました。
[良い点] 祝、クリスちゃん合流~ [一言] お~あの時の経験が生きてくるわけですね~ アヴァロンの兵隊さんじゃ、成りたて信徒だろうから騙しやすいよね てか、種族差別が進めば次は神様の差別かな、 十字…
[良い点] クロノを倒すための遠征軍の首都にクロノ自身が乗り込んでる状況が最高に皮肉が効いてるな!そのままアヴァロンを乗っ取ってネロを裸の王にしてやれw しかし意外なところで司祭経験が生きたな。当時は…
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