第836話 対アヴァロン戦略(2)
遡ること一ヶ月。遠雷の月の初週。
アヴァロンの北端、ヴィッセンドルフ辺境伯領。
ここはかつて、アスベル山脈に巣食う狂暴なハーピィの諸部族と激しい国境線争いを長き渡り演じ続けた場所である。しかしハーピィ諸部族を全て統一し、近代国家『ウインダム』の建国により、アヴァロンとは過去の因縁を水に流し、友好関係を築くに至っていた。
だが、今宵の辺境伯領は物々しい雰囲気に包み込まれる。まるで、大きな戦いが起こる前夜のように。
「————申し訳ありませぬ、国王陛下。やはり、ウインダムへの亡命は不可能と言わざるを得ません」
「よいのだ、ヴィッセンドルフ卿。こうして、余を匿ってもらっただけで十分過ぎる恩義である」
許可がなければ立ち入ることが許されない領主の執務室。本来の主であるヴィッセンドルフ辺境伯が跪く。
彼が膝をつく相手など、この世でただ一人。アヴァロン国王のみ。
お世辞にも覇気に溢れるとは感じられない、くたびれた初老の男性。幅のある体型に、腹も目立ち始めている。おまけに髪も……エルフらしい端正な顔立ちに、引き締まった細身に長い黒髪をもつヴィッセンドルフと比べれば、凡庸に極まる容姿。しかし、それでもこの男こそアヴァロンの王。ミリアルド・ユリウス・エルロード、その人である。
「首都からやってきた『近衛騎士団』により、国境線は完全に封鎖されております。ほどなく、こちらの反対も跳ね除け、強引にでも屋敷へ捜査に入るかと……これ以上、陛下を匿うことも難しい状況となっております」
「そ、そうか……」
一筋の汗を垂らしながら、ミリアルド王は疲れたように呟いた。
愛息子であるネロと、信頼していた十二貴族達によって、玉座を追われたミリアルド。このままアスベル山脈の別荘で軟禁生活のまま生涯を終えるのだろうと思っていたところに、幸運にもそこから逃れることができた。
ネロが次の王となることは、構わない。第一王子として、遅かれ早かれそうなる定めであり、ミリアルド自身もそれを望み、才気溢れる息子がどれほど素晴らしい王となるか楽しみにしていた。
だがしかし、十字教を名乗る輩にアヴァロンを、エルロード帝国の正当後継たるアヴァロンが乗っ取られることだけは許せない。古の魔王にして、偉大なる祖先、ミア・エルロードを邪悪の象徴と蔑み敵視する、あんな邪教をのさばらせてはならないのだ。
ネロが目を覚まし十字教を排除するなら良いが、あのまま奴らの傀儡としていいように扱われているようなら……一人の父親としてではなく、アヴァロンの王として、道を踏み外した王子を誅せねばなるまい。
そんな思いを抱いて、ミリアルド王は逃亡を良しとした。
そして、ひとまずの亡命先としてウインダムを選び、こうして国境にあたる辺境伯領までやって来たのだが、どうやらその動きはネロも予測していたようだ。
絶対にミリアルドを逃すまいと、わざわざ『近衛騎士団』を繰り出して来た。
「今夜にでも、我が辺境伯領から脱していただきたく」
「しかし、ウインダムの他に、どこへ向かえば————」
「恐れながら、陛下」
困惑顔のミリアルドに対し、すぐに声を上げたのは、すぐ傍に控えていた護衛。現状、たった一人の王を守る騎士————セリスである。
「おお、セリス。何か良い案があるのかね」
「はい。ウインダムは諦め、パンデモニウムへと亡命することを進言いたします」
ただ一人、反旗を翻し絶望的な逃避行を始めたセリス。彼女の顔色は決して良いとは言えず、目元にも薄っすらと隈も浮かび、心なしかやつれたように見える。
それでも、生来の輝かんばかりの美貌は衰えない。白銀の前髪の向こうに輝くアイスブルーの美しい瞳には、強い意思の力が瞬いている。
「パンデモニウム……聞いたことのない国名ですな」
「ヴィッセンドルフ卿には、カーラマーラと言った方がよろしいか。今年の始めに、かの最果ての欲望都市は、新たな体制で国名を改めましたので」
「ほう、そんなことが。辺境故、そうした情報が入るのはいつも遅れて困ったものだよ。陛下はすでに御存知で?」
「うむ、噂程度には聞いていたが。しかし何故、あんな大陸の端の国を?」
そこまで離れればそれは安全なのは間違いないが、逃げ延びるにはどう考えても不可能な距離感である。
「転移魔法で、飛ぶことができます」
「それは真か!」
「はい。スパーダでは、すでにパンデモニウムと正式に国交を結び、両国間の転移輸送が始められていたと。しかしながら、スパーダの陥落に伴い、今は途絶えたようですが」
「ふむ……転移で飛べるのはいいとしても、そこは信頼のできる国なのかね?」
鋭い眼光で、ヴィッセンドルフはセリスを射抜く。その答えだけには、決して嘘偽りが許さんと言わんばかりの圧力。
その視線を真っ向から見つめ返して、セリスは言った。
「かの国を立ち上げたのは、クロノです。第五次ガラハド戦争にて、十字軍を退けたスパーダの英雄」
「おお、それはもしや、セレーネのコロシアムでネルと共にあの大魔獣を討ち果たした」
「ええ、その通りでございます。私は、彼と交流をもち、その人となりは信頼に足ると保証できます」
「それは、誠実な性格としてか。それとも、利害関係においてか」
「どちらもです。彼は正義感に溢れる素晴らしい人物であり、陛下もご覧になった通り、類まれな武力を持ちます。彼に惹かれて集まったメンバーも、アヴァロンの最精鋭を凌駕するほどの逸材揃い————そして何より、彼は十字軍を倒すために戦っている」
最初に十字軍から侵略されたダイダロスからクロノ達はやって来た、とは聞いている。ほぼ全ての仲間を失い、守るべき人々も壊滅させられた、惨敗を喫したとも。
だからこそ、クロノは立ち上がった。もう二度と、あんな真似はさせないと。
しかし、力及ばずスパーダは奪われた。
それでもクロノは、決して諦めてはいない。カーラマーラという砂漠の経済大国を丸ごと手にし、本気で十字軍に対抗する軍備を進めている。
「これより先、我々が十字教の支配からアヴァロンを取り戻すには、必ず彼の力が必要となりましょう。むしろ、このパンドラ大陸を守る唯一の希望と言ってもよいかと」
「大陸を守るとは大袈裟な……とは、言えぬな。こうして、余はあまりにもあっけなく玉座を追われてしまったのだ。他の国でも、同じことが起きぬとは言い切れん」
「はい、正しくその通りです、陛下。アヴァロン同様、どこにどれだけ十字教の手の者が潜んでいるのか分かりません」
だからこそ、間違いなく信頼できる勢力の存在は貴重かつ重要だ。
これまでは特に関係性もなく、利益にも害にもならない無関係の多くの国々。それらがいつ、十字教勢力であることを表明し、十字軍の侵略に手を貸すようになるか。敵か、味方か。大陸中にカードが伏せられた状態である。
「セリス、余を救い出したただ一人の騎士よ。そなたの言葉を、信じるとしよう」
「私も、賛成するしかありませんな。スパーダも滅びた今、良い亡命先はとても思いつきませんので」
「ありがとうございます」
「して、そこへ転移するにはどうすれば良いのだ?」
「はっ、それに関しては一つだけ問題が。陛下には、今以上の苦労を強いることになることを、先に申し上げておきます」
「そ、それは一体」
「転移するには、『神滅領域アヴァロン』の中を通らなければなりません」
「なっ!?」
決して臣下に見せてはいけない、情けない驚愕の表情。
ランク5冒険者も逃げ出す、パンドラ最難関と名高い伝説のダンジョン。あらゆる加護が消滅する、いまだ一人の踏破も許さぬ古の帝都、それが『神滅領域アヴァロン』である。
普通のダンジョンでも生き残れるかどうか怪しい実力のミリアルドが、涙目になってヴィッセンドルフを見つめるのは仕方のないことであった。
「……陛下、出来る限りの支援は致します。『神滅領域アヴァロン』へ辿り着くルートと必要な人員。それから、我が領の最精鋭をせめてもの護衛としてお付けいたします」
「そ、そ、それで……生きて辿り着けるのか?」
「私は一度、転移を可能とする場所まで攻略した経験があります。その上で、精強と名高いヴィッセンドルフ卿の騎士をつけていただけるならば、必ずや御身を無事にお届けすることを誓います」
「う、うむ、分かった。余も覚悟を決めてよう。では、頼んだぞセリス」
薄っすら涙の浮かぶ青ざめた顔で、ミリアルドは精一杯に鷹揚に頷くのだった。
漆黒の玉座に、俺は再び腰を下ろしている。
ここに座るのは、国内向けに魔王宣言生放送をして以来である。いやだって、基本的にパンデモニウムにいるから。それに軍事以外の全てはリリィ女王陛下と議会に丸投げなので、俺が皇帝らしい仕事をすることも少ない。
しかし、一国の王が訪ねてきたのならば、まずはここに招かなければならないだろう。思えば、エルロード帝国を名乗ってから、ディスティニーランドにやって来た初めてのお客様でもある。
そんなわけで、俺はこの黒き玉座の間にて一人の王と向かい合うこととなった。
「ようこそ、我が城へ。歓迎しよう、ミリアルド王」
「この落ちぶれた我が身を受け入れていただき、心からの感謝を申し上げる、クロノ帝よ」
共に一国の君主として、どちらともへりくだった言葉遣いはしない。
俺としては明らかな年長者であり、本物の国王、そしてなによりネルの父親にあたる人物に対してタメ口を利くのは非常に心苦しいところもあるのだが、魔王として、エルロード皇帝として、安易な敬語を発するわけにはいかない。
ミリアルド王からすれば、ポっと出の上に魔王を名乗る若造如きに頭を下げるなどとんでもない、と思ってしまうだろうが、国を追われたこの状況では下手に出るより他はないといった状況だ。俺を指してクロノ帝、と皇帝呼ばわりするのも渋々なんだろうな。
彼も一国の王である。腹の底では何を考えているのか分からない。今、俺の前で頭を下げる彼の姿は、まるでリストラされた熟年サラリーマンの如き哀愁漂うくたびれ具合なのだが……それが同情をひくための演技だとしたら、凄まじいものだ。なんかこのオジさん、見ているだけで可哀想になってくる雰囲気全開なんだよな。
「話はすでに聞いている。我がエルロード帝国は、ミリアルド王こそ正当なアヴァロンの君主と認め、貴殿の亡命を受け入れよう」
「寛大な配慮、誠に痛み入る」
ひとまず、これでミリアルド王の亡命受け入れは表明した。
すでにスパーダ王も亡命をしているので、今更、王様一人増えたくらい世話をするのに大したことはない。第一階層の空き部屋はまだ一杯あるしな。
だが、重要なのはアヴァロン国王の亡命を受け入れた、その後の対応である。
「久しぶりだな、セリス。こんな形で再会することになるとは」
「恥を忍んで、参上仕りました。全てはアヴァロンと、ミリアルド陛下の為に」
「ここは玉座の間だが、人払いは済ませてある。堅苦しいのは抜きで、詳しい話を聞かせてくれないか」
「どこから話せば良いものか……」
「時間を気にする必要はない。単純に、セリスが今までどうしてきたかというのも知りたいと思っている」
「それでは、まず私の事情から話すことにしましょう。すでに知っての通り、我がアークライト家は古くより十字教を信仰しており、此度の反乱においては裏切りの十二貴族筆頭として事を起こしました。私が一族の十字教信仰について聞かされたのは、ちょうど貴方と『神滅領域アヴァロン』に挑む直前の頃でした」
まさか、あの時点で知っていたとは。
あの頃はとにかくリリィを止めるのに夢中で、そんなことになっているなど夢にも思わなかったし、気にする余裕もなかっただろう。本気になったリリィとの戦いは、集った仲間全員が力を合わせなければ勝てなかった。『ブレイドマスター』の五人には心から感謝しているが、今は思い出話に花を咲かせるワケにはいかない。
「せめて、あの戦いが終わった後にでも貴方には伝えられれば良かったのですが……結局、私には不確かな情報で貴方を家の事情に巻き込むことを躊躇してしまった」
どうやら、その頃にはまだセリス自身もアークライト家がどこまで本気で反乱計画を企んでいるのか知らなかったようだ。アヴァロンを代表する公爵家、その進退に関わるような秘密を冒険者に過ぎない俺に明かすべきだった、とは彼女の立場を考えれば安易には言えない。
セリスは一族の十字教信仰こそ聞かされたが、父親から聖書を一冊渡されただけで、それ以上は特に何も指示などはなかったという。
「恐らく、聖書を読めばアークライトの者は自然と十字教に目覚める、とでも父は信じていたのでしょう。あんな曖昧な行動だけで、私を仲間に引き込めたと思い込んだのは、冷徹な父にしては浅はかだと不審に思ったものです。ですが、特に何もなかったお陰で、私は変わらず、自分の意思でもってアヴァロン国王に忠誠を誓ったままでいられます」
「それはきっと『聖書の呪い』ってやつだろうな」
「呪い、ですか」
いつだったか、サリエルが話してくれた。
十字教の聖書には、読む者を『魅了』するような魔法的効果が秘められていると。そして、その効果を研究・立証しようとした者は異端審問にかけられ秘密裏に処理されてきた。遥か昔から、それで処刑された者は千人を超えるのだとも。
「きっとアークライト一族は、聖書を読めば一発で『覚醒』するような血筋か、あるいは何らかの秘密があるのだろう。セリスの親父さんが聖書読むだけで十分だと判断したのは、絶対に覚醒すると思ったからだな」
「ですが、私はあれを読んだところで、特に何も変わりは……」
「何故かは俺も分からんが、まぁ、効かなくて良かったじゃないか。俺はネロと一緒にいるのを見た時、お前も裏切ったかと思ったよ」
「申し訳ありません。あの頃には、私一人ではもうどうしようもないほどに、事が進められており————」
いいんだ、と俺は謝罪の言葉を遮った。
身内からは十字教に改修したと思い込まれて仲間扱い。もしそうなっていないと気づかれれば、自分の身が危ういとセリスはすぐ察したに違いない。
露骨に反対意見、反抗的な行動は起こせない。十字教に狂っているなら、実の娘にだって平気に手をかけることだろう。悪魔が憑いているとかなんとか、イチャモンをつけてな。
「私に出来ることは、表向きは従いつつ、父を裏切るタイミングを計ることだけでした。幸い、ネル姫様と同じく幼い頃から交友のあったネロ王子も、私のことは信頼を寄せていたようで、疑われることもありませんでした」
そう言われると、普通に裏切られたネロが若干、哀れである。でも先に裏切ったのはアイツの方だしな。同情するだけ損ってものか。
「なるほど、そうしてミリアルド王を連れて逃げ出したわけか」
「はい、私の力と立場ではそれが限界でした」
「いいや、頼れる味方のいない状況で、よくやってくれた。俺は、この土壇場でミリアルド王を救い出し、ここまで連れてきたセリスを信じよう」
「クロノ……いえ、皇帝陛下、ありがとうございます。裏切り者のそしりを受けるべき立場にある私如きに、過分なお言葉にございます」
深々と頭を下げる、その瞬間には、僅かにセリスの目には涙が滲んだように見えた。
本当に、苦労してきたのだと思う。裏切りの筆頭たりアークライトの者として、信用を得られるかどうかも不安だったはずだ。
それでも、ここまで辿り着いたセリスに、俺は心からの賞賛と敬意を払いたい。
「事情はおおよそ分かった。他に、奴らと行動を共にしたことで知り得た情報は、何かあるか?」
「私の知る限りのことは、全てお話しましょう」
セリスがネロの反乱に巻き込まれる発端となったのは、先ほど聞いた通り、俺がリリィと戦いに行く直前の時期に、公爵家当主にして実の父親であるハイネ・アン・アークライトが十字教信仰の秘密を打ち明けたことだ。
「あの時、アリア修道会から司祭を名乗る男が同席しておりました。その男の名は、グレゴリウス。恐らくは、修道会を指揮し、十字軍と通じて最も影響力を発揮しているのが、このグレゴリウス司祭かと」
なるほど、アリア修道会の黒幕がこのグレゴリウスという奴で間違いない。
アリア修道会がアヴァロンで活動を始めたばかりの頃、その教祖として大々的に祭り上げられているのがルーデル大司教と呼ばれる、少年だったと聞いている。サリエル曰く、ルーデルという少年で高位の聖職者はシンクレアの十字教会には存在しないと。彼は単なる神輿に過ぎず、アヴァロン調略のために修道会を指揮する人物は別にいるとの推測だった。それがグレゴリウスなのだろう。
つまり、セリスに打ち明けられた時点で、十字軍はハイネと接触を済ませ、共謀を始めていたということだ。
「アークライト公爵家は十二貴族筆頭と呼ばれる大貴族であり、古くから十字教信仰を続けていた他の七家の中でも、指導的立場にあったようです。グレゴリウスと通じたハイネは、十字軍が現れた今こそが決起の時と判断し、すぐに七家を始めとした隠れ十字教徒の指揮を始めました。ただ、その詳しい内容に関してまでは……」
「セリスはネロについていたからか」
「はい。私が父からネロ王子の傍に仕えるよう命じられたのは、カオシックリム討伐の栄誉を称えた勲章授与式の直後でした」
そういえば、あったなそんなことも。ちゃんと勲章、持ってるよ。そこのミリアルド王から、ありがたい感謝の御言葉を聞きつつ、胸につけてもらったから。
今じゃ俺の方が玉座に座っているのだから、本当に人生って分からないもんだよ。
「その頃のネロはどうしていた?」
「ネロ王子も、この時点ではすでにアークライト家と通じ、反乱を起こす決意を固めていたと思います」
「黙っていても王位は手に入るというのに……アイツがそこまで焦ったのは、やはりリィンフェルトか」
「ええ、ネロ王子はあの女に酷く執着していましたから。私からすれば、礼儀知らずの平民女としか思えませんでしたが」
「俺も、どうしてそこまでこだわるのか分からないが、何にせよ、女のためという感情的な動機なことに変わりはない。だからこそ、ネロはもう正論で止まることはないだろう」
それこそ、白き神から新たな使徒に選ばれるほど、強い気持ちがあった。
その強すぎる気持ちを、白き神に利用されているだけだと、きっともうアイツが気づくこともないのだろう。
「そう、ですね……今にして思えば、あの頃から、すでに父もグレゴリウスも、ネロ王子が使徒に目覚めることを確信していたように感じます」
「だろうな。白き神は、とっくにネロに目をつけていたんだ。別に、俺にぶん殴られなくても、遠からず使徒に覚醒したんだろう」
正しく神の掌の上で踊らされている気分だ。俺も、ネロも。
だが、思い通りには絶対にさせない。白き神がどれだけ破格の力をネロに与えていようとも、必ずそれを撃ち破って見せる。
「なぁ、セリス。どうしても聞きたいことがある」
今の俺にとって、ネロはもう倒すべき敵でしかない。使徒と化した以上は、もう倒すより他に手立てはないのだから。
故に、俺にとっての気がかりは、もうこれだけなのだ。
「ネルは今、どうしている————」
2021年7月30日
コミック版『黒の魔王』、最終巻となる6巻が発売しております。
打ち切りといえばそれまでですが、最後まで妥協することなく、綺麗に仕上げてもらっています。最後の記念に、手に取っていただければ幸いです。