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黒の魔王  作者: 菱影代理
第40章:蘇る帝国
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第829話 エルロード帝国軍構想(3)

「みんなー、リリィ、元帥になったんだよ!」

 妖精幼女の無邪気な笑顔と、『パンデモニウム女王リリィ陛下、エルロード帝国軍元帥に就任』、と大きく書かれたテロップが画面に映し出される。

「魔王様に、リリィがなってってお願いされたの。元帥は、帝国軍で一番偉いんだって」

 リリィは軽やかに一回転し、女王ではなく、帝国軍元帥としての装いを披露。

 漆黒の衣装は古代の軍服であるらしい。黒地に金色のボタンと装飾、そして元帥の位を現わす、大きな星を模したデザインの神鉄オリハルコン製階級章が、小さな胸元に燦然と輝いている。

 キラリと光る階級章の隣には、もう一つ、黒光りする暗黒物質ダークマターで作られた小さな十字、いいや、逆十字の黒いエンブレムもついていた。逆十字の交差部分には『2』という古代文字での数字が刻印されている。

 それらの意味は分からないだろうが、それでも煌めく階級章に、羽織った重厚なロングコートと、一目で司令官なのだと分かるような荘厳なデザインとなっていた。だが、厳めしい軍服でありながらも、ワンピース型になっており、フワリと裾が広がる様は可愛らしさがあった。

「だから、やっぱりリリィが魔王様の一番なの!」

 えっへん、とばかりに胸を張り得意気な姿のリリィは、その厳つい装いがあっても尚、見た目通りの幼児にしか見えないだろう。

 それを微笑ましいと笑うか、馬鹿馬鹿しいと憤るか、あるいは戦慄するか————受け取り方はそれぞれでも、今はただ、パンデモニウムの女王リリィが、帝国軍のトップになったのだということが伝わるだけで十分。

 この放送はパンデモニウム及び、新たに帝国に加わったアトラス大砂漠周辺国、その全てのモノリスに放送されている。正式に周辺国を傘下に治めたことで、エルロード帝国は単なるカーラマーラの僭称ではなく、今やアトラス大砂漠一帯を支配する大国になりつつある。

 リリィを元帥とした帝国軍創設の宣言は、現代に蘇った古の帝国が再び覇道を歩み始める、その第一歩となるだろう。

「リリィの帝国軍は、一緒に戦う兵士を募集中! 悪い十字軍と戦って、パンドラの平和を守ろう!」

 そうして、リリィ元帥閣下は画面の向こうの君へ向けて指をさす。

「あいうぉんちゅー!」




 リリィ元帥閣下がご出演されている帝国軍の募集CMが全国的に、ここでいう全国とはアトラス周辺まで含めたエルロード帝国領全土ということだが、放送されるようになった頃には、おおよそ階級をはじめとした帝国軍の体制が動き始めた。

 ここまで来ると、俺はかえって仕事が減る。どういう軍にするか考えて決めるのは俺の役目だが、実際の運営となるとリリィが中心となっていく。

 俺が直接出張って口出ししたら、わざわざ元帥というトップを制定した意味がない。リリィの支配力を最大限効率的に活かすための人事だからな。

 そういうワケで、俺は大量の書類仕事などをすることもなく、別のことに集中できるようになったのだが……今日のところは、まだちょっと後回しになるようだ。

「すまんな、クロノ。忙しいところを」

「気にするな、リリィの方が忙しいから」

 そう言って、ほぼプライベートモードでやって来たのはウィルだ。

 ついこの間、ウィルハルト・トリスタン・スパーダを中将に任命する云々と、そういう堅苦しい任命式とかもやってきたので、今はお互いに気安く口を利きたい気分でもある。

「二人とも、ウィルと同じように『いつも通り』にしてくれ」

「……分かったわ、そうさせてもらう」

「気遣ってくれたのね。ありがとう、クロノ君」

 ウィルが連れてきたのは、二人の女性。

 片方は妹のシャルロット。

 やや表情が硬いように見えるのは、なんだかんだで魔王となってからの俺と会うのは初めてのせいか。別に肩書きが変わっただけで、中身に何の変化もないのだが。

 そしてもう一方は、エリナだ。

 ギルドの受付嬢、ではなく、臨時ギルドマスターと今は呼ぶべきだろう。彼女の方は正しくいつも通りに、素敵な営業スマイルを浮かべてくれた。

「露骨に身内贔屓をするような真似は心苦しいのだが、この二人はクロノも知らぬ仲ではないであろう」

「いいんだ、俺も気にしていたところだし。それに今みたいな状況なら、ひとまずは自分の知り合いから、ってなるのは仕方のないことだ」

 ウィルが二人を連れて訪問してきた理由は、すでに知っている。

 いくらウィルでも、アポなしでいきなり俺の下へやって来ることは許されていない。現状、それが許されているのはリリィとフィオナとサリエルの三人だけだ。

 普段は俺のメイドとして傍にいるサリエルも、今日のところは大佐として自分の大隊の下へ出向いている。

 なので、この部屋で客人にお茶を淹れるメイドの仕事は、ヒツギとプリムのコンビだ。プライベートだから、多少の粗相も許容範囲。公だとアインかサリエル、またはセバスティアノートとロッテンマイヤーの元祖ホムンクルス執事&メイドに任せることになっている。

「そう言ってもらえると助かる。まずは、我が妹のワガママを聞いてやってはくれまいか」

「なによワガママって!」

 そのキンキン声を聞くと、シャルロットという感じがするな。

 不機嫌な表情で兄貴を小突いてから、改まって俺に向き直る。

「えっと、その……私も帝国軍で戦わせて欲しいの」

「入隊するなら歓迎するが、本当にいいのか?」

 純粋に戦闘能力だけで見るならば、シャルロットは立派にランク5冒険者。『赤雷侯・ラインハルイト』の加護を授かった、強力な雷魔術師サンダーマージである。

 その雷魔法は、個人が携行できる小銃を遥かに凌駕し、正に大砲のような威力を発揮する。どこの魔術師部隊に配属されても、即座にエースだ。

 とはいえ、スパーダの姫君であるシャルロットが、ただの一兵卒もとい、魔術師として扱われることはないのだが。

「正直に言えば、我は反対である」

「ちょっと、この期に及んでなに言い出してんのよ!?」

「身の安全を考えれば当然だろう」

「それだけではない。シャルロットはスパーダの王女なのだ。王家の存続を考えれば、これまで以上に慎重な扱いとなるのは当然であろう」

 なるほど、王家ともなれば常に後継ぎのことは考えなければいけないよな。そりゃ順当に行けば現国王であるウィルの子供が後を継ぐのだろうが、だからといってウィル一人がいれば安泰というワケでもない。

 王位継承者だけでなく、スパーダ王家という一族そのものの存続がかかっているのだ。

 本国を失った今、一族の保護を重視するのは仕方のない判断でもあるだろう。

「ふん、そんなのアンタが子供作ればいいだけでしょ。それに、ファーレンとルーンには姉上様も残ってる。私一人を大事に匿っていなくたって、スパーダ王家は安泰よ」

「いや、しかしだな————」

「私は、必ずスパーダを取り戻すの! その為なら、もうお姫様じゃなくなっていい。帝国軍の一魔術師として戦うわ」

 それはいつものワガママではない。確かな覚悟の籠った言葉だと感じた。

 帝国軍に志願する、という話を聞いた時、シャルロットならそうすると納得もしたな。ウィルの望むような、大切に保護するだけという扱いを彼女はよしとはしないだろう。

 だから、その言葉に偽りはない。けれど、俺は一つだけ確かめておかなければならないことがある。

「ネロとも戦えるのか」

「戦うわ。できれば、殺すなら私の手で」

 迷いなく、そう答えられるならいいだろう。

 だからウィル、そんなに心配そうな顔をするなよ。どこの配属になったとしても、彼女をネロと戦わせるような配置にはしないから。

 使徒である奴を殺すのは、『アンチクロス』の役目だからな。

「佐官待遇で、スパーダ人で構成した魔術師部隊を任せることになるだろう。それでいいか?」

「ありがとう————ありがとうございます。このシャルロット・トリスタン・スパーダ、御身の為に戦いましょう、クロノ魔王陛下」

「勘弁してくれ」

 俺の苦笑と、シャルロットの悪戯な笑みが交差した。

「それで、エリナの方は」

「私も同じようなものよ。コネを最大限に利用して、少しでも良い地位につこうと思って」

「ぶっちゃけすぎだろ」

 悪びれもなく言い放つエリナである。下手に媚びへつらわれるよりかは、正直に言ってくれる方がありがたくはあるが。

「クロノよ、これでもエリナ嬢は今では正式にスパーダ冒険者ギルドのギルドマスターとなっておる」

「そうか、本当に認めさせたんだな」

「ええ、ウィルハルト陛下のお墨付きよ」

 と、胸元にキラリと光る冒険者ギルドのエンブレムを示した。

「首都防衛戦の際、最後の最後までギルドに残って業務を遂行したのがエリナ嬢である。あの時、共に残っていた職員全員、彼女のギルドマスターの正式な就任を支持していた」

 その功績を国王陛下が直々に認めて後ろ盾に、と。

 俺としても、あの土壇場で踏み留まって戦える根性のある人にこそトップを任せたい。次期ギルマスと言われるような幹部連中は早々に王城に避難していたようだし、中には俺の魔王宣言よりも前にパンデモニウムへ逃げ込んだ者もいたという。

 そんな根性ナシでも、女王王陛下万歳と叫ばせ滅私奉公するようになるパンデモニウムは、恐ろしい場所である。

「けど、そこまで支持を得ているなら、そのままギルマスやっていた方がよくないか?」

「特別区のお陰で、スパーダ冒険者ギルドの看板だけは残っているけれど、そこでの仕事なんて、単なるギルド支部と同じじゃない」

 確かに、その通りではある。

 パンデモニウムはカーラマーラからそのまま引き継ぎで冒険者ギルドがある。

 本来なら、本国を失った以上、スパーダ冒険者ギルドも解散となり、職員はそのままこちらのギルドへ移籍か、残念ながら解雇か、となるところだが、スパーダ特別区はウィルハルト王の治める正式なスパーダ領という扱いになる。

 なので、特別区の中にあってはスパーダ冒険者ギルドを名乗れるわけだが……結局のところパンデモニウムの一区域でしかないので、ただのギルド支部といった規模である。

「私もスパーダを取り戻すために戦いたいの。できれば、クロノ君の傍で、貴方を支えたいけれど……その資格が私にあるだなんて、とても言えないわ。それでも、やるからには自分の力を最大限発揮できる場所がいい」

「分かった、エリナ。俺に力を貸してくれ」

「勿論よ。私のこと、上手く使ってね?」

「それについては————ウィル、頼んでもいいか」

「うむ、こちらは強い兵士よりも、彼女のような人材の方が必要だからな」

「あら、私の使い道はもう決まっているの」

「兵站業務担当の輜重兵科だ」

 十字軍とは、もうガラハド要塞一か所で抑えていれば済むものではなくなった。スパーダ奪還、という目標一つをとっても、遠征ということになってしまう。

 自国の防衛ではなく、こちらから出向いて戦いに行くとなると、当然、運ばなければならない。人も武器も食料も。戦うために必要な何もかもを、輸送しなければならないのだ。

 必要なものを、必要な時に、必要な量を、必要な場所に集める。当たり前のことのように思えるが、これを軍隊という大規模な組織で行うと、その実現がどれほど大変か。

 戦争もしてないし、情報化社会で輸送網も整備されている21世紀の日本でだって、違うモノが宅配されたり、遅れて届いたりするのだ。

 この異世界において、日本と比べて優れている部分といえば、空間魔法ディメンションのついたコンテナと、モノリスの転移機能くらいである。どちらも科学技術では実現しなかったオーバーテクノロジーな凄まじい効果だが、それ以外の部分はほぼ中世である。馬車で運ぶ、人が運ぶ、くらいしか輸送手段はない。物品の管理だって、現物を目で見て確認するしかないのだ。

 ただモノを運ぶ。それだけで途轍もない労力がかかってしまう。だからといって、それを疎かにすればどうなるかというのは、軍事の専門家ではない俺だって知っている。インパール作戦は気合が足りないから失敗したのだ。

「円滑な兵站の維持は、これからの戦いでは特に重要となる。俺は兵士を飢え死にさせるのは絶対に御免だ」

「物資の手配に関する仕事なら、私向きね。武器を持って戦うよりも、ずっと役に立てそう、ううん、絶対に役立ってみせるわ」

「ああ、頼むよ」

 エリナのように俺と面識があり、かつ信頼を得ている者、すなわち洗脳の必要なく大事な仕事を任せられるという人材は非常に貴重だ。

 だから中将に任じたウィルは単なる肩書きだけでなく、輜重兵科を主に任せることにした。エリナなら必ず、ここで活躍してくれるだろう。

 それに後方支援なら、もうメイスを振り回す必要もない。

「詳しい仕事の話は、その時でいいだろう。そろそろ昼時だ、折角だから一緒にどうだ?」

 これでひとまず、シャルロットとエリナ、二人との話はついた。後は貴重なプライベートな時間を、楽しませてもらいたい。




「————全員、集まったな」

 やけに薄暗い司令室の中、俺は集った面々を見渡す。

 大きな長方形の卓についているのは五人。このエルロード帝国で選び抜かれた五人である。

「リリィ、ちょっと疲れちゃった。クロノ、抱っこしてー」

「ダメです。そのまま寝るつもりでしょう。今日は私の番なので」

 上座につく俺から、左に座るリリィが甘えたように言うと、右に座るフィオナがすかさず止める。リリィの小さな鼻をちょんちょんと突っついて、可愛らしいワガママを阻止していた。

「一応、ここは公の場。プライベートな会話は慎むべきかと。マスターのためにも」

「ふん、いらぬ気遣いだな」

 リリィの隣に座るサリエルが一応の諫言を述べるが、その対面に座すゼンノンガルトは興味なさげに鼻を鳴らした。彼女たちの痴話喧嘩などに興味はないとばかりに。

「あの……なんで僕、ここに呼ばれてるの」

 そして一番下座にいるシモンが、気まずそうに声を上げていた。

「それでは、これより対使徒部隊『アンチクロス』の作戦会議を始める」

「いや、だからなんで僕が呼ばれてるのさ。絶対関係ないじゃん」

「まぁ、そう言うなシモン。説明は後でちゃんとする」

 ひとまず、今ここにいる者達が俺の選抜した『アンチクロス』のメンバーとなる。ほぼ『エレメントマスター』で、シモンは元から身内のようなもんだし、実質の新顔はゼノンガルトだけだろう。

 けど人数がいればそれでいい、というワケじゃないからな、この部隊は。

「すでに知っての通り、『アンチクロス』は使徒に対抗するための特殊部隊だ。魔王直属で、通常の指揮権とは完全に独立した部隊となる」

「リリィがいるから大丈夫だよー」

「まぁ、魔王本人と元帥が揃っているんだから、好き勝手動けるのは当然なんだが」

 この辺は一応、組織としての建前ってことで。それにメンバー全員が常に一緒にいるワケでもないし。

「十字軍は圧倒的な数も問題だが、やはり使徒の存在が最大の脅威だ。その上、奴らは自由行動だから、いつどこに出現するか分からない。最悪、いきなり単独で乗り込んできてもおかしくない」

「そんな神出鬼没な強敵に対抗するための部隊、ということなのだろう」

「その通りだ。使徒出現の際には、『アンチクロス』を中核として、即座に対応できるような体制にしておかなければ、奴らの圧倒的な力に押されて瞬く間に総崩れになる」

 求められるのは、使徒に対抗できる少数精鋭と即応力。

 使徒は一万の兵に匹敵する、とは言われるものの、馬鹿正直に一万人の兵士をぶつけて倒せるとは限らない。いざとなれば逃げるだけだし、一万近い兵士を消耗した上で逃げられれば、取り返しのつかない大損害を被ることになる。

 だから、使徒を相手にするなら真っ向勝負に耐えられる最精鋭のみ。他の兵はその支援や、他の十字軍の対応という形になるだろう。その分担が速やかにできなければ、いたずらにこちらの損害を増やし続けるだけとなる。

「その使徒とやらを相手できそうなのは、これだけか」

「ああ。今や何十万もいる帝国にあっても、使徒と正面からやり合えるのはここにいる面子だけだ」

 勿論、まだ見ぬ強者がいるなら大歓迎だが。今のところ、そんな都合のいい人材は見つかっていない。『アンチクロス』も隊員募集中。条件は厳しいが、我こそはと言うものは是非とも志願して欲しいね。

「もっとも、単純な強さだけじゃない。より重要なのは、どれだけ使徒に有効な手段を持っているかだ————その対使徒能力において、『アンチクロス』には序列をつけている」

 順位付けがある、という言葉に全員がピクっと反応した。

 これは完全に俺の独断と偏見だからな。伝えるのは今が初めてだ。

「序列第一位はフィオナだ」

「ええぇー、なんでぇー! なんでリリィが一番じゃないのー!」

「リリィさん、ちょっと黙っててください」

「選考基準は、単独でどれだけ使徒に有効な手段を持っているか、だからな」

 言わずもがな、フィオナは現時点でもメンバーの中で、いやエルロード帝国においても個人での最大火力である。

 元祖必殺技たる『黄金太陽オール・ソレイユ』は直撃を許せばオーラ全開の使徒にだって深手を負わせられる。より威力を増した『暗黒太陽クロノ・ソレイユ』なら一発で倒せる可能性だってあるほどだ。

 そして何より、俺達にとって使徒攻略の基礎となる次元魔法ワールドディメンション煉獄結界インフェルノフォール』がある。

 サリエル戦でも、マリアベル戦でも、これがなければそもそも勝負にもならなかった。現状、最も頼れる使徒弱体化手段だ。

「フィオナは『アンチクロス』第一位として、基本的には使徒対策に集中して欲しい。階級は特務大佐とし、大佐と同等の権限を持つ。使徒出現の際には、必要とあればその権限で兵を動かしていい」

「では私の魔術師部隊はもう解散していいのですね」

「いや、それはそれで続けてくれ。使徒がいないのが明らかな戦場なら、魔術師部隊を率いて普通に戦って欲しい」

「そうですか。まぁ、いいでしょう。了解しました」

 これといって面倒事が増えるわけではない、と納得したのか、フィオナは大人しく頷いてくれた。

 とりあえず特務大佐という特別な階級を用意したが、フィオナなら普段は余計な口出しをして指揮を混乱させることもないだろう。

「第二位はリリィだ」

「むぅー、しょうがないなぁ」

「リリィは帝国軍じゃ元帥でトップだしな。こっちでは二番手でもいいだろう」

 とはいえ、リリィの能力にはかなり頼ることになることに違いはないのだが。

 フィオナに劣るとはいえ、使徒にダメージを与えうる火力と次元魔法ワールドディメンション、両方をリリィは兼ね揃えている。

 そして弱体化させた使徒を真っ向から叩き潰すための切り札が『妖精合体エクセリオン』だ。

 リリィとフィオナ、どちらが一位でもおかしくない能力だと思っている。フィオナが一位なのは、リリィには女王に元帥と色々と背負わせすぎているという面が決め手でもあった。

「第三位はゼノンガルトだ」

「そのホムンクルス女じゃなくていいのか?」

「言っただろ、選考基準は対使徒能力だ。加護を遮る次元魔法ワールドディメンションは非常に有効だからな。その使い手の方が高くなるのは当然だろ」

「俺はすでに、魔神カーラマーラの加護を失っているのだぞ」

「切り札を隠すのは冒険者の癖だな。悪いがゼノンガルト、今のお前は帝国の騎士だ」

「ふっ、元より、リリィ女王を前に隠し事ができるなどとは思っておらん。時が来れば、俺は全力をもって戦おう。精々、上手く使うのだな、魔王陛下よ」

「ああ、頼りにさせてもらう」

 実際に、俺はリリィから今のゼノンガルトの力を聞いていた。隠し事できないって、マジで冗談でもなんでもないんだよなぁ。

「サリエルは第四位。次元魔法ワールドディメンションこそないが、その実力と経験からして申し分ないだろう」

「はい、マスター」

 純粋な前衛戦力としてサリエルは大切だ。

 俺とリリィのエクセリオンと並んで、サリエルが加われば、使徒相手でも押し込める。少なくとも、ミサとマリアベルなら確実に倒せるだろう。

 ただ、ミサはあの鎌の能力がより強まったり、マリアベルはさらに霊獣を呼びまくったりすると、どうなるかは分からないが。土壇場で白き神が力を貸す、なんていうクソみたいな奇跡を起こしてくる可能性もあるので、どんな奴でも油断は絶対にできない。

 最高の戦力を揃え、万全の状態で臨む。そこまで上手く持って行くのも重要だな。

「シモンは第五位、ではなく、あえて最下位と呼ばせてもらう」

「この面子の中で張り合おうなんて思わないから、順位なんて別に何でもいいけどさ……僕がいる理由は今でも納得いかないんだけど」

「使徒を倒せる可能性は、お前にもあるからだ」

 シモンは他のメンバーとは比べるべくもないほど、脆弱である。銃で武装することで、ようやくランク2、古代兵器ありったけつぎ込めばランク4相当にまで、といったところだろう。

 けれど、真っ向勝負だけが戦いではない。

 神懸かり的な狙撃の腕前。それと、錬金術師としての開発能力だ。

 そもそもサリエル戦で最後の決め手となったのは、『心蝕弾頭メモリーバースト』である。あのリングで記憶の封印がされていた、というリリィの情報を元に、有効打にならないかと作り上げたものだ。

 その結果は大成功。あれがなければ、今のサリエルもなかった。

 ともかく、シモンはすでにしてサリエル戦で『心蝕弾頭メモリーバースト』を作り、自らそれを撃ってここ一番で命中させる、という大活躍を果たしている。

 シモンならばそのまま戦う以外にも、何か使徒の弱点を突く、あるいは新たな有効策を作り出すことができるのではないか。

 そういう期待を込めて、俺はシモンを『アンチクロス』に加えたのだ。ただし絶対に使徒と相対はしないように、序列は最下位とした。

「うーん、そりゃあ僕も使徒の対抗手段は色々と考えてはいるけれど……今のところは考え止まりで、特にこれといったものはないんだよね」

「シモンは普通の仕事の方も忙しい、というか激務だからな」

「最近はそうでもないよ。スパーダの職人さんも沢山、加わってくれてるし」

 その辺はリリィからの報告でも聞いている。

 シモンにはライフル工場拡大のために第三階層で大忙しだったが、今はスパーダから逃げてきた職人が、レギンさんを筆頭に大勢いる。そして彼らをモルドレッド会長が管理することで、かなり効率的に銃の生産が拡充しつつあるという。

 自分の工房を置いて、その身一つでパンデモニウムまでやって来ることになったスパーダの鍛冶師達だが、銃の量産化という一大計画を実行中のウチでは、彼らは貴重な人材となった。図らずとも、大勢の鍛冶師の働き口ができて良かった。

「あまり無理はするなよ。何か思いついたら、俺の方から直接頼むと思うから、その時はよろしく頼む」

「任せてよ。昔と違って、今は古代遺跡も込みで設備が整ってるからね」

 笑顔で応えてくれるシモン。だが、その眼もとには薄っすらと隈が……やっぱり今もブラックな労働してるんじゃあないのか。

「それで、クロノさん。何か使徒の良い攻略法は思いついたのですか?」

 序列第一位のフィオナ様が、痛いとことをズバっと聞いてきたものだ。

「残念ながら、今はまだ。帝国軍の編成だけで手一杯だったからな。けど、ようやくこれからじっくり考えられそうだ」

 ひとまず、リリィをトップとした帝国軍に、スパーダ難民とアトラス周辺国を取り込んだ後の統治。いずれも、ようやく進むべき方向性が出来て、それぞれ動き始めてきたといったところである。

 後は俺がどうこう口出しすることではなく、そこに携わる人々が進めていくべき段階だ。

 確かに俺は魔王で、帝国の皇帝となった。

 だが、それは自分の領土を支配したいからではない。十字軍をパンドラから駆逐するための防衛戦争を遂行するためだ。

 だから、帝国を統べるための政治はリリィと議会に丸投げ状態でいい。俺は無数の十字軍と、大陸に蔓延る十字教勢力、そして神に選ばれし使徒、その対策を考えて実行するのみ。魔王クロノは、パンドラを守るために戦うだけの存在なのだ。

「そういうワケで、リリィ、第五階層のラスボス、デウス神像の用意を頼む」

 まずは、一番強くて一番硬い、ラスボスモンスターを実験相手に使徒対策を試行錯誤していこうと思う。

 2021年6月11日


 前話での補足説明のためのQ&Aのコーナー


 Q 師団の数とかおかしくない?


 A 現代における各部隊の人数構成と、作中で書いた数は必ずしも一致しません。特に師団の最も大人数の編成となる大部隊に関しては、そもそも一万人も集まってない段階なので、リアルと全く同じような人数構成にしてもまだそれを活かせない状態にあります。

 また、歴戦の軍人ではないクロノは、知識だけの素人です。同時に、私もハイレベルなミリオタでも軍事研究家でもありません。そこで、私とクロノは思いました・・・分かりやすい人数で区切ればいいじゃん、と。

 そういうワケで、作者のメタ的な理由と、クロノ自身も区切りの良い数でまずは編成しようと考えるだろう、という二つの大きな理由によって、このような人数構成とさせていただきました。

 同様に、将官、佐官、などの階級も、分かりやすい数で構成しました。5段階の3階級です。冒険者ランクも5段階制なので、この辺も分かりやすさ重視で同様の数での段階分けにしました。


 Q 大将はジョセフでいいの? 都市を治める政治家と軍事組織の長は兼任して大丈夫?


 A リリィは女王で元帥だから、大公で大将になってもへーきへーき!

 民主主義国家なら余裕でアウトですけど、異世界ファンタジーのパンドラ大陸では、まだまだ中世風の絶対王政、封建社会が主流ですので、政治も軍事も一個人に権力集中するのは当たり前ですね。国王は勿論、貴族だって自分の領地を治めつつ、治安維持と防衛のために騎士団や私兵を持っています。竜王ガーヴィナルや剣王レオンハルトのように、君主自ら先陣を切って、というタイプもまだまだ存在している世界ですし、彼らほど強くはなくても、総大将として国王が出張って来ることもよくあります。

 勿論、卓越した指揮能力や戦闘力を誇る信頼できる人物を将軍として取り立てて、指揮権を預ける、といったこともありますが・・・クロノの帝国は出来立てほやほやの新興国家もいいとこなので、一軍の長を任せるに足るような実力と実績のある人物はいません。ですので、すでに権力を持っている者が順当に相応の軍事権を預けられる、という形になりました。

 というか、帝国軍で大事なのはリリィの言うことをちゃんと聞ける良い子かどうか、なので。ジョセフ大将閣下は適任であります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 剣王とシモンの姉さんとサリエルは、特殊能力でなく戦闘の実力で押していくタイプなので序列が気になる。ただ、彼らは指揮能力もありそうなのでアンチクロスとの兼任かあるいは純粋にアンチクロスか…
[一言] シャルちゃん義理人情に厚そうだからなぁ、軍人さんやれるか、ちと不安 エリナ嬢は順当ってことで~ アンチクロス内での順位付け~一応指示系統にもなっているのかな? てか、メンツが足りないよなぁ、…
[良い点] アンチクロス部隊良いですね。順位付けされているのが琴線に引っかかります。順位争いで決闘とかあってほしい!厳しくするという入隊条件もどんな感じか楽しみ。 シャルロットも力を付けて目指すのかな…
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