第828話 エルロード帝国軍構想(2)
「うーん……」
などとわざとらしく唸ってしまうほど、俺は悩んでいた。
帝国軍を編成するぞ! と息巻いたものの、具体的な原案を作るにあたって、俺は行き詰ってしまったのだ。
暗黒騎士団の時は、さほど悩む必要はなかった。限られた人員で、面子の適性も把握済み。ただ戦闘での役目に応じて振り分けるだけ。冒険者パーティの延長であり、アルザスでちょうど同じ人数を率いて戦ったという経験がなによりも大きい。
しかし一国の軍隊、万を超える人数での組織編制となれば、全くもって未知の領域だ。こんなことなら、生徒会長でもやれば良かったか? ウチの高校、一万人も生徒いないし、そもそも俺の学年での生徒会選挙終わってたし。
「ああぁ……全てが懐かしいなぁ……」
「マスター」
「っ!?」
完全に懐かしき思い出へと現実逃避の真っ最中に声をかけられ、ちょっとビクってなった。授業中に居眠りしてた時みたいな。
いかん、まだ思い出に思考が囚われている。
「どうした、サリエル」
「酷く、思い悩んでいるので」
「そりゃあ、下手なことはできないからな……」
ヒツギと違い、サリエルは基本的に空気を読んで、必要な時以外に自ら声をかけることは少ない。
だが、そんなサリエルがわざわざ俺の様子を見て声をかけたのだから、余計な心配をかけさせてしまったか。とはいえ、大丈夫だ問題ない、と即答できる気分でもないのは確かだ。
いや、ここは思い切って甘えてみるべきか。
というか……サリエルが一番適任なのでは。今の俺の悩みを打ち明けるにあたって。
「サリエル、相談させてくれ」
「はい」
「まずはコレを見てくれ。俺が考えた原案だ」
ここはいつもの第五階層の司令室なので、魔法というよりSFチックなホログラム投影装置が使える。モノリス操作のイロハをリリィからきっちり教わっている俺は、パソコン代わりになる程度には扱えるようになっている。ネットはないのでオフライン状態だけど。
そうして、すでに入力されているパンデモニウムの人員や生産状況などの情報を元にして、おおまかな原案をデータとして作り出している。
俺が作った組織図や、それぞれ割り振った階級、部隊編成などが、複数の画面となって浮かび上がる。
サリエルはそれを一瞥すらせずに、答えた。
「これで問題ありません」
「お前なら、俺がただ肯定して欲しいだけじゃないってのは分かるよな?」
「マスターの作業はずっと見ていましたので。内容は全て把握している」
一応、機密ってことでプリム含めて作業中は司令室に誰も入れてなかったけど、流石に一人きりなのはアレだというからサリエルはOKしていた。たまにコーヒーとか淹れてくれたな。
俺は作業に集中しているから、てっきりサリエルは暇を持て余していたと思ったが、よく考えればそんなことを彼女がするはずもないか。
「何故、これでいいと思った」
「銃の装備を前提とした軍事組織は、現代のパンドラ大陸には存在していない。よって、近代的な軍事形態を専門的ではないにせよ、知識のあるマスターの考えたものが最も理に適う」
「だが実際に戦うのは今の時代の人だ。俺達だけならいいが、これからはスパーダ人やアトラス人の多くも兵士となる。そんな時に慣れない組織形態なのはどうかと思ってな」
「その懸念はある。しかし銃を主力装備として採用した以上、これまでとは異なる運用になるのは避けられない。帝国軍を一から組織する今だからこそ、新たな軍事形態を始めるべき」
「たとえそれが、聞きかじりのにわか知識だとしても、か」
「私の記憶と照らし合わせてみても、この原案に大きな間違いは見当たらない」
「伊達に文芸部でラノベ書いてたわけじゃないからな。軍の組織形態くらいは一通り、な」
今回、俺は堂々と近代的な階級を採用することにした。いわゆる、大佐とか軍曹とか、誰でも一度は聞いたことのある軍隊での階級名だ。
俺の知る限り、今のパンドラ大陸でこういった階級名を用いた軍隊は聞いたことがない。
「そういえば、シンクレアだとどうなんだ?」
「十字教会と貴族とが個別に戦力を持っているため、統一した階級制は存在していない。おおよそ、互いの力関係で誰が指揮権を握るか決まる」
そんな指揮系統でもスパーダまで征服しているのだから、堪ったもんじゃあない。
「上位の指揮系統が複雑になることは多いが、部隊の単位は大中小とおおよそ統一されている」
たしか十字軍の奴らも、小隊長だとか中隊長だとか、指揮官をそんな風に呼んでいたな。この辺は誰が指揮権を握っても同じだから、現場レベルではそれほど混乱はないということだろうか。
ともかく、シンクレア共和国のあるアーク大陸でも、そういった名前で組織はしていないってことだ。
それなら、安心して現代初と銘打って帝国軍で採用させてもらおう。
「リリィを元帥として、将官、佐官、尉官、下士官、兵士の五つの階級に分ける」
ホロ画面を操作して簡易的な組織図を拡大。
頂点に立つのはリリィ。妖精の姫で、地獄の女王で、そしてこれからはエルロード帝国軍の元帥として、魔王から全軍の指揮権を委ねられた唯一無二のトップ。
そもそも帝国という存在はリリィなしでは最早、成立しえない。俺が魔王として全軍を指揮するよりも、リリィが直接やった方がスムーズに動くだろう。
戦略的な要望は、俺がリリィに伝える。彼女はそれを元に、最適に帝国軍を動かしてくれるだろう。
そんな魔王よりも重要な帝国の要であるリリィ元帥閣下に続くのが、将官の位だ。
大将、中将、少将、の三つ。
大将にはカーラマーラ大公ジョセフ・ロドリゲス。
帝国軍の兵士の大多数を占めるのは、パンデモニウムの外周区である大公領に住む人々となってくる。今の状況と人員を鑑みれば、この大公領を治めるジョセフ本人に大将を兼任してもらうしかない。
ついこの間まで、解散寸前の弱小ギャングのボスでしかなかった彼には重い役職かもしれないが、その立場とリリィに忠実なことから、他に任せられる者はいないだろう。
中将はウィルだ。
避難してきたスパーダ人からも、帝国軍の兵士となる者は多いだろう。さらに大きな理由としては、スパーダの重臣達にも、それなりの位を帝国軍で与えることになる。
彼らは現役で国と軍とを動かしてきた経験者だ。カーラマーラの上層部は軒並みリリィが洗脳済みなので、その才能を活かすのは難しい状況にあるのだが、まだリングを被せられていない彼らは、これまで通りの仕事ぶりが期待できる。
そんなスパーダ人の指揮官が多ければ、ウィルが軍の中で高い地位にある方が動かしやすいだろう。
ただ、それを利用して帝国軍内であまりにもスパーダ人が幅を利かせる様になれば、元帥閣下が黙っていない。
少将には、シャーガイル・カルタハール、というジン・アトラス王国の将軍を採用した。なんでも、アトラス連合艦隊で全軍の指揮を執っていた大提督なのだとか。
現在の帝国はアトラス大砂漠が領土の99%以上を占めている。国土防衛はぶっちゃけリリィ一人で十分なのだが、流石にそれはアレなので、通常兵力としても防衛戦力は重要だ。で、このアトラスにおいて何が一番の戦力になるかといえば、砂漠船による海軍である。
アトラスにおいて誰もが認める海の将軍が、シャーガイルなのだ。『ジンのオオアギト』という二つ名もあるそうで。
卓越した艦隊指揮能力に、それを支えるために最新鋭のテレパシー通信機を揃えた先見の明。そしてシャングリラの砲撃にも怯まず突撃を選択した勇気と、リリィの力を前に全軍降伏をした決断力。リリィとしても、大砂漠の平和を守る艦隊を任せるに足る人物だと認めているそうだ。
「将官は別に三人きりじゃないけど、規模からして今はこの三人だけでいいだろう」
「フィオナ様は」
「……」
「フィオナ様は、将官に任命せずともよいのですか」
「うーん……やっぱり、それ聞いちゃう?」
こっくり、とサリエルが頷く。
無機質な赤い瞳に見つめられて、俺は正直に打ち明けた。
「どうすればいいのか、全然思いつかないんだよな」
「その気持ちは理解できる」
この際、縁故採用全開でフィオナを大将に据えたっていい。どうせリリィが帝国軍を動かすのだから。
しかし、だからと言って彼女に頼り切りの組織運営を続けるのはまずい。
フィオナだって、偉いだけで特にやることはない、って状況も困るだろう。そもそも暗黒騎士団の魔術師小隊を率いるだけでも難色を示す、孤高の魔女様である。大きな組織運営やら指揮能力やらを求めるのは、あまりにも酷と言うものだ。
「でもあんまり半端な階級にしちゃうと、それはそれで揉めそうなんだよな」
軍では上官の命令は絶対である。
だが、フィオナが仮に腕利きの魔術師というだけの待遇で大尉くらいの階級に任命したとしよう。いざ戦場で、彼女が顔も知らん上官殿の命令を素直に聞くかどうかと問われれば……まぁ、よほど理不尽だったりしない限りはフィオナも従うだろうが、使徒出現などの緊急事態になると、彼女は命令など待たず自分の判断を信じて動くだろう。
軍となれば命令違反は罰せねばならないが、魔王である俺の恋人だと周知の事実となっているフィオナを裁くというのも大変だ。多分、俺はフィオナを庇うだろう。甘いと分かっていても。そして、そんな俺に真っ向から意見を言える者は、恐らくはリリィとウィルくらいってところ。
「偉くするのもまずいし、ただの魔術師にするのも困るんだよ、フィオナは」
「ここは割り切って、例外を認めるべきでしょう。通常の指揮権とは独立した存在であると」
なんだそれ。俺はただの高校生だけど、実は異能力者だから国を守る秘密組織のエージェントで、警察も自衛隊も手出しできないんだぜ、みたいなカッコいいポジション。
「そんなことが許されるのか」
「フィオナ様は一介の魔術師ではありません。使徒、という十字軍の戦略兵器に対抗できる、こちらにとっての戦略兵器です」
なんてこった、高校生能力者よりもカッコいい感じになってきたぞ。いいな、俺も今からそういう路線で行けないかな……
「無理です」
「実はリリィが真の魔王だったってことで、俺はフリーになるというのは————」
「無理です」
「……ともかく、対使徒の切り札になる者は、それ専用の特殊部隊みたいな感じで、俺の直属にするってことか」
「はい、フィオナ様のように指揮能力より戦闘能力のみに特化した者は、そのように扱うべきかと」
「どの道、使徒に対するカウンター戦力は用意しなきゃいけないし、フィオナはそのメンバーには確定だ。魔王直属の独立した特殊部隊というのは、一番収まりがいいだろうな」
「部隊名はお決まりですか」
「勿論、『アンチクロス』だ」
「実績のある、良い名前だと思います」
最初の犠牲者としての皮肉だろうか? ここは素直にその力を認めてくれていると思っておこう。
今のところ、使徒を倒した実績はフォーメーション『逆十字』のみだ。ガラハド戦争で第七使徒サリエルを倒し、カーラマーラ到着直前に現れた二人の使徒の内、マリアベルは俺抜きで『逆十字』を仕掛けてほぼ完封している。
フィオナの『煉獄結界』を起点とする使徒弱体化からの瞬間最大戦力である『妖精合体』で押し切る、というフォーメーションはいまだ破られてはいない。
マリアベルが生きのびた以上、タネが割れてしまったのは痛いが……それでも、使徒とはいえそう簡単にひっくり返せるものではないはずだ。
「これからは『エレメントマスター』以外にも最精鋭を集めて、使徒の攻略法を編み出して行こう」
現時点でも、すでにパンドラ大陸には四人もの使徒がいる。
アイゼンハルト王子の体を奪い、以前よりも遥かに力を増して復活した第八使徒アイ。
俺にとっての因縁の相手でもあり、向こうも俺を恨んでいるであろう、第十一使徒ミサ。
直接矛を交えることはなかったが、リリィの挑発のせいでやはり俺を恨んでいるらしい、第十二使徒マリアベル。
そして第七の位に代わり、新たな位に覚醒した第十三使徒ネロ。
四人とも、揃いも揃って俺を敵視しているのだから、奴らとの戦いは決して避けられない。
「とりあえず、『アンチクロス』と使徒攻略については、また今度あらためて相談させてくれ」
「はい、マスター」
「そうなると、サリエルも当然『アンチクロス』入りになるな」
「はい、よろしくお願いします」
「しかし、そのメンバーでも指揮権を持っていてもいいと思うんだ……サリエル大佐」
「はい……大佐?」
「そうだ、サリエルには大佐になってもらう」
俺の作った資料のどこにも書かれていないから、チラ見していたサリエルも知らないだろう。でも俺の中では、組織がどうあれ、サリエルを大佐、あるいはそれに準ずる階級とすることは確定事項だった。
突然の任命に、ちょっとは驚いてくれたのか、二度三度、赤い目をパチクリしていた。
「奴隷に将校の位を与えるべきではないかと」
「そうだサリエル、お前は俺の奴隷だ。俺だけの奴隷なんだ。決して、帝国の奴隷じゃあない」
あえて、お前は奴隷だと断言することにした。
元々、スパーダを納得させるための屁理屈でしかなかった奴隷身分だ。サリエルの身分を解放する、という建前を示すことなど、エルロード帝国という自分の国が出来た以上、簡単なことである。
けれど、サリエルは自分が自由の身になることを求める気はない。だから、今はそれでいい。いつか、もっと自分の感情を出せるようになった時に奴隷なんてやめればいいだろう。
だが、他の人がサリエルを奴隷身分だと思うことは、俺には許せない。スパーダに対する言い訳の必要性もなくなっている。
サリエルにはこの帝国軍でエースとして頑張ってもらいたい。個人の武勇はいわずもがな、彼女には確かな指揮能力と経験もある。そして何より、俺の他に近代的な軍隊について知っているのはサリエルだけだ。
彼女を将校として使わない理由がない。
「だから頼む、サリエル。お前の力を貸してくれ」
「はい、マスター。私は貴方だけの奴隷です。どんな命令にも応えてみせます」
これからは、もうメイドとして俺の身の回りの世話なんてする暇ないかもしれないな。そう思うとちょっと寂しくはある。
「それで、ここからは佐官以下になるが————」
前述した通り、尉官、下士官、兵士、と続く。将官からの五階級をまとめると、以下の通り。
大将、中将、少将の将官。
大佐、中佐、少佐の佐官。
大尉、中尉、少尉の尉官。
曹長、軍曹、伍長の下士官。
上等兵、一等兵、二等兵の兵士。
現代の軍隊だとこれ以上の細かい区分などもあるが、ひとまずは俺の分かりやすいように五階級の三段階に統一している。
なので、それぞれが率いる部隊の規模も五つに分けている。
師団。一万人。師団長は将官。四個連隊以上。
連隊。千人。連隊長は佐官以上。二個大隊以上。
大隊。500人。大隊長は佐官。三個中隊以上。
中隊。150人。中隊長は尉官。四個小隊以上。
小隊。30人。小隊長は下士官。
人数は固定ではなく、前後する。特に大隊以上になると、何個の隊を含めるかでかなり人数の差が出てくるので、これもあくまで目安程度なものだ。
規模が大きくなる連隊からは佐官と将官が人数に応じて隊長となる。
各隊の人数が等倍じゃないのは、おおよそこんな感じの振り分けだったと記憶しているからだ。
中隊が150から200人程度なのは、ダンバー数だかいう、人がコミュニティーで全員を知り合いと認識できる限界数、みたいな理論だったはず。人間の本能的な性能のことなので、この理論を知らなくても原始的な集落や集団は自然とこれくらいの人数に落ち着くそうだ。
スパーダでは百人隊、十字軍なら中隊、とどれもおおよそ100から200くらいの人数で構成されているし、きっと他の国の軍隊でも……いや待て、他の種族とかになるとひょっとしてダンバー数も変わるのだろうか。検証の余地はあるが、ひとまずはこんな感じで。
「小隊には、最低でも機関銃一丁、狙撃銃一丁、魔術師一人を配置する」
機関銃はクロウライフルと共に試作が続けられており、ようやく量産化の目途がたった頃に、ちょうどスパーダ陥落となった。しかし、図らずとも首都防衛戦で試作量産型機関銃をフル稼働で使い実戦テストが十分にできた。
細かな問題点や調整を要するとはシモン談だが、十分に実戦配備可能なレベルに仕上がっていることは証明された。後は、第三階層ファクトリアの工場フル稼働で生産していけるだろう。
狙撃銃の方は、専用で設計したスナイパーライフルと、クロウライフルの中でも特に精度が良いものにスコープを取り付けた二種類となる。狙撃手にはスナイパーの他に、マークスマンと呼ばれるのもある。
確かマークスマンは選抜射手、つまり射撃の上手い奴という意味で、小隊メンバーとは基本一緒に行動する。主に装備するのは高精度クロウライフルのスコープ付き。
スナイパーは相方の観測手と共に隊を離れて行動もできる、より上位の能力を求められる感じだったはず。なので、まだ量産化はできていないスナイパーライフルを優先的に支給される。アルザス防衛戦ではスーさんがスポッターを務めていたので、あの時のシモンはやはりスナイパーでいいのだ。
厳密な定義は割とどうでもよくて、とにかく部隊の中で射撃上手い奴には、狙い撃ちするのに良い銃を装備させようというだけのことである。
そして魔術師だが、銃があれば下級程度の攻撃魔法など無意味となるが、防御魔法と支援魔法は別である。魔法の腕前というのは、個人に大きく差があるものの、それでも魔法の力を使わないのは勿体ない。たとえ下級魔法でも、防御と支援、どちらか一つ使えるだけでも違ってくるだろう。
本当は治癒術士も一人は所属させたいところだが、如何せん、魔術師よりも人数は少ないので、全ての小隊に配置するほどの人員は確保できそうもない。兵士にはそれぞれ応急処置を学ばせて、貴重な治癒術士は衛生隊として活動させるしかないだろう。
「小隊の隊員構成は種族、出身で分けるのですか?」
「そこも悩みどころでな……ひとまずは、種族、出身、それと全て関係なしの混成とそれぞれ試してみようかと思っている」
スパーダの首都防衛戦の時に連れて行ったパンデモニウム軍は、リリィが完璧に調教したカーラマーラ人の人間のみで構成されていたので、期待通りに規律正しく戦ってくれた。だが、これからは全ての兵士をそこまでの『良い子』にはできない。
大公領の人、スパーダ人、アトラス各国、これらの志願兵が加わった時、種族も出身もランダムのごちゃ混ぜで部隊編成して本当にいいのか、という話である。
「私には地球の知識と、十字軍での経験がありますが、様々な種族で構成される軍事組織には詳しくない」
「アルザスの時は上手く行ってたから、混成部隊でも大丈夫だとは思うんだが、それも場合によりけりだろうし」
あの時は全員が冒険者なので、出身に関しては誰もがこだわりがない、という前提はあったが。人間、妖精、エルフ、ドワーフ、獣人、ゴブリン、オーク、スライム、アンデッド。その他、色んな種族の奴らがいた。正に異世界ファンタジー溢れる編成だった。
そして、彼ら全員一丸となって戦い抜いた。結末こそ報われない最悪なものとなってしまったが……それでも、その戦いぶりは素晴らしいものだったことに違いはない。
やはり、俺の目指すべき部隊の在り方は、あれしかない。
「私も、今は可能性を模索するべきだと思う。また、同種族のみで編成した部隊は、種族特性を活かした運用ができることに間違いはない」
エルフの射手部隊、ドワーフの工兵部隊、獣人の高機動部隊、ハーピィの空中部隊、魚人の水中部隊、などなど、そういう種族の長所を活かした部隊の活躍はファンタジー作品じゃ定番だったよな。
当然、俺もそれにあやかろうじゃないか。
今なら、砂漠の白兵戦に特化したワニ型リザードマンのデゼルダイル種のみで構成した砂漠部隊なんてすぐにでも作れる。というか、元からジン・アトラス王国にはそういう精鋭部隊とかはあるんだけど。
「マスター、一つだけ運用法がすでに確定している種族がいます」
「そんなのいるのか?」
「妖精族」
ああ、そういえばリリィが呼びかけて集めたんだっけ。
白百合玉座の間には随分と繁殖、もとい移住者が増えているようだが、本格的に帝国軍で採用するほどの大人数というわけではない。
というか、リリィ以外に真面目に戦争に協力してくれる妖精などいるのだろうか。食う寝る遊ぶのヘビーローテーションで生きている彼女達が。
「妖精はテレパシーによる通信兵としての役割が可能」
「そうか、テレパシー通信は妖精本人がやる方がよっぽど性能いいしな。魔道具だけじゃ限界あるし」
「ですが、リリィ様が妖精族を呼んだ真意は他にある」
「軍隊で連絡通信よりも優先するような役目があるのか?」
「テレパシー能力による、反乱分子の炙り出し。すなわち、特高警察です」