第827話 エルロード帝国軍構想(1)
緑風の月7日。
一週間ぶりにパンデモニウムへと帰って来た俺は、ひとまず真っ直ぐに第五階層、玉座の間へと飛んだ。
「クロノっ!」
転移の光が収まると同時に目に映るのは、白百合の玉座から跳ねて、真っ直ぐ俺の胸元へ飛び込んでくる妖精幼女。
「おかえり!」
「ただいま、リリィ」
そのまま抱きしめて、ひとしきり一週間ぶりの再会を喜び合った後、一緒に玉座に腰かけて積もる話でもしよう……と思ったが、その前に聞いておきたいことがある。
「ちょっと見ない内に、随分と賑やかになったもんだな」
光の玉が、そこら中を飛び交っている。
リリィの光魔法ではない。それらは二対の羽を生やし、キャッキャと楽し気な声を上げているのだ。
妖精。そう、本物の妖精がここには何十人もいた。
沢山の妖精達が好き勝手遊び回っている姿に目がいきがちだが、この玉座の間そのものの緑化も進行している。
正面扉から玉座に至るまでの道と、その周辺は満開の花畑が広がるが、壁際の方には野太く成長した木々が立ち並び、完全に森と化している。元々あった白い壁面が、今はもう見えない。
そんな森の木々には虫のように、と言ったら印象悪いので、小鳥のように枝にとまってくつろいでいる妖精達は、どうもここに住み着いているようだった。なんか普通に木の実とか食ってるし……玉座の間って飲食OKだったっけ。
「まさか、あの空から落ちてきた男が魔王になるなんてね」
「ん? この妖精、どこかで見た気が……」
あからさまに不躾な視線を向けていたことに気が障ったのか、あまり機嫌の良さそうではない表情の妖精が一人、俺の前に飛んで来た。
で、その子には見覚えがあるのだが、よく考えればリリィ以外の妖精を見たことあるのは、妖精の森が9割以上である。見覚えがあるというなら、あの頃に見たってことで確定だ。
「もしかして、リリィを追い払ったあの時の」
なんて命知らず、とは今だからこその感想か。
ともかく、俺とリリィが初めて出会った直後にやって来ては、妖精の森からさっさと出て行けと縄張りを主張しつつ威嚇してきた妖精の子である。どうやら、森の妖精達のリーダー格ではあったようだが……
「ええ、そうよ。一応、覚えてはいたみたいね」
「むぅー、クロノは魔王なんだよ! ちゃんとしないと、メッ! だからね」
リリィが口を尖らせて注意をすると、妖精は渋々といった様子で礼の姿勢をとった。空中で。
「クロノ魔王陛下に拝謁の栄誉を賜り、えーと、ネネカと申しまーす」
「無理しなくていいぞ。ここはリリィの部屋で、今は君らの住処のようだし、妖精らしく気楽にしてくれ。礼儀とかに気を付けるのは、他の人の目がある外だけでいい」
「そっ、ありがとね」
あっけらかんと言う妖精ネネカの態度に、俺は自分で思ったよりもほっとしていた。
ここ一週間、ファーレン、アダマントリア、ヴァルナ、とずっと国賓待遇で堅苦しい思いをしっぱなしだったからな……タメ口で気兼ねなく話せる相手がウィルしかいなかったよ。
「しかし、君がここにいるということは」
「そうよ、妖精の森のみんなでここに来たの。もう、あそこにはいられないから」
深くは聞かずとも、彼女たちの苦労は察せられた。
「歓迎するよ。リリィが呼んだんだろ?」
「うん! 他のところから来た妖精もいるよ!」
俺の膝の上で、弾ける笑顔で応えるリリィ。
ネネカ達とは、決して良好な関係ではなかっただろうに。それでもパンデモニウムの女王となった今だからこそ、その力を使ってかつての同胞へ救いの手を差し伸べたということだ。
「ああ、優しいなリリィは……なんて優しいんだ」
「えへへー!」
撫でるだけで、無邪気に喜ぶリリィがいっそ神々しくもある。
「はぁ……ま、そういうことにしとけばいいいわよ」
俺が感動の撫で撫でをしているところを、ネネカが心底呆れたような表情を浮かべてから、そのまま飛んで行ってしまった。
とりあえず、パンデモニウムは誰でもウェルカム状態である。妖精達が来てくれるのも大歓迎だ。でも、やっぱり玉座の間に定住すんのはどうなんだろうとは思うが。
「でも、俺はリリィが妖精達と一緒に暮らせるようになったことが、一番嬉しいよ」
あの頃、着の身着のまま放り出されただけだった俺には、リリィにできることは何もなかった。ぶっちゃけただのヒモだった。
冒険者となってクエストこそほどほどにこなし、村での生活にもすぐに慣れていったが……リリィが光の泉を追い出されていた状況には変わらなかった。
俺はただ一緒にいただけで、問題を解決するための行動を起こすにも至らなかった。そもそも部外者である俺が妖精族の事情に首を突っ込む資格などないのだろうが、それでもリリィがあんな村八分のようなことをされて良いとは思えない。
本当はリリィだって、普通の妖精と同じように、仲間と一緒に毎日楽しく遊んで暮らしているべきなのだ。
結局、十字軍が来たせいで光の泉そのものが失われてしまったが、まさかこんな形で妖精達と一緒になるとは思わなかった。
「リリィは、クロノがいればそれでいいの。だから今までも寂しくないし、これからも嬉しいんだよ。ずっと、ずーっと、一緒にいるから」
にへら、と蕩けるような笑顔でくっついてくるリリィを抱きしめながら、思う。
今まで、失ってきたものが多すぎた。それでも、ちゃんと得たものもあるんだと。
だから、守らなければならない。リリィと沢山の妖精達がいるこの玉座の間は、俺が望んだ理想の光景なのだから。
しばらく幼女リリィと戯れて、一週間分の精神疲労を癒したところで、お仕事の話である。
俺とリリィ、それからウィルを招いた三人で司令室へと集った。
「————というワケで、無事に三ヶ国とは同盟を更新してきた」
「そう、何事もなく無事に終わって良かったわね」
幼女の姿は変わらずだが、意識は大人に戻したリリィが頷く。
パンデモニウムから正式にエルロード帝国を建国し、その皇帝にして新たなる魔王クロノの誕生。普通はどこも認めないが、今の状況と、そして何よりパンドラ神殿で魔王ミアの加護証明ができるようになったことで、単なる世迷言と笑われることはなくなった。
「遥か海の彼方からやって来た連中が、僅か二年でスパーダさえ滅ぼしたのだ。一番遠いヴァルナの百獣同盟でさえ危機感を抱いておったからな。こちらの同盟を蹴るメリットもなかろう」
ウィルの言うように、三ヶ国ともスパーダが滅びたことで十字軍に対する情報収集は行っている。そして奴らは、人間以外の種族の排除を公に掲げているし、パンドラ大陸全土を奪還という名目の侵略を行うことも宣言している。
ダークエルフのファーレン。ドワーフのアダマントリア。獣人のヴァルナ。どこも十字軍と友好を結べるとは思うまい。
「特にファーレンはスパーダの隣国だ。明日にでも奴らが侵攻してきてもおかしくない。早速で悪いんだが、物資の援助もすることに決まった」
「勿論、用意はできてるわよ。あそこはスパーダの難民もいるそうだし、ね?」
「本当に、感謝の言葉もない……」
ファーレンには、すでにそれなりの数の難民が流れて来ているようだった。
十字軍のスパーダ全土の占領はまだ始まったばかりのようで、今は首都周辺からはあまり動いてはいないようだ。
だが、首都が陥落した影響はすぐにでも広まるし、十字軍は案の定、近辺の町や村を荒らし始めている。ある程度の準備が整えば、奴らはすぐにでもスパーダ全土占領に向けて動き出す。ダイダロスの時と同じように、それが始まればあっという間だ。
ガラハド要塞でスパーダ軍の主力が一網打尽にされたことで、状況はダイダロスよりも悪いかもしれない。そして、今の俺達にはそれを止める手立てはなかった。
ともかく、首都とその周辺から必死で逃げ出したスパーダ人はもう沢山いて、それに合わせてファーレンへと逃れる人々も出始めているのだ。
スパーダとファーレンはかつて熾烈な領土争いをした過去もあるし、あのイスキア古城なんかはモロにその時代の遺物だが、今は第一王女シャルディナがファーレン王サンドラへ嫁いだことで、友好関係を結べている。お陰で、難民も国境線で手酷く追い返されることなく、ほとんど無条件で受け入れをしてくれている状態だ。
だが慈善事業だけで国は立ち行かない。今はまだファーレンにも彼らに対応する余裕があるからいいものの、治安や財政に影響が出ればそうもいかなくなる。いくら王妃でも庇うには限界があるのだ。
そうならないために、ひとまずはファーレンにスパーダ難民への支援物資と、モノリスの転移でパンデモニウムへの難民移送を始める、という話はすぐに決まった。この辺はいわゆる人道支援というやつなので、向こうとしても渡りに船。反発はほとんどなかったな。
「王都ネヴァンへの転移が開通し次第、我はパンデモニウムへの移住を呼び掛けて来よう」
「うふふ、こんな地獄に送り込んでいいのかしら?」
「我は間違いなくスパーダ史上、最低最悪の国王となろう。死ねば地獄行きは間違いない……だが、その覚悟は決めておる」
「リリィ、冗談にしてもキツすぎるぞ」
ウィルだけは、パンデモニウムの支配の秘密を知っている。
そして、避難してきたスパーダ人にも洗脳支配が及ぶことも。
「良いのだ、クロノ。リリィ君には、十分すぎる配慮をしてもらっている。彼女の力をもってすれば、我ら全員、奴隷とすることもできるのだから」
現在、スパーダはウィルを国王とした亡命政府を樹立している。
第一階層の一角に『スパーダ特別区』と名付けて、ウィル始め王城に務めていた者や貴族街に住んでいた者達を中心に住まわせている。名目上は、王侯貴族を一般人と同じ場所に住まわせるのは問題だという、この異世界では当たり前の階級意識に基づいたものだが……真の理由は、国のトップ連中を洗脳下におくことである。
転移による避難のお陰で、良くも悪くもスパーダ人達はそのままの状態でパンデモニウムまでやって来た。
だから貴族階級はそれなりの財産を持っているし、ウィルをトップとした王政は亡命政府という形で機能しているので、社会的な制度も大きな変化はない。避難してきたスパーダ人の中でのヒエラルキーは何ら変わらない。すなわち、貴族の影響力も健在というわけだ。
リリィからすれば、トップが分かりやすくまとまっている方が狙いやすくて楽だろう。カーラマーラの時と同じようにすれば、従順な奴隷の完成である。
「すまないな、騙した上に、裏切らせるような真似までさせることに」
「いいや、むしろこれで良かったのだ……洗脳でもしなければ、一丸となって団結することなどできぬのだからな」
助けた恩をもって、パンデモニウムに尽くそう。なんてことを思う奴は貴族として相応しくないだろうな。
支配階級にあるスパーダ人なら、亡命先でも影響力を増すために動くのが当然だ。なんなら、自分達でパンデモニウムを乗っ取ろうと画策したっておかしくない。
こんなに無防備に大量の人員を受け入れた。その上、パンデモニウムはついこの間に樹立したばかりの新興国家で、大迷宮によって豊かな経済力もあるときたもんだ。おまけに俺の評判を知っていれば、スパーダに肩入れしているお人好しだというのも分かるだろう。
こんなに乗っ取りやすそうな国は早々ない。あまりにカモすぎるせいで、かえって野心を煽りそうとすら思えるね。
「候補は来週まで受けつけているわよ」
「すでに目星はつけているだろうに……我が被ることになっても、文句は言わぬ。だが、その時は最大限効果のある使い方をしてくれ」
「そんな酷いことはしないわよ。だって貴方は、クロノの大切なお友達だから」
「国の行く末よりも、男の気持ちを優先するとはな。一国の女王に愛されるというのは、良いものだな、クロノよ?」
「ウィル、冗談にしてもキツすぎる」
さっきも同じこと言ったな、俺。
二人して、そういうギリギリのラインを攻めるのは止めて欲しい。開き直って笑い飛ばせるほど、俺は振り切っちゃいない。
「なに、笑ってくれて構わぬさ。所詮、我らは亡国の民。いつかスパーダを取り戻すその時まで、受難の日々を耐え忍ぶべきなのだ」
「安心して、パンデモニウムはみんなが温かいご飯と寝床が得られる平等な国だから」
嘘は言っていない。ただし平等を維持するために自由を奪うのが、パンデモニウムが地獄の都に相応しい由来である。
ぶっちゃけて言えば、スパーダの王侯貴族など邪魔でしかない。彼らに発言権を持たせても良いことなど一つもない。パンデモニウムに、いや、エルロード帝国に支配者は魔王ただ一人でいいのだ。
だから余計な力をつける前に、さっさとリングを被せるに限る。
ウィルは家臣の中から、誰にリングを被せるかの選択を迫られていた。残酷な選択だが、選べる余地があるだけ有情ってもんだろう。
ウィルが選ぶにせよ、選ばないにせよ、どうせリリィが監視してすでにリストアップも済ませている。ここに避難してきて一週間以上。心の内を見極めるには十分な期間だ。
そして何より、リングを免れたところで、洗脳放送垂れ流しの第一階層に住んでいる以上、リリィからは逃れられない。遠からず、最初のカーラマーラ民のように、スパーダ人も毎日笑顔でヴィジョンの前で万歳体操をするようになるだろう。
「王族だ、貴族だ、とこれまで支配者を気取って来たのだ。国が滅びたなら、その責を真っ先に追わねばならぬだろう。だから、我らは地獄の奴隷と化そうとも、それが祖国解放のためとなるなら喜んでその身を捧げよう」
「そうでも思わないと、この状況はやりきれないからな」
「なぁに、大半は外に住まわせてもらっているのだ。本当に、寛大な処置に感謝している」
スパーダ亡命政府を管理するためにスパーダ特別区はあるが、そこに入れなかった一般市民といった大半の避難民は、外周区にまとまった居住地を作った。スパーダ人街、というべきか。万を超える人数なので、複数個所に分散することになったが。
最も大きい場所は、あのシルヴァリアンファミリアが縄張りにしていた北部である。奴らの壊滅と同時に、元から十字教信者だったと思われる住人が多数、脱出をしている。お陰で、あそこの人口は随分と減ったようで、空き家や空き地が目立つようになった。新規で人を入れるにはうってつけの場所であった。
「スパーダ人は逞しいわね。もう勝手に商売を始めて、馴染んでいるわよ」
「自立してくれるなら、それに越したことはないさ」
いずれ、横浜中華街とかリトルトーキョーみたいな感じに発展するのだろうか。今はまだ遠い外国からの人々という感じだろうが、その内に馴染んでくれればよいのだが。
こうして、俺の魔王宣言によって受け入れた大量のスパーダ難民は、王侯貴族は特別区で徹底管理し、大多数は洗脳の影響が薄い外周区に居住、という形でひとまずの治まりを見せている。
「それで、リリィの方はどうなんだ? その……穏便に治まったのか」
「勿論! クロノの慈悲深ぁーい処遇に、みんな泣いて喜んでいたわよ」
怖くて泣いてたんじゃないの? 女王様の気分一つで国土メチャクチャにされると思えば、正気じゃいられないだろう。
とはいえ、そんな同情心だけでアトラス連合艦隊を結成した周辺諸国への対応を決めたわけではない。
混乱が起こらないよう、可能な限り低く定めた税に、志願兵の募集。これはどちらも、俺の意見を通した結果だ。リリィはもっと税を絞ってもいいし、兵士も一定数を供出させよう、と言っていたが、今回はそれに待ったをかけさせてもらった。
「でも本当にこれで良かったの? 結局、兵も船も土地も失ってないから、どこも余裕あるわよ」
アトラス連合艦隊は死者の一人もなく降伏した。撃沈した船もなければ、戦死者の一人もいはしない。彼らをそのまま解散させて国元へ帰したならば、結果的には各国の戦力は元通り。力が戻ればまた強気にもなるだろう。そうでなくても、艦隊をそのまま帰す気はないが。
「大砂漠の地脈を握っている限り、周辺国まではどうとでもできる。けど、そこから先の国はそういうワケにはいかないからな。帝国に帰属しても、前と変わらぬ生活が保障される、という前例を作っておかなければ、引き込みにくいだろう」
「そうね、ここまで強力に土地を支配できるのは、アトラスだけっぽいし」
他のオリジナルモノリスで、ここまで地脈を操作し土地に影響力を与えられる可能性は低い。ファーレンやヴァルナの森を枯らしたり、アダマントリアで火山を噴火させたり、といった天変地異を起こすことはできない。
長年、魔神カーラマーラが影響を及ぼしていたせいなのか、流砂を制御できるアトラス大砂漠が特殊なようだ。
要するに他の地域で、ここと同じ真似はできない。シャングリラは飛ばせたとしても、通常兵力だけで他国を征服し、強力な支配下に置くという真似はすぐに限界が訪れる。十字軍のように、無尽蔵の兵士がいるならその限りではないが。
スパーダまでの土地を帝国領にして十字軍から守り切ったとしても、内乱でアトラスまで撤退させられ、その後、再び十字軍の侵略によって奪われる、なんてことになれば本末転倒。
そうならないために、拡大する帝国を十字軍から守りながら維持できる体制が必要なのだ。というか、十字軍に対応できるなら、別に帝国に組み込まず、三ヶ国と同じく同盟結ぶだけでも十分だしな。俺は決して大陸統一をしたいワケではないのだから。
「でもね、クロノ。私の手が届かないのをいいことに、帝国入りを蹴ったところがもう出て来たわよ」
リリィが軽く手を一振りすれば、すぐにアトラス全域マップが浮かび上がり、大砂漠の西の端にある地域が赤く光る。
そこはベルドリア、という国名が表示されていた。
「なるほどな、大砂漠との交易を断たれても、他の国と通じる立地だから強気に出られる、ということか」
ウィルがベルドリアのさらに西側と北側を示す。そこから先には大陸中南部と西郡へと続く大きな道が繋がっていた。
「流砂貿易がなくなれば経済的に打撃は喰らうが、国を丸ごと差し出すほどじゃないってことだな」
まぁ、当然の判断だろう。完全に国が滅びる、というほどの脅威がなければ、王位を捨てて下る意味などないし、決して下ってはいけないだろう。
「砂漠の隅の小国如きに、舐められているわよ、魔王様?」
挑発的な笑みを見せるリリィに、溜息をつく。これは試されているのか?
「よせ、リリィ。たとえ小国とはいえ、今は余計な戦いは避けるべきだ」
「魔王軍、もといエルロード帝国軍の編成が急務であるからな」
そう、一番必要なのは強力な軍隊の育成だ。
俺が三ヶ国を回って来たのも、リリィが周辺国を平定してきたのも、全て帝国軍育成のための土台を整えるため。
日々、深い洗脳にあるパンデモニウムは国民皆兵で、外周区の大公領からも志願者は沢山いる。その上に、スパーダ難民からも募集を開始しているし、その内に周辺国からも志願兵が集まって来るだろう。
これらの人数をエルロード帝国軍として組織しなければならない。
「帝国軍の最初の相手には、ちょうどいい国ね?」
侵略する気満々のリリィである。
だが、俺とて自分の手を汚さずにいる気はない。分かっている、こちらから仕掛けることだって必要になることもあると。
「リリィ、ベルドリアの人種構成は?」
「人間が8割」
「脱出したシルヴァリアンの奴らが向かった先も、そこだったよな」
「ええ」
「十字教の影響下にある可能性が高い。ベルドリアは大砂漠侵攻への橋頭保となりうる立地だ。放ってはおけない。こちらの軍備が整い次第、抑えに行こう」
2021年5月28日
私の作品が『ベルセルク』に大きく影響を受けている、ということは言うまでもないことかと思います。特に『黒の魔王』は影響というには直接的すぎる部分も多いです。
主人公は大剣振り回す黒い狂戦士だし、相棒は妖精だし、仲間全滅するし・・・
ともかく、私の創作のベースになるほど非常に大きな影響を与えた、誰もが知る名作漫画です。
かつて活動報告で語ったことがあったかと思いますが、私は元々『黒の魔王』をダークファンタジーとして意識して書いていたワケではありませんでした。タグにないのがその証拠です。しかしながら、多くの感想でそういった作品だと言われ、書籍化の際には堂々とダークファンタジーを名乗るに至りました。
私にダークの意識が薄かったのも、そもそも私にとってのダークファンタジーの基準が『ベルセルク』だったからこそです。あれくらいハードでなければ、ダークファンタジーを名乗れない、といった自分なりの基準でしょうか。
でもよく考えると、ベルセルク並みにハードな内容の作品なんてそうそうないわけで・・・ダークのハードル高すぎだったんだな、とようやく認識を改めた次第であります。
細かく語ればキリがありませんので、この辺にしておきます。
もし『ベルセルク』をまだ読んだことがない方がおりましたら、是非ともこの機会にどうぞ。伝説的な漫画であり、これを読まずしてファンタジーは語れないでしょう。
最後に、三浦建太郎先生のご冥福をお祈りいたします。