第813話 門番(2)
「俺の名はクロノ。『黒き悪夢の狂戦士』クロノだ。相手になってやる、かかってこい」
折角だから、それらしい台詞で挑発しておく。
こっちも受ける意思を示しておかないと、向こうもかかって来てくれないかもしれないし。
「クロノ……おお、そうか、お前がかの有名な『アルザスの悪魔』にして、『ガラガドの悪夢』と呼ばれる、あのクロノかっ! はっはっは、コレはいい、お前のような暴虐の限りを尽くしてくれた悪魔を討ち取れば、将の地位とて夢ではない!!」
俺の名前が、そんなに有名になっていたとはな。
だが、悪い気はしないな。そうさ、俺がお前らの敵だ。十字軍を滅ぼす悪魔の男の名だ。
「あの第七使徒まで倒したという噂、この俺が確かめてくれよう————行くぞっ!!」
元第七使徒のサリエルが、俺のすぐ頭上で見ていることなど露知らず、グレート・ホーガンは真正面から突撃してくる。
どうやら本当に一騎打ちは承認されているようで、後ろに控える十字軍兵士たちは応援の声を挙げるだけで、矢も魔法も俺に放つ様子はない。
一方で、スパーダ軍側からも、特に攻撃する気配も見られなかった。
正門が破壊された対応のために忙しいだろうしな。彼らとしても、こんな一騎打ちなどという茶番で、貴重な時間を稼げるチャンスを活かすつもりだろう。
まさか本当に一騎打ちの邪魔をしないように、などとは思ってはいまい。
「うぉおおおおおおっ、唸れ、灼熱の嵐、『火炎砲』っ!!」
奴が頭上で振りかぶっているのは、赤い長柄斧だ。
揺らめく炎のような曲線的なラインを描く斧の刃には、轟々と火炎が渦巻く。どうやら『火炎砲』を付加しているようだ。
炎を纏う斧を振り回す様が、実に派手で『嵐の炎斧』を自称するのも頷ける見栄えである————だが、虚仮威しだな。
「————『黒凪・震』」
初撃の武技で、迫り来る炎の斧を弾き飛ばす。
至近で切り合えば、渦巻く火炎の高熱に晒されるが、『暴君の鎧』を兜まで被っていればなんてことはない。この程度の熱は十分にミリアの耐熱範囲内であるし、何ならフィオナの攻撃魔法の余波を喰らう方が熱い。
目くらましのような火炎を無視すれば、奴の斧などただの振り下ろしに過ぎない。俺の武技と真っ向から打ち合って、奴が押し負けるのは道理である。
「ぬうっ!?」
「終わりだ」
斧を弾かれ、馬上で大きく体勢を崩したグレート・ホーガンに、トドメを刺すのは容易だった。もう武技を使う必要もない。
何もしなくても、振るえば超振動で切れ味抜群の『ホーンテッドグレイブ』だ。そのまま、返す刀で奴の首筋を撫でてやれば、多少の装甲などものともせずに切り裂いてくれる。
「ぐぼっ、ごぉおおお……」
首から鮮血を噴き出し、口からは血の泡を吹きながら、グレート・ホーガンは力なく馬から落ちていった。
馬はそのまま、トコトコ歩いて正門を潜って行った。ただの騎馬に、罪はないからな。追撃をかける必要はない。
「次は誰だ」
まさか、この男一人だけ、なんてことはないよな。
俺は悪名を轟かす邪悪な悪魔だぞ。首を獲れば褒美は望むがままと、十字教司祭様も保証してくれている。
お前ら十万以上もいるんだ。名を上げたくてウズウズしている野郎共が、まだまだ沢山いるのだろう?
「我が名はザムディン! シンクレア西方大公領、随一の剣士なり!」
「モルドビ男爵麾下『サンダーヘッド戦団』切り込み隊長————」
「華麗なる幻惑の大魔導士!」
「邪悪なる悪魔よ、私の聖なる剣で浄化してくれよう!!」
斬る、斬る、斬る。ただ順番に出てくる奴らを斬り捨てる。
妙な構えの剣士を斬り、槍を構えて真っ直ぐ突撃してくるだけの騎士をぶった斬り、光り輝くだけの剣で斬りかかって来た女騎士を真っ二つ。
長々と詠唱をしていた魔術師野郎だけは、弾丸をぶち込んで張っていた防御魔法ごと粉砕してやったが。
高らかに名乗る割には、コイツらの実力はいいとこランク3といったところ。普通の歩兵よりかは腕も立つのだろうが、大したものではない。今のところ、グレート・ホーガンが一番強い。
「このボールトン兄弟が相手だぁ!」
「ひゃっはぁ、行くぜ兄貴ぃ!!」
挑戦者が十人を超えてきた辺りで、とうとうサシでは敵わないと開き直ったか、二人で挑んでくるヤツも現れた。
正面切って突っ込んでくる弟と、銃撃を警戒しているのか、俺の右側に回り込む様に迫る兄。移動系武技を発動しているのだろう、両者ともなかなかの速度で間合いを詰めてくる。
それでいて、二人同時に仕掛けられるような速度となっている。兄弟だけあって、阿吽の呼吸といった連携であろう。
「ヒツギ、ちょっと悪戯してやれ」
「りょーかいでーっす!!」
そっちが二人がかりなら、俺も相方の力を借りてもいいだろう?
嬉々として返事をしたヒツギだが、実行した悪戯は、小さく、静かに。ただ突っ込んでくる弟の足元に、ちょこっとだけ触手を生やしただけである。
草を結び付けただけの単純な罠に引っかかったのと同じように、小さな輪っかを作る触手に足を取られ、弟は武技によって速さの乗った勢いもあって、盛大に前へと転倒した。
ズザザー、とちょうど俺の手前に弟君が滑り込んできたところに、兄貴が到着。
最早、攻撃は止められないとばかりに、手にした斧が振り上げられている。
そこで、余裕をもって一閃。
長柄である『ホーンテッドグレイブ』のリーチを生かして、ジャンプ攻撃の真っ最中で回避もとれない兄貴を両断する。
「あっ、兄貴ぃいいいいっ!」
真っ二つになって血の雨を降らせる兄の姿に、顔を上げた弟が悲痛の叫びを上げる。お前は兄貴を心配している場合ではないと思うんだがな。
「メリー」
軽く手綱を引けば、我が意を得たとばかりに、メリーは太く逞しい前脚を振り上げ————叫ぶ弟の脳天を踏みつぶした。
手間をかけるな。すぐ目の前で倒れ込んでいるヤツを攻撃するなら、メリーが踏んでくれた方が手っ取り早いから。
刃もなければ、魔法でもない。だが人間など遥かに超える脚力を持つ馬なら、蹴りの威力は絶大。たでさえデカい上に、不死馬でパワーもあるメリーが繰り出せば、その蹄は前衛戦士が振るう全力の鉄槌を凌駕する物理的破壊力を発揮してくれる。
「どうした、来いよ。次は三人組でも、四人組でも構わないぞ」
キョォアアアア! と悲鳴のような声を挙げる『ホーンテッドグレイブ』を振るい、刃の血を飛ばしながら、挑発の台詞を叩き付ける。
まだまだ一騎打ちは望むところだ。
しかし、楽に時間稼ぎができるボーナスタイムも、いよいよ終わりのようだった。
「魔術師部隊、構え!」
「しっかり大盾を持て! 奴の攻撃魔法は強烈だぞ!」
いつの間にやら、隊列を整えていた十字軍兵士が俺の前に展開されている。
杖を構えた魔術師がズラズラと立ち並び、詠唱も済ませて手にした短杖を輝かせている。
その前に、大きな盾を構えて魔術師を守る歩兵が立つ。
一騎打ちではとても敵わない相手なら、遠距離から一方的に撃ち込んで削ろうと言う、まぁ常套手段だよな。歩兵共が二人がかりで構えている大盾も、ただの魔弾くらいなら弾くには十分だろう。
俺の一騎打ちを見て、能力を分析し、対応する。マトモな指揮官が働いているようだが、常識的に過ぎる。別に俺は、全ての能力を見せたワケではないというのに。
なんにせよ、大軍を一人で相手にする、ここからが本番だ。精々、暴れさせ貰おう。もう『黒き悪夢の狂戦士』なんて大仰な二つ名を名乗っちまったからな、引っ込みが付かないんでね。
「————『魔弾』」
元祖魔弾こと疑似完全被鋼弾だけを、ひたすら大量に呼び出す。俺の周囲を取り囲む大量の黒き弾丸は、二重、三重の壁のように展開される。
「撃てぇっ!!」
号令一下、魔術師部隊から満を持して一斉に攻撃魔法が放たれる。
先に飛んできたのは、速度に優れた光属性の攻撃魔法。サイズからして、中級の『白光矢』だ。
それから後を追うように、火属性の中級攻撃魔法『火炎槍』が続く。
そして最後には、風属性の中級範囲攻撃魔法『旋風連刃』が迫る。
光と炎の波状攻撃の後に、風の範囲魔法が炎を煽り威力と攻撃範囲を広げる、考えられた三段構えの攻撃だ。なかなかやるじゃないか。
しかし、当たらなければどうということはない。広範囲に広がる攻撃でも、その範囲内に立っていなければ問題ないのは当たり前のこと。
「突っ込むぞ————『嵐の魔王』」
俺は再び、メリーを飛ばす。
門を破った直後にここへと飛び込んできたから、その大跳躍は一度もう見せている。けれど、まさかそのまま自分達の方へ飛び込んでくるとは思わなかったのか。
横一列の攻撃だけで、上空もカバーしなかった指揮官の怠慢だな。
俺は作り出した魔弾と共に、一斉に放たれた魔法攻撃の上を悠々と飛んで行く。殺到する光と炎と風を飛び越え、驚きに口を開けて頭上を見上げる間の抜けた奴らのど真ん中へ、
「————『全弾発射』」
メリーの巨躯が兵士をまとめて踏みつぶしつつ、着地の衝撃で周囲の奴らを吹っ飛ばす。
と同時に、魔弾を解放。360度、全方位へと撃ち込む。
数千発の弾丸が奏でる壮大な発射音と黒いマズルフラッシュが瞬くと、無数の悲鳴が反響する。
だが、俺の一斉攻撃はまだ終わっちゃいない。
「————魔剣・裂刃戦列」
呼び出すのは、魔弾と同じく古参である黒化剣。だが、黒一色の刀身に赤く明滅するラインが浮かぶ、赤熱黒化を全てに施してある。
リリィがカーラマーラを手中に治めた今、量産品の長剣など幾らでも入手ができる。
大きく翻す『無限抱泡』のマントと、足元の『影空間』から、噴き出すように剣を放つ。
頭上に舞い上がった百本もの赤熱黒化剣は、それぞれの切っ先を全方位へと向けて、
「————『全弾発射』」
黒い尾を引き、その刀身に秘めた黒炎を炸裂させた。
漆黒の爆炎が連続して響き渡り、周囲の敵を一掃していく。これだけ密集しているのだ、爆発範囲は目いっぱいに兵士共を巻き込んでいるだろう。
これで最初の一発としては十分。メリーに跨ったまま暴れ回るのにも、ちょうどいいくらいの面積も確保できた。
もっとも、大通りを埋め尽くすほどの大軍だ。すぐにでも俺を包囲し、圧殺するかのように数でもって押し寄せてくるだろう。
「————『魔弾掃射』」
構えた『ザ・グリード』が唸りを上げる。
撃てば撃った分だけ、バタバタと敵は倒れてゆくが、如何に機関銃といえども一人では死角も発生する。
射撃方向は完全に敵の前進を抑え込めているが、迂回するように、というか最初から俺の側面にいた兵士達が距離を詰めてくる。
それに合わせて、突っ込んできた俺の退路を断つように背後へと回り込んで行く集団もいた。
「ヒツギ、背中は任せる————『大魔剣』」
「このヒツギにお任せあれぇ! 今宵のワンちゃんは血に飢えてるですよ、ゴォーッ!!」
アッシュやってた時には随分と世話になった黒化大剣を呼び出す。勿論、スパーダに戻ってから補充は終えている。10本勢揃いだ。
左右から5本ずつ、影からゆっくりと浮かび上がって行く大剣と共に、俺の真後ろにはギャリギャリと鎖の音を立てて、『極悪食』がその牙を覗かせる。
剣を触れずに操作できる『魔剣』は本来、複数を相手にする時に自分の死角をカバーするために使う黒魔法だ。無数の敵に包囲されるこの状況下は、正しい使いどころである。
そして、ヒツギは自前の触手に『極悪食』と、勝手に判断して敵に対応してくれるのだ。背面の死角はない。
「行くぞ————」
万全の戦闘態勢を整え、何千、何万もの敵を相手に大乱戦を始める。
群がる敵に魔弾をバラ撒きながら、メリーを駆けさせ間合いに入った奴らを『ホーンテッドグレイブ』で撫で斬りに。
黒い嵐のような猛攻を前面に集中させつつ、側面は『大魔剣』でカバー。許容量を越えそうな時には、随時、『烈刃』で吹き飛ばす。
そうして、最初に敵を吹っ飛ばして開いたさして広くもない空き地を、足を止められないよう駆けながらの大立ち回り。
次々と敵は倒れてゆくが、全方位からヤケクソのように押し寄せる奴らのせいで、ジリジリと、確実に俺の包囲は狭まって行く。
さらに大勢の味方がひしめく乱戦でありながらも、攻撃魔法が散発的に飛んでくるようにもなった。こんな状況では仕方ないと、奴らも早々に割り切ったか。味方を巻き込むことを承知で、どんどん魔法を撃ちこむ数が増えてくる。
捨て駒のような歩兵たちが壁となり、向こう側にいるだろう魔術師まで射線が通らない。多少は俺も防御魔法でガードしなければ。
しかし僅かでも防御に意識を割り振れば、その分だけ手数が落ちる。敵の殲滅速度が落ちれば、それだけ相手も包囲網を狭めてくる。このままいけば、メリーの足を止めざるを得ないほどに群がれてしまうだろう。
一人で大暴れして、どれだけ経過しだろうか。5分か10分か。ミリアに聞けば正確なタイムは教えてくれるだろうが……何にせよ、この辺が限界だな。
「これだけ殺せれば、十分だろう————謡え、『反魂歌の暗黒神殿』」
派手に敵を斬り飛ばしながら『ホーンテッドグレイブ』を掲げる。
俺のリクエストに応じて、呪われた刃は刀身を甲高く震わせて、高らかに歌い始めた。
ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
耳をつんざく女の絶叫は、悪霊を呼び寄せる狂気の旋律。この歌声の届く限りを、亡者の念が渦巻く不浄の領域と化す。
この結界の内には、生者は狂い、死者は蘇る。
さぁ、この『反魂歌の暗黒神殿』の中に、生きた奴らは何人いる? 死んだ奴らは何人いる?
答えは、沢山だ。
「————ォオオオオオ」
「ウォオガァアアアアアアアアアアアッ!!」
決死の覚悟で俺へと刃を向けていた兵士達が、発狂した叫びを上げる。
血の海と化していた地面からは、唸り声を上げて、死体が起き上がって行く。
「うわぁ! な、なんなんだコレは!?」
「死体が動いてる!」
「アンデッドだぁーっ!!」
「おい、どうしたんだ、しかりしろぉ!」
「や、止めろぉ、俺は味方だぞ————」
ただでさえ地獄のような戦場が、狂人と死者が入り乱れる本物の地獄と化す。
一番不幸なのは、悪霊にとり憑かれることなくまだ正気を保っている者だろう。ただ運よくまだ憑かれていないだけの者と、生来の耐性を持つ者、二種類いるはずだ。
ざっと見たところ、兵士の半分ほどはまだ正気を保てているようだが……もう半分は早くも狂ってしまったのだ。
おまけに、死体はよほど損壊が酷いものを除き、ほとんど全てが悪霊によって動き出すゾンビと化す。
この死体のゾンビ化率を上げるために、ずっと黒化を施していた。撒き散らされた血と肉によって見えないかもしれないが、お前らの立つ地面はとっくに真っ黒に染められている。
そして、その地面に倒れた死体に黒色魔力が多少なりとも染み込めば、それは悪霊にとって何よりの活力となる。『反魂歌の暗黒神殿』の効果をより活かすための、ちょっとした小細工みたいなものだ。
お陰様で、起き上がったゾンビ達はとっても元気に駆け回り、生きた人間達へと嬉々として飛び掛かっていた。
「さぁ、行け。ここにいる奴らは皆、地獄へ落ちるに相応しい侵略者共だ」
悲鳴、怒号、そして断末魔。
阿鼻叫喚の最中にあっても、『ホーンテッドグレイブ』は死の歌声を響かせ続ける。
完全に形勢は逆転した。
ただ目の前にいるたった一人の敵を仕留める、という単純な命令だけで押し寄せてきただけの奴らだ。突如として半分もの味方が発狂し、死体がゾンビと化して襲い掛かって来れば、対応などできるはずもない。
隣の味方は敵となり、足元からはゾンビが這い寄る。
後ろからは続々と味方の突撃が続くせいで、退くに退けない。それでも恐怖と混乱で逃げようとすれば、それによって後続とさらなる混乱が生じる。
こうなれば、もう収拾はつかない。味方同士が殺し合う大混乱だ。
「ええい、静まれ!」
「相手は魔族ぞ、たかが低級なアンデッドを繰り出した程度で、狼狽えるでない!!」
「まったく、悪霊如きに憑かれて正気を失うとは、近頃の若い者は信心が足りぬわい」
「心乱すな、ただ祈れ。我ら十字教司祭、白き神の威光をもって、不浄なる存在は全て滅してくれる」
俺の周囲にはもう狂った奴らとゾンビだけとなり、手持無沙汰になってしまった頃、ようやく十字教司祭共が出張って来たようだ。
そりゃあそうだろう、こういうのは光属性担当のお前らの得意分野だからな。開拓村でニセ司祭やってた頃、どんな田舎の司祭でも、悪霊を祓い、死者を清める術くらいは習得しているというシンクレアでの常識を学んでいる。
十字軍にわざわざ従軍しているようなヤル気満々の司祭共が集まれば、数百、数千のゾンビ軍団だってまとめて浄化できるだろう。
「だが、出てくるのが少し遅かったな————重騎兵隊、攻撃開始」
「イエス、マイロード」
兜に副官アインの返事が届くと同時に、スパーダの防壁側から銃声が響き渡る。
ようやく、我が重騎兵隊の到着だ。
ウチの隊員が装備しているのは、どれも現役稼働の古代兵器だ。フルオートで何百発も連発できる『ストームライフル』に、圧倒的な制圧力を誇る『ヴォルテックスマシンガン』、おまけに派手に爆発するランチャーだって備えている。
それらの全てが、一斉に火を噴く。
降り注ぐ銃弾と砲火が、十字軍の隊列へと炸裂する。ゾンビを浄化してやると張り切って出て来た司祭共も、吹き上がる爆炎に消えていった。
スパーダ側から激しい反撃が始まったことで、もう奴らも俺一人に集中するどころではなくなった。俺の役目は、最初から重騎兵隊が駆け付け、この門の防衛力が確保されるまでの時間稼ぎである。
完全武装の重騎兵隊は、防衛戦となれば騎兵としての機動力はゼロとなるが、古代兵器による火力は十全に発揮させられる。その防衛力はアルザスとは比べ物にならないほどに高まるだろう。今度こそ、お前らに突破は許さない。
「戻ろうか、メリー。無茶な時間稼ぎに付き合わせて、悪かったな」
気にするな、とでも言いたげにブルルと唸ってから、メリーは狂気と死者の軍勢を割って、堂々と正門へと歩いていくのだった。
2020年2月19日
コミック版『黒の魔王』第5巻、2月20日に発売です。どうぞ、よろしくお願いします。
まるでヒロインのような顔をしたアイと、さりげに表紙では初登場となるサリエルが表紙になっています。アルザス防衛戦辺りは出番がないので、せめてもの・・・
それと忙しさからすっかり忘れていましたが、コミックウォーカー、ニコニコ静画で掲載している最新話もお見逃しなく。今月のは貴重なカラーページあります。アイが無駄に可愛いです。最新話まで追っていると正体分かってるんで可愛くないですが、それでも可愛いと思える絵の力は偉大ですね。