第803話 金の剣同盟
氷晶の月7日。
スパーダとパンデモニウムの間に、正式に同盟が締結された。
スパーダ王レオンハルト・トリスタン・スパーダと、パンデモニウム女王リリィ、両者のサインと血判の押された誓約書は、スパーダのパンドラ神殿にて取り交わされた。
俺はその歴史的瞬間を、脇に立って拍手で祝福する係として眺めていた。
スパーダ側は将軍や大臣が、パンデモニウム側は議員やジョセフ達が、それぞれ両国の同盟締結を祝って拍手を送る。
こうして『金の剣同盟』と名付けられた、スパーダとパンデモニウムとの同盟は成立した。
これに伴い、有事の際には一定の兵数までパンデモニウム軍を、スパーダ側へ速やかに派兵できるようになった。勿論、その逆にパンデモニウムがピンチになればスパーダが駆け付けることができる……のだが、アトラス周辺はすでにリリィの手に落ちているため、こっち側で戦争が起こることはまずない。
それから、スパーダ・パンデモニウム間の転移魔法陣の拡張も始まった。
現在は王城にあるオリジナルモノリス間でのみ転移が開通しているが、これは国内にある他のモノリスでも使用できる。使えるようにするには、それなりにモノリスを弄らないといけないが、俺達がスパーダで初めて見た公園のモノリスくらい大きなものなら、早期に使用可能とできるそうだ。
すでに王城の転移を利用して、希少品の交易などが始められている。転移魔法陣が増えれば、さらに両国の行き来が活発になり、取引量も増大するだろう。
とりあえず、スパーダとの外交関係や交易に関しては、俺の専門外なのであまり関わることはない。ザナリウスをはじめとした、リリィによって「良い子」にされた議員の皆さんにお任せすることとなっている。
さて、同盟は成立したが、肝心の援軍が頼れるものにならなければいけない。即時派兵可能な合計1500のパンデモニウム軍は、訓練と装備の充実が最優先で図られている。
ゼノンガルト率いる『混沌騎士団』は、ランク3以上のみで構成された精鋭だ。彼らには、議員だった金持ち連中から押収、もとい、寄付された最高グレードの装備品が今回のスパーダ遠征にあたって支給されている。
それら高級装備への一新と、更なる実力向上のためのダンジョン攻略による実戦訓練。さらに、騎士団としての集団戦闘を鍛えるための演習などが行われている。
すでに支給された最高の装備品に、巨額の報酬が約束され、騎士団の士気は高い。だが、最も気合を入れているのは、我らが騎士団長ゼノンガルト、だそうだ。
「我々は最早、自由奔放な冒険者でも傭兵でもない。リリィ女王陛下に忠誠を誓った、パンデモニウムの騎士である。故に、十字軍を名乗る侵略者を討ち、パンドラ大陸を守る使命を果たさねばならぬのだ!」
などと、団員達に檄を飛ばしている模様。
勿論、ゼノンガルトは騎士団長として自ら団員を率いてスパーダへ行く、と豪語しているそうだが、あの奴隷エルフ、現在副団長を務めるティナには止められているらしい。
二人の関係がどういうものであるか、後にリリィに聞いたので……俺としては、頑張れゼノンガルト、と密かに応援することしかできない。
束縛系の彼女いると、辛いこともあるよね。分かりみ深い……
ともかく、『混沌騎士団』はゼノンガルトが責任をもって鍛え上げてくれることだろう。
気になるのは、彼らのように元から実力者ではない、徴兵されただけの一般人によって構成される1000人のパンデモニウム軍である。
正確には、指揮を執る将校として配属されたホムンクルスと、元々はカーラマーラの治安維持を名目上担当していた憲兵隊、それに加えて徴兵した一般兵という構成になっている。
憲兵隊は人数こそそれなりにいるが、ランク4以上の実力者は洗脳魔法に抵抗力があるので、早々に大公領へと移されている。残っている実力者は精々、ランク3がいいところで、そういった者は中央区の治安維持を担当する新憲兵隊に勤めている。
リリィの洗脳魔法『全てを捧げよ』がある限り、中央区の犯罪発生は理論上0%だが、何事にもイレギュラーがある。そのための備えとして、ある程度の実力者は憲兵隊にいなければならないそうだ。
そういうワケで、パンデモニウム軍に配属された元憲兵隊員も、実力は平均してランク2といったところ。素人丸出しの新人冒険者よりはマシだが、ベテランと言えるほど頼れる力はない、といった程度である。
つまりパンデモニウム軍の大半はランク2のちょっとマシな奴と、ランク1の素人集団、という構成になっている。
彼らを一端の戦力として使うには、訓練だけでは限界だ。そもそも時間もない。
だから、彼らには銃を装備させる。
古代の銃器のEAシリーズは、ホムンクルス達が持つ分だけの数しかない。1000人に配れるだけの現物は存在していない。
よって、彼らが装備するのは、シモンが完成させた現代の銃、量産型クロウライフルだ。
パンデモニウムの一兵卒は、槍も弓も、使えなくていい。ただ、この銃だけ扱えればそれでいいのだ。
早速、パンデモニウムに飛んだシモンは、即日、第三階層『工業区』へ籠り、ライフル生産工場の建設と指導に勤めた。
工場が稼働するまでの間は、すでにスパーダのモルドレッド武器商会の工場で生産されたものを全て買い取り、パンデモニウム軍へ支給。
兵士達には順次、ライフルを使った訓練を始めた。
第三階層のライフル工場はシモンの尽力と、国中からかき集めた鍛冶師によって、早くも第一、第二、の二つが完成し、稼働状態に入っている。もう二週間もすれば、1000人に行き渡る分のライフルが出来上がるだろう。
勿論、ライフルと共に量産前提で設計された機関銃も、同時に作られている。流石にライフルに比べて数は大幅に減るが、幾つかあるだけでも戦力としては大きく違ってくる。
機関銃はいわゆる支援火器として、ある分だけ持っていくつもりだ。
そんな予定のパンデモニウム軍に関しては、リリィ以下、ホムンクルスに任せている。リリィが女王となった時から、ディスティニーランドから沢山のホムンクルスが転移でこちらへと来ている。俺には、今ホムンクルスがどれだけいて、何人パンデモニウムで働いているのか、その正確な人数を把握できていない。
ただ、彼らはリリィに忠実に従う下僕として、日々、その責務を全うしていることだけは間違いない。ホムンクルスは、リリィ政権下においては政治的にも軍事的にも重要な役割を果たす存在となっている。
パンデモニウムは洗脳された人々を、人形のホムンクルスが管理しているというわけだ。完全にディストピアだな。
だが、俺はリリィの作り上げた地獄のディストピアを肯定した。
こうするしかない。これしかできない。十字軍に対抗するためには、カーラマーラに住んでいた人々の自由意志を捻じ曲げてでも、完全に統一された国家が必要だった。
俺は、全てを忘れたアッシュではいられない。敗北を知り、己の限界を知る、ただの人間だ。俺一人にできることなどたかが知れているし、綺麗ごとの理想を実現させる力も手段も持ちえない。
だから、今できる最善を尽くすだけ。そして、リリィはそれに応えてくれた。責任は全て俺にある。誰もが彼女を否定しても、俺はリリィを肯定し、許し、受け入れる。
と言ったところで、俺には大したことができるわけじゃない。パンデモニウムという国を動かせるのはリリィだけだ。早くも立派な女王である。
だから、俺は自分にできることをやる。
王様ではなくても、俺は『暗黒騎士団』を率いる団長だから。
氷晶の月25日。大迷宮第一階層『廃墟街』。
崩れかけのビルが林立する大通りのど真ん中で、俺とゼノンガルトは向かい合っていた。
「今こそ俺は、貴様を超える」
「どうかな、勝負はまだついちゃいないぞ」
俺の手には『絶怨鉈「首断」』が。ゼノンガルトは『征剣・コンクエスター』を握る。互いに愛剣を携え、正々堂々の一騎打ち————が始まったのは、3分ほど前だろうか。
ランク5同士の激しい斬り合いが続くが、いまだ決着はつかない。
剣術の腕は、ゼノンガルトの方がやや上だ。伊達に少年時代から冒険者をやっていない。一方の俺は、黒魔法を使った絡め手も合わせて、総合力ではやや優位といったところか。
元々、ゼノンガルトはカーラマーラ神の加護を授かっていたのだが、今やその力は全て失われている。『黄金魔宮』という次元魔法を始め、幾つかの強化や魔法などが使えなくなったので、昔に比べれば弱体化していると言える。
そう、弱体化していてもコレだ。リリィがフィオナと二人がかりで挑んだだけある。
「いいや、すでに勝負はついた」
ゼノンガルトが不敵に笑うと同時に、『暴君の鎧』の兜に通信が届く。
「うぅ……マスター、申し訳、ございません……」
「プリム? まさか、やられたのか」
息も絶え絶え、といった様子の声は、プリムのものだ。
俺の問いかけに応えることなく、そのままプリムの『ヘルハウンド』との通信はオフラインとなった。
「その————まさかさぁ!!」
「ちいっ!」
そんな台詞と共に、頭上から刃が降ってくる。
疾風のように振るわれる白刃は鋭く、力強い斬撃となって俺を襲う。
咄嗟に『首断』で弾くが、それ以上の追撃はなく、襲撃者は体操選手みたいに跳ねながら、軽やかにゼノンガルトの隣へと着地した。
「よくやった、アイラン」
「へへー、ヨユーだよ!」
ヒマワリのような笑顔を浮かべる赤い髪の美少女。『剣豪』アイラン。『黄金の夜明け』のメンバーだ。
「その割には、お前とセナしか残らなかったようだな」
「ご、ごめんなさい、ゼノ様。でもでも、騎兵も、あの古代鎧の子も、全部倒しました」
俺の真後ろに現れた、デカい鎧兜が可愛らしい少女の声音で言う。
青と金の派手なカラーリングの鎧兜が纏う青白い燐光は、本物の古代鎧であることを示している。『ヘルハウンド』よりも一回り以上も大きい、シャングリラにはなかった機体だ。
古代鎧を駆る『重騎士』セナ。彼女もまた、メンバーの一人。
今ここに、『黄金の夜明け』の前衛組みが揃い踏みである。
「くそ、俺の重騎兵隊が全滅か……」
「騎兵だけではない。すでにウェンディが貴様の魔術師部隊も排除している。そして、主力の歩兵部隊はいまだに俺の騎士団と戦闘中————クロノ、貴様はもう孤立無援ということだ」
「どうやら、そのようだな」
まんまとやられてしまった。いいように隊を分断させられ、逆転のために大将首のゼノンガルトを狙えば、こうして俺一人が引き込まれてしまったという有様だ。
完全に俺の判断ミスだった。
「降伏せよ」
「言っただろ、勝負はまだついちゃいない。お前を倒せば、俺の勝ちだ」
「ふっ、ならば存分に抗うがよい」
「————疾っ!!」
俺に降伏の意思ナシと見て、速攻で仕掛けてきたのはアイラン。
移動系武技で急加速してからの、抜刀術。流石に、速い。
「ブースト!」
アイランの一撃を『首断』で弾きながら、ブースターを吹かして横に飛ぶ。
すでに背後からは戦斧を振り上げたセナが迫ってきているのだ。そして、アイランに続いてゼノンガルトも動き出している。
ランク5冒険者三人組を一人で相手だ。動き続けなければ、あっという間に連携攻撃を喰らい叩き潰される。
幸い、ここは廃墟の街だ。遮蔽物は沢山ある。彼らの力ならコンクリの壁も容易く切り裂いて攻撃できるだろうが、単純に視線を切れるだけでも意味がある。
囲まれるな。俺が対処できるのは二人同時まで。三人同時攻撃を喰らえば、捌ききれない。
「ほらほら、どうしたのさ! 逃げ回ってばっかじゃあ、ボクは倒せないよっ!」
あからさまな挑発。だが、決して無視はできない。
素早さに優れたアイランは、狭い屋内でも壁を駆け、天井を蹴り、縦横無尽の立体的な機動力でもって襲い来る。
「今度こそ、ゼノ様に勝利を捧げるのです!」
セナは圧倒的なパワーと装甲に任せ、壁などものともせずそのまま突き破って攻撃を仕掛けてくる。
ガラガラと壁面をぶち破り、瓦礫を蹴飛ばし、背後から迫ってくる彼女にはかなりのプレッシャーを感じさせる。
だが、最も警戒すべきなのは————
「————『真一閃』」
「うぉおおおおおおっ!」
隙をついて、的確に俺へ武技を当てに来るゼノンガルトだ。
放たれた上級武技を、なんとか『首断』で受けるが……くそっ、体勢が悪い。
威力を殺し切れないと悟った俺は、咄嗟に飛び退き衝撃を散らす。下手に踏ん張った方が、より大きく体勢を崩し、致命的な隙を晒すことになる。
自ら飛んだはいいものの、そのすぐ先には壁が。カッコいい着地はできそうもないな。覚悟を決めて、勢いのまま突っ込む。
派手に音を立てて壁を突き破り、その先で二転三転してから、立ち上がる。
起き上がれば、そこは元々いた大通りであった。
「我ら三人を相手に、まだ粘るとは。『黒き悪夢の狂戦士』の二つ名、伊達ではないようだな」
「その呼び方、あんまり好きじゃあないんだがな」
「謙遜することはない、存分に誇るがいい。だが、勝負は俺の勝ちだ」
再び見通しの良い大通りまで追いやられた俺を、正面にゼノンガルト、右後方にアイラン、左後方にセナ、と見事に三角形の包囲が完成されている。もう一度、ビルまで飛びこませてもらえるかどうかも怪しいな。
けど、まだ、あともう少し耐えれば————と、一歩を踏み出そうとしたその足を、撃ち抜かれた。
「ぐうっ!?」
光り輝く鋭い魔法の矢。
その光の矢は、漆黒の装甲を見事に貫き、俺の右足から自由を奪う。痛みはない。だが、もう動かせない。
「ティナ、わざと外したな」
「はい、トドメはゼノ君に譲らないといけませんから」
いつからそこにいたのか。ビルの合間から、弓を携えたティナが軽やかに躍り出る。
「ここには、最初からティナを潜ませていた。昔は盗賊クラスでな、隠密は得意なのだ」
「やだ、ゼノ君、そんな昔のことも覚えていてくれるなんて」
「今いいところだから、ちょっと黙っていてくれ」
おい、人を絶体絶命に追い込んでおいてイチャついてるんじゃあないぞ、ゼノンガルト。
まぁ、俺も人のことは言えないかもしれないが。
「ともかく————これで完全に追い詰めた。最早、逆転の目はない。加護でも使わぬ限りはな」
「使わないさ……ルールだからな」
「ふん、ならば、これで終わりだ、クロノ————」
「————すまん、フィオナ、勝つのは無理だ。引き分けに持ち込む」
「分かりました、それでは、遠慮なく」
ゼノンガルトの一撃をガードしながら俺が言えば、フィオナはすぐに応えた。
最初からティナが潜んでいたことは見抜けなかったが、こっちにもフィオナがいることは分からなかっただろう。
そりゃあそうだ。だってフィオナ、今ここに着いたばっかだし。
だが、状況は把握できている。だから、詠唱もすでに済ませていた。
「————『黄金太陽』」
「あ、あの輝きは、この俺に屈辱の敗北をくれた忌まわしき大魔法!」
「なにコレ、ヤバっ!?」
「あわわわ……」
「ゼノ君、逃げて!」
「逃がすかよ、死なば諸共だ————『蛇王禁縛』」
逃げ回りながら、地道に黒化を施していた仕込みをここで解放。
ゼノンガルトを、アイランを、セナを、地面から飛び出た漆黒の大蛇が襲い掛かる。
ティナはやや遠いので、手は出せない。だが、大将首はゼノンガルトだ。彼さえ倒せればそれでいい。
まぁ、俺も大将だから、勝利はできないのだが。
「おのれクロノ、大将ごと撃たせる奴があるかぁ!!」
「そのまま負けるより、派手に自爆した方がカッコつくだろ。よくやったフィオナ、愛してる」
「いえ、それほどでも」
実にのんびりしたフィオナの返事を聞きながら、俺は、いや、俺達は黄金に輝く巨大な火球に飲み込まれ————
何度目かになる、俺の『暗黒騎士団』とゼノンガルトの『混沌騎士団』による演習は、初めての引き分けで終わった。
この異世界には『幻影器』なんていう便利なモノが存在するから、本気の装備で本気で戦う、限りなく実戦に近い環境で試合ができる。ただ、モノがかなり高価なのだが、経済大国カーラマーラの財力を以ってすれば、騎士団同士の演習で扱うくらいの数などとっくに確保済み。
今の俺にできることは、自分が率いる『暗黒騎士団』を鍛えることだ。今月はそれだけに集中してきた。
今回のような演習をはじめ、大迷宮を利用してモンスター相手の実戦をしたり、色々とやった。お陰で、俺もかなり騎士団の指揮に慣れてきたと感じる。
もっとも、全員が命令に忠実無比なホムンクルスだから、誰が率いてもそれなり以上のものになるだろう。部下が優秀すぎると、上司の立つ瀬がないね。
「ゼノンガルト、いい勝負だった。作戦的には俺の完全な負けだ」
「最後は個人の力が勝敗を決することもある。引き分けという結果は、素直に受け入れよう」
演習が終わり、俺とゼノンガルトは握手を交わす。
これまで何度かやってきた演習では、俺達が勝っていた。その理由は、単にこちら側が全員、古代兵器で武装しているからだ。
これほどの規模で古代兵器の銃火器を装備した集団は、今のパンドラ大陸には存在していない。つまり戦うためのノウハウ、対策が確立していない初見状態だ。だから勝てた。
しかし騎士団の質としては、ランク3以上を中心に集めた『混沌騎士団』の方が上だ。ウチのホムンクルスは優秀だが、まだ生まれて一年も経っていない。圧倒的に実戦を重ねた経験が足りない。身体的、魔力的な成長も果たしていないのだ。素の状態ではベテラン冒険者には劣る。
そういうワケで、相手が慣れない古代兵器というアドバンテージを活かして勝利を続けてきたが、とうとうそれも限界のようだ。
ゼノンガルトは本人も強いが、分析力も部隊指揮も非常に優秀だ。冒険者だから初見のモンスターに対応してきた経験が、観察力や分析力を鍛えている。
また、後々にカーラマーラを支配し、魔王として大陸統一に乗り出すつもりだったゼノンガルトは、ある程度の人数を率いて戦闘をする訓練も続けていたようだ。大迷宮でモンスターが急増した時など、協力関係にある冒険者や傭兵を率いて、大規模な戦闘も経験している。
強烈な野心と天性の才能を持つ男が、魔王になるためひたすら邁進してきたのだ。弱いはずがない。強くて当たり前。あらためて、カーラマーラ最強の冒険者に相応しい人物だと思う。
リリィさえいなければ、ゼノンガルトがカーラマーラを獲っていた……そう、リリィさえいなければ……
「次こそ、完全なる勝利を手にしよう」
「このままじゃ本当に負けそうだ。俺も騎士団を鍛えておく」
そうして、演習の結果を話し合っている時だった。
「伝令!」
挨拶も敬礼もなく、黒服のホムンクルスが大声で叫び、やって来る。
礼は問わない。そう叫んで来た、ということは何をおいても早急に伝えねばならない、緊急連絡ということだから。
俺は伝令兵に視線だけ向け、小さく頷いた。
「ダイダロスの十字軍が動きました。十万を超える大軍でもって、ガラハド要塞へ向けて出撃したとのこと」
「ついに、動いたか」
そろそろだろうと思っていた。
覚悟はしたし、準備もしてきた。後は挑むだけ。第6次ガラハド戦争に————