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黒の魔王  作者: 菱影代理
第6章:スパーダへ
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第78話 結成(2)


「はぁ……すげぇ緊張したな……」

 安堵の溜息をつきながら、俺はギルドの階段を上がりリリィの待っている客室へ向かう。

 しっかし「俺がリーダーだ、文句があるヤツは前でろ」とか何言っちゃってんの俺、超恥かしいんだけど。

 でもまぁ、力を示した以上、堂々とした態度は必要だろう。

 あの感じが正しい強者のあり方なのかどうかは甚だ疑問であるが。

「それにしても流石ランク4だ、ちょっと危なかったな」

ヴァルカンとの決闘は俺が一方的な勝利を治めたように見えただろうが、実のところそれほど力の差はないと感じた。

 俺があっさり勝利できたのは相性が良かったからに過ぎない。

 ヴァルカンは見た目通りのパワーファイターで、俺の攻撃を真正面で受け止めるつもりで突撃してきた。

 並みの魔術士なら彼の突進を止めるだけの火力は出せず、そのまま殴り倒されていただろう、実際に魔弾を10発近く受けて尚ノーダメージだったのだから。

 ヴァルカンはそのタフな肉体だけでなく、パワー、スピード、反応速度、その身体能力は改造強化された俺よりも高いと思われる。

「お互い武装してもう一度やりあえば、勝てるかどうかは分からんな」

 今はその機会が来ないことを祈ろう。

 リリィ曰く「リーダーになったら舐められないよう強気でいかなきゃダメ」ということなので、俺の不安はヴァルカンや他のヤツの前で見せるわけにはいかない。

 まぁナチュラルに「ガンつけてんじゃねぇぞ!」とイチャモンつけられる俺としては、普段の表情を維持していれば大丈夫だろう。

 そんなことを考えながら、俺は目的地である客室に辿り着きノックを鳴らす。

「リリィ、戻ったぞ」

「クロノさんですか、どうぞ」

 ん、この声はリリィじゃなくて、フィオナさんか?

 開錠の音に続き、扉が開かれると、そこには確かにフィオナさんの姿。

 とりあえず入室すると、リリィがベッドの上で横になっている姿もすぐに視界に入り、眠ってしまったのかと状況を把握する。

「リリィはフィオナさんに話があるって聞いてたけど、もう終わったのか?」

 何気なくそう問いかけると、

「はい、‘ぷりん’という甘いものがあると聞きました」

 斜め上の答えが返ってきた。

「は? プリン?」

「ぷりん、無いんですか?」

 やけに期待に満ちた金色の瞳で見つめてくるフィオナさん。

「いや、無いよ? 別に俺は料理しに行ってたわけじゃないし」

 そんな目で見られても、無いモノは無い。

「そうですか……」

 あからさまに落胆の表情をするフィオナさん。

え、なにこの俺が悪いみたいな感じ?

「食べたかったら、今度作ってみるから」

「本当ですかっ」

 急に元気、何かこの反応はアイスキャンディーをあげたあの時を思い出すな。

「今度な、今は無理だぞ、緊急クエスト終わるまでは忙しいし、材料もないし、あと上手くできるかどうかも期待せんでくれ」

「大丈夫です、必ずスパーダまで避難を成功させましょう」

 心強いお言葉ありがとう、とりあえずスパーダについたらキッチンを貸してくれる場所を探すことにするよ。

「それでは早速、私達のパーティ名を考えましょう」

「え?」

「え?」

 拙い、なんかフィオナさんと全然意思疎通できてなくないか?

 というか何の話だ? パーティ? 避難が成功したお祝い的なパーティーなの?

「私はクロノさんのパーティメンバーですよね?」

「そうなの?」

「違うんですか?」

 もうイヤだ、この語尾がクエンスチョンマークにしかならない会話。

 落ち着け、諦めるな俺、なんとかフィオナさんの全く関連性不明の言葉から、意味を見出すんだ!

 リリィの話、プリン、パーティメンバー……

「えーと、リリィの話ってフィオナさんをウチのパーティに加えるとか、そういう話だった?」

「はい」

 ビンゴっ! 冴えてるぜ俺っ!

「なるほど、分かった、全て分かったぞ」

「納得してもらえたようで何よりです」

 OK,話が見えてきた。

「一応確認しておくけど、フィオナさんは俺とリリィのパーティに入ってくれるってことでいいのか?」

「はい、リリィさん曰く四方百里を焦土に変える暴走魔女の私ですが、よろしくお願いします」

 えーなにその超不安になる自己紹介、リリィそんなヤバい評価をフィオナさんに下していたなんて聞いてないよ。

「それは魔法に自信がありますって意味に受け取っていいのかな?」

「はい、魔法の威力に‘だけ’は自信があります。

 敵味方関係なく全てを灰燼に帰してみせましょう」

 ツッコミを入れるのを我慢するため、一拍おいてから問いかける。

「……敵だけ焼き払ってくれるわけにはいかない?」

「私、魔力の制御がちょっとだけヘタなので。

 それでもいいから是非仲間になってくれと熱烈に勧誘されたので、パーティ入りを決めました」

 ふん、と鼻息が出ているかのように胸をそらして自信満々なフィオナさん。

「そ、そうか、まぁリリィがいいって言うんなら間違いないだろ。

 それじゃあこれからよろしくなフィオナさん、俺も歓迎するぜ」

 どこまでも不安の残る自己紹介だったが、結局は彼女を受け入れることに是非は無い。

 フィオナさんの魔法の威力は、炎の壁で矢の雨から救ってくれた一件で、俺も信頼はしている。

 なにより命の恩人、彼女を拒む理由など無い。

「はい、よろしくお願いします」

 お互いに固い握手を交わし、ここに契約は成立した。

「クロノさん」

 少しだけ言いづらそうな表情のフィオナさん、一体今度は何を告白してくれるのだろうか。

「リリィさんには話した、というかバレてしまっていることなのですが、先に言っておきます」

「なんだ?」

 やや緊張しながら彼女の言葉を待つ。

「私はアーク大陸の人間です」

「……なんだと」

「私が憎いですか?」

 反射的に俺はいつでも魔弾を撃てるよう魔力を巡らせていた、それにフィオナさんが気づかずとも、無意識に発してしまった殺気は間違いなく読まれただろう。

「すまない、少しだけ待ってくれ」

 アーク大陸からやって来た人間、つまりそれは十字軍と同じ勢力の者だということになる。

 イルズ村に破壊と殺戮をもたらした許されざる狂気の十字軍、それと同じ、同族、同類、生かしてはおけない、今すぐ殺すべきではないのか?

「鉈を持って無くてよかった」

 持っていれば、そんな感情に流されていたかもしれない。

 落ち着け、今はフィオナさんの話を聞くほうが先決。

 そもそも俺を助けてくれた人だし、なによりリリィが認めたのなら人物として何も問題無いのは確実だ。

「大丈夫だ、話してくれ」

「はい、ですが、どこから話せばいいでしょうか」

過去を詮索しないのが冒険者の礼儀だ、と前置きをしてから、言葉を続ける。

「身の上話は聞かないし、十字軍の兵士だったのかどうか、パンドラ大陸で人を殺したかどうか、今は全部聞かない、話せる範囲で話してくれればそれでいい」

「分かりました、と言っても私にはとりたてて隠すような過去などありません。

 エリシオンの魔法学校に通い、卒業したら行くアテが特に無かったので、傭兵としてパンドラ遠征に参加しました。

 ですがご飯は美味しくないし、とても居心地が悪かったので辞めました」

「本当にそんな理由だけで裏切ったのか?」と、思わずストレートに問いかけてしまう。

 フィオナさんならありえなくは無いかと思えるものの、やはり現実にそう言われると俄かには信じがたい。

「私は十字教徒ではありませんし、お金も受け取らず正規の手続きを経て辞めたので、傭兵としても裏切り行為ではないですよ」

「けど、いいのか、これから俺達はフィオナさんと同郷の人と戦うことになるんだぞ」

 その問いかけにも、フィオナさんは相変わらず眠そうな表情で、特別気にしていない平気な様子で応えた。

「国、宗教、人間か魔族か、どちらも私には関係ありませんね。

 私の事は、そうですね、どこか遠くの国から気まぐれにやって来た旅人だと思ってください、クロノさん、貴方と同じように」

「リリィから聞いたのか?」

「とても遠くの国の出身だ、としか。

 ですから、私の出身は意味の無いものと考えてください、それに縛られることは決してありませんので」

 俺にはアーク大陸がどういう場所なのか全く分からない、だが、フィオナさんの言わんとしている事は何となく分かる。

 ようするに、彼女には守るものが無いのだ。

 それが善い事なのか悪い事なのかは置いておく、兎に角フィオナさんという人は、どこにも所属しない完全にフリーの旅人、いや登録している以上は冒険者である、と呼んでおこう。

「分かった、信用するよ、すでにフィオナさんはパーティの一員だしな」

「いいんですか? 私は最初のダイダロス侵攻に参加して、ある程度の人数は殺害しています、それも許せるんですか?」

「いいさ、傭兵の仕事だろ、今は別な仕事に変わった、それだけのことだ」

 すでに人殺しの身分の俺が、どうこう言えた義理はそもそもない。

「そう思ってくれるのならありがたいですね」

「俺は寧ろ、フィオナさんがアーク大陸の人間で良かったと思う」

思えば俺は、いいや、今ここにいる村人も冒険者も、誰も十字軍について知らない。

 俺達はほとんど正体不明の敵と戦おうっていう状態だ。

「私もこれまで村を回ってきましたが、誰一人として十字軍や共和国の事を知っている人はいませんでしたね」

「そうだ、俺はその‘共和国’っていう国も名前しか聞いた事が無い」

 情報はどんな時にも重要なファクター、戦いの場合には命がかかっているだけ尚更だ。

 敵を知り己を知れば百戦危うからず、なんて情報の重要性を示す言葉なんてのはいくらでもある、探せばこの異世界でも伝わっていることだろう。

 俺は思わぬところで十字軍を詳しく知りえる人物と出会えた、しかも気づけば仲間になっていたなんて、これは幸運以外のなにものでもない。

 敵の数、装備、士気、熟練度、指揮系統、ヤツラは何を考え、何をしようとしているのか、聞きたいことは山ほどある。

「フィオナさんが仲間になってくれて本当に良かった、これから世話になる、改めてよろしくな」

「はい、私を受け入れてくれてありがとうございます」

 相変わらずほとんど変化の無い表情のフィオナさんだが、どことなく安心したような雰囲気を感じた。

「色々と聞きたい事はあるけど、まずはパーティ名を決めておこうか、これから名乗る時不便だしな」

「そうですね、一緒に良い名前を考えましょう」

 決闘の一件で冒険者達のリーダーポジションを勝ち取ることが出来たが、それは俺個人だけでなく、所属するパーティそのものが中心的な役割を果たすことにもつながってくる。

 まずはリリィ、今はフィオナさんも加えて、3人まとめて冒険者に紹介する必要があるわけだ、その時にパーティの名前がないと呼びにくいだろう。

「しかし、パーティ名なんて今まで一度も考えたこと無かったな」

 いや一度もというのは嘘か、ラノベ書くのが趣味だった高校時代は、そりゃあ組織とか機関とか部隊とかの名前を考えたもんさ。

 だがソレとコレとは話が別だ、自分のパーティに神がどうとか、滅びがどうとか、そんな大げさな名前はつけたく無い。

 直接的に自分を示すものならば、やはり身の丈にあった名前が良いだろう。

「冒険者は普通どういう感じでパーティ名をつけるもんなんだ?」

「基本的にはみなさん好き勝手につけますが、そうですね、リーダーの名前をそのままつける場合は多いですよ」

 なるほど、ヴァルカンも自分のパーティ名は「ヴァルカン・パワード」と堂々たるものだ。

 が、それは彼が唯一のランク4であり、メンバー中で抜きん出た実力を持ちえるからこそ名乗れるのだ。

 パーティ最強の名前をとるなら、ウチは「マジカル☆リリィ」になってしまう。

「他によくあるのは出身地だとか、メンバーのクラス、特徴、または伝説にあやかったものや、探し求める宝の名前を直接用いる場合もありますね」

 俺達の場合、出身地はバラバラ、というか俺はそもそもこの世界ですらない、『イルズ・ブレイダー』のように同郷出身者で構成されていないので、そういう名づけはできないな。

 それにこの世界の伝説には、まだこちらへやって来て一年も経たないような俺は特別詳しくないし、ついでに探し求める宝も無い。

 強いて言えば元の世界に帰れる召喚魔法を探しているといえば探しているが、今この状況を捨て置いてそんなものの捜索をする気は無い。

「俺達の共通点と言えば、全員が魔法を使うってくらいか」

「前衛になってくれる戦士がいないとは、何とも心もとないパーティですね」

 全くもってその通り、俺は苦笑しつつ言い訳のように応える。

「ランク1のクエストしか受けてこなかったから、今までは戦うことをあまり考えなくてよかったんだよ」

「でも私が攻撃すると必ず前衛を巻き込むので、かえってこの方が良かったと思います」

 フィオナさんはどんだけ自分の攻撃コントロールに自信が無いんだ。

 いや、これ以上はあえて突っ込むまい、自分でも気にしている風だったし。

「そういえば、フィオナさんは炎の魔法が得意なのか? 俺を助けてくれた時も『火焔城壁イグニス・ランパートデファン』使ってたし」

「あ、それはただの『火盾イグニス・シルド』です」

 なんだよその理屈は、最強アピールかなんかですか?

「正真正銘『火盾イグニス・シルド』です、私が魔法を使うと、下級魔法でもあの程度の大きさになってしまいます」

それじゃあ攻撃魔法を撃ったらどうなる、という疑問には、フィオナさんは懇切丁寧にお答えしてくれた。

「『火矢イグニス・サギタ』でも範囲魔法と同じ、威力は通常の『火焔長槍イグニス・フォルティスサギタ』になるかならないか、といったところでしょう」

 なるほど、これは確かに「敵味方関係なく灰燼に帰してしまう」な、特に遺跡や洞窟のような狭いダンジョンで撃たれたらと思うと……

 使いどころをよくよく考えないと、大惨事になってしまう。

 しかしながら、なぜリリィがわざわざ彼女をパーティに引き入れたのかよく分かった。

 大人の頭脳を持つリリィは本当によく考えてくれる、フィオナさんを野放しにしておかなくて本当に良かった、予期せぬタイミングで大爆発が起きたかもしれないのだから。

「私は火の属性が最も得意ですけど、光と闇以外の属性は、全て中級まで使えます」

 少しだけ自慢げに言うが、少しと言わずそれは実際かなり凄い事だと思う。

「2つくらいなら珍しくないけど、ほとんど全部使えるって人は初めてだ」

 俺なんて黒魔法オンリーしか使え無いしな! っていう自虐は虚しくなるだけなのでしないでおこう。

「俺の闇とリリィの光をあわせれば全属性網羅できるな」

 俺が使う黒魔法は現代魔法モデルと術式系統こそ違うものの、闇の属性を顕現させることには変わらない。

 魔弾バレットアーツはただの物質化マテリアライズでしかないが、影空間は完全に闇の属性を利用した魔法といえる。

「いいですね、全ての属性を扱えるなんてあまり他には無いパーティですよ。

 一人で出来れば伝説の『元素の支配者エレメントマスター』を名乗れます」

「エレメントマスターか、いいなソレ、カッコいいじゃん」

 全ての属性を扱えるということは、魔術士やモンスターなど属性と密接な関わりのある相手の弱点をつくことができるし、逆に相手の攻撃を耐性の高い属性で防げるということだ。

 魔法に限定されてしまうが、中々強そうなパーティ構成じゃないか俺達は。

「全ての属性、原色魔力を一人で操るのがエレメントマスターって呼ばれるのか?」

「そういう認識で正しいです、本物のエレメントマスターは上級以上の全原色魔法を行使し、必ずなにかしらの偉業を成し遂げ歴史にその名を残します。

 魔術士が抱く理想の一つですね」

 おお、やはり良いじゃないか、全ての属性を操る伝説的な魔術士の称号。

「なるほど、じゃあその名を俺達で名乗らせてもらおうじゃないか」

「そうですね、私は良いと思いますよ。

 リリィさんも賛成してくれるに違いありません」

 かくして、パーティ名は決定した。

「OK,今から俺達は『エレメントマスター』だ」



 フィオナが仲間に加わった!

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