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黒の魔王  作者: 菱影代理
第38章:引き裂かれる翼
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第783話 パンデモニウムの駒

 曙光の月が終わりを迎える頃。

 カーラマーラ、あらため、パンデモニウム。

 新たな国の女王たるリリィは、一人で出歩いていた。王位を得たとて、それで大勢を従え、常に王らしく演じる日常は御免。リリィも妖精らしい自由奔放さでもって、王冠も王錫もなく、いつものエンシェントビロードのワンピースに身を包む格好で、沢山の人々で賑わう街を歩いた。

 ほどなくして到着したのは、外周部の郊外にある、一つの砦。

 そこはかつて、カーラマーラ最強を名乗った冒険者パーティ、『黄金の夜明けゴールデンドーン』の本拠点であった。

「————すっかり、女主人といった感じね、ティナ」

「はい、全ては陛下のお陰でございます」

 訪れたリリィを真っ直ぐ奥のリビングスペースにまで通したのは、現在、ここの支配権を握る元パーティメンバー、奴隷の女エルフ、ティナであった。

 メイド時代に培った実に流麗な作法で、リリィ女王へと頭を垂れるティナである。

 しかし、彼女の細身にはすでにメイド服は纏われていない。着用しているのは、薄い絹のドレス。エルフらしいティナの美貌と相まって、純白の薄絹とそれとなく身に着けた黄金の装飾品によって、その姿はさながらエルフの姫君だ。

 そんな彼女の隣には、姫を守る騎士の如く、ゼノンガルトが侍っている。

「我らが命をお救いいただき、リリィ女王陛下の慈悲深さに感謝の言葉もございません」

「ちゃんと挨拶できて偉いですね、ゼノくんは。ふふふ、偉い偉い」

 度を越えた愛犬家の如く、ティナは跪くゼノンガルトを撫で回し、挙句その頬や額にキスの雨を降らせる。

 とても人前に晒すものではない姿だが、リリィは実に微笑ましいといった優しい眼差しで、そんな二人の姿を眺めていた。

「どうやら、新婚生活は上手くいっているようね」

「はい、もう毎日が幸せすぎて、怖いくらいです。ね? ゼノくん?」

「はい、ティナと一緒にいられて、俺は幸せです」

 瞬間、ゼノンガルトの瞳から赤い光がビカビカと明滅し、口にした台詞は若干の固さを含んでいた。

 流石はランク5冒険者にして、本気で魔王を目指した野心家である。

 好きなように振舞わせるには、いまだに結構な出力をリングから発しなければいけないようだ。凄まじい精神力である。

「今日は一つ、お願いに来たの」

「どうぞ、リリィ様の頼みならば、なんなりと」

「私の騎士になって欲しいの」

 それは、パンデモニウムの騎士団である。

 どんな国でも、大なり小なり、必ず騎士、すなわち軍事力を持つ。

 そもそも十字軍に対抗するための国家である以上、強大な軍事力の保有は至上の命題である。そうでなくとも、出来上がったばかりの新国家では、新しい体制の軍隊が必要だ。

 これまでのカーラマーラとは異なる、軍備の再編は急務であった。

「パンデモニウムには統治の性質上、二種類の軍隊に分けざるをえない」

 陸と海、ではない。

 今やこの国の人間で決定的な違いは————リリィの洗脳を受けているか、いないか、である。

「私が支配する兵は、一兵卒に至るまで忠誠心溢れる勇敢な死兵となってくれるわ。理想的な兵士達よ」

 洗脳による支配の、大きなメリットである。

 人の心、恐怖などの本能に起因する感情にすら逆らい、意のままに操ることができるということは、死を恐れない兵士を容易く作り上げる。

「けれど、ランク4以上の実力者となると、洗脳させても弱体化してしまう。そもそも、洗脳しきれない強固な精神性を持つ者も、かなり出てくるわ」

 それが洗脳のデメリットでもあった。

 飛びぬけた実力者は、その精神の強さも常人を超えている。高い精神耐性を持つ者を洗脳にかけるのは非常に難しく、解除の危険性も常に付きまとう。

 ゼノンガルトの洗脳が上手くいっているのは、リリィとの戦いによる極限の疲労と、ティナに裏切られた大きな心の動揺。そして『思考支配装置フェアリーリング』装着後は、常に共にいるティナ自身が操作を続けることで、ゼノンガルトの心を操り続けているのだ。

 ランク5冒険者ほどの実力者を洗脳することは不可能ではないが、その実行にはそれくらいの手間もリスクもかかってしまう。正直、全くもって割に合わない。

 彼らを意のままに動かそうとするならば、大人しく適正金額の報酬を支払うのが最も確実な方法となる。

「だから、カーラマーラ最強の冒険者であるゼノンガルトを騎士団長として、精鋭部隊を率いて欲しいのよ」

 それは『黄金の夜明けゴールデンドーン』のネームバリューを活かした采配である。

 この国でゼノンガルトのことを舐める奴は一人もいはしない。いくらいけ好かないハーレムパーティの主であろうとも、彼に正面切って喧嘩を売れるのは、彼らをライバル視していた二番手、三番手のランク5冒険者達くらいのものだ。

 新たな国の精鋭騎士団、その長を務めるには、ゼノンガルト以上の適任者はいなかった。

「……ゼノくんを、戦わせるおつもりですか」

「任務はパンデモニウムの防衛よ。今の幸せを守るなら、国を守るしかない、というのは分かるでしょう」

「そう、ですね……」

 ティナにはまだ、十字軍の脅威までは説明していない。

 しかしながら、ザナドゥの倒れたカーラマーラがそのままで安泰であり続ける、とはティナも思ってはいなかった。

 このアトラス大砂漠には、ロックウェルを始め、他にも複数の有力な砂漠の都市国家がある。そして、そのどれもが大迷宮という究極の資源を有するカーラマーラを羨んでいるのだ。

 ザナドゥという圧倒的な権力者が倒れた今、大迷宮を奪おうと動き出さないとは言い切れない。

 いいや、遠からず、必ずや何かしらの動乱が起こるだろう。

「国防の担い手、としてだけならば、拒否はできませんね」

「それでも、まだ不服そうね?」

「私は、もうゼノ君を戦わせたくはありませんので。危険なことはして欲しくない、ずっと私の傍で平穏に暮らしていたい……ね、ゼノ君もそうでしょう?」

「はい、俺はティナと……ティナ、ぐっ、ががが……」

「私と一緒がいいって言え!」

「ティナと一緒に、いたいです」

「そう、そうでしょゼノくん、いい子ですね」

 どうやらティナは、ゼノンガルトの意思を捻じ曲げてはご満悦のようだ。

 洗脳の恐ろしいところは、それを操る者の心さえも変えてしまうこと。

 自分が洗脳をしているから、相手が従っている……そんな当たり前のことすら忘れて、相手が自分に従うことを望んでいるのだ、と思うようになる。

 リリィはそんなティナの姿を見て、もしも自分があの時に勝っていれば、この世の全てを置いて千年先の未来でクロノと二人きりになっていれば————果たして、リリィの抱いた思いは、未練か自省か。

「ティナ、ゼノンガルトの精神はとても強いけれど、あまり無理をかけすぎるのも危険よ」

「大丈夫ですよ、だってゼノくんは、私のことが大好きなのですから」

「愛の言葉すら囁けなくなったら、可哀そうでしょう」

 怒るでも、嗜めるでもなく、ただ、心の底から憐れむ様にリリィは言った。

 折角、長年に渡って募り続けた愛が成就したのだ。それを、行き過ぎた洗脳によって思い人が廃人と化したのでは、あまりにも残酷ではないか。

 ちなみに今のゼノンガルトは別に廃人ではない。今もまだ抵抗するだけの精神性が残っているから、たまにバグるのだ。

「それにね、愛する人はペットのように家に閉じ込め続けるものではないわ」

「で、でも……ゼノくんはモテるから、私、心配で……」

 気持ちは分かる。すげー分かる。

 クロノなんて記憶喪失でカーラマーラに放り出したら、国一番のアイドル引っかけてきたくらいなのだから。

「でもね、男は戦うからこそ輝くの」

 それは、剣と魔法の冒険だけではない。仕事であれ、趣味であれ、何かに懸命に打ち込む姿というのは、人が輝く瞬間なのだ。

「彼はまだまだ戦えるし、戦いたがっている。ゼノンガルトのカッコいいところ、貴女が見届けなさい」

「はい……はい! そうですね、正にその通りです、リリィ様」

「じゃあ、貴女は副団長としてしっかりゼノンガルトをサポートしてね」

「はい、この私にお任せください」

「できれば、他のメンバーも一緒だとありがたいのだけれど」

「ええ、問題ありません。入りなさい」

 パンッ、とティナが一つ手を叩くと、リビングの扉が開かれ、三人のメイドが入室してくる。

 かつてティナが身に纏っていたのと同じメイド服だ。

 それを着用しているのは、パーティメンバーにして、恋敵であった三人の女性。

『剣豪』アイラン、『重騎士』セナ、『精霊術士』ウェンディ。

 彼女たちの頭には、ゼノンガルトと同じく『思考支配装置フェアリーリング』が装着され、その自由意志をティナによって握られている。

 この処置はティナの意思ではなく、リリィの要望だった。

 貴重なランク5冒険者パーティ『黄金の夜明けゴールデンドーン』をそのまま取り込むためには、彼女ら三人も離脱してしまっては困るのだ。念のために、首輪はかけておいた、といったところ。

 ティナは恋敵達を抱え続けることに少々不満を示したものだが、それでも、今やメイドとしていいように扱っている生活は、そう悪いものではなかったらしい。

「よく躾けられているようね」

「ええ、この三人はゼノくんに好き放題だったから、ちょっと厳しくしています」

「そう、戦闘に問題は?」

「ありません。これでも、彼女たちは本気でゼノくんのことは愛していますから。私達が戦うならば、全力を尽くします」

「素晴らしい、貴女達は良いパーティね。騎士団での活躍を期待するわ」

「はい、パンデモニウムの平和は、私達にお任せください」

 かくして、契約は成立した。

 リリィとティナ、共に麗しの美貌を誇る二人が交わす固い握手を見つめるゼノンガルトの瞳は、どこか市場に売られる子牛のような輝きを放っていた。




 ティナと共にその場で昼食を済ませた後、リリィは次の目的地へと向かった。

 カーラマーラ外周区の東側、イーストウッド地区。

 三大ギャング『極狼会』の縄張りであったこの場所は、去年よりもやや静かな印象を覚える。

 ザナドゥの遺産相続レースの際に、組長アンドレイ・リベルタスのいる屋敷が襲撃され、全焼した。組長含め、幹部達は軒並み死亡し、跡を継ぐべく息子のオルエンも大迷宮から戻ったという情報がない。

組織を支える有力者が残らず消え去った極狼会は、自然と解散状態と相成った。

 ここが静かになったのは、もうこの地区には大きな影響力を持つ存在がいなくなったからに他ならない。

 しかし、そこに住む人々の生活には何の変りもない。特に、世間の事情など知る由もない子供たちは、尚更である。

 孤児院『ハウス・オブ・ザ・ラビット』は、今日も通常営業で、庭先からは元気な子供たちの声が響き渡っていた。

「えーと、レキとウルスラ、だったかしら」

「……イエス」

「何の用、なの」

 いつかクロノがオルエンと話していた応接室に、リリィは二人の少女を呼び出した。

 レキとウルスラ。

 ガラハドから落ち延びたクロノがサリエルと共に、開拓村で出会った子供。

 そして、このカーラマーラで再会し、行動を共にした仲間でもある。

「二人とも、元気そうで何よりね。ここの子たちも随分と懐いているようだし、冒険者よりも、ここで子供の世話をしていた方が向いているんじゃないかしら」

 痛烈な皮肉ともとれるリリィの台詞に、二人は押し黙る以外の手段を持たなかった。

 レキとウルスラは地上に戻った後、子供たちの待つここへと帰ってきた。

 スパーダへ帰還するクロノに、自分達もついていくのだと、ついに言い出すことは出来なかったのだ。

 今やランク4冒険者に匹敵する実力を身に着けた二人だが……記憶を取り戻したクロノが、十字軍との戦争に彼女たちを連れていくことを良しとするはずがない。

 しかし、二人の気持ちを知った今、かつてのように無下に断ることも難しい。クロノは悩んだ。悩んだが、結果は変えられない。

 ついに決心を固めて、二度目の別離を二人へ言い渡そうとした矢先————レキとウルスラは、自らカーラマーラに残ることを伝えたのだった。

 涙の別れは、今でも、思い出せば涙が溢れてきそうになる。

 悲しいから、ではない。

 ただ、自分の力のなさが、悔しくて仕方がなかった。彼が安心して背中を任せられるような、肩を並べて戦えるような、そして何より、地獄の戦争へ一緒に来てくれ、と頼まれるだけの信頼を勝ち取れなかったことに。

 クロノの隣という、自分達が至られなかった場所。今そこに君臨しているのが、このリリィである。

 そう、クロノという男を愛するにあたって、最大最強の恋敵となるのが、サリエルではなくリリィだということを、この期に及んでようやく二人は知ったのだった。

「クロノと離れて、もう一週間以上。少しは色恋の熱も冷めたかしら?」

「レキには、クロノ様だけデス」

「どれだけ離れても、どんなに時間が経っても、この思いは変わらないの」

 口だけならば何とでも、とまでは、リリィも言わなかった。

 二人の思いの強さは、ただ強くて頼れる年上の男に憧れるだけの、軽い気持ちではないことはテレパシーで図らずとも分かる。

 そうでなければ、小さい子供を十人も連れて、こんな大陸の果てまで旅することなどできはしない。

「そう、貴女達の気持ちは分かったわ。記憶を失っていたクロノを騙していたことは……水に流してあげる」

 恨めしい気持ちも残ってはいるが、クロノとサリエルの気持ちを汲めば、許さざるを得ない。

 それにこの二人は、恋する乙女としては最善の行動をした。誰だってそうする、私でもそうする。

「むしろ、感謝もしているわ。下手なワガママを言わず、潔く身を引いたことはね」

「今の私達では、まだクロノ様の力にはなれないから」

「それくらい、レキにだって分かるデス」

 あと三年早く生まれていれば。もう三年ほど冒険者としての経験が積めていれば。

 才能溢れるこの二人が心身共に成長しきったならば、自然とクロノと肩を並べるほどの実力者となれただろう。

「でも、諦める気はないんでしょう?」

「当たり前デス!」

「今度こそ追いついて、振り向かせるの」

「いい心意気ね。そんな貴女達二人には、チャンスを上げるわ」

 リリィの申し出に、レキはあからさまに、ウルスラはかすかに、だが二人とも実に訝し気な表情を浮かべた。

「私はこれでも、貴方達の力と才能、そしてクロノへの思いは評価しているの。無碍に扱うつもりはないわ」

 今のリリィがその気になれば、永遠にレキとウルスラをクロノと会わせないこともできる。

 心の底から二人のことを嫉妬と憎悪によって貶めようとするならば、リングを被せて洗脳させたうえで、適当な男と結婚させて普通の家庭を築かせてしまえばいい。

 クロノなら、二人が他に好きな男ができて結婚し、子供も生まれて幸せにやっていると聞けば、素直に祝福することだろう。それが洗脳によってなされていることにさえ気づかなければ、理想的な二人の将来だ。

 そう、残念ながらクロノにとってレキとウルスラは今でも保護対象のままで、他の誰にも渡したくないと思えるほどの異性としては、見られていないのだった。

「大迷宮を攻略すれば、私の騎士に取り立ててあげる。ランク5冒険者となれば、実力は文句ナシよ。その時になっても、まだその気があるなら、私がクロノのいる地獄の戦場まで連れて行ってあげるわ」

 パンデモニウムの国防を担う精鋭騎士団にゼノンガルトを引き抜いたように、リリィにはまだまだ、手駒となる戦力が必要だ。

 特に、クロノと共に戦場で戦える、信頼できる仲間が。

 ホムンクルスは優秀だ。洗脳した兵士も忠実無比。ゼノンガルトのような手練れも集めつつある————しかし、それでもまだ、戦力が足りない。

 サリエルを失い、11人となっても使徒の脅威は変わらず、十字軍には莫大な兵力数と信仰心による高い士気、そして復活させた古代兵器による軍備も進んでいるだろう。

 正面切って対抗するには、一国家の総力を挙げてもまるで足りない。相手はアーク大陸の半分を治める超大国同然の大勢力。

 リリィにとって戦力の拡大は急務であると同時に、ホムンクルスや洗脳兵力の他にも、心から信頼できる実力者の仲間、というのは得難い貴重な存在だ。

 レキとウルスラは、愛が故にクロノのために尽くす。クロノもまた、苦楽を共にしてきた二人のことを信頼するだろう。

 リリィとしては、気に入らない色気づいたガキ二人……だが、その感情を押し殺すには十分な価値が、レキとウルスラにはあるのだ。

「そんなの、言われなくたってやってやるデス!」

「クロノ様を納得させるには、ランク5になるしかないの。心配すべきは、本当に貴女が約束を守ってくれるかどうか、くらい」

「約束は守るわよ、ええ、クロノに誓ってね」

 大迷宮は少々様変わりしているが、ダンジョン攻略の難易度はいまだ変わりはない。リリィの支配が及ばないエリアは広大で、完全に掌握している第五階層も、モンスターの再配置くらいは可能だ。あのデウス神像も、宝物庫前の広場限定で召喚することもできる。

 また、滞りなく冒険者稼業ができるよう、ギルドの活動は早くも再開させているし、大迷宮の変化も広く通達させている。すでに、冒険者達はいつも通り大迷宮へ潜る日々が戻ってきている。

 レキとウルスラが大迷宮に挑むにあたっての、舞台は整っていた。

 後は、二人の実力と努力次第で、クロノに追いつけるかどうかが決まるのだ。

「それから、この孤児院のことは心配しなくていいわ」

「援助してくれるデス?」

「お金はあるに越したことはないの」

「近いうちに、この国から孤児院そのものが必要なくなるから」

「……どういうことデス?」

「孤児がいなくなるワケがないの」

「孤児も奴隷の子も、まとめて幸せにしてあげられる居場所を、私が作るの。それがクロノの望みだから」

 微笑むリリィに、二人は少しだけ、心を許してしまった。

 それは、クロノも、レキもウルスラも、ずっと願っていたことだから。それが叶うならば、どんなに良いことか————そして、そんな夢物語を本気でリリィがやろうとするならば、流石はクロノの見込んだ女性、と言ってもいいだろう。

 そう思ってしまった二人は、やはり子供……いいや、あまりにリリィという人物を知らな過ぎた。

 フィオナなら、リリィに即答しただろう。

「子供を集めて洗脳教育とは、いよいよやることが邪教染みてきましたね」

 しかし、ここにはもう、クロノもフィオナもいない。リリィを止められる者は、誰一人としていはしないのだ。

 ここはパンデモニウム。妖精の女王が支配する、地獄の首都である。

「それじゃあ、貴女達の活躍を期待しているわ」

「ランク5になんて、すぐになってやるデス!」

「安易に私達にチャンスを与えたこと、後悔させてやるの」

 クロノへと続く道が示されたことで、二人のヤル気には火が付いたようだった。今すぐ飛び出して、大迷宮へ挑みに行きかねない気配である。

 そうなってもリリィとしては止める気もないが、その前に一つ、頼まなければならないこともあった。

「リリアンという子を、連れて来てくれるかしら」

「リリアン、デスか?」

「なんでリリアンを」

「私に似ているのでしょう? 少し、興味があるの、その子」

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― 新着の感想 ―
[良い点] レキとウルスラが良くも悪くも子供だということです。
[良い点] >リリィとティナ、共に麗しの美貌を誇る二人が交わす固い握手を見つめるゼノンガルトの瞳は、どこか市場に売られる子牛のような輝きを放っていた すごい好きです ここまでで一番笑いました [一言…
[気になる点] オルエンとジャファル
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